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第十二章
お騒がせの犯人は。
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俺が黒い影を目撃してから二日経った。
いや、正確に言えば二日様子を見たといったほうがいいだろう。
翌日も冒険者から思いもしないところに道具があり助かったという話が聞こえてくる。
やはりダンジョンで何かが起きているのは間違いない。
しかもうちの在庫を使ってだ。
すぐに店の在庫全てを確認した所、いくつかなくなっている事が分かった。
薬草や毒消しハーブ、松明や、携帯用の水なんて物もなくなっていた。
もちろん俺達の誰かが使ったとかそういうことはありえないので、何者かに盗まれたと考えるべきだろう。
でもどうやって盗むんだ?
白昼堂々倉庫に侵入するのか?
不可能だ。
もちろん鍵はかかっているし、頻繁に出入りしている。
それに倉庫に行く為にはバックヤードを通らなければならない。
カウンターの内側に冒険者が入るなんてことがない以上もっていけるはずがない。
でも、なくなっている。
全くもって謎だ。
「さて、以上の状況をふまえて入念に準備したわけですが・・・どんな感じですか?」
「やっぱりなくなっているな。」
「今日は何ですか?」
「毒消しハーブと沈静軟膏だ。」
「あとは冒険者の皆さんがちゃんと持って帰ってきてくれるかどうかですが・・・。」
「あれだけお願いしたので大丈夫だと思いますよ。」
二日連続で店のものが無くなった事をふまえ俺達はある事を思いついた。
道具全てに認識タグのような物をつけ、なくなった物が本当に店の物かを確認するのだ。
それはもう大変な作業だった。
何が無くなるかなんてわからないので思いつくもの全てに簡単な印をくっつけていく。
出来るだけわかりやすいところに貼り付け、もしダンジョンでそれを見つけたら印を持って帰ってもらうようにダンジョンに入る全ての冒険者にお願いした。
持って帰ってきてくれれば謝礼を払うとまで言ってある。
恐らく大丈夫だろう。
「冒険者が戻ってくるまでまだ時間がかかる、またなくなる可能性もあるだろう。」
「引き続き監視をお願いします。」
「まかせておけ。」
現行犯逮捕できればそもそもこんな手のかかる事をしなくて良いのだが、犯人は中々尻尾を出さない。
ちょっと目を話した隙に道具がなくなっているのだ。
それはもう忽然と消える。
犯人と考えられるのはやはりあの黒い影だろう。
村でも悪戯が続いているようだ。
怪我人がでるような悪戯ではないが、かなり過激になってきているらしい。
昨日なんかは油壺が倒され、危なく引火する所だったそうだ。
いよいよまずい。
と、いうことで別の手段を講じた所だ。
そっちはそろそろ戻ってくると思うんだけど・・・。
「ただいま戻りました。」
「あ、お帰りなさい!」
「ご苦労様でした、いかがでしたか?」
「特に怪しい場所はありませんでした。残念ながら例の影も発見できていません。」
ちょうど良いタイミングでユーリが森から帰ってきた。
噂システムは健在のようだ。
「ユーリさんすごいんですよ!俺達じゃ気付かないような魔物に遠くからでも気付くんです!」
「素材を見つけるのも上手だし、本当に冒険者じゃないんですか?」
「この森は私の庭のようなものです。皆さんも毎日歩けば私と同じようなことが出来るようになるでしょう。」
「本当ですか!」
「もちろんです、村の子供達にも出来るんですからご主人様にかわり私が保証いたします。」
知らないところでユーリの株が急上昇しているようだ。
さすがユーリ、森のことに関しては右に出る者はいないな。
「依頼料はこちらでお支払いします、それと見つけた素材は買取できますので一緒に出してくださいね。」
「「「ありがとうございます!」」」
そう、別の手段とは冒険者を雇い一気に森を捜索する事。
山狩りならぬ森狩りだな。
初心者冒険者に森の探索という依頼を出し、引率にユーリを派遣した。
冒険者からすれば素材を集めながら森を歩くだけでお金がもらえるんだから願ってもいないだろう。
もちろん先日の三人も参加している。
「あの、欲しい奴は持っててもいいですか?」
「もちろんです。」
「やった!ちょうど薬草切れてたんだよな。」
「買うより安いしこれからは探してから来ようかなぁ。」
「そしたら矢代が浮くし私の代わりに毎日籠もってよ。」
「何で俺だけなんだよ!お前も手伝えよ。」
「イヤよ、この前銀貨見つけたんだし地面を探すのは得意でしょ。」
そういえばそんな事もあったなぁ。
翌朝見つけたポーションの空き瓶を見てもらうと、ダンジョンで見つけた奴で間違いないそうだ。
ダンジョンに置いて来た筈なのにと首をかしげていたっけ。
道具は店の在庫から無くなるとして、あの銀貨は一体何処から出てきたんだろうか。
店のお金はずれてなかったから本当に誰かが落としていたのか、それとも別の何処かから出てきたのか。
それは今も謎のままだ。
「明日も引き続きお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
「けど本当に宿代半額で良いんですか?お金まで貰ってるのに・・・。」
「こちらとしては手を貸してもらえるだけ助かっています。村総出で森に入っても良いんですけど、やっぱり魔物に対応できるのは冒険者の皆さんだけですから。」
参加してくれる冒険者には依頼料の他に宿代や食事代を半額にするなどの特典をつけている。
俺達からすれば安く人出を確保できるし、彼らにしてみればお金を貰いつつ拠点を確保できる。
うちのダンジョンは初心者向けではあるけれど街から遠いのがネックなんだよな。
ここに泊まれば移動時間まるまるダンジョンに籠もれるし、買取や道具の補充などでもメリットが多い。
まさにwin-winの関係といえるだろう。
「俺達でも役に立てるんだな。」
「もっと強くなってもっと役に立つんだから、さぁ行くわよ!」
「うそだろ、もう行くのかよ。少しは休もうぜ。」
「こんな恵まれた環境で何言ってるのよ!強くなりたいんでしょ!」
「なりたいけどよぉ。」
「お世話になっている間は戦えるときに戦いましょう。稼げる時に稼ぐ、ガンドさんに教わったじゃないですか。でも行くのは私たちで対処できる所までですよ。」
そうか、彼らもガンドさんに色々と教えてもらっていたのか。
今頃何をしているのかなぁ。
田舎に帰るって言ってたけど・・・。
腕が動かなくなったとはいえ他の冒険者からしてみれば目標になるような人だ。
ギルドに入って彼らの為に力を貸してくれると思ってたんだけどなぁ。
「それじゃあ行ってきます。」
「無理しないでくださいね、行ってらっしゃい。」
残った冒険者もダンジョンに潜ったり休憩したりと思い思いにすごしている。
森狩りの成果は出なかったようだけど、明日も引き続き頑張っていただこう。
「シュウイチ、また一つ道具がなくなったぞ!」
っと、向こうでも動きがあったようだ。
「今度は何ですか?」
「薬草とロープだ、この目でなくなるのを見た。」
「どんな感じでした?」
「突然ロープが宙に浮き、次いで薬草が浮かんだかと思うと忽然とその場から消えてしまった。」
宙に浮くのか。
透明人間が手にもつとそんな感じになるだろうけど、その場から消えるのは良くわからない。
だけど犯行を確認できたのは大きいな。
「これで盗人説はなくなりましたね。」
「影らしいものもうっすらと見えたから間違いないだろう。」
「あとは戻ってきた冒険者があの印を持って帰ってくるかですね。」
今回無くなったものにももちろん印をつけてある。
さて、どうなることやら。
盗まれているはずなのになんでドキドキするんだろうな。
今回なくなったのは四種類。
はてさて、どんな話が聞けるのかなっと。
「イナバ様、朝言ってた奴ってこれですか?」
「そう、それです!どこにありました?」
そして最初の冒険者が帰ってきたのは夕刻。
手には俺達がつけた赤い印が握られていた。
「通路の真ん中に落ちてました。最初は罠かなって思ったんですけど、聞いてた印がついてたんで。ちょうど後ろのアイツが毒罠踏んだんで助かりましたよ。」
そういいながら後ろを指差した先には申し訳無さそうに頭を下げる仲間の姿があった。
やっぱりか。
「ありがとうございます。素材の買取と一緒に提出してください、査定金額と合わせてお支払いします。」
「でもいいんですか?道具まで貰っちゃってしかもお金まで、俺達はありがたいんですけど・・・。」
「いいんです。見つけてくれただけで十分元は取れましたから。」
最初に見つかったのは毒消しハーブにつけた印だった。
その後も帰還した冒険者がなくなった四つ全てを発見、持ち帰ってくれた。
よし、これで確認も取れたな。
間違いなくうちの在庫が見えない何かによってダンジョンに持ち去られ、全て冒険者に届けられている。
しかも、『それを今必要としている冒険者』に。
面白いじゃないか。
まるで神様が苦しんでいる冒険者を助けるみたいだ。
最初は悪戯かただの盗人と思っていたけれど、話しを聞いているうちに持ち帰った全員が何かしらのトラブルを抱えていたことが分かった。
毒罠にかかった、落とし罠に落ちた仲間を助けるのにロープが足りない、敵に囲まれて薬草が尽きた、喉が乾いたなんてのもあったな。
ともかく道具を見つけた冒険者全てが『今』それを必要としていたということだ。
一体誰がそんな事をしているんだろうか。
確かにこのダンジョンは生還してもらう事を前提として作っているが、中に潜った冒険者を助ける事はしない。
それはダンジョン商店の禁忌だからだ。
ダンジョンの中は自己責任。
例え女子供であっても冒険者として入ったのであれば助ける義理は無い。
そういう世界だ。
にもかかわらずそいつは冒険者を助けて回っている。
うちの在庫を勝手に使って。
自前でやってくれるなら文句言わないよ?
自分で道具を買い込んで冒険者に高く売ろうがタダであげようが俺の知ったこっちゃ無い。
ちゃんとうちで購入してくれるなら文句は言わないさ。
でもさ、そいつは勝手に道具を持ち出している。
それは非常によろしくない。
冒険者は助かったかもしれないがこっちとしては利益が上がらない。
むしろ大赤字だ。
人助けはいい事だけど、やりかたがまずいよな。
相手が誰であれお灸を据える必要があるだろう。
問題は姿の見えない相手をどうやって捕まえるかだけど・・・。
どれ、ちょっと知恵を絞ってみましょうか。
「それで、シュウイチはどうするつもりなんだ?」
店に戻ってからもひたすら知恵を絞り続ける。
夕食の最中も考えていたらさすがに怒られてしまった。
だがその甲斐あって一つの作戦が浮かんだわけなんだけど・・・。
「ご主人様の事ですからもう何かしらの作戦は考えておられるのでしょう。」
「一応考えてはありますが、成功するかどうかは分かりませんよ。」
「でもやらないと何時までも道具が消えてしまいます。損失を出し続けるのはよくありません。」
「私としては冒険者が助かるのは嬉しいですが、やっぱりお商売としては許容できませんね。」
エミリアとニケさんもご立腹だ。
うちの奥さんたちを怒らせると怖いんだぞ。
「そうですね、いくら冒険者の為とはいえ無料で奉仕するわけには行きません。」
「でもどうするんですか?相手は姿が見えない上にダンジョンの中を自由に行き来できるんですよ。」
「問題はそこなんです。」
「さすがの私でも幽霊を捕まえる事はできんぞ。そういったことは魔術師に任せていたからな。」
そりゃそうか。
実体がないんじゃ切り付けても意味ないもんな。
効果があるのは非物理攻撃、すなわち魔術だ。
「無理です!」
「エミリア、まだ何も言っていませんが・・・。」
「だってシルビア様が出来ないのであれば私しかいないじゃないですか!」
「リア奥様落ち着いて下さい、まだ幽霊と決まったわけではありません。」
「だってシルビア様が!」
「言葉のあやだ、落ち着けエミリア。」
アンデットとか死霊系の魔物とかが出たらどうするんだろうか。
エミリアのことだから泣きながらでも焼き払いそうなものだけど、まずは逃げるのかなぁ。
「仮に捕まえられるとしてどうやっておびき出すんですか?」
「ニケ殿の言うとおりだ。捕まえるとしてもいつ出てくるかわからなければ対処のしようがないぞ。」
「勿論それも考えて有ります。というか、それしか考えていません。」
「どういうことでしょう。」
「ユーリに聞きたいんですけど、ダンジョンを移動をするためには転送装置を使う他ないんですよね?」
「普通はそうなります。」
「ダンジョンマスターである私であっても転送装置を使うしかない。でも、ダンジョン妖精はどうなんですか?」
ダンジョンの移動は勿論徒歩だ。
各10階層ごとに転送装置があるのでショートカットはできるが、その途中の階層に行くためには歩いていかなければならない。
ダンジョンマスターだからといって好き勝手に移動できるわけではないのだ。
それは俺がただの人間だから。
「ダンジョン妖精であれば各階層毎に移動することができます。ダンジョン整備が仕事ですからね、好きな場所に行く事は出来ませんがそれに近いことは出来るでしょう。」
「ちなみにユーリは出来るんですか?」
「申し訳ありません、私は人工的に作られたダンジョン妖精ですので御主人様同様転送装置を使っての移動しかできません。」
「それは何故でしょうか。」
「人と同じく実体を伴っているからです。」
「つまり本物のダンジョン妖精は実体を伴っておらず、かつダンジョン内を好きに移動できるわけですね?」
「なるほどそういうことですか。」
ユーリがなるほどという感じでうなずいた。
よかったどうやら俺の考えが伝わったようだ。
「二人とも満足そうな顔をしているが私たちにもわかるように説明してくれないか?」
「あぁ、すみません。」
いけないいけない。
俺とユーリは以心伝心だけど他のみんなはそうじゃないんだった。
「御主人様は『本物のダンジョン妖精』が犯人だと疑っておられるのです。」
「「「本物のダンジョン妖精?」」」
全員の頭の上にクエスチョンマークが飛び出すのが見えた。
今絶対に出てる。
しかも結構派手なやつだ。
さて、少しずつ謎解きしていきましょうかね。
いや、正確に言えば二日様子を見たといったほうがいいだろう。
翌日も冒険者から思いもしないところに道具があり助かったという話が聞こえてくる。
やはりダンジョンで何かが起きているのは間違いない。
しかもうちの在庫を使ってだ。
すぐに店の在庫全てを確認した所、いくつかなくなっている事が分かった。
薬草や毒消しハーブ、松明や、携帯用の水なんて物もなくなっていた。
もちろん俺達の誰かが使ったとかそういうことはありえないので、何者かに盗まれたと考えるべきだろう。
でもどうやって盗むんだ?
白昼堂々倉庫に侵入するのか?
不可能だ。
もちろん鍵はかかっているし、頻繁に出入りしている。
それに倉庫に行く為にはバックヤードを通らなければならない。
カウンターの内側に冒険者が入るなんてことがない以上もっていけるはずがない。
でも、なくなっている。
全くもって謎だ。
「さて、以上の状況をふまえて入念に準備したわけですが・・・どんな感じですか?」
「やっぱりなくなっているな。」
「今日は何ですか?」
「毒消しハーブと沈静軟膏だ。」
「あとは冒険者の皆さんがちゃんと持って帰ってきてくれるかどうかですが・・・。」
「あれだけお願いしたので大丈夫だと思いますよ。」
二日連続で店のものが無くなった事をふまえ俺達はある事を思いついた。
道具全てに認識タグのような物をつけ、なくなった物が本当に店の物かを確認するのだ。
それはもう大変な作業だった。
何が無くなるかなんてわからないので思いつくもの全てに簡単な印をくっつけていく。
出来るだけわかりやすいところに貼り付け、もしダンジョンでそれを見つけたら印を持って帰ってもらうようにダンジョンに入る全ての冒険者にお願いした。
持って帰ってきてくれれば謝礼を払うとまで言ってある。
恐らく大丈夫だろう。
「冒険者が戻ってくるまでまだ時間がかかる、またなくなる可能性もあるだろう。」
「引き続き監視をお願いします。」
「まかせておけ。」
現行犯逮捕できればそもそもこんな手のかかる事をしなくて良いのだが、犯人は中々尻尾を出さない。
ちょっと目を話した隙に道具がなくなっているのだ。
それはもう忽然と消える。
犯人と考えられるのはやはりあの黒い影だろう。
村でも悪戯が続いているようだ。
怪我人がでるような悪戯ではないが、かなり過激になってきているらしい。
昨日なんかは油壺が倒され、危なく引火する所だったそうだ。
いよいよまずい。
と、いうことで別の手段を講じた所だ。
そっちはそろそろ戻ってくると思うんだけど・・・。
「ただいま戻りました。」
「あ、お帰りなさい!」
「ご苦労様でした、いかがでしたか?」
「特に怪しい場所はありませんでした。残念ながら例の影も発見できていません。」
ちょうど良いタイミングでユーリが森から帰ってきた。
噂システムは健在のようだ。
「ユーリさんすごいんですよ!俺達じゃ気付かないような魔物に遠くからでも気付くんです!」
「素材を見つけるのも上手だし、本当に冒険者じゃないんですか?」
「この森は私の庭のようなものです。皆さんも毎日歩けば私と同じようなことが出来るようになるでしょう。」
「本当ですか!」
「もちろんです、村の子供達にも出来るんですからご主人様にかわり私が保証いたします。」
知らないところでユーリの株が急上昇しているようだ。
さすがユーリ、森のことに関しては右に出る者はいないな。
「依頼料はこちらでお支払いします、それと見つけた素材は買取できますので一緒に出してくださいね。」
「「「ありがとうございます!」」」
そう、別の手段とは冒険者を雇い一気に森を捜索する事。
山狩りならぬ森狩りだな。
初心者冒険者に森の探索という依頼を出し、引率にユーリを派遣した。
冒険者からすれば素材を集めながら森を歩くだけでお金がもらえるんだから願ってもいないだろう。
もちろん先日の三人も参加している。
「あの、欲しい奴は持っててもいいですか?」
「もちろんです。」
「やった!ちょうど薬草切れてたんだよな。」
「買うより安いしこれからは探してから来ようかなぁ。」
「そしたら矢代が浮くし私の代わりに毎日籠もってよ。」
「何で俺だけなんだよ!お前も手伝えよ。」
「イヤよ、この前銀貨見つけたんだし地面を探すのは得意でしょ。」
そういえばそんな事もあったなぁ。
翌朝見つけたポーションの空き瓶を見てもらうと、ダンジョンで見つけた奴で間違いないそうだ。
ダンジョンに置いて来た筈なのにと首をかしげていたっけ。
道具は店の在庫から無くなるとして、あの銀貨は一体何処から出てきたんだろうか。
店のお金はずれてなかったから本当に誰かが落としていたのか、それとも別の何処かから出てきたのか。
それは今も謎のままだ。
「明日も引き続きお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
「けど本当に宿代半額で良いんですか?お金まで貰ってるのに・・・。」
「こちらとしては手を貸してもらえるだけ助かっています。村総出で森に入っても良いんですけど、やっぱり魔物に対応できるのは冒険者の皆さんだけですから。」
参加してくれる冒険者には依頼料の他に宿代や食事代を半額にするなどの特典をつけている。
俺達からすれば安く人出を確保できるし、彼らにしてみればお金を貰いつつ拠点を確保できる。
うちのダンジョンは初心者向けではあるけれど街から遠いのがネックなんだよな。
ここに泊まれば移動時間まるまるダンジョンに籠もれるし、買取や道具の補充などでもメリットが多い。
まさにwin-winの関係といえるだろう。
「俺達でも役に立てるんだな。」
「もっと強くなってもっと役に立つんだから、さぁ行くわよ!」
「うそだろ、もう行くのかよ。少しは休もうぜ。」
「こんな恵まれた環境で何言ってるのよ!強くなりたいんでしょ!」
「なりたいけどよぉ。」
「お世話になっている間は戦えるときに戦いましょう。稼げる時に稼ぐ、ガンドさんに教わったじゃないですか。でも行くのは私たちで対処できる所までですよ。」
そうか、彼らもガンドさんに色々と教えてもらっていたのか。
今頃何をしているのかなぁ。
田舎に帰るって言ってたけど・・・。
腕が動かなくなったとはいえ他の冒険者からしてみれば目標になるような人だ。
ギルドに入って彼らの為に力を貸してくれると思ってたんだけどなぁ。
「それじゃあ行ってきます。」
「無理しないでくださいね、行ってらっしゃい。」
残った冒険者もダンジョンに潜ったり休憩したりと思い思いにすごしている。
森狩りの成果は出なかったようだけど、明日も引き続き頑張っていただこう。
「シュウイチ、また一つ道具がなくなったぞ!」
っと、向こうでも動きがあったようだ。
「今度は何ですか?」
「薬草とロープだ、この目でなくなるのを見た。」
「どんな感じでした?」
「突然ロープが宙に浮き、次いで薬草が浮かんだかと思うと忽然とその場から消えてしまった。」
宙に浮くのか。
透明人間が手にもつとそんな感じになるだろうけど、その場から消えるのは良くわからない。
だけど犯行を確認できたのは大きいな。
「これで盗人説はなくなりましたね。」
「影らしいものもうっすらと見えたから間違いないだろう。」
「あとは戻ってきた冒険者があの印を持って帰ってくるかですね。」
今回無くなったものにももちろん印をつけてある。
さて、どうなることやら。
盗まれているはずなのになんでドキドキするんだろうな。
今回なくなったのは四種類。
はてさて、どんな話が聞けるのかなっと。
「イナバ様、朝言ってた奴ってこれですか?」
「そう、それです!どこにありました?」
そして最初の冒険者が帰ってきたのは夕刻。
手には俺達がつけた赤い印が握られていた。
「通路の真ん中に落ちてました。最初は罠かなって思ったんですけど、聞いてた印がついてたんで。ちょうど後ろのアイツが毒罠踏んだんで助かりましたよ。」
そういいながら後ろを指差した先には申し訳無さそうに頭を下げる仲間の姿があった。
やっぱりか。
「ありがとうございます。素材の買取と一緒に提出してください、査定金額と合わせてお支払いします。」
「でもいいんですか?道具まで貰っちゃってしかもお金まで、俺達はありがたいんですけど・・・。」
「いいんです。見つけてくれただけで十分元は取れましたから。」
最初に見つかったのは毒消しハーブにつけた印だった。
その後も帰還した冒険者がなくなった四つ全てを発見、持ち帰ってくれた。
よし、これで確認も取れたな。
間違いなくうちの在庫が見えない何かによってダンジョンに持ち去られ、全て冒険者に届けられている。
しかも、『それを今必要としている冒険者』に。
面白いじゃないか。
まるで神様が苦しんでいる冒険者を助けるみたいだ。
最初は悪戯かただの盗人と思っていたけれど、話しを聞いているうちに持ち帰った全員が何かしらのトラブルを抱えていたことが分かった。
毒罠にかかった、落とし罠に落ちた仲間を助けるのにロープが足りない、敵に囲まれて薬草が尽きた、喉が乾いたなんてのもあったな。
ともかく道具を見つけた冒険者全てが『今』それを必要としていたということだ。
一体誰がそんな事をしているんだろうか。
確かにこのダンジョンは生還してもらう事を前提として作っているが、中に潜った冒険者を助ける事はしない。
それはダンジョン商店の禁忌だからだ。
ダンジョンの中は自己責任。
例え女子供であっても冒険者として入ったのであれば助ける義理は無い。
そういう世界だ。
にもかかわらずそいつは冒険者を助けて回っている。
うちの在庫を勝手に使って。
自前でやってくれるなら文句言わないよ?
自分で道具を買い込んで冒険者に高く売ろうがタダであげようが俺の知ったこっちゃ無い。
ちゃんとうちで購入してくれるなら文句は言わないさ。
でもさ、そいつは勝手に道具を持ち出している。
それは非常によろしくない。
冒険者は助かったかもしれないがこっちとしては利益が上がらない。
むしろ大赤字だ。
人助けはいい事だけど、やりかたがまずいよな。
相手が誰であれお灸を据える必要があるだろう。
問題は姿の見えない相手をどうやって捕まえるかだけど・・・。
どれ、ちょっと知恵を絞ってみましょうか。
「それで、シュウイチはどうするつもりなんだ?」
店に戻ってからもひたすら知恵を絞り続ける。
夕食の最中も考えていたらさすがに怒られてしまった。
だがその甲斐あって一つの作戦が浮かんだわけなんだけど・・・。
「ご主人様の事ですからもう何かしらの作戦は考えておられるのでしょう。」
「一応考えてはありますが、成功するかどうかは分かりませんよ。」
「でもやらないと何時までも道具が消えてしまいます。損失を出し続けるのはよくありません。」
「私としては冒険者が助かるのは嬉しいですが、やっぱりお商売としては許容できませんね。」
エミリアとニケさんもご立腹だ。
うちの奥さんたちを怒らせると怖いんだぞ。
「そうですね、いくら冒険者の為とはいえ無料で奉仕するわけには行きません。」
「でもどうするんですか?相手は姿が見えない上にダンジョンの中を自由に行き来できるんですよ。」
「問題はそこなんです。」
「さすがの私でも幽霊を捕まえる事はできんぞ。そういったことは魔術師に任せていたからな。」
そりゃそうか。
実体がないんじゃ切り付けても意味ないもんな。
効果があるのは非物理攻撃、すなわち魔術だ。
「無理です!」
「エミリア、まだ何も言っていませんが・・・。」
「だってシルビア様が出来ないのであれば私しかいないじゃないですか!」
「リア奥様落ち着いて下さい、まだ幽霊と決まったわけではありません。」
「だってシルビア様が!」
「言葉のあやだ、落ち着けエミリア。」
アンデットとか死霊系の魔物とかが出たらどうするんだろうか。
エミリアのことだから泣きながらでも焼き払いそうなものだけど、まずは逃げるのかなぁ。
「仮に捕まえられるとしてどうやっておびき出すんですか?」
「ニケ殿の言うとおりだ。捕まえるとしてもいつ出てくるかわからなければ対処のしようがないぞ。」
「勿論それも考えて有ります。というか、それしか考えていません。」
「どういうことでしょう。」
「ユーリに聞きたいんですけど、ダンジョンを移動をするためには転送装置を使う他ないんですよね?」
「普通はそうなります。」
「ダンジョンマスターである私であっても転送装置を使うしかない。でも、ダンジョン妖精はどうなんですか?」
ダンジョンの移動は勿論徒歩だ。
各10階層ごとに転送装置があるのでショートカットはできるが、その途中の階層に行くためには歩いていかなければならない。
ダンジョンマスターだからといって好き勝手に移動できるわけではないのだ。
それは俺がただの人間だから。
「ダンジョン妖精であれば各階層毎に移動することができます。ダンジョン整備が仕事ですからね、好きな場所に行く事は出来ませんがそれに近いことは出来るでしょう。」
「ちなみにユーリは出来るんですか?」
「申し訳ありません、私は人工的に作られたダンジョン妖精ですので御主人様同様転送装置を使っての移動しかできません。」
「それは何故でしょうか。」
「人と同じく実体を伴っているからです。」
「つまり本物のダンジョン妖精は実体を伴っておらず、かつダンジョン内を好きに移動できるわけですね?」
「なるほどそういうことですか。」
ユーリがなるほどという感じでうなずいた。
よかったどうやら俺の考えが伝わったようだ。
「二人とも満足そうな顔をしているが私たちにもわかるように説明してくれないか?」
「あぁ、すみません。」
いけないいけない。
俺とユーリは以心伝心だけど他のみんなはそうじゃないんだった。
「御主人様は『本物のダンジョン妖精』が犯人だと疑っておられるのです。」
「「「本物のダンジョン妖精?」」」
全員の頭の上にクエスチョンマークが飛び出すのが見えた。
今絶対に出てる。
しかも結構派手なやつだ。
さて、少しずつ謎解きしていきましょうかね。
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【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
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平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
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貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
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貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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