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第十章
ダンジョン商店だからできる事
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伝言は頼んだ。
後は準備をするだけなのだが、上手く行くかなぁ。
「ユーリ、冬には拡張できるぐらいには魔力が貯まっているといっていましたね。」
「はい。必要最低量は確保しております。」
「余剰分は多いですか?」
「多いかと聞かれれば微妙ですが、魔物を召喚するぐらいには残っています。」
「かなり大量に召喚できるぐらいに?」
「魔物の強さ次第でしょうか。」
ジュエルジェリーがどれぐらいの強さなのかは分からないが、初心者でも狩れるぐらいだしそこまで要求されないだろう。
「先程モア君に伝言を頼んだように、ジュエルジェリーを大量に召喚しようと思っています。」
「大量というのはどのぐらいでしょうか。」
「出来れば300以上。」
「300ですか、それはまた凄い量ですね。」
「可能ですか?」
「可能ではあります、ありますが余剰分は軽く使い切ってしまうかと。」
ですよねー。
ちょっと多すぎるよねー。
でもそれぐらいしないと予定数に達しないかもしれないんだ。
「何故それほどに必要なのだ?」
「冒険者にお願いして集めてもらっていたんですが、皆さん新しいダンジョンに行ってしまって計画が狂ってしまったんです。」
「それで自前で準備しようというワケか。」
「いくら弱い魔物とはいえ何処にでもいるわけではありませんし、探すだけでも時間がかかります。その点ダンジョンであれば探索する距離は短くて済みますし、こうやって出現数を操作することもできますから。」
短時間で集めるにはダンジョンがもってこいだ。
ソシャゲでよくある〇〇ダンジョンってやつだな。
ある一定期間は指定された魔物の出現率がUPするってやつ。
「確かにご主人様であれば可能ですが正直に言いましてかなりの魔力を消費します。拡張がずれ込む事になりますが本当によろしいのですか?」
「どれぐらいずれ込みます?」
「このまま冒険者が減れば春先ぐらいまでずれ込むかと。」
マジか。
まるまる一節分の魔力を使うことになるのか。
それは迷うなぁ。
でももうやるって行っちゃったし。
これは想定外だ。
「それはあくまでも冒険者が減った場合ですよね?」
「その通りです。」
「この間までの感じで冒険者が増えた場合はどうですか?」
「それでも冬の草期まではずれ込むでしょう。」
予定よりも二期ずれ込む感じだがこれならまだいける。
次の拡張を終えればノルマ達成だし、春の終わりまで期限があると考えれば十分余裕は残している。
問題は冒険者が戻ってきてくれるかだが、やるしかないだろう。
「そのぐらいであればまだ許容範囲ですね。」
「本当に大丈夫なのか?」
「いざとなったら上級冒険者を呼び出して毎日通ってもらいますよ。」
「その方法がありましたか。」
「知り合いに二人しかいませんけどね。」
ガンドさんとジルさんならきっと手伝ってくれる。
毎日は大変だろうから定期便ごとでも良い。
なんならまた障害物競走を企画して冒険者を集めたって良い。
大丈夫だ、今まで積み上げてきた人脈を信じよう。
「しかしなぜそこまでする必要がある。身を削ってする必要がそこまであるのか?」
「今回の企画の趣旨は貧困者が少しでも減ればという事ですが、シルビアは貧困者と聞いてどんな想像をしますか?」
「そうだな、仕事につけなかったり立場の弱い女子供、高齢者という感じか。」
「つまり若者や働ける者は貧困者ではない?」
「働けるのならばそうだろう。」
まぁそれが普通のイメージだろう。
働けるなら働いてお金を稼げば貧困から脱することができる。
でもそれはあくまでも想像上の話だ。
「では、初心者冒険者が日々どれぐらいの稼ぎで生きているのかはご存知ですか?」
「初心者か・・・、弱い魔物もいるし生活はできているのではないか?」
「本当の初心者は上手く魔物を狩ることもできず、怪我や死の恐怖からなかなか依頼をこなすことができません。安全な仕事ではどうしても稼ぎが低く、一日の稼ぎは銅貨50枚にも満たないでしょう。」
「それでは生活していくのがやっとではないか。」
「その通りです。一日に使う生活費が平均銅貨50枚。宿に泊まればそれぐらいかかります。つまり、それ以下の稼ぎの場合は宿も使わず食事も削り屋外で生活しているんです。」
目に見えない貧困。
これは元の世界でも問題になったことがあった。
ネカフェ難民というキーワードで注目を浴びた事もある。
仕事をしていながらも稼ぎが少なく結果、貧困者と変わらない生活を余儀なくされる。
ワーキングプアと呼ばれる人たちだ。
確か年収300万以下がそうなるんだっけ?
確か元の世界だとそれぐらいの稼ぎだった気がするが・・・いや、今は思い出さないでおこう。
悲しくなる。
「つまりシュウイチはそう言った者達も救いたいのだな。」
「その通りです。冒険者であれば私の手の届く範囲で支援することができますから。」
「それで自分のダンジョンに魔物を増やすのか。」
「核は買取の対象になりますし、今なら討伐依頼も出てかなり美味しい仕事になっています。初心者の初心者でも複数人で戦えば危険の少ない魔物ですから、彼らの生活の足しになる事でしょう。」
「ですがそれでは御主人様だけが損をするのではないですか?」
「何故です?」
「買取をし、討伐依頼の報酬も出せばお金だけが出て行ってしまいます。」
まぁ普通に考えればそうなるな。
でもそうじゃないんだなぁ。
「もちろん買い取りはしますし報酬も出します。ですがそれはあくまでもうちの買取金額と報酬であって、冒険者ギルドの価格ではありません。私達はそれをもってギルドに行き、ギルドで報酬を受け取ります。」
「つまり差額を頂戴するわけか。」
「立て替えと言っていただけると嬉しいですね。まぁ、差額をいただくのは間違いありませんけど。」
「ですが魔力は出て行ったままです。」
「魔力に関しては、彼らが噂を流し冒険者を呼んでくれれば回復することができます。彼らは未来ある冒険者、いずれここに帰って来てたくさんの魔力を落としてくれることでしょう。」
リピーター獲得大作戦という奴だ。
ついでに口コミで集客アップも狙っている。
これぞ一石二鳥という奴なのだよ!
「シュウイチが出来るというのであれば出来るんだろうな。」
「何とかなります、いえ何とかします。」
「では至急召喚の準備を致します。もう一度確認しますが本当によろしいのですね?」
「もちろんです。」
「わかりました。召喚時期はご主人様にお任せしますので決まりましたらお声掛け下さい。」
「わかりました。」
今召喚しても中にいる冒険者に迷惑がかかるだけだ。
弱い魔物とはいえいきなり大量にわいたら困惑するだろう。
モア君からティナさんに情報が行き、それから冒険者が来るのが早ければ今日の夕方。
俺は結果を確認できないけど、成功すれば大量に買取った核をエミリア達に持って来てもらえるというワケだ。
大丈夫、成功する。
「では私は下に戻る、そろそろ昼食の時間だし根をつめず少しは休めよ。」
「ありがとうございます。」
向こうは全員出払っているし、シルビア様の言うとおり休憩するか。
「レミナさん、切断してもらって大丈夫ですよ。」
声をかけても反応しないので身体をゆすって終わりを知らせる。
虚空を見つめていた瞳に光が戻り、レミナさんは大きく伸びをした。
「あ~おなかすいた。今日も早かったですね。」
「会議で話し合う内容はほぼ終わりましたから後は向こうが頑張ってくれます。」
「じゃあ念話はおわりですか?」
「日が暮れたら私はサンサトローズに向います、エミリア達も明日閉店後に向かうのでレミナさんも一緒に同乗してください。短い間でしたが大変お世話になりました。」
「えぇ!と言う事はもうここに泊まれないんですか?」
「そうなります。」
やはり寝床の心配をしましたか。
そうだよなぁ、追い出された事を考えるとここに居たいと言うよな普通。
「うぅ折角美味しい御飯に寝心地の良いベッドを手に入れたのに、これからどうすれば。」
「ププト様から報酬を戴くでしょうしそれで家を借りたらどうですか?」
「そうしたら御飯を自分で作らないといけないじゃないですか。」
「そうなりますね。」
「私、御飯作るの大の苦手なんですよ。」
いや、知らんがな。
「練習されてはどうですか?」
「しましたよ~、でも中々上手にならないし~美味しくない御飯ばっかりで気分は重たくなるし~。お願いします、ここに置いてくださいよ~、なんでもしますから~。」
出た、レミナさんの暴走モード。
切迫しているはずなのに間延びした声の為にそう感じないのがミソだ。
何でもするって言われても、残念ながら今うちが求めている人材ではない。
同時念話通信は魅力だけど、それも向こうに居る弟さんあってのものだし。
そうだ、弟さんが居るじゃないか。
「弟さんと一緒に暮らすのはダメなんですか?」
「それはとっくの昔に断られたんです~。」
「あ、そうでしたか。」
まぁそうだよね。
こんなめんどくさい姉と一緒に暮らしたくないか。
「お願いします~、野菜も残さず食べますから置いてください~。」
「この企画が終わるまでというお約束でしたので申し訳ありません。」
「そこをなんとか~。」
「申し訳ありません。」
こうなる事は予想済みだ。
ここで俺が負けるわけには行かない。
それに俺が出発した後もお断りするようにエミリア達には言い聞かせてあるから大丈夫だろう。
「うぅ、明日からどうやって生きていけば。」
「とりあえず食事にしませんか?おなかすいては良い考えも浮かんできませんから。」
「そうします~。」
とりあえずこの場は食事で釣って逃れるとしよう。
俺も頭を使ってお腹が空いて来た。
今日は何かな。
レミナさんと共に階段を降りるとなにやら良い匂いが漂ってくる。
これは何だろう、お肉を焼いた感じじゃない。
煮込み料理だろうか。
シチューかな?
「いい匂いがしますね、今日は何ですか?」
「イナバ様お疲れ様です。今日は先日食べたニコミグバハーンを作ってみました。」
「グバハーン!あの王都で有名な中々予約できないあのグバハーンですか!?」
セレンさんの返事を聞いた瞬間にレミナさんのテンションが一気に上がる。
やはり有名なのか、グバハーン。
ジルさん達にも紹介したけど、ちゃんと食べれたかな?
「本物ほど美味しいかはわかりませんが・・・。」
「セレン様大丈夫です、味見しましたが本家にも引けを取らない味でした。」
「よかった、妊娠してから味覚が変わってしまってちょっと心配だったんです。」
「無理しないでくださいね。」
「大丈夫です、疲れたらすぐに休ませて貰っていますから。」
セレンさんが大丈夫なら別に良いんだけど。
ユーリがしっかり見ててくれるから大丈夫か。
「我慢できません!二人前、いえ三人前お願いします!」
「沢山ありますから慌てなくても大丈夫ですよ。」
「私も一緒にお願いします。」
「ご主人様はどのぐらい食べられますか?」
「私は一人前で十分です。」
「かしこまりました。」
この後も予定が盛りだくさんだ。
ちゃんと食べて英気を養わないと。
昼食後、満腹のレミナさんは自室で休憩。
俺はユーリと一緒にダンジョンの最下層にいた。
整備だけなら店でも出来るが、例の部屋でオーブに触れながらでなければ召喚できない。
ダンジョンマスター権限で一気に最下層まで移動し、ユーリと共に例の部屋に入る。
「召喚準備は出来ております。後はオーブに触れていただき召喚する魔物の種類を決定、数を決めていただければ召喚完了です。」
「そういえば私個人で召喚するのは初めてですね。」
「そうですね、いつはもご主人様の指示で私が召喚しておりましたので。ですがさすがにこの量は私の権限を越えておりますのでご主人様にしていただく必要があります。」
「いつもありがとうございます。」
「これもダンジョン妖精の仕事ですので。」
ほんと、頼りになります。
ユーリが居なかったらここまで自由にあれこれ出来なかったなぁ。
整備から管理調整召喚と本当はしなければいけない仕事が盛りだくさんだ。
それを全部ユーリに丸投げ出来ているからこそ、こうやって仕事以外の事に手を付けることができる。
もしユーリが居なかったら、今頃冒険者が増えずにかなり苦しい状況を迎えていただろう。
「じゃあ始めましょうか。」
俺はいつものようにオーブに手を乗せる。
するとそれに反応するようにオーブが青く輝き、ダンジョンの状況が光学MAPのように表示される。
店にあるのは簡易の管理装置なので表示が平面なのだが、こっちは本家なのでしっかりと立体だ。
お、冒険者が魔物と戦っている。
現在8階層か。
その深さなら召喚しても邪魔になる事は無いだろう。
「どの階層に召喚しますか?」
「第一階層から第五階層までにしましょう。第一から第三に200、第四と第五に50ずつ召喚します。」
「わかりました。」
まるでSF物のオペレーターのようにユーリが光るマップに手を触れる。
その度にMAPが小さくひかり、触れるたびに魔物の表示が増えていった。
あれ、召喚って案外簡単?
「まだ召喚にはいたっておりません、あくまでも場所を決定しているだけです。」
「では奥まった路地などに多めに配置してください。戦闘中に他の魔物に襲われる可能性が減ります。」
「相変らずご主人様は甘いですね。」
「あはは、本当はドンドンと冒険者を倒していかないとダメなんですけど。今回は目を瞑ってください。」
「今回はではなく、毎回です。」
ダンジョン商店のモットーは冒険者に優しくだ。
管理者としては冒険者を迎撃し、遺体から魔力を抜き取るのが一番効率良いのだがそれではリピーターが増えず商売が行き詰る。
商売もしつつ冒険者からも魔力を貰いつつと絶妙な加減でダンジョンを運営しなければならないのだ。
初心者でこんな縛りプレイする奴中々居ない。
「場所はこんな感じでよろしいですか?」
「大丈夫です。」
「では召喚する魔物を選びます、名前を言うだけで大丈夫ですのでお願いします。」
「ジュエルジェリー。」
俺の言葉に呼応するようにオーブが緑色に光り、先程ユーリが指定した召喚場所が点滅を始める。
「ジュエルジェリー確認できました、個体数は300。召喚しますか?」
「お願いします。」
「では強くオーブを握ってください。それで終わりです。」
「え、それだけ?」
もっと儀式か何かがあると思ってたんだけど違ったようだ。
ちょっと拍子抜けだな。
ともかく召喚しないと。
俺はユーリに言われたようにオーブを強く握り締めた。
その途端にオーブが真っ赤に光だし激しく点滅を始める。
えっと、これってなんだかやばくない?
「ユーリ?」
「召喚は完了しました。え?魔力の供給源が違う。そんなはずは・・・まって、それを使っちゃダメ!」
いつものユーリとは違う焦ったような声が聞こえる。
こんなユーリもまた可愛い・・・。
なんて思っていると、突然全身から何かが吸い取られていくような感覚が襲ってくる。
ちょ、なんだこれ。
力が入らないんだけど。
まるで全身の血が抜かれていくように身体の感覚がどんどんとなくなっていく。
「ご主人様手を!」
いや、手をって言われても力が入らない上に吸い付いたように離れてくれない。
「失礼します!」
そんな俺の状況を察したのかユーリが俺の手を両手で掴み、渾身の力でオーブから手を引き剥がした。
ベリベリという音が聞こえたような気がする。
完全に手が離れると、先程まで赤く点滅していたオーブが再び緑色に戻った。
全身を虚脱感が襲う。
だんだん意識が遠のいていく。
「ご主人様、ご主人様起きてください!」
起きてくださいって言われても無理。
目が開かない。
あれ、もしかしてこのまま死んじゃう奴ですか?
なんだか良くわからないけど、とりあえず苦しくないから良いか。
床に倒れ込むよりも早く俺の意識はどこかに消えた。
後は準備をするだけなのだが、上手く行くかなぁ。
「ユーリ、冬には拡張できるぐらいには魔力が貯まっているといっていましたね。」
「はい。必要最低量は確保しております。」
「余剰分は多いですか?」
「多いかと聞かれれば微妙ですが、魔物を召喚するぐらいには残っています。」
「かなり大量に召喚できるぐらいに?」
「魔物の強さ次第でしょうか。」
ジュエルジェリーがどれぐらいの強さなのかは分からないが、初心者でも狩れるぐらいだしそこまで要求されないだろう。
「先程モア君に伝言を頼んだように、ジュエルジェリーを大量に召喚しようと思っています。」
「大量というのはどのぐらいでしょうか。」
「出来れば300以上。」
「300ですか、それはまた凄い量ですね。」
「可能ですか?」
「可能ではあります、ありますが余剰分は軽く使い切ってしまうかと。」
ですよねー。
ちょっと多すぎるよねー。
でもそれぐらいしないと予定数に達しないかもしれないんだ。
「何故それほどに必要なのだ?」
「冒険者にお願いして集めてもらっていたんですが、皆さん新しいダンジョンに行ってしまって計画が狂ってしまったんです。」
「それで自前で準備しようというワケか。」
「いくら弱い魔物とはいえ何処にでもいるわけではありませんし、探すだけでも時間がかかります。その点ダンジョンであれば探索する距離は短くて済みますし、こうやって出現数を操作することもできますから。」
短時間で集めるにはダンジョンがもってこいだ。
ソシャゲでよくある〇〇ダンジョンってやつだな。
ある一定期間は指定された魔物の出現率がUPするってやつ。
「確かにご主人様であれば可能ですが正直に言いましてかなりの魔力を消費します。拡張がずれ込む事になりますが本当によろしいのですか?」
「どれぐらいずれ込みます?」
「このまま冒険者が減れば春先ぐらいまでずれ込むかと。」
マジか。
まるまる一節分の魔力を使うことになるのか。
それは迷うなぁ。
でももうやるって行っちゃったし。
これは想定外だ。
「それはあくまでも冒険者が減った場合ですよね?」
「その通りです。」
「この間までの感じで冒険者が増えた場合はどうですか?」
「それでも冬の草期まではずれ込むでしょう。」
予定よりも二期ずれ込む感じだがこれならまだいける。
次の拡張を終えればノルマ達成だし、春の終わりまで期限があると考えれば十分余裕は残している。
問題は冒険者が戻ってきてくれるかだが、やるしかないだろう。
「そのぐらいであればまだ許容範囲ですね。」
「本当に大丈夫なのか?」
「いざとなったら上級冒険者を呼び出して毎日通ってもらいますよ。」
「その方法がありましたか。」
「知り合いに二人しかいませんけどね。」
ガンドさんとジルさんならきっと手伝ってくれる。
毎日は大変だろうから定期便ごとでも良い。
なんならまた障害物競走を企画して冒険者を集めたって良い。
大丈夫だ、今まで積み上げてきた人脈を信じよう。
「しかしなぜそこまでする必要がある。身を削ってする必要がそこまであるのか?」
「今回の企画の趣旨は貧困者が少しでも減ればという事ですが、シルビアは貧困者と聞いてどんな想像をしますか?」
「そうだな、仕事につけなかったり立場の弱い女子供、高齢者という感じか。」
「つまり若者や働ける者は貧困者ではない?」
「働けるのならばそうだろう。」
まぁそれが普通のイメージだろう。
働けるなら働いてお金を稼げば貧困から脱することができる。
でもそれはあくまでも想像上の話だ。
「では、初心者冒険者が日々どれぐらいの稼ぎで生きているのかはご存知ですか?」
「初心者か・・・、弱い魔物もいるし生活はできているのではないか?」
「本当の初心者は上手く魔物を狩ることもできず、怪我や死の恐怖からなかなか依頼をこなすことができません。安全な仕事ではどうしても稼ぎが低く、一日の稼ぎは銅貨50枚にも満たないでしょう。」
「それでは生活していくのがやっとではないか。」
「その通りです。一日に使う生活費が平均銅貨50枚。宿に泊まればそれぐらいかかります。つまり、それ以下の稼ぎの場合は宿も使わず食事も削り屋外で生活しているんです。」
目に見えない貧困。
これは元の世界でも問題になったことがあった。
ネカフェ難民というキーワードで注目を浴びた事もある。
仕事をしていながらも稼ぎが少なく結果、貧困者と変わらない生活を余儀なくされる。
ワーキングプアと呼ばれる人たちだ。
確か年収300万以下がそうなるんだっけ?
確か元の世界だとそれぐらいの稼ぎだった気がするが・・・いや、今は思い出さないでおこう。
悲しくなる。
「つまりシュウイチはそう言った者達も救いたいのだな。」
「その通りです。冒険者であれば私の手の届く範囲で支援することができますから。」
「それで自分のダンジョンに魔物を増やすのか。」
「核は買取の対象になりますし、今なら討伐依頼も出てかなり美味しい仕事になっています。初心者の初心者でも複数人で戦えば危険の少ない魔物ですから、彼らの生活の足しになる事でしょう。」
「ですがそれでは御主人様だけが損をするのではないですか?」
「何故です?」
「買取をし、討伐依頼の報酬も出せばお金だけが出て行ってしまいます。」
まぁ普通に考えればそうなるな。
でもそうじゃないんだなぁ。
「もちろん買い取りはしますし報酬も出します。ですがそれはあくまでもうちの買取金額と報酬であって、冒険者ギルドの価格ではありません。私達はそれをもってギルドに行き、ギルドで報酬を受け取ります。」
「つまり差額を頂戴するわけか。」
「立て替えと言っていただけると嬉しいですね。まぁ、差額をいただくのは間違いありませんけど。」
「ですが魔力は出て行ったままです。」
「魔力に関しては、彼らが噂を流し冒険者を呼んでくれれば回復することができます。彼らは未来ある冒険者、いずれここに帰って来てたくさんの魔力を落としてくれることでしょう。」
リピーター獲得大作戦という奴だ。
ついでに口コミで集客アップも狙っている。
これぞ一石二鳥という奴なのだよ!
「シュウイチが出来るというのであれば出来るんだろうな。」
「何とかなります、いえ何とかします。」
「では至急召喚の準備を致します。もう一度確認しますが本当によろしいのですね?」
「もちろんです。」
「わかりました。召喚時期はご主人様にお任せしますので決まりましたらお声掛け下さい。」
「わかりました。」
今召喚しても中にいる冒険者に迷惑がかかるだけだ。
弱い魔物とはいえいきなり大量にわいたら困惑するだろう。
モア君からティナさんに情報が行き、それから冒険者が来るのが早ければ今日の夕方。
俺は結果を確認できないけど、成功すれば大量に買取った核をエミリア達に持って来てもらえるというワケだ。
大丈夫、成功する。
「では私は下に戻る、そろそろ昼食の時間だし根をつめず少しは休めよ。」
「ありがとうございます。」
向こうは全員出払っているし、シルビア様の言うとおり休憩するか。
「レミナさん、切断してもらって大丈夫ですよ。」
声をかけても反応しないので身体をゆすって終わりを知らせる。
虚空を見つめていた瞳に光が戻り、レミナさんは大きく伸びをした。
「あ~おなかすいた。今日も早かったですね。」
「会議で話し合う内容はほぼ終わりましたから後は向こうが頑張ってくれます。」
「じゃあ念話はおわりですか?」
「日が暮れたら私はサンサトローズに向います、エミリア達も明日閉店後に向かうのでレミナさんも一緒に同乗してください。短い間でしたが大変お世話になりました。」
「えぇ!と言う事はもうここに泊まれないんですか?」
「そうなります。」
やはり寝床の心配をしましたか。
そうだよなぁ、追い出された事を考えるとここに居たいと言うよな普通。
「うぅ折角美味しい御飯に寝心地の良いベッドを手に入れたのに、これからどうすれば。」
「ププト様から報酬を戴くでしょうしそれで家を借りたらどうですか?」
「そうしたら御飯を自分で作らないといけないじゃないですか。」
「そうなりますね。」
「私、御飯作るの大の苦手なんですよ。」
いや、知らんがな。
「練習されてはどうですか?」
「しましたよ~、でも中々上手にならないし~美味しくない御飯ばっかりで気分は重たくなるし~。お願いします、ここに置いてくださいよ~、なんでもしますから~。」
出た、レミナさんの暴走モード。
切迫しているはずなのに間延びした声の為にそう感じないのがミソだ。
何でもするって言われても、残念ながら今うちが求めている人材ではない。
同時念話通信は魅力だけど、それも向こうに居る弟さんあってのものだし。
そうだ、弟さんが居るじゃないか。
「弟さんと一緒に暮らすのはダメなんですか?」
「それはとっくの昔に断られたんです~。」
「あ、そうでしたか。」
まぁそうだよね。
こんなめんどくさい姉と一緒に暮らしたくないか。
「お願いします~、野菜も残さず食べますから置いてください~。」
「この企画が終わるまでというお約束でしたので申し訳ありません。」
「そこをなんとか~。」
「申し訳ありません。」
こうなる事は予想済みだ。
ここで俺が負けるわけには行かない。
それに俺が出発した後もお断りするようにエミリア達には言い聞かせてあるから大丈夫だろう。
「うぅ、明日からどうやって生きていけば。」
「とりあえず食事にしませんか?おなかすいては良い考えも浮かんできませんから。」
「そうします~。」
とりあえずこの場は食事で釣って逃れるとしよう。
俺も頭を使ってお腹が空いて来た。
今日は何かな。
レミナさんと共に階段を降りるとなにやら良い匂いが漂ってくる。
これは何だろう、お肉を焼いた感じじゃない。
煮込み料理だろうか。
シチューかな?
「いい匂いがしますね、今日は何ですか?」
「イナバ様お疲れ様です。今日は先日食べたニコミグバハーンを作ってみました。」
「グバハーン!あの王都で有名な中々予約できないあのグバハーンですか!?」
セレンさんの返事を聞いた瞬間にレミナさんのテンションが一気に上がる。
やはり有名なのか、グバハーン。
ジルさん達にも紹介したけど、ちゃんと食べれたかな?
「本物ほど美味しいかはわかりませんが・・・。」
「セレン様大丈夫です、味見しましたが本家にも引けを取らない味でした。」
「よかった、妊娠してから味覚が変わってしまってちょっと心配だったんです。」
「無理しないでくださいね。」
「大丈夫です、疲れたらすぐに休ませて貰っていますから。」
セレンさんが大丈夫なら別に良いんだけど。
ユーリがしっかり見ててくれるから大丈夫か。
「我慢できません!二人前、いえ三人前お願いします!」
「沢山ありますから慌てなくても大丈夫ですよ。」
「私も一緒にお願いします。」
「ご主人様はどのぐらい食べられますか?」
「私は一人前で十分です。」
「かしこまりました。」
この後も予定が盛りだくさんだ。
ちゃんと食べて英気を養わないと。
昼食後、満腹のレミナさんは自室で休憩。
俺はユーリと一緒にダンジョンの最下層にいた。
整備だけなら店でも出来るが、例の部屋でオーブに触れながらでなければ召喚できない。
ダンジョンマスター権限で一気に最下層まで移動し、ユーリと共に例の部屋に入る。
「召喚準備は出来ております。後はオーブに触れていただき召喚する魔物の種類を決定、数を決めていただければ召喚完了です。」
「そういえば私個人で召喚するのは初めてですね。」
「そうですね、いつはもご主人様の指示で私が召喚しておりましたので。ですがさすがにこの量は私の権限を越えておりますのでご主人様にしていただく必要があります。」
「いつもありがとうございます。」
「これもダンジョン妖精の仕事ですので。」
ほんと、頼りになります。
ユーリが居なかったらここまで自由にあれこれ出来なかったなぁ。
整備から管理調整召喚と本当はしなければいけない仕事が盛りだくさんだ。
それを全部ユーリに丸投げ出来ているからこそ、こうやって仕事以外の事に手を付けることができる。
もしユーリが居なかったら、今頃冒険者が増えずにかなり苦しい状況を迎えていただろう。
「じゃあ始めましょうか。」
俺はいつものようにオーブに手を乗せる。
するとそれに反応するようにオーブが青く輝き、ダンジョンの状況が光学MAPのように表示される。
店にあるのは簡易の管理装置なので表示が平面なのだが、こっちは本家なのでしっかりと立体だ。
お、冒険者が魔物と戦っている。
現在8階層か。
その深さなら召喚しても邪魔になる事は無いだろう。
「どの階層に召喚しますか?」
「第一階層から第五階層までにしましょう。第一から第三に200、第四と第五に50ずつ召喚します。」
「わかりました。」
まるでSF物のオペレーターのようにユーリが光るマップに手を触れる。
その度にMAPが小さくひかり、触れるたびに魔物の表示が増えていった。
あれ、召喚って案外簡単?
「まだ召喚にはいたっておりません、あくまでも場所を決定しているだけです。」
「では奥まった路地などに多めに配置してください。戦闘中に他の魔物に襲われる可能性が減ります。」
「相変らずご主人様は甘いですね。」
「あはは、本当はドンドンと冒険者を倒していかないとダメなんですけど。今回は目を瞑ってください。」
「今回はではなく、毎回です。」
ダンジョン商店のモットーは冒険者に優しくだ。
管理者としては冒険者を迎撃し、遺体から魔力を抜き取るのが一番効率良いのだがそれではリピーターが増えず商売が行き詰る。
商売もしつつ冒険者からも魔力を貰いつつと絶妙な加減でダンジョンを運営しなければならないのだ。
初心者でこんな縛りプレイする奴中々居ない。
「場所はこんな感じでよろしいですか?」
「大丈夫です。」
「では召喚する魔物を選びます、名前を言うだけで大丈夫ですのでお願いします。」
「ジュエルジェリー。」
俺の言葉に呼応するようにオーブが緑色に光り、先程ユーリが指定した召喚場所が点滅を始める。
「ジュエルジェリー確認できました、個体数は300。召喚しますか?」
「お願いします。」
「では強くオーブを握ってください。それで終わりです。」
「え、それだけ?」
もっと儀式か何かがあると思ってたんだけど違ったようだ。
ちょっと拍子抜けだな。
ともかく召喚しないと。
俺はユーリに言われたようにオーブを強く握り締めた。
その途端にオーブが真っ赤に光だし激しく点滅を始める。
えっと、これってなんだかやばくない?
「ユーリ?」
「召喚は完了しました。え?魔力の供給源が違う。そんなはずは・・・まって、それを使っちゃダメ!」
いつものユーリとは違う焦ったような声が聞こえる。
こんなユーリもまた可愛い・・・。
なんて思っていると、突然全身から何かが吸い取られていくような感覚が襲ってくる。
ちょ、なんだこれ。
力が入らないんだけど。
まるで全身の血が抜かれていくように身体の感覚がどんどんとなくなっていく。
「ご主人様手を!」
いや、手をって言われても力が入らない上に吸い付いたように離れてくれない。
「失礼します!」
そんな俺の状況を察したのかユーリが俺の手を両手で掴み、渾身の力でオーブから手を引き剥がした。
ベリベリという音が聞こえたような気がする。
完全に手が離れると、先程まで赤く点滅していたオーブが再び緑色に戻った。
全身を虚脱感が襲う。
だんだん意識が遠のいていく。
「ご主人様、ご主人様起きてください!」
起きてくださいって言われても無理。
目が開かない。
あれ、もしかしてこのまま死んじゃう奴ですか?
なんだか良くわからないけど、とりあえず苦しくないから良いか。
床に倒れ込むよりも早く俺の意識はどこかに消えた。
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