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第十章

空いた時間はみんなで

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残り時間をたっぷり楽しもうと意気込んではみたものの、みんなが何処にいるか分からないということに気がついた。

こういう時携帯がないのは不便だ。

元の世界であれば今どこ!って聞いたら済む話なんだけど。

でもなぁ、元の世界でも30年前は携帯電話普及してなかった。

ポケベルとかの時代もあったし、あるのが当たり前って訳でもないか。

こっちにきて携帯なしでも生きていけるようになったんだし今更無くても困らないっちゃぁ困らないか。

「こんな所でお会いするなんて珍しいですね。」

噴水広場でボーっとしていると目の前を通り過ぎる人が俺に気付き声をかけてきた。

THE冒険者という感じのごつい武器に金属製の鎧。

そしてその横に立つ修道女。

「こんにちはガンドさん、ジルさん。」

「こんにちはイナバ様どうされたんですか?」

「ププト様のところに行った帰りなんですが、皆とどこで集合するのか決めてなくてどうしようかと悩んでいた所です。」

「今騎士団に寄った帰りだがシルビア様はいなかったなあ。」

「なら別の場所ですね。」

午前中に終わってしまう用事だったし、今頃自由に遊んでいるのかな。」

それか買い物か。

「これから冒険者ギルドに行きますが一緒にいかがですか?」

「ここにいてもあれですし、御一緒させていただきます。」

ギルドにも行っているはずだし誰か行方を知っているかもしれない。

二人と共に噴水広場を西側に進むと見慣れた建物が現れる。

ひっきりなしに冒険者が出入りしていて今日も活気がある。

なにより驚くべきは騎士団員が出入りしている所だろうか。

詳しく知らないが、昔は騎士団と冒険者は犬猿の中だったそうだ。

会えば喧嘩になる。

それぐらいに酷かったらしい。

それが今や雑談を交わすようになっているんだから凄い進歩だなぁ。

「あ、ガンドさんお帰りなさい!」

「討伐終わったんですね!」

「おう。」

ギルド近くまで行くと入口にたむろしていた冒険者がガンドさんに気付き声をかける。

「おい、イナバ様が一緒だぞ。」

「ホントだ、今回の討伐はイナバ様と一緒だったのか?」

「でも丸腰だぞ?」

「お前知らないのか、イナバ様は武器なんて使わねぇんだよ。気合だけで魔物が倒れるんだ。」

いや、そんな力ないから。

なんだよ気合で倒すって、フォースでもあるのかよ。

「相変らず凄い噂ですね。」

「良いのか悪いのかわからなくなります。」

「舐められるよりはいいんじゃないか?」

いやまぁそうなんですけど・・・。

冒険者に頭を下げると驚いたように向こうも頭を下げた。

そんな慌てなくても、挨拶しなかったからって何もしないから。

ギルド内は相変らずの活気で冒険者の声がうるさいぐらいだ。

彼らを掻き分けるように奥まで進むとガンドさんに気付いた冒険者が順番を譲ってくれた。

「おかえりなさいガンドさんジルさん、どうでしたか?」

「討伐部位だ確認してくれ。」

「緊急の依頼とはいえ無理を言いまして申し訳ありませんでした。」

「そのぶん上乗せしてもらってるんだ、文句はねぇさ。」

「ランドドラゴンの討伐と素材をあわせまして銀貨25枚です、お納め下さい。」

依頼一回で銀貨25枚か。

すごいな。

銀貨25枚といえば25万円とほぼ同じだという事を考えると一回で俺の元月収分を稼ぎ出した事になるのか。

それでも命を懸けていると考えれば安いのかなぁ。

「すげぇ、さすがガンドさんだ!」

「ランドドラゴンなんてここにいる奴全員で囲まねぇと倒せねぇぞ。」

「別に俺は何もしてねぇ、奴の動きを止めてこいつが横からぶん殴っただけだ。」

「さすがジル姐さん!」

「ドラゴンを殴り殺せるのは姐さんしかいねぇよ!」

「そういう人聞きの悪い事を言うのはやめてもらえます?これで殴っただけじゃありませんか。」

そう言いながらジルさんが腰にぶら下がっているメイスを触る。

殴っただけって。

うん、殴り殺した事には変わりないよね。

素手じゃなかったというだけの話しだ。

さすが上級冒険者、やる事がラノベの主人公みたいだ。

ちなみに言うとランドドラゴンとは体長3mを超えるドラゴンとは名ばかりの巨大なトカゲである。

ランドというだけあって飛ぶ翼は無いが、突進の破壊力はすさまじく簡単な城壁であればぶち抜いてしまうほどの強さらしい。

それを一人で止めるって、やっぱりおかしいよ二人とも。

「さすがですね。」

「なに、手負いだったからな簡単なもんだ。」

「私には到底真似できません。」

「そんな事ありません、イナバ様でしたら必ず出来ます。」

「いやいや。」

その根拠は一体どこから来るんだろうか。

俺なんて一撃で轢き殺されて終わりだ。

「口ではこういってるが俺なんて足元にもおよばねぇよ。」

「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」

ほらまたガンドさんがそんな事言うから他の冒険者が俺をものすごい目で見てくるじゃないですか。

やめて!

そんな夢を見るような目で俺を見るのはやめて!

「さすがイナバ様だぜ!」

「気合で止めるってのも頷けるってもんだ。」

「あの『豪腕のガンド』が足元にも及ばないってどれぐらい強いんだ?」

「俺に聞くなよ。」

俺にも聞かないでよ。

ガンドさんが周りを持ち上げるもんだから収拾が付かなくなっちゃったじゃないか。

「一体何の騒ぎです?」

と、ドンチャン騒ぎが聞こえたのか奥から見覚えのある人が出てきた。

「ティナさんご無沙汰しています。」

「イナバ様!先程ユーリ様が来られていましたが何か忘れ物ですか?」

「いえ、みんながどこかに行ってしまって何処にいったか知りませんか?」

「こちらに来られたときには何も仰っておられませんでしたが。」

「そうですか。」

残念無駄足だったようだ。

でも困ったなぁ。

大きい街じゃないし捜せば出会いそうなもんだけど、行き違いになるのも困る。

「彼らに探させますか?」

「そこまでしていただかなくても結構です、それに依頼料もありませんし。」

「そんなことでイナバ様からお金を取る事なんてできませんよ。」

それはだめだ。

仕事は仕事、どんな小さい事にもちゃんと報酬を出さないとどこかでうやむやになって問題になってしまう。

お金は大切です。

「まぁウロウロしてたら会えると思います。」

「俺でよかったら手伝いますよ?」

「お二人はゆっくり休んでください。討伐の帰りなんですし、たまにはゆっくり食事でも取られたらどうですか?中央通りに美味しいグバハーンを出すお店がありますよ。」

「俺は酒があれば別に何でも良いんだが・・・。」

そう言いながらガンドさんがジルさんのほうを見るとジルさんの目がキラキラと輝いているように見えた。

この人はそうじゃないみたいですよ。

「なんだ、行きたいのか?」

「行きたくないといえば嘘になります。王都でも有名なお店ですし、たまには美味しいものも食べたいなと思っただけです。」

「正直者め。」

「聖職者は嘘などつきません。」

何だこの夫婦漫才。

もうさっさと結婚しちゃえよ!

「私の名前を出せば融通を利かせてもらえるかもしれません、良かったら行ってみてください。」

「まぁイナバ様がそこまで言うんだ。たまには美味いもんでも食いにいくか。」

「イナバ様ありがとうございます!」

ジルさんが嬉しそうに頭を下げる。

戦場に死と再生をもたらす教会防衛隊。

この顔を見たらそんな風には見えないよなぁ。

って、そうだ。

教会について聞くならいい人が目の前にいるじゃないか。

「そうでした、ジルさんに聞きたい事があったんですがよろしいですか?」

二人の邪魔をしないうちに退散しようと思ったが、ちょうど良い人がいたので聞いてみる事にした。

「なんでしょうか。」

「ここの教会にラナスさんという人がいると思うんですが、御存知ですか?」

「どうしてイナバ様がラナス様の名前を!」

名前を聞いた途端にジルさんが大きく眼を見開いた。

「先程ププト様の所で紹介を受けまして。やっぱり偉い人なんですね。」

「偉い人といいますかなんといいますか。」

「違うんですか?」

「教会には司祭様がおられますので身分上は司祭様が一番上になります。ですがラナス様は司祭様のそのまた上の司祭様にもに命令できるような人なんです。普段は教会の奥で雑務をこなしておられますが、王都に戻れば教会防衛隊の隊長となるのがラナス様です。」

おぉぅ。

偉いんだろうなぁと思っていたけれど、まさかそこまで偉い人だとは思わなかった。

しかもジルさん直属の上司とか。

怒らせると怖いんだな・・・(物理的にも)。

「そんなに凄い人だったとは。」

「なにかされませんでしたか?」

「とんでもない、少しお話をしただけです。」

「そうですか。ラナス様は曲がった事がお嫌いなので御注意下さい。」

「重々承知いたしました。」

不正や汚職にはものすごく厳しいという事だろう。

そんな人が教会にいるんだ、子供がいなくなったという事件は偶然なのかもしれないな。

「ラナス様はこの教会に来て長いんですか?」

「少し前に問題が起きてその時に赴任しましたからまだそんなに長くは無いと思います。」

あー、うん。

何が起きたかは聞いちゃいけなさそうだから聞かなかった事にしよう。

「では私はこの辺で、食事楽しんできてくださいね。」

「ありがとうございます!」

「イナバ様、冒険者ギルドも出来る限りお手伝いしますので何かありましたら仰ってくださいね!」

「ティナさんも無理しないで下さい。それでは失礼します。」

冒険者達はまだ先程の話しで盛り上がっているようだ。

また俺に信じられないような通り名がつくんだろう。

まともな奴だと良いんだけどな・・・。

冒険者ギルドを出たものの行く当ては無く再びサンサトローズをプラプラと歩く。

別に芸能人というワケでは無いので声をかけられることは無いし、キャーキャー黄色い声が上がる事もない。

ただ、俺に気付いた人は笑顔で会釈をしてくれた。

受け入れられているのはありがたいことだ。

嫌われてなければそれで良い。

商売柄なにか悪い事があるとそのうわさはすぐに広がる。

そして悪い噂はそのまま売上に直結する。

口コミほど怖いものは無い。

いい話は広がりにくいが悪い話はすぐ広がってしまう。

困ったものだ。

そしてそれ以上に困っているのはみんなが何処にいるか分からない事だ。

いや、分からないわけじゃない。

候補はある。

そして間違いなくそこにいるだろうなとも思ってもいる。

でも近づきたくない。

近づいたら最後他の場所にいけなくなるからだ。

まるで蜘蛛の巣に絡まった昆虫のように、ぐるぐる巻きにされてしまうだろう。

え、それはどこかって?

そんな場所一つしかないじゃないか。

「イナバ様ちょうどよかった!皆さんお集まりですよ。」

蜘蛛の巣とわかっていてもみんながそこにいるのであれば行くしかない。

そう、ここはジャパネットネムリ。

うちの女性陣を虜にする何でも揃う夢の店だ。

「シュウイチさんお帰りなさい。」

「随分と遅かったようだな、何かあったのか?」

「会議とは別に呼び出しを受けまして、あと冒険者ギルドにも寄っていましたので。」

「ギルドには私が行きましたが。」

「ティナさんからユーリが来た事は聞きました、途中でガンドさんとジルさんに会ったので一緒に行ったんです。聞きたい事もありましたし。」

「そうだったんですね、お昼には皆さん終わって食事の後来たんです。」

知ってましたとも。

むしろここじゃない場所を思いつかない。

前回は俺一人で来たし、今回は逃れられないだろうなって思ってましたよ。

「あ、イナバ様!見てください五年越しにとうとう手に入れたんです!」

うちの女性陣に混じってもう一人、シャルちゃんが持っている人形の色違いを持ちはしゃぐ女性がいる。

そう、レミナさんだ。

「購入できたんですね。」

「はい!本当にありがとうございます!」

よっぽど嬉しいんだろう、抱きしめたまま離そうとしない。

「ネムリにも無理を言いました。」

「とんでもありません、お得意様のそれもイナバ様のご依頼であれば喜んで取りおきさせていただきます。」

「選んでもらった時は知りませんでしたがかなり珍しい人形のようですね。」

「私も話しを戴いた時には恥ずかしながら知らなかったのですが調べれば調べるほど凄いものだという事がわかりまして、これは是非イナバ様にお譲りしなければと無理をいって二体譲っていただいたんです。」

「そうだったんですか。」

「残ればうちの子にと思っていましたが、あの子にはまた別の物を買い与えようと思います。」

見た目は子供だが中身はやり手、こう見えて子持ちの妻帯者である。

人は見かけによらない第一号といえばやっぱりネムリだよな。

「エミリア達は良い物ありましたか?」

「えへへ、実はですね・・・。」

エミリアが良く聞いてくれましたと言わんばかりの顔で微笑む。

聞くまでもなかったか。

だって昼過ぎからここに居るんだもん、絶対に何か見つけているに決まっている。

見つけている?

ちがうな、ネムリにしてやられたんだ。

この商売上手め。

「この秋出たばかりの新作なんですけど、どう思いますか?」

そう言ってエミリアが前髪をかきあげると白くて細い首筋が目に飛び込んできた。

だが特に変わった部分はなく・・・おや?

エミリアの耳。

そこに見たことのない綺麗な物がぶら下がって光っていた。

「綺麗なイヤリングですね、石も珍しい色をしています。」

「やっぱりそう思いますか!?この紫色がどうしても目から離れなくて。」

「さすがイナバ様すぐに気づかれましたね。」

そりゃそうだよ。

気付かなかったらどうなる事か・・・なんて口が裂けても言えない。

それにエミリアが分かりやすく教えてくれたし間違えるほうが難しい。

「私は新しい香水だ。この前のもいいが家に戻ったらもう少し優しい香りの物が欲しくなってな。」

シルビア様が青い小瓶を大事そうに抱えている。

そしてその横には満足そうな顔で調理器具を抱えるユーリがいた。

「聞くまでもないですね。」

「失礼な、これさえあればセレン様の負担をずっと軽くできる素晴らしい品なのですよ。」

「そうでしたか。」

「御主人様でしたら迷わずご購入してくださると思いこうして準備していた次第です。」

そして俺が買うこと前提ですか。

ですよねー、知ってた。

まぁ調理器具なら経費で落ちないこともなさそうだ。

領収書、もらっておこう。

って、あれニケさんは何も持っていない。

どうしたんだろう。

気に入るものが無かったんだろうか。

「ニケさんは何にされたんですか?」

「私ですか?私はですね・・・。」

エミリアと同じくアクセサリー系だろうか。

でも見た感じそういう物を身に着けている感じはない。

「これにしようかと思っているんですけど、イナバ様の意見を聞いてからにしようと思いまして。」

ニケさんはゆっくりと手を伸ばし奥の方を指さした。

指の先を目戦で追うと人の顔を模したマネキンがある。

眼鏡をかけたそれは無言でこちらを見つめていた。

「眼鏡ですか?」

「そうです!」

ニケさんはマネキンに駆け寄り眼鏡をはずすとそのままそれをかける。

一発芸『保健室の先生』

イナバ君、無理ばっかりしたら駄目よ?

なんて言われたらドキドキしてしまうこと間違いなしだ。

それぐらいに良く似合っていた。

うぅむ、エミリアの眼鏡姿にもときめいたけどどうやら俺には眼鏡属性があるようだ。

良い。

非常によろしい。

採用。

「とってもお似合いですよ。」

「ありがとうございます!」

眼鏡かぁ、高いんだろうなぁ。

買うけど。

「む、ニケ殿の言ったとおりになったな。シュウイチは眼鏡が好きに違いないと。」

「そんなこと言われてたんですか?」

「だってイナバ様街で眼鏡をかけた女性がいたらそっちの方を絶対に見ていましたから。」

嘘だ!

そんな、そんなことあるはずない!

「確かに私もそんな気はしていたのだ、だが本当だったとは。」

「ニケ様よろしければ私にも貸して頂いてよろしいですか?」

「どうぞ。」

こんどはユーリが眼鏡をかけてこちらを見る。

うむこれもまたいい。

ニケさんが保健室の先生なら、ユーリは研究所のエリート科学者って感じだ。

少し気が強そうなのがミソです。

「いかがでしょう。」

「いかがと言われましても、こちらも良くお似合いです。」

「ふむ、ニケ様程ではなさそうです。」

「そんなことありませんよ。」

少々不満そうなユーリ。

何事も初見の驚きこそあれど二回目以降は感動が薄れるものなのだよ。

それはユーリが悪いわけではない。

「そんなにシュウイチが好きならば私もつけてみたくなってきたぞ。」

「私もです。」

「エミリアは前に見せてくれましたね。」

「そう言えばそんなこともありました。」

「むむ、やはり私もつけるべきだ。」

シルビア様がムキになっている。

みんな何もつけなくてもかわいいと思いますよ。

もちろんオプションはオプションでよろしいかと思いますが。

「どうぞお時間の許す限り見ていってください、そうだ眼鏡は他の形もあるんですがご覧になりますか?」

「「「「是非!」」」」

ネムリよ、お前の罪は重いぞ。

結局時間ぎりぎりまで買い物は続き、そしてそのすべてを俺が支払うことになるのだった。

まぁお金持ってきてるからいいんだけどさぁ・・・。

ネムリさんマジで容赦ねぇっす。
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