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第十四章
対決!全知全能の・・・
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どんどんと威圧が強まり、何度も握った手を放しそうになる。
でも今手を離せばすべてが水の泡だ。
耐えろ。
耐えろ俺!
「確か人間には『沈黙は肯定』って言葉があるのよね?安心して、痛みが分からないぐらいに一瞬で殺してあげることはできるから。」
ドクンと大きく心臓が脈を打つ。
普通であればすぐに次の脈動を感じるはずなのに、なぜか次がやってこない。
あ、これが死ぬってことか?
なんて軽く思ってしまうぐらいに俺は冷静だった。
「コラー!シュウちゃんに悪さしちゃダメでしょ!」
暗闇から突然現れたドリちゃんが女の子の頭にチョップをかます。
もちろんプロレスラーのように強烈な奴ではないけれど、軽くぺチっという音が響いた。
それと同時に脈度が戻ってくる。
遅れを取り戻すようにドクドクドクと早鐘のように脈を打つ俺の心臓。
動いてる。
ってことは俺は生きている。
「た、助かった・・・。」
「シュウちゃんのおかげでやっと捕まえることが出来たよ。ね、シュウちゃんならできるって言ったでしょ?」
「もしかしてこのためだけに連れてきたの?」
「まさか、本当はもっと別のお願いがあるんだけど・・・。」
と、さっきまで呆然としていた少女が小刻みに震えだしたのが握ったままの右腕から伝わってきた。
怒りからくるものだろうか。
それはだんだんと大きくなりそして、爆発した。
「ねぇ、ぶった!ぶったよね!?精霊が私をぶった!貴女何をしたかわかってるの!?」
「そっちこそシュウちゃんに何をしようとしたかわかってる?勝手に人を殺しちゃいけないってお母さんに教えてもらったでしょ?」
「まだ殺してないもん!」
いや、まだって。
一度でも殺したら元に戻せないんですけどそこはお判りでしょうか。
「ともかく、捕まえたからにはお母さんの所に戻ってもらうからね?」
「いやよ!時間までに捕まえられなかったのはそっちでしょ?私はここに住むの、だから帰らない!」
「ダメ、ここはシュウちゃんの大切なお仕事場なんだから。ほら、早く食べちゃったやつも出して、シュウちゃん困ってるんだから。」
「やだ!これは私のものだもん!これでママを見返してやるんだから!」
「わがまま言わないの。今はいいけど、これ以上戻るのが遅れたらお母さんに何をされるかわかってるでしょ?」
「わかんない!」
「もう、わがままが過ぎるとこの間みたいに助けてあげないからね?」
「なんでよ!貴女達は私が大きくなるまで助けてくれるんでしょ?おかしいじゃない!」
「悪い事は悪いって教えるのもお仕事だもん。そういう約束で一緒にいるって決めたんだからそれは守らないとね。」
まるで妹と姉の喧嘩だ。
駄々をこねる妹と、それを宥める姉。
いつもはドリちゃんの方が年下っぽいけれど今日はずいぶんとお姉さんに見える。
「え、お姉さんっぽい?えへへ嬉しいなぁ。」
「ちょっと誰が妹よ!私の方が偉いんだからね!」
「えー、そんなことないと思うな。知識で言えば間違いなくシュウちゃんの方が上だもん。」
「私を誰だと思ってるの?フォレストドラゴンである私よりも知識が上なはずないじゃない!」
「それはお母さんの事で、まだまだ勉強中でしょ?」
「勉強中でも私の方が上なの!上だったら上なの!」
フォレストドラゴン。
確か全知全能のドラゴンだってフェリス様は言っていた。
フォレストドラゴンの代替わりって聞いていたけれど、まさかこんな小さい女の子がそうだとは・・・。
正直全然そんな風に見えない。
勉強中ってことはまだ代替わりは完了していないのかな?
話だけを聞いていると何やら複雑な事情があるみたいだ。
「あ、シュウちゃん、来てくれたんだね。」
「イナバ様すみません助かりました。」
騒ぎを聞きつけてディーちゃんとルシウス君も駆けつけてくれた。
三人揃っているのはいつぶりだろう。
今まで連絡が取れなかっただけに顔を見れただけでなんだかほっとするなぁ。
「事情はよく分からないけど色々と大変だったみたいだね、お疲れ様。」
「連絡できなくて、ごめんね?」
「呼びかけは聞こえていたんですけど駆けつけることが出来ず申し訳ありませんでした。」
「こっちはまぁ何とかなったから。」
「ちょっと!貴女達も何か言いなさいよ!こいつが腕を無理やりつかんで、こっちは頭を叩いたのよ!?」
せっかく久々に話が出来たのにそれをぶった切ってくるドラゴン娘。
返事が出来なかったのも、駆けつけることが出来なかったのも、ようはこの子が原因なんだよな?
まったく、人騒がせなやつめ。
「こいつじゃないよ、シュウちゃんだよ。そして、こっちじゃなくてドリちゃん。名前はちゃんと言うようにって、お母さんに言われたでしょ?」
「それに叩かれたのは言う事を聞かなかったからですよね?えっと、因果応報ってイナバ様の世界では言うんでしたっけ。」
「そう、よく知ってるね。」
「勉強する時間があったので少しだけ覚えました。」
そうか、俺の世界から来ている人がいるんだしそういった知識が流通していてもおかしくないか。
なるほど。
「それを教えたのは私じゃない!」
「正確に言うとお母さんに教えてもらっていたのをルシ君が聞いていたのよね。私にはよくわからないから難しいことはルシ君にお任せしてるんだー、いいでしょ。」
「もぅ、ドリちゃんも勉強しなきゃ、怒られるんだよ?」
勉強嫌いのドリちゃんに勉強好きのルシウス君。
うん、初めからそんな感じがしていました。
まぁドリちゃんが勉強好きって聞くと逆にびっくりしちゃうけど。
「そうよ。なんで勉強しない私だけが怒られてドリアルドが怒られないの?おかしいじゃない。」
「だって私たちはお目付け役だもん。勉強するのは貴女の仕事でしょ?ちゃんとしないと一人前のフォレストドラゴンになれないんだから。」
「別になりたくてなるわけじゃないし。本当はあと千年は自由にできるはずだったのにさ、急にママが引退するなんて言うから・・・。そうよ、これも全部あの人間のせいだわ!」
なんだかよくわからないが、今のフォレストドラゴンが急に引退することになってこの子にお鉢が回ってきたって感じなのかな?
でもそれに人間が関係しているって・・・。
なにその勇者がドラゴンと恋をしたみたいな人外恋バナ。
大好物なんですけど、そこんところ詳しく教えてもらえませんかね。
「あのね、この子のお母さんがね、人間と恋しちゃったの。」
「そうそう。急な話でびっくりしたよね、いきなり『引退するからあとはお願いね』って。おかげであれこれやらないといけないことがいっぱいできちゃってそれで連絡が出来なかったんだ。」
「なるほど、そんなことがあったんだ。大変だったんだね。」
「そうよ!ほんとーーーに大変だったんだから。なんでママもあんな人間について行っちゃうかな。人間なんて小さくて弱くてそれでいて横暴で暴力的で、人間なんていなくなっちゃえばいいのに。」
「またそんなこと言って。お母さん悲しむよ?」
「悲しめばいいのよ!勝手に引退を決めて、勝手に勉強しろって言って、なんで私がママの言いなりにならないといけないのよ!」
なるほどなぁ。
それで人間を恨んでるって言っていたのか。
ようは大好きだった母親を人間に取られて嫌いな勉強を押し付けられたから逃げ出したんだな。
なるほどなるほど。
「さすがシュウちゃん、どうしてわかるの?」
「自分にも身に覚えがないわけじゃないから。それもまぁ、子供の時の話だよ。」
「誰が子供よ!」
そうやってすぐ怒る所が、いや大人でも怒る人は怒るか。
「一人前じゃないんだから子供でしょ?」
「ってことは僕はもう一人前ですから大人ですか?」
「ルシウス君はもう立派な大人だね。」
「イナバ様にそういってもらえると自信がつきます、有難うございます!」
反抗期の子供なんてこんなもんだ。
親がうざくてつい突っぱねちゃうけど、心の底から嫌いなわけじゃない。
もちろんそういう人もいるかもしれないけれど、大抵はそんな感じだ。
第二次性徴。
人が大きくなるうえで通る道。
なんだけど、それってドラゴンにも適用されるのかな?
「ねぇ貴女達何でこんな男に下手になっているの?私達の方が強くて偉いのよ?人間達からあがめられるような存在なのよ?こんなやつ私達が本気を出さなくても死んじゃうぐらいに弱いのにどうして?」
「だって、シュウちゃんはすごいんだもん。」
「そうだよ。シュウちゃんは、すごくて、優しいんだよ?
「イナバ様は普通の方と違います。だから祝福を貰って頂いたんです。」
「貰って頂いたって、嫌ならあげなきゃいいじゃない。」
「嫌じゃないからあげたんだよね、ディーちゃん。」
「うん。貰ってほしくて、あげたんだよ。だってシュウちゃんはいい子だから。」
なんだか精霊『様』にそこまで言われると照れてしまうなぁ。
特にこれ!っていうことをしたわけではない。
困っていた時に手を貸してあげてそれが偶々うまくいっただけの話だ。
まぁ、ルシウス君に関しては色々あったけど・・・。
それもまぁ今になればいい思い出だよね。
そのあといっぱいお世話になったし。
ディヒーアに襲われた時ルシウス君がいなかったら全員で村を捨てることになっていただろう。
ありがたやありがたや。
「なによ人間の分際で。ともかく、悪いのは全部あいつ!あいつなのよ!ちょっと、いつまで腕をつかんでるの?離してよ。」
「あ、ごめん。」
「ごめんってさっきまでの敬語はどうしたのよ。この子達は貴方を認めているみたいだけど絶対に私の方が偉いんだからね!」
「えー、シュウちゃんの方が賢いから偉いのはシュウちゃんの方だよね?」
「うん。シュウちゃん、賢いよ?」
「今の所イナバ様より頭のいい方に出会ったことがありません。僕の場合生まれてすぐなのであまり人に会ってないのもありますけど・・・。」
「なんで全員で否定するのよ!フォレストドラゴンは全知全能、知識で負けるはずないんだから!」
いや、負けるはず無いんだからって俺は別に何も言ってないんですけど。
どうしてそんな喧嘩腰なんだろうか。
俺は別に争ったり競い合いたいわけじゃなくてですね・・・。
俺はただダンジョンの権限さえ戻ってくればそれでいいんだけど、それじゃダメかなぁ。
とりあえず知りたいことをいくつか聞いてみるか。
もしかしたら知ってるかもしれないし。
「ではいくつかご質問してもよろしいですか?」
「何よ、言ってみなさい。私に知らないことなんて・・・」
「集団暴走はなぜ起きるんでしょうか。」
「え?」
「妖精から精霊が生まれていますがその選定方法に決まりはありますか?」
「え、あ、え?」
「では魔力の使えない人間が使えるようになる方法をご教授頂きたいのですが、ご存じありませんか?」
「ちょっとちょっと!そんなのわかるわけないでしょ、もっと普通のこと聞いてきなさいよ!」
怒られてしまった。
全知全能とうたわれるドラゴンであれば知っているかもと思ったんだけど、残念ながら人選を誤ったようだ。
まだ勉強中て言ってたし仕方ないよな。
「ほら、やっぱりシュウちゃんの方が上じゃない。」
「ね、だから帰って勉強しよ?今ならきっと、許してくれるから。」
「戻るんでしたら食べた物を返してからにしませんか?イナバ様はそれでお困りのようですし・・・。」
ほら、やっぱり駄目だったと言わんばかりの反応で三人が容赦なく口撃する。
こらこらそんな風に言ったら火に油を注いじゃうわけで・・・。
「何よ何よ!ちょっと知らなかっただけでなんでそんな風に言われなきゃいけないのよ!貴方にだって知らないことがあるんでしょ?私にあったっておかしくないじゃない。それなのに何も知らなかったみたいに言ってくれちゃって、多少知識があるみたいだけどそもそもまだ負けたわけじゃないんだから。そうだ、私に問題を出してみなさいよ。もし私が一つでも答えられたら私のほうが上なんだからね!」
ほら、こんなことになっちゃうでしょ?
真っ暗なダンジョンの最下層で年端も行かない少女になじられる三十代。
いったい俺が何をした。
でもこれはいい機会かもしれない。
うまくやれば全部解決できる可能性がある。
チャンスはここだ。
これを逃す手はないぞ。
「では、もし私が勝ったとしたらオーブは返してくださいますか?」
「オーブ?」
「この部屋にあった知識の入った玉の事です。」
「えー、あれはママに勝つ為の切り札だし、それにもうお腹の中だから出すのって面倒なのよね。」
いや、食べるなよ。
その中には彼の大事な記憶とか知識とか入ってるんだから、持っていったらユーリが地獄の底まで追いかけてくるぞ。
どうなっても知らないからな。
「申し訳ありませんが私達にはどうしてもそれが必要なんです。」
「んー、別にいいけど私が負けを認めたらね?」
「それで構いません。」
よし、勝負に乗ってきた。
後は打ち負かせれば何とかなる・・・んだけど。
正直に言ってこの世界のことはあまり詳しくないんだよね。
なので元の世界の知識を織り交ぜて全力でマウントを取りに行かせてもらおう。
「では私が問題を出して答えてもらうただそれだけですが・・・、私が嘘をついていない保証はありません。そこで、ディーちゃんにお願いがあります。」
「なぁに?」
「嘘をついているかどうかを見極めることってできる?」
「えぇっとねぇ、水鏡に手を置いて、嘘をついたら水面が揺れるおまじないなら、あるよ?」
「それでいきましょう。勝負は公平に、嘘で勝ちを得てもつまらないですから。」
「やってやろうじゃない。嘘の知識で来るんじゃないかって思ったけど、そうじゃないなら私の勝ちも決まったも当然よ。」
ふっふっふ。
ひっかかったな。
もちろん嘘をつくつもりはないけれど、それを証明することで公平性を保つことが出来る。
公平であればこの勝負の正当性も証明できるというわけだ。
後は勝てばいい。
よし、がぜんやる気がわいてきた。
ディーちゃんがブツブツと何かをつぶやくと、地面からお盆ぐらいの水の塊が浮かび上がってきた。
「これに手をのせればいいの?」
「うん、浸してしまっても大丈夫。嘘をついたら水面が激しく揺れるの。」
「わかった、ありがとう。」
「シュウちゃん頑張れ!」
「応援、してるからね。」
「頑張ってくださいイナバ様。」
「ちょっと、そこは私を応援するところでしょ!」
精霊様の応援を受け対するは知識の王様フォレストドラゴン、の娘。
全知全能を司るドラゴン相手に知識勝負とか、普通は無謀と思われる勝負だけど今の状況なら何とかなる。
なんせ俺にはチート級の知識がついているからね!
「さぁかかってきなさい!コテンパンにしてあげるんだから!」
さぁ世紀の一戦の始まりだ!
「では第一問・・・砂漠の地イシスの奥にあるピラミッドの中に隠されているのは黄金の爪ですが、それを取るとどんなことが起きるでしょう。」
「え?」
「何が起きますか?」
「そ、そんなの知らないわよ!火でも出てくるんじゃないの?」
「不正解です。正解は一歩進むごとに大量の魔物が襲ってくるでした。財宝に罠は鉄板ですよね。」
「わっかんないわよ!どこにあるのよそんな街!」
「では次に行きましょう。第二問・・・街の中に姿を隠して異世界の料理を教えるワンダーシェフ、この世界にもいくつかの料理をのこしていますが、サンサトローズの奥にある隠れた名店そこの料理人にだけ伝えられた秘伝のレシピは何でしょうか。」
「サンサトローズって隣町でしょ?そこの料理?え?異世界のやつなの?」
「残念、時間切れです正解はカレィシチューでした。」
「わかるわけないでしょーーーー!」
分かりそうで分からない微妙なネタに、この世界にも適合しそうなゲームネタ。
お気づきの方はもうお気づきだろう。
そう、答えられるはずがない。
何故なら答えは俺の中だけで、誰かが知っているわけじゃないからだ。
これなら元の世界の言葉や知識が多少流入していたとしても問題ないからね。
大人げない?
違うなこれは作戦なんだ。
答えられない問題で徹底的にマウントを取る。
もちろん嘘はつかない。
正しい知識で徹底的に責めたてる。
ちなみに『胃』文化ブレイカーの彼はここで正式にワンダーシェフと改名してみた。
ほら、街で料理を知るってそっくりじゃないですか。
「まだまだ行きますよ、第三問・・・。」
え、その後結果はどうなったのかって?
そんなの俺の圧勝に決まってるじゃないですか。
でも今手を離せばすべてが水の泡だ。
耐えろ。
耐えろ俺!
「確か人間には『沈黙は肯定』って言葉があるのよね?安心して、痛みが分からないぐらいに一瞬で殺してあげることはできるから。」
ドクンと大きく心臓が脈を打つ。
普通であればすぐに次の脈動を感じるはずなのに、なぜか次がやってこない。
あ、これが死ぬってことか?
なんて軽く思ってしまうぐらいに俺は冷静だった。
「コラー!シュウちゃんに悪さしちゃダメでしょ!」
暗闇から突然現れたドリちゃんが女の子の頭にチョップをかます。
もちろんプロレスラーのように強烈な奴ではないけれど、軽くぺチっという音が響いた。
それと同時に脈度が戻ってくる。
遅れを取り戻すようにドクドクドクと早鐘のように脈を打つ俺の心臓。
動いてる。
ってことは俺は生きている。
「た、助かった・・・。」
「シュウちゃんのおかげでやっと捕まえることが出来たよ。ね、シュウちゃんならできるって言ったでしょ?」
「もしかしてこのためだけに連れてきたの?」
「まさか、本当はもっと別のお願いがあるんだけど・・・。」
と、さっきまで呆然としていた少女が小刻みに震えだしたのが握ったままの右腕から伝わってきた。
怒りからくるものだろうか。
それはだんだんと大きくなりそして、爆発した。
「ねぇ、ぶった!ぶったよね!?精霊が私をぶった!貴女何をしたかわかってるの!?」
「そっちこそシュウちゃんに何をしようとしたかわかってる?勝手に人を殺しちゃいけないってお母さんに教えてもらったでしょ?」
「まだ殺してないもん!」
いや、まだって。
一度でも殺したら元に戻せないんですけどそこはお判りでしょうか。
「ともかく、捕まえたからにはお母さんの所に戻ってもらうからね?」
「いやよ!時間までに捕まえられなかったのはそっちでしょ?私はここに住むの、だから帰らない!」
「ダメ、ここはシュウちゃんの大切なお仕事場なんだから。ほら、早く食べちゃったやつも出して、シュウちゃん困ってるんだから。」
「やだ!これは私のものだもん!これでママを見返してやるんだから!」
「わがまま言わないの。今はいいけど、これ以上戻るのが遅れたらお母さんに何をされるかわかってるでしょ?」
「わかんない!」
「もう、わがままが過ぎるとこの間みたいに助けてあげないからね?」
「なんでよ!貴女達は私が大きくなるまで助けてくれるんでしょ?おかしいじゃない!」
「悪い事は悪いって教えるのもお仕事だもん。そういう約束で一緒にいるって決めたんだからそれは守らないとね。」
まるで妹と姉の喧嘩だ。
駄々をこねる妹と、それを宥める姉。
いつもはドリちゃんの方が年下っぽいけれど今日はずいぶんとお姉さんに見える。
「え、お姉さんっぽい?えへへ嬉しいなぁ。」
「ちょっと誰が妹よ!私の方が偉いんだからね!」
「えー、そんなことないと思うな。知識で言えば間違いなくシュウちゃんの方が上だもん。」
「私を誰だと思ってるの?フォレストドラゴンである私よりも知識が上なはずないじゃない!」
「それはお母さんの事で、まだまだ勉強中でしょ?」
「勉強中でも私の方が上なの!上だったら上なの!」
フォレストドラゴン。
確か全知全能のドラゴンだってフェリス様は言っていた。
フォレストドラゴンの代替わりって聞いていたけれど、まさかこんな小さい女の子がそうだとは・・・。
正直全然そんな風に見えない。
勉強中ってことはまだ代替わりは完了していないのかな?
話だけを聞いていると何やら複雑な事情があるみたいだ。
「あ、シュウちゃん、来てくれたんだね。」
「イナバ様すみません助かりました。」
騒ぎを聞きつけてディーちゃんとルシウス君も駆けつけてくれた。
三人揃っているのはいつぶりだろう。
今まで連絡が取れなかっただけに顔を見れただけでなんだかほっとするなぁ。
「事情はよく分からないけど色々と大変だったみたいだね、お疲れ様。」
「連絡できなくて、ごめんね?」
「呼びかけは聞こえていたんですけど駆けつけることが出来ず申し訳ありませんでした。」
「こっちはまぁ何とかなったから。」
「ちょっと!貴女達も何か言いなさいよ!こいつが腕を無理やりつかんで、こっちは頭を叩いたのよ!?」
せっかく久々に話が出来たのにそれをぶった切ってくるドラゴン娘。
返事が出来なかったのも、駆けつけることが出来なかったのも、ようはこの子が原因なんだよな?
まったく、人騒がせなやつめ。
「こいつじゃないよ、シュウちゃんだよ。そして、こっちじゃなくてドリちゃん。名前はちゃんと言うようにって、お母さんに言われたでしょ?」
「それに叩かれたのは言う事を聞かなかったからですよね?えっと、因果応報ってイナバ様の世界では言うんでしたっけ。」
「そう、よく知ってるね。」
「勉強する時間があったので少しだけ覚えました。」
そうか、俺の世界から来ている人がいるんだしそういった知識が流通していてもおかしくないか。
なるほど。
「それを教えたのは私じゃない!」
「正確に言うとお母さんに教えてもらっていたのをルシ君が聞いていたのよね。私にはよくわからないから難しいことはルシ君にお任せしてるんだー、いいでしょ。」
「もぅ、ドリちゃんも勉強しなきゃ、怒られるんだよ?」
勉強嫌いのドリちゃんに勉強好きのルシウス君。
うん、初めからそんな感じがしていました。
まぁドリちゃんが勉強好きって聞くと逆にびっくりしちゃうけど。
「そうよ。なんで勉強しない私だけが怒られてドリアルドが怒られないの?おかしいじゃない。」
「だって私たちはお目付け役だもん。勉強するのは貴女の仕事でしょ?ちゃんとしないと一人前のフォレストドラゴンになれないんだから。」
「別になりたくてなるわけじゃないし。本当はあと千年は自由にできるはずだったのにさ、急にママが引退するなんて言うから・・・。そうよ、これも全部あの人間のせいだわ!」
なんだかよくわからないが、今のフォレストドラゴンが急に引退することになってこの子にお鉢が回ってきたって感じなのかな?
でもそれに人間が関係しているって・・・。
なにその勇者がドラゴンと恋をしたみたいな人外恋バナ。
大好物なんですけど、そこんところ詳しく教えてもらえませんかね。
「あのね、この子のお母さんがね、人間と恋しちゃったの。」
「そうそう。急な話でびっくりしたよね、いきなり『引退するからあとはお願いね』って。おかげであれこれやらないといけないことがいっぱいできちゃってそれで連絡が出来なかったんだ。」
「なるほど、そんなことがあったんだ。大変だったんだね。」
「そうよ!ほんとーーーに大変だったんだから。なんでママもあんな人間について行っちゃうかな。人間なんて小さくて弱くてそれでいて横暴で暴力的で、人間なんていなくなっちゃえばいいのに。」
「またそんなこと言って。お母さん悲しむよ?」
「悲しめばいいのよ!勝手に引退を決めて、勝手に勉強しろって言って、なんで私がママの言いなりにならないといけないのよ!」
なるほどなぁ。
それで人間を恨んでるって言っていたのか。
ようは大好きだった母親を人間に取られて嫌いな勉強を押し付けられたから逃げ出したんだな。
なるほどなるほど。
「さすがシュウちゃん、どうしてわかるの?」
「自分にも身に覚えがないわけじゃないから。それもまぁ、子供の時の話だよ。」
「誰が子供よ!」
そうやってすぐ怒る所が、いや大人でも怒る人は怒るか。
「一人前じゃないんだから子供でしょ?」
「ってことは僕はもう一人前ですから大人ですか?」
「ルシウス君はもう立派な大人だね。」
「イナバ様にそういってもらえると自信がつきます、有難うございます!」
反抗期の子供なんてこんなもんだ。
親がうざくてつい突っぱねちゃうけど、心の底から嫌いなわけじゃない。
もちろんそういう人もいるかもしれないけれど、大抵はそんな感じだ。
第二次性徴。
人が大きくなるうえで通る道。
なんだけど、それってドラゴンにも適用されるのかな?
「ねぇ貴女達何でこんな男に下手になっているの?私達の方が強くて偉いのよ?人間達からあがめられるような存在なのよ?こんなやつ私達が本気を出さなくても死んじゃうぐらいに弱いのにどうして?」
「だって、シュウちゃんはすごいんだもん。」
「そうだよ。シュウちゃんは、すごくて、優しいんだよ?
「イナバ様は普通の方と違います。だから祝福を貰って頂いたんです。」
「貰って頂いたって、嫌ならあげなきゃいいじゃない。」
「嫌じゃないからあげたんだよね、ディーちゃん。」
「うん。貰ってほしくて、あげたんだよ。だってシュウちゃんはいい子だから。」
なんだか精霊『様』にそこまで言われると照れてしまうなぁ。
特にこれ!っていうことをしたわけではない。
困っていた時に手を貸してあげてそれが偶々うまくいっただけの話だ。
まぁ、ルシウス君に関しては色々あったけど・・・。
それもまぁ今になればいい思い出だよね。
そのあといっぱいお世話になったし。
ディヒーアに襲われた時ルシウス君がいなかったら全員で村を捨てることになっていただろう。
ありがたやありがたや。
「なによ人間の分際で。ともかく、悪いのは全部あいつ!あいつなのよ!ちょっと、いつまで腕をつかんでるの?離してよ。」
「あ、ごめん。」
「ごめんってさっきまでの敬語はどうしたのよ。この子達は貴方を認めているみたいだけど絶対に私の方が偉いんだからね!」
「えー、シュウちゃんの方が賢いから偉いのはシュウちゃんの方だよね?」
「うん。シュウちゃん、賢いよ?」
「今の所イナバ様より頭のいい方に出会ったことがありません。僕の場合生まれてすぐなのであまり人に会ってないのもありますけど・・・。」
「なんで全員で否定するのよ!フォレストドラゴンは全知全能、知識で負けるはずないんだから!」
いや、負けるはず無いんだからって俺は別に何も言ってないんですけど。
どうしてそんな喧嘩腰なんだろうか。
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とりあえず知りたいことをいくつか聞いてみるか。
もしかしたら知ってるかもしれないし。
「ではいくつかご質問してもよろしいですか?」
「何よ、言ってみなさい。私に知らないことなんて・・・」
「集団暴走はなぜ起きるんでしょうか。」
「え?」
「妖精から精霊が生まれていますがその選定方法に決まりはありますか?」
「え、あ、え?」
「では魔力の使えない人間が使えるようになる方法をご教授頂きたいのですが、ご存じありませんか?」
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怒られてしまった。
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「何よ何よ!ちょっと知らなかっただけでなんでそんな風に言われなきゃいけないのよ!貴方にだって知らないことがあるんでしょ?私にあったっておかしくないじゃない。それなのに何も知らなかったみたいに言ってくれちゃって、多少知識があるみたいだけどそもそもまだ負けたわけじゃないんだから。そうだ、私に問題を出してみなさいよ。もし私が一つでも答えられたら私のほうが上なんだからね!」
ほら、こんなことになっちゃうでしょ?
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いったい俺が何をした。
でもこれはいい機会かもしれない。
うまくやれば全部解決できる可能性がある。
チャンスはここだ。
これを逃す手はないぞ。
「では、もし私が勝ったとしたらオーブは返してくださいますか?」
「オーブ?」
「この部屋にあった知識の入った玉の事です。」
「えー、あれはママに勝つ為の切り札だし、それにもうお腹の中だから出すのって面倒なのよね。」
いや、食べるなよ。
その中には彼の大事な記憶とか知識とか入ってるんだから、持っていったらユーリが地獄の底まで追いかけてくるぞ。
どうなっても知らないからな。
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「それで構いません。」
よし、勝負に乗ってきた。
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「嘘をついているかどうかを見極めることってできる?」
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「それでいきましょう。勝負は公平に、嘘で勝ちを得てもつまらないですから。」
「やってやろうじゃない。嘘の知識で来るんじゃないかって思ったけど、そうじゃないなら私の勝ちも決まったも当然よ。」
ふっふっふ。
ひっかかったな。
もちろん嘘をつくつもりはないけれど、それを証明することで公平性を保つことが出来る。
公平であればこの勝負の正当性も証明できるというわけだ。
後は勝てばいい。
よし、がぜんやる気がわいてきた。
ディーちゃんがブツブツと何かをつぶやくと、地面からお盆ぐらいの水の塊が浮かび上がってきた。
「これに手をのせればいいの?」
「うん、浸してしまっても大丈夫。嘘をついたら水面が激しく揺れるの。」
「わかった、ありがとう。」
「シュウちゃん頑張れ!」
「応援、してるからね。」
「頑張ってくださいイナバ様。」
「ちょっと、そこは私を応援するところでしょ!」
精霊様の応援を受け対するは知識の王様フォレストドラゴン、の娘。
全知全能を司るドラゴン相手に知識勝負とか、普通は無謀と思われる勝負だけど今の状況なら何とかなる。
なんせ俺にはチート級の知識がついているからね!
「さぁかかってきなさい!コテンパンにしてあげるんだから!」
さぁ世紀の一戦の始まりだ!
「では第一問・・・砂漠の地イシスの奥にあるピラミッドの中に隠されているのは黄金の爪ですが、それを取るとどんなことが起きるでしょう。」
「え?」
「何が起きますか?」
「そ、そんなの知らないわよ!火でも出てくるんじゃないの?」
「不正解です。正解は一歩進むごとに大量の魔物が襲ってくるでした。財宝に罠は鉄板ですよね。」
「わっかんないわよ!どこにあるのよそんな街!」
「では次に行きましょう。第二問・・・街の中に姿を隠して異世界の料理を教えるワンダーシェフ、この世界にもいくつかの料理をのこしていますが、サンサトローズの奥にある隠れた名店そこの料理人にだけ伝えられた秘伝のレシピは何でしょうか。」
「サンサトローズって隣町でしょ?そこの料理?え?異世界のやつなの?」
「残念、時間切れです正解はカレィシチューでした。」
「わかるわけないでしょーーーー!」
分かりそうで分からない微妙なネタに、この世界にも適合しそうなゲームネタ。
お気づきの方はもうお気づきだろう。
そう、答えられるはずがない。
何故なら答えは俺の中だけで、誰かが知っているわけじゃないからだ。
これなら元の世界の言葉や知識が多少流入していたとしても問題ないからね。
大人げない?
違うなこれは作戦なんだ。
答えられない問題で徹底的にマウントを取る。
もちろん嘘はつかない。
正しい知識で徹底的に責めたてる。
ちなみに『胃』文化ブレイカーの彼はここで正式にワンダーシェフと改名してみた。
ほら、街で料理を知るってそっくりじゃないですか。
「まだまだ行きますよ、第三問・・・。」
え、その後結果はどうなったのかって?
そんなの俺の圧勝に決まってるじゃないですか。
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幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
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お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
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悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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