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第七・五章

ダンジョン障害物競走:初日前編

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さて、準備は整った。

冒険者はティナさんからの説明を受けた後順次昼食をとってもらっている。

俺も含めて裏方として参加してくれるスタッフも昼食を摂ってある。

あとは始めるだけだ。

昼食後再び冒険者を南広場に集める。

賞品発表後ということもあり参加する冒険者の顔は真剣そのものだ。

まぁ人の緊張感なんて1時間も続かないらしいから三日間続くことは無いだろう。

所々息抜きしながら楽しんでもらえばいい。

何故ならこれはお祭りだ。

お祭りが緊張するなんて勿体無い。

お立ち台に上り改めて冒険者を見下ろす。

さぁ、お祭りを始めよう。

「皆さん昼食はしっかり食べられましたでしょうか。ティナギルド長から御説明があったと思いますが、こちらが用意した食事はお値段かかりませんので安心して御利用下さい。別に出店しておりますお店もお安く御準備しておりますのでこの機会に是非お楽しみ下さい。」

折角出店してもらっているんだからしっかりと宣伝しておかないとな。

「では予選について御説明いたします。」

俺はポケットから冒険者に渡した紐と番号札と同じ物を取り出し上に掲げる。

「予選は複数回行ないますが、今から行ないますのは冒険者としての知識を競いあうものです。今から問題を読み上げますので、皆さんの足元、ちょうどここの中間に引いてある線を境にして該当すると思われるほうに移動してください。例えば『シュリアン商店の店主はイナバシュウイチである』という問題の場合、正しいと思う場合は皆さんから見て右側、違うと思った場合は左側に移動してください。」

高校生クイズ予選でおなじみの○×クイズだ。
まずは簡単なものからはじめていこう。

え、障害物競争じゃない?

それもちゃんと考えてあります。

「問題は10問、各班バラバラに動いても固まってもらっても構いません。外れた人は一度広場から離れてもらい、各問題終了時に残った人に対してこちらの得点棒をお渡しします。これを合計3回行い得点を競い合うわけですが、これだけではただの個人戦になってしまいます。そこで最初にお渡ししたこの紐と番号札が出てきます。皆さん持って来ていますね?」

うんうんと頷く冒険者達。

忘れたら失格だといってあるのでさすがに忘れた人はいないようだ。

「初回は今お話しましたやり方で行きますが、二回目からは趣向を変えます。各問題正解者全員に別の得点棒をお渡し、間違った人も外に出ることなくその場に留まってもらいます。そして10問終了時、一番点数を所持している紐の色全員に点数棒をお渡しします。同様のやり方で三回目は番号札の奇数偶数に分かれて行ないます。最終的に赤い紐の人が点数が多ければ赤の人全員に、奇数が多ければ奇数の人全員にお渡しする感じです。わかりましたか・・・?」

自分で言っておきながらちゃんと伝わっているだろうか。

一応質問は出てこないが、二回目始める前にもう一度やっといたほうがいいかなぁ・・・。

「イナバ様質問よろしいでしょうか。」

「はい、そこの方どうぞ。」

と、思ったら早速手が上がった。

「この得点は三日目の予選通過に必要なものだと思いますが、裏で譲渡などされてしまうと公平に争えないと思うのですが・・・。」

「安心してください。こちらでも皆さんの点数は全て把握しておりますので、もし無断で譲渡が行なわれ点数がこちらと違っていた場合は不正とみなしやり取りをした両方を失格とします。もちろんそのような簡単な悪事を働くような方々ではありませんので大丈夫だとは思いますが・・・。」

ギクリとした顔をしたものが数名。

まぁ未遂という事で目を瞑ろう。

「それを聞いて安心しました。」

「私もよろしいですか!」

「どうぞ。」

おっと、別の質問だ。

「問題が冒険者にとしての知識を競い合うものであれば、私のような駆け出しと上級冒険者ではそもそも不利があるのでは無いでしょうか。」

「問題に関しては各ギルド各商店にお願いをして多種多様な物を出題します。二択ですので分からない場合でも運が有れば残れるでしょう。冒険者に必要な知識体力時の運、全てを使って勝ちあがってください。」

「つまり私のようなものでもわかる問題もあるんですね?」

「むしろ初心者でなければわからないものもあるでしょう。そこをどう動くのかは皆さん次第です。」

「がんばります!」

うむ、元気があってよろしい。

「規範は簡単、該当すると思われる場所に移動するだけ。暴力、買収、恐喝などの行為は禁じますが、それ以外はお好きになさってください。」

世の中のルールには二通りある。

一つは出来る事を決めそれ以外を禁止するルール。

もう一つは最低限守らなければいいルールだけを決めてそれ以外は求めるルール。

前者はより厳格に。

後者はよりアクティブに。

束縛が多いほど人の動きや考えは萎縮してしまうらしい。

もちろんその中から優れた考えが出てくる事もあるが、束縛が無い方は突拍子も無い考えが出てくるのでどちらがいいということはいえないだろう。

今回はより楽しんでもらえるようにあえて後者のルールを採用してみた。

「質問は以上ですか?・・・では予選第一回戦をはじめましょう。皆さん線をまたがないよう気をつけてくださいね。」

まだまだやらなければいけないことが盛りだくさんだ。

俺はお立ち台から降りるとそばにいたニケさんにバトンタッチした。

え、お前が読み上げないのかって?

だってほら、文字が読めませんので。

それに、綺麗な人に読み上げてもらう方が嬉しいじゃない。

俺みたいな奴は裏方でいいんです。

「準備はよろしいですか?では第一問です!」

進行は俺が、読み上げはニケさんが行なう。

「第一問、冒険者ギルドは冒険者の援助ならびに扶助を目的とした組織ですが、領民からの受けた依頼の斡旋のほか領民への冒険者の斡旋も行なっています。その時冒険者に支払われるのは報酬の7割である。あっている場合は右へ間違っている場合は左へ移動してください。制限時間は私が10数え終えるまでです。

「なんだそれ!」

「え、冒険者の斡旋なんてやってるの?」

「おい、お前知ってたか?」

「知らねぇよ、依頼を見つけてくるのはお前の役目だろ!」

問題は全て各ギルドに作ってもらった。

その中にはギルドが冒険者に知ってもらいたい内容が多く含まれている。

この問題も、依頼の受注件数が余りにも多く冒険者への斡旋件数が少なすぎる為認知してもらう為にと冒険者ギルドが作ったものだ。

まさに、冒険者の為の問題に相応しい。

「10、9、8・・・。」

ニケさんのカウントダウンが始まると冒険者達が右往左往始める。

知っている者は速やかに右へ。

そうでない者は慌てふためいている。

潔くどちらかに移動している冒険者もいるようだな。

それがあっているか間違っているかは、本人の運次第というワケだ。

「・・・3、2、1、終了です動かないで下さい!」

移動を制限する為に中央の線に仕込んであった紐をサッと引き上げる。

これで正解判明後に移動するなんて不正行為は出来なくなった。

さてさて、どんな感じかな・・・。

「正解は・・・7割です!」

「「あたったぁぁぁ!」」

「「「「あぁぁぁ・・・」」」」

えっと、マジですか?

一回戦でまさかの6割以上が不正解。

まさかこんなに削られるとは思って居なかった・・・。

ちょっとこれは予想外だな。

「正解は7割、報酬の3割はギルドで徴収しますがそれ以外は全て冒険者の皆さんに支払われます。報酬のほかに経費も出るのがありますので、受注時に詳しくお問い合わせ下さい。」

意外と知られていない冒険者斡旋制度。

今回出題された事によって間違えた冒険者の記憶に深く記憶された事だろう。

「では不正解の皆さんは広場の外へ、正解者は前で得点棒を受け取ってください。二回戦までは自由時間ですが是非仲間の応援と冒険者としての知識を覚えて帰ってくださいね。」

正解者が笑顔で得点棒を受け取りに来る。

群がらないあたりその辺りのマナーは問題無さそうだ。

全員に配り終えてから次の問題に移る。

多少時間はかかるが、人が減れば必然的に時間短縮になるから大丈夫だろう。

「続いて第二問です。」

「当シュリアン商店では魔物から剥ぎ取った素材も買取させていただいております。現在人気なのはウッディドーレの腕ですが、この素材の剥ぎ取りに関してより高く買取っているのは次のうちどれでしょう。素材に傷をつけずに綺麗にはがすと思う方は右へ、素材を出来るだけ大きく剥ぎ取ると思う方は左へお願いします。」

「ウッディドーレとかどこの魔物だよ。」

「そんな小物最近狩ってねぇなぁ。」

「俺、昨日売りに行った!」

「本当か、よしお前についていくぜ!」

ウッディドーレはダンジョンの低階層にのみ出現するあやつり人形が糸無しで浮いているような姿の魔物だ。

生き物ではなく召喚でしか呼び出せない魔物なのでダンジョンでしかお目にかかれない。

外での依頼をこなす冒険者や、中級以上の冒険者だと出合う事はほぼ無いだろう。

今回は初心者冒険者も多い。

彼等にもチャンスを与えてあげるべきだ。

もっとも、この予選の意図を汲み取れれば中級以上でも正解する事は可能なわけだが・・・。

「10、9、8・・・。」

ニケさんのカウントダウンが進む。

6割方が減ったとはいえまだ60人ほどいる。

右往左往する者。

回答に自信のある者。

と、それについて行く者。

どうやらどうすれば勝ち抜けるのか見抜いた者もいるようだ。

「3、2、1、そこまでです!」

紐を引き上げ移動を制限する。

ふむふむ、右が7割、左が3割か。

結構差がついたな。

「正解は・・・左、出来るだけ大きく剥ぎ取るでした!」

「おっしゃああああ!」

「お前、売りに行ったって言ったじゃねえか!」

「だって素材は綺麗に剥ぎ取れって教えられたし、まさか大きく剥ぎ取る方が高いなんて知らないよ!知ってたらそうやって売ってるし!」

冒険者達の悲喜こもごもが聞こえてくる。

しっかし、マジか。

もう四分の3が消えたのか。

まだ二問目なんですけど・・・。

このペースで行くと10問いく前に全滅じゃないですか?

「ウッディドーレの素材は多岐にわたり使用できるので、綺麗な小型の物よりも出来るだけ大きく剥ぎ取った大型の方が高くなります。大体銅貨3枚が5枚になる感じでしょうか。もちろん綺麗であるに越したことはありませんので覚えておいてください。」

「では正解の方得点棒の受け取りにいらしてください、不正解の方は広場の外にお願いします。」

正解者が減ったこともあり得点棒の受け渡しもスムーズだ。

しかしまいったなぁ。

さすがにこれで終わると得点差が出過ぎてしまう。

時間も余ってしまうし・・・。

とりあえずやるだけやるか。

「では第三問行きましょう!」

「第三問、魔術師が魔法の触媒に使用することがある魔石。現在我が国では主要な輸出品として採掘されていますが、特に有名なホーマ地方の採掘品として正しいのは紫水晶である。正しいと思う方は右へ、そうでない方は左へお願いします。」

「俺、この問題わかった!」

「マジか魔石とか使わないから全然わからねぇよ。」

「お前さっき何聞いてたんだよ。」

そう、これはさっき答えが出ていたスペシャル問題だ。

これ以上脱落者を増やさないための苦肉の策だが、果たして吉と出るか凶と出るか。

「10、9、8・・・。」

今回は比較的スムーズに左右に分かれるな。

それもそうか。

流石に簡単すぎただろう。

「3、2、1、そこまでです!」

紐を引き上げるのもスムーズだ。

どれどれ、右が8割左が2割。

それでも2割は逆に行くのか。

「正解は、右の紫水晶でした!」

「うぉぉぉ当たったぁぁ!」

「お前について来て正解だったぜ、全然わからなかった・・・。」

「嘘だろ、商品で出てたの覚えてないのか?」

「食券しか頭になくて他の事聞いてなかったぜ。」

この食欲全開魔人め。

でもまぁ、たしかに自分の欲しいもの以外に人間って興味向かないよな。

俺もゲームの事なら食いつくけど、アイドルとか全く興味ない。

これは仕方ないと言えるだろう。

「正解は紫水晶、先ほど商品で出ました紫水晶の杖を覚えておられましたら簡単でしたね。ちなみに魔石は勝手に採掘すると逮捕の後労働奴隷に落とされますのでご注意ください。」

「正解者の方こちらへどうぞ、不正解の方は広場の外にお願いします。」

3回目となると冒険者もこっちも慣れてきたな。

それじゃあこのままいくとしますか。

「では第4問です・・・。」

その後第五問まで来たが、ここにきて恐れていた事態が起きてしまった。

「正解は右、物理攻撃でも倒せるでした!」

「嘘だろ片栗粉無しで倒すとかどうなってるんだ・・・。」

「田舎の爺さん曰く心の目で見れば倒せるらしいぞ。」

外野からそんな言葉が聞こえてきた。

ちなみに先程の問題は『スライムを倒す方法として片栗粉があげられますが、片栗粉無しで倒せると思う方は右、倒せない方は左へ』というものだった。

確かにこの世界に来たばかりの俺でも偶然とはいえ物理で倒せたんだから可能ではあるよな。

エミリアが言うにはそんな事する人はいなかったそうだが。

「魔法でしか倒せないと思われがちのスライムですが、弱点は体内にある核ですのでそこさえ潰すことが出来れば十分可能なんです。ただし、核の場所は動きますので広範囲を同時に攻撃してくださいね。」

「核さえ潰せば倒れるから大型の岩で潰しても倒せるぞ。」

「あんなでかい岩持ち上げれるのはお前ぐらいだろ。」

先程食券が欲しいと言っていた彼らも残っているようだ。

だがこれで残ったのは最初の1割。

これは少なすぎる。

「では正解の方得点棒を取りに来てください。」

正解者は16名。

これでは不満が出るだろう。

仕方ない、第二ラウンドだ。

「ここで皆さんにお知らせがあります。」

問題の途中だがニケさんの代わりにお立ち台に上る。

広場の広周囲で待機している冒険者も一斉にこちらを向いた。

「予定では10問まで行う予定ですが、この状況ですと得点に大幅な差がついてしまいます。そこで、この問題でいったん区切り、第6問目からは再び全員に参加して頂こうと思います。近くに班の人間がいない場合は至急戻る様にお伝えください。次に問題を出すまでしばしの休憩とします!」

「さすがイナバ様だ!」

「ありがたてぇ。」

「次こそは最後まで残ってやるぜ!」

トイレ休憩も必要だ。

それにこの暑さだし水分補給も忘れてはならない。

「ここまで残られた方は次回も得点の機会がありますので、どうぞ最後まで頑張ってください。」

「「「はい!」」」

「皆さん水分補給もお忘れなく、南の待機所で飲み物を配っていますのでそちらもご利用していただきますようよろしくお願いします。」

本当は残った人に加点してもいいのだが、次回も得点できる可能性があるという事で大目に見てもらおう。

お立ち台から降りるとエミリアが下まで戻って来ていた。

「シュウイチさんお疲れ様です、お水をどうぞ。」

「ちょうど喉が渇いていたんです、ありがとうございます。」

「シュウイチは前回体調を崩しているからな、まだまだ先は長い気を付けてくれよ。」

「重々気を付けます。」

シルビア様まで戻ってきて持ち場は大丈夫なのだろうか。

「冒険者がここに居る間は警護も暇だからな。」

「騎士団の皆さんにもこまめに休憩するように伝えてください。」

「なに、暑中訓練だと思えば問題ない。」

「それでも暑さを甘く見てはいけません。」

「経験者語る、だな。皆に伝えておこう。」

また心の声が漏れていたがもう気にしないでおこう。

熱中症はいわば脳のゆで卵状態だ。

ゆで卵を生卵にすることができないように、熱中症がひどくなると後遺症が残る。

毎年大勢の人が亡くなっているんだ、注意しないでいいものではない。

水分補給とエアコンはお忘れなく。

まぁ、この世界にエアコンなんてないんですけど。

「少々進行が変わりますがやることは一緒です、2回目もお願いします。」

「大丈夫です。」

「頑張ります。」

ニケさんもエミリアも暑い中ご苦労様です。

あれ、ユーリは?

「御主人様お口を開けてください。」

「え、口?」

「いいですから早く。」

ユーリにせかされ慌てて口を開ける。

すると冷たい塊が口の中にほおりこまれた。

「んん!?」

「体は芯から冷やすといいそうですので氷をお持ちしました。」

「氷なんてよくありましたね。」

「大型冷蔵庫に設置した魔石がかなり強力なようで、水を入れると勝手に氷になるのです。」

それってなんて冷凍庫?

中の食品は大丈夫だろうか。

まぁ、冷えないよりはいいけどさぁ。

「皆さんもよろしければどうぞ。」

「この時期に氷なんて贅沢ですね。」

「水魔法が得意な方は魔術で作れますがやっぱり天然のものが良いです。」

「これはたまらんな。」

こらこらシルビア様どこに入れているんですか。

胸元はダメです。

卑猥すぎます。

「私も入れましょうか?」

「止めなさい。」

「・・・わかりました。」

まったく、油断も隙もありゃしない。

「ではしっかり休めたようですから2回戦行きましょうか。」

「「「「はい!」」」」

冒険者もそろそろ戻ってくるだろう。

さて、2回戦行きましょうかね。
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