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第十二章

新人さんいらっしゃい

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 想像していたのは可愛らしい小人。

 エミリアから聞いていたダンジョン妖精の容姿はそんな感じだった。

 だがどうだろう、俺の目の前にいるのは髭の濃い小さなオッサン。

 世の中年サラリーマン宜しく少々くたびれた感じがする。

 見た目こそ小人だがこれを可愛いというのは些か無理があるような気がするんですが。

 好みの問題でしょうか。

「貴様!我が祝福を授けたイナバ様の倉庫と知ってこのような事をしていたのか?」

「と、とんでもねぇ!オラそんな事とは知らなくて、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!」

 久々に、いやもしかしたら初めてかもしれないジャンピング土下座。

 この世界にも土下座の文化はあったのか。

「ユーリ、シルビアに捕獲したと伝えてください。」

「成功したのですね、かしこまりました。」

 ひとまずは成功だ。

 とりあえずこいつを縛り上げて・・・いや、その必要は無いか。

「単刀直入に聞きますが、うちの在庫を持ち出してダンジョン内の冒険者に配っていたのは貴方ですね?」

「オラがやりました・・・。」

「いったいなぜです?」

「オラ、ダンジョン妖精になりたくて田舎から出てきたんだ。そしたらダンジョンの奥で困ってる人がいるだろ?困っている人はほっといちゃいけねぇっておっかぁが言ってたんだ。」

「だから店の在庫を持って行った?」

「人様の物とっちゃいけねぇってのもわかってるんだ。でも、一回喜んでもらったらオラ嬉しくて・・・。」

「それでイナバ様の倉庫から持ち出したのですね。」

 話を聞いていたルシウス君がなぜか泣きそうになってるんだけど・・・。

 涙腺を刺激する場所あったか?

 ってかオラが村から出てきた妖精っていったいなんだよ。

 オラ東京さいくだ、東京さ行ってベコ・・・買うのか?

 買わないよなぁ。

 どこの仙〇貨物だよ。

「どんな理由であれうちの在庫を持ち出したことは許されることではありません。ダンジョン妖精になりたいにも拘わらずダンジョンマスターである私の店を荒らすとか、本末転倒すぎませんか?」

「貴方様があのダンジョンの主人!?あー、オラはなんてことしちまったんだ、こんなことしちゃ田舎のおっかぁに顔向けできねぇべぇぇぇぇ。」

 だから泣くなよ!

 いい年した?大人がわんわん泣いて、しかもそれが小人ときたもんだからどう反応していいのか全くわからないよ!

「シュウイチさん?」

 聞いた事のないオッサンの泣き声にエミリアとニケさんが倉庫の中を覗き込んできた。

「無事に犯人は捕まえました、ですがこの調子でして・・・。」

「この方がダンジョン妖精?」

「と、本人は言っています。」

 まるで子供が泣くように大粒の涙を流す小人もとい小さいオッサン。

 その姿に何とも言えない顔をする二人。

 わかる、わかるわぁその気持ち。

「エミリア、他所のダンジョン妖精もこんなのなんですか?」

「いえ、もっと可愛いはずなんですけど・・・。」

「ですよねぇ。」

 小人ブラウニーといえば緑色の帽子をかぶってシャボン玉で迷宮を攻略するゲームを思い出す。

 あれも可愛い見た目をしていたはずだ。

 だが俺達の目の前にいるのはオッサン。

 紛れもないオッサン。

 オッサンの俺が確信するほどのオッサンだ。

 オッサンオッサン言い過ぎておっさんがゲシュタルト崩壊しそうな勢いだ。

 いや、マジでどうするよ。

「と、ともかく犯人は捕まったんですよね?」

「そうですね、ルシウス君助かりました。」

「お役に立てたようでよかったです。」

「また何かあったらお願いしますね。」

「おまかせください!」

 ルシウス君は満面の笑みを浮かべ、そのままどこかへと消えて行った。

 うん、彼が小人ならダンジョン妖精だって信じたかもしれない。

 男の俺が言うのもなんだが、可愛い顔している。

 女装させれば間違いなく美少女になる。

 残念ながらそっちの趣味はないけどな。

「シルビアが戻って来るまでもう少しかかります、それまで色々と聞かせてもらうとしましょう。」

 ダンジョン妖精になりたくて田舎から出てきた妖精が、ダンジョンの中で困っていた冒険者を助けるために盗みを働いたと。

 志は良いとしてやったことがやったことだからなぁ。

「先ほども言いましたように貴方がしたことは到底許されることではありません。店に損害を与えたのは事実です、それについてはどう思いますか?」

「お、オラお金はないんだ・・・。でも何とかして働いてお返しします!」

「働いてっていったいどうやって?」

「ゴミ拾いでも皿洗いでもなんでもします!オラこう見えて家事は得意なんだ!見ててくれ!」

 突然自信満々な顔をしたかと思ったら小さなオッサンが倉庫の中を飛び始めた。

 すると、なんということでしょう。

 床に散らばっていた荷物があっという間に元の場所に戻ったではありませんか。

 これには依頼者もびっくりです。

「どうだ?オラがいればダンジョンの中もピカピカだぞ!」

「いや、ピカピカだぞって言われましても。」

 倉庫の掃除なら俺でもできるし、ダンジョンのメンテナンスもユーリがいれば・・・。

「御主人様、ダンジョン内のゴミ拾いというのは結構大変なんです。冒険者の皆さんが戦えば戦う程ごみは生まれますし、掃除していただけると非常に助かるのですが。」

「そうなんですか?」

「確かに野営をすれば食事や武器を整備した時のゴミが出ます。魔物や冒険者の死体はダンジョンが片付けてくれますが、ゴミや排泄物までは綺麗にしてくれませんからね。」

 出たなダンジョンのゴミとトイレ問題。

 基本的にダンジョンではポイ捨てが基本である。

 トイレもそうだ。

 備え付けのトイレなんてあるはずないので通路の隅などは格好の排泄場所になる。

 穴を掘って埋めてくれるならまだしも、落とし罠の中に入れる人もいるからなぁ。

 そう考えると掃除が得意って結構重要なんだな。

「そんなものオラに任せてくれればちょちょいのちょいだ!」

「仮に貴方と契約したとしたらそれは日常の業務になりますから、損失を埋めるまでには至りませんね。」

「確かに・・・。」

 せっかくドヤ顔をしていたところ申し訳ないがそれは通常業務だ。

 ユーリがやっている仕事を肩代わりするだけの話。

 人手が増えれば仕事を分け合うって普通の事だよね?

「仮にですよ、冒険者を助ける為に道具を持ち出したことを許したとしましょう。ですが村に迷惑かけたことは許されることではありません。小さな悪戯ではありますが一歩間違えば大事故にもつながっていたんです。それを許せるほど私の心は広くありません、ここにはルシウス君もいます厳罰を覚悟してください。」

 そう、今はこのオッサンを救済することを考えているのではない。

 自分のしでかした罪をしっかりと償ってもらわなければならないのだ。

 俺達だけならまだしも村中に迷惑かけていることは許されることではない。

 冒険者を助けるのではなくこっちは迷惑しかかけてないんだ、ちゃんと落とし前はつけないと。

「む、村に迷惑?オラダンジョンの中とここしか行った事ねぇ。」

「そんなはずありません、私は確かに黒い影が店の中にポーションの空き瓶を置いていくのを見ました。それと同じ影が村や森の中で目撃されています。」

「確かに空き瓶を持って来たのはオラだ。でも本当に村や森には行ってないんだ。あの精霊様に誓ってもいい、オラはダンジョン妖精になりたくてここに来たんだ、ダンジョン以外の所に行っても何もできねぇよぉ。」

 小さなオッサンが必死な顔で抗議してくる。

 確かにダンジョン妖精志望のこのオッサンが村で悪戯をする理由はないが、本当に信じていいんだろうか。

 店の商品を勝手に持ち出す様な奴だ、万が一という事がある。

 どれ、悪事を一つずつ暴いてみようか。

「では聞きますが、ダンジョン内の魔物が産んだ卵を持ち出しましたか?」

「それはオラだ。」

「では倉庫内の魔石や携帯食料を動かしたのは?」

「それもオラがやった。」

「調理場の野菜は?」

「そ、それもオラだ。」

 ほれみたことか。

 やっぱりこのオッサンがやったんじゃないか。

「ではシルビアの研石を動かしたのは?」

「オラそんなことしてねぇ。」

「え?」

「この店はダンジョンと繋がっているのか居心地は良いだが、離れた家とかは移動するのが面倒で行ってねぇ。」

 え、そうなの?

「それでは森に仕掛けた罠を外したことは?」

「森の中なんて、ダンジョンよりも魔力が薄くてすぐお腹が減るし広くて迷子になる。」

 あっけにとられた俺の代わりにユーリが質問を続ける。

「では村にも?」

「もちろん行ったことねぇだ!」

 何だって?

 じゃあ村や森で目撃されている影はいったい何なんだ?

 てっきり同一犯の犯行かと思っていたのに。

「ただいま戻った。」

「シルビアお疲れ様でした。」

「久々のダンジョンでなかなか楽しかったぞ。それで、犯人を捕まえたんだって?」

「えぇ、一応捕まえたのは捕まえましたが・・・。」

「どうかしたのか?」

 キョトンとした顔をするシルビア様。

 いつもならその顔も可愛いですよなんていう所だが、ちょっと今回はそこまでの余裕がない。

「この小さいのが犯人なのか?」

「商店の道具を勝手に持ち出し冒険者を救った犯人という意味では間違いありません。」

「含みのある言い方だな。」

「実は商店の犯行は認めたものの、村での悪戯は遣ってないと言っていまして。」

「オラ嘘は言ってねぇ!本当に村や森になんて行ったことねぇだ!」

「本当だな?」

「精霊様とおっかぁに誓って嘘は言わねぇ!嘘言ったら神様に魂抜かれっからな!」

 子供かよ!

 言ってることが雷が鳴ったらお腹隠さないとおへそを取られるぞって言う小学生と同じレベルなんですけど。

 必死に抗議する小さなオッサンの顔をシルビア様がじっと見つめる事数秒。

「どうやら嘘は言っていないようだ。」

「もちろんだ!」

「そうなんですか?」

「これまで何度も尋問をしてきたがこの人物の目には迷いが無い。何かやましいことがあれば顔には出ずとも瞳には出るからな。」

「シルビアがそう言うのであれば間違いなのでしょう。」

 俺の何倍も悪い事をしてきた人を見てきたんだ。

 シルビアがそう言うなら信じるさ。

「この方のいう事が本当であればいったい何者が村や森で悪さをしているのでしょうか。」

「さぁ、それに関してはなんとも。」

 問題はそこだ。

 この小さいオッサンが犯人じゃないとしたらいったい何者が何のために村で悪さをしているんだ?

 いや、村だけじゃなく森もそうだしうちの家の中にだって入ってきたことになる。

 いったい何が目的なんだろうか。

「御主人様、ご提案があるのですがよろしいですか?」

「どうしました?」

「村の犯人が誰であれこの方がうちで悪さをしていたことに間違いはありません。」

「そうですね。」

 ユーリの言う通りだ。

 村の件がどうであれうちの問題はこのオッサンが原因だ。

「それを踏まえたうえでこの方と契約されてはいかがでしょうか。」

「契約って、ダンジョン妖精としての契約ですか?」

「もちろんです。」

「えっと、それは何故?」

 うちの在庫を持ち出したような盗人と何故契約しなければならないんだろうか。

 てっきりダンジョン妖精向けのお仕置きのようなものがあると思ったんだけど・・・。

 でもユーリの事だから何か考えがあるんだろうな。

「この方がした事を許す必要はありません。ですが、私にも感知されないほどの優れた隠匿技術に魔物との親和性、それに掃除の技術なども非常に魅力的です。今後ダンジョンを運営していくことを考えるとこの方と契約しておくほうが何かと都合が良いと判断いたします。」

「確かに今日あの瞬間までダンジョンにいることは確認できませんでしたが、魔物との親和性というのはどういう事しょう。」

「あの凶暴なアームドチキンからタマゴを採り怒られないのです。普通ではありえないことですよ。」

「オラ田舎にいる時は朝の卵採りが日課だった、あれぐらい朝飯前だ。」

「いくら認知しづらいとはいえ魔物は敏感なもの、にもかかわらず魔物が暴れたような痕跡もありません。」

「つまり、日々の管理を今までどおりユーリが、補佐的な位置づけとして雇いたいというのですね?」

「御主人様がお許しいただけるなら、ですが・・・。」

 ふむ。

 ユーリのいう事にも一理ある。

 ダンジョン妖精として契約していないにもかかわらず、ダンジョン内で自由に動き回り活動できたのは賞賛に値する。

 また、今後の運営を考えると宿の人数を増やすようにダンジョンの人数も増やす必要があるだろう。

 そういう意味でもまたとない人材というわけか。

 でもなぁ、それじゃあうちは被害を受けたまんまだしなぁ・・・。

 まてよ?

 こういうのはどうだろうか。

「ユーリ、客観的に見て妖精だと思いますか?」

「難しい質問ですね。背格好から考えるとどう見ても妖精ですが、その外見的な点で言えば難しいかと。」

「ですよねぇ。」

「オラ、そんなに妖精っぽくないのか?」

「確かにエミリアに聞いていた容姿とはかなりかけ離れているな。」

 あ、シルビア様もそう思いますか。

「それと、妖精は絶対に人前に出てはいけないのでしょうか。」

「家付き妖精などは人目に触れても問題ないと聞きます。ダンジョン妖精に関しては人目に触れない事になっていますが、ダンジョン妖精といわなければ問題ないのではないでしょうか。」

「また何か考えているのか?」

「今回うちの商品を持ち出した事は許しがたい事なんですけど、この方がやった事は決して悪いことではないと思うんです。」

「そうだな、冒険者の命が助かればまた冒険者は帰ってきてくれる。シュウイチの考えとよく合うではないか。」

「そこで、自在にダンジョン内を移動出来るこの能力を生かして行商に出て貰おうかと思ったんです。」

 ダンジョンに潜った冒険者を助ける事は許されない。

 これはダンジョンを運営する者としての禁忌だからだ。

 ダンジョン内は自己責任、だから助けてはいけないわけだけど・・・。

「ダンジョン内で商売をさせるわけか。」

「人助けはご法度ですが商売は禁じられていません。必要であれば通常より少し割高でも冒険者は喜んで買ってくれるでしょう。そこで得られた利益から少しずつ弁済していただくのはどうでしょうか。」

「それは面白い考えだな。それで容姿を気にしていたのか。」

「ダンジョン妖精としてではなく行商人として見えるのであればと思ったのですが、見られていいのであれば気にしなくてもいいですね。」

「お、オラが商売するのか?」

「冒険者を助ける事に変わりはありません、なにお金をもらって来るだけですよ。」

 嫌と言われてもやってもらうつもりだ。

 この人が商品を売ればうちは潤い冒険者は生きて帰ってくる。

 そうすればまた商品は売れるし、冒険者は強くなれる。

 ダンジョンの中には手を出せないので指をくわえる事しかできなかったが、これで少しは生きて帰る冒険者が増えるだろう。

 え、魔力を回収できなくていいのかって?

 大丈夫、生きて帰って来れれば結果としてプラスだ。

 それにこの人にもプラスはある。

 借金は返せるし目標通りダンジョン妖精になれるじゃないか。

 自分で作った負債は自分で返済してもらわないとね。

「それでオラはダンジョン妖精にになれるのか?」

「先ほど言ったようにダンジョンの整備維持が主な仕事です、その合間にしていただければ構いません。」

「ダンジョンに関われるんならオラは構わねぇ!よろしくお願いします!」

「イナバです、貴方は?」

「オラはバッチだ!」

「よろしくお願いしますバッチさん。」

 差し出した右手を両手でしっかりと握り返してくる。

 これでこっちの問題は解決、かな?

 いやまてよ契約ってどうするんだ?

「ユーリ契約はどうすればいいんですか?」

「契約はダンジョンで行います。オーブに触れれば終わりますので。」

 そうかそんな簡単なのか。

 じゃあすぐに終わらせよう。

 とおもっていたのだが・・・。

「イナバいるか!すぐに来てくれ!」

 一つ終わればまた一つ。

 店の中にウェリスの声が響き渡る。

 その声に返事をするべく俺は急いで倉庫から飛び出した。
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