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第十四章

新米冒険者と行くダンジョン体験ツアー:実地体験(罠)編

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ダンジョンの前に並ぶ13人の冒険者達。

その後ろ姿はなんていうか震えた小鹿の様に小さくて頼りない物だった。

っていうか何人かは本当に震えている?

武者震いだろうか。

いや、どっちかっていうと用意した食料などの冒険備蓄の重さに震えているのかも。

あれ、結構な重さだからなぁ。

男性はともかく女性冒険者にはきつい物があるかもしれない。

そこはほら、仲間で助け合うとかすれば問題解決だ。

でも助言はしない。

そう言った事に気付くのもまた冒険者に大切な事だ。

「皆さん準備できましたね、ではダンジョンについて簡単に説明しておきましょう。入り口はこちらだけ、階層が進み10階層進むごとに横にある転送装置を使う事が出来るようになります。使う事が出来るようになるのはだいぶ先ですが覚えておいてください。転送装置を利用する事でより深い所まで潜る事が出来ますが、それだけ危険も増します。今回は体験会ですので普通に入り口から行きましょう。お話しした通り中にはたくさんの魔物がおり、たくさんの罠が仕掛けられてます。決して独断で行動したりせず護衛の皆さんの指示に従ってください。それが出来ないのであれば命の保証は致しません、よろしいですね?」

「「「「はい!」」」」

「今回護衛を引き受けてくださったのは総勢9名。ウチ6名は中級冒険者、皆さんの先輩に当たります。道中気になることがありましたら彼らに聞けば快く答えてくれるでしょう。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥といいます。いえ、今回はそもそも恥ですらありません。どんどん聞いて自分の糧としてください。」

紹介されて俺の後ろに控えていたエミリア達が一歩前に出る。

上級冒険者扱いなのがエミリアとシルビア様それとティナさん。

中級冒険者がいつもの三人組と、まさかモア君が来てくれるとは思わなかった。

一緒にいるのは障害物競走の時にも一緒だった二人だ。

スリーマンセルという言葉があるが冒険者に三人組が多いのは偶然だろうか。

一人ではなく二人でもなく三人。

人数は多くても少なくても上手く機能しないことがあるから、やっぱり三人がちょうどいいんだろう。

「前線はティナギルド長と、シュリアン商店よりエミリアとシルビアの両名が行います。特にティナギルド長は皆さんの大先輩、戦い方などは是非参考にすると良いでしょう。もっとも、下層は敵になりませんので主に罠の種類や配置、対応方法などについて学んでいただければと思います。皆さんの護衛は今お話しした中級冒険者6名が当たりますから、彼らのいう事は特に聞くようにお願いしますね。では行きましょうか。」

モア君たちへの挨拶は先ほど済ませておいたが、また休憩の時に改めてお礼を言っておこう。

もちろん三人組へもだ。

なんだか最近彼らに頼ってばっかりな気がするけれど今度別の形で御礼しないとなぁ。

あ、もちろん今回も依頼料は適正額お支払いさせていただいております。

お世話になっているからって過剰にお支払いする事はございません。

あくまでもこれはビジネス。

商人として譲れない所です。

いつもと変わらず黒い壁を越えてダンジョンに入るわけだが、今回はダンジョンマスターの権限を失っているので一番最後尾で入ることになった。

最初はシルビアが入り問題がなければ後は順番に突入する。

新米の彼らにもしもがあってはいけないので、その辺りはかなり厳重にしていくつもりだ。

シルビアなら多少魔物に囲まれても瞬殺できてしまうから、その点は安心だよな。

なんだかんだでうちのチームもバランスの良い三人組になっている。

シルビアが突入してから60数えても帰ってこないので中は大丈夫という事だろう。

俺の合図にエミリアが頷きエミリア達に続いて中級冒険者が順番に中へと突入していく。

何も気にせず淡々とダンジョンに潜る彼らと違って、新米冒険者達は初めてのダンジョンにおっかなびっくりという感じで黒い壁へと飛び込んでいった。

俺も最初はそんな感じだったんだなぁ。

なんだか新鮮な感じだ。

そしてみんなを見送り一番最後に黒い壁を抜けると、入り口の広場では新米たちがきょろきょろと辺りを見回していた。

「初めてのダンジョンいかがですか?」

「思ったよりも臭くないし、なんだか綺麗な感じ。」

「あはは、それはよかった。ここが綺麗なのもダンジョン妖精が綺麗にしてくれているからです。それを聞いて彼らも喜ぶことでしょう。」

「そんな妖精がいるんですか!?」

「いずれお会いできるかもしれませんね、期待していてください。」

「はい!」

妖精を聞いて目をキラキラさせている女性冒険者だが、あえて何も言うまい。

おそらく可愛い物を想像しているんだろうけど、出て来るのはオッサンですよ。

あ、ユーリは可愛いというよりもきれいな感じですから・・・と、心の声でフォローしておく。

「周辺に問題はない。大方先に入った冒険者達が片付けてくれたんだろう。」

「ありがたい事です。それでも罠は残っていますから気を付けていきましょう。」

「戦闘は任せろ。シュウイチは罠の発見に尽力してくれ。」

「この辺はすぐわかるのでいいんですけど、問題は後半なんですよね。」

「それはその時考えればいい。それじゃあいくぞ。」

「お願いします。」

目的地はダンジョン最下層。

一泊二日の予定ではあるけれど、とりあえず今日中に10階層まで行かなければならない。

それなりの実力があれば十分可能なタイムスケジュールだけど、今回は沢山の新米を連れているのでそうもいかないだろう。

出来るだけ時間は短縮したい。

幸い道はわかっているので迷う事はなさそうだ。

ゾロゾロと連なって進むこと半刻程、お待ちかねの時間は急にやって来た。

「シルビア止まってください。」

「あったか?」

「えぇ、おあつらえの物がちょうどど真ん中に。」

「あったって何があったんですか?」

急に立ち止まり不思議そうな顔をする新米達。

「道中何度かお話ししましたが、ダンジョンで一番気をつけないといけない物は何でしたか?」

「罠です!」

返事が早くて大変よろしい。

最初こそきょろきょろと辺りを見回していた彼らだが、奥に進むにつれて少しずつ真剣な面持ちに変わって来た。

集中力が続いているのは良い事だけど、そればっかりでは疲れてしまう。

そこで勉強がてら小休止というわけだ。

「その通りです。さて、私達の目の前にその罠が隠されているわけですが・・・皆さん分かりますか?」

目の前にはまっすぐに伸びる通路があるのみで、パッと見では何かあるようには見えない。

「わかる?」

「いや、全然。」

「ただの道じゃないの?」

「でも罠があるって言ってるだしどこかにあるんじゃないかな。」

新米達には目を凝らして通路を見るもほとんどわからないようだ。

でもそれを後ろで見守っている中級冒険者達はそうではないらしい。

「じゃあモア君わかりますか?」

「通路左側の中ほどに少しだけ地面が盛り上がった場所があります。恐らく落とし罠か何かかと。」

「その通り、さすがですね。」

「えぇ!わかんないよ。」

「嘘だろ!」

仕方ないまだ発見できないようなので答え合わせをしてやるか。

俺はモア君の指定した場所まで歩き、罠の手前で止まる。

確かに何も気にしないで歩けば気付かない様になっているが、逆を言えば気にして歩けば気付けるようになっている。

モア君の指摘通り俺の足元は周りと違って少し盛り上がっていた。

「罠には殺傷系と非殺傷系の二種類があるとお話ししましたね。非殺傷系は言葉通り直接命にかかわるような罠ではありません。トリモチやひっかけ石、浅い落とし穴もそれに含まれます。これらは近づくだけでは反応しませんが、こんな風に真上から踏みつけると・・・。」

そう言いながら罠の上に軽く足を置きすこしずつ体重をかけていく。

すると、ある一定の加重をかけた途端に足にくらいつくがごとく足元がぽっかりと口を開けた。

突如現れた穴の深さは50cm程、底にはトリモチの罠が別に仕掛けられている。

これを踏んだ冒険者は落下の恐怖と身動きを取れない苦痛の二つを味わう事になるだろう。

罠の中では一番かわいい奴だな。

「こんな感じで罠が作動します。」

「うわ!ホントにあった!」

「全然わかんないよ、なんでわかったの?」

「でも浅いし踏んでもくっつくだけでしょ?別にどうって事も無いんじゃない?」

「その通りこのダンジョンに仕掛けられている罠は直接的に被害をこうむるようなものではありません。とくに上層階には殺傷系の罠を仕込んでいないので安心していただけると思います。」

「それなら別に怯えて歩かなくても・・・。」

「ではせっかくですから引っかかってもらいましょうか。」

驚いた顔をする彼女をティナさんがニコニコしながら前に連れて来る。

装備は軽装で短剣、素早さ重視で戦うタイプのようだ。

「特に危険はありません、どうぞ上から踏んでみてください。」

「え、でも・・・。」

「いいからいいからどうってことないんでしょ?」

笑顔で罠に押し込んでいくティナさん、顔は笑っていてもやることはえげつないな。

「ちょっとまって・・・あっ!」

ドンと突き飛ばされて華麗に罠を踏み抜く。

するとものの見事に踏み抜いた右足がトリモチの餌食になってしまった。

慌てて引っ張ろうともかなり体重をかけて踏んだので簡単には逃がしてくれない。

そうこうしているうちにバランスを崩して反対の足もトリモチにかかってしまった。

「やだ!動けない!」

「結構粘着の強いトリモチですから簡単には抜け出せませんよ。もちろん、抜け出せないだけでこれといって害があるわけでありませんが・・・、とりあえず同じ班の子は脱出するのを手伝ってあげてください。その間に他の皆さんに再度お聞きします。ダンジョンで気を付けないといけないもの、罠ともう一つは何だったでしょうか。」

「えぇっと魔物ですか?」

「罠と魔物、この二つに気を付けてさえいればダンジョンは怖い物ではありません。ではもう一つお聞きしますが、明らかに自分が勝てそうにない魔物を見つけてしまったもしくは遭遇してしまった時どうすればいいでしょうか。」

「逃げます!」

「いいですね、戦うとか言いだしたらどうしようかと思いましたが大正解です。まずは逃げて命を確保するそれが最優先ですが、今の彼女のような状況でそれはできますか?」

そう言いながらトリモチに引っかかってアタフタしている彼女の方を見る。

仲間に助けてもらって何とか片足は抜けだせたようだけど、踏み抜いた反対の足はなかなか抜け出せないようだ。

皆に見られている恥ずかしさからか顔を真っ赤にして慌てている。

でもそうやって慌てれば慌てる程抜け出せないのがトリモチ罠の怖い所だ。

たかがトリモチと侮ることなかれ。

結構怖い罠だとうちのダンジョンでは評判なんだぞ。

「できません。」

「じゃあどうします?」

「え、戦うしか・・・。」

「でも勝てないんですよね?戦ったら絶対に死んでしまうような凶悪な魔物がいるかもしれません、そんな魔物相手に戦うんですか?」

「・・・・・・。」

意地悪な質問だとはわかっているがそれを理解してもらう事こそが大切なんだ。

たかが罠一つ。

それがいとも簡単に人の命を奪ってしまう場所、それがダンジョンなのだ。

シーンと静まり返る新米達。

同じ班の子だけじゃ引っ張り上げる事が出来ず、結局モア君達に助けられて抜け出してきた。

「そうなった場合出来る事は一つしかありません。仲間を捨てて逃げなさい。」

「仲間を捨てるだなんてできません!」

「じゃあ貴方もそこで死ぬんです。」

「でも・・・。」

「それが出来ないのならダンジョンに潜るのはやめなさい。仲間を切り捨てる覚悟のない人にダンジョンに潜る資格はありません。」

さっきまでの軽い空気が一気に凍り付いてしまった。

何度も言うがこれは遊びではない。

ダンジョンとは何かを知ってもらう為の極めて真剣な集まりだ。

だからこそティナさんに真剣な子だけを集めてもらったんだけど・・・。

ちょっとばかり話がきつすぎただろうか。

参ったね。

完全に縮こまっちゃったよ。

「だからこそ私達は仲間を信じているんです。どうしてもの時は切り捨てるけど、そうなるまでは全力で助けます。お互いに信じあえる仲間だからこそ背中を預けることができるんですよ。」

「俺なんてしょっちゅう罠に引っかかるけど何とかなってるしな!」

「それは私達が助けてあげてるからでしょ!」

「だからさ、出来るやつが出来る事をしたらいいんだよ。俺は前に立つことしかできないからさ、その分絶対に後ろには魔物は通さないつもりで戦ってるんだ。」

冷静なツッコミを受けながらもへへへと笑って場を和ませようとする三人組。

そのやり取りをみて新米達の顔が少しだけほころんだ。

「私達もそうよね、モアがダメになったら全力で逃げるわ。」

「そうだね。」

「嘘だろ!」

「でも、彼は絶対にそうならない。だって危なそうなときは真っ先に気付いて誘導してくれるし、ネーヤが罠に気付いてくれるから。」

「ジュリアはなにするの?」

「私はほら、殲滅するのが仕事だから。」

あ、向こうはそういう関係ですか。

方や僧侶のいる耐久型、片や魔術師のいる殲滅型。

前衛と弓士までは同じなのに残り一人が違うだけでこんなにも戦い方が変わるんだな。

「急ごしらえのこの班でそれを求めるのは無理な話だ。だがな一緒になったのも何かの縁、この体験会が終わるまで自分が仲間の為に何が出来るかを考えて行動すればいいだろう。」

「一人で潜れるのは仲間の分も全てできるようになってから、ダンジョンは特に閉鎖空間だからよっぽど実力がないと一人では難しいでしょうね。」

「ティナ殿は一人で潜ったことがあるのか?」

「上級冒険者になって何度か試してみましたけど、すぐに引き返しました。」

「それを考えると一人で潜れる人ってかなりすごいんですね。」

改めてトラ顔の上級冒険者を思い出す。

バーグさんってやっぱりすごい人だったんだなぁ。

「さぁ随分長くなってしまったな、早くいかねばダンジョンのど真ん中で野営になるぞ。」

「それもまた勉強になっていいかもしれません。」

「ならシュウイチさんだけでお願いしますね。」

「えぇ、私だけですか?」

「私達はせめて暖かい寝袋の中で眠りたいからな。さぁ、行くぞ!」

最後の最後で俺をネタに使い場が和む。

再び行軍を再開した新米達だが、先ほどまでと違いお互いに出来る事が何かを探り始めたようだ。

重たい荷物でフラフラしていた仲間を見かねて持てる者がそれを肩代わりしている。

代わりに、荷を預けた方はより緊張した面持ちで辺りを警戒していた。

中級冒険者達の仲間を信じる気持ちが伝わったんだろうか。

やっぱり俺みたいに口だけの人間と実際に行動で示している人間とでは説得力が違うんだなぁ。

勉強になります。

「心配するな、何があっても私達はお前を見捨てたりはしない。」

「だから頑張って逃げましょうね、シュウイチさん。」

「頼りにしてます。」

とりあえず目指すはバッチさんの待つ休憩地点。

奥さん二人に慰められながらも実地体験はまだまだ続く。
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