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第十四章

ダンジョンにトイレを求めるのは間違っているだろうか

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最初は明るかったダンジョンもここまで来ると魔灯の数が減りランタンなしでは歩きづらくなったな。

現在地はダンジョン九階層。

先行した冒険者が魔物を片付けてくれていたとはいえ、ここまでくる冒険者はなかなか少ない。

となると必然的に魔物の数は増えるし、罠も凶悪になってくる。

最初こそ遠足気分だった新米達の表情にも余裕はなさそうだ。

これでも各階層ごとに小休止を挟んでいるんだけど、いつ魔物に襲われるかわからない状況では心から休むことができないんだろう。

冒険者たるもの休めるときにしっかり休む。

それが身にしみてわかってきたんじゃないだろうか。

「次の丁字路はどっちだ?」

「えぇっと、左・・・いえ右です。」

「右だな。」

「ティナさん三メートル先に毒矢が仕込んでありますので気を付けてください。」

「え、どこですか?」

「丁字路の手前、ちょうど角から二歩離れたところに仕掛けてあります。」

「まだ暗くてよく見えなくて・・・あ!本当ですねありました。」

恐る恐る先行したティナさんがランタンをかざした先にあったのは小さな小石。

パッと見はどこにでもある小石に見えるがこれを踏む、もしくは蹴飛ばすと丁字路正面の壁から毒矢が射出されるようになっている。

こういった道は角を気にして正面の壁はあまりみないのでそこを狙って罠を仕掛けてある。

正面からの射出であれば一人がよけても後続が引っかかる可能性があるので特に一直線で進行しやすい曲がり角では効果的だ。

こういった場所でわざわざ広がって歩く冒険者は少ないからね。

なんせ角の向こうにすぐ魔物がいた場合前衛が守りにくい。

それを考えれば必然的に一直線に並んでしまうのだ。

ちなみに仕込んであるのは致死性の毒ではなく遅効性の痺れ毒で、かするだけでも効果のあるやつだ。

大丈夫と安心して進んでからジワジワ体を侵され、魔物に出会ったときにはうまく体が動かなくなっている。

わかりやすい毒よりも案外こういったやつのほうが嫌われるんだよね。

「え、あんな所にも罠があるの?」

「全然わかんないよ、あんなのただの小石にじゃない。」

「なんであそこにあるってわかるんだ?」

「無理だよ、あんな罠見つけられっこない。」

疲労でネガティブな思考になってきた新米達が悲壮な顔で罠を見つめている。

ほらほらこんなので驚いていちゃだめだよ。

気を抜くとそこを狙って奴らが襲ってくるんだから。

「シルビア様、左側から魔物が来ます。」

「急ぎ罠を避けつつ右へ進め。ティナ殿先頭をお任せする、私が相手をしよう。」

「わかりました、皆さんついてきて下さい。」

「ほら急いで急いで、次いくよ。」

新米を急かしているのはモア君の所のネーヤさんだったかな?

いかにも後輩思いの姉御肌って感じだ。

実力もそれなりのようで、さっき横道からくる敵にいち早く気づいて狙い撃ちにしていた。

前方からの敵にはエミリアたちが反応できるけど横道から急に出てきた奴なんかは反応できないからね。

まぁその為に護衛としてついてもらっているんだけど、彼らに任せて正解だったな。

罠を避けつつ通路を曲がると後方から魔物の叫び声が聞こえてくる。

シルビア様が仕留めたんだろう。

この階層じゃまずてこずることはない。

「うぅ、いつまで続くの。」

「ほら頑張って。もうすぐしたら休憩だから。」

「本当?丸一日以上歩いてるよ・・・。」

「まだ半日ぐらいだよ。荷物持ってあげるから、それとこの水を飲んで。」

「うん・・・。」

おや、こっちは挫折しそうな仲間を必死に応援して歩かせている。

ダンジョンにいると時間感覚が狂ういい例だ。

今はまだダンジョンに潜って半日ほど、彼はなかなかいい体内時計を持っているようだな。

こんなに長時間こんな閉鎖空間を歩いたことなんてないだろうから致し方ないんだけど・・・、ほかの冒険者の顔色もあまりよろしくない。

平気そうな顔をしているものの、かなり疲れているのは間違いなさそうだ。

困ったな、野営場所は十階層の先。

まだもう一階層あるぞ。

しばらく進むと後方からシルビアが駆け足で戻ってきた。

返り血すら浴びていない。

さすがです。

「皆、随分と疲れた顔をしているな。」

「えぇ、予定よりも進行速度が下がっています。野営場所までは後一階層、せめて魔物の数だけでも減ってくれれば助かるんですけど。」

「管理下にないダンジョンではいたしかたあるまい。さすがにこの辺りまでは他の冒険者も来ていないようだ、今まで通り進みながら殲滅していく他ないだろう。」

「ここを越えれば中級冒険者も目前です、そこまでの実力がある冒険者は今日は来ていませんでしたから仕方ないですね。」

初心者向けダンジョンなのでその辺は仕方ない。

今後は中級冒険者も増えていくだろうしそこに期待するとして、とりあえず今はダンジョンの権限奪還が最優先だ。

とはいえ現状のままではそれもままならない。

はて、どうしたものか。

「あの、少しいいですか?」

行軍しながらどうしたもんかと思案していると申し訳なさそうにターニャさんが近づいてくる。

「どうしました?」

「他の班から小休止できないかとお願いが出てるんですけど・・・。」

「わかりました。」

「まだまだかかるんですよね?」

「予定では後一階層降りて野営の予定なんですけど・・・、無理そうですよね。」

「私は頑張れるんですけど、他の子・・・特に女の子が色々限界みたいで。」

やはり初心者も初心者、新米達にここまで連続した行軍は無理だったか。

それに加えてどうやらトイレの方でも限界が来ているようだ。

ダンジョンで用を足すのはなかなかに命がけ、特にこんな状況ではなかなか言い出せなかったんだろう。

アニメとかじゃ語られないけどトイレ問題って結構深刻なんです。

だってする場所がないんだもの。

大抵は行き止まりになっている通路の奥なんかがそれ用に使われるのでにおいもひどいし、せめて土をかけるとかしてくれればマシなんだけどなぁ。

でもトイレ用に土が準備してあるってのも変な話じゃない?

もしくは個室トイレなんて準備したら魔物はどうするんだって話ですよ。

大人しく外で待ってるの?

流石にそれはないわ。

一応それを掃除するダンジョン妖精もいるんですけど、残念ながら今は強制休業中なんです。

早く何とかしないとダンジョン中が排泄物だらけになってしまう。

そういった意味でも急を要するというところをご理解いただければ幸いだ。

どれ、膀胱炎になってもらっても困るしこれは早急に何とかしないといけないな。

仕方ない、そろそろ十階層への大部屋だしそこで小休止をとるか。

「わかりました、早めに休憩を取りますのでもう少しだけ頑張るように伝えてきてください。」

「・・・こんなことで疲れるなら来なかったらいいのに。」

「まぁまぁそう言わないで、ターニャさんと違って初めての経験で気を張っているんです。申し訳ありませんがよろしくお願いします。」

「・・・わかりました。」

不満そうな顔をしてターニャさんがみんな所に戻っていく。

損な役回りだろうけどもう少しだけ頑張ってほしい。

後で先輩が褒めてくれるからそれまでがんばれ!

「とはいったものの、速度が上がらないのが難点なんですよね。」

「トイレはともかく疲れはすぐに取れませんから。」

横で話を聞いていたエミリアが同じく困ったような顔で賛同してくれる。

「エミリアは大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です、それよりもシュウイチさんは大丈夫ですか?その、疲れたりとかは・・・。」

「おかげ様でこの世界に来てからだいぶ鍛えられました。」

ここに来たばかりの俺だったら新米同様、いやそれよりも先にばててしまっていただろう。

そして彼らと同じく疲れてのどが渇いて水分を取ってトイレに行きたくなる負のスパイラルに突入していたはずだ。

俺も少しは成長しているんだなぁ。

「私とシルビア様で先に魔物だけ倒しに行ってもいいんですけど・・・。」

「そうなるとティナさん一人にお任せすることになりますし、守りが手薄になるのは困ります。」

「そうですよね。」

「人出が増えたので何とかなると思っていたんですけど、案外ままならないものですね。」

当初の予定よりも4人も多いのにふたを開ければやはり人で不足だ。

これだけの強行軍なんだし致し方ないとは思うんだけど・・・、悩みは尽きないな。

と、そんな話を横で聞いていたのか三人組の僧侶君が申し訳なさそうに話しかけてきた。

「あの、よかったら私達が先行して魔物を掃討してきましょうか。」

「え、いいんですか?」

「このままの状況が続けば挟撃された時に咄嗟の行動がとれません。幸い九階層は私達でもなんとかなる範囲ですし、一刻程してから追いかけてもらえばちょうどいいと思うんです。」

「でもここまで護衛してもらって疲れていませんか?」

「むしろそうさせて頂く方がこちらとしては助かります。約一名が暴れたりないとごね始めたので・・・。」

「そういうことでしたらぜひお願いします!ですが、無理だけは決してしないでください。」

彼らが先行してくれれば魔物の心配をしなくて済む。

もちろん横道から出てくる魔物はいるだろうけど、真正面から襲ってくるやつがいなくなるだけでも気分はだいぶんとマシだ。

後は暴れたりない彼がいつも通り罠を作動させてくれれば完璧だな。

って失礼か。

「判別できる罠は作動させておいてもよろしいですか?」

「よろしくお願いします。」

「お任せください。」

おっと、心の声を聞かれてしまったかな?

とおもったけど、彼は礼儀正しくお辞儀をして二人の所に戻っていった。

その後話を聞いた例の彼が嬉しそうにガッツポーズするのを俺は見逃さない。

まぁ護衛だけじゃもの足りないよね。

存分に暴れちゃってください。

「皆さん次の大部屋で一刻程休憩します、もう少しの辛抱ですから頑張ってください!」

「やった!休憩だって!」

「もう少しだよ頑張ろう。」

「うん、頑張る・・・。」

休憩と聞いて新米達の顔に元気が戻ってきた。

この分ならこの階層の大部屋まではもつことだろう。

そう願いたい。

さて、俺ももうひと頑張りしましょうかね。


その後無事に大部屋に到着ししばしの休息をとった。

トイレ関係も女性陣におまかせして無事に解決、時間的に余裕があるので空腹を満たすべく軽く食事も摂る。

食事といっても携帯食料に加えて持参した果物を摂取するぐらいだけど、やっぱり新鮮なものを食べると元気が出るよな。

本当は火を起こして温かいものをとも思ったんだけど、それは野営する時に体験していただく予定なので今回は見送り。

半日歩き詰めだったので大部屋についた途端に新米冒険者たちがへたり込んでしまったのは言うまでもない。

なんだかんだ言っていたターニャさんもそれに含まれている。

口ではあぁ言っていたけどしんどくないはずがないよね。

俺はというと警護をエミリアたちに任せてしばしの仮眠をとらせてもらった。

10分でも寝れる時は寝る。

そうすることで肉体的にも精神的にも回復の仕方が変わってくる。

戦士の基本だ。

「シュウイチさん時間です。」

「すみません助かりました。」

「よく眠れたか?」

「おかげさまで元気いっぱいです。」

「今頃は彼らが魔物を駆逐してくれているだろう、十階層は駆け足で構わないな。」

「魔物の心配がないのなら私が前に出て罠を確認します。彼らの勉強はもういいでしょう。」

十階層だからといって罠の種類が変わるわけではない。

むしろ階層主のいる階なので罠は少なめにしていたはずだ。

ここに来るまでに主要な罠は説明したしこれ以上は疲れるだけだし、詰め込みすぎもよくないからね。

「階層主はどうする?」

「倒さないわけにはいきませんので三人にお任せします。」

「モア達にやらせる手もあるが・・・。」

「さすがに護衛までしてもらってそこまでは申し訳ありませんよ。」

「いや、案外戦いたがっているかもしれないぞ。」

えー、そんな戦闘狂みたいな事いうかなぁ。

とか思っていたら。

「「「やります!」」」

という返事でした。

三人組といいやっぱり護衛だけでは物足りなかったようです。

素材は彼らの取り分なのでそれが理由なのかもしれないけど。

それなりの依頼料は払っているけど、プラスアルファがあるならそれはそれ。

冒険することで生計を立てている彼らからしてみれば階層主も貴重な収入源というわけだな。

御見それしました。

「さぁそろそろ出発しましょうか。次の階層を抜ければ今日の野営地です、もう一頑張りお願いします!」

「「「「はい!」」」」

休憩して元気いっぱいの冒険者たち。

三人組の頑張りもあって十階層は予想通り魔物の襲撃もほぼなく、気づけば階層主の部屋の前。

先に戦っていた三人組にモア君達が加勢するといとも簡単に主は地に臥した。

その戦いに新米達が大興奮したのは言うまでもない。

「さすが先輩!カッコいいです!」

「ちょっとやめてよターニャ、私だけの頑張りじゃないんだから。」

「何言ってるんですか!攻撃を封じる為執拗に一か所を狙うあの的確な射撃!あんなこと先輩にしかできませんよ!」

「そうそう、さすがにあれは私にもできないのよね。」

「もぅ、ネーヤ先輩まで!」

ん?

先輩?

そうか順番的にはモア君達の方が先に中級冒険者になったのか。

元々実力はあったしチームワークも良かったもんな。

先輩の先輩か。

歳は変わらなくても明確な実力差があるわけで、知識もまた次の世代次の世代へと受け継がれていくんだろう。

ターニャさんが大騒ぎをしている奥では新米達が主の亡骸に群がって剥ぎとり肩のレクチャーを受けている。

アイツを倒すのが当面の目標になるわけだし、実際に倒している光景はまたとない経験になったはずだ。

「皆さんお疲れ様でした。素材の採取が終わればいよいよお待ちかねの野営地です。ある程度の準備はしていますが、食事や寝床の準備は皆さんでしていただきますし夜警の方法など勉強する事は盛りだくさんですからもうひと頑張りお願いしますね。」

「「「「はーい!」」」」

緊張の糸がほどけたのか返事もどこか間延びしている。

まぁ新米にしてはよく頑張った方だろう。

モア君達のねぎらいもしたらやっと休憩だ。

一泊二日の体験会。

やっと半分消化ってところかな。

まだまだ先は長いし、ここからが大変だけどまぁ何とかなるさ。

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