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第十三章

あなたは神を信じますか?

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教会までは特に追われたり狙われたりする事無く無事に到着した。

道中メルクリア女史の機嫌がひたすら悪かった事の方が神経を使ったけど、それはまあぁ致し方ない。

それで俺の命が危険になることはないしね。

「なるほどいつもと違ったのはそう言う事情でしたか。」

「お恥ずかし限りですわ、我が妹ながら何度言っても改善が見られないんです。」

「フィフティーヌ様のような姉がいると安心してしまうものですよ。」

「そういうものでしょうか。」

俺にはその辺はよくわからないがラナス様がそう言うのであればそうなのだろう。

とまぁ、その話は置いといてっと。

「ヤーナ様はいかがですか?」

「今は奥のお部屋で休まれています。」

「そうですか。後はジュニアさんがどうなるかにかかっているんですよね・・・。」

「そしてそれを確認しに私がまた行くのよね、まったくこの私を足に使うなんていい度胸じゃない。」

「メルクリアさんにしかできない事ですのでどうかよろしくお願いします。」

「三つも祝福があるなのならそれぐらいできるでしょ普通。」

「それが全くでして。」

ほんとなんでだろうねぇ。

しかもその精霊は話しかけても反応しないと来たもんだ。

何か事情があるんだろうけどこまったものです。

「とりあえず時間をおいて見に行ってくるわ、また明日の朝報告に来るからそれでいいわね。」

「大丈夫です。」

「明日、アベル様はどう出るでしょうか。」

「今回の件を追及してくるのではないですか?」

「家に盗人が来て貴方を攫って行ったって言うの?」

「まぁ、そうとしか言えないでしょう。」

「そんなの証拠がない以上笑い話で終わってしまうわ。私の予想では理由をつけて呼び出しに応じないと踏んでいるんだけどどうかしら。」

「無い話ではありませんが、アベル様の事ですから逃げずに行くんじゃないですか。」

状況が悪いとしても現状では法律が優先されることになっている。

俺に逃走した罪なんかを増やして匿ったらお前たちも同罪だぞ!

とか何とか言うんじゃないかなぁ。

逃げるような人ではないと思う。

「ではそれを確認しにイナバ様も来られますか?」

「え?」

「城に行き現場を確かめられてはどうでしょう。」

「いや、でもそれでは匿ってもらっている意味がないのでは・・・。」

「もちろん表には出ません。ですが話で聞くよりも直接ご覧になられた方がよろしいかと思いまして。」

なるほど、確かにそれは魅力的な提案だ。

現場でどのようなやり取りが行われているかはこれまで人づてでしか聞いた事なかったから、一度どういう感じなのか見ておきたい。

それに今回は俺がいなくなって窮地に立っている状況だ。

アベルさんがどんなふうに出るかでジュニアさんへの対応が変わる可能性だってある。

あまりの劣勢にキレて処刑だなんてことになったら目も当てられない。

ないとは思うけど、絶対ないとは言い切れないからね。

「どうするの?」

「そういう事でしたらぜひ拝見させていただこうと思います。」

「そう言うと思っておりまして手筈は整えてあります。」

「手が早いですわね。」

「イナバ様でしたらそうされるかと思いまして。」

あのラナス様、俺をどういう人間だと思っているんでしょうか。

流石に買いかぶりすぎだと思うんですが。

「いつも思うんだけど、貴方って本当に人に好かれるのが上手ね。」

「別にそんな気があるわけではないのですが。」

「わかっているわよ貴方にその気はないって。でも現実はそうじゃないでしょ?これまでお世話になった人の事良く考えてみなさいよ。」

「それを言われると恵まれているとは思います。」

「私なんかは家の名前でそれなりに顔が利くけれど貴方はそうじゃないでしょ?ほんと恵まれ過ぎよ。」

「ありがたい話です。」

「多くの人がイナバ様の為に動いておられるのが何よりの証拠、神もきっと手を貸してくださいますわ。」

どうだろう。

俺の知ってる神様は公平な人だからなぁ。

「とりあえず今日は出歩かず大人しくしておくことね、明日朝迎えに来るわ。」

「ジュニアさんの件よろしくお願いします。」

「わかってるわよ。」

「それではイナバ様お部屋に案内しましょう、あまり上等な部屋ではありませんがお許しください。」

「置いていただけるだけありがたい話です、よろしくお願いします。」

その後教会に逃げ込んだはずなのにかなりの歓迎を受けることとなり、久々にゆっくりとした気持ちで眠りについたのだった。

そして迎えた翌朝。

朝早く部屋にやって来たラナス様の誘いで大聖堂へと向かっていた。

まだ薄暗い廊下をランタンの明かりを頼りに進んでいく。

夜明け前とか夜のお寺とかって怖いイメージだけど教会はそうでもないな。

何でだろう。

先入観の問題だろうか。

それともここが死と直接結びついていないからかな。

お寺だと裏にお墓があるし・・・ってそれは教会も一緒か。

偶々この近くにないだけだもんな。

「眠たくありませんか?」

「おかげ様でよく眠れました。」

「今日は城に行くというのに流石ですね。」

「この街に来て一番心落ち着けたからだと思いますよ。」

「それを聞き神も喜んでおられることでしょう。」

いや、別に神様のおかげってわけじゃなくてですね。

監禁されているわけでもないし、かといって未来が見通せないわけでもない。

何とかなるという安心感がそうさせただけだと思うんだけど・・・。

今週末になれば俺は自由になれる。

何もしなくてもそれは保証されたも同然だ。

そりゃあ安心して眠れるよ。

でもここで否定するのはよくないよな。

そういう事にしておこう。

早朝の為か誰にも会わないままたどり着いた大聖堂の中は沢山の蝋燭で照らされていて、思わず声が出てしまった。

「すごい。」

「まだ人々が寝静まっているこの時間がが一番美しいと私は思っています。」

「それは私も思います。昼に見るのとは何て言いますか空気が違う。」

「イナバ様もそう思われますか。」

「なんとなくですけど。」

さっきまでは神様なんてって思っていたけれど、今この瞬間ならここに神様がいると言われても信じてしまいそうだ。

「信じていただけないかもしれませんが教会に仕えるほんの少し前、私はここで神に出会いました。」

蝋燭の光に照らされた大聖堂を見上げながら誰に言うでもなくラナス様が話を始める。

「まだ若く神なんて信じていなかった頃の私にその方はこう仰いました、『救いなど求めるな、ここにお前の求めるものはない。』と。ひどいと思いませんか?いくら信じていないとはいえ悩み多き年頃の乙女に助言の一つも与えないんですよ?」

それが本当に神様なのであれば迷っていることなどお見通しだろう。

迷える人間として助言の一つでもくれればいいのにと思うのは自然の事なのかもしれない。

「でもそれを聞いて私は気づいたんです『私は誰かに道を教えて欲しくて、そんな弱い気持ちがこんな不思議な物を見せているんだって。』」

「ではその人は神様ではなかった?」

「いえ、本物でした。そんな私の心を読んでか『信じる信じないは自分で決めなさい、それは全ての事に言えることだ。』とも仰いました。その言葉を聞き、私は決心したのです。」

「何にですか?」

「その時の私はある方に求婚されていました。その方には自分の夢がありましたが私と結婚すればその道が絶たれるとわかって求婚してくださっていたのです。ですが大切な人の未来が自分のせいで無くなってしまう、その重みに私は耐えられませんでした。そんな私に神の声は深く突き刺さり、その人との別れを決心したのです。」

神の声を聴いたから別れましょう。

そう言われた相手がどんな反応をしたのか、想像するまでもないな。

「そしてその後私は教会の門をたたきました。」

「ここに求める物はないと言われたのにどうしてですか?」

「確かに私の求めるものはないかもしれません、でもそれを決めるのも私自身なんです。あの日授かった言葉を迷える人に伝える事が私の仕事なのだと悟り今こうしてここにおります。」

「救いを求める人に救いを求めるなというのが仕事なのですか?」

「その通りです。そしてこうも伝えるのです、『救いを与えることはできない、ですが支えることはできる』と。神は迷える者の側に寄り添い必ず力を貸してくださいますから。」

「自分で道を決める手助けをするためにここにいられるのですね。」

「まだまだ未熟者ではありますが少しでもお力になれればと常に思っています。」

なるほどなぁ。

でもどうしてそれを俺に言うんだろうか。

もしかしてそう見えたのかもしれない。

だからこんな話をしにここに連れて来てくれたのだろう。

でも、俺は迷っているのか?

一体何に?

迷う事なんてそもそもないと思うんだけど。

「イナバ様は神を信じておられますか?」

「信じるかと聞かれると難しいですね。実際にお会いしたことはあるので信じてはいますが神頼みはしません。」

「イナバ様もお会いしておられるのですね。」

「私がお会いしたのは公平の神様ですから、ラナス様のお会いした神様とは違うかもしれませんね。」

「公平の神様、ですか。」

「私の元の世界では八百万、存在する物全てに神が宿っているとされていますので、その一人とお会いしたと私は解釈しています。」

「それだけたくさんの神がおられれば人々は幸せでしょうね。」

「それはどうでしょう、結局は信じか信じないかは自分次第ですから。」

某テレビ番組のセリフを思い出してしまった。

どれだけ神様がいても不幸な人は不幸だし、幸せな人は幸せだ。

でもその通りだよな。

信じるか否かは自分次第、自分の道を決めるのも自分次第。

どの道を選んだって間違いではないのだろう。

あぁ、なるほど。

そういうことか。

「失礼いたしました、こんなお話をしなくてもイナバ様は迷っておられなかったようですね。」

「いいえ、気づかないだけで今の今まで迷っていたのだと思います。ですがこのお話を聞きその事に気付くことができましたありがとうございます。」

「どうか神のご加護がありますように。」

「精霊様に続き神様の加護まで頂いてしまったらどうなってしまうのでしょうか。」

「どうもなりません、イナバ様はずっとイナバ様のままですよ。」

俺は俺のままか。

そうだよな、何をどうしたところで俺が別人になることはないんだから。

チート技が使えるようになるわけでも、ヘタレでなくなるわけでもない。

もちろん他力本願が直るわけでもない。

きっと俺は何もしなくても助かるかもしれないと思って無意識のうちに安心したんだろう。

でも、そうしたらあの二人とした約束を守る事が出来ない。

気付かないうちに自分の保身と約束を天秤にかけていたんだと思う。

それを心のどこかで思い悩んでいてそれが表情に出ていた。

そんな俺をラナス様がみて悩んでいると思いここに連れてきてくれたんだな。

もしかしたら昨日食事をしていた時からそうだったのかもしれない。

「でも、迷える人を救うのにどうして教会防衛隊に?」

「戦場にこそ迷いが溢れておりますから、その地に救いをもたらす為に私が赴くのは当然の事です。」

迷える者を救うためにメイスを手に戦場を駆け巡る。

さすがラナス様、御見それしました。


昨日以上に穏やかな気持ちで朝食を摂り、ラナス様と共に城へと向かう。

途中メルクリア女史がやって来たが話だけするとまたすぐにどこかへ行ってしまった。

何かあったんだろうか。

とりあえずジュニアさんの方は特に問題はないようで、アベルさんは一人で城に向かているらしい。

それもそうか昨日の今日でジュニアさんを連れていく事はしないだろう。

食事会にも一人で行ったらしいし、はてさてそこでどんなやり取りが行われたのやら。

「城につきましたら私は表門から登城致しますのでイナバ様は馬車に乗ったまま裏口へ向かってください。到着しましたら別の者が裏から中へ入れてくださいます、良く知った方ですから安心してください。」

「わかりました。」

はて良く知った人が王城にいただろうか。

まさか国王陛下が?

いや、さすがにそれはないだろう。

じゃあいったい誰が?

「到着後はイナバ様の好きなようにしてくださって結構です。と、この助言ももう不要でしたね。」

「お気持ちはありがたく頂戴いたします。」

「例えどんなことが起きても私達がその決断を咎める事はありません。」

「いえいえ、今日は様子見の約束ですから出しゃばった真似はしませんよ。」

「よろしいのですよ?」

「時には静かに状況を見極めることも大切です。」

「イナバ様の言葉には口ばかりの司祭よりも重みがありますね。」

流石にそれは言い過ぎじゃないだろうか。

仮にも人々に説法をする司祭様だ、口では負けないつもりでもやはり本職には敵わないと思うんだけど。

それともあれか?

それぐらいに教会の汚職が広がっているという事だろうか。

今回の件で戻って来てくれたのとばかり思っていたけれど、もしかしたらそっちの件で呼び戻されてたりして。

馬車はゆっくりと坂を上り気づけば王城の前まで来ていた。

大きい。

遠くから見てもわかっていたがこれほどまでに大きいとは。

あまりにも間抜けな顔をしていたのかそんな俺を見てラナス様が笑っている。

それもそのはず気づけば身を乗り出して窓にへばりついていた。

「すみませんは年甲斐もなくはしゃぎすぎました。」

「王城は初めてでしたね。」

「ププト様の屋敷でも大きいと思いましたがこれほどまでに大きいとは思いませんでした。」

「外は大きくても中はそれほどでもありませんよ。」

「そうなんですか?」

そうは見えないけどなぁ。

あれか?

外見だけで中の官僚は腐っているとかそう言うのか?

なんだかラナス様が意味深な事を言うと全部そっち関係のように思えてしまう。

もちろんそんな人もいるだろうけど全員がそうでないことを祈りたい。

平和な世とはいえ世の中そこまで腐っていないはずだ。

「さぁ到着です、ではイナバ様のちほど。」

「お気をつけて。」

正門をくぐり正面玄関へと続く階段の前で停車すると、兵士がすぐに馬車へと駆け寄りドアを開けてラナス様を出迎えた。

他の兵士が一瞬俺を見て不思議そうな顔をしたが降りないのを確認すると扉を閉めて何事もなかったかのように持ち場へ戻る。

あ、それでいいんだ。

後はラナス様の話通り馬車は城の裏手へと再び動き出した。

正門がだめなら裏門っていうのはゲームではよくある話だ。

そしてそこに内通者がいるというのもまたよくある話。

別に暗殺とかするわけじゃないから裏門じゃなくてもいいんだけど、招かれざる客というのもまた事実だ。

そう考えるとなんだかゲームの主人公になったみたいだな。

今までやってきたことは全然主人公っぽくないけど、それはそれだ。

大抵のやつは人の家から物を盗むけど俺はそんなことしないしね。

そう考えると奴らって盗人を許さない癖に自分は盗人と同じことしてるんだもんな。

ひどい奴らだ。

遥か前に人の家から道具を盗まないって縛りでゲームやったことあるけど、案外何とかなるんだよ。

問題があるとすればキーアイテムが取得できないことぐらい。

あれは致し方なく取ったんだったっけか。

もし自分がゲームを作る様になったら犯罪前提で進むような作りにはしないって決めたんだよな。

なんて考えていたら馬車は裏門へと到着したようだ。

後は誰かが来てくれるはずなんだけど。

そのまま待つこと少し。

馬車のドアがコンコンと小さくノックされた。

お、来たようだ。

身支度を整えて恐る恐るドアを開ける。

すると、そこには思いもしない人物が俺を待っていてくれた。

「お待ちしておりましたイナバ様。」

「貴女は・・・!」

城へと入るために招かれた裏門で俺を迎えてくれたのは、何時の日か命を救ったお姫様。

レティシャ第三王女その人が俺を出迎えてくれた。

あ、俺主人公だわ。
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