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第十章

第一回チャリティ企画会議(後編)

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応接室に戻るとレミナさんはソファーのへりに足を投げ出して眠っていた。

無防備にさらけ出した足が眩しい。

いかんいかん、見たが最後何を言われるか分かったもんじゃない。

でもつい目線が・・・。

ダメだ!

これは罠だ!

気を強く持て!

お前には妻が二人もいるじゃないか!

理性をフル稼働して何とか視線をそらす事に成功する。

と、次の瞬間。

先程まで寝ていたレミナさんがガバっと上半身を起こしてこちらを見た。

「あ、イナバ様お帰りなさい。」

「すみません起こしましたか?」

「お腹いっぱいになったら眠くって・・・。もう大丈夫です。」

俺の視線に気付いたからかは定かでは無いが、レミナさんが大きく伸びをしながらこちらを見ている。

危なかった。

もし目が合ったら何を言われるかわかったもんじゃない。

責任をとって住まわせろとか平気で言いそうな人だからな。

「そろそろ二回目の会議の時間かと思いまして、向こうがどんな感じか分かりますか?」

「ちょっとまってくださいね。あ、レアル?お姉ちゃんだけど、うん、皆揃ってる?じゃあ繋いじゃっても大丈夫かな。レアルは大丈夫?私は御飯いっぱい食べたから大丈夫だけど、そっかじゃあはじめるね!」

って、いきなり始めるんかい!

俺は慌てて先程の席に戻った。

「イアンだ、イナバ聞こえているか?」

「聞こえていますよ。」

って、向こうからは見えてないんだから別に急がなくても良いのか。

「さっきの話しの続きだが、あれからこっちで会議を続けておおよそ話しはまとまった。今問題になっているのは仮のお金を何にするかとそもそも今回の寄付金を何に使うのかという部分だ。これに関してはお前の意見を聞かないと話が始まらん。」

なるほど。

俺抜きで会議が進んでいるのは変な感じだが、仕事の出来る人間がいると非常に助かる。

寄付金の徴収に関してはあれ以上の異論は出なかったと解釈して良いだろう。

「では寄付金の方から行きましょうか。まず最初にお話ししなければならないのは、今回の寄付金はあくまでも一時支援に使う為のものであって永続的な支援の為には使わないということです。今回はこの冬を越す為の食糧と日用品などの支援物資購入費用とそれに関係する支援策の対策費用に当てます。支援策については、寄付の目標金額を設定して達成次第段階的に実行する予定をしています。例えば金貨10枚分なら追加で衣服の支援、金貨20枚なら追加で住居の支援などでしょうか。」

「それは良い考えだ、永続的に支援が続くのであればそれに伴う不満も多く出てくるだろう。」

「そうですね今回だけの支援だとしておかないと、寄付金という名の税金と勘違いする住民も出てくるかもしれません。」

「毎回お金を取られるって誤解したら誰も支援したくないッスよね。」

まぁそうなるよね。

「支援策にお金がかかるのは承知しているのですが、かなりの金額が集まりますが全て使い切ることはできるのですか?」

「バスタさんのご指摘の通り間違いなく余剰金が出ると思います。ですので、支援策にお金を振り分けた残りは参加してくださった皆さんに還元するつもりです。」

「還元ですか?」

「支援策を増やせば増やすほど貧困者だけが優遇されてと言われるのは間違いないでしょう。ですので、それを見越して全員が何かの恩恵に預かれるようにするつもりです。具体的な内容はまだ決めていませんが生活物資などで還元するのはどうでしょうか。現金で還元はさすがにあれですしね。」

「俺は現金の方がうれしいが、お前が言うように物で還元するのが平等だろうな。」

みんなでお金を出し合って結局お金が戻ってきたんじゃ『チャリティ』の意味合いが薄れてしまう。

これはお祭り騒ぎなんだ。

楽しかったねで終わるのが一番いい。

「でも何がいいッスかね。自分は食べ物とか好きなものに交換できるものならありがたいっス。」

「全員が貰って嬉しいものは難しいですね、一番は税金ですが・・・。」

「さすがにそれは無理だ。税金は税金、手を出すものじゃねぇ。」

「冒険者や騎士団の皆も何か貰えるとなったらやる気が変わると思いますよ。」

みんなが喜ぶものなぁ・・・。

食べ物ぐらいしか思いつかないぞ。

こういう時、元の世界だと何が喜ばれただろうか。

お祭りの時の商品なぁ・・・。

お米とかお肉とか普段手に入らないものは多かった。

家電とかもそうだ。

他には旅行とか体験型のイベントも多かった気がする。

温泉旅行とか。

温泉旅行・・・。

それ、いいんじゃない?

「普段あまり手に入らないモノはどうでしょうか。例えば珍しいお菓子や少し高価な食材、旅行なんかもいいですよね。」

「旅行か、それは面白いな。」

「もちろん全員が行けるわけではありませんが、寄付金額に応じてクジを配り企画の最後に抽選会をするんです。当たれば大喜び、外れても何かは持って帰れるようにすればただ買い物する人にも楽しみが出来ると思いませんか?」

「旅行なんてどこに行けばいいんスか?」

「バスタさんなら二泊三日で行き来できる珍しい場所、知っているんじゃないですか?」

「えぇぇ、そんな急に言われましても。」

向こう側がどんな感じになっているかはわからないが、なんとなくバスタさんが困った顔をしているのはわかる。

今必死に知恵を巡らしている所だろう。

「二泊三日だったら王都は厳しいですね。」

「そうだな、行くだけで終わっちまう。」

「王都かぁ、一度は行ってみたいっスよね。」

「私は近隣でゆっくりできるならそれで十分です。」

王都へ行きたい派と近所でゆっくりしたい派がいるようだ。

ならばそのどちらも選べるというのはどうだろうか。

「近隣ですとやはり温泉地が人気ですね、スッパーリグは王都からも人が来る有名な場所ですから。」

「一度行ったがなかなかよかったぞ。」

そういえばそんなことを言っていた気がする。

温泉かぁ、お店が無かったら行きたい所だけど無理だよなぁ。

いっそのこと新年は店閉めるとかどうよ。

「もしくはメリゴーでしょうか、子供から大人まで楽しめる遊びの街です。」

「あ、聞いた事あるっス!でも隣国なんじゃなかったっスか?」

「メリゴーは唯一他国民が自由に入ることを許している国だ。観光が主な収入源だからな、いちいち審査なんてしてられないんだとよ。」

「私には博打の国という印象がありますね。」

ラスベガスのような感じだろうか。

娯楽がギュッと詰まった国。

それはそれで面白そうだなぁ。

「ではその辺りを主軸にして他のこまごまとした商品と支援策の種類については後日意見を出し合いましょう。寄付金の総額に応じて賞品が増えたり上等な物になったりすれば面白いかもしれません。」

「それ最高っス!」

「みんなこぞって寄付目当てに換金しますよ。あー、こんなことならもっとまじめにお金稼いでおけばよかった。ちょっとダンジョンに潜ってきちゃだめですか?」

「一応連絡役なんだからそこは我慢してもらおうかな。」

「えぇぇ、イナバ様許してくださいよ。」

向こうからみんなの笑い声が聞こえて来る。

うんうん、集中するのも大切だけどこうやて冗談が言い合える余裕も必要だよね。

「残りは仮のお金をどうするかか。正直これが一番の難題なんだが、あと九日でどうやって準備するつもりだ?」

「そうですよ、早めに決めないとどんどん作る時間が無くなります!」

「やっぱり現金じゃダメなんスか?換金の手間もないし楽だと思うんスけど。」

「現金は難しいでしょう、いざお金を使うときに本物だと現実に引き戻されてしまいます。」

「我々が楽しくお金を使うためにもそう言った工夫が必要というわけですね。」

さすがリガードさんなかなかに鋭い。

あくまでも住民側の代表として参加しつつも、こちら側の立場に立った発言をしてくれる。

こういったことができる人はなかなかに少ない。

普通は、こっちはこう思うだのそっちの考えはおかしいだのどうしても片方に偏った発言になりがちだ。

俺だってそうだ。

自分の立場に立った発言をついしてしまう。

でもこの人はどちらの立場にも立って考え発言することができる。

すごいなぁ。

俺も見習わないと。

「そういう意味でも仮のお金が必要なんですね、なるほど勉強になります。」

「鋳造してたんじゃどう考えても間に合わない上に材料もないと来た。それでいて大量に準備する必要があるんだが一体どうするつもりなんだ?」

「どうしましょうかねぇ。」

「えぇ、まさか無計画なんですか!?」

「冗談ッスよね?」

冗談じゃないんだなーこれが。

結構考えていくつかは候補を出しているんだけどどれも中途半端だ。

もっとわかりやすくかつ大量に準備できる物。

しかも規格がちゃんとあって、使うときに困らない大きさで、なおかつ壊れにくい物。

そんな便利な物が本当にあるんだろうか。

うぅむ・・・。

「お前の事だ何か一つぐらいは思いついているかと思っていたが、本当にないのか?」

「いえ、候補はあるんですけどどれも微妙でして・・・。」

「とりあえず聞かせてくださいませんか?候補があればそこから何か思いつくかもしれません。」

「俺も頑張って考えます!」

確かに一人で考えているよりかはみんなの意見を貰うほうがいい。

三人もとい六人寄れば何とかってやつだ。

「今考えているのは木片を利用するものです。幸いこの辺りは森林資源が豊富ですから加工用に仕上げている最中に出た破材なんかを使えば資源を無駄にしませんし使用後の処理も簡単です。ただ燃やせばいいだけですから。問題はかさばるのと特別感が出ないことなんですよね。」

「確かに木片じゃ子供の玩具にもなりません。」

「なにより量を持つのが難しいでしょう、買い物するにも一苦労ですよ。」

ですよねー。

しってたー。

かさばらず見た目がよく、かつわかりやすい

お金の代わりになるものなぁ。

ラスベガスの話じゃないけどお金の代わりといえばチップがある。

あれを上手い事流用できれば良いんだけど、結局同じ形の物をいくつも準備しないといけないわけで。

そんな物あるかなぁ。

「鋳造は難しいんですよね。」

「ちょうど今第三王女の婚約記念硬貨を鋳造中だ。なんせ春までに作り上げないといけないらしくてな、他の物を作る余力はねぇ。」

「軽量かつ均一の形をした小さい物を大量に準備する必要があります。何か思いつく物はありますか?」

「えぇ、急に言われても思いつかないっスよ。」

「陶器はどうでしょうか、食器を作る要領で小さい物を大量生産すれば間に合いませんか?」

「落としたときはどうします?破損した物をお金としてあつかうのはむずかしくないですか?」

一瞬さすがリガードさん!って思ったけどモア君の言うとおりだ。

陶器は落としたら割れてしまう。

数えている最中に破損して売上金が分からなくなるようなリスクも無くは無い。

うぅむ、すぐには出てこないなぁ。

さすがにあのパイ一つじゃ脳に糖分がいかないのが頭が上手く回らない。

しかたない、ちょっと休憩にしよう。

「先程みたいに通信が切れるとあれですし一度小休止にしましょう。半刻ほどしたら連絡しますのでそれまで考えておいてください。」

「そうだな。」

「あー、疲れたッス!」

「ちょっとトイレ行ってきます。」

「私は飲み物を用意してもらえるよう聞いてきましょう。」

通信が切れるまでの間に向こうのやり取りが聞こえてきた。

皆さんご苦労様です。

今度向こうに行った時にはしっかりお礼を言わないと。

「あ、終わったの?」

「お疲れ様ですレミナさん、ちょっと小休止です。」

「え~、まだやるの~?」

「次で最後になると思います、半刻ほど休憩なのでそれまで良く休んでください。」

「お腹が空いてきたんだけどなぁ、何か食べたいなぁ。」

さっきもそう言っていたけど通信にはかなりのエネルギーを使うようだ。

将棋の棋士が糖分たっぷりの物をバリボリ食べるのと同じ感じだろう。

「下で何かないか聞いてきます。」

「やった!」

嬉しそうに飛び上がるレミナさんを横目に俺は再び応接室を出る。

お金の代わりになりそうなものなぁ。

良い案があれば良いんだけど、今日中は難しいかな。

難しい場合は夜にみんなの意見もきいてみよう。

下に降りると皆忙しそうに動き回っていた。

会議中にお客さんが来たんだろうけど今は誰もいないな。

「ユーリ、またお客さんが来たんですか?」

「先程までバタバタとしていましたが今はこの状態です。」

「手伝いましょうか?」

「こちらは大丈夫ですのでリア奥様とニケ様のほうをお願いします。この忙しさのほとんどは買取のお客様でしたので。」

なるほど誰もいないと思った。

買い取り待ちの列が出来てそのお客様に食事を振舞っていたんだろう。

そのまま商店のバックヤードへ入ると中は台風が通り過ぎたような状態になっていた。

あちこちに買取った素材が散らばっている。

小さな山がいくつもあるという事は、この山一つ一つが買取客の持って来た品なんだろう。

量は少ないが山が多い。

かなりの人数のようだ。

「エミリア、ニケさん大丈夫ですか?」

「あ、シュウイチさん。」

「すみません散らかしたままで。」

「いいんです、随分と忙しかったみたいですね。」

「数は無いんですけど人数が多くて・・・。」

「また中級冒険者ぐらいの人ですか?」

「いえ、今回は初心者の皆さんでした。ここが高く買取ってくれると聞いてわざわざ馬車を借りてきたそうです。」

「馬車を借りて!?」

そこまでするか?

確かに大人数なら分割すれば安いかもしれないけど、それでも無駄な出費に替わりは無い。

それをしてでもうちのほうが高いということだろうか。

「うちってそんなに高値で買取っていましたっけ。」

「普通だと思います、商店連合に出荷しても利益が残るようにしていますから。」

「では何でわざわざうちに・・・?」

「もしかすると冒険者ギルドが安く買い叩いているのかもしれません。初心者が増えると利用価値の低い弱い魔物の素材が増えますからダブついていると偶に起きるんです。」

「なるほど。」

需要と供給のバランスが崩れた良い見本だな。

品薄の時は高く、余剰時は安く。

価格が変動するから起きる問題だ。

もちろん固定で買取るという方法もあるが、不良在庫を抱えるリスクも上がる。

うちのダンジョンに来て初心者のイロハを学び、淘汰されずに残っている冒険者が増えているのだろう。

そしてそこから出たのがこの問題だ。

うちが原因というか発端なのであればうちが責任もって対応するべき。

「今後も同様の事が起きるかもしれませんが、買取価格は今までどおりにしてあげてください。」

「もちろんです。商店連合は全国に支店がありますから多少増えたところで何の問題もないですよ。」

「皆さん嬉しそうに帰っていかれましたね。」

エミリアが少し誇らしげだ。

やりきった感もあるだろう。

急がしいなら呼んでくれてもよかったのに、気を使ってくれたんだろうな。

そしてその頑張りの結晶がこの状態というワケだ。

大丈夫みんなで片付ければすぐ片付くさ。

「分かるものから仕分けして倉庫に入れておきますね。」

「シルビア様が倉庫にいるので行かれたら明日商店連合から回収に来るので入口付近に積み上げてもらって大丈夫ですと伝えてもらえますか?」

「あ、明日なんですね。正直金庫のお金が心もとなくなってきたなって思ってたんですよ。」

「高額素材も多かったですから。販売が増えれば均衡が取れるんですけど、初心者冒険者の皆さんが相手だとどうしても単価が安くなっちゃうので仕方ないですよ。」

「利益が少ないとはいえ買い取りも立派な売上になります。このまま増えるのは非常にありがたいですが、ここにきてこちらも人手が欲しい所ですね。」

「本当にそうですね。」

宿だけで無くこちらも人手不足ときたもんだ。

村にお店が出来れば多少お客も減るだろうけど、買取の客は減らないだろう。

なんとか来年の春まで引っ張れればと思ったが、冬までに人出を増やさないとどこかでしっぺ返しをくらいそうだ。

エミリアとニケさんに表を任せてシルビアと共に散らかった素材を倉庫に押し込む作業を続ける。

押し込むといってもちゃんと仕分けしてからなので誤解しないで欲しい。

その証拠にほら、ちゃんと綺麗に仕分けられてるでしょ?

「結構な量だな。」

「入口が満杯になっちゃいましたね。」

「奥はまだ余裕があるが、このぶんだと素材用の倉庫を別に建てる必要があるかもしれん。」

二人して片づけをしていた時あるものが俺の目に止まった。

開けっ放しの入口から入った夕日を浴びてそいつは五色の輝きを浮かべている。

これだ!

俺はそれが入った箱を急ぎ取り出すと慌てて倉庫を飛び出しエミリアのところに向う。

「エミリア!」

「そんなに慌ててどうされたんですか?」

不思議そうな顔でエミリアが俺の顔を見ている。

その顔も可愛いですよってそうじゃない!

「これ!これってどんな魔物の素材ですか?」

「それはジュエルジェリーの核ですね、一見スライムのようですが初心者でも倒せる弱い魔物です。何処にでもいる可愛い魔物ですよ、宝石みたいな核を落とすのでこの名前がついたと言われています。」

箱の中で赤青緑黄白の小さな核がきらきらと光り輝いていた。

「初心者でも狩れるんですね!」

「有り触れた素材なので買取金額は高くないです。そういえば先程も結構な量を買い取りましたから、ギルドではあまり好んで買取してくれないのかもしれませんね。」

初心者でも集められてしかもだぶつくぐらいの量を確保できる。

これしかない!

「これ、借りていきます!」

俺は核を一掴みすると急いで応接室へと戻った。

いけるかもしれない。

五色に輝く一筋の光明が確かに俺を照らしていた。
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