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第七・五章
冒険者達の障害物競走:初日
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ダンジョン障害物競走。
それは冒険者の冒険者による冒険者の為のお祭り。
その中心人物になる彼等がどのようにこのイベントを楽しんでいるのか。
ほんの少し覗いてみようと思う。
え、お前は誰かって?
それは言わないお約束ですよ。
番号札1番の場合。
「なぁ、まだ着かないのか?」
「もうすぐ着くよ。」
「その台詞、さっきも聞いたんだけど。」
まだ若い冒険者が三人、乗合馬車に揺られている。
いや、正確に言えば三人だけではないのだがその中でも彼等は突出して若かった。
それもそのはず。
冒険者になってまだ10日しか経っていない初心者中の初心者だ。
そんな彼等が向かっているのは冒険者ギルドで薦められたダンジョン。
そこは他のダンジョンと違い初心者が基礎を学ぶにはもってこいの場所だ。
自らを鍛えるべくその場所に通い始めた彼等だったが、陰日はダンジョンに潜れないと聞き暇つぶしもかねて催しにエントリーしたのだった。
「なぁ、本当に飯代いらないのか?」
「飲食と宿泊代は参加費に含まれているらしいし、それに参加賞もすごいらしいよ。」
「騙されたりしてないよね?ほら、最近は私達みたいな冒険者を狙った失踪事件とかあったじゃない。」
「それを解決したのが今向かっているダンジョンの主人なんだから、そんな事しないよ。」
「そんなにすごい人なのか?」
「一人でダンジョンを制覇できるってだけで十分すごいと思うよ。」
男二人に女一人。
彼等は同じ日に冒険者になった仲間だ。
三人が普段寝泊りしている宿が一人一泊銅貨20枚。
3人一部屋で銅貨50枚に値下げしてもらっても二日泊まれば銀貨1枚になる。
それに食費もかかるしダンジョンに潜ればそれなりにお金もかかる。
まだまだ初心者の彼等では中々実入りのいい依頼はこなせなかった。
同じ金額を払って食事に困らず道具までもらえるとなれば行かない手は無い。
宿泊費を浮かせ、あわよくば道具もゲットしてしまおうという気持ちで参加したのが、彼等だった。
「頑張ろうね、二人とも。」
「適当に頑張るさ。」
「あ、見えてきたよ!」
彼等がどうなったかは終わった時のお楽しみ。
番号札3番の場合。
「やっと着いたな。」
「・・・眠い、もうちょっと寝かせて。」
馬車から降りてきたのは三人の男。
そのうちの一人はあの馬車の揺れでも寝れたのか、眠そうに目をこすっている。
「おい、あれイナバさんじゃないのか?」
「本当だ、イナバさんだ!」
「マジかよわざわざ俺達を迎えに来てくれたのか。」
「俺、感動しちゃった。」
他の二人が感動している中もう一人はまだ半分夢の中だ。
「おい、お前イナバさんに憧れてたんじゃないのか?イナバさん向こうへ行っちまうぞ。」
「え、イナバさん!何処!」
「だから向こうだって。」
「何ですぐに起こしてくれなかったんだよぉ、向こう行っちまったじゃないか・・・。」
「起こしたのに起きなかったのはお前だろ?」
「握手してもらえばよかった・・・。」
こちらはこちらで早くも険悪なムード。
冒険者にも色々あるようです。
番号札7番の場合。
「受付は完了っと、次は何処?」
「南に下ると広場があるからそこで天幕を決めるんだって。」
「えー、他の冒険者と一緒なんでしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫も何も仕方ないじゃない、宿を取るお金なんて無いんだしさ。」
男女混合の班は数あれど、女性だけの班は珍しい。
どうやらここは女性だけでエントリーしたようだ。
「ねぇ、あそこにいるのってもしかしてティナギルド長じゃない?」
「本当だ!間違いないよ。」
「すごいよね、私達と何も変わらないのにギルド長にまでなったんだよ。」
「違うのは実力じゃない?」
「いいもん、私のほうが胸はあるもん。」
「そんな事言ってるから変な男が寄ってくるのよ。」
今でこそ女性冒険者は珍しくないがそれでも男性社会に変わりは無い。
女性軽視の冒険者がたくさんいる中、彼女達は中級冒険者までのし上がってきた。
女性のみでありながらギルド長にまでなったティナは彼女達の憧れの的といえるだろう。
「はい、番号札7番ですね。女性のみの班ですから希望があれば離れた部分も選べますが・・・希望します?。」
「希望します!」
「じゃあ右奥の天幕を使ってください。」
「ありがとうございます!」
「やった、これで変な目で見られることも少ないよ!」
「さすがギルド長だよね、ちゃんと私達みたいな冒険者の気持ちを良くわかってる。」
「たぶん自分も大変な目にあったからじゃないかなぁ.」
ティナは元々冒険者として活躍し、補佐の腕を買われて冒険者ギルドに入った。
彼女も元は初心者冒険者だ。
差別的な発言やセクハラ、いやな目には数え切れないほど合っている。
彼女がギルド長になった事でその後女性冒険者への改革が行なわれ、数多くの優秀な女性冒険者がサンサトローズから誕生したという話しはまた別の機会に。
「あ、イナバ様だ。」
「本当だギルド長と何か話しをしてるよ。」
「あれ、なんだかギルド長嬉しそう。」
「・・・あれってもしかして。」
「私もたぶん同じ事思ってる。」
「ギルド長も女だもんね。」
「応援しようね。」
「「うん。」」
女性は噂が大好きだ。
その後ティナ応援団という非公式ファンクラブが誕生したそうだがそれもまた後日ということで。
番号札11番の場合。
「俺、絶対に1位になる。」
「お前、本気か?」
「当たり前だろ、あんな剣見せられたら燃えないわけが無い。」
「確かにあの剣はすごいけど俺達なんかで一位になんてなれないだろ。10位から5位の銀貨5枚分の武器でいいんじゃないか?」
「そんな志が低い事言ってるからいつまでも初心者なんだよ。夢はでっかく、望みは大きく師匠も言ってただろ!」
冒険者なら一度は夢見る最高傑作。
それが手に入るのであればどんなことでもする。
剣士たる者望みははるか高く持つように。
それが彼等の師匠が口癖のように言っていた言葉だ。
彼はその言葉を心に刻み、冒険者として成長してきた。
してきたが、残念ながらまだ初心者だ。
「なぁ、お前もなんか言ってくれよ。」
そんな志だけは一人前の彼を陰で支えてきた苦労人はもう一人の仲間に助けを求める。
「え、なに?」
「なにじゃねぇよ、話し聞いてただろ?こいつに現実って奴を教えてやってくれ。」
「そうだね、1位はムリだけど10位から5位までの間に入れれば上々じゃないかな。」
「ほらみろこいつも同じ意見だ。」
「お前までそんな志の低い事言って!欲しい物は無いのかよ!」
彼は悔しかった。
仲間がこんなに志が低いという事に。
「欲しい物ならあるよ?」
「なんだよ言って見ろよ。」
「宝飾品とって帰ったら奥さん喜ぶかな・・・。」
「「あ・・・」」
そう、彼には遠く離れた奥さんがいた。
冒険者の自分を支えてくれる妻の為に何かしてあげたい。
そんな気持ちが、彼にはあった。
「・・・俺5位までに入る。」
「俺もやれるだけやってみる。」
「三人一緒なら大丈夫だって。」
初心者だが志は誰にも負けない。
仲間の為に戦う彼等は誰よりも一致団結していた。
番号札17番の場合。
魔術師学校を首席で卒業した自分が知識で劣るはずが無い。
そうたかをくくっていた。
だが現実はどうだ、まだ一問も正解していないじゃないか。
第一問目から間違い外野で仲間を見守る。
他の四問も頑張ってみるが全て不正解。
自分の知識とはなんだったのか。
彼のプライドはボロボロになっていた。
「坊ちゃま二戦目が始まります。」
「どうぞ広場までお戻り下さい。」
そんな彼の元に二人の美女がやってくる。
恐らく姉妹なのだろう、同じ顔をした二人が心配そうに彼を見下ろしていた。
「・・・お前達ご苦労だった。」
「坊ちゃまの補佐をするのは私達の役目。」
「得点を稼ぎ望みの物を手に入れる為です。」
そう、彼女達は第一戦目に残った16人のうちの2人だ。
彼女達は第一回目で早くも脱落した彼の為に全問正解し続けているのだ。
「もうすぐ二戦目が始まります。」
「どうぞ坊ちゃまは私達のおそばに。」
「・・・それは私では間違えるから、という事か?」
彼はとある貴族の長男として生まれ、家を継ぐに相応しい男になるため英才教育を受けてきた。
もちろん彼はその期待に応えるべく必死に頑張ってきた。
その証拠に魔法学校を首席で卒業したのも彼の実力だ。
しかし、彼には知識しかなかった。
がむしゃらに勉強した彼には世間の常識というものが無かった。
そんな自分に絶望した彼は社会勉強として冒険者の道を選ぶ。
両親はその彼を否定する事はしなかったが、せめて護衛だけはつけるようにとこの美人姉妹を指名した。
だが、彼女達は優秀すぎたのだ。
優秀過ぎる故に彼のプライドはもっとボロボロになっていた。
「坊ちゃまが間違えるのは当たり前です。」
「坊ちゃまは世間を学ぶ為にここにいるのではないのですか?」
「・・・その通りだ。」
「ならば私達をどうぞ利用してください。」
「私達は坊ちゃまの糧となる為にここにいるのですから。」
「・・・こんな不甲斐無い主人でいいのか?」
「「私達がそれを望んでいるのです。」」
美人にここまで言われて奮い立たない男がいるだろうか。
いやいない。(反語法)
「お前達、何としてでも4位に入りあの杖を手に入れるぞ。」
「はい、そのために私達はいるんです。」
「全ては坊ちゃまのお望みのままに。」
崩れそうなプライドを建て直し、彼は再び戦場に向かう。
その横には美人の姉妹が寄り添っていた。
後の世に努力の天才魔術師といわれる男が現れるが、その横には二人の美人がいたとかいなかったとか。
頑張れ坊ちゃま。
番号札19の場合。
「くそ、どいつもこいつも使い物にならねぇ!」
「そんな事言っても兄貴、分からないものはわからないよ。」
「俺達に学が無いのは兄貴も分かってるじゃないか。」
「分かってるから腹が立つんだよ!」
兄貴と呼ばれた男はいらだっていた。
一回戦はすぐに脱落。
二回戦は何とか正解するも自分達の赤紐は得点を得ることが出来なかった。
今だ得点は0。
このままでは予選突破など夢のまた夢だ。
「何で兄貴はそんなに予選突破に拘るんですか?」
「俺達参加賞だけでも十分だとおもいます。」
「お前等それでいいのか・・・?」
「ここのご飯は美味しいです。」
「それに腹いっぱい食べても怒られません!」
兄貴といわれた男の横にいるのは非常に恰幅のいい男が二人。
不思議の○のアリスに出てきた双子のようだ。
「俺はな何としてでも決勝にいきてぇんだ。」
「俺、馬鹿だから足引っ張ってばかりです。」
「俺、馬鹿だから間違ってばかりです。」
「お前達が悪いんじゃねぇ、それを率いる俺に学がねぇのが悪いんだ。」
「「兄貴は悪くねぇ!」」
もうすぐ三回戦が始まる。
兄貴と呼ばれる男は何としてでも決勝に残りたかった。
何故なら・・・。
「俺はな、お前達に腹いっぱい飯を食わせてやりてぇんだ。銀貨15枚もあればお前等でも満足できるだろ。」
「「兄貴・・・。」」
「だからな、頑張ろうぜ。」
兄貴の言葉が二人の心に染み渡る。
「俺、学はねぇけど兄貴を決勝に行かせる!」
「俺、学はねぇけど兄貴を勝たせてみせる!」
やる気に満ち溢れた二人が兄貴を決勝に連れて行けるのか。
彼等が三回戦で得点を手に入れたかどうかは、番号を見て思い出して欲しい。
番号札23番の場合。
ダンジョンの中は薄暗くて好きになれない。
いくら魔物が出ないとはいえ、薄暗い道を曲がる時はどうしても緊張する。
それはあの子も同じようだ。
「ねぇ二人とも狭いから離れてくれないかな。」
「「ダメです。」」
彼の右手を私が、左手をあの子がガッシリと掴む。
今この手を離せばあの子にこの人を取られてしまう。
それだけは許せない。
この人を射止めるのは妹じゃなくこの私なんだから。
「でもさ、これから二戦目が始まるしバラバラで動き回った方が効率いいと思うんだ。」
「罠がたくさんあるんですよ?捕まったら大変じゃないですか。」
罠なんてあの子一人でどうにでも出来るくせに。
「それに紙をたくさん取っちゃダメだって話ですから一緒でもなくなる事は無いと思います。」
もうすぐダンジョン3階層。
そこが私達の戦場になる。
一歩でも譲れば一気に追い抜かれてしまう。
だから私は彼の手を離さない。
「こんな所イナバ様が見たらなんていうかなぁ・・・。」
「あの方も女性に囲まれているから同じです。」
確かにイナバさんも女性に囲まれている。
でも私は私だけを見て欲しい。
「それに、女性二人に囲まれている冒険者だって他にもいます。」
さっき美人二人にお世話されている魔術師を見た。
私だってこの人を甲斐甲斐しくお世話したい。
そのためにも妹なんかに負けてられない。
ふと、ダンジョンの天井が高くなり広い部屋に出た。
「諸君この先の階段を下りれば戦場である三階層だ。鐘が鳴ると同時に私が諸君等の紙に水を垂らし競技を始める。先ほど説明があったように紙は開封せず二枚だけ持ち帰るように、制限時間はその紙が黒くなるまでだ、分かったな?」
「「「「はい!」」」」
イナバさんの奥様であるシルビア様。
この人は自分以外の奥さんがいてイヤじゃないんだろうか・・・。
「あの、シルビア様質問よろしいですか?」
「なんだ。」
「競技とは関係ないのですが・・・シルビア様は他に奥様がいて何とも思わないのでしょうか。」
聞くなら今しかない。
私は彼の手を掴んだままシルビア様に尋ねた。
シルビア様はそんな私達の様子を見ると強張った顔を少し緩めてこう言った。
「私はエミリアに嫉妬を抱く事は無い。何故なら私は彼女と同じぐらいにシュウイチを愛しているし、エミリアもそれを理解している。彼は誰かのものでは無い、彼は彼だ。だから私達はそんな彼を平等に愛しているし、彼も愛してくれている。これで答えになっているかな?」
「は、はい!ありがとうございます!」
彼は誰かのものじゃない。
それを聞いた途端に私は手の力を緩めて彼を自由にしていた。
それはあの子も同じ。
突然手が離れ、彼は驚いた顔で私達を見た。
「もう取り合いはしないから。」
「うん、二人一緒だね。」
「えっと、何がどうなっているのかな。」
「貴方は何も言わなくていいの。」
「頑張ろうねお姉ちゃん。」
これからは二人で彼を助けるんだ。
そうすれば彼は私『達』を選んでくれる。
「さぁそろそろ始まる時間だ、行くぞ。」
シルビア様が階段を下りる。
その先は戦場だ。
私とあの子とそして彼の為に、何としてでも賞品を手に入れるんだ。
「「いくよ。」」
私達の戦いが、今はじまる。
番号札29番の場合。
「かっこいいなぁシルビア様。」
「お前まだ言ってるのかよ。」
「いいから紙探せよ、時間制限だってあるんだぞ。」
二戦目開始の鐘が鳴り私達はダンジョンの奥へと進んでいった。
怪我をするほどの罠ではないが、これでもかといわんばかりに罠が置かれていて中々進めない。
道は迷路みたいだし、迷子になったら時間内に戻れないかもしれない。
戻れないとシルビア様の顔を見ることが出来なくなってしまう。
折角間近であの人を見ることが出来るんだ。
憧れの人。
サンサトローズ騎士団長シルビア様。
シルビア様を見守る会、会員番号16番としてはこの機会を無駄にするわけには行かなかった。
「いいでしょ、好きな人の事を思い出したって。」
「昔から好きだよな、騎士団長の事。」
「何かあったらシルビア様シルビア様だもんな。」
「あんた達二人と比べるのが失礼なぐらいよ。あ、そこ罠だから踏まないでね。」
「あっぶねー!」
職業柄罠を見抜くのは得意だ。
盗賊が騎士団長に恋をするなんてまるで小説みたいじゃない?
まぁ、その騎士団長にはもう旦那様がいるわけだけど・・・。
「彼を愛しているなんてズバッといっちゃう所が最高よね。」
「その愛している人がこの罠を仕組んだと思うと、正直神経を疑うよ。」
「このいやらしい配置、イナバさんってすごい人だとは聞いてるけど絶対に性格歪んでるぜ。」
「言えてる。この罠の置き方とかえぐいよな。」
確かにそれはいえてるかもしれない。
罠という物を完璧に理解している。
何処におけば引っかかるのか、どうすれば嫌がるか。
この落とし罠の横のすべり罠とか、手前の引っ掛け棒とか。
今日はこれだからいいけど、通常の罠だったらどうなっているか分かったものじゃない。
罠には性格が出る。
その考えからすれば、シルビア様の旦那様は非常に性格が悪いということになる。
「でもそれを分かって愛しているって言うんだから、やっぱりすごいわよね。」
シルビア様に比べたらこの男共なんて・・・。
でもまぁ、こんな私と一緒にいてくれるだけ有り難い話か。
「そこ、落とし罠だから右によけて。三歩進んだらもう一回右にずれてね、真っ直ぐ行くと引っ掛け罠があるから。」
「・・・この罠を理解しているこいつも相当だな。」
「違いない。」
前言撤回、所詮この程度の男みたい。
「あ、紙発見!」
「マジか、ってあぶねぇぇぇ!」
紙の手前に落とし罠。
下にはたっぷりのトリモチだ。
引っかかったらよかったのに、残念。
「さぁ、後一枚見つけて戻るよ!」
「次は罠教えろよな!」
早くもう一枚を見つけてシルビア様の所に戻らなくっちゃ。
この催しで賞品ではなくシルビアを追いかけているのはきっと、彼女だけだろう。
番号札31番の場合。
紙が無い。
あ、いやシモの話ではない。
得点の書かれた紙が見当たらないのだ。
時間を表す紙が半分経った事を知らせている。
知らせているが我々の手元に一枚も紙が無い。
何故だ。
「非常事態だ諸君、紙が無い。」
「確かに紙が無い。」
「無いな。」
ドワーダとしてそれなりの地位を確立している我々に不可能などあるはずが無い。
にもかかわらずここに来て目的の物を手に入れられない。
それは何故か。
「原因はこの酒にあると思うのだがどう思う?」
「酒は原因ではない。これは燃料だ、燃料なくしてよい武器は作れん。」
「その通り。これは我等がイギダンジョウを手に入れるために必要なものだ。」
「ならば何故紙が無い。」
「それは我々がここを動いていないからだ。」
「何故動かない。」
「少々燃料を摂取しすぎたのかもしれん。」
つまり酔っ払ってしまって動けないというワケだ。
これはまずい。
非常にまずい。
このままではあの幻のイギダンジョウを手に入れることが出来ない。
「ここで提案なのだが、燃料の摂取を一時中止し我等が目的の為に動こうと思うのだがどうだ。」
「確かにイギダンジョウを手に入れるためには動かねばならん。」
「ならんが動けんもんは動けん。」
「一歩もか。」
「一歩もだ。」
それは困った。
これでは目的を達する事ができん。
「ならばもう一つ提案だ、二人は時間までに最初の場所まで戻ることはできるか。」
「制限時間までには何とかなるだろう。」
「美人がいるところで飲む酒は旨い、戻れるだろう。」
ならばやる事は一つだ。
「では私が紙を探してくる、そなた達は先に戻れ。」
「いいのか?」
「イギダンジョウのためだ。」
「そなたの心意気しかと受け取った。」
「ではまた後で会おうぞ!」
「「「イギダンジョウの為に!」」」
そう、これはあの酒のためだ。
そのためなら一人で紙を捜すこともいとわない。
制限時間は後半分。
ドワーダの底力今こそ見せつけようぞ。
酔っ払ったドワーダは仕事が出来る。
その逸話どうりに事が進んだかは、ご想像にお任せしよう。
番号札37番の場合。
制限時間は後数刻。
時間を知らせる紙が最後の色に変化した。
手元には紙が二枚、いや三枚。
これは非常にまずい状況だ。
「ねぇ、何で三枚あるの?」
「そりゃあ一人一枚取ってきたからでしょ。」
「そのほうが早いって言ったのアンタでしょ?」
確かにそういった。
でも持ってこいとは言ってない。
見つけたら教えあおうと話しただけだ。
それを三人が三人とも忘れてたんだから、我を忘れていたんだと思う。
全ては賞品が悪いんだ。
化粧品の宝飾品、それに魔装具。
私達が欲しい物ばかりだ。
その欲におぼれたばかりにこれまでで一番の危機に晒されている。
残り時間は少ない。
どうしよう。
「どうする?」
「大人しく報告するしかないでしょ。」
「でもそれなら失格だよ?参加賞すら貰えずに帰るの?」
「それはやだ。折角美味しいご飯も食べれるのでここで帰るなんて勿体無い。」
「じゃあ捨てる?」
「拾われたら身体検査だよ?」
「えー、めんどくさい。」
時間が無いのに本当に彼女達は自由だ。
いや、私もか。
正直めんどくさい。
これまで私達三人でならどんな依頼もこなして来れた。
男にだって負けないし、もちろん魔物だってへっちゃらだ。
男の手を借りるぐらいなら死んだ方がマシ。
それが私達の決まりだ。
だけど、そうは言ってられない。
「じゃあさ、他の男捕まえて渡す?」
「いやこの時間じゃみんな持ってるでしょ。こんな時間に戻ってないの私達だけだよ。」
「そうだよ。早く戻らないと時間過ぎちゃうよ?」
「でも戻ったらおしまいだよ?」
「えー、マジヤバなんですけど。」
「何その言葉。」
「え、知らないの?異世界ではやってる言葉なんだって。」
知らないよそんなの。
「わかった、戻ろう。」
「え、戻るの?」
「ここにいても失格、戻っても失格。どっちにしろだめならさっさと帰ろう。」
「そうだね、やっちゃったものは仕方ない。」
「あー化粧品欲しかったなぁ。」
やっちゃったものは仕方ない。
魔物に食い殺されるわけじゃないんだからまぁいいだろう。
「日ごろの行いがよければ、いい事あるって。」
「そうだよね、私達いい事してるしね。」
「あんたが何したって言うのよ。」
「来る時に子供にお菓子あげた。」
「それはいい事だわ。」
「でしょ~!」
じゃあそのいい事を期待して戻ろうか。
私達は泣く子も黙る魔女三人組。
あ、泣く子には優しい魔女三人組。
覚えておいてね。
番号札41番の場合。
何とか時間ギリギリ間に合った。
最後罠に引っかかった時はどうなる事かと思ったけど助かった。
これも俺を先に行かせてくれたあいつのおかげだ。
「お前の事は忘れないからな・・・。」
「誰を忘れないだって?勝手に殺すな。」
「間に合ったみたいだね、良かった。」
そっか、死んでないのか。
よかったよかった。
「これで皆さん揃いましたね、魔封の鍵はなくさないようにお願いします。では転移装置へどうぞ。」
俺達が最後の班らしい。
イナバ様の誘導で転移装置に乗る。
一瞬目の前が暗くなったと思ったら気付けばダンジョンの前に立っていた。
「あー、終わったぁぁぁ。」
「1日長かったね。」
「本当だよ。でもさ、こんな陰日もたまにはいいよな。」
いつもは宿でダラダラするか装備の整備をして終わりだ。
こんなに充実した陰日は久々かもしれない。
「昔は依頼を探し回ったり、森で特訓したりしてたけど最近はそういうことしなくなったもんね。」
「一応上級冒険者だからな、そんなことしたら格好つかないだろ。」
「成り立ての上級だけどな。」
そう、つい先日上級に上がったばかりだ。
それまで中級でくすぶり続けた俺達だが、たまたま遭遇したボアの集団から村を守った功績を認められ、上級に上がる事ができた。
集団暴走の一部だったようだが、今の俺達の敵じゃない。
「面白かったな。」
「あぁ、面白かった。」
「得点いっぱいもらえるかなぁ。」
「お前が見つけた紙が高得点だったらな。」
「あれだけたくさんの罠を仕掛けた奥にあるんだから絶対高得点だろ。」
「むしろあれで点数低かったら設置した奴の神経を疑うぜ。」
「それは私の神経の事かな・・・?」
突然の声に後ろを振りかえるとそこにはあのイナバ様がいた。
「「「イナバ様!」」」
「予選お疲れ様でした、楽しんでもらえましたか?」
「は、はい楽しかったです!」
「それはよかった。結構苦労したんですよ、あの罠作るの。」
「え・・・。」
もしかしてあの罠を考えたのもイナバ様?
じゃあさっき言ったの聞かれて・・・。
「す、すみませんでした!」
「別に謝る必要なんてないですよ、私が冒険者の立場ならあの罠を見た瞬間に殺意が沸きます。」
「あははは・・・。」
これは笑っていいのか?
それともダメなのか?
「村に戻るとすぐに成績発表ですから急いでくださいね。」
「はい!」
俺達は逃げ出すように村へ向かって走り出す。
途中それがおかしくて声を出して笑ってしまった。
まだ初心者だった頃、同じように笑いながら走って逃げたことがあったっけ。
上級に上がっても俺達はまだ初心者と同じだ。
だからおごらず、じっくりいこう。
俺には仲間がいる。
こいつ等と一緒なら俺は無敵だ。
番号札43番の場合。
「いよいよだね。」
「いよいよだ。」
「上位に入れたかな?」
「どうだろう、まだ初日だし低くても明日挽回すればいい。」
「相変らず君は冷静だね。」
「二人が落ち着かないからね、仕方ない。」
ホビルトの二人は年上なのにまるで子供のようだ。
それは見た目だけじゃなく中身も、という事なのだがそれをいうと怒るのでそこは黙っている。
「皆さんお疲れ様でした、初日の結果が出ましたので発表いたします!」
イナバ様が台の上に立ち冒険者を労う。
最初は僕の知識で、ダンジョンでは彼等の機動力で全力を尽くした。
後は運が味方するかどうか、それだけだ。
「予選初日、第一位は番号札22番!おめでとうございます!」
「「「「おおおおお!!」」」」
歓声とどよめきが上がる。
「残念、一番じゃなかった。」
「残念、頑張ったのにな。」
一位じゃないと聞いても別に悔しくなかった。
後半は運がものをいうし、その部分は努力でどうにかなるものじゃない。
今日の一位は運を味方につけたんだろう。
「続いていきます、第二位31番、第三位24番、第四位8番、第五位17番、第六位43番・・・。」
「呼ばれたよ!」
「呼ばれた、6位だって。」
6位か。
50班あって6位は中々の数字だと思う。
明日がどうなるかは分からないけれど、今日の結果としては上々といえるはずだ。
「あれ、嬉しそうだね。」
「本当だ嬉しそう。」
「嬉しいに決まっているじゃありませんか、頑張った成果が報われたんです。」
「そうだよね、頑張ったもんね!」
「頑張ったよ!」
「明日が勝負です、この勢いで上位に残りましょう。」
「「うん!」」
ホビルトの二人に比べると見た目は大きい分ついつい大人みたいな話し方になってしまう。
「頑張ろうね。」
「頑張ろう。」
「頑張りましょう、父さん母さん。」
俺を拾ってくれた二人の為にも明日また頑張ろう。
頑張って、二人に恩返しするんだ。
息子として胸を張るためにも。
番号札47番の場合。
初日が終わった。
さっき名前を呼ばれなかったということは上位に残れなかったという事だろう。
だがまだ初日だ。
明日がある。
今はゆっくり休んで明日に備えるべきだ。
「お疲れ様。」
「うん、お疲れ様。」
「残念だったね。」
「うん、でもまだ明日があるから。」
俺はともかく他の二人は残念そうだ。
あれ、もう一人がいない。
「ねぇ、本当に決勝に残れるかな。」
「どうだろう残れないことはないと思うけど、僕たちにできることをやるだけだよ。」
「全力を出せばできる?」
「できるさ。」
ここで僕ができないとここに来た意味がない。
ここに来た理由は一つ。
自分達の実力を試したいからだ。
他の冒険者に混ざってどこまでできるか。
初心者はもう卒業だ。
だが中級でやっていけるのか。
そんな不安の中で僕たちは過ごしている。
「うん、できるよね。」
「できるよ。だから今日はゆっくり休もう。」
「わかった。」
三人の中で誰よりも勝気なのに落ち込むところはやっぱり女の子だ。
こんな言い方するといつも怒られるけど、そんな姿もまた本当の姿だ。
「なぁ、難しい話終わった?」
「難しいって、大事な話でしょ?」
「俺は旨い飯食べて思いっきり楽しめればそれでいい。」
「そんなんだから中級に上がれないのよ。」
「難しい話はお前たちに任せるよ、なぁあそこの飯旨いんだぜ銅貨5枚いるけど一緒に行こうぜ!」
こいつはいつもこうだ。
でも、そうだよな難しい話は全部終わってからでいいよな。
「お前のおごりだよな?」
「俺が金持ってるわけないだろ、お前のおごりだよ!」
「ちょっと、大事な話まだ終わってないんだけど!」
俺達の1日目がもうすぐ終わる。
終わってもまた明日がある。
だから今は、終わる今日をめいいっぱい楽しもう。
「早く来ないとおいていくよ!」
明日は明日。
今日は今日。
僕たちの初日はまだ終わらない。
それは冒険者の冒険者による冒険者の為のお祭り。
その中心人物になる彼等がどのようにこのイベントを楽しんでいるのか。
ほんの少し覗いてみようと思う。
え、お前は誰かって?
それは言わないお約束ですよ。
番号札1番の場合。
「なぁ、まだ着かないのか?」
「もうすぐ着くよ。」
「その台詞、さっきも聞いたんだけど。」
まだ若い冒険者が三人、乗合馬車に揺られている。
いや、正確に言えば三人だけではないのだがその中でも彼等は突出して若かった。
それもそのはず。
冒険者になってまだ10日しか経っていない初心者中の初心者だ。
そんな彼等が向かっているのは冒険者ギルドで薦められたダンジョン。
そこは他のダンジョンと違い初心者が基礎を学ぶにはもってこいの場所だ。
自らを鍛えるべくその場所に通い始めた彼等だったが、陰日はダンジョンに潜れないと聞き暇つぶしもかねて催しにエントリーしたのだった。
「なぁ、本当に飯代いらないのか?」
「飲食と宿泊代は参加費に含まれているらしいし、それに参加賞もすごいらしいよ。」
「騙されたりしてないよね?ほら、最近は私達みたいな冒険者を狙った失踪事件とかあったじゃない。」
「それを解決したのが今向かっているダンジョンの主人なんだから、そんな事しないよ。」
「そんなにすごい人なのか?」
「一人でダンジョンを制覇できるってだけで十分すごいと思うよ。」
男二人に女一人。
彼等は同じ日に冒険者になった仲間だ。
三人が普段寝泊りしている宿が一人一泊銅貨20枚。
3人一部屋で銅貨50枚に値下げしてもらっても二日泊まれば銀貨1枚になる。
それに食費もかかるしダンジョンに潜ればそれなりにお金もかかる。
まだまだ初心者の彼等では中々実入りのいい依頼はこなせなかった。
同じ金額を払って食事に困らず道具までもらえるとなれば行かない手は無い。
宿泊費を浮かせ、あわよくば道具もゲットしてしまおうという気持ちで参加したのが、彼等だった。
「頑張ろうね、二人とも。」
「適当に頑張るさ。」
「あ、見えてきたよ!」
彼等がどうなったかは終わった時のお楽しみ。
番号札3番の場合。
「やっと着いたな。」
「・・・眠い、もうちょっと寝かせて。」
馬車から降りてきたのは三人の男。
そのうちの一人はあの馬車の揺れでも寝れたのか、眠そうに目をこすっている。
「おい、あれイナバさんじゃないのか?」
「本当だ、イナバさんだ!」
「マジかよわざわざ俺達を迎えに来てくれたのか。」
「俺、感動しちゃった。」
他の二人が感動している中もう一人はまだ半分夢の中だ。
「おい、お前イナバさんに憧れてたんじゃないのか?イナバさん向こうへ行っちまうぞ。」
「え、イナバさん!何処!」
「だから向こうだって。」
「何ですぐに起こしてくれなかったんだよぉ、向こう行っちまったじゃないか・・・。」
「起こしたのに起きなかったのはお前だろ?」
「握手してもらえばよかった・・・。」
こちらはこちらで早くも険悪なムード。
冒険者にも色々あるようです。
番号札7番の場合。
「受付は完了っと、次は何処?」
「南に下ると広場があるからそこで天幕を決めるんだって。」
「えー、他の冒険者と一緒なんでしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫も何も仕方ないじゃない、宿を取るお金なんて無いんだしさ。」
男女混合の班は数あれど、女性だけの班は珍しい。
どうやらここは女性だけでエントリーしたようだ。
「ねぇ、あそこにいるのってもしかしてティナギルド長じゃない?」
「本当だ!間違いないよ。」
「すごいよね、私達と何も変わらないのにギルド長にまでなったんだよ。」
「違うのは実力じゃない?」
「いいもん、私のほうが胸はあるもん。」
「そんな事言ってるから変な男が寄ってくるのよ。」
今でこそ女性冒険者は珍しくないがそれでも男性社会に変わりは無い。
女性軽視の冒険者がたくさんいる中、彼女達は中級冒険者までのし上がってきた。
女性のみでありながらギルド長にまでなったティナは彼女達の憧れの的といえるだろう。
「はい、番号札7番ですね。女性のみの班ですから希望があれば離れた部分も選べますが・・・希望します?。」
「希望します!」
「じゃあ右奥の天幕を使ってください。」
「ありがとうございます!」
「やった、これで変な目で見られることも少ないよ!」
「さすがギルド長だよね、ちゃんと私達みたいな冒険者の気持ちを良くわかってる。」
「たぶん自分も大変な目にあったからじゃないかなぁ.」
ティナは元々冒険者として活躍し、補佐の腕を買われて冒険者ギルドに入った。
彼女も元は初心者冒険者だ。
差別的な発言やセクハラ、いやな目には数え切れないほど合っている。
彼女がギルド長になった事でその後女性冒険者への改革が行なわれ、数多くの優秀な女性冒険者がサンサトローズから誕生したという話しはまた別の機会に。
「あ、イナバ様だ。」
「本当だギルド長と何か話しをしてるよ。」
「あれ、なんだかギルド長嬉しそう。」
「・・・あれってもしかして。」
「私もたぶん同じ事思ってる。」
「ギルド長も女だもんね。」
「応援しようね。」
「「うん。」」
女性は噂が大好きだ。
その後ティナ応援団という非公式ファンクラブが誕生したそうだがそれもまた後日ということで。
番号札11番の場合。
「俺、絶対に1位になる。」
「お前、本気か?」
「当たり前だろ、あんな剣見せられたら燃えないわけが無い。」
「確かにあの剣はすごいけど俺達なんかで一位になんてなれないだろ。10位から5位の銀貨5枚分の武器でいいんじゃないか?」
「そんな志が低い事言ってるからいつまでも初心者なんだよ。夢はでっかく、望みは大きく師匠も言ってただろ!」
冒険者なら一度は夢見る最高傑作。
それが手に入るのであればどんなことでもする。
剣士たる者望みははるか高く持つように。
それが彼等の師匠が口癖のように言っていた言葉だ。
彼はその言葉を心に刻み、冒険者として成長してきた。
してきたが、残念ながらまだ初心者だ。
「なぁ、お前もなんか言ってくれよ。」
そんな志だけは一人前の彼を陰で支えてきた苦労人はもう一人の仲間に助けを求める。
「え、なに?」
「なにじゃねぇよ、話し聞いてただろ?こいつに現実って奴を教えてやってくれ。」
「そうだね、1位はムリだけど10位から5位までの間に入れれば上々じゃないかな。」
「ほらみろこいつも同じ意見だ。」
「お前までそんな志の低い事言って!欲しい物は無いのかよ!」
彼は悔しかった。
仲間がこんなに志が低いという事に。
「欲しい物ならあるよ?」
「なんだよ言って見ろよ。」
「宝飾品とって帰ったら奥さん喜ぶかな・・・。」
「「あ・・・」」
そう、彼には遠く離れた奥さんがいた。
冒険者の自分を支えてくれる妻の為に何かしてあげたい。
そんな気持ちが、彼にはあった。
「・・・俺5位までに入る。」
「俺もやれるだけやってみる。」
「三人一緒なら大丈夫だって。」
初心者だが志は誰にも負けない。
仲間の為に戦う彼等は誰よりも一致団結していた。
番号札17番の場合。
魔術師学校を首席で卒業した自分が知識で劣るはずが無い。
そうたかをくくっていた。
だが現実はどうだ、まだ一問も正解していないじゃないか。
第一問目から間違い外野で仲間を見守る。
他の四問も頑張ってみるが全て不正解。
自分の知識とはなんだったのか。
彼のプライドはボロボロになっていた。
「坊ちゃま二戦目が始まります。」
「どうぞ広場までお戻り下さい。」
そんな彼の元に二人の美女がやってくる。
恐らく姉妹なのだろう、同じ顔をした二人が心配そうに彼を見下ろしていた。
「・・・お前達ご苦労だった。」
「坊ちゃまの補佐をするのは私達の役目。」
「得点を稼ぎ望みの物を手に入れる為です。」
そう、彼女達は第一戦目に残った16人のうちの2人だ。
彼女達は第一回目で早くも脱落した彼の為に全問正解し続けているのだ。
「もうすぐ二戦目が始まります。」
「どうぞ坊ちゃまは私達のおそばに。」
「・・・それは私では間違えるから、という事か?」
彼はとある貴族の長男として生まれ、家を継ぐに相応しい男になるため英才教育を受けてきた。
もちろん彼はその期待に応えるべく必死に頑張ってきた。
その証拠に魔法学校を首席で卒業したのも彼の実力だ。
しかし、彼には知識しかなかった。
がむしゃらに勉強した彼には世間の常識というものが無かった。
そんな自分に絶望した彼は社会勉強として冒険者の道を選ぶ。
両親はその彼を否定する事はしなかったが、せめて護衛だけはつけるようにとこの美人姉妹を指名した。
だが、彼女達は優秀すぎたのだ。
優秀過ぎる故に彼のプライドはもっとボロボロになっていた。
「坊ちゃまが間違えるのは当たり前です。」
「坊ちゃまは世間を学ぶ為にここにいるのではないのですか?」
「・・・その通りだ。」
「ならば私達をどうぞ利用してください。」
「私達は坊ちゃまの糧となる為にここにいるのですから。」
「・・・こんな不甲斐無い主人でいいのか?」
「「私達がそれを望んでいるのです。」」
美人にここまで言われて奮い立たない男がいるだろうか。
いやいない。(反語法)
「お前達、何としてでも4位に入りあの杖を手に入れるぞ。」
「はい、そのために私達はいるんです。」
「全ては坊ちゃまのお望みのままに。」
崩れそうなプライドを建て直し、彼は再び戦場に向かう。
その横には美人の姉妹が寄り添っていた。
後の世に努力の天才魔術師といわれる男が現れるが、その横には二人の美人がいたとかいなかったとか。
頑張れ坊ちゃま。
番号札19の場合。
「くそ、どいつもこいつも使い物にならねぇ!」
「そんな事言っても兄貴、分からないものはわからないよ。」
「俺達に学が無いのは兄貴も分かってるじゃないか。」
「分かってるから腹が立つんだよ!」
兄貴と呼ばれた男はいらだっていた。
一回戦はすぐに脱落。
二回戦は何とか正解するも自分達の赤紐は得点を得ることが出来なかった。
今だ得点は0。
このままでは予選突破など夢のまた夢だ。
「何で兄貴はそんなに予選突破に拘るんですか?」
「俺達参加賞だけでも十分だとおもいます。」
「お前等それでいいのか・・・?」
「ここのご飯は美味しいです。」
「それに腹いっぱい食べても怒られません!」
兄貴といわれた男の横にいるのは非常に恰幅のいい男が二人。
不思議の○のアリスに出てきた双子のようだ。
「俺はな何としてでも決勝にいきてぇんだ。」
「俺、馬鹿だから足引っ張ってばかりです。」
「俺、馬鹿だから間違ってばかりです。」
「お前達が悪いんじゃねぇ、それを率いる俺に学がねぇのが悪いんだ。」
「「兄貴は悪くねぇ!」」
もうすぐ三回戦が始まる。
兄貴と呼ばれる男は何としてでも決勝に残りたかった。
何故なら・・・。
「俺はな、お前達に腹いっぱい飯を食わせてやりてぇんだ。銀貨15枚もあればお前等でも満足できるだろ。」
「「兄貴・・・。」」
「だからな、頑張ろうぜ。」
兄貴の言葉が二人の心に染み渡る。
「俺、学はねぇけど兄貴を決勝に行かせる!」
「俺、学はねぇけど兄貴を勝たせてみせる!」
やる気に満ち溢れた二人が兄貴を決勝に連れて行けるのか。
彼等が三回戦で得点を手に入れたかどうかは、番号を見て思い出して欲しい。
番号札23番の場合。
ダンジョンの中は薄暗くて好きになれない。
いくら魔物が出ないとはいえ、薄暗い道を曲がる時はどうしても緊張する。
それはあの子も同じようだ。
「ねぇ二人とも狭いから離れてくれないかな。」
「「ダメです。」」
彼の右手を私が、左手をあの子がガッシリと掴む。
今この手を離せばあの子にこの人を取られてしまう。
それだけは許せない。
この人を射止めるのは妹じゃなくこの私なんだから。
「でもさ、これから二戦目が始まるしバラバラで動き回った方が効率いいと思うんだ。」
「罠がたくさんあるんですよ?捕まったら大変じゃないですか。」
罠なんてあの子一人でどうにでも出来るくせに。
「それに紙をたくさん取っちゃダメだって話ですから一緒でもなくなる事は無いと思います。」
もうすぐダンジョン3階層。
そこが私達の戦場になる。
一歩でも譲れば一気に追い抜かれてしまう。
だから私は彼の手を離さない。
「こんな所イナバ様が見たらなんていうかなぁ・・・。」
「あの方も女性に囲まれているから同じです。」
確かにイナバさんも女性に囲まれている。
でも私は私だけを見て欲しい。
「それに、女性二人に囲まれている冒険者だって他にもいます。」
さっき美人二人にお世話されている魔術師を見た。
私だってこの人を甲斐甲斐しくお世話したい。
そのためにも妹なんかに負けてられない。
ふと、ダンジョンの天井が高くなり広い部屋に出た。
「諸君この先の階段を下りれば戦場である三階層だ。鐘が鳴ると同時に私が諸君等の紙に水を垂らし競技を始める。先ほど説明があったように紙は開封せず二枚だけ持ち帰るように、制限時間はその紙が黒くなるまでだ、分かったな?」
「「「「はい!」」」」
イナバさんの奥様であるシルビア様。
この人は自分以外の奥さんがいてイヤじゃないんだろうか・・・。
「あの、シルビア様質問よろしいですか?」
「なんだ。」
「競技とは関係ないのですが・・・シルビア様は他に奥様がいて何とも思わないのでしょうか。」
聞くなら今しかない。
私は彼の手を掴んだままシルビア様に尋ねた。
シルビア様はそんな私達の様子を見ると強張った顔を少し緩めてこう言った。
「私はエミリアに嫉妬を抱く事は無い。何故なら私は彼女と同じぐらいにシュウイチを愛しているし、エミリアもそれを理解している。彼は誰かのものでは無い、彼は彼だ。だから私達はそんな彼を平等に愛しているし、彼も愛してくれている。これで答えになっているかな?」
「は、はい!ありがとうございます!」
彼は誰かのものじゃない。
それを聞いた途端に私は手の力を緩めて彼を自由にしていた。
それはあの子も同じ。
突然手が離れ、彼は驚いた顔で私達を見た。
「もう取り合いはしないから。」
「うん、二人一緒だね。」
「えっと、何がどうなっているのかな。」
「貴方は何も言わなくていいの。」
「頑張ろうねお姉ちゃん。」
これからは二人で彼を助けるんだ。
そうすれば彼は私『達』を選んでくれる。
「さぁそろそろ始まる時間だ、行くぞ。」
シルビア様が階段を下りる。
その先は戦場だ。
私とあの子とそして彼の為に、何としてでも賞品を手に入れるんだ。
「「いくよ。」」
私達の戦いが、今はじまる。
番号札29番の場合。
「かっこいいなぁシルビア様。」
「お前まだ言ってるのかよ。」
「いいから紙探せよ、時間制限だってあるんだぞ。」
二戦目開始の鐘が鳴り私達はダンジョンの奥へと進んでいった。
怪我をするほどの罠ではないが、これでもかといわんばかりに罠が置かれていて中々進めない。
道は迷路みたいだし、迷子になったら時間内に戻れないかもしれない。
戻れないとシルビア様の顔を見ることが出来なくなってしまう。
折角間近であの人を見ることが出来るんだ。
憧れの人。
サンサトローズ騎士団長シルビア様。
シルビア様を見守る会、会員番号16番としてはこの機会を無駄にするわけには行かなかった。
「いいでしょ、好きな人の事を思い出したって。」
「昔から好きだよな、騎士団長の事。」
「何かあったらシルビア様シルビア様だもんな。」
「あんた達二人と比べるのが失礼なぐらいよ。あ、そこ罠だから踏まないでね。」
「あっぶねー!」
職業柄罠を見抜くのは得意だ。
盗賊が騎士団長に恋をするなんてまるで小説みたいじゃない?
まぁ、その騎士団長にはもう旦那様がいるわけだけど・・・。
「彼を愛しているなんてズバッといっちゃう所が最高よね。」
「その愛している人がこの罠を仕組んだと思うと、正直神経を疑うよ。」
「このいやらしい配置、イナバさんってすごい人だとは聞いてるけど絶対に性格歪んでるぜ。」
「言えてる。この罠の置き方とかえぐいよな。」
確かにそれはいえてるかもしれない。
罠という物を完璧に理解している。
何処におけば引っかかるのか、どうすれば嫌がるか。
この落とし罠の横のすべり罠とか、手前の引っ掛け棒とか。
今日はこれだからいいけど、通常の罠だったらどうなっているか分かったものじゃない。
罠には性格が出る。
その考えからすれば、シルビア様の旦那様は非常に性格が悪いということになる。
「でもそれを分かって愛しているって言うんだから、やっぱりすごいわよね。」
シルビア様に比べたらこの男共なんて・・・。
でもまぁ、こんな私と一緒にいてくれるだけ有り難い話か。
「そこ、落とし罠だから右によけて。三歩進んだらもう一回右にずれてね、真っ直ぐ行くと引っ掛け罠があるから。」
「・・・この罠を理解しているこいつも相当だな。」
「違いない。」
前言撤回、所詮この程度の男みたい。
「あ、紙発見!」
「マジか、ってあぶねぇぇぇ!」
紙の手前に落とし罠。
下にはたっぷりのトリモチだ。
引っかかったらよかったのに、残念。
「さぁ、後一枚見つけて戻るよ!」
「次は罠教えろよな!」
早くもう一枚を見つけてシルビア様の所に戻らなくっちゃ。
この催しで賞品ではなくシルビアを追いかけているのはきっと、彼女だけだろう。
番号札31番の場合。
紙が無い。
あ、いやシモの話ではない。
得点の書かれた紙が見当たらないのだ。
時間を表す紙が半分経った事を知らせている。
知らせているが我々の手元に一枚も紙が無い。
何故だ。
「非常事態だ諸君、紙が無い。」
「確かに紙が無い。」
「無いな。」
ドワーダとしてそれなりの地位を確立している我々に不可能などあるはずが無い。
にもかかわらずここに来て目的の物を手に入れられない。
それは何故か。
「原因はこの酒にあると思うのだがどう思う?」
「酒は原因ではない。これは燃料だ、燃料なくしてよい武器は作れん。」
「その通り。これは我等がイギダンジョウを手に入れるために必要なものだ。」
「ならば何故紙が無い。」
「それは我々がここを動いていないからだ。」
「何故動かない。」
「少々燃料を摂取しすぎたのかもしれん。」
つまり酔っ払ってしまって動けないというワケだ。
これはまずい。
非常にまずい。
このままではあの幻のイギダンジョウを手に入れることが出来ない。
「ここで提案なのだが、燃料の摂取を一時中止し我等が目的の為に動こうと思うのだがどうだ。」
「確かにイギダンジョウを手に入れるためには動かねばならん。」
「ならんが動けんもんは動けん。」
「一歩もか。」
「一歩もだ。」
それは困った。
これでは目的を達する事ができん。
「ならばもう一つ提案だ、二人は時間までに最初の場所まで戻ることはできるか。」
「制限時間までには何とかなるだろう。」
「美人がいるところで飲む酒は旨い、戻れるだろう。」
ならばやる事は一つだ。
「では私が紙を探してくる、そなた達は先に戻れ。」
「いいのか?」
「イギダンジョウのためだ。」
「そなたの心意気しかと受け取った。」
「ではまた後で会おうぞ!」
「「「イギダンジョウの為に!」」」
そう、これはあの酒のためだ。
そのためなら一人で紙を捜すこともいとわない。
制限時間は後半分。
ドワーダの底力今こそ見せつけようぞ。
酔っ払ったドワーダは仕事が出来る。
その逸話どうりに事が進んだかは、ご想像にお任せしよう。
番号札37番の場合。
制限時間は後数刻。
時間を知らせる紙が最後の色に変化した。
手元には紙が二枚、いや三枚。
これは非常にまずい状況だ。
「ねぇ、何で三枚あるの?」
「そりゃあ一人一枚取ってきたからでしょ。」
「そのほうが早いって言ったのアンタでしょ?」
確かにそういった。
でも持ってこいとは言ってない。
見つけたら教えあおうと話しただけだ。
それを三人が三人とも忘れてたんだから、我を忘れていたんだと思う。
全ては賞品が悪いんだ。
化粧品の宝飾品、それに魔装具。
私達が欲しい物ばかりだ。
その欲におぼれたばかりにこれまでで一番の危機に晒されている。
残り時間は少ない。
どうしよう。
「どうする?」
「大人しく報告するしかないでしょ。」
「でもそれなら失格だよ?参加賞すら貰えずに帰るの?」
「それはやだ。折角美味しいご飯も食べれるのでここで帰るなんて勿体無い。」
「じゃあ捨てる?」
「拾われたら身体検査だよ?」
「えー、めんどくさい。」
時間が無いのに本当に彼女達は自由だ。
いや、私もか。
正直めんどくさい。
これまで私達三人でならどんな依頼もこなして来れた。
男にだって負けないし、もちろん魔物だってへっちゃらだ。
男の手を借りるぐらいなら死んだ方がマシ。
それが私達の決まりだ。
だけど、そうは言ってられない。
「じゃあさ、他の男捕まえて渡す?」
「いやこの時間じゃみんな持ってるでしょ。こんな時間に戻ってないの私達だけだよ。」
「そうだよ。早く戻らないと時間過ぎちゃうよ?」
「でも戻ったらおしまいだよ?」
「えー、マジヤバなんですけど。」
「何その言葉。」
「え、知らないの?異世界ではやってる言葉なんだって。」
知らないよそんなの。
「わかった、戻ろう。」
「え、戻るの?」
「ここにいても失格、戻っても失格。どっちにしろだめならさっさと帰ろう。」
「そうだね、やっちゃったものは仕方ない。」
「あー化粧品欲しかったなぁ。」
やっちゃったものは仕方ない。
魔物に食い殺されるわけじゃないんだからまぁいいだろう。
「日ごろの行いがよければ、いい事あるって。」
「そうだよね、私達いい事してるしね。」
「あんたが何したって言うのよ。」
「来る時に子供にお菓子あげた。」
「それはいい事だわ。」
「でしょ~!」
じゃあそのいい事を期待して戻ろうか。
私達は泣く子も黙る魔女三人組。
あ、泣く子には優しい魔女三人組。
覚えておいてね。
番号札41番の場合。
何とか時間ギリギリ間に合った。
最後罠に引っかかった時はどうなる事かと思ったけど助かった。
これも俺を先に行かせてくれたあいつのおかげだ。
「お前の事は忘れないからな・・・。」
「誰を忘れないだって?勝手に殺すな。」
「間に合ったみたいだね、良かった。」
そっか、死んでないのか。
よかったよかった。
「これで皆さん揃いましたね、魔封の鍵はなくさないようにお願いします。では転移装置へどうぞ。」
俺達が最後の班らしい。
イナバ様の誘導で転移装置に乗る。
一瞬目の前が暗くなったと思ったら気付けばダンジョンの前に立っていた。
「あー、終わったぁぁぁ。」
「1日長かったね。」
「本当だよ。でもさ、こんな陰日もたまにはいいよな。」
いつもは宿でダラダラするか装備の整備をして終わりだ。
こんなに充実した陰日は久々かもしれない。
「昔は依頼を探し回ったり、森で特訓したりしてたけど最近はそういうことしなくなったもんね。」
「一応上級冒険者だからな、そんなことしたら格好つかないだろ。」
「成り立ての上級だけどな。」
そう、つい先日上級に上がったばかりだ。
それまで中級でくすぶり続けた俺達だが、たまたま遭遇したボアの集団から村を守った功績を認められ、上級に上がる事ができた。
集団暴走の一部だったようだが、今の俺達の敵じゃない。
「面白かったな。」
「あぁ、面白かった。」
「得点いっぱいもらえるかなぁ。」
「お前が見つけた紙が高得点だったらな。」
「あれだけたくさんの罠を仕掛けた奥にあるんだから絶対高得点だろ。」
「むしろあれで点数低かったら設置した奴の神経を疑うぜ。」
「それは私の神経の事かな・・・?」
突然の声に後ろを振りかえるとそこにはあのイナバ様がいた。
「「「イナバ様!」」」
「予選お疲れ様でした、楽しんでもらえましたか?」
「は、はい楽しかったです!」
「それはよかった。結構苦労したんですよ、あの罠作るの。」
「え・・・。」
もしかしてあの罠を考えたのもイナバ様?
じゃあさっき言ったの聞かれて・・・。
「す、すみませんでした!」
「別に謝る必要なんてないですよ、私が冒険者の立場ならあの罠を見た瞬間に殺意が沸きます。」
「あははは・・・。」
これは笑っていいのか?
それともダメなのか?
「村に戻るとすぐに成績発表ですから急いでくださいね。」
「はい!」
俺達は逃げ出すように村へ向かって走り出す。
途中それがおかしくて声を出して笑ってしまった。
まだ初心者だった頃、同じように笑いながら走って逃げたことがあったっけ。
上級に上がっても俺達はまだ初心者と同じだ。
だからおごらず、じっくりいこう。
俺には仲間がいる。
こいつ等と一緒なら俺は無敵だ。
番号札43番の場合。
「いよいよだね。」
「いよいよだ。」
「上位に入れたかな?」
「どうだろう、まだ初日だし低くても明日挽回すればいい。」
「相変らず君は冷静だね。」
「二人が落ち着かないからね、仕方ない。」
ホビルトの二人は年上なのにまるで子供のようだ。
それは見た目だけじゃなく中身も、という事なのだがそれをいうと怒るのでそこは黙っている。
「皆さんお疲れ様でした、初日の結果が出ましたので発表いたします!」
イナバ様が台の上に立ち冒険者を労う。
最初は僕の知識で、ダンジョンでは彼等の機動力で全力を尽くした。
後は運が味方するかどうか、それだけだ。
「予選初日、第一位は番号札22番!おめでとうございます!」
「「「「おおおおお!!」」」」
歓声とどよめきが上がる。
「残念、一番じゃなかった。」
「残念、頑張ったのにな。」
一位じゃないと聞いても別に悔しくなかった。
後半は運がものをいうし、その部分は努力でどうにかなるものじゃない。
今日の一位は運を味方につけたんだろう。
「続いていきます、第二位31番、第三位24番、第四位8番、第五位17番、第六位43番・・・。」
「呼ばれたよ!」
「呼ばれた、6位だって。」
6位か。
50班あって6位は中々の数字だと思う。
明日がどうなるかは分からないけれど、今日の結果としては上々といえるはずだ。
「あれ、嬉しそうだね。」
「本当だ嬉しそう。」
「嬉しいに決まっているじゃありませんか、頑張った成果が報われたんです。」
「そうだよね、頑張ったもんね!」
「頑張ったよ!」
「明日が勝負です、この勢いで上位に残りましょう。」
「「うん!」」
ホビルトの二人に比べると見た目は大きい分ついつい大人みたいな話し方になってしまう。
「頑張ろうね。」
「頑張ろう。」
「頑張りましょう、父さん母さん。」
俺を拾ってくれた二人の為にも明日また頑張ろう。
頑張って、二人に恩返しするんだ。
息子として胸を張るためにも。
番号札47番の場合。
初日が終わった。
さっき名前を呼ばれなかったということは上位に残れなかったという事だろう。
だがまだ初日だ。
明日がある。
今はゆっくり休んで明日に備えるべきだ。
「お疲れ様。」
「うん、お疲れ様。」
「残念だったね。」
「うん、でもまだ明日があるから。」
俺はともかく他の二人は残念そうだ。
あれ、もう一人がいない。
「ねぇ、本当に決勝に残れるかな。」
「どうだろう残れないことはないと思うけど、僕たちにできることをやるだけだよ。」
「全力を出せばできる?」
「できるさ。」
ここで僕ができないとここに来た意味がない。
ここに来た理由は一つ。
自分達の実力を試したいからだ。
他の冒険者に混ざってどこまでできるか。
初心者はもう卒業だ。
だが中級でやっていけるのか。
そんな不安の中で僕たちは過ごしている。
「うん、できるよね。」
「できるよ。だから今日はゆっくり休もう。」
「わかった。」
三人の中で誰よりも勝気なのに落ち込むところはやっぱり女の子だ。
こんな言い方するといつも怒られるけど、そんな姿もまた本当の姿だ。
「なぁ、難しい話終わった?」
「難しいって、大事な話でしょ?」
「俺は旨い飯食べて思いっきり楽しめればそれでいい。」
「そんなんだから中級に上がれないのよ。」
「難しい話はお前たちに任せるよ、なぁあそこの飯旨いんだぜ銅貨5枚いるけど一緒に行こうぜ!」
こいつはいつもこうだ。
でも、そうだよな難しい話は全部終わってからでいいよな。
「お前のおごりだよな?」
「俺が金持ってるわけないだろ、お前のおごりだよ!」
「ちょっと、大事な話まだ終わってないんだけど!」
俺達の1日目がもうすぐ終わる。
終わってもまた明日がある。
だから今は、終わる今日をめいいっぱい楽しもう。
「早く来ないとおいていくよ!」
明日は明日。
今日は今日。
僕たちの初日はまだ終わらない。
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転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
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欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
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