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第十二章

彼らの危機を救ったのは誰?

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 集めてもらった分と追加で集めた情報をまとめるとこうだ

『正体不明の黒い影が森の中で目撃されており、目撃されてからというもの村の中で不可解な出来事が多発している。倉庫が荒らされる、備蓄食料が減っている、洗濯物が汚される、防火用の汲み置きの水がこぼされている等々』

 子供の悪戯程度のものではあるが一歩間違えば大事になる可能性だってある。

 現に作付け用の麦袋の件はねずみにでも食べられたら大変だし、防火用に貯めてあった水がなくなっていたら初期消火に支障が出る。

 今のところ問題になっていないだけで、話しを聞くとかなりの数の悪戯が発生しているようだ。

 もちろん子供達が疑われもしたが、子供がいない時間にも発生しているので犯人とは言いがたい。

 一応確認してみるも子供達は全員否定している。

 全員で首をかしげているとセレンさんを迎えに来たウェリスがやってきた。

「おいおい辛気臭い顔して一体何事だ?」

「お前も噂ぐらい聞いているだろう、怪しい影が森に出ているのだ。」

「あぁ、森の中に子供ぐらいの影があるってやつだろ?」

「見たのか?」

「子供かと思って探しに行ったが何もいなかった。水路にでも落ちて怪我されたら面倒だろ?」

「良い心がけだ。」

 影が出没しだしたのはここ数日。

 被害は拡大するばかりだ。

 しかも話を聞いている間にも取り込んだはずの洗濯物がひっくり返される事件が起きた。

 もちろん目撃者はいない。

 少し目を話した隙の犯行だ。

 子供達は森に行っていて近くにおらず強い風が吹いたという事もない。

 一体何がどうなっているのやら。

 幸い商店の方は新しい被害は出ていないようだけど、油断できないだろう。

「冒険者は何か言っていましたか?」

「皆さんそのような影は目撃していないそうです。」

「そうですか。」

「あの、もしかして今朝調理場に落ちていたお野菜はその何かのせいなんでしょうか・・・。」

「そんな事があったんですか?」

「てっきりどなたかが調理場を使ったとばかり思っていたんですけど、違うみたいですね。」

 洗い物を終えたセレンさんから新たな証言を得る。

 今度は野菜か。

「ウェリス、作業場では何か変わった事は起きていませんでしたか?」

「こっちは特にないとおもうが・・・まてよ、そういや脇に積み上げておいた石が崩れていたな。」

「石が崩れた?」

「水路を作る邪魔をしていた奴なんだが、質が良いんで他に使い道が出来るまでと思って腰の高さぐらいまで積み上げておいたんだ。それが今朝行くと膝の高さぐらいにまで崩れていた。ガキの悪戯だと思って注意するつもりだったんだが、よく考えればあいつ等に動かせるような力はないか。」

「けが人が出なくて何よりと思うべきか、それともまたかと思うべきか。判断に悩むな。」

 仮に子供の悪戯であれば大事になっていた可能性もある。

 危ないから近づくなと言い聞かせてあるけれど子供のすることだからなぁ。

 とはいえ子供の悪戯でない事は間違い無さそうだ。

「今日のところは様子見ですね、明日も被害が出るようでしたら一度森を捜索した方が良いかもしれません。」

「冒険者の皆さんに手伝っていただくのはどうでしょうか。」

「それも考えるべきだろう。だが彼らがタダで動いてくれるかは難しい所だな。」

「巡回ぐらいなら俺達にも出来るが、そうだな魔物だった事を考えると冒険者向きの仕事か。」

 商店からの依頼ということで人を集めてもいいだろう。

 村のほうが被害は多いが、こっちもゼロというワケではない。

 素材集めの依頼とかゲームでは定番だからな。

「あー、やっとかえってこれたー!」

「だから言ったでしょ、あそこで引き帰すべきだって!」

「まぁまぁいいじゃないですか、こうやって無事に帰って来れたんですから。」

 威勢の良い声に後ろを振り返ると三人の冒険者が戻ってきたようだ。

 男二人の女一人。

 見覚えがある、確か初心者だったはずだ。

「お帰りなさい、無事で何よりです。」

「ただいま戻りました!」

「お疲れでしょう、どうぞこちらに今飲み物を準備しますから。」

「でももうすぐ閉店じゃ・・・。」

「その感じですと今日は宿泊されるのでしょう?素材の買取もあるでしょうからおまけしますよ。」

 外はもう薄暗くサンサトローズに戻るのは難しい。

 となると彼らに残されたのは野宿するか宿泊するかだが、素材の買取で多少懐は潤うだろうし宿泊する事は間違いない。

「やった!」

「ありがとうございます!」

 シュリアン商店のモットーは『初心者を大切に』だ。

 未来の上顧客様になるかもしれない大切なお客様だからね、少しぐらいはサービスしないと。

 ユーリに目で合図すると小さく頷いて飲み物の準備に向ってくれた。

 え、セレンさんじゃないのかって?

 もう終業時間です。

「では素材をお預かりします。」

「その間に裏の井戸で返り血を流して来い、なんだ持ち手がずれてるじゃないか治してやるから置いていけ。」

「そんなシルビア様にそこまでしてもらうなんて・・・。」

「命を預かる武器が曲がったままなのが許せないだけだ、ほらいったいった!」

 シルビア様に追い出されるように三人が裏口に消えていく。

 戻ってくる頃には飲み物と一緒に査定結果が上がっている事だろう。

 皆仕事が早い。

「随分世話を焼くんだな。」

「未来のお客様ですからね。」

「なるほど金をせしめる為か。」

「間違いじゃないですけどもっとマシな言い方ないですか?」

 酷い言われ方だが間違ってはいない。

 彼らが落とすお金でこっちは潤っているんだ、大切にしない理由は無いだろう。

「さて、今のうち部屋の準備をしてしまいましょう。」

「すみませんイナバ様。」

「セレンさんはどうぞお気をつけて、ウェリス大丈夫だとは思いますが念の為に気をつけてください。」

「わかっている。」

 二人を見送り部屋の準備を済ませるとちょうど冒険者が帰ってきたところだった。

「お水ありがとうございました。」

「寒かったでしょう。」

「そのままよりも全然マシですよ!」

「湯浴みはもうちょっと稼げるようになってからにします。」

「殊勝な心がけだな、ほら出来たぞ。」

「うわ!ピカピカだ!」

「傷の入り方にムラがある、しっかり腰を入れて武器に振り回されるな。」

「はい!」

 シルビア様が前衛の子にレクチャーをし始めた。

 なんだかんだ良いながらも面倒見が良いからなぁ。

「お待ちの間にこちらをどうぞ。」

「あ、温かい香茶だ!」

「はぁ、生きて帰って来てよかった。」

 ユーリがタイミングよくお茶を差しれる。

 一口飲んだ瞬間に二人の方から力が抜けるのが分かった。

 装備から見るに僧侶と女性のほうは弓師か。

「随分頑張られたようですね。」

「ほんと、危ない所でした。」

「宝箱が見えたからって勝手に部屋に飛び込むからいけないんだよ。」

「だってよぉ。」

 どうやら前衛の彼が宝箱に惹かれてしまったようだ。

 その気持ち分からなくも無い。

「宝箱の横にポーションがなかったら今頃ここでお茶なんて出来なかったんだから。」

「宝箱の横に?」

「そうなんです!」

 はて、そんな所に用意しただろうか。

 宝箱の中に入れる事はあっても外に出しておく事はしないからもしかしたら別の冒険者かもしれないな。

「その前は携帯食料が置いてあったし、今回は結構ツイてたよな。」

「でもさ、普通落ちてるもの食べる?」

「ちゃんと袋に入ってたし鑑定で確認しただろ?」

「確かに新鮮なチーズだったけどさぁ・・・。」

「それも宝箱に?」

「いえ、罠の手前に落ちてました。手に取った瞬間に落とし罠が作動したのはビックリしましたけど、アレがなかったら危なく落ちるところでした。」

 うーむ。

 罠の前に携帯食料が置かれていたのか。

 ポーションといい偶然にしちゃ出来すぎだよなぁ。

 俺もそんなところに置いたことは無いし、普通に考えればダンジョンで食料やポーションを誰かの為に用意するなんてありえない。

 ポーションなんて銀貨1,5枚もする高価なものだ。

 うちみたいな初心者御用達のダンジョンでそんな余裕のある人がいるとは考えにくいんだけど。

 謎だ。

「お待たせしました素材の買取は全部で銀貨4枚と銅貨60枚ですね。」

「「「そんなに!」」」

「ポイズンスパイディの毒腺は剥ぎ取りが難しいので買取も銀貨1枚と高めなんです。よくここまで綺麗にできましたね。」

「なんだよ、そんな事ならもうちょっと倒せばよかった。」

「そんな事言って、私の弓がなかったら近づくことも出来なかったくせに。」

「う、うるせぇ虫は苦手なんだよ!」

 あ、虫嫌いなんだ。

 それで前衛は大変じゃないかなぁ。

 頑張れ男の子!

「宿泊代は三人で銀貨1枚と銅貨20枚なので差し引いて銀貨3枚と銅貨40枚お納め下さい。」

「ありがとうございました。」

 1日頑張って一人1万円とちょっと。

 金額からすると多いように見えるけど命を掛けていると考えればまだまだ少ないな。

「使った矢代と各種消耗品は割り勘でいいよね?」

「あ、整備代!」

「私が勝手にやったんだ、それは気にするな。」

「ありがとうございます!」

「あー、いいなぁ。矢代結構かかるんだよね。」

「僕がもう少し聖水を作れたらよかったんだけど。」

「いいのよ、もう少し強くなったらお願いするから。それまでは薬草で頑張りましょ。」

 そうか、さっきの収入から更に諸経費を引かないといけないのか。

 某MMOやっている時も火の矢とか銀の矢買うのに結構お金掛かったもんなぁ。

 一発レアが出れば元は取れるけど経験値欲しさにドロップの不味い所行ったら赤字とかよくあるもんな。

「携帯食料と水と松明と・・・次の準備をしたら残りはこれだけか。」

 お金が右から左にどんどんと流れていく。

 結局最後に残ったのは銀貨1枚と銅貨20枚。

 一人頭四千円の稼ぎだ。

「あー、お金落ちてないかなぁ。」

「落ちてるわけ無いでしょ。」

「ほら、机の下に誰かが落としてるとか。」

 そういいながら前衛の彼が机の下に頭をつっこむ。

「あった!」

「馬鹿そんな事あるわけ無いじゃない、ってあるの!?」

 彼の声に全員が机の下を覗き込むと足元には銀色に光る硬貨が1枚。

 嘘だろ。

 そんな偶然あるか普通。

「銀貨だ。」

「だめよ、お店の中なんだからお店のものでしょ。」

「えー、嘘だろ折角見つけたのに・・・。」

 まるで迷子の子犬のような目で彼が俺を見つめてくる。

 そんな目で俺を見るなよ。

「私は何も聞いていません、ねぇシルビア。」

「あぁ何も聞いていないぞ。」

「私も何も聞いていません。」

 シルビア様とユーリが知らん顔をする。

 それがおかしくて思わずエミリア達と一緒に笑ってしまった。

 その後は三人を部屋に案内してその間に閉店作業だ。

 お金を合わせて在庫を確認してっと。

「あれ?」

「どうしましたシュウイチさん。」

「ポーションの在庫が合わないんです。」

「ポーションが?」

「確かにシャルちゃんからポーションを10個買取ったんですけどそれが一つ見当たらないんです。」

 ポーションには誰が作ったかわかるように入れ物に記号が入れてある。

 朝10個買い取って一個も売れていないから丸々残っているはずなのに、なぜか一つなくなっていた。

「よく探したのか?」

「ここにしかおいていませんから間違いありません。」

 ポーションを入れた箱にはちょうど一つ分の空白がある。

 おかしいなぁ。

 ふとさっきの話が頭を掠めたけれど、まさかダンジョンの中にポーションが跳んでいくわけがないし気のせいだろう。

「倉庫にまぎれてしまったんでしょうか。」

「明日また確認してみます。」

「念の為他のも確認した方が良いかもしれませんな。」

 身内で管理しているので誰かが盗んだとも考えにくい。

 もちろん盗まれることもありえない。

 にもかかわらず見当たらないのはちょっと不気味な話しだ。

「噂の影のせいでしょうか。」

「案外そうかもしれませんよ。」

「もぅ、やめてください!」

 おっと、エミリアはそっち系が苦手だったな。

 気を付けよう。

「御主人様、泊まられる皆さんの夕食準備が終わりました。」

「ありがとうユーリ。」

「明日は念の為森の巡回をしたいのですが・・・。」

「わかりましたダンジョンの整備は任せてください。」

「お願いします。」

 ダンジョンも大切だが今は森の方が気がかりだ。

 ここはユーリに任せるのが一番だろう。

 ってことは明日は村には行けないな。

 何かあったらシルビアに行ってもらえばいいか。

「シュウイチさん、こっちは全部終わりました。」

「戸締りも大丈夫です。」

「みんなは先に戻ってください、夕食の片づけが終わり次第帰ります。」

「すまないな。」

 宿にお客さんがいる時は俺が残ることにしている。

 防犯上女性を一人残すわけにはいかないからね。

 それが例えシルビアであってもだ。

 先に戻る皆を見送り、もう一度戸締りを確認する。

 入り口良し、窓よし、お店よしっと。

「それじゃ皆さんを呼んできますかね。」

 夕食を机に並べ二階に上がろうとしたその時だった。

 黒い塊が視界の隅をさっと通り過ぎる。

 慌てて目で追ったがそこにあるのはただの壁。

 まさか、な・・・。

 念の為影が通り過ぎたであろう店の隅を確認しに行く。

「あれ?」

 そこには空になったポーションの入れ物が転がっていた。

 手に取ってみると入れ物にはシャルちゃんの記号が彫ってある。

 どこかに消えたはずのポーション。

 中身は空っぽ、割れて漏れた感じでもない。

 使用済みなのは間違いないけどどうしてこんな所にあるんだろうか。

 っていうかここはさっきも確認したはずだ。

 あの影がこれを持って来た?

 しかもダンジョンの奥から?

 謎はますます深まるばかりだ。

 一つだけ言える事はある。

『黒い影は確かに存在する』

 だがその正体はまだわからないままだ。
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