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第十二章
過労探偵は調査を開始する
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捜査といっても前回と同じく聞き込みだ。
とりあえず出来たてほやほやの現場を確認しておくとしよう。
「すみませんさっきの話しなんですけど。」
「あ、イナバ様。さっきはかっこ悪いところ見られてしまって・・・。」
「ドリスが言っていたようにこの状況では仕方ありません。それで、落書きされた現物を拝見したいのですが良いですか?」
「こっちです。」
彼に案内されて東側の住居へと向うと、家の裏に大きな材木が立てかけられていた。
縦2m横は4mぐらいありそうな長方形の立派な木材だ。
合板じゃないって事は最低でも直径が2mはある木という事になる。
でかい。
樹齢で行くとどれぐらいなんだろうか。
300年とか400年とかそれぐらいなのかなぁ。
手付かずの森だしこの世界の歴史はもっと長いようなのであってもおかしくないけれど・・・。
それがこんな風にされたらそりゃ俺でも怒るわ。
立てかけられた材木には地面から俺の腰ぐらいの高さにまでびっしりと幾何学的な模様が描かれていた。
何か意味があるようにも見えるし、タダ適当に線を引いたようにも見える。
それが一本や二本ではなくびっしりと木目が分からないぐらいに描かれているんだ。
これじゃあそのまま使うのは難しい。
カンナかなんかで表面を削って模様を取らないといけないだろう。
いや、反対にしてこれを裏側にすれば加工無しでもいけなくは無いか。
でもなぁ裏を見てこの模様はちょっと不気味だ。
何か意味があるなら良いけど、問題は誰が書いたかだよな。
「これは中々・・・。」
「そうですよね!これを見た瞬間カチンと来てしまいまして。」
「確かに子供にしかかけないような部分に描かれてはいますが、逆を言えばこれをあの子達が描くのは難しいですね。」
「そんなはず・・・あれ、増えてる!」
「増えてる?」
「最初に見たときはこんなにもびっしり書き込まれてなかったんです。せいぜいこの半分ぐらいで・・・。」
おっと、まさかの展開だ。
「これを見つけてすぐ文句を言いに言ったんですよね。」
「えぇ、母親の所に行き子供が帰ってきました。」
「つまり描き足そうにも現場にいけなかった。にも関らずこの状態です、これはまた不可解ですね。」
「まさか呪われてるとか!?」
なるほどその考えは無かった。
確かに呪われているのならばひとりでに模様が増えてもおかしくは無い。
いや、呪いそのものが非科学的なんだけどほらこの世界には魔法もあるから。
でも呪われた木材って何だろう。
「特別な木を切り出したとか?」
「聖域までは入ってないので大丈夫だと思いますけど・・・。」
「となると呪いなどではなく別の可能性ですね。」
「別のですか?」
といっても複数人で悪戯を仕掛けられてるとか、見えない何かがいるとかそれぐらいしか思いつかない。
見えない何かって何だよ、幽霊かよ。
まだ昼間だっての。
「とりあえずそれも含めて調べてみます、ありがとうございました。」
「よろしくお願いします。」
とりあえずもう少し調べてみるか。
「エミリア何か感じますか?」
「ごめんなさい、呪いなどには詳しくなくて。」
「魔力的な何かはか感じますか?」
「うっすらとは感じますがそれが何かまではわかりません。」
ふむ、『何か』は感じるのか。
魔力が感知されたという事はその時点でこれが普通の落書きじゃないってことが証明される。
子供たちは白だ。
「専門家に見てもらうべきだと思いますか?」
「それは呪術的なという事ですか?」
「この短時間で同じような模様が勝手に増える状況を考えると物理的な何かではないと思うんです。かといって、正体の見当もつきません。可能性があるのであればその線で調べてみてもいいと思うんです。」
「それは他のもですよね。」
「あぁそうか、他にもあるんでしたね。」
そう、不可解な現象はこれだけではない。
被害は小さいながらも色々な悪戯が頻発している。
これ一つを捜査したところで意味ないか。
「塀が大きな音を立てた件も結局わからずじまいですし、被害だけ言えばかなりの数が上がっています。それ全てが呪術的な物であると仮定すればこの村そのものが狙われていることになります。」
「そうなると話はかなりややこしくなりますね。」
「誰かが村を攻撃していると考える事も出来ますから。」
「攻撃・・・される理由はありませんよねぇ。」
「開発に関しては精霊様の許可もいただいていますし、恨まれる理由はないと思うんですけど・・・。」
「しいて言えば入植に参加できなかった誰かがやっているとか?」
「それならば村ではなくシュウイチさんが攻撃されるはずです。」
エミリアの言う通り恨まれる理由は何もない。
仮にあったとしても対象は村ではなく俺のはず。
いやぁやっぱり探偵には優秀な助手が必要だよね!
過労気味の探偵を華麗に補佐する美人助手。
これからも頼りにしていますよエミリアさん!
とりあえず現場を離れて他に何かおかしい所が無いか捜索を続ける。
先程の様に見た目でわかる何かはないようだけど・・・。
「イナバ様!」
聞き込みをしながら村の中央広場まで戻ってくるっと見たことのある女性が走って来た。
彼女は確かズッコケ三人組の紅一点。
「どうしました?」
「何かお手伝いできることはありませんか。」
「せっかくのお休みですしゆっくりしていいんですよ。」
「宿に安く泊めてもらっているのに何にもしないわけにはいきません!」
「それに関してはユーリの手伝いで手を打っていたはずです。」
「南側の森を含めた巡回は終わりました。昨日の件もあるしジッとしていられなくて・・・。」
ここにも過労気味の冒険者が一人。
昨日の聞き込みは彼女達が行ってくれたし助かると言えば助かるけど、でもなぁ。
「休息も冒険者の立派な仕事ですよ。」
「シルビア様にも同じように言われました。」
「ならしっかり休んでください。昨日聞き込みをしてくださったおかげでこちらも随分とはかどっています、ありがとうございました。」
「でも・・・。」
うぅむ、なかなか引き下がってくれないなぁ。
「シュウイチさん、ここはお手伝いをお願いしてはどうですか?」
「エミリアさん!」
「今は人手が増えると助かりますし、昨日聞き込みをしてくださっていますから何か変わったところがあればわかると思うんです。」
「でも、お金は出せませんよ?」
「お金なんていりません、ありがとうございます!」
元気いっぱいに頭を下げてくる。
なんだか意外だな。
エミリアの事だから断るとばかり思っていた。
「村の南側は終わりましたので西側をお願いできますか?」
「はい!」
「私達は東から調べていきますので村長の家の前で集合しましょう。」
「わかりました。」
「昨日と違うところがあればそこを重点的に聞いてみてください。」
嬉しそうな顔をして北側へ走っていく彼女を見送るとエミリアが息を吐いた。
「てっきり断るのかと思っていました。」
「私もそう思ったんですけど、せっかくの好意を無下に断るのもどうかなと思いまして。」
「確かに人手は欲しい所です。」
「それに彼女でしたらしっかり仕事をしてくれますから安心です。」
「随分仲良くなったんですね。」
「本当は特定の冒険者と親しくなるのはよくないんですけど、シュリアン商店として考えると決して悪い事じゃないと思うんです。彼女達が立派になることがシュウイチさんの望みなんですから。」
商店連合の人間として考えれば他の冒険者と公平ではなくなるのでこのような関係はよくないとされるだろう。
でも、俺達はシュリアン商店の人間だ。
シュリアン商店のモットーは『冒険者を大切に』
今は未熟な冒険者も手を加えて大きく育てば優良な顧客となる。
その為の努力を怠ってはならないというわけだ。
「せっかく休みをつぶして手伝ってもらってるんですし私達も何か手掛かりを見つけましょう。」
「はい!」
せっかく休みの中手伝ってもらっているんだ。
何が何でも手がかりを見つけないとな。
名探偵?の名にかけて!ってやつだ。
と、意気込んで調査を続けたものの新たな情報を得る事はできずしょぼしょぼと戻って来たのだった。
「イナバ様お帰りなさい。」
「どうでしたか?」
「昨日聞いた話しか聞けませんでした。」
「そうでしたか。」
「今日は不思議な模様が落書きされたんですよね?」
「えぇ、それで他にも何かあればと期待したんですけど残念です。」
いや、何もない方がいいんだけど手がかりなしはきついなぁ。
「そう言えば、昨日調べた塀にも不思議な模様が描かれていたような・・・。」
「本当ですか!」
「もしかしたら傷かもしれないんですけど、変だなって思って。」
「とりあえずそこに案内してください。」
「は、はい!」
喰い気味に反応したので少し引かれてしまったが今はそんな事気にしていられない。
彼女に連れられて村の西側の塀沿いを歩いていると上の方に何かの模様らしきものが描かれていた。
「エミリア、前はあんなことありませんでしたよね。」
「あまり気にしていませんでしたけどなかったと思います。」
あそこは例のアリ事件の時に一度倒壊した場所だ。
その後再利用できる板材を使って再建した。
その名残かいくつも焼け跡がついているんだけど、あの模様はどう見ても焼け跡なんかじゃない。
意味は分からないがさっきと同様に何かの模様として描かれていると思う。
でもなんであんな所に。
「やっぱり模様ですか?」
「と、思います。」
「でもあんな高いところどうやって描いたんでしょう。」
「今度は大人でも難しい所ですね。」
高さ2mぐらいの所に模様が何本か描かれている。
大人が手を伸ばせば描けない事も無い。
ないが、描く理由がない。
例えば結界的な何かとして描いたとしても、あんな場所を守ったところで何の意味もないわけで。
それなら塀全てに書いてほしい所だ。
「うーん、わかりませんねぇ。」
謎は深まるばかりだ。
困ったなぁ。
「お、いたいた。」
「どうですか、何かわかりましたか?」
「アンタ達今頃ノコノコ出て来て何のつもりよ。」
「さっきまでシルビア様に鍛えてもらってたんだよ!」
「私は明日の準備をしていました。」
と、やってきたのはズッコケ三人組の残り二人。
これにて三人組再集結だ。
「みなさん見回りご苦労様でした。」
「特に変わったところはありませんでした。」
「そうですか。」
「なぁ、こんな所で何してんだ?」
「あの模様について調べてるのよ、アンタも昨日見たでしょ。」
「あぁ!あのへんな文字か!」
「アンタの汚い字と一緒にするんじゃないわよ。」
ぽかっと頭を叩かれる前衛くん。
良い音したなぁ。
「どこかで見たことありそうなんですが、昨日から考えても思い出せないんです。」
と、後ろでそれを見ていたリーダーが腕を組みながら難しい顔をしていた。
「見たことあるんですか?」
「似たようなやつなんですけど、思い出せなくて。」
文字、文字か。
でもあんな高い所に何を書くんだ?
それにあの材木。
文字だとしてもあんなにびっしり書く必要はないだろう。
でも可能性が無いわけじゃない。
一応彼にも見てもらうか。
「実は先程似たような模様が描かれる悪戯がありましてね、もしよかったらそれも見てもらえますか?」
「見た気がするだけですよ?」
「それでも構いません。」
もし見て貰って何もわからなかったとしても現状と何も変わらない。
でも、もしわかったら・・・。
0が1になるのには大きな違いがある。
三人を連れてぞろぞろと材木の所へ向かう。
少し時間は経っているがあれから模様が増えた様子はない様だ。
よかった、全面に描かれていたらどうしようかと思った。
「どうですか?」
「うーん・・・やっぱりわからないです。」
「そうですか。」
模様を指でなぞりながら確認していたがやっぱりわからなかったようだ。
でもすごいな、俺だったら不気味過ぎて模様を触りたいとは思わないけど・・・。
そこは聖職者だからだろうか。
「少し魔術的な気配を感じますね、邪悪な物ではなさそうです。」
「では呪術的な物ではない?」
「そんな感じはしません。むしろ神聖な物に近いかと。」
「それを聞いて安心しました。」
呪術的な物だったらどうしようかと思っていたけど、どうやらその心配はなさそうだ。
しかし今度は神聖な何かか。
神様にしちゃやることが悪すぎるよな。
完全に子供の悪戯だし。
どっちかっていうと神様よりももっと下位の存在がやってそうだ。
悪戯好きの妖精とか最近いたじゃないですか。
ほら、うちの商品を勝手に持ち出したようなやつですよ。
彼らも一応神聖な存在になるんだろうか。
「とりあえず現状ではここまでのようですね。」
「お力に慣れず申し訳ありません。」
「とんでもない、悪い物でなかったとわかっただけでも十分な成果です。」
「ありがとうございます。」
「私はニッカさんに報告してから戻りますので皆さんは先に戻ってくださって構いませんよ、お疲れ様でした。」
進展がなかったとはいえ悪い事ばかりではなかった。
明日も仕事だし探偵業務はここまでとしよう。
これ以上働くと本当に過労で倒れてしまう。
その後ニッカさんに報告を済ませエミリアと共に帰路についたわけなんだけど・・・。
「あれ、あそこにいるのは・・・。」
商店へ向かう帰り道、見たことのある人が慌てた様子で商店の方へ向かっていくのが見えた。
しかも森から出て来て一直線だ。
何かあったんだろうか。
エミリアも不思議そうに首をかしげている。
はてさて何が起きるのやら。
一抹の不安を感じながらその人を追いかけて俺達も商店へと急ぐのだった。
とりあえず出来たてほやほやの現場を確認しておくとしよう。
「すみませんさっきの話しなんですけど。」
「あ、イナバ様。さっきはかっこ悪いところ見られてしまって・・・。」
「ドリスが言っていたようにこの状況では仕方ありません。それで、落書きされた現物を拝見したいのですが良いですか?」
「こっちです。」
彼に案内されて東側の住居へと向うと、家の裏に大きな材木が立てかけられていた。
縦2m横は4mぐらいありそうな長方形の立派な木材だ。
合板じゃないって事は最低でも直径が2mはある木という事になる。
でかい。
樹齢で行くとどれぐらいなんだろうか。
300年とか400年とかそれぐらいなのかなぁ。
手付かずの森だしこの世界の歴史はもっと長いようなのであってもおかしくないけれど・・・。
それがこんな風にされたらそりゃ俺でも怒るわ。
立てかけられた材木には地面から俺の腰ぐらいの高さにまでびっしりと幾何学的な模様が描かれていた。
何か意味があるようにも見えるし、タダ適当に線を引いたようにも見える。
それが一本や二本ではなくびっしりと木目が分からないぐらいに描かれているんだ。
これじゃあそのまま使うのは難しい。
カンナかなんかで表面を削って模様を取らないといけないだろう。
いや、反対にしてこれを裏側にすれば加工無しでもいけなくは無いか。
でもなぁ裏を見てこの模様はちょっと不気味だ。
何か意味があるなら良いけど、問題は誰が書いたかだよな。
「これは中々・・・。」
「そうですよね!これを見た瞬間カチンと来てしまいまして。」
「確かに子供にしかかけないような部分に描かれてはいますが、逆を言えばこれをあの子達が描くのは難しいですね。」
「そんなはず・・・あれ、増えてる!」
「増えてる?」
「最初に見たときはこんなにもびっしり書き込まれてなかったんです。せいぜいこの半分ぐらいで・・・。」
おっと、まさかの展開だ。
「これを見つけてすぐ文句を言いに言ったんですよね。」
「えぇ、母親の所に行き子供が帰ってきました。」
「つまり描き足そうにも現場にいけなかった。にも関らずこの状態です、これはまた不可解ですね。」
「まさか呪われてるとか!?」
なるほどその考えは無かった。
確かに呪われているのならばひとりでに模様が増えてもおかしくは無い。
いや、呪いそのものが非科学的なんだけどほらこの世界には魔法もあるから。
でも呪われた木材って何だろう。
「特別な木を切り出したとか?」
「聖域までは入ってないので大丈夫だと思いますけど・・・。」
「となると呪いなどではなく別の可能性ですね。」
「別のですか?」
といっても複数人で悪戯を仕掛けられてるとか、見えない何かがいるとかそれぐらいしか思いつかない。
見えない何かって何だよ、幽霊かよ。
まだ昼間だっての。
「とりあえずそれも含めて調べてみます、ありがとうございました。」
「よろしくお願いします。」
とりあえずもう少し調べてみるか。
「エミリア何か感じますか?」
「ごめんなさい、呪いなどには詳しくなくて。」
「魔力的な何かはか感じますか?」
「うっすらとは感じますがそれが何かまではわかりません。」
ふむ、『何か』は感じるのか。
魔力が感知されたという事はその時点でこれが普通の落書きじゃないってことが証明される。
子供たちは白だ。
「専門家に見てもらうべきだと思いますか?」
「それは呪術的なという事ですか?」
「この短時間で同じような模様が勝手に増える状況を考えると物理的な何かではないと思うんです。かといって、正体の見当もつきません。可能性があるのであればその線で調べてみてもいいと思うんです。」
「それは他のもですよね。」
「あぁそうか、他にもあるんでしたね。」
そう、不可解な現象はこれだけではない。
被害は小さいながらも色々な悪戯が頻発している。
これ一つを捜査したところで意味ないか。
「塀が大きな音を立てた件も結局わからずじまいですし、被害だけ言えばかなりの数が上がっています。それ全てが呪術的な物であると仮定すればこの村そのものが狙われていることになります。」
「そうなると話はかなりややこしくなりますね。」
「誰かが村を攻撃していると考える事も出来ますから。」
「攻撃・・・される理由はありませんよねぇ。」
「開発に関しては精霊様の許可もいただいていますし、恨まれる理由はないと思うんですけど・・・。」
「しいて言えば入植に参加できなかった誰かがやっているとか?」
「それならば村ではなくシュウイチさんが攻撃されるはずです。」
エミリアの言う通り恨まれる理由は何もない。
仮にあったとしても対象は村ではなく俺のはず。
いやぁやっぱり探偵には優秀な助手が必要だよね!
過労気味の探偵を華麗に補佐する美人助手。
これからも頼りにしていますよエミリアさん!
とりあえず現場を離れて他に何かおかしい所が無いか捜索を続ける。
先程の様に見た目でわかる何かはないようだけど・・・。
「イナバ様!」
聞き込みをしながら村の中央広場まで戻ってくるっと見たことのある女性が走って来た。
彼女は確かズッコケ三人組の紅一点。
「どうしました?」
「何かお手伝いできることはありませんか。」
「せっかくのお休みですしゆっくりしていいんですよ。」
「宿に安く泊めてもらっているのに何にもしないわけにはいきません!」
「それに関してはユーリの手伝いで手を打っていたはずです。」
「南側の森を含めた巡回は終わりました。昨日の件もあるしジッとしていられなくて・・・。」
ここにも過労気味の冒険者が一人。
昨日の聞き込みは彼女達が行ってくれたし助かると言えば助かるけど、でもなぁ。
「休息も冒険者の立派な仕事ですよ。」
「シルビア様にも同じように言われました。」
「ならしっかり休んでください。昨日聞き込みをしてくださったおかげでこちらも随分とはかどっています、ありがとうございました。」
「でも・・・。」
うぅむ、なかなか引き下がってくれないなぁ。
「シュウイチさん、ここはお手伝いをお願いしてはどうですか?」
「エミリアさん!」
「今は人手が増えると助かりますし、昨日聞き込みをしてくださっていますから何か変わったところがあればわかると思うんです。」
「でも、お金は出せませんよ?」
「お金なんていりません、ありがとうございます!」
元気いっぱいに頭を下げてくる。
なんだか意外だな。
エミリアの事だから断るとばかり思っていた。
「村の南側は終わりましたので西側をお願いできますか?」
「はい!」
「私達は東から調べていきますので村長の家の前で集合しましょう。」
「わかりました。」
「昨日と違うところがあればそこを重点的に聞いてみてください。」
嬉しそうな顔をして北側へ走っていく彼女を見送るとエミリアが息を吐いた。
「てっきり断るのかと思っていました。」
「私もそう思ったんですけど、せっかくの好意を無下に断るのもどうかなと思いまして。」
「確かに人手は欲しい所です。」
「それに彼女でしたらしっかり仕事をしてくれますから安心です。」
「随分仲良くなったんですね。」
「本当は特定の冒険者と親しくなるのはよくないんですけど、シュリアン商店として考えると決して悪い事じゃないと思うんです。彼女達が立派になることがシュウイチさんの望みなんですから。」
商店連合の人間として考えれば他の冒険者と公平ではなくなるのでこのような関係はよくないとされるだろう。
でも、俺達はシュリアン商店の人間だ。
シュリアン商店のモットーは『冒険者を大切に』
今は未熟な冒険者も手を加えて大きく育てば優良な顧客となる。
その為の努力を怠ってはならないというわけだ。
「せっかく休みをつぶして手伝ってもらってるんですし私達も何か手掛かりを見つけましょう。」
「はい!」
せっかく休みの中手伝ってもらっているんだ。
何が何でも手がかりを見つけないとな。
名探偵?の名にかけて!ってやつだ。
と、意気込んで調査を続けたものの新たな情報を得る事はできずしょぼしょぼと戻って来たのだった。
「イナバ様お帰りなさい。」
「どうでしたか?」
「昨日聞いた話しか聞けませんでした。」
「そうでしたか。」
「今日は不思議な模様が落書きされたんですよね?」
「えぇ、それで他にも何かあればと期待したんですけど残念です。」
いや、何もない方がいいんだけど手がかりなしはきついなぁ。
「そう言えば、昨日調べた塀にも不思議な模様が描かれていたような・・・。」
「本当ですか!」
「もしかしたら傷かもしれないんですけど、変だなって思って。」
「とりあえずそこに案内してください。」
「は、はい!」
喰い気味に反応したので少し引かれてしまったが今はそんな事気にしていられない。
彼女に連れられて村の西側の塀沿いを歩いていると上の方に何かの模様らしきものが描かれていた。
「エミリア、前はあんなことありませんでしたよね。」
「あまり気にしていませんでしたけどなかったと思います。」
あそこは例のアリ事件の時に一度倒壊した場所だ。
その後再利用できる板材を使って再建した。
その名残かいくつも焼け跡がついているんだけど、あの模様はどう見ても焼け跡なんかじゃない。
意味は分からないがさっきと同様に何かの模様として描かれていると思う。
でもなんであんな所に。
「やっぱり模様ですか?」
「と、思います。」
「でもあんな高いところどうやって描いたんでしょう。」
「今度は大人でも難しい所ですね。」
高さ2mぐらいの所に模様が何本か描かれている。
大人が手を伸ばせば描けない事も無い。
ないが、描く理由がない。
例えば結界的な何かとして描いたとしても、あんな場所を守ったところで何の意味もないわけで。
それなら塀全てに書いてほしい所だ。
「うーん、わかりませんねぇ。」
謎は深まるばかりだ。
困ったなぁ。
「お、いたいた。」
「どうですか、何かわかりましたか?」
「アンタ達今頃ノコノコ出て来て何のつもりよ。」
「さっきまでシルビア様に鍛えてもらってたんだよ!」
「私は明日の準備をしていました。」
と、やってきたのはズッコケ三人組の残り二人。
これにて三人組再集結だ。
「みなさん見回りご苦労様でした。」
「特に変わったところはありませんでした。」
「そうですか。」
「なぁ、こんな所で何してんだ?」
「あの模様について調べてるのよ、アンタも昨日見たでしょ。」
「あぁ!あのへんな文字か!」
「アンタの汚い字と一緒にするんじゃないわよ。」
ぽかっと頭を叩かれる前衛くん。
良い音したなぁ。
「どこかで見たことありそうなんですが、昨日から考えても思い出せないんです。」
と、後ろでそれを見ていたリーダーが腕を組みながら難しい顔をしていた。
「見たことあるんですか?」
「似たようなやつなんですけど、思い出せなくて。」
文字、文字か。
でもあんな高い所に何を書くんだ?
それにあの材木。
文字だとしてもあんなにびっしり書く必要はないだろう。
でも可能性が無いわけじゃない。
一応彼にも見てもらうか。
「実は先程似たような模様が描かれる悪戯がありましてね、もしよかったらそれも見てもらえますか?」
「見た気がするだけですよ?」
「それでも構いません。」
もし見て貰って何もわからなかったとしても現状と何も変わらない。
でも、もしわかったら・・・。
0が1になるのには大きな違いがある。
三人を連れてぞろぞろと材木の所へ向かう。
少し時間は経っているがあれから模様が増えた様子はない様だ。
よかった、全面に描かれていたらどうしようかと思った。
「どうですか?」
「うーん・・・やっぱりわからないです。」
「そうですか。」
模様を指でなぞりながら確認していたがやっぱりわからなかったようだ。
でもすごいな、俺だったら不気味過ぎて模様を触りたいとは思わないけど・・・。
そこは聖職者だからだろうか。
「少し魔術的な気配を感じますね、邪悪な物ではなさそうです。」
「では呪術的な物ではない?」
「そんな感じはしません。むしろ神聖な物に近いかと。」
「それを聞いて安心しました。」
呪術的な物だったらどうしようかと思っていたけど、どうやらその心配はなさそうだ。
しかし今度は神聖な何かか。
神様にしちゃやることが悪すぎるよな。
完全に子供の悪戯だし。
どっちかっていうと神様よりももっと下位の存在がやってそうだ。
悪戯好きの妖精とか最近いたじゃないですか。
ほら、うちの商品を勝手に持ち出したようなやつですよ。
彼らも一応神聖な存在になるんだろうか。
「とりあえず現状ではここまでのようですね。」
「お力に慣れず申し訳ありません。」
「とんでもない、悪い物でなかったとわかっただけでも十分な成果です。」
「ありがとうございます。」
「私はニッカさんに報告してから戻りますので皆さんは先に戻ってくださって構いませんよ、お疲れ様でした。」
進展がなかったとはいえ悪い事ばかりではなかった。
明日も仕事だし探偵業務はここまでとしよう。
これ以上働くと本当に過労で倒れてしまう。
その後ニッカさんに報告を済ませエミリアと共に帰路についたわけなんだけど・・・。
「あれ、あそこにいるのは・・・。」
商店へ向かう帰り道、見たことのある人が慌てた様子で商店の方へ向かっていくのが見えた。
しかも森から出て来て一直線だ。
何かあったんだろうか。
エミリアも不思議そうに首をかしげている。
はてさて何が起きるのやら。
一抹の不安を感じながらその人を追いかけて俺達も商店へと急ぐのだった。
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スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
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欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
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