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第七・五章
ダンジョン障害物競走:二日目後編
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昼過ぎに村へと帰還し、しばしの休憩に入る。
森の中はやっぱり涼しいな。
風は冷たいし湿度も丁度良い。
そしてなにより陽射しがない。
俺みたいなモヤシオタクにはこの陽射しは致命傷だ。
この世界に来てだいぶましになったものの、やはり陽射しは体にこたえる。
それもそうだよな、俺もう30超えてるんだもん。
20台はまだ良かったけど、30台に入ると途端に体力が落ちる。
体に脂肪はつくし、筋肉もなくなる。
そのくせ食べる量は変わらないんだからたちが悪い。
ほら、今だって。
「シュウイチさん、カーラザンギアーゲの店主さんがおまけしてくれました。」
「ご主人様、セレン様より内緒ですよと料理を分けていただきました。」
「シュウイチ、この前のようにならない為にしっかり食べておくんだぞ。」
「イナバ様お飲み物持ってきましょうか?」
ここまではいい。
いつもの事だ。
少々おまけが多いような気もするが食べれない量ではない。
だが、今日は違う。
「イナバ様、この前のお礼だって冒険者から差し入れを貰いました!」
「モア君これは差し入れって量じゃないですよね。」
「そうですか?これぐらいだったらすぐに食べてしまいますが・・・。」
これだから若者は!
何だよこの量。
皿から溢れているだろうが。
肉という肉が俺の前に並べられ、野菜成分がない。
緑は、緑は何処だ!
俺は葉っぱが食べたいんだ。
もう、茶色いお肉はいやだよぅ・・・。
「なんだ、今日も豪華な飯を食ってるな。これも主催者の役得って奴か?」
「朝から大仕事ご苦労様でした、おかげ様で何とかなりましたよ。」
「そいつは何よりだ、だが想定外のそれについてまだ報酬を貰ってないような気がするんだが気のせいか?」
「そこのお皿、持って行っていいですよ。」
「そう来なくっちゃ。」
モア君には申し訳ないがこれ以上食べると間違いなく太る。
いや、太るを通り越して牛になる。
俺はまだ牛にはなりたくない。
あ、よく太った例えに使われる豚ですが、実は体脂肪が非常に少ないんです。
あぁみえてモデルと変わらないそうですよ。
15%ぐらいだっけ。
しかも清潔で意外に知能も高い。
豚、恐るべし。
でも美味しいんだよね。
罪深い生き物だよ人間という奴は。
「またご主人様が良くわからない事を考えています。」
「シュウイチだからな、放っておけばすぐ戻るだろう。」
「シュウイチさんなりの息抜きですから。」
「頭の良い方ほど普段は関係ないことを考えているそうですから、イナバ様もそうなのではないでしょうか。」
ウェリスが大皿いっぱいの肉を持っていく。
部下の皆さんにも無理を言って朝から頑張ってもらったので、当然の報酬といえるだろう。
むしろ少ないかもしれない。
日が暮れたらお酒を差し入れておこう。
いつもの量じゃ足りなそうだし。
「イナバ様の周りにはいつもたくさんの方が集まって来ますね。」
「私は一人では何も出来ない人間ですから、こうやって皆に助けてもらわないとダメなんです。」
「そんな事言って、1人で冒険者を助け出したじゃないですか。」
「でも見つけた時はモア君と一緒でしたよ?」
「あの魔術師から逃がしてくれたのはイナバ様です。あの時追いかけていたら今頃こうやって話しをすることもできなかった。」
厳密に言えば俺1人じゃなくてドリちゃんとディーちゃんのおかげなんだけどね。
まぁそこは言わないでいいだろう。
ワザワザ人の夢を壊す理由は無い。
「でもこうやって冒険者としてここにいるじゃないですか。これから冒険者の皆さんにはもっともっと活躍してもらわないといけないんですから、しっかり頑張ってください。」
「はい、がんばります!」
そう返事をするとモア君は仲間の所へと戻っていった。
相変らずモア君は元気だ。
そして周りの冒険者も元気だ。
こういった競技の場合何処からか愚痴や不満が聞こえてくるようなものだが、ありがたい事に俺の耳にはそれらは入ってこない。
心の中でどう思っているかは別だけど、表面上でも楽しんでもらえているならそれでいいだろう。
「シュウイチさん、ダンジョンへはいつ頃誘導しましょう。」
「昼の中休みの鐘頃でしょうか。少し長いですがこの暑さですのでゆっくり休んでもらいましょう。」
「それでしたら少しお願いが・・・。」
「なんですか?」
エミリアのお願いなんて珍しいな。
「冒険者、主に女性の冒険者からなんですが、水浴びがしたいとの要望が多数上がっているとティナさんからお話がありまして。」
「なるほど、この暑さですし女性は気になりますよね。」
「そこで、森の泉を開放しようと思うのですがどう思います?」
「時間まででよければいいと思います。ですが・・・。」
水浴びは別に構わない。
だが、あそこは目隠しも何もない場所だ。
プライバシーというか防犯というか、その辺りにも配慮しないといけないわけで。
警護するにもここに来ている騎士団員は全員男性だ。
どうやって警護するのかを今から考えるとなると、時間がなさ過ぎるきがするんだけど。
「防犯については問題ない、私達の他に女性冒険者も交代で警護にあたる。」
「不埒な行いをする者には天罰を与えましょう。」
「いっそのこと失格にしてやればいいのだ。」
確かにそれが早い気もします。
でもなぁ、万全ではないんだけど。
「万全な計画ではありませんが、それでもよければどうぞ使ってください。一応ニッカさんの許可も貰ってくださいね。」
「そこは大丈夫です、先にお話は通してありますので。」
さすがエミリア仕事が早い。
「ではそちらの件はお任せします。私が行くわけには行きませんから。」
「不公平が出ないよう夜には男共にも解放してはどうだろうか、魔物が出ないわけではないがそれぐらいは自分達で何とかするだろう。」
「精霊様の泉ですが大丈夫でしょうか・・・。」
「普段から村の人たちが利用していますので大丈夫でしょう。」
よっぽど汚したりしなければディーちゃんが怒る事は無いだろう。
あの二人は祝福を授けた俺以外の人間には興味がないらしい。
聖域を侵さないならどれだけ森を切り開いても無問題だ。
「では許可も出ましたので、後は手はずどおりに。」
「うむ、すぐにティナ殿へ伝えてこよう。」
「では私は目隠し布の準備を。」
「お手伝いします!」
女性陣が一斉に立ち上がり目的の為に動き出す。
さっきまで賑やかだった席が静かになってしまった。
まぁいいか。
久しぶりに1人でゆっくりと食事を取る。
たまにはこんな時間があってもいいだろう。
ずっと忙しかったしたまには昼寝をしてもいいかもしれない。
木陰の下で風を感じながらゆっくり昼寝。
最高じゃないか。
何処からか女性の歓声が聞こえてくる。
おそらく許可が出た事を伝えたんだろう。
喜んでもらえて何よりだ。
「珍しいな、お前1人なんて。」
「たまにはこんな時間も必要です。」
「てっきり愛想尽かされたのかと思ったが違うのか。」
「おかげ様で仲はこじれていませんよ。」
一人でいる俺が珍しかったのだろう。
ドリスのオッサンが声をかけてきた。
っていうか愛想つかされるってなにさ。
そんな事あるわけないだろ。
え、そう思ってるだけ?
そ、そんな事あるわけないじゃないですか・・・。
「それで、そっちの女連中もうちの女連中も騒がしいんだが何かあるのか?」
「ここでそれを言うと大変な事になりますのであえて何も言いません。ですが、深追いすると血を見るどころか命を落とすとだけお伝えしておきます。」
「おいおい、物騒だな。」
ここで口に出せば耳にした冒険者が忠告した通りになってしまう。
男とは悲しい生き物だ。
ダメとわかっているのに挑戦したがってしまう。
それが例え命を落とす結果になったとしても。
あ、ちなみに俺は行きませんよ。
行けばどうなるか、考えただけでも恐ろしいので。
「中休みまでの辛抱です。」
「良くわからないが大人しくしておくか。」
「それがいいと思います。」
何事も平和が一番だ。
女性の事は女性に任せておけばいい。
それが一番だ。
その後不埒な男は出なかったという報告を貰った。
どうやら無事に水浴びは終了したらしい。
一昔前のアニメなら、必ず覗きに行くやつがいてそいつに聞けばそこに山があるから的な発言をしていたような気がする。
魔法戦士リ○ィとか爆熱時空M○ZEとか。
昔は肉食系の男キャラが多かったけど世相を反映してか最近は草食化が進んでいるよな。
これも時代の流れという奴だろう。
自重しないどこぞの元勇者様なんかは気にし無さそうだが・・・。
ハーレムかぁ。
今の俺もまさにそのど真ん中にいるんだけど、おれ自身が草食だもんな。
いや、草食では断じてない。
ただのむっつりだ。
え、たちが悪い?
さっさと先に進め?
う、うるさい!
物事には順序って奴があるんだよ!
そりゃあ俺だってエミリアやシルビア様とあんなことやこんな事やそんなことまでしたいさ。
誘われたりなんかしちゃったらもう準備万端ですよ!
「シュウイチさん準備できましたか?」
「え、は、はい、出来てます!」
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫です絶好調です問題ありません。」
危ない。
別の意味で別の場所が準備完了絶好調になるところだった。
落ち着け、落ち着くんだ。
まだ予選二日目。
お祭り騒ぎは明日の夜だ。
焚き火を見ながら右手左手に嫁を抱きしめて・・・。
「シュウイチさん?」
「イキましょうエミリア!」
「は、はい!」
これ以上は危険だ。
今は仕事中、仕事中なんだ。
俺にはやらなければならない事がある。
今はそれに集中しよう。
そうしよう。
と、いう事でいつもどおり冒険者が広場に集まってくる。
心なしか女性の冒険者がスッキリとした顔をしているのは水浴びのおかげだろう。
いい事だ。
後で男性陣にも入ってもらえば完璧だ。
ほら、そろそろ汗臭くなるじゃないですか。
水浴びでそれがなくなるならしないわけにはいきませんよ。
「では皆さん揃いましたね、第一回目の予選お疲れ様でした。今の所失格者はなし、先ほどの予選も全滅した班はありませんでした。魔物に追われる事はあっても生身の人間に追われる機会は中々有りませんし、狩人からしてみても冒険者の実力を知るいい機会になったと思います。」
お互いの実力を身を持って知る事ができただろう。
どちらも蔑むべき対象ではなく、競い合ったり褒め合う対象であるべきだ。
「尚、狩人として活躍してくれた騎士団員には引き続き予選に参加してもらいます。明日の椅子を賭けて頑張ってください。」
広場の一番奥で騎士団員が恐縮している。
いやいや、そんなに緊張しなくても。
君達のおかげでさっきの予選は非常に良いものになった。
むしろ俺がお礼を言うべきなのだ。
後でちゃんと言っとこう。
「では、二回目の予選について御説明します。」
泣いても笑ってもこれが最後の予選だ、現在の順位がわからない以上ここで本気を出すより他は無い。
冒険者達の目つきが違う。
「昨日同様ダンジョンの各階層に分かれて予選を行ないますが、階層は先日とは異なりますので御注意下さい。今回は各階層に仕掛けられた罠を避けどれだけ早く開始地点から到着地点に到達するかを競い合います。到着地点には監督官がおり、皆さん共通の問題を解いてもらいます。最終的に解き終った時間に応じて得点が与えられ、今日の結果によって明日の決勝進出者が決定します。」
雑談する者はおらず、皆真剣に話しを聞いている。
すごい集中力だ。
「階層によって難易度に差が出ないよう全ての罠、道順は平等に設置されています。冒険者としての全ての技能を駆使して到達地点へ向かってください。今回の規範は二つ、物を壊さない、そして最後まで諦めない事です。」
今回は各班ごとに挑戦してもらう。
最初が有利不利というものは無い。
冒険者一人一人が持つうる全てを使ってダンジョン内を駆け抜けてもらう。
想定クリアタイムは各班15分程。
待っているほうも大変だろうから今回はピストン輸送で随時予選を行なう。
一番最初の開始時間は同じだが、その後は番号札順に開いている階層へ移動し各監督官の指示でスタートする。
え、どうやって階層を飛び越えて移動するのかって?
「各階層へは番号札順にお連れします。最初の5班は現地で、残りの五班はダンジョンの前で開始となりますがその他の班はこちらで待機をし、出番が近くなれば移動を開始しますので各自遅れないように注意してください。」
「イナバ様、各階層へはどうやって行くのでしょうか。」
「各階への移動は逆転層装置を使用します。今回は特別に商店連合より貸していただきました。馴染みのないものかと思いますが通常の転送装置と同じですので御安心下さい。」
「時間が得点になるそうですが、どのように計るのですか?」
「先日同様の塗料を使用して得点を決めます。時間が短ければ短いほど得点は高くなりますので、三人の息の合った行動が求められます。」
「同一得点の場合はどうするのですか?」
「同一得点の場合同一順位として勘定し、その分下位の順位が減ります。あくまでも決勝に残れるのは上位20班とお考え下さい。」
この辺も公平に勝敗をつけれるようにしてあげないとね。
「結果はいつ分かりますか?」
「明日の朝一に発表いたします。終了後そのあたりも御説明しますので、まずは目の前の予選に集中してくださって大丈夫です。」
「終了した冒険者が他の冒険者に情報を流すと不公平になりませんか?」
「それは自らの首を絞めることになりますが、情報を流さない保証というのはありません。ですので、終了した班は天幕広場で待機、開始前の冒険者はこの広場で待機とさせていただきます。各場所には係りが立っておりますので、御面倒ですが通行する際には番号札を確認させていただきます。終了した班はこの広場には戻れませんので御注意下さい。」
こうすれば情報漏えいは防げる。
っていうか、自分が予選敗退するかもしれないのに情報を流す奴はいるんだろうか。
まぁ、金銭のやり取りがあればなくは無いか。
上級冒険者が初級冒険者を金でゆするとか・・・。
考えたくないが、不正の可能性は事前に絶っておくのがベストだろう。
他に質問は無いかな・・・?
無さそうですね。
「これが本日最後の戦いです。皆さんの健闘を祈ります。」
「「「「はい!」」」」
「では明日を占う最後の予選を始めたいと思います。まずは番号札1番から10番までの班は私と一緒についてきてください。各関係者、監督官は所定の位置へ移動願います。」
さぁ、最後の予選が始まる。
泣いても笑ってもこれで最後。
冒険者の奮闘を楽しみにするとしよう。
え、どんな予選か気になる?
それは彼等の目を通して確認してみてくれ。
森の中はやっぱり涼しいな。
風は冷たいし湿度も丁度良い。
そしてなにより陽射しがない。
俺みたいなモヤシオタクにはこの陽射しは致命傷だ。
この世界に来てだいぶましになったものの、やはり陽射しは体にこたえる。
それもそうだよな、俺もう30超えてるんだもん。
20台はまだ良かったけど、30台に入ると途端に体力が落ちる。
体に脂肪はつくし、筋肉もなくなる。
そのくせ食べる量は変わらないんだからたちが悪い。
ほら、今だって。
「シュウイチさん、カーラザンギアーゲの店主さんがおまけしてくれました。」
「ご主人様、セレン様より内緒ですよと料理を分けていただきました。」
「シュウイチ、この前のようにならない為にしっかり食べておくんだぞ。」
「イナバ様お飲み物持ってきましょうか?」
ここまではいい。
いつもの事だ。
少々おまけが多いような気もするが食べれない量ではない。
だが、今日は違う。
「イナバ様、この前のお礼だって冒険者から差し入れを貰いました!」
「モア君これは差し入れって量じゃないですよね。」
「そうですか?これぐらいだったらすぐに食べてしまいますが・・・。」
これだから若者は!
何だよこの量。
皿から溢れているだろうが。
肉という肉が俺の前に並べられ、野菜成分がない。
緑は、緑は何処だ!
俺は葉っぱが食べたいんだ。
もう、茶色いお肉はいやだよぅ・・・。
「なんだ、今日も豪華な飯を食ってるな。これも主催者の役得って奴か?」
「朝から大仕事ご苦労様でした、おかげ様で何とかなりましたよ。」
「そいつは何よりだ、だが想定外のそれについてまだ報酬を貰ってないような気がするんだが気のせいか?」
「そこのお皿、持って行っていいですよ。」
「そう来なくっちゃ。」
モア君には申し訳ないがこれ以上食べると間違いなく太る。
いや、太るを通り越して牛になる。
俺はまだ牛にはなりたくない。
あ、よく太った例えに使われる豚ですが、実は体脂肪が非常に少ないんです。
あぁみえてモデルと変わらないそうですよ。
15%ぐらいだっけ。
しかも清潔で意外に知能も高い。
豚、恐るべし。
でも美味しいんだよね。
罪深い生き物だよ人間という奴は。
「またご主人様が良くわからない事を考えています。」
「シュウイチだからな、放っておけばすぐ戻るだろう。」
「シュウイチさんなりの息抜きですから。」
「頭の良い方ほど普段は関係ないことを考えているそうですから、イナバ様もそうなのではないでしょうか。」
ウェリスが大皿いっぱいの肉を持っていく。
部下の皆さんにも無理を言って朝から頑張ってもらったので、当然の報酬といえるだろう。
むしろ少ないかもしれない。
日が暮れたらお酒を差し入れておこう。
いつもの量じゃ足りなそうだし。
「イナバ様の周りにはいつもたくさんの方が集まって来ますね。」
「私は一人では何も出来ない人間ですから、こうやって皆に助けてもらわないとダメなんです。」
「そんな事言って、1人で冒険者を助け出したじゃないですか。」
「でも見つけた時はモア君と一緒でしたよ?」
「あの魔術師から逃がしてくれたのはイナバ様です。あの時追いかけていたら今頃こうやって話しをすることもできなかった。」
厳密に言えば俺1人じゃなくてドリちゃんとディーちゃんのおかげなんだけどね。
まぁそこは言わないでいいだろう。
ワザワザ人の夢を壊す理由は無い。
「でもこうやって冒険者としてここにいるじゃないですか。これから冒険者の皆さんにはもっともっと活躍してもらわないといけないんですから、しっかり頑張ってください。」
「はい、がんばります!」
そう返事をするとモア君は仲間の所へと戻っていった。
相変らずモア君は元気だ。
そして周りの冒険者も元気だ。
こういった競技の場合何処からか愚痴や不満が聞こえてくるようなものだが、ありがたい事に俺の耳にはそれらは入ってこない。
心の中でどう思っているかは別だけど、表面上でも楽しんでもらえているならそれでいいだろう。
「シュウイチさん、ダンジョンへはいつ頃誘導しましょう。」
「昼の中休みの鐘頃でしょうか。少し長いですがこの暑さですのでゆっくり休んでもらいましょう。」
「それでしたら少しお願いが・・・。」
「なんですか?」
エミリアのお願いなんて珍しいな。
「冒険者、主に女性の冒険者からなんですが、水浴びがしたいとの要望が多数上がっているとティナさんからお話がありまして。」
「なるほど、この暑さですし女性は気になりますよね。」
「そこで、森の泉を開放しようと思うのですがどう思います?」
「時間まででよければいいと思います。ですが・・・。」
水浴びは別に構わない。
だが、あそこは目隠しも何もない場所だ。
プライバシーというか防犯というか、その辺りにも配慮しないといけないわけで。
警護するにもここに来ている騎士団員は全員男性だ。
どうやって警護するのかを今から考えるとなると、時間がなさ過ぎるきがするんだけど。
「防犯については問題ない、私達の他に女性冒険者も交代で警護にあたる。」
「不埒な行いをする者には天罰を与えましょう。」
「いっそのこと失格にしてやればいいのだ。」
確かにそれが早い気もします。
でもなぁ、万全ではないんだけど。
「万全な計画ではありませんが、それでもよければどうぞ使ってください。一応ニッカさんの許可も貰ってくださいね。」
「そこは大丈夫です、先にお話は通してありますので。」
さすがエミリア仕事が早い。
「ではそちらの件はお任せします。私が行くわけには行きませんから。」
「不公平が出ないよう夜には男共にも解放してはどうだろうか、魔物が出ないわけではないがそれぐらいは自分達で何とかするだろう。」
「精霊様の泉ですが大丈夫でしょうか・・・。」
「普段から村の人たちが利用していますので大丈夫でしょう。」
よっぽど汚したりしなければディーちゃんが怒る事は無いだろう。
あの二人は祝福を授けた俺以外の人間には興味がないらしい。
聖域を侵さないならどれだけ森を切り開いても無問題だ。
「では許可も出ましたので、後は手はずどおりに。」
「うむ、すぐにティナ殿へ伝えてこよう。」
「では私は目隠し布の準備を。」
「お手伝いします!」
女性陣が一斉に立ち上がり目的の為に動き出す。
さっきまで賑やかだった席が静かになってしまった。
まぁいいか。
久しぶりに1人でゆっくりと食事を取る。
たまにはこんな時間があってもいいだろう。
ずっと忙しかったしたまには昼寝をしてもいいかもしれない。
木陰の下で風を感じながらゆっくり昼寝。
最高じゃないか。
何処からか女性の歓声が聞こえてくる。
おそらく許可が出た事を伝えたんだろう。
喜んでもらえて何よりだ。
「珍しいな、お前1人なんて。」
「たまにはこんな時間も必要です。」
「てっきり愛想尽かされたのかと思ったが違うのか。」
「おかげ様で仲はこじれていませんよ。」
一人でいる俺が珍しかったのだろう。
ドリスのオッサンが声をかけてきた。
っていうか愛想つかされるってなにさ。
そんな事あるわけないだろ。
え、そう思ってるだけ?
そ、そんな事あるわけないじゃないですか・・・。
「それで、そっちの女連中もうちの女連中も騒がしいんだが何かあるのか?」
「ここでそれを言うと大変な事になりますのであえて何も言いません。ですが、深追いすると血を見るどころか命を落とすとだけお伝えしておきます。」
「おいおい、物騒だな。」
ここで口に出せば耳にした冒険者が忠告した通りになってしまう。
男とは悲しい生き物だ。
ダメとわかっているのに挑戦したがってしまう。
それが例え命を落とす結果になったとしても。
あ、ちなみに俺は行きませんよ。
行けばどうなるか、考えただけでも恐ろしいので。
「中休みまでの辛抱です。」
「良くわからないが大人しくしておくか。」
「それがいいと思います。」
何事も平和が一番だ。
女性の事は女性に任せておけばいい。
それが一番だ。
その後不埒な男は出なかったという報告を貰った。
どうやら無事に水浴びは終了したらしい。
一昔前のアニメなら、必ず覗きに行くやつがいてそいつに聞けばそこに山があるから的な発言をしていたような気がする。
魔法戦士リ○ィとか爆熱時空M○ZEとか。
昔は肉食系の男キャラが多かったけど世相を反映してか最近は草食化が進んでいるよな。
これも時代の流れという奴だろう。
自重しないどこぞの元勇者様なんかは気にし無さそうだが・・・。
ハーレムかぁ。
今の俺もまさにそのど真ん中にいるんだけど、おれ自身が草食だもんな。
いや、草食では断じてない。
ただのむっつりだ。
え、たちが悪い?
さっさと先に進め?
う、うるさい!
物事には順序って奴があるんだよ!
そりゃあ俺だってエミリアやシルビア様とあんなことやこんな事やそんなことまでしたいさ。
誘われたりなんかしちゃったらもう準備万端ですよ!
「シュウイチさん準備できましたか?」
「え、は、はい、出来てます!」
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫です絶好調です問題ありません。」
危ない。
別の意味で別の場所が準備完了絶好調になるところだった。
落ち着け、落ち着くんだ。
まだ予選二日目。
お祭り騒ぎは明日の夜だ。
焚き火を見ながら右手左手に嫁を抱きしめて・・・。
「シュウイチさん?」
「イキましょうエミリア!」
「は、はい!」
これ以上は危険だ。
今は仕事中、仕事中なんだ。
俺にはやらなければならない事がある。
今はそれに集中しよう。
そうしよう。
と、いう事でいつもどおり冒険者が広場に集まってくる。
心なしか女性の冒険者がスッキリとした顔をしているのは水浴びのおかげだろう。
いい事だ。
後で男性陣にも入ってもらえば完璧だ。
ほら、そろそろ汗臭くなるじゃないですか。
水浴びでそれがなくなるならしないわけにはいきませんよ。
「では皆さん揃いましたね、第一回目の予選お疲れ様でした。今の所失格者はなし、先ほどの予選も全滅した班はありませんでした。魔物に追われる事はあっても生身の人間に追われる機会は中々有りませんし、狩人からしてみても冒険者の実力を知るいい機会になったと思います。」
お互いの実力を身を持って知る事ができただろう。
どちらも蔑むべき対象ではなく、競い合ったり褒め合う対象であるべきだ。
「尚、狩人として活躍してくれた騎士団員には引き続き予選に参加してもらいます。明日の椅子を賭けて頑張ってください。」
広場の一番奥で騎士団員が恐縮している。
いやいや、そんなに緊張しなくても。
君達のおかげでさっきの予選は非常に良いものになった。
むしろ俺がお礼を言うべきなのだ。
後でちゃんと言っとこう。
「では、二回目の予選について御説明します。」
泣いても笑ってもこれが最後の予選だ、現在の順位がわからない以上ここで本気を出すより他は無い。
冒険者達の目つきが違う。
「昨日同様ダンジョンの各階層に分かれて予選を行ないますが、階層は先日とは異なりますので御注意下さい。今回は各階層に仕掛けられた罠を避けどれだけ早く開始地点から到着地点に到達するかを競い合います。到着地点には監督官がおり、皆さん共通の問題を解いてもらいます。最終的に解き終った時間に応じて得点が与えられ、今日の結果によって明日の決勝進出者が決定します。」
雑談する者はおらず、皆真剣に話しを聞いている。
すごい集中力だ。
「階層によって難易度に差が出ないよう全ての罠、道順は平等に設置されています。冒険者としての全ての技能を駆使して到達地点へ向かってください。今回の規範は二つ、物を壊さない、そして最後まで諦めない事です。」
今回は各班ごとに挑戦してもらう。
最初が有利不利というものは無い。
冒険者一人一人が持つうる全てを使ってダンジョン内を駆け抜けてもらう。
想定クリアタイムは各班15分程。
待っているほうも大変だろうから今回はピストン輸送で随時予選を行なう。
一番最初の開始時間は同じだが、その後は番号札順に開いている階層へ移動し各監督官の指示でスタートする。
え、どうやって階層を飛び越えて移動するのかって?
「各階層へは番号札順にお連れします。最初の5班は現地で、残りの五班はダンジョンの前で開始となりますがその他の班はこちらで待機をし、出番が近くなれば移動を開始しますので各自遅れないように注意してください。」
「イナバ様、各階層へはどうやって行くのでしょうか。」
「各階への移動は逆転層装置を使用します。今回は特別に商店連合より貸していただきました。馴染みのないものかと思いますが通常の転送装置と同じですので御安心下さい。」
「時間が得点になるそうですが、どのように計るのですか?」
「先日同様の塗料を使用して得点を決めます。時間が短ければ短いほど得点は高くなりますので、三人の息の合った行動が求められます。」
「同一得点の場合はどうするのですか?」
「同一得点の場合同一順位として勘定し、その分下位の順位が減ります。あくまでも決勝に残れるのは上位20班とお考え下さい。」
この辺も公平に勝敗をつけれるようにしてあげないとね。
「結果はいつ分かりますか?」
「明日の朝一に発表いたします。終了後そのあたりも御説明しますので、まずは目の前の予選に集中してくださって大丈夫です。」
「終了した冒険者が他の冒険者に情報を流すと不公平になりませんか?」
「それは自らの首を絞めることになりますが、情報を流さない保証というのはありません。ですので、終了した班は天幕広場で待機、開始前の冒険者はこの広場で待機とさせていただきます。各場所には係りが立っておりますので、御面倒ですが通行する際には番号札を確認させていただきます。終了した班はこの広場には戻れませんので御注意下さい。」
こうすれば情報漏えいは防げる。
っていうか、自分が予選敗退するかもしれないのに情報を流す奴はいるんだろうか。
まぁ、金銭のやり取りがあればなくは無いか。
上級冒険者が初級冒険者を金でゆするとか・・・。
考えたくないが、不正の可能性は事前に絶っておくのがベストだろう。
他に質問は無いかな・・・?
無さそうですね。
「これが本日最後の戦いです。皆さんの健闘を祈ります。」
「「「「はい!」」」」
「では明日を占う最後の予選を始めたいと思います。まずは番号札1番から10番までの班は私と一緒についてきてください。各関係者、監督官は所定の位置へ移動願います。」
さぁ、最後の予選が始まる。
泣いても笑ってもこれで最後。
冒険者の奮闘を楽しみにするとしよう。
え、どんな予選か気になる?
それは彼等の目を通して確認してみてくれ。
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
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実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
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(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
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容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
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貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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