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第十四章

幽霊?現る

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十一階層の野営地近くまで戻る頃にはある程度落ち着きを取り戻し、多少冗談を言えるぐらいにはなった。

それでも心の隅っこの方で先ほどの後悔がくすぶり続け上手く会話に集中する事が出来ない。

俺の覚悟はこんな物だったのかと情けなくなる。

でもそんなことを言えばエミリアやシルビアがそんなことはないと慰めてくれるのが目に見えているので、絶対に口に出す事はできないんだけどね。

「しかしあのモアがティナ殿を守れるぐらいに成長したとは。」

「いくら元騎士団長とはいえそれ以上言うと怒りますよ!」

「本当の事ではないか。兄の背中ばかり見続けていたお前が周りを見て誰かの為に動けるようになる。上に立っていた人間としてこの成長以上に嬉しい物はないぞ。」

「よかったわね、シルビア様に褒められて。」

「認められたいって言ってたからね。」

「なんで今それを言うんだよ!嬉しいけどさぁ!」

あ、そこは認めるんだ。

てっきり恥ずかしがって否定するとばかり思っていたけど、そういう所は大人なんだから。

羨ましい。

俺は何時からそんな素直になれなくなっちゃったかなぁ。

「ティナさんが後れを取る程の魔物がいるとは思えませんでしたが、かなりの状況だったんですね。」

「そりゃもう、あんな魔物の数見たことないですよ!」

「通路を埋め尽くして襲い来る魔物。いえ、逃げ惑っていた魔物のようですが、ともかくあの量の魔物にあんな狭い所で襲われると生きた心地がしませんでしたね。」

「狭い通路だからこそ戦えたと言えるかもしれません。ネーヤさんを逃がしてすぐ私達も狭い通路に逃げ込んで正解でした。」

「逃がしたって簡単にいうけど、こっちはこっちで大変だったんだからね。」

「あんな大声で泣くぐらいだし、よっぽどだったんだよな。」

「モア、後で覚えてなさいよ。」

「へ、やなこった!」

若いっていいなぁ。

あんなことがあった後だというのに茶化すモア君をネーヤさんが追い回している。

きっと彼らの中では大変だったけど生きててよかった、そんな風に完結してしまっているのかもしれない。

俺がこんなにも落ち込んでいるのがそもそも間違っている。

二人を見ているとそんな風に思えてしまうから不思議だ。

彼らは危険を承知でダンジョンに潜っているんだからそれを俺が悔いてしまったら、逆に申し訳ないんじゃないか。

そうやって前向きに考えてはみるんだけど・・・。

だめだなぁ。

「でもこれで魔物の心配はなくなったと言えるでしょうか。」

「そうだな。大方の魔物は逃げ出して我々に襲い掛かって来たと考えるべきだろう。」

「残るは十八階層の噂の魔物と、より下の階層にいる魔物ですね。」

「それと罠です。十五階層よりも先はここ以上の配置にしています。」

魔物という最大の問題は片付いたものの、まだまだ問題は残っている。

やれやれ上手くいかないもんだなぁ。

「それなんですけど、おそらく例の魔物までの道は問題ないと思うんですよね。」

「モア君どうしてそう思うんですか?」

「イナバ様達と合流するまで探索していましたけどあの大騒動の際に魔物が結構罠を作動させてるんですよ。」

「そう言えばそうだったな。となるとそこまでは問題ないと考えてもいいかもしれん。」

「ではやはり問題は一八階層以降ということになりますね。」

「そこでだ、彼らの処遇なんだが・・・シュウイチはどう考えている?」

ん?彼ら?

突然意見を聞かれ頭が真っ白になってしまった。

えーっと彼ら彼らっと。

「ダンジョン体験会に参加してくださっているみなさんの事ですよシュウイチさん。」

「あぁ!すっかり忘れていました。」

「全くお前らしくもない。事態は問題なく解決したとはいえまだまだ問題は山積みだ、いつものお前に戻ってもらわないと困るぞ。」

「すみません。」

「まぁまぁ、イナバ様は私たちの事を心配してくださっただけですから。」

「なぁ、どうしてイナバ様は凹んでるんだ?」

「むしろ一時でもイナバ様の補佐をしていながらどうしてそれが分からないのよ。」

キョトンとした感じのモア君に冷静なツッコミを入れるネーヤさん。

あぁ、自分が悩んでいるのがバカらしく思えて来る。

自分の感情がどうであれ、今は大勢の命を預かっている立場なんだ。

しっかりしろ俺。

「魔物の数が減ったとはいえここから先に同行させるのはかなり危険だと感じています。目標である十階層までは体験していただきましたしあくまでも体験会なのでここで打ち切っても問題はないと考えます。」

「私も同意見だ。ここから先は実力のある人間のみで進むほうが間違いない。」

「となると地上に誘導する必要が出てきますね。」

「ラルフさん達には転送装置で地上に戻ることも選択肢にいれるようお願いしてあります。入り口は封鎖していますのでそのままでも問題はないと思いますが、あそこでずっと待たせるのも可愛そうです。」

「なら地上まで誘導して完了次第戻って来ますか?」

「安全がほぼ確保されているとはいえ彼らに来た道を戻るほどの元気はもうないでしょう。転送装置の説明もできますからそれでいいと思います。」

「それなら私も一緒に戻ってユーリに引き継ぎをしてきます。必要であれば他の冒険者に護衛をお願いして町まで連れて行ってもらいますね。」

「お願いします。」

体験会はここで終了。

ま、目的は達したと考えるべきだろう。

魔物と罠の問題がほぼ解決した以上人手はもう必要ない。

後は自分たちの身を守りつつ最下層を目指すのみだ。

「ならばその間休憩させてもらうとするか。」

「やった!入り口が封鎖されているなら見張りもいらないですよね?」

「何言ってる、私達が戻った時点で封鎖は解除だ。それにもしもの可能性を考えて一人残すのは野営の基本、どうやらモアがそれを買って出てくれるみたいだから我々は心置きなく休ませてもらうとしよう。」

「ありがとうモア!」

「助かるなぁ、頑張ってねモア。」

「えぇぇ、勘弁してくださいよぉぉぉ!」

モア君の叫び声がダンジョン中に響き渡る。

そうこうしているうちに封鎖された野営地が見えて来た。

項垂れるモア君の肩をポンポンと叩き、パッと嬉しそうに顔を上げた所に俺も御礼を言って再び落ち込ませてみる。

相変らず愛されキャラだなぁモア君は。

なにはともあれ、まずは休憩だ。

次の事はそのあとゆっくり考えるとしよう。



野営地に戻ってどれぐらいたっただろうか。

天幕の中で仮眠を終えて外に出るとちょうど新米達を地上に送り届けたエミリアが戻ってきたところだった。

ナイスタイミング。

「地上への転送無事に完了しました。この後は道具の説明と質疑応答に時間を当てて、夕方までにラルフさん達と一緒にサンサトローズへ戻ってもらう予定です。さすがにあの人数を商店で待機させるのは無理がありますから。」

「ご苦労様でした。エミリアも休んでください。」

「上でゆっくりさせていただいたんですけど・・・、わかりましたお言葉に甘えさせていただきます。」

「ひとまず半日はここで待機だ。武具の整備と休憩が終わり次第最下層へと向かうとしよう。」

「そうだ!モアさん良かったらこれを使ってください。」

「これは?」

薬とは別に小ぶりな盾をカバンから取り出しモア君に差し出した。

「この間仕入れたばかりの最新式なんですよ。」

「この紋章!もしかしてプルック工房のやつですか!?」

そして名前を呼ばれて盾を受け取った途端、モア君の目がキラキラと輝きだす。

何か特別な奴なんだろうか。

プルック工房、うーんわからん。

「すごいものなんですか?」

「王都で一二を争う武器工房の名前だな。団にいる頃からそういったことに詳しかったが・・・、名前で武具を買う考え方は私にはよくわからん。」

「ここの武具は名前だけじゃなくて壊れにくいって冒険者の中でも評判なんです。でも結構な値段なんでなかなか手が出なくて・・・。」

「エミリアいくらしたんだ?」

「銀貨10枚で売りに出そうかと。」

「これ一つでか?」

「はい。」

盾一つで銀貨10枚。

それだけあれば半月は何もせずに生活できる。

そう考えたら少し高いように感じるけれど、俺の短剣も銀貨30枚したし壊れにくいという事はそれだけ長い間ダンジョンに潜れるという事だ。

それにその金額で命が買えると思えば安いもんだろう。

「本当にもらっていいんですか?」

「その代わり条件があるんです、それでも使われますか?」

「もちろんです!これがもらえるなら何だってします!」

「ちょっと、勝手に何でもって決めないでよ。それに巻き込まれるのは私達なんだからね。」

「まぁまぁモアに盾がないと僕たちも困るんだ。銀貨10枚稼ぐことを考えたら悪い話じゃないと思うよ?でも先に、何をするか聞いてからでもいいですか?」

怒り出すネーヤさんをなだめながらもちゃんと交渉にもっていこうとしている。

このジュリアって子なかなかできる。

でさ、男性なの?女性なの?

見た目は男性だけど名前は女性っぽいし、間違ったら間違ったで地雷踏んじゃいそうな感じだ。

ウームわからん。

わからないので触れないでおこう、そうしよう。

「やってもらうことは簡単です。二期実戦で使用していただき傷み具合を報告してほしい、先方の条件はそれだけです。」

「え、報告だけですか?」

「できれば工房まで持ち込んでほしいそうですが、それが難しいようであればシュリアン商店を通じて先方に報告いたします。悪い話ではないと思いますが・・・。」

「やります!やらせてください!」

「確かに悪い話じゃないけど・・・、本当にそれだけなんですか?」

「出来るだけたくさん使用していただきたいそうなので、二日に一度は使用してもらえると助かります。」

「要は耐久試験を僕たちがするんですね。」

「お話が早くて助かります。いくら作りが良くても実際の使用感と違いがあれば商品として成り立ちませんから。最初お話を頂いたときは誰にお願いするべきか悩んだんですけど、いい時にいてくださいました。」

まさにナイスタイミングで壊れたってわけだ。

それで銀貨10枚の盾をもらえたんなら、さっきの頑張りは無駄じゃなかったというわけだな。

よかったねモア君。

「よかったじゃないか、これで最前は任せて問題ないな。」

「任せてください!」

「ほんと返事だけはいいんだから。」

「なんだよ、うらやましいのか?」

「別に。私にはこの弓があるしアンタみたいに壊したりしないしね。」

むしろ後衛の武器が壊れる状況になったら盾がどうのなんて言っていられないだろう。

そうならないための前衛だ。

「お二人にはこちらを、ネーヤさんには矢の補充とジュリアさんにはマナポーションです。」

「え、いいんですか!?」

「必要経費ですからお代は結構ですよ。」

「「ありがとうございます!」」

これから命を預ける相手だ、こんな所でケチる必要はない。

もちろん使い放題ってわけにはいかないけれど、人数が限られている現状では惜しむべきではない。

エリクサーとかエリクシールとかのアイテムが余るのはよくある話だ。

それと一緒で道具は使うために存在しているんだから使わない方がもったいない。

幸いなくなってもバッチさんという強い味方がいるので心配ないしね。

「シルビア様とモア君で前衛を、イナバ様はエミリア様がみてくだればこの人数でもなんとかなりますね。」

「できれば三人にも残って欲しかった所ですが、致し方ありません。」

本当は三人組にも残ってほしかったんだけど、定期便の無い状況で新米達を護衛も付けずに帰すのは無責任だということになり、泣く泣くお願いすることに。

なので最下層攻略メンバーは総勢7名(うち1名はおまけという事になった。

当初の予定よりもだいぶ少なくなってしまったけれど、精鋭ばかりなので何の心配もない。

あるとすればダンジョンの奥がどうなっているかわからないことぐらいだ。

ほんと、なんでこんなことになったのか未だにわからないってのもおかしな話だよなぁ。

起こるはずのないことが起きている。

それしか言えないんだから困ったもんだよ。

「それじゃあもう少し休憩してからの出発ですので各自楽にしてください。」

「見張りはどうする?」

「始まると戦力になりませんのでせめて今だけは頑張らせていただきます。」

「なら遠慮なく甘えさせてもらうとしよう。よかったな、モア。」

「イナバ様ありがとうございます!」

「「ありがとうございます!」」

先に休ませてもらったし随分と気持ちも落ち着いてきた。

ふと思い出してしまうことはあるけれど先ほどのように落ち込むほどじゃない。

いつもと同じだ。

やれることをやるだけ。

エミリアとシルビアは仮眠しに天幕へ、モア君達は食事にするようだ。

ティナさんはというと・・・。

あれ?

なにやら封鎖した入り口の向こうを気にしているようだ。

隙間が開いているから見えないことはないけれど、どうしたんだろう。

「どうかしましたか?」

「さっき誰かいたような気がしたんですけど、気のせいだったようです。」

「幽霊とか?」

「そういった類の魔物ではないと思います。もしそうならエミリア様がまず気づくはずですし。」

そうか、実体を持たない魔物は魔力を本体としているから魔術師がまず先に気づくんだな。

てっきり夏の特番的な存在かと思ったけれど、この世界は魔物の一言で片付いちゃうんだもんなぁ。

ゾンビも普通にいるしいないのは宇宙人ぐらいだろうか。

そもそも宇宙そのものがあるのかどうかすらわからないけど。

「ここですか?」

「いるわけないんですけど、女の子みたいだったので初心者の子がまた取り残されたのかと思って焦ってしまいました。」

「女の子ですか・・・。」

この隙間から女の子が覗いていたって?

どんなホラーだよ。

ティナさんが言うのは積み上げたバリケードの上辺りらしい。

俺の胸ぐらいの高さまで積んであるが、冒険者なら越えられないことはない。

それにだ、仮に幽霊だとしてもまだその年齢の子はの犠牲になってないはずなんだけど・・・。

嫌だなぁ幽霊って苦手なんだよ。

「一応エミリアが全員上がったのを確認していたので大丈夫だとは思いますが、念のため見ておきましょうか。」

「でも見間違えかもしれませんし。」

「もしそうだとしても散歩だと思えばいいんです。」

何もなくてよかったねで終われるだけの心の余裕が今の俺には必要だ。

気晴らしにはいいかもしれない。

「一応エミリア達に知らせてきます。」

ティナさんが一緒に来てくれるとはいえ無断で出かけるわけにはいかない。

一応見張りを買って出た身だし、みんなの迷惑にならないようにしないと。

そう思ってバリケードの上から降りようとしたその時だった。

「あーーー、いたぁぁぁぁ!」

突然バリケードの隙間から女の子が顔を出し俺を指差して大声を出した。

いたよ幽霊。

でも想像していた幽霊とは随分と違うようだ。

その、なんていうか見たことがあるようでして。

幽霊って随分可愛いんですね。
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