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第十四章

生きている事にこそ価値がある

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目的地は次の階層。

よかったそんなに深くなくて。

十五階層を超えたらどうしようかと思っていたけどそのぐらいならそんなに時間もかからない。

小走りで十一階層を駆け抜けながらお互いの情報交換を続けた。

「そうか罠にかけたのか。」

「制御下にあれば罠は作動しませんし魔物がかかることもありませんが、この状況ですのでもしやと思ったら何とか成功してくれました。」

「相変わらず無茶をするな。」

「イザというときはこの二人がいますから。」

俺一人ではどうにもできないが、助けてくれる人がいる。

他力本願100%は通常運行です。

「ティナさん達はこの先で襲われたんですね。」

「十二階層の奥で魔物に襲われたということですからそれよりも下の魔物が溢れたんだともいます。」

「それも配置した特殊な魔物のせいというわけなんだな?」

「おそらくは。」

「あの後エミリアと合流してすぐ背後から大量の魔物に襲われたのだ、いつもの様子と明らかに違っていてダンジョン内で集団暴走が起きたのかとヒヤヒヤしたぞ。」

「私も一瞬それを疑ったんですがそうだとしたら上層階でも同じ現象が起きないと説明がつきません。なので最終的にさっきの結論に達したんです。もっとも、下に降りてみないとわかりませんけど・・・。」

「いや、シュウイチがそういうのであれば間違いないだろう。権限を失ってもダンジョンのことを知り尽くしているのはお前だけだ。」

いや、さすがに知り尽くしているわけじゃないですよ?

世の中には不思議がいっぱいですから思いもよらないことが起きていないとも限らない。

まぁ今からそれを確認しに行くんだけどね。

「でも驚きました、まさかあのイナバ様が私よりも位が低いだなんて。」

「私もです。ジル様やガンド様がいつも自分たちよりも強いとお話ししていましたので、てっきり冒険者をおやめになられた後に商売をはじめられたのかと思っていました。」

「とんでもない。この世界に来てまだ一年もたっていませんから、皆さんの足を引っ張る実力しか持ち合わせていませんよ。」

「でも初心者失踪事件や先日の野良ダンジョンを攻略したのはイナバ様ですよね?上級冒険者でも手を焼くダンジョンをしかも一人でだなんてそんな位じゃ絶対に無理ですよ。」

無理ですよと言われても出来てしまったわけだからなぁ。

もっとも、頑張ったのはどちらもドリちゃん達で俺ではないんだけど。

精霊の力で魔物を倒しても位が上がらないのはそういう仕様なのかもしれない。

楽して成長するなってことなのかな?

しらんけど。

「位などでは測れない何かで強いのかもしれません。もしや神の遣わした使いかなにかなのでしょうか。」

「シュウイチが神の使いか!それはいいな。」

「やめてくださいよ、私はただの商人です。それ以上でも特別な何かでもありません。」

「でも精霊の祝福を授かっておられるんですよね?」

「あれもたまたまです。祝福は頂きましたが、それ以上に何かできるようになったわけではありませんよ。」

魔法も使えないしね。

「ともかく位は低くともこれまで積み上げてきた実績は本物だ。位至上主義なんてくだらない考えをしている騎士団上層部の連中にシュウイチの頑張りを見せてやりたい。」

「でも実際どのぐらいになられたんでしょうね、先ほど倦怠感を感じられたとのことですから上がっていることは間違いないと思います。」

「また戻ったら調べてもらえますか?」

「お任せください。」

よし!

これでメガネ姿のエミリアが確定したぞ!

久々にあの姿が見られるのか、楽しみだなぁ。

そう思うとがぜんやる気がわいてきたぞ!

さっさとティナさんを救出して地上に戻るとしよう。

「そういえば新米はどうした?」

「残りの二人にお任せしてあります。現在の状況を勘案して入り口は完全封鎖するように指示しておきました。可能であれば転送装置で地上に戻ることも伝えてあります。」

「途中ではあるが状況が状況だけにそれがいいだろう。なに、再び権限を取り戻してからやれば問題あるまい。」

「あの人数を守りながらというのはなかなか無理がありますから。でも、よく封鎖できるだけの資材が集まりましたね。」

「それに関してはバッチさんの頑張りのおかげです。一人で搬入してくださいました。」

「権限が剥奪されたユーリのようにダンジョン妖精としての力も薄れてしまうものではないのか?」

「さぁ、元々契約する前からダンジョン内をうろうろしてうちの商品を持ち出していたぐらいですからね、生粋のダンジョン妖精は違うんでしょうか。」

「私もそこまでは何とも。私の知っているダンジョン妖精はもっと小さくて可愛らしい感じでしたから。」

謎多きダンジョン妖精バッチ。

その正体は一体・・・。

次週、ダンジョン妖精は見た!

お楽しみに!

なんて予告が出来てしまいそうだ。

ほんと何者なんだろう。

まぁ、精霊もいるんだし別に害があるわけじゃないからいいか。

その後、十二階層の入り口までは魔物に襲われることも無くスムーズに進むことができた。

「さて、この先がどうなっているかが問題だが・・・。」

「魔物が上がってくる気配はありませんがその先がどうなっているかは何とも。」

「行ってみるしかないでしょう。大丈夫、魔物であふれていてもこちらにはシルビアがいます。」

「おいおい私にもできることとできないことがあるぞ?」

「じゃあどうにもならないんですか?」

「お前がいる以上どうにかするしかないだろう。エミリアも後ろの二人もいるしな。」

後ろを振り返るとネーヤさんとビクターさんが力強く頷いていた。

ほんと頼りになること。

他の中級冒険者もこんな感じなんだろうか。

それとも彼らが特別?

どちらにせよ心強いことに変わりはない。

この先ではティナさん達が助けを求めている・・・はずだ。

早く助けに行って事態の収拾を図らないと。

さぁ、行くか。

シルビアを先頭に一二階層への階段を下りていく。

階層を移動する階段はどれも同じつくり、同じ段数になっている。

まるでそこだけ別空間を歩かされているような感じだ。

ダンジョンそのものが別空間にあるようなものだしそうであっても驚きはしないけど、逃げてきた魔物がここを駆け上がってきたことを考えると冒険者だけが通れる特別な場所というわけではなさそうだ。

段数にして三十段。

数え終えると同事に目の前の視界がぱっと開けた。

「問題はないな。」

「そのようです。」

「でも魔物が通った後がいくつもあります、やっぱり先ほど襲われた魔物はここから来たみたいですね。」

「すべて逃げ切ったのかそれとも隠れているのか。いつ襲われるかわからない以上細心の注意で進むしかないだろう。目的地はここの最奥、皆気を抜くなよ。」

「「「「はい。」」」」

さすが元騎士団長。

掛け声一つで全員の気が引き締まる。

これがカリスマってやつなんだろう。

さすがに俺じゃこれはできないからなぁ。

「逃げる道中がどうなっていたかとは覚えていませんよね。」

「ごめんなさい無我夢中だったので。」

「それは仕方ありません。大量の魔物が急に襲ってきて冷静でいられる人はそれほど多くいませんから。」

「そうだな。鍛えられた騎士団員でさえ集団暴走中の魔物には恐怖を感じるものだ。」

「シルビア様は怖くないんですか?」

「怖いさ。でもな、恐怖に支配されればそこでおわりだ。恐怖に支配されるのではなく恐怖を抑えてこそ一人前の戦士、そのコツさえつかめば誰にでもできるぞ。」

「いや、誰にでもというのは難しいかと。」

基準をシルビア様にしてもらっては困る。

いくらなんでも誰にでもというのは無理じゃないかな。

「シュウイチでも出来たんだ、日々魔物と戦っている冒険者であれば容易いだろう。」

「上級冒険者にもなると強い魔物にも臆することなくむしろ気持ちが昂るといいます、それと同じでしょうか。」

「そうだな近いものがあるだろう。」

「私、なんとなくわかるかも。強敵であればあるほど何とかしてやろうって思うのよね。」

「そうだ、その気持ちを忘れるな。だがそれと無謀とは話は別だ。無理だと思ったら迷わず逃げろ、仲間を捨ててでも逃げろ、生きていることにこそ価値がある。」

「・・・わかりました。」

「逃げた自分を恥じるな。生きて戻ってきたからこそ、こうやって助けに行けるのだ。」

「はい!」

ネーヤさん逃げてきたこと気にしてたもんな。

これで少しは気が晴れるといいんだけど・・・。

って、俺『でも』ってなんですか『でも』って。

そりゃあ元は普通のサラリーマンですから、魔物に立ち向かえるだけでも普通じゃないかもしれませんけど。

それでもそんな言い方しなくてもさぁ。

「シュウイチさん、シルビア様は例えとして挙げただけですから。」

「むしろ、ただの商人が迫りくる魔物に臆することなく向かっていく方がおかしいのだ。」

「もちろん怖かったですよ?でも逃げても一緒なら向かうしかないじゃないですか。」

「それでもふつうは逃げちゃうと思います。」

「それは私も同意見です。神の試練とはいえあまりにも無謀ではないでしょうか。」

なんだよみんな揃って俺がおかしいみたいじゃないか。

え、おかしい?

うるさいなぁ、自分でもわかってるよおかしい事ぐらい!

「それでだ、このまま進んだとしてどうするつもりだ?」

「目的はティナさん達の救出です。最下層へも行きたい所ですがまずは命を最優先しましょう。」

「でもどこにいるのかわかりませんよ?」

そう、そこなんです。

最奥で襲われたとはいえそこからさらに進む事はないから必然的に戻ることになるわけで。

問題はどこに逃げ込んだのかなんだよなぁ。

「ネーヤさん、最奥に向かう一本道で襲われたんですよね?」

「そうです。」

「となるとその場で戦うことはしないでしょうから細い通路かどこかへ逃げ込んでいると思います。大きな通路が不利なことは三人ともわかっているでしょう。」

「ならその通路を探すところからだな。」

「でもあれなんですよね、この階って迷路のようになっているのでさっきのような作戦が使えないんです。」

そう、厄介なことに十二階層はとても複雑に入り組んだ作りになっている。

さっきのように基本一本道という感じではなく、何度も道を曲がりながら先に進ませ方向感覚を狂わせるようにした。

そうすることで進むことも戻ることも出来なくなり、疲弊した所を各所に潜ませた魔物が襲い掛かるというわけだ。

じゃあどうして最奥だとわかるかって?

それはだねワトソン君、至極簡単なことなのだよ。

何故なら最後の部屋に向かう道だけはまっすぐ一本道にしてあるんだから。

その道に出れば先に進める。

それを知っているからこそ、一本道に出た途端に次の階層へと進む活力が沸き上がるんだ。

いつまでも迷路だったら気がめいって先に進めなくなってしまうだろう。

先に進ませる工夫もまた、ダンジョンマスターとしての手腕が問われるところなのさ。

多分。

「だが最奥なのであればその付近であることは間違いないだろう。そんなに時間はたっていない、籠城さえしてくれていれば十分助かる見込みはある、そうだな?」

「シルビアの言う通りです。襲われてからまだ二刻はたっていないはず。籠城さえできれば三人は無事でいられると確信しています。」

「ではまずはそこを目指すんですね。」

「さすがの私も道までは覚えていませんので迷いながらになってしまいますが・・・。」

「いえ、その心配はないと思います。」

と、ここまで静かに話を聞いていたビクターさんが突然声を上げた。

なんだろう秘策でもあるんだろうか。

まさか神のご加護がありますとか言い出さないよね?

神様がいるのはわかっているし否定をする気はもちろんないけど、別に神様は助けてくれないしさぁ。

「この階層はこの間来ましたので曲がり角のたびに目印をつけてあります。あまり時間はたっていませんしそれが消えてなければなんとかなるかと。」

「そういえばついこの間潜ったばかりでしたね。」

「はい。残念ながら途中で戻ることになりましたが、ここはずいぶんと苦労させられたのでなんとなく道も覚えています。」

「あはは、誉め言葉として受け取っておきます。」

苦労させられたは作り手への誉め言葉。

その言葉に悪意は決してなかった。

苦労した、でもやりがいはあった。

そんな感じだろうか。

でもあれだな三人組が潜ってくれていて本当に良かった。

もし一から探索していたらものすごい時間がかかることになる。

もちろんその目印が消えてなければだけど・・・。

「お、目印というのはこれだな?」

早速現れた曲がり角のちょうど目線ぐらいの高さに太い傷がつけられている。

他にも細い傷が何本かついているところを見ると、何度も行き来して最終的にこれだという目印を付けた感じだろう。

なるほどこれはいいアイディアだ。

先駆者がいれば後続は非常に楽になる。

後はこれを伝っていけばおのずと最奥へと進めるわけだな。

ありがたい。

よし、無事にダンジョンの権限を奪取した暁には、壁につけた目印が一日経つと消えるように設定しておこう。

え、なんでそんなことするかって?

せっかく迷うようにしたのに目印つけられたんじゃ意味ないからね!

自分を棚に上げて冒険者には厳しくいかないと。

え、最低だって?

それもまた誉め言葉ですよ。

「シュウイチ、ブツブツ言ってないでさっさと行くぞ。」

「すみませんすぐ行きます。」

「道中敵がいないとも限りません、特に曲がり角には気を付けてください。」

「出会い頭に待ち伏せしているんだな?」

「そうです。」

残念、シルビアにはお見通しでした。

「それに加えてティナさん達が倒し損ねた魔物がいる可能性もあります。」

「あと、罠もそこそこありますので特に壁は触らないようにお願いしますね。」

「それはシュウイチが責任をもって見極めろ。」

「善処します。」

自分で設置した罠を自分で見つけて対処しなければならないこの矛盾。

くそぅ、迷路にかこつけてあれこれ設置したあの時の俺を恨むぞ。

でもこんなことで弱音を言っていられない。

自分で蒔いた罠ならば自分で何とかしないと。

頑張れ俺、負けるな俺。

三人は俺たちを待っているぞ!
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