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第十章

トラブル処理は腕の見せ所

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まったく予期していない所から一番の問題が表れた。

恒常的な支援を約束された保護施設と違い、一切の支援を受けられない仮施設。

ここに住まう人をどうやって生活させていくかが問題だ。

無人島にいきなり放り込まれて『さぁ、生き残ってみろ』というようなゲームではない。

近くに大きな街があり、川があり、家がある。

無いのは食料と生活用品。

そして現金だ。

食料は作れば何とかなる。

だが、作る為の畑も無ければ道具も無い。

結局必要になるのはそれを手に入れるためのお金というワケだ。

金は強い。

食料だって日用品だって手に入れたい放題だ。

だがそれはあればの話し。

仮住まいに身を寄せるであろう人達はほとんどが貧しさに苦しんでいる。

つまりお金が無いのだ。

どうやって金を稼がせて生活させるか。

っていうかさ、何で俺がそこまで考えないといけないんだ?

俺の本業なんだったっけ。

役人?

ちがう、しがないダンジョン商店の店長だ。

自分から言い出したこととはいえ、ほんと本業と関係ないことやってるよね。

「と、いうことで予定よりも1日早くサンサトローズへ行くことになりました。」

閉店後家でゆっくりと夕食をとり、今日一日の報告会を行なう。

問題はなかったか、必要なものは無いか。

それに加えて俺の方でどういう進展があったのかをみんなで共有する事で俺自身が情報を整理できている。

香茶を飲みながらのこの時間は皆との大切な時間だ。

「お店のほうは大丈夫です、今も何とかなってますから。」

「シュウイチは気にせず自分の仕事をしてきてくれ。」

「本業はこっちのはずなんですが申し訳ありません。」

「今に始まったことではございません、ご主人様はご主人様のしたいようにしてくだされば結構です。」

「そうですよ、今はお客さんも少ないのでゆっくり出来ます。」

「良いのか悪いのか、ちょっと考え物ですけどね。」

サンサトローズ近郊でダンジョンが発見されたことにより冒険者のほとんどがそちらに行ってしまった。

野良ダンジョンと呼ばれるそれは人工的に作られたダンジョンと違い攻略されてしまうとその場から消えてしまう。

どのような魔物が出るのかどんな罠が仕掛けられているのかという情報が全くない為、難易度は高いがその分実入りも多い。

一攫千金を夢見る冒険者が殺到するのも至極当然の事だろう。

わざわざ遠方にあるダンジョンに来るのは一攫千金よりも安定を求める冒険者ぐらいだ。

大きな怪我をすれば一生を棒に振る。

その点うちのダンジョンは初心者向けに改良しているので比較的難易度が低い。

リスクが少ない分見返りも少ないが、経験という目に見えない大きな結果を得ることが出来る。

ここで頑張って野良ダンジョンに挑み、また帰ってきてくれればそれで良いさ。

「素材の買取で来てくださる人は多いですし、冒険者が全く来ていないわけではありません。ダンジョンが攻略されれば皆さん戻ってきてくださいます。」

「そうだと良いんですけど。」

「シュウイチがどれだけ頑張ってきたかは私達が良くわかっている、もちろん冒険者達もだ。この頑張りがいきなりなくなることは無いから安心して待っていろ。」

「冬の頭にはダンジョンの拡張も可能です。初心者だけでなく中級冒険者が来る深度にもなりますので、心配は無用です。」

「また忙しくなりますね。」

冒険者が戻ってくればまた忙しい日々が戻ってくるだろう。

そしたら今度は人出不足の問題が再燃する。

ほんと、問題は尽きないよ。

「募集に何か反応はありましたか?」

「今の所は何も。」

ニケさんが残念そうに首を横に振る。

ちょっと条件が厳しかったかなぁ。

でもあれぐらい出来ないとやっていく事は難しい。

一から育てれば良いだけの話しなのだが、今はその時間すらない。

「宿は急務ですが店の方も一人増やしたいんですよね。今はシルビアがいますから何とか回ってますが、もっと冒険者が増えた時に私がいなくなると一気に苦しくなるのは目に見えています。」

「シュウイチさんの代わりに素材に精通しつつ接客も出来るような人なんているでしょうか。」

「シア奥様が村に出てしまうのであれば非常時に冒険者を監視・鎮圧できるような人で無ければなりません。」

「そのあたりは宿の募集内容と被りますから最悪そっちに任せるとして、素材の買取や販売が出来るって結構高度な技術ですよね。」

「ニケさんがお商売をされていて本当に助かりました。」

元の世界のようにアルバイトが盛んな世界では無い。

接客という技術は簡単なように見えてかなり高度なものだ。

だって全く見ず知らずの人間の機嫌を損ねずに相手をして、お金を貰うんだよ?

クレーム処理だってしなきゃならないし。

ほんと、サービス業の人には頭が下がります。

「どうしても難しいようでしたら商店連合に援助を頼む事もできますよ。」

「それは出来るだけ避けたいんです、何とか自分達の力で店を回せるようにならないと。」

「だがそれを気にして回らなければ何の意味も無いぞ。不必要な見得は時に身を滅ぼす。」

シルビアの言う通りだ。

それでお客さんが離れて目標に達しなければ何の意味も無い。

「とりあえずもう少し様子を見ましょう。明日はひとまずこっちで仕事をして夜にはサンサトローズヘ向います。皆は明後日の閉店した後手配した馬車に乗って向ってください。企画前日は全員の力を借りないと回らないと思います。」

「わかりました。」

「レミナ殿はどうするんだ?」

「何かあった時の為にこちらに残ってもらい馬車で一緒に移動してもらいましょう。残ってもらうと、その居座られる可能性が。」

「なくはないか。」

「前科持ちですもんね。」

全員が大きく頷いた。

念話通信の大事な要員だが、過去に住居占拠をした前科がある。

「では今日は先に寝ます、おやすみなさい。」

「「「「おやすみなさい。」」」」

今日はいろいろあって疲れた。

部屋に戻りベッドに倒れこむとそのまま睡魔に逆らわず眠りについた。

願わくば明日には問題のほとんどが解決していますように。


「イナバ様、ある程度集まってきましたがそれでも効果ありません。」

「ある程度の場所までは絞ったんですけど、まだ見つかってないッス。」

「大体の方は御理解いただけたのですが、まだ渋っている方もおり交渉は難航しております。」

「心当たりのある方に聞いてみましたが、皆さんあまり良い顔しませんでした。このままでは今日の夕刻には倉庫がいっぱいになる予定です。」

「何時こっちにくるんだ?口ではああ言っているが本人はあまり納得してないみたいだぞ。」

ですよねー。

解決なんてしてるはず無いですよねー。

知ってた。

寝て起きたら全てが上手く行くなんて夢物語やったんや!

「とりあえず進捗状況を聞かせてください、モア君反応はどうだったんですか?」

「ティナさんに無理を言って対象の討伐数に応じて報酬が出るようにしてもらいました、加えて核の買取金額を正規の値段から銅貨5枚分増やしてます。」

「それでも動く冒険者は少ない?」

「少ないですね、皆新しいダンジョンに夢中でその話ばかりしています。正直に言って僕も行きたい所です。」

「そういえば他の二人と一緒に動いていましたね、本当に申し訳ありません。」

「いいんです、元々二人で行動してたので僕が抜けても何とかなります。それに、今は核を集めてもらっているので。」

お仲間が率先して集めてくれているのか。

それでもまだ足りないと。

「達成率は?」

「後一割をきったぐらいです。」

後一押しか。

うーむ、この方法だけは使いたくなかったんだけどシルビア様が言うように体裁をつくろって失敗するんじゃ意味ないよな。

「一つだけ案があるので出来るか確認したらまた連絡します。次、アヴィーさん詳しくお願いします。」

「イナバ様に言われたとおり輸送ギルドに掛け合って荷物を捜索してもらったッス。サンサトローズのひとつ前の町まで来たのは間違いないんですけど、そこから急に無くなったみたいッス。」

「近くまでは来ているようですね、魔物に襲われた若しくは盗賊に襲われた可能性は?」

「今捜索隊を出して探してるんですけど、範囲が広すぎて時間までに見つかるか微妙みたいッスね。」

「人手不足なら冒険者をと言いたい所ですが、頼みの冒険者も人手不足ですか。」

ここに来てまさかの人手不足。

いつもなら冒険者が溢れているのになんとまぁタイミングの悪い事。

ダンジョンが急に見つかるとか、誰かの策略なんじゃないの?
「騎士団はどうでしょう。」

「そうですね、リガードさんの言うように頼れるのは騎士団だけです。なんとかなりませんか?」

「人探しに騎士団が動く事は難しいですね、せめて襲われたという証拠があれば討伐する為に隊を動かせますけど。」

それだ。

その線でいこう。

「アヴィーさん、輸送ギルドに行って荷物を探すのではなく盗賊か魔物の痕跡を探すように伝えてください。見つけ次第サンサトローズに戻り騎士団に協力を仰ぎます。モア君、魔物ならなんでもいいんですよね?」

「まぁ、一応は。」

「それなら任せてくださいッス!イナバ様って結構悪い事考えるンッスね。」

「何の事でしょう、私はただそう言う可能性があるのであればと思っただけです。」

ようは魔物がいた事にしてしまえば良いんだ。

魔物の足跡や痕跡を見つけ、道中見つからないのは襲われたということにしてしまえば良い。

かなりグレーなやり方だけど今はそんな事行っている場合じゃない。

「では急ぎお願いします。えーっと、リガードさんのほうはまだブツブツ言っている人がいるとか。」

「このような住民がいてお恥ずかしい限りです。かなり強情な方でして、出店場所を中央通りにしないと不公平だと言って聞かないんです。」

「それは何を基準に不公平なんでしょうか。」

「人通りや人目に触れる機会に不公平があるとのことです。」

お金儲けの為じゃないんだけどなぁ。

今回の趣旨を理解してもらえないのであればそもそも参加させないという方法もあるんだけど、もうちょっと穏便に何か出来る事があるはずだ。

「それと、責任者に会わせろの一点張りで話しにならなくて。」

「責任者に?」

「はい。」

え、それでいいの?

責任者が行って話しをすればオッケー?

簡単じゃないか。

この企画の責任者は誰だ?

俺だ。

「ではその方に明日私が行くとお伝え下さい。直接お話させていただきます。」

「イナバ様が?」

「もちろんです、責任者を出せとの事ですから私が責任を持ってお話させていただきます。」

「よろしいのですか?」

「そもそもこの企画が何の為にあるのか、しっかりと御説明させていただきましょう。」

クレーマーが怖くて商売が出来るか!

昔と違い俺には力がある、責任がある、それを存分に使わせていただこう。

「宜しくお願いいたします。」

「他の方への説明は引き続きお任せします。では最後はバスタさんですね、知り合いの貴族には全て断られたとか?」

「もし何かあった時どうするんだと言われてしまい、一応イナバ様の考えもお伝えしたんですがダメでした。」

「大量の荷物を置ける場所ですか。」

「出来れば搬入がし易い通りに面した場所でお願いします。」

ふむ、確かにそうだな。

搬入し辛ければそれだけで作業が滞ってしまう。

大量輸送に対応できる場所でなければだめだ。

となると、あまり奥まった場所は難しいわけで。

最初はププト様のお屋敷でも借りようかなとか軽く考えていたんだけど、あんな遠くまで荷物を運んでいられない。

となると街道沿いもしくは大通りに面した場所という事になる。

各ギルドに協力を得ることも出来るが、出来れば一箇所でやってしまいたいよね。

「それでいて防犯がしっかりしていないとよくないんですよね。」

「その通りです。」

「濡れてはいけないんですか?」

「濡れても大丈夫な物はありますが、この企画の為に用意された物は水濡れ厳禁です。」

「ちなみに濡れても良いものはどんなものでしょう。」

「石材なんかは別に問題ないですね。」

石材か。

そりゃ濡れても大丈夫だ。

「量は多いですか?」

「今度の大規模工事に合わせて用意したものですので倉庫全体の4割はあります。」

「結構な量ですね。」

「その後も続々追加されるので正直どう処理して良いものか・・・。」

「それって搬出できます?」

「もちろんです。」

ふむ。

それなら答えは一つだ。

「石材を搬出して開いた場所にそれ以外の品を搬入してください。倉庫の4割が開けば企画が終わるまでは耐えれるでしょう。」

「確かに企画の分が売れれば場所は確保できますね。でも石材はどうするんですか?これから高騰しますし適当に置いておくなんてできませんよ。」

「もちろんです。搬出した石材は別の場所に持って行きます、近くて防犯がしっかりしていてそこそこの広さがある場所です。」

「そんなところあったか?」

話を聞いていたイアンがつっこみを入れてくる。

あるんだなーこれが。

まぁ、使えるかどうかはこれから確認するんだけど。

「ちょっと確認してきますので少しお待ち下さい。」

俺は断りを入れて席を立つと急ぎ部屋を出る。

「シルビア様、ユーリ今空いてますか?」

「どうしたんだ?」

「今でしたら大丈夫ですか。」

「ちょっと二人に聞きたい事がありまして、このまま上にお願いします。」

「すぐに行こう。」

「セレン様少しお願いします。」

階段から身を乗り出すようにして二人を呼び出す。

見た感じ冒険者はいない。

今日も暇なようだ。

俺に呼ばれて二人が急ぎ足で階段を登ってくる。

そのまま三人で応接室へと戻った。

「お待たせしました。」

「どうしたんだ?」

「詳しい事が分かる人を呼んだほうが良いと思いまして。」

「シルビアだ、凄いな向こう側の声が聞こえるのか。」

「騎士団長が何故ここに?」

「元騎士団長だ、シュウイチに呼ばれただけで私にも分からん。」

まぁまぁその辺もちゃんと説明しますから。

「ユーリは座ってちょっと待っていてください。」

「かしこまりました。」

「それで、私に何を聞きたいんだ?」

「ウェリス達が占拠していた渓谷があったと思うんですけど、あそこって今何に使っていますか?」

「あそこなら今は騎士団の練習場として使っているな。」

「渓谷?一体何の話だ?」

「春頃に盗賊が近辺を荒らしまわった事件があっただろう。その首謀者達が占拠したのが西側の渓谷だ。」

「あ、知っています。確かイナバ様が解決した事件ですよね。」

なんでイアンが知らなくてバスタさんが知っているんだろうか。

そんなに有名な事件じゃなかったはずだけど、そうか輸送中に狙われることが多かったから知ってるのか。

「別に私が解決したんじゃないんですけど、ともかくそこを管理しているのは騎士団ですか?」

「あぁ、ププト様より使用の許可を貰っている。」

「城壁は今も健在ですよね。」

「あの城壁にあの門、壊すには惜しいからな。」

「そこがどうかしたのか?」

「倉庫の石材なんですけど、一旦そこで保管しようかなと考えています。石材は簡単には盗まれませんし、守るのに相応しい城壁もある。それに加えて騎士団が巡回警備してくれるとなればこれに勝る保管場所は無いと思いませんか?」

あそこならそこそこの広さがあるし、街道に面していてかつ防犯面も問題ない。

騎士団の管理下にあるのであれば、貸してもらう事も可能だろう。

「よくわからんがそこを使いたいのか?」

「実は今回の企画で使うはずだった倉庫がいっぱいになりそうでして、急ぎ保管場所を探していたんです。持って行きたいのは石材なので管理が必要な事もありませんし雨にぬれても大丈夫です。騎士団にお願いできると思いますか?」

「そうだな、今の私に決定権はないがカムリに聞けば問題ないだろう。別に危ない物や高価な物を保管するのでなければ文句は言わんさ。」

「と、いう事みたいですのでバスタさんは急ぎギルドに戻り搬出の準備を、イアンはモア君と一緒に騎士団に向い先程の件の説明をお願いします。私とシルビアの名前を出せば問題なく貸してくれるでしょう。」

「わかりました!」

「仕方ねぇ、お前もさっさと来いよ。」

ドタバタという音がする。

バスタさんが大急ぎで部屋を出て行ったんだろう。

やれやれ、これで全部終わったか?

「ご主人様、私は何で呼ばれたんでしょうか。」

あ、終わってなかったわ。

「そうでした!モア君まだいますか?」

「まだいます!」

「よかった!先程の核の件ですが、騎士団の件が終わりましたら冒険者ギルドに行ってティナさんに伝えてください。『シュリアン商店のダンジョンでジュエルジュリーが大量に発生している』と。」

どうにもならないのならどうにかしてしまえば良い。

さて、ダンジョン商店らしい裏技を発動しましょうかね。
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