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第十四章

成長するために出来る事

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成長した鳥が今度はヒナを育てる。

それは自然が巡る様にごく自然な事なのかもしれない。

そしてそのヒナが成長すれば、また新しいヒナが新しい親鳥に教えを乞うようになる。

そうやって冒険者の知識はこれまでも受け継がれてきたんだろう。

その片鱗を今目の前で見ているわけだな。

「教えてくださいって、いきなりそんな・・・。」

「ダメですか?」

「いや、ダメじゃないけど。ちょっと、アンタ達も何か言いなさいよ!」

「俺か?ほら、俺ってばすぐ罠を踏んでお前に怒られるぐらいだから教える事なんて何もないぞ。」

「後輩の育成は先輩の役目、私達もそうやって成長して来たではありませんか。することがなくなった今日に来たことこそが神のお導きなのです。」

「お二人もそう言ってますし、お願いします先輩!」

仲間は力にならないようだ。

さぁどうするのかな?

「わ、私なんかよりユーリさんの方が罠を見抜くのが上手いからユーリさんに聞くとか・・・。」

「申し訳ありませんが本日はセレン様の補佐を仰せつかっておりますのでお力になれません。」

「そんなぁ~。」

咄嗟に浮かんだ代案もものの数秒で却下されてしまった。

後輩が慕ってくれるんだ別に断る理由はないと思うんだけど、なにかしたくない事情でもあるのかな?

「いい加減正直に言えよ、人に教えようとすると上がっちゃうって。」

「ちょっと、バラさないでよ!」

「黙ってたってすぐにバレるんだから最初に言っといた方が恥かかなくて済むだろ?」

「そうなんですか・・・?」

「昔からダメなのよ。人に何か教えようとするとあれしなきゃこれしなきゃって思っちゃって上手く伝えられないの。そしたら何時も出来る事も出来なくなっちゃって、ほんとにごめんね。」

「先輩に教えてもらえなかったら私これからどうしたらいいんでしょう・・・。」

「なるようになるんじゃないか?俺だって罠踏むけどピンピンしてるぞ?」

「アンタさっきの話聞いてたの?ターニャは一人でダンジョンに潜るの!それに私達が助けてあげなきゃアンタなんてすぐにおしまいよ。」

一人でダンジョンに潜るというのはそれぐらい過酷な事なのだ。

複数人いれば分散する危険も全て自分に襲い掛かって来る。

道具もそうだ。

一人なら数は少なくて済むが、持ち運ぶ量は分担できない。

そうなると持ち込める量は必然と少なくなりそこからまた危険が生じる。

また、持ち帰る量も少なくなってしまうので総取りできるとはいえ稼ぎは少なくなってしまうだろう。

だからこそ最初は実力のある冒険者について行って雑用をしながら今回のような基礎を教えてもらうのだ。

何度も経験する事でそれが身につき当たり前になる。

彼女の様に初心者のうちから一人で行動するのはむしろ珍しいと言えるだろう。

そしてさらに言えば難易度が高く、危険も多い茨の道でもある。

その道を進む間にどれだけの冒険者が挫折するのか・・・、見当もつかないな。

「だけどよぉ、お前が何とかしなきゃこの子はここでおしまいだぞ」

「そうは言っても私が誰かに教えるなんて・・・。」

「どうしよう、私先輩に教えてもらうんだって言っちゃった。そしたら他の同じような子も次の定期便で教えてもらいに来るって言ってたし・・・教えてもらえなかったなんていたら、本当に一人になっちゃう。」

「それは一大事ですね。」

「お願いします先輩!私を助けると思って教えて下さい!」

「教えてくださいって、ターニャだけならまだしも他の子までなんてアタシには無理だよ!」

「じゃあ私だけでも!」

「そうなるよな。」

「はい、一人だけなら何とかって言いましたし。」

「アタシそんなこと言った!?」

「言いました!」

面白いなぁ。

一人で墓穴を掘ってどんどん深みにはまっていく。

人間テンパるとこんな風になるんだな。

明日は我が身、俺も気を付けるとしよう。

でも同じような冒険者がそんなにも多くいるのか。

先輩冒険者に同行して技術を習得するような流れはあまり確立されていないのかな?

となるとその辺も含めて今度ティナさんと意見交換したほうがいいかもしれない。

もしかるすとそれがそのままうちのダンジョンの役目になるかもしれないわけで。

って、ダンジョンがそれどころじゃなかったか。

ほんと困ったなぁ。

「うぅぅ、どうしよう私が誰かに教えるなんてそんなこと・・・。」

「まぁ諦めろって。」

「そうですよ、これが何かの糧になるかもしれませんし。」

「アンタ達もなんてそんな他人事なのよ!ちょっとは助けなさいよ、仲間でしょ!?」

「ほら、俺一人じゃ何もできない足手まといだから。」

「これもまた神の与えた試練なのです。」

「あーもう、またそんなこと言ってぇ。お願いだから力を貸してよぉぉぉ。」

仲間に見放された彼女が次に救いを求めるのは誰か。

無論、一人しかいない。

「そうだ!イナバ様助けてください!」

「私がですか?」

「あの罠を作ったんですからイナバ様なら絶対に罠が得意なはずです!」

「いや、得意と言いますが仕事と言いますか。」

「お願いします!明日来る後輩達の為に力を貸してください!」

参ったなぁ。

そうなるだろうなぁって気はしてたけどまさかこんな直球で来るとは。

でも、初心者用ダンジョンと銘打っているからには何もしないわけにもいかない。

何かいい案はないだろうか。

ちょっと考えてみよう。

「御主人様が思考体勢に入りました少しお待ちください。」

「あれだよな、なんだかんだ言いながらもイナバ様って力を貸してくれるんだよな。」

「冒険者に優しいお方ですから。」

「アンタみたいな薄情者とは違うのよ。」

「うるさいな、そもそもお前があの子に教えないのがいけないんだぞ。」

「だって大勢に教えるだなんて私そんな・・・。」

「別に私は先輩に教えてもらえればそれでいいんですけど・・・。」

「え?何か言った?」

「なんでもありません!」

何だろう人が真剣に考えている間に向こうでは非常に気になるやり取りをして居たようだけど・・・。

良く聞こえなかった。

残念だ。

「そうだ!」

「何か思いついたんですか!?」

「明日の定期便で大勢の方が来るんですよね?」

「そう言ってました。」

「ならその皆さんをつれてダンジョンに潜りましょう。」

「「「「え!?」」」」

え、何その反応。

三人組プラスワンはともかく後ろで話を聞いていたエミリア達までそんな反応しなくてもいいんじゃないかなぁ。

「やってくるのは初心者の初心者のような方々のようですし、そう言った方にダンジョンを知っていただくいい機会になると思うんです。」

「ですが御主人様今のダンジョンは・・・。」

「もちろんダンジョンの状況もわかっていますが、ですが足りない人手を確保できるのは願ってもない状況だと思いませんか?」

「確かに人手は確保できるが、初心者では無理があるのではないか?」

「別に彼らに私を護衛しろとは言っていません。シルビアとエミリア、それにこの三人がいてくれれば現在の階層まででしたら問題なく到達できると思います。さすがに一日では無理でしょうから一泊二日ぐらいを計画して、その時にダンジョン内での野営の仕方や安全な場所の見極め方などを教えようかと。物資の運搬はほら、バッチさんがいますから。」

「重たい荷物ならオラにお任せだ!」

「ダンジョンの罠は作動すればそこまでですし、魔物も倒せば増える心配もありません。下層に行ったとしても問題はないでしょう。」

ダンジョンとは何ぞや。

もし今の冒険者たちに新人を育てるという概念が無いのだとしたら、彼らがダンジョンの怖さを知るのは実戦でという事になる。

もちろんそれは悪い事ではないし、今後冒険者を続けていくのであれば知らなければならない事だと思う。

でも、その練習があってもいいじゃないだろうか。

「彼らは勉強する機会を得る、私達は下層への人手を得る。少数精鋭で行けばなんとかなるでしょうけど、これもまたいい機会だと思います。」

「ダンジョンを知ってもらうついでに未来の顧客を得ようというのですね。」

「さすがニケさん良くお分かりで。」

「御主人様のいう事は分かりますが、人手どころか足手まといが増える可能性もあるのではないでしょうか。」

「その可能性は否定できません。ですが、ダンジョンの怖さを身に染みて知れば命を失う前に考え直す人も出て来ると思うんです。未来ある冒険者の命を救うのもまたダンジョン商店の仕事だと思いませんか?それにいざとなったら10階層で脱出させる事も出来ますから・・・って、転送装置は作動していましたっけ?」

「作動していますが、念のため後で確認しておきましょう。」

「よろしくお願いします。」

まぁ、そこで半数以上が離脱したとしても仕方がない。

その時にどうするかを考えるとしよう。

「言うのは簡単だが本当に大丈夫なのか?15階層から先はお前の自信作なのだろう?」

「正直に言えばあとニ・三人中級冒険者が欲しい所ではありますが・・・。」

「それならば冒険者ギルドに行き適切な人間を雇えばよいではありませんか。御主人様の事ですからその企画とやらを説明しにギルドに行くつもりだったのではありませんか?」

「さすがユーリ、ばれてましたか。」

「どうして説明しに行くんですか?」

「ここに来ていきなりダンジョンに行くと言われても戸惑うでしょうから、希望者だけを募ろうと思うんです。やる気のある冒険者なら集まるでしょうし、そうでないのであれば辞退します。一応ダンジョンですからね、危険がある事はやはり周知するべきだと思います。」

「そうやって自分が何をしようとしているかを理解させるんですね。」

「まぁそういう事です。」

話をしていながら冒険者が離脱してしまうと人手が無くなってしまう矛盾に気が付いた。

当初の予定では短時間でダンジョンを攻略して速やかに修復しようという事だったが、この企画を思いつくと逆にそれがもったいなくなってしまった。

なので今の状況を有効に利用してみようとおもう。

でもそのためには護衛となるような中級冒険者が後に三人は欲しいわけで・・・。

昨日はサンサトローズに人手を探しに行く時間はない!なんて言っていたけど、結局いく事になっちゃったな。

時間は押しい。

でも、それ以上の見返りがあるのならばそれに乗っからない手はない。

中級以上の冒険者を増やしていかないのはわかっているけれど、やっぱり初心者も大切なんだよ。

なんせ彼らこそ未来の中級冒険者なんだから。

「結局こうなるのだな。」

「あはは、苦労をかけます。」

「なに今に始まった事じゃない。それに後進を育てるのも先達の役割、良いじゃないかうちらしくて。なぁエミリア。」

「はい。シュリアン商店はいつでも冒険者の味方ですから。」

「さっすがイナバ様!話はよくわからなかったけどこれで万事解決だな!」

「なんで今の説明でわからないのよ。」

「話が難しすぎるんだよ、俺みたいな馬鹿にわかりやすく教えてくれないと。」

「馬鹿って自覚はあったのね。」

「うるせぇ!」

三人組にも頑張ってもらわないといけないので好きにさせておこう。

なんせ三人が地獄と案じたあの場所へもう一度行かないといけないんだから。

もちろん最前線に立ってもらうつもりだ。

エミリアとシルビアはほら、俺の護衛っていう大仕事があるからね!

前衛は三人、これから雇う冒険者に初心者を守ってもらったら・・・ほら、完璧だ。

「それじゃあとりあえず明日の準備にとりかかりましょうか。」

「シュウイチは冒険者ギルドに行くとして、誰がついていく?」

「私は本日セレン様の補佐を仰せつかっておりますので。」

「私もお店を放ってはおけません。」

「となると私とエミリアという事になるが・・・。」

「ではシルビア様お願いします。」

「いいのか?」

「事情を説明しに行くだけですから。それに、初心者の方に来てもらうのでしたら何かお土産のようなものがあるといいかなって思うんです。」

お土産!

それは思いつかなかった。

なるほどいい考えだな。

「いいですね、参加費を取ればやる気のある冒険者を絞る事が出来ますしそれ見合うお土産であれば喜んでもらえると思います。例えば参加費を銅貨15枚にしてお土産は薬草や冒険用の備品を差し上げれば元は十分に取れますし、こちらもほとんど損が出ません。」

「シュリアン商店店主直々の講義となれば初心者以外の冒険者が集まりはしないか?」

「そこは初心者に限定して受けますよ。もし需要があるのならばそれはそれで次回につなげます。」

「転んでもただでは起きないか。」

「もちろんです、何せ私は商人ですから。」

「商人がダンジョンの案内をすること自体はおかしくないのかな?」

「ターニャ、気にしちゃダメな事もあるんだよ。だって相手はイナバ様だから。」

だってってなんだよだってって。

聞こえてますよお二人さん。

「こちらの準備はお任せして、シルビア行きましょうか。」

「ついでに武器屋によってもいいか?ティオ用の武具を揃えたいんだ。」

「ダンジョンにはまだ入れませんよ?」

「わかっているさ、だがいずれ入りたいと言い出すぞ。」

「その時は騎士団に推薦してあげてください。」

「ティオが騎士団か・・・、まぁそれだけの実力がつけばの話だ。」

「きっとつきますよ。」

「さぁどうだかな。」

とか言いながら自信満々な顔をしているシルビア様。

ですよねー、自慢の弟子ですもんね。

育たないわけがない。

俺だって、自慢の冒険者が戻ってきたんだ。

同じような冒険者を増やす為に頑張りますよ!

「では行ってきます!」

「「「「いってらっしゃい!」」」」

皆に見送られて一路向かうはお馴染みサンサトローズ。

はてさて無事に冒険者は集まるのだろうか。

ま、それも行ってみたらわかるか。
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