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第十章

特異な才能の持ち主には変わった人が多い

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傍から見れば子供の玩具を大人が取り上げているようにも見える。

いや、この感じだと子供同士で玩具の取り合いをしているように見えなくも無い。

ホビルトの場合は見た目=年齢じゃないから判断が難しいんだよな。

ヒューリンやエルフィーならまぁ年齢相応って感じなんだけど。

でもホビルトだったら20代に見える事は無いし、その線は薄いか。

となるとやはり大人が子供の玩具を取り上げようとしているパターンになるわけで。

おっと、こんな事考えている場合じゃなかった。

助けに行かないと。

「シャルちゃんどうしました?」

「あ、イナバ様!」

シャルちゃんが俺に気付き人形を抱えたまま俺の後ろに回りこむ。

「あ、まだ話を!」

「私はこの子の保護者のようなものでイナバと申します、失礼ですがどちら様でしょうか。」

「私は別に怪しい者じゃないんです!ただその人形をどこで手に入れたか知りたいだけで!」

「それで子供に詰め寄るのはいかがなものかと思いますが。」

「そ、それは、まさかこんな所で見れるとは思わなくてそれで・・・、ごめんなさい。」

冷静になり自分のしでかした事を理解されたようだ。

ふむ、この感じだと普通に話が出来そうな人だな。

ちゃんと謝れるのも好印象だ。

最近はすぐに謝れない大人が多いからねぇ。

「人形の出所を探されているんですか?」

「そーなんです!品薄で国中どこを探しても中々に手に入らない珍しい人形なんです!こんな辺境にまで流通しているなんて、お願いしますどこで売っているか教えてください!」

「そんなに珍しい人形なんですね。」

あの人形がねぇ。

手作りっぽい感じで可愛い人形だ。

でも珍しいものとは思わなかった。

値段もそんなにしなかったし。

銀貨1枚ぐらいのものだ。

ん?銀貨1枚って事は1万円?

ちょい高いか。

「それはもう!職人さんの手作りで作るのにも中々時間がかかってそれでいて予約を受け付けてくれないから何処に出荷されるかも分からなくて見つけた時には売り切れていてとにかく可愛くて珍しくてすっごい物なんです!」

まくし立てるように一気に説明されてしまった。

あぁ、なんとなく分かる。

自分の好きな物を語らせたら止まらないタイプの人間だ。

もののよさを知ってほしくて自分の知識を全部使って説明してしまい、結果として相手に引かれる残念なタイプ。

ちなみに俺もそのタイプだ。

「そんなに凄い物だったんだ。」

俺の後ろで聞いていたシャルちゃんも驚いたような顔をしている。

「別にそれを売ってほしいんじゃないんです。いや、売ってほしいんですけど、ともかくどこで売っているかだけでも教えていただけたらすぐに買いに行きます!」

「これはサンサトローズにあるネムリ商店で昨日買い求めたものです。まだあるかは保証できませんが・・・。」

「ネムリ商店ですね!ありがとうございます!」

その女性はものすごい勢いで頭を下げると脱兎の如く走って行ってしまった。

「なんだか凄い人だったね。」

「ちょっと怖かったけど悪い人じゃなかったみたいです。」

「ともかく気に入ってもらえてよかった、これからも宜しくね。」

「はい!ありがとうございます!」

先程の女性のように大きく頭を下げるシャルちゃん。

本物のウサミミが遅れて垂れるのが可愛らしい。

うーむ、ケモナーに目覚めてしまいそうだ。

「しかし、定期便が来る日でもないのに何の用があって村に来たんでしょう。」

「ウェリスさん達みたいには見えなかった。」

「確かに労働者の皆さんって感じの格好じゃなかったね。」

「あんなに布が少なくて恥ずかしくないのかな。」

先程の女性の服をもう一度思い出してみる。

ワイシャツのような白いシャツに茶色のブレザーのような物を羽織っていた、そして一番目を引いたのが鮮やかな緑色のミニスカートだ。

この世界にミニ丈があったのか!

っていうぐらいに短かった。

膝上何センチなんだろう。

さすがに下着が見える感じじゃないけど1歩間違えば間違いなく見える。

でもさ、結局見えないんだよね。

絶対領域的な何かがあるんですよ。

不思議だ。

「見せる方が自分の自信になるとか可愛いからとか色々あるのかもしれないけど、分からないなぁ。」

「恥ずかしくて絶対に無理です。」

ちなみにシャルちゃんはというと膝がすっぽり隠れるぐらいのグレーのワンピースを着ている。

上品なお嬢様っていうよりもおしとやかな近所の妹みたいな感じ。

可愛くて愛でたくなるタイプです。

「まぁ、人それぞれだからシャルちゃんは好きな服を着たら良いよ。欲しい服があったらエミリア達に相談してごらん。」

「はい!」

エミリア達にとってもシャルちゃん達は年の離れた可愛い姉弟ポジションのようで何かと世話を焼きたがっている。

ニケさんにとってのトリシャさんのような感じだろうか。

あの二人も本物の姉妹のように見えたなぁ。

「お姉ちゃん、向こうで剣の練習してくるね!」

「他の人の邪魔しちゃダメだよ、お家に当ててもダメだからね!」

「大丈夫!」

ティオ君は素振り?に飽きて何かを叩いてみたくなったようだ。

頑張れ少年、シルビア様に教えてもらうようになったらそんな自由に振り回すことは出来なくなるぞ。

結構厳しいんだから。

シャルちゃん達と別れ商店に戻る前にぐるりと村を見回っておく。

南門の先に広がる入植者用の土地には基礎用の簡単な印が刻まれていた。

ひとまずここに20人分の家を建てて、そこからどんどんと南方向に土地を開拓していく。

土地を開けば開く程多くの人が入植できるようになるだろう。

そのまま西門のほうに向うと宿建設予定地は整地の最終段階を迎えていた。

宿のほかにお店を二件ぐらい建てる予定だ。

その分の土地もしっかり確保してある。

南は新しい住人用に開発、西は冒険者や村にきてくれる人達向けに開発していく。

そして最後に畑のある北側へと向かった。

そこには刈り取られた広い麦畑が一面に広がっている。

ここも北へ北へと森を切り開いて土地を耕していき、人が増えても食べていけるぐらいの麦をまた植える。

大量生産を支える為に必要なのは大量の水。

それを実現する灌漑施設を作る為に森の奥からは今日も木を切る音が聞こえてくる。

ちょうど村と泉の真ん中ぐらいまで木を切り終えたそうだ。

冬までに後一期、何とか秋節のうちに村までの伐採が完了できれば土木作業に弾みがつく。

土を掘り起こして水路を作るのはかなりの重労働だ。

ショベルカーも無しに人力で行くんだから凄いよなぁ。

俺なんて1日土を掘るだけで動けなくなってしまうよ。

「さて、帰りますかね。」

すれ違う村の人から話しを聞くも特に問題は無いようだ。

よかったよかった。

体調不良のオッサンの代わりに働くのはなんだか癪だが、これも村の人の為。

そして俺がこうしていられるのも全部みんなのおかげだ。

畑から商店に戻ろうと再び西門へと向うと、商店へと至る道をなんだか見たことある人が歩いてた。

あれはさっきの・・・。

茶色のブレザーに緑のミニスカート。

間違いない、先程の女性だ。

なんだか俯いて元気がないようだが、まさかこの短時間で行き来したんじゃないよね。

とりあえず声をかけておくか。

「あの、どうされました?」

「貴方はさっきの・・・。」

「イナバです、ネムリ商店へ向ったと思っていましたが商店に何か用ですか?」

不思議そうな顔で俺の顔をじっと見つめる女性。

だが次の瞬間、その顔はへの字に歪み瞳からはポロポロと涙がこぼれだした。

「聞いてくださいよ~、買いに行こうと馬車に戻ったらもう出発しちゃっていなかったんですよ~。」

あ、馬車で来てたのね。

そして見事に乗り損ねたと。

定期便じゃないって事はチャーターした馬車になると思うんだけど片道なんて珍しいな。

「そうだったんですね。」

「やっと手に入ると思ったのに~、やっぱり私には縁がないってことなんですか~?」

「いやどうでしょう。」

「もう5年も探し続けてるんですよ~?国中あちこち行って探しているのに何時行っても売り切れで、やっぱり私は呪われているんだ~。」

大声で泣いている割には間延びしたしゃべり方なのでなんだか間抜けに聞こえてしまう。

さっきは結構シャキシャキしゃべる感じだったのに、幼児退行するタイプなのかな。

「いきなり辺境に行けって辞令は出るし~、そのせいで人形は買い損なうし~、これで呪われてなければなんだって言うんですか~!」

「辞令があってここに来たんですか?」

「お昼寝してたのに急に呼び出されて~、双方向同時念話通信が出来る人が必要だっていうし~、そりゃあそんなこと出来るの私だけだからしかたないんだけど~、でもいきなり明日の朝行けって酷くないですか~?」

「確かに急ですね。」

「でしょ~?誰よこんな企画考えたの~、しんじられな~い!」

どうやらこの人はププト様の手配してくださった念話通信を専門にしてくれる人のようだ。

エミリアにもお願いした事があるけど長時間の念話はかなりの負担を強いる。

それを双方向同時に行なえるというのは凄い事だ。

天才に変人は多いっていうけどこの人もその部類に入るのかもしれない。

「真に申し訳ないのですが一つよろしいですか?」

「なによ~、私にあの人形買って来てくれるって言うの~?」

「いえ、買ってくる事は出来ません。むしろ貴女をここに呼んだのは私のせいみたいです。」

「私を呼んだのってあのシュリアン商店の店主なんでしょ~?ププト様に呼ばれるぐらい凄いお店の店主が貴方だなんて信じられな~い。」

信じられなくても信じてもらわなければ困るわけで。

その後も今回の辞令について間延びした声で文句を言う女性。

それに適当な相槌をうちながら俺達は店に戻った。

「ただいま戻りました。」

「あ、お帰りなさい。」

「お客様も一緒なんですが・・・。」

「念話通信の出来る方が来てくださったんですね。」

パタパタとエミリアがこちらへ向ってくる。

どうやら比較的暇なようだ。

「ここの店主さんを呼んでくれますか?私文句を言わないと気が済まないんです!」

「えっと、店主ですか?」

「そうです!」

しゃべっている間にいつの間にかあの間延びした感じは元に戻っていた。

だが本人の怒りはまだ収まっていないようで最後の方は呼び出した俺への文句をひたすら言い続けていた。

最後まで俺が店主だと信じてくれなかったんだ。

決して騙す為に黙っていたわけじゃないのでそこは誤解の無いようにお願いしたい。
「店主とはイナバ=シュウイチのことでしょうか。」

「だからそうです!ここにいるんですよね、さっさと呼んできてください!」

「えっと・・・。」

困った顔で俺を見つめるエミリア。

わかる、わかるよ。

言いたい事はよく分かる。

だけど、最後まで聞き入れてくれなかったんだ。

俺は女性の後ろでエミリアに向って横に首を振る。

それを見たエミリアはしばらく考えた後、何か閃いた顔をして口を開いた。

「シュウイチさん、お客様がお呼びです。」

あ、なるほどそう来ますか。

「分かりましたすぐ行きます。」

俺はエミリアの呼びかけに応えるように女性の横をすり抜けてエミリアの横に立つ。

キョトンとした顔をして女性が俺を見つめている。

「御挨拶が遅れました、私シュリアン商店の店主をしておりますイナバ=シュウイチと申します。この度は遠い所お越しくださってありがとうございました。」

事情を良く飲み込めていない女性に向けて俺は最大級の営業スマイルを浮かべながら大きく頭を下げた。

「こちらが当シュリアン商店の店主イナバ=シュウイチです。この度はお越しくださいましてありがとうございます。」

俺に続いてエミリアも綺麗なお辞儀で女性を迎える。

「え?え?えぇぇぇぇぇぇ!!!」

やっと自体を飲み込めた女性の叫び声が商店全体に響き渡った。

そして時は少しだけ進み・・・。

「本当に申し訳ありませんでした!」

俺は先程の女性から何度も謝罪を受けていた。

口を開けば謝罪の言葉。

別に俺は怒っていないから別に大丈夫なんだけど・・・。

こちらを見る冒険者の視線が痛い。

そろそろ話しを戻さないとあらぬ誤解からまた変な通り名をつけられかねない。

「ですから気にしていませんのでもう謝らないでください。急な辞令で文句を言いたくなる気持ちは私も良くわかります。」

「でもでも、シュリアン商店の店主様だなんて思いもしなくて。」

「あはは、よく言われます。」

「噂話だけを聞けばシュウイチは上級冒険者のような感じに聞こえるからな。不死身、三千殺し、救済者、盗賊殺しなんて言うのもあったな。」

「やめてくださいよ。」

すごい通り名ばかりが広がって本人が置いていかれている。

まったく困ったものだ。

「ではあの噂話はやっぱり嘘・・・?」

「嘘といいますか何と言いますか。」

「皆様香茶が入りました。」

嘘では無いんだが誇張表現ではある。

なんて説明しようか悩んでいる時にユーリがタイミングよくお茶を持って来てくれた。

「ありがとうユーリ。」

「ご主人様は本当に噂どおりの事を成し遂げておられるのです、もっと自信を持ってください。」

「自信を持ってもただの店主には不釣合いの通り名ですよ。」

「え、じゃあやっぱり本当?」

「あぁ、王女暗殺の狙撃から生き残り3000もの魔物を焼き払う作戦を考え単独で冒険者を救出し盗賊団を壊滅させた。それを成し遂げた事は元騎士団長である私が証明しよう。」

「やっぱり凄い人なんじゃないですかぁぁ!」

あ、また元に戻ってしまった。

俺なんかよりシルビア様のほうが十分凄い人だと思うんだけどなぁ。

「ともかく今回は私の企画の為に遠い所をありがとうございました。ププト様は何て言われたんですか?」

「いきなり家に役人さんが来て、『絶対に失敗できない企画があるから、しっかりやって来い。』って手紙を渡されたんです。明日中に行かないと家を追い出すって言われてそれで・・・。」

「家を追い出す!?」

おいおい物騒な話しだな。

ププト様ってそんなに強引に話しを進めるのか?

いくら領主だからってやりすぎじゃないだろうか。

「居心地が良いからちょっと住まわせてもらってただけなのに追い出すなんて酷くないですか?」

「そこはお前の家なのか?」

「いえ、ププト様の別宅です。」

あー、うん。

追い出されて当然だわ。

「何でそんなところに?」

「別のお仕事でサンサトローズに来てあてがわれた家なんですけど、ベットがフカフカですごいんです!それでついつい長居しちゃって、でもでも一泊したら二泊も三泊も同じですよね?」

「いや、一緒じゃないと思うぞ。」

「えぇぇ、じゃあもうあそこには戻れないんでしょうか。」

「それはププト様次第だと思います。」

天才に変人は多いってさっきい言ったけど、ガチの変人だったようだ。

本当に大丈夫だろうか。

「じゃぁじゃぁ、今日から何処に住んだらいいんですか?」

「企画までの残り9日間は宿を使っていただいても大丈夫ですよ。あくまでも企画の間ですがよろしくおねがいします。えっと、お名前が・・・。」

「ありがとうございます!私はレミナっていいます!お肉は好きですけど野菜は嫌いです、あとお風呂は二日に一度は入りたいです!よろしくお願いします!」

泊まる場所がきまった瞬間にこのずうずうしさ。

いろんな意味ですごいな。

こうして企画に重要な仲間が一人増えるのだった。
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