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第十三章

番外編~やってきました王都観光~

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王都にみんな来たんだし折角だから観光でもと思ってはいたものの、陰日という事をすっかりと忘れていた。

ユーリに指摘されて我に返りあまり期待しないでで迎えた翌朝、その期待はいい意味で裏切られる形となる。

「すごい人ですね。」

「陰日だというのにこの賑わい、さすが王都というべきか。」

「何処を見ても人だらけです。陰日は出かけないはずなのにここの人は気にされないのでしょうか。」

確かにニケさんの言う通りだ。

聖日ならともかく陰日でこんなにも人がいるとは思わなかった。

これなら観光も少しは楽しめそうかな。

「御主人様あそこに見える建物は何ですか?」

「あれは大聖堂ですね、教会の横にあって飾りガラスがとても綺麗なんですよ。」

「キラキラとしているのがそうなのですね、こんなに離れているにも関わらず見えるとは思いもしませんでした。」

「大聖堂か。一度見てみたいと思っていたのだ。」

「時間は沢山ありますから気になる所は色々と見て回りましょう。」

そう、時間はたっぷりとある。

今日は陰日初日。

本当であればすぐにでも商店に帰るべきなのだが、陰日は魔物の動きが活発になる為サンサトローズへ向かう馬車はおろかチャーターした馬車すら出てくれない。

なので別に今日一日で回る必要はなく三日全てを使って観光が出来るというわけだ。

幸い三日間のお宿は確保してあるしね。

大鳳亭。

名前からなんとなくサンサトローズの白鷺亭を思い浮かべたのだけど、やっぱり間違いではなかったようで支配人にその話をすると実のお兄さんだと言うではないか。

『弟から話は聞いております、どうぞここに滞在する間は自分の家だと思いおくつろぎください。』

と言われてから通された部屋は相変わらず全くくつろげるような部屋ではなかったけどね。

なんだよ、ワンフロア全てが一つの部屋って。

もちろんその中には全員に振り分けても余るぐらいの部屋が準備されていて、その部屋自体もいつもの実質の倍ぐらい広い。

これでくつろげって方が無理な話だ。

普通ならこんな部屋に泊まる事なんてできないんだけど、お代はすべてホンクリー家持ちなのでその点は安心だ。

「あ、シュウイチさん冒険者の皆さんが向こうの路地に入っていきますよ。」

「あれ?あそこを行くと市場なんですけど陰日なのに開いているんでしょうか。」

「行ってみましょう。」

エミリアに手を引かれて冒険者の消えていった路地へと足を進める。

細い路地は記憶の通り市場に繋がっていたのだけど、そこもまた陰日とは思えない状態だった。

「すごい!冒険者がこんなにたくさん!」

「陰日だというのに皆ここで商売をしているのか?」

「いえ、あれは商売ではないようです。」

普段は商人であふれかえっているはずの市場が冒険者で埋め尽くされている。

買い物するだけでなく販売する方も全て冒険者で、この前来た時よりも活気がすごい。

よくよく周りの会話を聞いてみるとただモノを売るというよりも色々と工夫をこなしているようだ。

「ダンジョンの奥で拾った火の魔法付の剣だ、誰かオリハルコンの剣と交換しないか?」

「ポーションが安いですよ~、薬草を六つ持って来てくれたら目の前で作りますよ~。」

「魔導具ありませんかー、格安で整備しますよー。」

「陰日明けにダンジョンに行く仲間を募集している!我こそはと思うものは名乗り出てくれ!」

とかなんとか、冒険者が思い思いの呼び込みをしているから活気があるようだ。

なるほどなぁ、陰日で使わない市場を逆に有効利用しているのか。

これは面白い。

そんな活気ある市場で一際人が集まっている場所があった。

「ここだけのとっておき、あのシュリアン商店のイナバさんが認めたとっておきのポーションだよ!作っているのは噂の美少女錬金術師!この印が何よりの証拠!さぁ買った買った!」

「うそだろ、あのポーションか!?」

「こっちに二つくれ!」

「俺は三つだ!」

なんだろう、よからぬ付加価値をつけられた商品が飛ぶように売れているのは気のせいだろうか。

「シュウイチあれはいいのか?」

「正しい方法で入手したのであればそれを咎める事は出来ないんですけど、なんと言いますか判断に悩むところです。」

「偽物ではないのでしょうか。」

「ちょっと確認してきますね。」

お店に群がる冒険者の間をニケさんがスルスルと縫うように抜けていき、あっという間に戻って来た。

「本物で間違いありませんね、刻印もシャルちゃんのものでした。」

「最近ポーションがよく売れるなと思っていたのはこのためだったんですね。」

「でも冒険者の為にとシャルちゃんは作ってくれているのに複雑な気分です。」

「だが間違いなく冒険者の手には渡っている、シュウイチがいいのであれば目をつむろうではないか。」

「まぁよからぬことに使わないのであればいいでしょう。」

そういうことにしておこう。

その後大勢の人でにぎわう市場を冷かしてから大通りへと戻る。

おなかのすき具合から察するにもうすぐお昼時だ。

「そろそろお昼ですね、混み合う前にどこかへ入りましょうか。」

「シュウイチお勧めの店はないのか?」

「お勧めしたいのはやまやまなのですが、ここにきてすぐに監禁外出禁止令を敷かれてしまいまして。」

せっかく王都まできたんだからここでしか味わえないとっておきのやつを!

って言いたいところなんだけど残念ながらグルメ雑誌のようなものもないので調べようがない。

元の世界であればささっとスマホで探すところなんだけど、くそ!こんな時にグ〇ナビがあれば!

「ご主人様あの店は何でしょうか。」

昼食に悩む俺とシルビアエミリアの三人を置いてユーリとニケさんがどんどんと先を進んでいたようだ。

何か見つけたみたいだな。

「これは・・・ハンバーガー?」

「お、兄ちゃんよく知ってるな!そうともこれは異世界で有名なハンバーガ、この世界ではバハンガーってやつだ。」

出たよ胃文化交流。

これで何度目の邂逅だろうか。

いつも王都で話題の!って触れ込みだったけどいよいよ異世界を前面に出してきたな。

さすが王都、異世界を隠すことすらしないぞ。

まぁこの世界の人にとって異世界は別に夢物語じゃないし、おかしな話じゃないか。

しかしどこにいるかも知らぬ胃文化料理人のネーミングセンスが壊滅的に悪いなのだけは分かった。

絶対文句言ってやる。

「面白い形ですね。」

「他のパンと一緒で食材を挟んでいますね、でも間にあるのはグバハーンでしょうか。」

「この形なら片手で簡単に食べられるしはさむ具材で味付けも変えられるな。遠征中の昼食にはいつも悩まされたがこれならば飽きずに食べられるというものだ。今度カムリにも教えてやらねば。」

「冒険者のお弁当にもいいですね、いつも同じものばかりになるので申し訳ないと思っていたんです。」

と、うちの女性陣が早速食いついている。

いや、まだ食べてないよ?

この形状にだよ?

「折角だからいただきましょうか。」

「毎度有り!」

「主人、陰日なのに営業して良いのか?」

と、シルビア様から冷静なツッコミが入る。

確かにそうだ、陰日は皆休業するから食料品なんかも買い込まないといけないって話だった。

にもかかわらず大通りでは休業している店はあれど開けている店もそれなりにある。

どうしてだろうか。

「そんなもん怖くて商売が出来るかってんだ、それに神様も俺達が飢える事は望んでもいないだろうよ。」

「まぁ確かにそうだが・・・。」

「もし何かあってもここなら何の心配はいらねぇ、王国騎士団も教会防衛隊も居るんだ魔物なんて一捻りさ。その分俺達はしっかり商売して税金を払えば何の問題も無いだろ?」

「ご主人はそれだけここを信頼しておられるのですね。」

「当たり前よ、レアード様に代わってからどれだけ暮らしがしやすくなったか。長生きして貰わないといけねぇなぁ。」

さすがレアード様、民のハートもガシッと掴んでおられる。

「はい、お待ちどう。」

「ありがとうございます。」

出来立てほかほかのハンバーガーことバハンガーは元の世界と同じく油紙のような物で包まれており其のままかぶりつくスタイルのようだ。

一口食べればジューシーな肉汁が口の中にあふれ出し、挟んでいるシャキシャキ野菜と相俟ってかなり美味しく仕上がっている。

元の世界でも絶対に流行るレベルだろこれ。

むちゃくちゃ美味しい。

やっぱり素材がいいからだろうか。

「そこのお兄ちゃんたち!バハンガー食べてんだったらのどが渇くだろ?うちのスッキリする果実水はどうだい?」

「それならうちのトポテの素揚げも一緒に食べなよ、絶対美味しいからさ!」

食べ歩きをするという事はすなわち今食べている物が何か周りにもばれるという事。

それを狙って他のお店からも続々声がかかる。

あっという間にバハンガーセットのできあがりってわけだ。

上手い事商売してるなぁまったく。

その後両手いっぱいに料理を持ちながら陰日でも営業しているお店のウィンドウショッピングとしゃれ込んだ。

そしてお腹がいっぱいになった所で本日のメインイベント。

みんなを連れて向かったのは陰日で人気の少なくなった工房街。

それでも大通りと同じく半分ぐらいのお店は営業を続けていた。

その中の一件、小さな龍が描かれた看板の店へと向かう。

「よかった、今日も営業されてましたね。」

「ここなのか?」

「はい、皆が絶対に行きたいといっていたあの工房です。」

「いよいよこれを作った職人さんに会えるんですね。」

女性陣の目が本日最高潮の輝きを見せている。

あ、あの買いに来たんじゃないですからね?

挨拶だけですからね?

なんて内心ビクビクしながら俺達は工房のドアを叩いた。

「失礼します、ジュジュさんとルーさんはおられますでしょうか。」

工房の中は静まり返っており、前のように作業をする音も聞こえてこない。

おかしいなぁ看板は出てるし明かりもついてたのに。

「あのー、すみませーん。」

「なんだい!陰日は何も売らないよ!」

と、前回同様カウンターの下からにゅっと生首が一本生えてきた。

ルーさんだ。

「ルーさん、先日は有難うございました。」

「なんだい!誰かと思ったら私達の命の恩人じゃないかい!それに後ろに居るのは・・・まぁまぁそろいも揃って美人ばっかり!やっぱり美人がつけるとうちの商品は絵になるねぇ。」

「はじめまして、妻のエミリアです。」

「シルビアだ。シュウイチが世話になったと聞いている、改めて礼を言わせてくれ有難う。」

「世話なんてむしろこっちが世話して貰ったようなもんさ、アンタ!イナバ様が来てくれたよ奥さんも一緒だ!」

体は小さいけど声はでかい。

でかいというか芯のあるよく通る声だ。

「なに!命の恩人が来たって!」

その声に反応するようにまた奥から賑やかな音が聞こえてきた。

また何かをぶちまけたらしい。

その音を聞いてルージュさんがヤレヤレといった顔をするのもいつもの事なのだろう。

「イナバか!良く来てくれたな!」

「先日はお忙しい中有難うございました。」

「なに、やっと命の恩人に会えたんだあれぐらいどうってことねぇよ。」

「アンタ、奥さん達も来てくれたのよ。」

「おぉ、揃いも揃って美人ばかりじゃねぇか!やっぱりうちの商品をつけたら何割り増しで美人になるってもんだ、なぁ!」

「えぇ、妻たちも喜んでいます。」

まぁ身に付けて無くても美人なのは変わりないけどね!

「そうだ!ちょうどいい、見てもらいたいもんがあるんだ。」

「アンタ出来たのかい?」

「おぅ、たった今出来上がったばっかりさ、待っててくれ!」

今挨拶に来たと思ったらすぐに工房へと引き返してしまったジュジュさん。

エミリア達を紹介することも出来なかったんだけど・・・ってもう戻ってきた。

「これだこれ!この前約束しただろ、美人の奥さん連れてきたらとっておきを作って待ってるって。つい昨日急に思いついて寝ないで作ってたんだよ。」

「お陰でそれに付き合ったアタシは寝不足だよ。でも、最近じゃ一番の出来さ、見てやっておくれ。」

そう言ってジュジュさんが取り出したのは小さな指輪。

いつも身に付けている奴よりも大分小さいみたいだけど、これ何処に付けるの?

「これは・・・小指用ですか?」

「一番大切な奴はもう薬指に付けているんだろ?なら小指なら邪魔にならないし、むしろ引き立ててくれるんじゃないかって思いついたのさ。」

「すごく可愛いです!」

「あぁ、この大きさなら剣を振るのに邪魔になる事も無い。」

お、早速好印象ですよ親方!

「イナバ様、薬指に意味があるのならば小指にも何か意味があるんでしょうか。」

「えぇっと・・・『幸せは右手の小指から入って左手の小指から逃げる』だったかと。」

「なんだいそれは?」

「私が元の世界に居たときの逸話です。イニシャルや左の薬指の逸話と同じですね。」

「つまりどっちにつけたら良いんだ?」

「未婚であれば幸せを逃がさないように左指に、既婚であれば右側に付けることで幸せを増幅できるそうです。」

確かそれであってるはず。

何でこんな事知ってるかって?

そりゃあ何度かは勉強する機会がありましたから。

もっとも、実現せずにこの年になったわけだけど、まぁこの世界で奥さん貰ったし逸話なんて関係なかったという事だ。

「そりゃ面白い!つまり恋人が居てもいなくてもこれさえ付ければ幸せになれるってわけだろ?」

「あくまでも逸話ですよ?」

「それでいいんだよ!やっぱりイナバ様は私達の命の恩人だね!」

「そんな大げさな。」

「美人が宣伝してくれればそれをつけた人が幸せになって、そうすれば俺達にも幸せが舞い込んでくるってわけか!そりゃあいい、是非貰ってくれ!」

「いいのか?」

「本当ですか!」

「あぁ、遠慮するな丁度四つあるんだ全部持ってけ!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

あーあ、また貰っちゃってまぁ・・・。

でも俺の財布は傷まないわけだし、つまり俺も幸せって事か?

ありがたやありがたや。

「あれ、でも陰日に商売しちゃいけないんじゃなかったでしたっけ。」

「商売?あぁ、陰日に商売はご法度だが商談は別さ。だから商売の神様も怒りゃしないよ。」

「この世界には商売の神様も居るんですね。」

「もちろん、商売の神様も工房の神様も居るさ。職人の間じゃ道具一つに神様が宿っているって奴も居るね。」

付喪神ってやつか。

異世界なのに同じような考え方になることもあるんだなぁ。

面白い。

いや、もしかしたら本当に神様になるかもしれない。

この世界の逸話が元の世界に逆輸入されている可能性だってあるわけだしな。

「今度ネムリに会ったら宜しく言っといておくれ、とっておきが出来上がったってね。」

「頼まれた品は予定通り納品するからよ、心配するなとも伝えてくれ。」

「わかりました、今日は突然お邪魔したのに素敵なものまでいただいて、妻達も喜んでいますありがとうございました。」

「もう帰るのか?」

「陰日が明けたら帰るつもりです。」

「そうか、またこっちにくる事があったらまた寄ってくれ。」

「もちろんです。」

親方と硬い握手を交わし(相変らず握力が強すぎて手が痛くなったけど)工房を出る。

「よかったですね、素敵な物を戴いて。」

「今更ですが、私達も戴いてよかったんでしょうか。」

「いいのではないか?四人にという事だったんだ、ニケ殿も家族みたいなものだからな。」

「その通りです。我々は左に、奥様方は右につけていただきましょう。」

「幸せが逃げないようにですね。」

「我々は幸せがより大きくなるようにというわけだな。」

親方さんからのサプライズプレゼントに皆嬉しそうだなぁ。

さて、時間はまだあるけどどうしよう。

他にも案内する所はあるけど、初日からあちこち行って疲れるのもアレだし・・・。

「ではそろそろ宿に戻りましょう。」

「え、戻るんですか?」

何故か真剣な顔をしてユーリが戻ると宣言した。

どうしたんだろう。

「私もそれがよろしいかと思います。」

「ニケさんまで、もう疲れました?」

「いえ、せっかく幸せを頂いたんです逃すのは勿体無いと思いませんか?」

「えっと、それはどういう。」

「シュウイチは相変らずだな。」

「本当ですね。」

それを見ていたシルビア様とエミリアまでやれやれといった感じで俺を見る。

え、疲れたんじゃないの?

「ご主人様、奥様方の幸せは何だと思いますか?」

「そりゃあまた皆とこうやって一緒になって・・・。」

「違います。」

ノータイムで否定されてしまった。

「じゃあ・・・。」

「それも違います。」

「いや、何も言ってませんけど。」

「そもそもすぐ答えが出てこないのがおかしいのです。何時までもそのような態度で居てもらってはニケ様も私も困ります。」

「二人が困るんですか?」

「我々も早く左手から右手にこの指輪を移させていただきたいのですが。」

あーーーーー!

そういうことね!

まだ夕方にもなってないから全然気付かなかったよ!

なんて言い訳はダメでしょうか。

いや、気付いてはいたんですけどさすがに人の目もありますし・・・。

はい、申し訳ありません。

チキンでごめんなさい。

エミリアとシルビアにそんな顔をされたら何も言えないじゃないか。

俺が覚悟を決めるっていったんだもんな。

「じゃあ戻りましょうか。」

そうと決まればする事は一つ。

え、色気が無い?

もう良いんです。

そういうのはそういう雰囲気になってからで良いんです。

こんな事言うから女性にもてないんだろうけど、けどほら、もう奥さん居るし。

真っ赤な顔をするエミリアとやるき満々のシルビア様。

対照的な二人の手をギュッと握って大鳳亭へと向っていく。

いよいよだ。

童貞じゃないとはいえかなり久々なんで何故か緊張してしまう。

ちゃんとできるんだろうか。

「シュウイチそんな情けない顔をするな。」

「え、そんな顔してます?」

「お前は堂々としていれば良い、何があっても私達がお前を嫌うことなど無い。」

「あ、はい・・・。」

大きく深呼吸。

吸って~吐いて~吸って~吐いて~。

はい、オッケー。

「部屋に着いたらまずは食事です。」

「え?」

「なにか?」

「あ、いえ何でもありません。」

あ、そうなの?

てっきりすぐにするものだと・・・。

そうですよね、ムードが大切ですよね。

大変失礼しました。

「御飯を食べないと頑張れませんからね。」

そっちかーい。

ってニケさんが言うと生々しく聞こえてしまうのは気のせいでしょうか。

さすがベテラン、発言に説得力があります。

それを聞いていたエミリアの耳はますます真っ赤になり、シルビア様もなんだか気恥ずかしそうにしている。

俺はというと二人のおかげで気分が少し楽になった。

だって俺は二人を愛しているんだから、その気持ちを表すのは当然の事だ。

何で今までしなかったんだろうと思うと、きっと恥ずかしかったんだろうな。

いつも頼りっぱなしなんだし、こんな時ぐらいしっかりしないと。

そして宿に戻り皆で楽しく食事を摂る。

相変らずニケさんとユーリの二人はちゃかしてくるけれど、二人なりのエールと思っておこう。

そして日が暮れ、みんなで順番にお風呂に入る。

「それでは私達は夜の大通りを満喫してきます。」

「え、大丈夫ですか?」

「問題ありません。安全なお店を支配人に教えていただきました。」

「せっかくの王都ですから遊んできますね。」

有無を言わせず二人が部屋から出て行ってしまった。

まったく、そんな気遣いされたらいよいよって感じになっちゃうじゃないか。

「行ってしまったな。」

「ですね。」

「まぁ夜中までには戻ってくるだろう。」

「だといいんですけど。」

心なしかシルビアの声も上ずっている。

エミリアはというと・・・。

あれ、てっきり恥ずかしがっているのとばかり思っていたけれど真剣な顔で俺を見つめていた。

「シュウイチさん。」

「えーっと、そのですね。」

まさかの展開にさっきまでの心の余裕がどこかにいってしまった。

くそ、まけるな俺!

こんな時ぐらい男見せろよ!

「私は後でも構わんぞ。」

「ダメですよシルビア様、二人一緒って約束したじゃないですか。」

「え、そうなんですか?」

「二人一緒に結婚したのだからその時も二人一緒だといって聞かんのだ。」

「だって一人残されたらどうしたら良いか分からないじゃないですか。その、中で二人は・・・ているわけですし。」

恥ずかしくなってきたのかエミリアの声がドンドンと小さくなっていく。

そりゃそうか、よく考えれば二人とも初めてなんだっけ。

そんな二人におれがオドオドしててどうするよ。

「二人とも聞いてください。」

そんな二人の手を握るとハッとした顔で俺を見つめてくる。

「この世界に来てもうすぐ一年です。本当に色々な事がありました。最近は大変な事ばかりで、二人には迷惑や心配ばかりかけています。之に関しては謝ることしかできません。」

「シュウイチが謝る事ではない。どれも不可抗力だ。」

「でも、その度に二人は傍に居てくれて離れていても私に力をくれました。こんな言い方するとアレですけど、二人無しの生活はもう考えられないんです。ここまで来れたのは二人のおかげです、本当にありがとうございます。」

「私も、こんなにも変われたのはシュウイチさんのおかげです。」

「私に新しい世界を教えてくれたのはお前だ、感謝している。」

あぁ、こんな時でも二人は真っ直ぐに俺の気持ちに応えてくれる。

信頼してくれている。

本当に良い奥さん貰ったなぁ。

「今日はきっと、これからも続く日々のほんの一瞬なのかもしれません。でも、きっと忘れられないと思います。二人と結婚できて本当に良かった。」

真っ直ぐに二人を見つめる。

返事は無かった。

でも、目で応えてくれた。

「だから、二人をください。」

返事をするように二人がそっと目を閉じる。

俺は二人の唇にそっと唇を重ね、握っていた手をもう一度強く握った。

離さない。

その気持ちは目を見ていなくても伝わったはずだ。

その日。

三十二年の人生の中で生まれて初めて、朝が来なければ良いのにと真剣に願った。

ここが終わりでもここが始まりでもない。

ここはまだ夢の途中。

「これからもよろしく。」

両サイドで眠る二人の寝顔を見つめていると、気付けば俺も幸せな夢の中へと落ちていった。
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