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第十四章
敵を罠に嵌めてみよう
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魔物が溢れたって?
必死の形相でこちらを見てくるネーヤさんとは裏腹に、俺は事態をよく呑み込めないでいた。
いや、だって昨日までは普通に機能していたしそんな集団暴走みたいなことは起きていなかった。
にもかかわらずたった一日でそんなことが起きるなんて、そんなことあり得るのか?
「魔物が溢れたというのは具体的にどういう状況ですか?」
「だから魔物が溢れかえって襲い掛かってきたんです。近くの魔物同士が共喰いまで始めてもう訳が分からなくて・・・。」
「それでどうなったんです?」
「ティナさんがそれに気づいてすぐに私を逃がしてくれました。突き飛ばされて慌てて後ろを振り返ったら犬の魔物がティナさんに襲い掛かっていて、私怖くなって何も考えずに走ってきたんです。どうしよう、モアもジュリアも置いて私だけ生き残るなんて、そんなの、そんなの嫌!」
「落ち着きましょう、まだどうなったかはわかりません。一緒にいるのはティナギルド長ですよ?ダンジョンに出てくる魔物にそんな簡単にやられることはないでしょう。」
「でも!」
「でも、心配なので助けに行きます。ついてきてくれますよね、ネーヤさん。」
俺の言葉を聞いて驚いた顔をするネーヤさん。
目を真ん丸にしたかと思うとすぐに目を閉じてそのまま一つ大きく息を吸い、そして大きく吐いた。
「そう、よね?あの二人がそんなすぐにやられるわけがない、そうですよね?」
「モア君の実力は私も知っています、それに彼なら魔物に囲まれても図太く生きてるでしょう。」
「あはは、絶対にそうです。」
「とりあえず助けに行くとして、どこで遭遇したのか詳しい場所を教えてもらえますか?」
深呼吸したことでネーヤさんも落ち着きを取り戻したようだ。
助けに行くとしてもシルビアとエミリアの帰りを待ってからになるし、残っている新米達の処遇も考えなければならない。
一つ終わったらまた一つ厄介ごとが増えるのは宿命なんだろうか。
まいったね。
「遭遇したのは十二階層の奥です。もうすぐ次の階層かなって思ったときに突然正面から魔物がなだれ込んできました。あれはあんていうか、なにかから逃げるみたいな感じだったと思います。」
「逃げる、ですか。」
「普通なら共喰いなんてしないはずなのに、目の前に仲間を押しのけるように迫ってきたんですよ?そんなの見たことありません。」
「確かに妙ですね。」
「魔物にも怖いものあるんなんて知りませんでした。」
「そりゃあ生き物ですから。」
「屋外の魔物では過去に何度かそういうのを見たことはありますけど、ダンジョンの魔物では見たこと無くて。」
そりゃそうだ。
ダンジョン内で共食いなんてされたら魔物の数が足りなくて大変な事になってしまう。
支配下にあるダンジョンの場合は魔物同士で争う事はなく狙うのは冒険者のみ。
でも今回はその法則が崩れてしまったので、極端に強い魔物を恐れて逃げ出したと考えるべきだろう。
でもそんな極端に強い魔物なんてふつう生まれな・・・。
そこまで考えてすべて理解してしまった。
いるわ。
普通はその階層に存在しちゃいけない魔物が。
あぁなるほど。
原因はそれですか。
ってかその原因作ったの俺じゃないか。
今回は趣向を凝らしてなんて考えたのがまさかこんな事になるなんて・・・。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません。」
「私が分かっているのはそれだけです。」
「わかりましたありがとうございます。」
「あの、シルビア様とエミリア様はどこですか?お二人のお力をお借りしないとあれだけの魔物は流石に無理です。」
それはわかっているんだけど、おかしいな戻ってこないぞ。
「別件で先に行っていましてもうすぐ戻ってくると思うんですけど・・・。」
「何かあったんですか?」
「まぁ色々と。」
「それにどうして入り口をふさいでいるんですか?」
「護衛の数が少ないので新米を守るための一工夫という奴です。助けに行くのなら尚更ここの守りが薄くなりますから。」
とりあえずそういう事にしておこう、間違いじゃないし。
ネーヤさんと情報交換しながらもバッチさんとラルフさんが入り口にバリケードを築き続けている。
もうすぐで三分の二は封鎖できる感じだ。
バリケードがあるとはいえ最低二人は残しておきたい。
となると助けに行くとして動けるのはエミリア達を含めて四人。
俺はもちろん救助班に加わるとして・・・。
「ビクターさんバッチさんは引き続き障害物の設置をお願いします。もし可能であれば転送装置から上に上がってください。」
「わかりました!」
「気を付けていくんだぞ、今のダンジョンはしっちゃかめっちゃかな状態だかんな!」
「心配ありがとうございます。」
戻ってこないのならば仕方ない、ネーヤさんもいるしこちらから迎えに行くとしよう。
「ビクターさんもうひと仕事お願いできますか?」
「もちろん、どこまでもお供させていただきます。」
「待っててね二人ともすぐ助けに行くからね。」
「さぁ行きましょう!」
新米が無事に中に戻ったことを確認して俺達は再び十一階層を駆け抜ける。
最初の角は行き止まりみたいだから後はエミリアの入って行った分岐まで進んで二人と合流しよう。
シルビアの事だから後ろから迫って来ていた魔物は何とかしてくれているに違いない。
さぁ二回戦も時間との勝負だぞ。
急ぎティナさん達を救出に行かなければって、前も同じような事があったな。
あの時はガンドさんとジルさんを助けに行ったんだっけ。
逃げ帰った通路を再び進み、最初の分岐を通過。
そろそろ二つ目の分岐に差し掛かるんだけどと思ったその時だった。
「待って。」
先行するネーヤさんが右手を水平に伸ばし足を止める。
それに倣うように俺達も足を止めるとネーヤさんは真っ暗な通路の先を睨むように見つめ続けた。
「・・・魔物がいます。」
「どのぐらいいますか?」
「種類はわからないですけど五匹以上は。」
「厄介ですね。」
「イナバ様は後ろに下がってください、乱戦になった場合お守りする事が出来ません。」
こういう時タンク役がいれば楽なんだけど残念ながら僧侶と弓士では俺をかばいながら戦う事はできない。
せめて俺にもう少し実力があれば・・・。
何ていまさら言っても遅いか。
「こっちに向かってきますか?」
「いえ、別の道に進んでいるみたいです。」
「あそこの奥にエミリアとシルビアがいます、おそらく二人を狙っているんでしょう。」
「挟撃しますか?」
「うーん、五匹だけじゃなかった場合が厄介ですね。」
「でもやり過ごして後ろから来られるよりはましかと。」
いやまぁそうなんだけど、できればあまり戦いたくない。
やり過ごせるのならばやり過ごして先に進みたいんだけど、どちらにしろエミリア達がいない事には先にも進めないか。
「では五匹が完全に通路を離れたら追いかけましょう。確かあの道には罠があったはずです。」
「罠ですか。」
「床ではなく壁に仕掛けているので上手くいけば引っかかるかもしれません。」
「魔物が罠にかかるんですか?」
「いつもなら引っかかりませんけどこの状況なら十分にあり得るかと。」
いつもはこのダンジョンの魔物という一種の識別コードが働いて罠が作動しないのだが、今は管理下にない状況だ。
この状況であればひっかかる可能性は十分に高い。
しばらく身を潜めて魔物が移動するのを待つ。
恥ずかしながら俺には全くわからないが、どうやらネーヤさんにはこの闇の向こうが手に取るようにわかるらしい。
いいなぁ特殊能力みたいだ。
「もういいと思います。」
「では慎重に行きますよ、また奥から湧いてくる可能性がありますので殿をネーヤさんにお任せします。」
「わかりました。」
足音を立てないようにゆっくりと壁伝いに進んでいく。
先程魔物たちが通り過ぎた分岐に差し掛かるとビクターさんが通路から顔を出し先の様子を伺ってくれた。
特に問題はない様だ。
「イナバ様どのあたりに罠はあるんですか?」
「詳しい距離は定かではありませんが、通路の中ほどだったと記憶しています。手前に大きな岩を置いているのでそれでわかるかと。」
「岩ですね。」
「岩を避けて再び壁に手をつくと右斜め前から岩に向かって毒矢が射出されます。ですので作動させた後すぐ岩の後ろに隠れれば避ける事が出来るでしょう。」
「毒って危ない奴?」
「いえ、即効性の痺れ毒です。説明書では牛ですらすぐに寝てしまうとか。」
もっとも魔物にどれぐらい効果がるかまでは書いていないので煌かは未知数だ。
「足跡からするとさっきの魔物はコボレートぐらいの大きさのようです。」
「効果がある事を期待しましょう。」
ともかく先に進まなければ意味はない。
通路の奥から戦闘音は聞こえないのでまだエミリア達とは遭遇していなさそうだ。
それからしばらく道なりに進むと記憶通り大きな岩が左側に現れた。
あまりにも怪しい岩なので普通の冒険者は近づいたりしないだろう。
でも魔物はそうじゃない。
彼ら?には怪しいかどうかすらわからないはずだ。
「あ、いました。」
それと同時にビクターさんが立ち止まり俺達に注意を促す。
距離はわからないが俺にも何かがいるのだけは分かった。
「イナバ様どうするんですか?」
「そうですね、ビクターさんに奴らをおびき出してもらい私が罠を作動させます。おびき出し走ってこちらに戻って来てもらい岩の後ろに隠れてください。私も作動後すぐに岩の後ろに向かいます。」
「失敗した場合は?」
「岩を背に戦うしかありません。壁と岩に囲まれますが私を守る手間は省けます。」
「それしかないようですね、いつもはラルフに任せている仕事ですがこれも神の与えた試練と思えば苦になりません。」
「よろしくお願いします。」
作戦は決まった。
後は実行するのみだ。
大きく深呼吸したビクターさんがメイスを右手にしっかりと握りしめて通路の奥へと向かう。
俺はその間に罠を確認、ネーヤさんは向かって来る魔物を遠距離から牽制する役目だ。
えーっと確かこの辺に・・・っとあった!
岩を越えて十歩進んだ所に掴みやすいように出っ張った丸い部分がある。
何も知らなければつい触ってしまいそうな大きさ。
まさにそれが起動スイッチだ。
あとは正面から戻ってくるビクターさんが俺を縫うと同時にスイッチを押す。
そして逃げる。
大丈夫だ成功するさ。
そんな軽い気持ちでいるのが一番だ。
気負えば失敗する。
商談とか打ち合わせもそうだった。
きっとどの世界でもそんなもんなのさ。
そんな気持ちで構えていると通路の奥からドドドドと地響きが聞こえて来る。
来た。
奥はまだ暗くて見えないが近づいてきていることは間違いない。
全神経を集中させてその時を待つ。
なに、昔テレビでやっていたスイッチを押してバレーボールを取りに行く遊びだと思えばいい。
押して走る。
押して走る。
押して走る!
なんだか某人造人間に登場するヘタレ主人公のようだが俺は違う。
もうヘタレの仮面は脱ぎ捨てたのだ!
なんてことを考えている間に暗闇から突然ラルフさんが現れ颯爽と俺の横を通り抜けてしまった。
って今かぁぁぁい!
慌てて反応してスイッチを押しラルフさんの後を追いかける。
反応速度は悪くなかったはずだ。
その証拠に足音は聞こえるが魔物の姿は見えなかった。
たった十歩分とはいえ全速力で岩まで走り慌てて岩陰に飛び込む。
先に逃げ込んでいたラルフさんに受け止めてもらうと同時に背後から何かが射出される音が聞こえた気がした。
でも足音は止まらない。
だんだんとその足音が近づいてくるのが分かる。
クソ、失敗か!
でも牽制するために武器を構えていたネーヤさんが弓を放つことはなかった。
足跡はだんだんと近づいてくるがその音は小さくなっていき、そしてほんの少し手前で何かが崩れ落ちた。
「作戦成功、みたいですね。」
「魔物にも罠って効くのね知らなかった。」
「さすがイナバ様です。」
さすイナはもう聞き飽きたよなんて思ったりもするけれど褒められるのに悪い気はしない。
こそっと岩から顔を出すと、あと三歩ぐらいの所で予想通りコボレートが動かなくなっていた。
痺れ罠なので生きている。
とどめを刺しておくべきだろう。
「ハイコボレートでしたか、戦わなくて正解でした。数でこられるより厄介な相手です。」
「まだ生きてるのよね?」
「よかったらとどめをどうぞ。」
「え、いいんですか?」
「私は本職ではないので、皆さんの糧にしてください。」
「わかりました。では二匹ずつと、イナバ様が一匹で。」
いや、だから別にいらないんだって。
とはなかなか言えないか。
では遠慮なくいただくとしよう。
俺は短剣を引き抜くと手前で倒れているコボレートにゆっくり近づく。
身動きひとつとれない今なら俺でも対処できる。
魔物に言うのもあれだけど成仏してくれよ。
そう願いながら首に短剣を当て一気に引き抜いた。
麻痺しているはずなのにビクビクと痙攣した後動かなくなる魔物。
とそれと同時にとてつもない倦怠感が俺の体を襲ってきた。
あ、この感覚久々だわ。
「どうされましたイナバ様。」
「あ、もしかして位が上がったとか?」
「恐らくそのまさかでしょう、かなり久々の感覚ですね。」
「あの、今いくつぐらい何ですか?」
「さぁ、大分昔に測ったときは3でしたが、それ以降は調べてなくて。」
「え!?3ですか!?」
「一応商人が本職ですから。すみませんもう大丈夫です。」
倦怠感がぬけ代わりに力が漲ってくる。
今度機会があったら測ってもらうとしよう。
またエミリアのメガネ姿を拝めるのか。
それはそれで楽しみだな。
「おや、これはどうなっているんだ?」
と、話し込んでいると通路の奥から歩いてくる人影が二つ。
「二人とも無事だったんですね!」
「シュウイチさんがどうしてここに?」
「そうだ、お前には戻るように言ったはずだが・・・。」
「状況が状況でして、ともかく一緒に来てください。」
今はあれこれ言っている暇はない。
合流できたんだし急ぎ助けにいかないと。
二人の無事に安堵しつつもまだ事態は解決していない。
さぁ急がないとな!
必死の形相でこちらを見てくるネーヤさんとは裏腹に、俺は事態をよく呑み込めないでいた。
いや、だって昨日までは普通に機能していたしそんな集団暴走みたいなことは起きていなかった。
にもかかわらずたった一日でそんなことが起きるなんて、そんなことあり得るのか?
「魔物が溢れたというのは具体的にどういう状況ですか?」
「だから魔物が溢れかえって襲い掛かってきたんです。近くの魔物同士が共喰いまで始めてもう訳が分からなくて・・・。」
「それでどうなったんです?」
「ティナさんがそれに気づいてすぐに私を逃がしてくれました。突き飛ばされて慌てて後ろを振り返ったら犬の魔物がティナさんに襲い掛かっていて、私怖くなって何も考えずに走ってきたんです。どうしよう、モアもジュリアも置いて私だけ生き残るなんて、そんなの、そんなの嫌!」
「落ち着きましょう、まだどうなったかはわかりません。一緒にいるのはティナギルド長ですよ?ダンジョンに出てくる魔物にそんな簡単にやられることはないでしょう。」
「でも!」
「でも、心配なので助けに行きます。ついてきてくれますよね、ネーヤさん。」
俺の言葉を聞いて驚いた顔をするネーヤさん。
目を真ん丸にしたかと思うとすぐに目を閉じてそのまま一つ大きく息を吸い、そして大きく吐いた。
「そう、よね?あの二人がそんなすぐにやられるわけがない、そうですよね?」
「モア君の実力は私も知っています、それに彼なら魔物に囲まれても図太く生きてるでしょう。」
「あはは、絶対にそうです。」
「とりあえず助けに行くとして、どこで遭遇したのか詳しい場所を教えてもらえますか?」
深呼吸したことでネーヤさんも落ち着きを取り戻したようだ。
助けに行くとしてもシルビアとエミリアの帰りを待ってからになるし、残っている新米達の処遇も考えなければならない。
一つ終わったらまた一つ厄介ごとが増えるのは宿命なんだろうか。
まいったね。
「遭遇したのは十二階層の奥です。もうすぐ次の階層かなって思ったときに突然正面から魔物がなだれ込んできました。あれはあんていうか、なにかから逃げるみたいな感じだったと思います。」
「逃げる、ですか。」
「普通なら共喰いなんてしないはずなのに、目の前に仲間を押しのけるように迫ってきたんですよ?そんなの見たことありません。」
「確かに妙ですね。」
「魔物にも怖いものあるんなんて知りませんでした。」
「そりゃあ生き物ですから。」
「屋外の魔物では過去に何度かそういうのを見たことはありますけど、ダンジョンの魔物では見たこと無くて。」
そりゃそうだ。
ダンジョン内で共食いなんてされたら魔物の数が足りなくて大変な事になってしまう。
支配下にあるダンジョンの場合は魔物同士で争う事はなく狙うのは冒険者のみ。
でも今回はその法則が崩れてしまったので、極端に強い魔物を恐れて逃げ出したと考えるべきだろう。
でもそんな極端に強い魔物なんてふつう生まれな・・・。
そこまで考えてすべて理解してしまった。
いるわ。
普通はその階層に存在しちゃいけない魔物が。
あぁなるほど。
原因はそれですか。
ってかその原因作ったの俺じゃないか。
今回は趣向を凝らしてなんて考えたのがまさかこんな事になるなんて・・・。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません。」
「私が分かっているのはそれだけです。」
「わかりましたありがとうございます。」
「あの、シルビア様とエミリア様はどこですか?お二人のお力をお借りしないとあれだけの魔物は流石に無理です。」
それはわかっているんだけど、おかしいな戻ってこないぞ。
「別件で先に行っていましてもうすぐ戻ってくると思うんですけど・・・。」
「何かあったんですか?」
「まぁ色々と。」
「それにどうして入り口をふさいでいるんですか?」
「護衛の数が少ないので新米を守るための一工夫という奴です。助けに行くのなら尚更ここの守りが薄くなりますから。」
とりあえずそういう事にしておこう、間違いじゃないし。
ネーヤさんと情報交換しながらもバッチさんとラルフさんが入り口にバリケードを築き続けている。
もうすぐで三分の二は封鎖できる感じだ。
バリケードがあるとはいえ最低二人は残しておきたい。
となると助けに行くとして動けるのはエミリア達を含めて四人。
俺はもちろん救助班に加わるとして・・・。
「ビクターさんバッチさんは引き続き障害物の設置をお願いします。もし可能であれば転送装置から上に上がってください。」
「わかりました!」
「気を付けていくんだぞ、今のダンジョンはしっちゃかめっちゃかな状態だかんな!」
「心配ありがとうございます。」
戻ってこないのならば仕方ない、ネーヤさんもいるしこちらから迎えに行くとしよう。
「ビクターさんもうひと仕事お願いできますか?」
「もちろん、どこまでもお供させていただきます。」
「待っててね二人ともすぐ助けに行くからね。」
「さぁ行きましょう!」
新米が無事に中に戻ったことを確認して俺達は再び十一階層を駆け抜ける。
最初の角は行き止まりみたいだから後はエミリアの入って行った分岐まで進んで二人と合流しよう。
シルビアの事だから後ろから迫って来ていた魔物は何とかしてくれているに違いない。
さぁ二回戦も時間との勝負だぞ。
急ぎティナさん達を救出に行かなければって、前も同じような事があったな。
あの時はガンドさんとジルさんを助けに行ったんだっけ。
逃げ帰った通路を再び進み、最初の分岐を通過。
そろそろ二つ目の分岐に差し掛かるんだけどと思ったその時だった。
「待って。」
先行するネーヤさんが右手を水平に伸ばし足を止める。
それに倣うように俺達も足を止めるとネーヤさんは真っ暗な通路の先を睨むように見つめ続けた。
「・・・魔物がいます。」
「どのぐらいいますか?」
「種類はわからないですけど五匹以上は。」
「厄介ですね。」
「イナバ様は後ろに下がってください、乱戦になった場合お守りする事が出来ません。」
こういう時タンク役がいれば楽なんだけど残念ながら僧侶と弓士では俺をかばいながら戦う事はできない。
せめて俺にもう少し実力があれば・・・。
何ていまさら言っても遅いか。
「こっちに向かってきますか?」
「いえ、別の道に進んでいるみたいです。」
「あそこの奥にエミリアとシルビアがいます、おそらく二人を狙っているんでしょう。」
「挟撃しますか?」
「うーん、五匹だけじゃなかった場合が厄介ですね。」
「でもやり過ごして後ろから来られるよりはましかと。」
いやまぁそうなんだけど、できればあまり戦いたくない。
やり過ごせるのならばやり過ごして先に進みたいんだけど、どちらにしろエミリア達がいない事には先にも進めないか。
「では五匹が完全に通路を離れたら追いかけましょう。確かあの道には罠があったはずです。」
「罠ですか。」
「床ではなく壁に仕掛けているので上手くいけば引っかかるかもしれません。」
「魔物が罠にかかるんですか?」
「いつもなら引っかかりませんけどこの状況なら十分にあり得るかと。」
いつもはこのダンジョンの魔物という一種の識別コードが働いて罠が作動しないのだが、今は管理下にない状況だ。
この状況であればひっかかる可能性は十分に高い。
しばらく身を潜めて魔物が移動するのを待つ。
恥ずかしながら俺には全くわからないが、どうやらネーヤさんにはこの闇の向こうが手に取るようにわかるらしい。
いいなぁ特殊能力みたいだ。
「もういいと思います。」
「では慎重に行きますよ、また奥から湧いてくる可能性がありますので殿をネーヤさんにお任せします。」
「わかりました。」
足音を立てないようにゆっくりと壁伝いに進んでいく。
先程魔物たちが通り過ぎた分岐に差し掛かるとビクターさんが通路から顔を出し先の様子を伺ってくれた。
特に問題はない様だ。
「イナバ様どのあたりに罠はあるんですか?」
「詳しい距離は定かではありませんが、通路の中ほどだったと記憶しています。手前に大きな岩を置いているのでそれでわかるかと。」
「岩ですね。」
「岩を避けて再び壁に手をつくと右斜め前から岩に向かって毒矢が射出されます。ですので作動させた後すぐ岩の後ろに隠れれば避ける事が出来るでしょう。」
「毒って危ない奴?」
「いえ、即効性の痺れ毒です。説明書では牛ですらすぐに寝てしまうとか。」
もっとも魔物にどれぐらい効果がるかまでは書いていないので煌かは未知数だ。
「足跡からするとさっきの魔物はコボレートぐらいの大きさのようです。」
「効果がある事を期待しましょう。」
ともかく先に進まなければ意味はない。
通路の奥から戦闘音は聞こえないのでまだエミリア達とは遭遇していなさそうだ。
それからしばらく道なりに進むと記憶通り大きな岩が左側に現れた。
あまりにも怪しい岩なので普通の冒険者は近づいたりしないだろう。
でも魔物はそうじゃない。
彼ら?には怪しいかどうかすらわからないはずだ。
「あ、いました。」
それと同時にビクターさんが立ち止まり俺達に注意を促す。
距離はわからないが俺にも何かがいるのだけは分かった。
「イナバ様どうするんですか?」
「そうですね、ビクターさんに奴らをおびき出してもらい私が罠を作動させます。おびき出し走ってこちらに戻って来てもらい岩の後ろに隠れてください。私も作動後すぐに岩の後ろに向かいます。」
「失敗した場合は?」
「岩を背に戦うしかありません。壁と岩に囲まれますが私を守る手間は省けます。」
「それしかないようですね、いつもはラルフに任せている仕事ですがこれも神の与えた試練と思えば苦になりません。」
「よろしくお願いします。」
作戦は決まった。
後は実行するのみだ。
大きく深呼吸したビクターさんがメイスを右手にしっかりと握りしめて通路の奥へと向かう。
俺はその間に罠を確認、ネーヤさんは向かって来る魔物を遠距離から牽制する役目だ。
えーっと確かこの辺に・・・っとあった!
岩を越えて十歩進んだ所に掴みやすいように出っ張った丸い部分がある。
何も知らなければつい触ってしまいそうな大きさ。
まさにそれが起動スイッチだ。
あとは正面から戻ってくるビクターさんが俺を縫うと同時にスイッチを押す。
そして逃げる。
大丈夫だ成功するさ。
そんな軽い気持ちでいるのが一番だ。
気負えば失敗する。
商談とか打ち合わせもそうだった。
きっとどの世界でもそんなもんなのさ。
そんな気持ちで構えていると通路の奥からドドドドと地響きが聞こえて来る。
来た。
奥はまだ暗くて見えないが近づいてきていることは間違いない。
全神経を集中させてその時を待つ。
なに、昔テレビでやっていたスイッチを押してバレーボールを取りに行く遊びだと思えばいい。
押して走る。
押して走る。
押して走る!
なんだか某人造人間に登場するヘタレ主人公のようだが俺は違う。
もうヘタレの仮面は脱ぎ捨てたのだ!
なんてことを考えている間に暗闇から突然ラルフさんが現れ颯爽と俺の横を通り抜けてしまった。
って今かぁぁぁい!
慌てて反応してスイッチを押しラルフさんの後を追いかける。
反応速度は悪くなかったはずだ。
その証拠に足音は聞こえるが魔物の姿は見えなかった。
たった十歩分とはいえ全速力で岩まで走り慌てて岩陰に飛び込む。
先に逃げ込んでいたラルフさんに受け止めてもらうと同時に背後から何かが射出される音が聞こえた気がした。
でも足音は止まらない。
だんだんとその足音が近づいてくるのが分かる。
クソ、失敗か!
でも牽制するために武器を構えていたネーヤさんが弓を放つことはなかった。
足跡はだんだんと近づいてくるがその音は小さくなっていき、そしてほんの少し手前で何かが崩れ落ちた。
「作戦成功、みたいですね。」
「魔物にも罠って効くのね知らなかった。」
「さすがイナバ様です。」
さすイナはもう聞き飽きたよなんて思ったりもするけれど褒められるのに悪い気はしない。
こそっと岩から顔を出すと、あと三歩ぐらいの所で予想通りコボレートが動かなくなっていた。
痺れ罠なので生きている。
とどめを刺しておくべきだろう。
「ハイコボレートでしたか、戦わなくて正解でした。数でこられるより厄介な相手です。」
「まだ生きてるのよね?」
「よかったらとどめをどうぞ。」
「え、いいんですか?」
「私は本職ではないので、皆さんの糧にしてください。」
「わかりました。では二匹ずつと、イナバ様が一匹で。」
いや、だから別にいらないんだって。
とはなかなか言えないか。
では遠慮なくいただくとしよう。
俺は短剣を引き抜くと手前で倒れているコボレートにゆっくり近づく。
身動きひとつとれない今なら俺でも対処できる。
魔物に言うのもあれだけど成仏してくれよ。
そう願いながら首に短剣を当て一気に引き抜いた。
麻痺しているはずなのにビクビクと痙攣した後動かなくなる魔物。
とそれと同時にとてつもない倦怠感が俺の体を襲ってきた。
あ、この感覚久々だわ。
「どうされましたイナバ様。」
「あ、もしかして位が上がったとか?」
「恐らくそのまさかでしょう、かなり久々の感覚ですね。」
「あの、今いくつぐらい何ですか?」
「さぁ、大分昔に測ったときは3でしたが、それ以降は調べてなくて。」
「え!?3ですか!?」
「一応商人が本職ですから。すみませんもう大丈夫です。」
倦怠感がぬけ代わりに力が漲ってくる。
今度機会があったら測ってもらうとしよう。
またエミリアのメガネ姿を拝めるのか。
それはそれで楽しみだな。
「おや、これはどうなっているんだ?」
と、話し込んでいると通路の奥から歩いてくる人影が二つ。
「二人とも無事だったんですね!」
「シュウイチさんがどうしてここに?」
「そうだ、お前には戻るように言ったはずだが・・・。」
「状況が状況でして、ともかく一緒に来てください。」
今はあれこれ言っている暇はない。
合流できたんだし急ぎ助けにいかないと。
二人の無事に安堵しつつもまだ事態は解決していない。
さぁ急がないとな!
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