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第十二章

番外編その2~暮れる年、迎える年~

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 この世界には年越しという概念はない。

 今は冬の節。

 休息日が終わればまた新しい期が始まるだけだ。

 聞いた話では春の節になると簡単なお祭りのようなものをするとのことだが、それも冬の終わりを祝うだけの話だ。

 通史での区切りという物は余り気にしていないらしい。

 一応現国王の治世〇〇年という感じで記録は残されているけれど、それも事務的なもののようだ。

 もったいない。

 非常にもったいない。

 やはりここは俺が音頭を取ってしっかりとお祝いするべきだ。

 一年の締めくくりと始まりは大切に。

 お祭り好きの血が騒ぐってもんです。

「年越し、ですか?」

「無事一年を過ごせましたっていう元の世界の祝いなんですけど、ちょうど休息日の開ける頃がその時期なんです。」

「面白い、そんな文化があるのか。」

「一年の無事と来年の幸せを願ってみんなでご飯を食べる、まぁ要は騒ぎたいだけなんですよ。」

「いいんじゃないか?シュウイチがこの世界に来てこれまで色々あったんだ、これまでを思い返しこれからの未来を願う事は決して悪い事ではない。」

「私も賛成です。この先御主人様が無茶をしないようしっかりと釘を刺すべきだと思います。」

 えっと、ユーリさんそれはお祝いじゃないんじゃないかな。

「イナバ様、その日は何か特別な事をするんですか?」

「そうですねぇ年越しそばを食べたり初詣に行ったりしますけど、残念ながらこっちにはないモノばかりです。」

 お蕎麦はともかく初詣に行く場所がない。

 一年の抱負を神様に聞いてもらうイベントだけど、この世界には本物の神様がいるんだよな。

 それこそ精霊だっている。

 彼らに聞いてもらうのか?

 今思えば神様も急にあれやこれやとお願いされて大変だな。

「確かお蕎麦というのは細くて長い食べ物でしたね。」

「えぇ、ソーラーメンみたいなやつです。」

「ではそれではだめなのか?」

「いや、だめっていうか・・・。」

「何か曰くがあるのでしょうか。」

「次の一年も細く長く生きられますようにという願掛けだったと思います。」

「では別に細くて長いもだったら何でもいいのではないか?」

 ん?

 確かにシルビア様の言う通りだ。

 別に細くて長ければ蕎麦である必要はない。

 寧ろ最近じゃ年越しうどんとかラーメンとかでてるんだからソーラーメンでも構わないよな?

 うどんは太いようなきもするけど、きしめんだったらいいんだろうか。

 あ、あれは平らなだけか。

「・・・それでいいような気もしてきました。」

「では初詣とは何でしょうか。」

「神様に一年の感謝と来年の抱負を言いに行くんです。」

「教会ではだめなのですか?」

「残念ながら村に教会はありません。」

「精霊様ではどうでしょう。」

「いや、どうでしょうと言われましても。」

 それに関しては俺にはわからない。

 一年の抱負を言うだけだから別に神様じゃないとダメってわけじゃないんだけど・・・。

 時間がある時に聞いてみよう。

「何やらいろいろ決まりごとがあるようですね。」

「本来は色々あるんでしょうけど、ここは元の世界じゃありませんし別にこだわる必要は無い様な気がしてきました。」

「そこはこだわるべきじゃないのか?」

「こだわって楽しめないんじゃ意味がありません、言ったじゃないですか要は騒ぎたいだけなんですよ。」

 温かな春や熱気のある夏、豊穣の秋などに比べるとどうしても冬という季節はさみしくなってしまう。

 祝うべき内容もなく、ただ寒い時間が過ぎるのを待つだけ。

 そんな季節だからこそ何かしら理由をつけて楽しみたいのかもしれないな。

「せっかくですからどんなことをするか書き出してみましょうか。」

「異世界のお祭りなんてワクワクします!」

「えーっと、まずは年の瀬に向けて大掃除をしてそれからおせちを作って、どんちゃん騒ぎをした後は〆に年越しそばを食べる。年が明けたらみんなで挨拶をして、おせちを食べたら初詣に行くっと、こんな感じですね。」

「大掃除ですか、そういえば最近隅々まで掃除できなくて気になっていたんです。」

「セレンさんに掃除をお願いするのが申し訳なくて、確かにちょっとさぼっていたかもしれません。」

 大掃除かぁ。

 ワイワイやる分にはいいんだけどちょっと苦手なんだよな。

 一度気になるととことんまでやりたくなるから、結局一か所しか綺麗にならないんだ。

 困ったものです。

「このおせちとは何でしょうか。」

「確か四角い箱に入った食べ物だったと思います。」

「エミリアよく知ってますね。」

「シュウイチさんの世界に行った時に見た覚えがあるんです。とてもきれいな箱の中にたくさんの美味しそうな食べ物がこれでもかと詰められていました。」

「なぜ箱に詰めるんだ?わざわざそんな所に入れなくても大皿に盛ればいいではないか。」

「元々は年明けをお祝いするための料理だったんですが、だんだんと年明けに料理をしなくてもいいようにたくさん詰めるようになったと聞いた事があります。箱に詰めれば重ねる事も出来ますし、持ち運びも簡単ですからね。」

「たしかに作り置き出来れば色々と考える事が減りますね。」

 セレンさんも納得したように頷いている。

 問題はおせちばかり食べてると二日ぐらいで飽きて来るってことだ。

 まぁ休息日が明けたらすぐ仕事だし雰囲気だけでも味わえたらいいかな。

「おせちとやらも大切だが、夜の宴会に向けてそれなりの料理や酒を準備したほうがいいな。」

「それなりに用意していますけど・・・せっかくならその時しか食べられない物なんかがあると良いですね。」

「それとソーラーメンもな。」

 あ、お蕎麦の代用はあれで確定ですか。

 いやいいんですけどそうなるとここで全部賄う事は出来なくてですね。

 となると、やっぱり買い出しに行かなきゃだめだよなぁ。

「では買い出し班と料理班に分かれて準備しましょう。」

「御主人様、掃除はどうなさるのですか?」

「まだ日はありますし今日はそっちに時間を割こうと思います。もちろん日帰りですよ。」

「当然だな。仕込みを考えれば今日と明日しか使える時間はない。」

 今日は休息日初日。

 最終日が大晦日なので準備期間は今日と明日の二日間だけだ。

 その間に買い物をして掃除をして料理を作って・・・。

「今回の休息日も忙しくなりますね。」

「相変わらずやらなきゃならないことだらけですよ。」

「それで全部で何人呼ぶんだ?それがわからんことには買い出しにも行けないぞ。」

「私達五人とウェリスの所が四人、それにあの三人とバッチさんとメッシュさんも呼んだとしたら・・・。」

「現在14名ですね。」

 そんなにいるのか!

 こりゃちょっとやそっとの量じゃ足りないぞ。

 備蓄なんて出したところですぐに底をついてしまう事だろう。

「14人分の料理ですか・・・私やる気が出てきました!」

「美味しいご飯期待していますねセレンさん。」

「任せてください!お腹の子も楽しみにしていると思います。」

「では急ぎ15人分の食材だな、ついでに先日の件を直接報告しに行きたいのだが構わないか?」

「いいですよ、その間に色々と買い付けておきます。」

「すまんがよろしく頼む。」

 同行するのはシルビア様で確定か。

 となるともう一人ご一緒できるんだけどあと一人はだれかな?

「エミリア様こっちの事は任せてご一緒されたらどうですか?」

「そうですよ、せっかくの夫婦水入らずなんですから。」

「でも・・・。」

「いいではないか、店が開いているのなら難しいが今日は休息日だ。それとも私達が一緒では不満か?」

「そんなことありません!」

「じゃあ決まりだ。すぐに準備をしてくるがエミリアは・・・そのままでいいな。」

 女性は準備に時間がかかるというけれど、彼女は別格だ。

 準備させたが最後どんなに急いでいても準備に余念がなく、すごい荷物を準備してくる。

 用心深いのは良い事だけど、そろそろ慣れてくれないかなぁ。

「掃除は明日するので今日はゆっくりしてください。」

「畏まりました。」

「お料理の準備をして待ってますね。」

「行ってらっしゃいませ。」

 三人に見送られて急ぎ向かうはサンサトローズ。

 その後無事に買い物を済ませ夜遅くには帰還できた。

 ついつい余計なものまで買ってしまったけれどそれはほら必要経費という事で。

 この世界で初めての年越し。

 これを楽しまない手はないよね。

 え、せっかく夫婦水入らずだったのに何してたんだって?

 それはですねぇ、企業秘密ですのでよろしくお願いします。


 そして次の日。

 大量の食材を下処理しながら女性陣がてきぱきと料理を作り箱に詰めていく。

 詰められているのはお馴染みの料理から見たことのない奴まで様々だ。

 本当は入れるものにもちゃんと意味があったと思うんだけど、残念ながらその辺りの知識に関しては素人同然。

 とりあえず全部埋まれば何の問題もない。

 楽しく作って美味しく食べられればそれで十分だ。

「さて、残された私達は掃除を終わらせてしまいましょうか。」

「おい、なんで俺まで手伝わされてるんだ?」

「働かざるも者喰うべからずですよ。」

「食べるのは明日のはずだろ?」

「奥さんだけ働いて旦那がサボってるとか恥ずかしくないんですか?」

「その言い方は卑怯だろ。」

 ブツブツ文句を言いながらも手伝ってくれるのがウェリスという男だ。

 ほんと、頼りになります。

 俺も奥さんにばかり任せてないでちゃんと手を動かさないと。

 普段手を出さないような隅っこや高い部分を入念に点検清掃していく。

 店が営業を開始して半年ちょっと。

 たったそれだけなのに随分と汚れたもんだなぁ。

 この汚れもしっかりと取って、来年を気持ちよく迎えないと。

「なぁ、本当に戻って来るのか?」

「何がですか?」

「あいつ等だよ。」

「あぁ、あの三人ですか。」

「それなりの腕があるとはいえまだまだ初心者なんだろ?大丈夫なのか?」

「大丈夫です。」

「随分信頼しているんだな。」

「それだけの実力はありますよ。」

 あの三人は絶対に帰って来る。

 根拠になるようなものは何もないけれど、そうなるってわかる。

 今頃10階層で激しく戦っている頃じゃないだろうか。

 心配だけど心配じゃない。

 そんな不思議な感覚が俺の中にずっとある。

「なら少なくとも明日には帰って来るか。」

「もしかしたら今日かもしれませんよ?」

「そりゃ流石に早すぎるだろ。」

 彼らがダンジョンに潜って今日で二日目。

 予定通りいけば今頃10階層を進んでいる頃だろう。

 俺にできるのは応援だけだ。

 ダンジョンマスターとはいえ知人に甘い顔はできない。

 あの三人ならきっと、やりきるだろう。

「じゃあ賭けますか?」

「面白い、何を賭ける?」

「今日中に戻ってくる方にとっておきのお酒を。」

「なら俺は明日中にセレンが作ったとっておきをだ。」

「自分のやつじゃないんですか?」

「バカ野郎、奴隷に何期待してんだよ。」

 そりゃそうか。

 俺だって店のお金で買ったやつだからおあいこだ。

「御主人様楽しそうですが如何しました?」

「別に何もないですよ?」

「じゃあ俺は外の掃除でもしてくるか、おたくの主人が働けとうるさいんでね。」

「そうですか。セレン様からの伝言です、『無理はするな』だそうですのでよろしくお願い致します。」

「はいよ、無理するな、ね。」

 相変らずラブラブな二人だ。

 そういえばさっきさりげなくセレンさんのこと呼び捨てにしてたな。

 見せつけてくれるじゃないか。

「御主人様も奥様方の事を呼び捨てにされていますが?」

「それはそれこれはこれです。」

「はぁ、よくわかりません。」

 何とも言えない表情で首をかしげるユーリ。

 考えるな感じるんだ。

 ちなみに俺達の賭けがどうなったかはもうご存知だろう。

 セレンさんのとっておきか、楽しみだなぁ。


 とか何とか考えながら迎えた休息日最終日。

 俗に言う大晦日というやつだ。

 残念ながら紅白も笑ってはいけないのもゆく年くる年的な物も何一つ見る事はできないけれど、今思えば大みそかも働いていたので見れたためしがないっていうね。

 過去に何度職場で年を越した事か・・・。

 今思えば年越しが楽しかったのって若かった時だけなんだなぁ。

 宿の机を全部くっつけてその上にたくさんの料理を並べていく。

 今日は無礼講の立食パーティー。

 昼の明るい時間からお酒を呑むって最高だよね!

「では皆さんグラスは手元にいきましたね?」

「「「「「はい!」」」」」

「今日は無理を言って集まってもらってありがとうございました。別にこれと言って特別な日でも何でもないんですけど、元の世界では何かしらの理由をつけてお祝いをする習慣があるんです。今日はこの1年を振り返る日、そして明日は新しい一年を迎える日です。残念ながら明日は仕事ですので今日まとめて楽しんでしまおうというわけですね。」

「長い挨拶は良いからさっさと始めようぜ。」

「ウェリスさん!」

「ウェリスの言う通りです、そんなわけで挨拶はこの辺にして今日はいっぱい食べて飲んで楽しんでください。では乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 沢山のグラスが宙に掲げられ皆の笑顔が一層輝く。

 さぁ、楽しい食事の始まりだ。

「うわ、すげぇ料理!頑張った甲斐あったなぁ。」

「ちょっと今日はお客さんなんだから少しは遠慮しなさいよ。」

「だってよ、これ全部食べても怒られないんだぜ?食べきれるかなぁ。」

「そんなに慌てなくても料理は逃げないよ。」

 早速料理に目移りしているのは今を時めく三人組。

 そうだ改めてお祝いしてあげないとな。

「みなさん初心者卒業おめでとうございます。」

「「「ありがとうございます!」」」

「正式に中級冒険者になるにはまだ先ですが、ダンジョン踏破の証明書をギルドに提出すればギルド証をすぐに書き換えてもらえますので早いうちに手続きをお願いしますね。」

「あの、中級になると何か変わるんですか?」

「ギルドで受注できる依頼の種類が増えます。うちの場合は素材の買取に少し色がついたり、食事が少し割引されるぐらいでしょうか。」

「え!高く買ってくれるんですか?」

「中級にもなると珍しい素材を手にする機会が増えますからね、うちとしては是非とも買取させてほしいのでそうさせてもらっているんです。」

 初心者の場合はどうしても同じような魔物を倒すことが多いので買い取る素材に偏りが出るが、中級にもなると他種多様な魔物を相手にすることが増える分素材の種類にも幅が出来る。

 買取に色がつけば素材への関心も高まり、結果としていい商品が集まってくるようになるわけだ。

 多少の損は出るかもしれないが、結果として両者に利益が出るのであれば多少の損失など気にするほどではない。

 バーグさんがわざわざ遠くから素材を買い取りに持ってきてくれるのもこの制度を利用しているからだ。

「どの素材が高くてどうやって剥ぎとればいいかについてはエミリアが詳しいので今度聞いてみてください。」

「わかりました!」

「今日は皆さんのお祝いも兼ねていますからたっぷり食べて楽しんでください。ますますの活躍、期待していますよ。」

「「「はい!」」」

 彼らにとって今年が成長の年だったとしたら来年は飛躍の年になるのかな?

 商店としても期待の冒険者だ、頑張ってもらおう。

 お、今度は一番若手のウサミミ姉弟がなにやら楽しそうだぞ。

「お姉ちゃん次あれ食べたい!」

「食べたいってちゃんとこれ食べてからにしなさい!」

「やだ、お姉ちゃんが食べてよ。」

「私だって食べたいものあるんだから、あ、こら!」

「ティオの食べさしはそこに置いとけ、後で俺が食べてやる。」

「でも・・・。」

「シャルちゃんも好きなもの食べて来ていいんですよ?昨日食べたがってたケーキは後でちゃんと用意してあげますから。」

 はしゃぐ子供二人を両親が優しく見守っている。

 四人共今年はそれぞれ大変だったけれど、来年は幸せな一年になるだろうな。

 新しい家族も増えるから五人か。

「なんだ、何か文句でもあるのか?」

「別に、幸せそうだなと思いまして。」

「・・・俺みたいなやつが幸せになってもいいはずないんだがな。」

「そうなるために罪を償っているんです。来年もきりきり働いて頑張ってくださいよ、お父さん。」

「馬鹿野郎まだ早いっての。」

 お父さんと言われて満更でもない顔をするあたり、出会った時よりもずいぶんと丸くなったのがわかる。

 ウェリスとの出会いはあれだったけど、来年は良き先輩としてしっかり見習わないとな。

「おとうさ・・・じゃなかったウェリスさんこれ食べて、すっごい美味しいよ!」

「お、確かにうまいな。これもセレンが作ったのか?」

「これはシャルちゃんですね。」

「えへへ、頑張りました。」

「こんな姉ちゃんがいたら生まれて来ても安心だな。」

「えぇ、僕は、僕は!?」

「ティオはもっと強くなって皆を守るんだろ?ならしっかり食べてしっかり鍛えろ。」

「うん、僕頑張るから見ててよね!」

 あー、なにこれ。

 この空間だけ別世界なんですけど・・・。

 いや、いいんですよ?それぞれが幸せなら。

 でも、やっぱりちょっとうらやましいなぁ。

「御主人様はあんな家庭がお好みですか?」

「ユーリ、心は読まないでくださいとお願いしませんでしたか?」

「別に読んでなどおりません、垂れ流されていた物が勝手に入って来ただけです。」

 いや垂れ流しってもう少し言い方ってものがあるんじゃないでしょうか。

 間違ってはいないけどさぁ。

「好みかと聞かれればそうですね、目指すべき一つの形だと思います。」

「そうですか。」

「ユーリはどうですか?」

人造生命体ホムンクルスの私にとって家庭という物を持つことは難しいですが、今の生活でも十分満足しております。」

「別に結婚することがすべてではありませんよ?」

「もちろんわかっております。ですが、今の私にとって御主人様や奥様方、ニケ様と一緒に暮らすこの生活が何よりも代えがたい物なのです。欲を言えばそこに新しい家族が増える事を期待しているのですが、残念ながらうちの御主人様と来ましたら・・・。」

「その話はまたの機会という事で!」

「いえ、そうはさせません。」

 話をぶった切ろうとしたところにすかさず待ったをかけてきたのはニケさんだった。

「奴隷である私がこのような事を申し上げるのは大変失礼かと思いますが、イナバ様にはそろそろ危機感という物を持っていただかなくてはなりません。」

「危機感ですか?」

「男性は別に年齢を重ねても問題ないかもしれませんが、私たち女性にとって年齢は非常に重要な物なのです。いつまでも逃げ回って闇雲に時間だけを消費するのであれば我々にもそれなりの用意があります。」

「え、えとかなり物騒な内容なんですけど・・・。」

「当たり前です!女の武器は刻一刻と変化していくんです!それに、早く奥様方に身ごもっていただかなければ私達の番が来ないではありませんか!」

 ニケさんが鬼の形相でこちらに詰めよって来る。

 いや、言いたいことはわかるんです。

 わかるんですけど、その何と言いますか・・・。

 っていうか、今この人何言った?

「別に奴隷だからと言ってそういう事する気はありませんが・・・。」

「まだそんなことを言っているのですか!私は別に奴隷だからこんなことを言っているんじゃないんです。それに自分の事を奴隷と思わなくていいと仰ったのはイナバ様ですよ?」

 心なしかニケさんの顔が赤い気がする。

 いや、気がするっていうレベルじゃない。

 まるでゆでたこのように真っ赤な顔をしている。

 あれ、こんなにお酒に弱い人だったっけ?

 それにこんなキャラじゃなかったような。

 なんていうかニケさんはもうすこし大人でこんなふうに感情を前面に出すような人じゃないと思っていた。

「ニケ様の言う通りです。いい加減さっさと先に進んでくれませんか?」

 そしてお酒も飲んでいないのにガンガン正論を突っ込んでくるユーリ。

 あ、こっちは平常運航か。

「なんだ、随分にぎやかだな。」

「みんなしてどうしたんですか?

 そしてこのタイミングでやって来るうちの奥様方。

 やめて、これ以上こっちに来ないで!

 来ちゃダメー。

「今、ご主人様に早く子作りするように諭していたのです。」

「こ、子作り!?」

「ちょっとユーリさん!?」

「イナバ様は黙っていていてください!」

 ニケさんにキッと睨まれてしまった。

 その顔もなかなか素敵ですよって、これ以上は別の意味で殺されてしまう。

 落ち着け俺。

「二人の気持ちはありがたいがこの話はこれぐらいにしてやってくれ。シュウイチはシュウイチなりに考えがあるのだ。」

「そうですね、約束はしましたから大丈夫です。」

 え、約束?

 約束って?

「奥様方がそういうのであれば仕方ありません。ニケ様もよろしいですね?」

「お二人がそういうなら・・・。でも春までに何もなかったら実力行使しますからね!」

「ニケ殿に手伝ってもらえるのであれば心強い。なぁ、エミリア。」

「わ、私は別に・・・。」

「なら私だけでも構わんのだぞ?」

「それはダメです!」

 お、思い出した!

 冬の節までには覚悟を決めるってそういう約束だったんだ!

 だからシルビアは急かすなって言っていたのか。

 今日で種期が終わるから残された時間はあと二か月。

 この世界に来て半年。

 最初の年がまさかこんな終わり方をするとはだれが思っただろうか。

「前向きに検討しつつ善処いたします。」

「そのセリフは聞き飽きたぞ。」

「来年・・・頑張ります。」

「その言葉が聞けて安心した。」

「無理はしないでいいですからね。」

 美人な奥さん二人にここまで言われて恥ずかしくないのか!

 そんな声がたくさん聞こえるのはきっと気のせいだろう。

 自分でもわかっているんです。

 後はきっかけ、きっかけだけなんです。

 それだけはわかってください。

「さぁ、この話はここまでにして楽しもうじゃないか。この一年何があったのかを振り返る日なのだろう?ならば私とシュウイチの出会いについて話すべきだろう。」

「あ、それ聞きたいです!」

「俺も!」

「あれはだな、そこにいるウェリスがまだ盗賊の時でな・・・。」

 シルビア様が話し始めた途端に周りにみんなが集まって来る。

 バッチさんやメッシュさんまでが参加しているんだけど、そんなに聞きたい?

 ウェリスがやめてくれみたいな顔をしているけれどあれは自業自得なので仕方がない。

「シュウイチさん、今年もお世話になりました。確かこうやって挨拶するんですよね?」

「その通りです。こちらそお世話になりました、来年もどうぞよろしくお願い致します。」

「よろしくお願いします。」

 二人して頭を下げるのがおかしくて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

 楽しそうに話をしている皆を少しだけ離れた所でエミリアと一緒に眺める。

 初めてエミリアに出会った時、まさかこんなことになるとは思っていなかったなぁ。

 本当に色々あった一年だったけど、皆に出会えて本当に良かった。

 来年も色々あると思うけど・・・。

「どうしました?」

「なんでもありません。」

 俺の視線を感じたのかエミリアが不思議そうな顔で俺を見つめる。

 二人と一緒なら、いや皆と一緒なら来年もきっとうまくいく。

 来年も他力本願100%で精いっぱいやらせていただくとしよう。

「エミリア。」

「なんですか?」

「来年も頑張りましょうね。」

「はい!」

 来年もまたいい年でありますように。
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