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第十四章

精霊『様』のお願い再び

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突然の出来事に思考が追い付いてこない。

でも、少女は俺を指さしたままなにやらご立腹のようだ。

何か怒られるようなことをしただろうか。

わからない。

っていうかずいぶん久々に顔を見た気がする。

少女はそのまま隙間から這い出して来ると腰に手を当ててまたもお怒りをアピールして来た。

「ドリちゃんどうしてここに?」

ドリちゃん。

またの名を森の精霊ドリアルド。

俺に祝福を授けてくれたうちの一人だ。

最近は何やら忙しらしくて久しく顔を見ていなかったように思うけど、どうしてこんな所にいるんだろうか。

「何の騒ぎだ?」

天幕に入って休もうとしていたシルビア様達がドリちゃんの声に驚いて飛び出してくる。

「いえ、急にドリちゃんが出てきたので驚いてしまって・・・。」

「精霊様がこんな所に?」

「もぅ、何度話しかけても返事がないから仕方なく直接お店に行って、そしたらダンジョンの中だっていうから来てあげたのにどこを探してもいないんだもん。困っちゃったよ。」

「申し訳ありません、色々と込み入った事情がありまして。」

そうかダンジョンは別空間にあるから声が届かなかったんだな。

でも他のダンジョンの時は声が届いたように思ったけど・・・。

これも権限がなくなったことによる弊害なんだろうか。

「お願い、シュウちゃんの力が必要なの!」

「えっと・・・、話が読めないんだけど俺じゃないとダメなんだよね?」

「シュウちゃんにしかできないことなんだ、だからお願い力を貸して!後で何でも言うこと聞いてあげるから!」

またも精霊様のお願い。

しかも今回は何でも言うことを聞いてあげるっていう破格の条件付きだ。

でもそんな条件を付けてまで俺の力が必要って、いったい何をやらされるんだろう。

正直受けたくない。

これまでのお願いはそんなに?難しい事じゃなかったし何とかなってきたけれど、そんな破格の条件を付けらると逆に怖くなってくる。

人間にできる内容なんだろうか。

どりちゃんたち精霊と俺達じゃ基準がだいぶ違うから、軽く無茶なこと言い出しそうだもんなぁ。

今はダンジョンの権限を奪取するのが最優先で、できればそれが終わってからにしてほしいんだけど・・・。

そんなこと無理だよなぁ。

「そんなに急がないといけないことなのかな?」

「これを逃したらまた千年待たないといけなくなっちゃう、だから今すぐシュウちゃんの力が欲しいんだ!」

千年?

それはまたすごい時間だな。

魔王と勇者の戦争があったのが三百年前、つまりそれよりも昔からそのタイミングを待っていた事になる。

いくら時間の概念が違う精霊様とはいえそりゃ急ぐか。

でもなぁ何をするかによるよなぁ。

いくらドリちゃんのお願いとはいえ、できもしないことできますとは言えないよな。

「えっと、何をしたらいいの?」

「今すぐここの一番奥に来てほしいんだ!」

「え、ここのってダンジョンの?」

「そう、シュウちゃんのダンジョンだから簡単でしょ?」

いや、簡単でしょって言われましても。

それが簡単じゃないんだよなーこれがさ。

「ごめんドリちゃん、力を貸してあげたいのは山々なんだけど今はちょっとややこしいことになってて・・・。」

「あれでしょ、ダンジョンが言う事を聞かなくなったんでしょ?」

「え?どうしてそれを?」

「だってあの子が食べ・・・なんでもない。」

今何か不穏なことを言わなかったか?

食べたとかなんとか。

いや、そもそも食べれるようなものではないと思うんだけど、もしかしてもしかすると今回の騒動の根幹はそれだったりするのか?

まさかそんな。

そんなこと・・・、無いとは言えないよなぁ。

今までどれだけ呼んでも反応の無かったドリちゃん。

それが急に出てきたと思ったらダンジョンの中に用があると言っている。

そしてそのタイミングに合わせてダンジョンで起きるはずのないことが起きてしまった。

権限の喪失。

血を使った契約はちょっとやとっそのことで無くなるものではないとフェリス様もおっしゃっていた。

でもそれが現実に起きているわけで。

これはもしかしてもしかすると、というよりもほぼ確実に?

ドリちゃんが関わっていると考えるのが自然だ。

参ったなぁ。

いったい何が起きてるんだろう。

「あの、ドリアルド様、私達も今そのダンジョンの最下層に向かっているんです。どのような事情がるか存じ上げませんが、同行してよろしいでしょうか。権限を失っている今の状況ではシュウイチさんだけでは魔物に襲われてしまいます。」

そんなやり取りの中、エミリアが申し訳ない顔をしながら話に加わってきた。

そうそうそれは非常に大切です。

今一人でダンジョンの奥に向かおうものなら確実にその道中で息絶えるだろ。

イナバの不思議なダンジョンとかいうレベルじゃない。

どう構えても自殺行為だ。

「それは別に構わないけど、奥についたら入れるのはシュウちゃんだけだよ?」

「シュウイチの安全が保障されるのであればそれで十分だ。」

「・・・そういう事なら仕方ないかな。私一人でもなんとかなるけど、早く戻らないとディーちゃんとルシ君が大変だもん。」

「二人もそこにいるの?」

「うん、二人に抑えてもらっているけどそれも時間の問題だと思う。よりによってなんでシュウちゃんのダンジョンに逃げ込むかなぁ。」

ほらまた不穏なことを言っている。

何が逃げ込んだんだって?

確かドリちゃんたちはフォレストドラゴンの面倒を見ているんだっけ。

巣立ちがどうのこうの言っていたように記憶しているけど・・・。

もし逃げ込んだのがそいつだったとして、聖域にいるはずがどうしてうちのダンジョンにいるんだろうか。

っていうか、どうやって入ったの?

ドラゴンっていうぐらいだからすごく大きいんだよね?

もしかしてそれが代替わりに関係しているとか?

分からないことだらけだ。

権限の喪失について、フェリス様はダンジョンで何かとんでもないことが起きているんじゃないかって疑っていた。

もしそれが関係しているならまたダンジョンの魔力が吸い出されいている可能性だってある。

だって精霊が反応しないのは魔力を大量に消費しているからだってリュカさんが言っていたし・・・。

押さえつけるための魔力を一体どこから得ているんだって話も出て来る。

拡張ノルマは達成したけどこれ以上の魔力消費は勘弁してほしいなぁ。

でもやらないわけにはいかないか。

だってここは俺のダンジョンだ。

今は少し手から離れているけれど、それを何とかするのもまた俺の仕事。

どちらにせよ断るって選択肢は端からないんだよな、残念ながら。

仕方ない頑張りますかね。

「自分に何が出来るかわからないけど、とりあえず目的地は一緒みたいだから急いでそこに向かうよ。」

「ほんと!ありがとうシュウちゃん大好き!」

「だから早く二人の所に戻ってあげて?」

「うん!」

パァッと光が差さすかのように表情が明るくなるドリちゃん。

その笑顔のまま俺に駆け寄りぎゅっと抱きしめて来る。

ほんと見た目だけで言えばどこにでもいる普通の女の子なのに、人は見かけによらないよなぁ。

この顔を見て精霊様だと思う人は少ないだろう。

そう、後ろにいる彼らの様に。

「イナバ様あの、これはどういう・・・。」

「あ、これはですね。」

「じゃあ待ってるねー!」

説明しようとした途端にパと俺の体から手を放し、笑顔で手を振りながらフェードアウトしていくドリちゃん。

相変らずマイペースである。

「えーっと、今の女の子はドリちゃんと言いまして、私に祝福を授けてくださった方です。」

「「「え?」」」

「シュウイチその説明では何もわからんぞ。」

「あの方はドリアルド様、森の精霊様でシュウイチさんに精霊の祝福を授けてくださった精霊のお一人です。お話からするとダンジョンの最下層に後二人、水の精霊様であるウンディーヌ様と雪の精霊であるルシウス様がおられるようですね。」

多少俺も動揺しているのか上手に説明できなかった所をすかさず二人にフォローされてしまった。

だってねぇ。

いきなり精霊『様』に力を貸してほしいだなんて言われたもんだからつい・・・。

「精霊様ってあの精霊様ですか?」

「そうです。」

「一生に一度しかお会いできないっていうあの?」

「もう何度もお会いしているので特別感は減ってしまいましたがその精霊様です。見た目こそ可愛い女の子ですけど、何千年も生きているような方ですから人は見かけによりませんよね。」

「イナバ様から精霊波導を感じましたのでもしやと思ってはいたのですが・・・、見かけに寄らないのはイナバ様も同じかと。」

ふむ、そう言う考え方もあるか。

確かに見た目はただの中年商人。

でも中身は世界でただ一人の祝福を三つ貰う男。

もっとも、祝福を生かすことはできていないしおそらく今後も同じだろう。

そう言う意味では見た目以上に残念な男だともいえる。

なんだか自分で言って悲しくなってきた。

自重しよう。

「ほんとイナバ様って何者なんですか?」

「私ですか?ただの商人ですよ?」

「そのセリフは聞き飽きましたよ。一人でダンジョンから冒険者を助け出して、この間は王女殿下、そしてさらに不敬罪で貴族に連れ攫われたのに何事もなく戻って来るとか普通の商人にできませんって。それでいて精霊様に助けを求められるとか、イナバ様の普通っていったい何なんですか?」

「それに関しては何とも言えませんね。これが私の普通ですし、別段変わったことをしているつもりもありません。まぁ確かにお世話になっている方々は普通じゃない人ばかりですが・・・。」

この世界に来てから知り合った人たちを思い返すと明らかに普通じゃない。

もちろん最初はそんなことなかったんだよ?

村に来て村長様やドリスのおっさんと知り合ったぐらいで、あとネムリか。

それで、シルビアと知り合って・・・。

あ、この時点でおかしいわ。

いきなりシルビア様に力を貸してくれって無理やり契約させられたんだっけ。

そこからどんどんとすごい人達と知り合うようになってきて・・・。

うん、確かに普通じゃない。

よくよく考えればシルビア様に出会う前に鬼女ことメルクリア女史とも会っているな。

そう考えれば出会いからすでにチート級の人物と出会っていたわけか。

もしかして、これが俺に与えられたチート能力!?

異世界転生にあるあるのやつじゃないですか!

って、俺は別にトラックに轢かれてここに来たわけじゃない。

ちゃんと履歴書からエミリアにスカウトされてここに来たんだから転生ではないよな。

だからチートなんて貰うはずがないんだ。

そう、これは偶然偶然なんだよ。

「あ、あのーイナバ様?」

「すまん。ちょっと別の世界に意識が飛んでいるだけだ、しばらく戻ってくるからそっとしておいてやってくれ。」

っとまた考え込んでしまった。

何とも言えない表情でネーヤさんが俺を見ている。

やめて!そんな顔で俺を見ないで!

って冗談は置いといて・・・。

「と、ともかく、休憩してからという話でしたが事情が変わってしまいました。申し訳ありませんが急ぎ出発しようと思います。」

「仕方あるまい。精霊様を待たせるわけにはいかないからな。」

「でも一体何を求めておられるのでしょう。」

「さぁ、それに関しては何とも。」

俺にしかできない事らしいだけど見当もつかない。

ヒントの一つもくれないんだから困っちゃうよなぁ。

っていつもの事か。

「すぐに準備しますね。」

「ティナさんもお疲れのところ申し訳ありません。」

「お散歩に行くついでみたいなものですから。」

「あはは、そう言えばそう言う話でしたね。」

「この前のダンジョンもそうでしたけど、イナバ様といるとギルド長に引きこもったのがもったいないように思えてしまいます。まだまだ世界は驚くことに満ち溢れているんですね。」

「でも、今ティナさんがいなくなるとギルドは大変な事になっちゃいますよ?」

「そうなんですよ・・・。でも、グランがいますからきっと大丈夫だと思います。」

いや、絶対に大丈夫じゃないと思う。

何処からかグランさんの悲壮な叫び声が聞こえたような気がしたけれど、間違いなく気のせいだろう。

皆が天幕に戻り準備を始めたので俺も身支度を整えて、エミリアの持ってきてくれた道具を補充する。

道具良し、装備良し、後は使わない物を袋から取り出せば身軽になる。

不要な物はここに置いておけば天幕と一緒にバッチさんが片付けてくれるだろう。

もしくは今後ここをベースキャンプとして整備してもいい。

バリケードはそのまま残し、ここを基地に攻略していくんだ。

一応ダンジョン内にはそう言った場所をいくつか設けてあるけれど、絶対安全だとはいいがたい。

その点ここは背後から魔物は来ないし、入り口をふさいであるからいきなり襲われる事も無いだろう。

何なら売店でも作ってやろうか。

あ、でも転送装置ですぐ上に戻れるからそれは流石に無駄かな。

「イナバ様準備できました。」

「こっちも大丈夫です!」

なんてことを考えているうちにティナさんとモア君達の準備が終わったようだ。

「シュウイチさん行きましょうか。」

「魔物も罠も心配いらないんだ、急ぎ最下層へ向かうとしよう。」

同じくエミリアとシルビア様も準備万端。

ほんじゃま出発しますかね。

「では一先ず十八階層を目指し進行します。そこから先は魔物も罠もあるはずですので慎重に、目標は二十階層の最下層です。何が起きるかわかりませんが、道中よろしくお願いします。さぁ行きましょう!」

「「「「はい!」」」」

休憩も程々に今度は精霊様のお願いを叶えるために再びダンジョンの奥へと向かう。

この先一体何が待つのやら・・・。

出来れば何事もなく済んでほしい所だけど絶対に無理だろうなぁ。

だってドリちゃんのお願いだもの。

何も起きない方がおかしいってものだ。

出来れば面倒な事になりませんように。

そんな叶いそうもない願いを込めながら俺達は野営地を後にした。
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