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第七・五章
選ばれし者達
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昨日は思った以上に時間を取られてしまった。
いや、時間はあったんだ。
まだ陽の高い時間に予選は終了したんだから、その後すぐに集計作業に入れば夜には終わっていただろう。
だがそうならなかった。
理由は一つ。
冒険者のテンションの高さについていけなかった。
予選終了後冒険者は受験の終わった受験生の如く盛り上がっていた。
結果は翌日だし今更凹んでも仕方が無い。
楽しめるのならば今楽しもう。
そんな感じだったのだろう。
それはもう大騒ぎだった。
もう後夜祭やら無くてもいいんじゃないかって言うぐらいだ。
後で聞いた話だが、有料の出店は過去最高の売上をたたき出したそうだ。
たった150人しか顧客がいないのにすごいなぁ。
それだけ美味しかったということなんだろうけど。
これで催しが終わっても顧客として街でも利用してくれる事だろう。
そういう意味ではこの出店は成功だったといえるな。
軽い二日酔いに頭を抑えながら村への道を歩く。
横にはいつもの面々、プラスティナギルド長。
うむ、ハーレムハーレム。
あ、誤解が無い様に言っておきますが集計作業が忙しくて手を出しておりません。
時間があっても手は出さなかったと思いますけど。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「さっき薬を飲みましたので大丈夫です。」
軽い頭痛に頭を振っているとエミリアに心配されてしまった。
「今日が最終日なのだ、無理して倒れないようにな。」
「頑張るのは冒険者の皆さんですし、私はダンジョンの下で待っているだけですから。」
「それでも1日がかりの長丁場だ。適度に休憩を挟むんだぞ。」
「善処します。」
ただ座っているだけって言うのも結構しんどいんです。
「イナバ様、冒険者の誘導は昨日と同じで大丈夫ですか?」
「そうですね、今回は時間がかかりますし各班ずつでもいいかもしれません。終了後も村の広場と天幕広場を上手く利用して分ければ大丈夫でしょう。」
「ご主人様、決勝に残れない冒険者はいかがしましょうか。」
「参加賞を配り、街に戻る冒険者は随時来る馬車へと誘導してください。残られる場合は引き続き天幕広場で待機でいきます。」
「時間がだいぶ空いてしまいますが・・・。」
その通りだ。
決勝に出る冒険者はすることがあるので構わないが、出れなかった冒険者は暇になってしまう。
うーむ、そこまで考えてなかった。
「何かしたほうがいいでしょうか。」
「街に誘導して時間までに戻ってきてもらうのはどうです?」
「そのまま戻らない冒険者も出てきますから帰る帰らないは線引きした方がいいかもしれません。」
「それでしたら私に任せてください、いい案があります。」
「ティナギルド長お勧めの案というやつを是非聞かせてください。」
「そんな大それたものでは無いですが・・・。」
ティナさんの案は中々面白そうな内容だった。
これなら別に賞品を出してもいいかもしれない。
確か協賛品の残りがまだあったはずだ。
「・・・なるほどそれはいいですね。」
「私もそう思います。」
「それには騎士団員も参加していいのか?彼等もだいぶ暇をもてあましているのだ。」
「是非参加してください。これで騎士団の皆さんと冒険者の仲が少しでも改善するかもしれません。」
騎士団員も参加するのか。
それはいよいよ面白くなってくるな。
だが、それでは決勝に行く冒険者がうらやましがらないか?
「あくまで決勝に出れない冒険者の為ですから問題ないのでは無いでしょうか。」
「えっとユーリ様それはどういうことでしょうか。」
「ご主人様は決勝に出る冒険者が参加したがらないかを心配されているようです。」
「そ、そうですか・・・。」
ユーリさん、俺の心に返事するのは結構ですがティナさんが驚いているじゃ有りませんか。
「ユーリはシュウイチの心が読めるのだ、だから気にしないで貰いたい。」
「そうなのですね。」
「実は私も少し読めるんですよ?」
「エミリア様もですか!?」
え、そうなの?
確かに心の声は駄々漏れですけどまさかエミリアにまで聞こえてる?
それはまずい、あんなことやそんな事を考えられなくなってしまうじゃないか。
「実は私も・・・。」
「そういうことなら私も少しならわかるぞ。」
「ニケ様とシルビア様まで!やはり御一緒に住むと心が読めるようになるんでしょうか・・・。」
「それは私も詳しく聞きたいんですが。」
「なんだ、シュウイチは気付いていないのか?」
「心が読めるというのは初耳ですよ。」
是非詳しくお聞かせいただきたい。
その答え次第で今後の対応について検討いたしたく・・・。
「お腹が空いた時、悲しそうな顔をするな。」
「・・・はい?」
「シュウイチさんは考え事に集中するとあごに手を乗せますね。」
「それと明後日の方を向いてしまいます。」
「あ、それはこの前の事件の時もありました。」
えっと、それは心を読まれているというか仕草から読み取っているというか。
「皆様お気づきでは無いと思いますが、ご主人様はよからぬ事を考える時、下を向いて笑います。」
「それは初耳だ。」
「私もです。」
「ユーリ様詳しく聞かせてもらえますか?」
「私の口からどのような内容かをお伝えすることはできませんが、頭の中では色々と考えておられるのですよ。」
「ちょっとユーリさんこっちに来なさい。」
慌ててユーリの発言を止める。
おれ自身気付いていなかったがそうだったのか。
次回から気をつけよう・・・。
「シュウイチも男だからな、そんな事を考える事もあるだろう。」
「むしろイナバ様は少なすぎるぐらいです。こんなに綺麗な奥様がいるのに。」
「綺麗だなんてそんな、私なんて皆さんに比べれば・・・。」
「エミリア様も十分お綺麗ですよ。私はどうしてもこのあたりの筋肉が目立ってしまってごつく見えてしまうんです。」
「何を言う、それを言えば私なんて筋肉だらけでは無いか。だがシュウイチはそこが良いといってくれている、ティナ殿は何の心配もすることは無い。」
「そうですか?そうだったらいいんですけど・・・。」
こらこら、そうやってチラチラ見ない。
一体何を期待しているんですか。
っていうか俺が横にいるのになんて会話をするんですかうちの女性陣は。
エミリアやシルビア様ならまだしも、ティナさんはギルドの偉い人ですよ?
まぁ、シルビア様も騎士団長だけどさ。
ってそうじゃなくて。
それに俺には奥さんが二人もいてですね。
「奥さんのほかに私やニケ様も要るではありませんか。今更1人増えるぐらい問題ないと思います。」
「ユーリさん、少し黙っておきましょうか。」
とりあえずユーリの口を手で塞ぐ。
まったく、俺の心を読めるというのも考え物だな。
密談や緊急時の連絡などには使えるかもしれないが、こうも心の声が駄々漏れだと・・・。
まぁいつもの事か。
「あー、みなさんとりあえず話しを戻しましょう。決勝に残れなかった冒険者の件はティナさんにお任せしますがよろしいですね?」
「はい、お任せ下さい。」
「賞品に出していない協賛品がまだいくつかあったはずです。このままうちで貰ってしまうより冒険者に使ってもらうほうがいいでしょうからめぼしい物を探しておいてください。」
「それでしたら表にしてありますのでそこから選んでおきますね。」
「さすがニケさん、そちらはお任せします。」
「では私は道具を集めておきましょう。丁度いい瓶が昨日大量に出ているはずですから。」
昨日のドンちゃん騒ぎを考えると十分な量があるだろう。
一昨日の分もそこそこあるはずだ。
むしろ、それだけ消費してまだ倉庫に山のように在庫があるのはどういうことだろうか。
コッペンの奴どれだけ稼いでいるんだ?
「道具の準備と一緒にウェリス達に土を均すようにお願いしておいてください。」
「また愚痴を言われそうですね。」
「御代として今晩良い酒を持っていくと伝えれば喜んでやってくれるでしょう。」
「かしこまりました。」
「ならば私は団員の中から参加者を募っておこう。これは争奪戦になるな。」
騎士団の皆さんにも今回は頑張ってもらっている。
せめてこんな時ぐらい息抜きしてもらってもいいだろう。
「予選通過の発表は村に着いて一刻ほどしてから行ないます。準備は私とエミリアで行ないますのでそちらは宜しくお願いしますね。」
「「「「はい。」」」」
村に着いたら予選通過班を知らせる掲示板をドリスのオッサンと立ててしまおう。
ありがたい事に板への記入は村長が引き受けてくれた。
達筆だし、やはり村長が書いてくれるとありがたみが違う。
私は何もしていませんからなんていうけれど、俺達が安心してあれこれ出来るのは村長が任せてくれているおかげだ。
有り難い話だよなぁ。
だからこそ、何としてでもこの催しは成功させなきゃいけない。
残す所今日一日。
最後の最後で失敗しないよう頑張ろう。
「皆さん二日間お疲れ様でした、ただいまより予選通過者の発表を行ないます!」
立ち慣れたお立ち台の上から冒険者達を見渡す。
皆この時の為に二日間頑張ってきた。
誰一人として端から諦めている感じは無い。
呼ばれるのは俺だという自信に溢れた目をしている。
「予選通過された班はこちらで読み上げながら順番に掲示されていきますので御確認下さい。なお、予選で獲得した得点はあくまでも予選での得点になります。20位だから1位になれないわけではありませんので安心してください。」
決勝は決勝でダンジョン障害物競走に相応しいコースを用意した。
また気持ちを新たに頑張ってもらおう。
「では栄えある1位から順に参りましょう。第一位、50点満点中42点、番号札16番です!」
「「「「おおおおお!」」」」
「初日から上位に食い込み二日目見事な連携で高得点をたたき出しました、皆さん盛大な拍手をお願いします!」
照れながらも周りの冒険者に祝福されている。
うんうん、やっぱりこうでなくっちゃ。
「では続いていきましょう第二位38点、番号札44番、第三位37点番号札50番です!」
「やったぁ!」
「3位まではさすがというべきでしょうか中級から上級の冒険者が選ばれました。ですが御安心下さい。この催しは階級は関係ありません。初心者も上級者も等しく同じ機会を与えられています。その証拠に、第4位は番号札11番、初心者の彼等が見事4位に名乗りを上げました!」
「ウソだろ俺達が4位!?」
初心者冒険者だって負けてはいない。
経験だけでなく運も味方につけた冒険者こそが上位に名乗りを上げれるのだ。
「続いて10位まで行きましょう。5位番号札24番、6位番号札43番、7位番号札23番、8位番号札7番、9位番号札32番、10位番号札21番です!」
俺の発表にあわせて班の名前が掲示板に掲示されていく。
これで半分だ。
「まだまだ可能性はあります、続いていきましょう。11位番号札42番、12位番号札31番、13位番号札18番、14位番号札38番、15位番号札37番以上です!
「呼ばれた!」
「くそ、まだ呼ばれねぇよ。」
「まだだ、まだ終わってない!」
呼ばれた班は喜んで抱き合い、呼ばれていない班は悔しくて声を荒げる。
だがまだ終わっていない。
最後の椅子を賭けて、残り5枠だ。
「では最後まで読み上げます、16位番号札17番、17位番号札8番、18位番号札22番、19位番号札48番・・・。」
いよいよ最後だ。
まだ呼ばれていない冒険者が祈るような目で俺を見てくる。
そんな目で見ても俺は何もできない。
ここで呼ばれるのは、この二日間どれだけ全力を尽くし運を味方にしたか。
それだけだ。
「いよいよ最後です。第20位番号札6番です!」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
「兄貴、呼ばれた、呼ばれたよ!」
「お、おぅ・・・。」
「マジかよ、本当に残りやがった・・・。」
「あいつ等が残るなんて一体何の間違いだ?」
冒険者達がざわついている。
それもそうだろう、最後に呼ばれた彼等は初日の結果では絶対呼ばれないはずだった。
だが、昨日の朝引き起こした一件で火がついたのか見事最後の椅子に滑り込んできたのだ。
運も味方につけた典型的な例だろう。
「呼ばれた班の代表は前に出てきてください。」
エミリアのアナウンスで代表者がぞろぞろと前に出てくる。
お立ち台の前に20人の精鋭たちが堂々と並んだ。
「16.44.50.11.24.43.23.7.32.21.42.31.18.38.37.17.8.22.48.6以上の班が見事決勝に残りました。彼等はこれより決勝の舞台に進み一位の座を目指して全力を尽くします!みなさんもう一度盛大な拍手をお願いします!」
敗者と勝者、この二つには大きな隔たりがある。
呼ばれた班は抱き合って喜び、呼ばれなかった班の中には涙を流す者もいる。
だが、その中の誰一人として呼ばれた彼等を睨んでいたりけなしたりする者はいなかった。
何故ならここにいる150人全員が、全力で競い合ったライバルだからだ。
「どうぞ元の場所にお戻り下さい。」
拍手を浴びながら冒険者達が戻っていく。
彼等は決勝に上がれなかった冒険者の願いも背負って、戦いの場に挑むだろう。
決勝が楽しみだ。
「決勝はこれより一刻後に開始します、該当の班は遅れないようにここに集合してください。各班後悔の無い様しっかりと準備をしてくださいね。また、決勝に残れなかった冒険者の皆さんにはティナギルド長より参加賞の受け取りならびに今後について説明がありますので聞き漏らしのないようにお願いします。もしかしたら、別の賞品が手に入るかもしれませんよ・・・。」
ザワ・・・。
そんな音が聞こえた気がする。
負けたら終わりじゃないんですよ。
そこから始まる何かもあるんです。
まぁ、そっちに関してはティナさんたちに任せるとして、俺達は決勝進出者の相手をするとしよう。
「それでは解散してください。」
ひとまず冒険者を解散させる。
様々な感情に包まれた冒険者を見送りながら、自分自身も気合を入れる。
長かったこの催しも次で最後だ。
失敗は出来ない。
でも、ここまできたらもう成功といってもいいかもしれない。
そんな気持ちもある。
そうだな、あんまり構えてしまわずに気楽に行こう。
なるようになるさ。
「シュウイチさん頑張りましょうね。」
そんな気持ちを察してかエミリアが声をかけてくれた。
やっぱりエミリアにも心の声が聞こえているのかもしれない。
「頑張りましょう。」
冒険者の、そして俺達の最後の一日がはじまる。
いや、時間はあったんだ。
まだ陽の高い時間に予選は終了したんだから、その後すぐに集計作業に入れば夜には終わっていただろう。
だがそうならなかった。
理由は一つ。
冒険者のテンションの高さについていけなかった。
予選終了後冒険者は受験の終わった受験生の如く盛り上がっていた。
結果は翌日だし今更凹んでも仕方が無い。
楽しめるのならば今楽しもう。
そんな感じだったのだろう。
それはもう大騒ぎだった。
もう後夜祭やら無くてもいいんじゃないかって言うぐらいだ。
後で聞いた話だが、有料の出店は過去最高の売上をたたき出したそうだ。
たった150人しか顧客がいないのにすごいなぁ。
それだけ美味しかったということなんだろうけど。
これで催しが終わっても顧客として街でも利用してくれる事だろう。
そういう意味ではこの出店は成功だったといえるな。
軽い二日酔いに頭を抑えながら村への道を歩く。
横にはいつもの面々、プラスティナギルド長。
うむ、ハーレムハーレム。
あ、誤解が無い様に言っておきますが集計作業が忙しくて手を出しておりません。
時間があっても手は出さなかったと思いますけど。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「さっき薬を飲みましたので大丈夫です。」
軽い頭痛に頭を振っているとエミリアに心配されてしまった。
「今日が最終日なのだ、無理して倒れないようにな。」
「頑張るのは冒険者の皆さんですし、私はダンジョンの下で待っているだけですから。」
「それでも1日がかりの長丁場だ。適度に休憩を挟むんだぞ。」
「善処します。」
ただ座っているだけって言うのも結構しんどいんです。
「イナバ様、冒険者の誘導は昨日と同じで大丈夫ですか?」
「そうですね、今回は時間がかかりますし各班ずつでもいいかもしれません。終了後も村の広場と天幕広場を上手く利用して分ければ大丈夫でしょう。」
「ご主人様、決勝に残れない冒険者はいかがしましょうか。」
「参加賞を配り、街に戻る冒険者は随時来る馬車へと誘導してください。残られる場合は引き続き天幕広場で待機でいきます。」
「時間がだいぶ空いてしまいますが・・・。」
その通りだ。
決勝に出る冒険者はすることがあるので構わないが、出れなかった冒険者は暇になってしまう。
うーむ、そこまで考えてなかった。
「何かしたほうがいいでしょうか。」
「街に誘導して時間までに戻ってきてもらうのはどうです?」
「そのまま戻らない冒険者も出てきますから帰る帰らないは線引きした方がいいかもしれません。」
「それでしたら私に任せてください、いい案があります。」
「ティナギルド長お勧めの案というやつを是非聞かせてください。」
「そんな大それたものでは無いですが・・・。」
ティナさんの案は中々面白そうな内容だった。
これなら別に賞品を出してもいいかもしれない。
確か協賛品の残りがまだあったはずだ。
「・・・なるほどそれはいいですね。」
「私もそう思います。」
「それには騎士団員も参加していいのか?彼等もだいぶ暇をもてあましているのだ。」
「是非参加してください。これで騎士団の皆さんと冒険者の仲が少しでも改善するかもしれません。」
騎士団員も参加するのか。
それはいよいよ面白くなってくるな。
だが、それでは決勝に行く冒険者がうらやましがらないか?
「あくまで決勝に出れない冒険者の為ですから問題ないのでは無いでしょうか。」
「えっとユーリ様それはどういうことでしょうか。」
「ご主人様は決勝に出る冒険者が参加したがらないかを心配されているようです。」
「そ、そうですか・・・。」
ユーリさん、俺の心に返事するのは結構ですがティナさんが驚いているじゃ有りませんか。
「ユーリはシュウイチの心が読めるのだ、だから気にしないで貰いたい。」
「そうなのですね。」
「実は私も少し読めるんですよ?」
「エミリア様もですか!?」
え、そうなの?
確かに心の声は駄々漏れですけどまさかエミリアにまで聞こえてる?
それはまずい、あんなことやそんな事を考えられなくなってしまうじゃないか。
「実は私も・・・。」
「そういうことなら私も少しならわかるぞ。」
「ニケ様とシルビア様まで!やはり御一緒に住むと心が読めるようになるんでしょうか・・・。」
「それは私も詳しく聞きたいんですが。」
「なんだ、シュウイチは気付いていないのか?」
「心が読めるというのは初耳ですよ。」
是非詳しくお聞かせいただきたい。
その答え次第で今後の対応について検討いたしたく・・・。
「お腹が空いた時、悲しそうな顔をするな。」
「・・・はい?」
「シュウイチさんは考え事に集中するとあごに手を乗せますね。」
「それと明後日の方を向いてしまいます。」
「あ、それはこの前の事件の時もありました。」
えっと、それは心を読まれているというか仕草から読み取っているというか。
「皆様お気づきでは無いと思いますが、ご主人様はよからぬ事を考える時、下を向いて笑います。」
「それは初耳だ。」
「私もです。」
「ユーリ様詳しく聞かせてもらえますか?」
「私の口からどのような内容かをお伝えすることはできませんが、頭の中では色々と考えておられるのですよ。」
「ちょっとユーリさんこっちに来なさい。」
慌ててユーリの発言を止める。
おれ自身気付いていなかったがそうだったのか。
次回から気をつけよう・・・。
「シュウイチも男だからな、そんな事を考える事もあるだろう。」
「むしろイナバ様は少なすぎるぐらいです。こんなに綺麗な奥様がいるのに。」
「綺麗だなんてそんな、私なんて皆さんに比べれば・・・。」
「エミリア様も十分お綺麗ですよ。私はどうしてもこのあたりの筋肉が目立ってしまってごつく見えてしまうんです。」
「何を言う、それを言えば私なんて筋肉だらけでは無いか。だがシュウイチはそこが良いといってくれている、ティナ殿は何の心配もすることは無い。」
「そうですか?そうだったらいいんですけど・・・。」
こらこら、そうやってチラチラ見ない。
一体何を期待しているんですか。
っていうか俺が横にいるのになんて会話をするんですかうちの女性陣は。
エミリアやシルビア様ならまだしも、ティナさんはギルドの偉い人ですよ?
まぁ、シルビア様も騎士団長だけどさ。
ってそうじゃなくて。
それに俺には奥さんが二人もいてですね。
「奥さんのほかに私やニケ様も要るではありませんか。今更1人増えるぐらい問題ないと思います。」
「ユーリさん、少し黙っておきましょうか。」
とりあえずユーリの口を手で塞ぐ。
まったく、俺の心を読めるというのも考え物だな。
密談や緊急時の連絡などには使えるかもしれないが、こうも心の声が駄々漏れだと・・・。
まぁいつもの事か。
「あー、みなさんとりあえず話しを戻しましょう。決勝に残れなかった冒険者の件はティナさんにお任せしますがよろしいですね?」
「はい、お任せ下さい。」
「賞品に出していない協賛品がまだいくつかあったはずです。このままうちで貰ってしまうより冒険者に使ってもらうほうがいいでしょうからめぼしい物を探しておいてください。」
「それでしたら表にしてありますのでそこから選んでおきますね。」
「さすがニケさん、そちらはお任せします。」
「では私は道具を集めておきましょう。丁度いい瓶が昨日大量に出ているはずですから。」
昨日のドンちゃん騒ぎを考えると十分な量があるだろう。
一昨日の分もそこそこあるはずだ。
むしろ、それだけ消費してまだ倉庫に山のように在庫があるのはどういうことだろうか。
コッペンの奴どれだけ稼いでいるんだ?
「道具の準備と一緒にウェリス達に土を均すようにお願いしておいてください。」
「また愚痴を言われそうですね。」
「御代として今晩良い酒を持っていくと伝えれば喜んでやってくれるでしょう。」
「かしこまりました。」
「ならば私は団員の中から参加者を募っておこう。これは争奪戦になるな。」
騎士団の皆さんにも今回は頑張ってもらっている。
せめてこんな時ぐらい息抜きしてもらってもいいだろう。
「予選通過の発表は村に着いて一刻ほどしてから行ないます。準備は私とエミリアで行ないますのでそちらは宜しくお願いしますね。」
「「「「はい。」」」」
村に着いたら予選通過班を知らせる掲示板をドリスのオッサンと立ててしまおう。
ありがたい事に板への記入は村長が引き受けてくれた。
達筆だし、やはり村長が書いてくれるとありがたみが違う。
私は何もしていませんからなんていうけれど、俺達が安心してあれこれ出来るのは村長が任せてくれているおかげだ。
有り難い話だよなぁ。
だからこそ、何としてでもこの催しは成功させなきゃいけない。
残す所今日一日。
最後の最後で失敗しないよう頑張ろう。
「皆さん二日間お疲れ様でした、ただいまより予選通過者の発表を行ないます!」
立ち慣れたお立ち台の上から冒険者達を見渡す。
皆この時の為に二日間頑張ってきた。
誰一人として端から諦めている感じは無い。
呼ばれるのは俺だという自信に溢れた目をしている。
「予選通過された班はこちらで読み上げながら順番に掲示されていきますので御確認下さい。なお、予選で獲得した得点はあくまでも予選での得点になります。20位だから1位になれないわけではありませんので安心してください。」
決勝は決勝でダンジョン障害物競走に相応しいコースを用意した。
また気持ちを新たに頑張ってもらおう。
「では栄えある1位から順に参りましょう。第一位、50点満点中42点、番号札16番です!」
「「「「おおおおお!」」」」
「初日から上位に食い込み二日目見事な連携で高得点をたたき出しました、皆さん盛大な拍手をお願いします!」
照れながらも周りの冒険者に祝福されている。
うんうん、やっぱりこうでなくっちゃ。
「では続いていきましょう第二位38点、番号札44番、第三位37点番号札50番です!」
「やったぁ!」
「3位まではさすがというべきでしょうか中級から上級の冒険者が選ばれました。ですが御安心下さい。この催しは階級は関係ありません。初心者も上級者も等しく同じ機会を与えられています。その証拠に、第4位は番号札11番、初心者の彼等が見事4位に名乗りを上げました!」
「ウソだろ俺達が4位!?」
初心者冒険者だって負けてはいない。
経験だけでなく運も味方につけた冒険者こそが上位に名乗りを上げれるのだ。
「続いて10位まで行きましょう。5位番号札24番、6位番号札43番、7位番号札23番、8位番号札7番、9位番号札32番、10位番号札21番です!」
俺の発表にあわせて班の名前が掲示板に掲示されていく。
これで半分だ。
「まだまだ可能性はあります、続いていきましょう。11位番号札42番、12位番号札31番、13位番号札18番、14位番号札38番、15位番号札37番以上です!
「呼ばれた!」
「くそ、まだ呼ばれねぇよ。」
「まだだ、まだ終わってない!」
呼ばれた班は喜んで抱き合い、呼ばれていない班は悔しくて声を荒げる。
だがまだ終わっていない。
最後の椅子を賭けて、残り5枠だ。
「では最後まで読み上げます、16位番号札17番、17位番号札8番、18位番号札22番、19位番号札48番・・・。」
いよいよ最後だ。
まだ呼ばれていない冒険者が祈るような目で俺を見てくる。
そんな目で見ても俺は何もできない。
ここで呼ばれるのは、この二日間どれだけ全力を尽くし運を味方にしたか。
それだけだ。
「いよいよ最後です。第20位番号札6番です!」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
「兄貴、呼ばれた、呼ばれたよ!」
「お、おぅ・・・。」
「マジかよ、本当に残りやがった・・・。」
「あいつ等が残るなんて一体何の間違いだ?」
冒険者達がざわついている。
それもそうだろう、最後に呼ばれた彼等は初日の結果では絶対呼ばれないはずだった。
だが、昨日の朝引き起こした一件で火がついたのか見事最後の椅子に滑り込んできたのだ。
運も味方につけた典型的な例だろう。
「呼ばれた班の代表は前に出てきてください。」
エミリアのアナウンスで代表者がぞろぞろと前に出てくる。
お立ち台の前に20人の精鋭たちが堂々と並んだ。
「16.44.50.11.24.43.23.7.32.21.42.31.18.38.37.17.8.22.48.6以上の班が見事決勝に残りました。彼等はこれより決勝の舞台に進み一位の座を目指して全力を尽くします!みなさんもう一度盛大な拍手をお願いします!」
敗者と勝者、この二つには大きな隔たりがある。
呼ばれた班は抱き合って喜び、呼ばれなかった班の中には涙を流す者もいる。
だが、その中の誰一人として呼ばれた彼等を睨んでいたりけなしたりする者はいなかった。
何故ならここにいる150人全員が、全力で競い合ったライバルだからだ。
「どうぞ元の場所にお戻り下さい。」
拍手を浴びながら冒険者達が戻っていく。
彼等は決勝に上がれなかった冒険者の願いも背負って、戦いの場に挑むだろう。
決勝が楽しみだ。
「決勝はこれより一刻後に開始します、該当の班は遅れないようにここに集合してください。各班後悔の無い様しっかりと準備をしてくださいね。また、決勝に残れなかった冒険者の皆さんにはティナギルド長より参加賞の受け取りならびに今後について説明がありますので聞き漏らしのないようにお願いします。もしかしたら、別の賞品が手に入るかもしれませんよ・・・。」
ザワ・・・。
そんな音が聞こえた気がする。
負けたら終わりじゃないんですよ。
そこから始まる何かもあるんです。
まぁ、そっちに関してはティナさんたちに任せるとして、俺達は決勝進出者の相手をするとしよう。
「それでは解散してください。」
ひとまず冒険者を解散させる。
様々な感情に包まれた冒険者を見送りながら、自分自身も気合を入れる。
長かったこの催しも次で最後だ。
失敗は出来ない。
でも、ここまできたらもう成功といってもいいかもしれない。
そんな気持ちもある。
そうだな、あんまり構えてしまわずに気楽に行こう。
なるようになるさ。
「シュウイチさん頑張りましょうね。」
そんな気持ちを察してかエミリアが声をかけてくれた。
やっぱりエミリアにも心の声が聞こえているのかもしれない。
「頑張りましょう。」
冒険者の、そして俺達の最後の一日がはじまる。
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追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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