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第七・五章

『ダンジョン障害物競走』開催!

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今日も日が昇る前に起床できた。

それに体調も申し分ない。

多少二日酔い気味な所はあるがこの前ほど体調が悪い感じはないな。

いくらダメ人間の俺でもさすがに同じ轍は二度踏まない。

何故なら今日が待ちに待った本番だからだ。

昨日は少々はしゃぎ過ぎた感じもあるがまぁ許容範囲だろう。

うん、許容範囲だ。

お、俺の中では。

前夜祭を少々思い出してみる。

エミリアとティナさんに挟まれながらニケさんとユーリの接待を受ける。

そしてそれを揶揄うウェリスとドリスのオッサンに文句を言いながら、お酒を楽しんだ。

翌日があるので程々ではあるが、美味しいお酒だった。

エミリアは相変わらず酒豪だし、ニケさんも結構強い。

ユーリは前回同様途中で機能停止するものの、帰り道では素面に戻っていた。

ティナさんもさすが元冒険者という感じだったな。

オッサンはなんだかんだ言いながら村の人と仲良くやっていた。

だが、その中でウェリスだけはペースを誤ったのか早々に酔いつぶれ、セレンさんに介抱されていた。

膝枕されて幸せそうな顔をしていたのを部下の皆さんに見られていたから、当分ネタにされるだろう。

もちろん俺もしっかりいじってく所存だ。

さて、初日から遅刻するわけにはいかないぞ。

それに、しっかりとご飯を食べておかないとな。

今日は食べている暇なんてないかもしれない。

リハーサルはないからぶっつけ本番だし何が起こるかもわからない。

もしかしたらダンジョンがうまく機能しないかも・・・。

あれ、ダンジョンが機能しない?

それはつまり罠が動かない?

っていうか罠準備したっけ。

いや、してない。

してないな。

うん、だって俺帰ってきてすぐ寝たもん。

「って何を悠長に構えてんねん!」

思わずよくわからない関西弁で自分にツッコミを入れる。

ベットから飛び起きて、急いでドアを開けた。

「御主人様、ちょう今起こしに行こうと思っていたんです。」

「ユーリ、ダンジョンは、っていうか、罠は、昨日寝てしまって準備が!」

「落ち着いてください御主人様、まだ皆さんお休みになられています。」

「落ち着てられませんよ、だって本番に罠が準備できていないとか、これじゃあ失敗したも同然じゃないですか!」

「準備はできております、ですから御主人様は安心して朝食の準備をなさってください。」

「準備は、できている・・・?」

「いえ、朝食はご主人様の番ですので準備はご自分でお願いします。」

急いで起きたせいでまだ頭が回っていない。

これは準備ができているの?

それともできていないの?

「えっと、とりあえず準備はできている?」

「・・・御主人様まずは顔を洗ってからにしましょうか。」

「・・・その方がよさそうです。」

まずは頭を覚醒させたほうが早い。

ユーリと共に階段を下りて勝手口から井戸へ向かった。

ユーリは台所に残りどうやらお湯を沸かしているようだ。

井戸水は今日もよく冷えている。

顔を洗い髭を剃り寝癖を整える。

よし、これで準備は完了だ。

台所に戻るとちょうどユーリがお茶を入れ終わったところだった。

「御主人様スッキリされましたか?」

「おかげ様で目が醒めました。」

「目覚めの良い香茶を用意しましたが不要だったようですね。」

「そんなことはありません、ありがたくいただきます。」

差し出されたお茶はミントのような香りがして、飲まなくても目が醒めそうだ。

「それで、確認なのですが罠の準備は完了しているんですよね?」

「はい、予定通り完了しております。」

「昨日のうちに準備してくれているとは、さすがユーリです。」

「御主人様の分まで働くのが私の役目ですので。」

それってつまり俺があんまり働いていないという遠回しな文句?

「いえ、そう言うわけではありません。」

「・・・ユーリ、心の声で会話するのはやめましょう。」

「おっと、失礼しました。」

まったく、困ったものだ。

だがユーリのおかげで準備ができていないなんて言う最悪の事態は免れたようだな。

ありがたやありがたや。

「そろそろ皆様が起きて来られますが朝食の準備はよろしいのですか?」

「そうでした!」

本番の日だろうがなんだろうがうちの当番制は絶対だ。

そしてこの忙しい日に俺の番というまさかの流れ。

悪意を感じるが、俺にどうこうできる相手じゃなさそうなので文句を言うのはやめておこう。

とりあえず今は朝食の準備だ。

「ユーリは食器と香茶を人数分お願いします。」

「お任せください。」

とりあえず胃に優しそうな卵スープを作りながらパンを焼いて、メインは元気の出そうなお肉で行くか。

確かまだボアの肉が残っていたよな。

こんなことなら倉庫からいい感じのお肉を持って帰っておくべきだったか・・・。

「「おはようございます。」」

「おはようございますリア奥様、ニケ様。」

「おはようございます、二人とも調子はどうですか?」

「いつもと変わらず大丈夫です。」

「久々にお酒を呑みましたが大丈夫そうです。」

問題なしか、さすがだな。

「二人が準備している間にご飯の準備をしておきますね。」

「お願いします。」

「エミリア様お先にどうぞ、私はティナ様を起こしてきます。」

「あれ、ティナさんは宿に泊まっているんじゃ・・・。」

「シュウイチさん覚えていないんですか?一人で泊めるのも不用心なのでうちにお呼びしたじゃありませんか。」

そうだったっけ?

その部分だけ記憶にございません。

「お疲れだったという事ですね。」

「そういう事にしておいてください。」

「では先に井戸をお借りします。」

まぁいっか。

一人分増えるのなんてどうってことない。

お肉を小型の冷蔵庫から出して一口大に切り分ける。

サイコロステーキとサラダでいいか。

「ユーリ、大皿でサラダを作るので取り皿もお願いします。」

「畏まりました。」

野菜は山ほどあるので軽く洗って適当にちぎるぐらいでいいか。

時短レシピでパパッとやっちゃおう。

エミリアが戻ってくる頃には何とか8割がた出来上がった。

後は焼いたお肉を取り分ければ出来上がりっと。

「ニケさん遅いですね。」

「そうですね。」

エミリアが井戸に向かったと同時に起こしに行ったから、もう降りてきてもいいんだけど。

ミイラ取りがミイラになったか?

「お待たせしました、遅れて申し訳ありません!」

噂をすればなんとやら、ティナさんが大慌てで階段を下りてきた。

「昨夜はよくお休みになれましたか?」

「おかげ様で良く休めました。」

「もうすぐ朝食ができますので今のうちに井戸をお使いください。」

「でもニケさんがまだでは・・・。」

「私は朝食後で構いません、お客様が優先です。」

「では顔だけ洗ってきます。」

ティナさんをエミリアに任せてお肉をそれぞれのお皿に盛りつける。

「何かあったんですか?」

そのついでにニケさんに何があったのか聞いてみよう。

「朝が弱いようでなかなかお目覚めにならなかったんですよ。」

「そうでしたか。」

なんか引っかかる部分はあるが、女性同士の部分に俺が入っていくのも野暮ってものだ。

女性は時間がかかるものって死んだ婆ちゃんが言っていたしな。

井戸の方からは二人の楽しそうな声が聞こえてくる。

最初は見えない火花が飛んで大変だったけど、どうやら仲良くなったらしい。

「侮れない相手の登場ですね、ユーリ様。」

「まだまだ私達に分があります、心配するほどの事ではないでしょう。」

「何の話ですか?」

「こっちの話です、御主人様がお気になさることではございません。」

「そうです、イナバ様はどうぞ朝食の準備をお願いします。」

なんだろうこの疎外感。

女性ばかりの家に男が俺だけなんてハーレム状態だが、実際は肩身が狭い部分もある。

俺が勝手に気を使ってるだけではあるんだけど・・・。

「お待たせしました。」

「どうぞティナ様は奥の席をお使いください。」

「ありがとうございます。」

今は気にしている場合じゃない。

ご飯を食べて目の前の事に集中しよう。

「ではいただきましょうか。」

「「「「いただきます。」」」」

うむ今日も我ながら美味しくできた。

塩しか味付けしてないけど、肉々しくて美味しゅうございます。

「・・・美味しい。」

「お口に合って何よりです。」

「この料理はイナバ様がおつくりになられたんですか?」

「今日は私が当番の日でしたので。」

「毎日こんなに美味しい料理が食べれるなんて皆さんが羨ましいです。」

「他の日は皆で交代で作っていますから毎日ではありません。それに、私よりも三人の方がおいしいんですよ。」

「シュウイチさんのご飯も美味しいです。」

「さすが御主人様です。」

「イナバ様ありがとうございます。」

「・・・私も頑張って練習しなきゃ。」

ん?

今ティナさんが何か言ったようだけど聞き取れなかった。

「朝食を食べたらすぐ出発します。受付は私とニケさん。冒険者の誘導はティナさんにお願いします。ユーリは道具の準備、エミリアは関係者への指示をお願いします。」

「「「「はい。」」」」

いよいよぶっつけ本番だ。

皆の前では大丈夫なふりをしてお肉にかぶりつきながら、心の中は緊張に押しつぶされそうな気持ちを必死に保っていた。

だってチキンハートですから。


そして村に到着後各自が持ち場につく。

俺は受付を自陣として戦闘体制を敷いた。

「イナバ様第一陣来ました!」

「各員戦闘配置、段取り通りやれば問題ない!」

「はい!」

俺とニケさん、それに手伝いの冒険者であの人数を迎えうつ。

さぁ俺の本気を見せてやろうじゃないか。

どんな敵も俺にかかれば・・・。

「御主人様、向かってきているのは冒険者であって敵ではないと思うんですが。」

「気分の問題ですから気にしないでください。」

「はぁ、よくわかりませんがわかりました。」

何事もその場のノリと勢いという奴があるんですよ。

「では頼まれていたものはここに置いておきますので。」

「急なお願いで済みませんでした。」

「こんなもの何に使うんですか?」

「それはまぁ、見てのお楽しみという事で。」

ユーリに用意してもらったのは赤と青の紐。

25本ずつでちょうど50本。

今から来る冒険者と同じ数だ。

「では受付の際に番号札と一緒にこの紐を渡していってください。順番は適当で構いませんが渡し忘れのないようにだけお願いします。」

「「わかりました。」」

「ではよろしくおねがいします。」

夜が明ける前に冒険者を乗せた馬車がやってくる。

遥か向こうから来るのは二頭引きの大型輸送便だ。

一頭は鮮やかな栗毛。

もう一頭は深い青毛。

間違いない、俺の馬だ。

馬車はゆっくりと村の中に入ると停留所に止まった。

そして中からゾロゾロと冒険者が出て来る。

大型便だから30人か。

「お疲れ様でした、各班に分かれて順番にこちらにお並びくださーい。受付はこちらでーす、最後尾はこちらでーす。」

「おい、あれイナバさんじゃないのか?」

「本当だ、イナバさんだ!」

「マジかよわざわざ俺達を迎えに来てくれたのか。」

「俺、感動しちゃった。」

いや、感動しなくていいからさっさと並んでくれ。

「受付で番号札と紐を受け取ったらそのまま南へ下ってくださーい。」

「お疲れ様です、こちらが番号札と紐になります。後で番号札について詳しい説明を行いますのでそれまで決して魔法は使用しないようにお願いします。使用した場合は何が起きても責任を持ちませんのでよろしくお願いしますね。」

「は、はい!」

ニケさんが営業スマイル全開で受け答えしながら注意事項を説明する。

この番号札にはちょっとした細工がしてある。

今回はそれを使って順位などを決めるので、不注意で魔法を使おうものならどうなる事やら。

「このまま南に下ると広場があります。広場の先にある門を超えるとこの先滞在する天幕が準備してありますのでお好きな場所をご使用ください。」

「各班に一つですので複数利用はご遠慮ください。」

受付を済ませた冒険者を南に誘導しながら滞在場所を決めさせる。

全員揃ってからでもいいんだがそれだと喧嘩になるので今回は到着が早い順だ。

『時間は銀よりも重し』

今回はこの世界の習わしにのっとってみた。

10分ほどで第一便に乗ってきた冒険者の受付が完了する。

このペースなら何とかなるか・・・。

初回の誘導に成功し、緊張の糸が少しだけほどけた。

そのタイミングを見計らうかのように、馬車の奥から見慣れた人がやってきた。

「イナバ様おはようございます。」

「これはバスタさん、まさか第一便で来るとは思っていませんでした。」

「大切な馬をお預かりしておりましたので、真っ先にと思いまして。」

「馬の調子はどうですか?」

「まだ慣れないところはありますが何とか基本だけは教え込みました。後はイナバ様の手で育て上げてください。」

馬は手をかければかける程答えてくれる生き物だと聞いたことがある。

好かれるのも嫌われるのも全て自分の対応と気持ち次第。

好き嫌いではなく、家族として迎え入れるのが大切らしい。

今後が楽しみだ。

「ありがとうございます。」

「ここでお渡ししたいところではあるのですが、今お返しするとこの荷台を引いて帰る馬がいなくなってしまいます。陰日明けに改めてお連れしますね。」

そりゃそうだ。

俺としてもこの三日間は馬の事を気にする暇もないぐらいに忙しくなる。

彼らにはバスタさんの下でしっかり働いてもらうとしよう。

「ではイナバ様、次の便がありますので失礼します。」

「今日は暑くなるそうですからどうかお気をつけて。」

「催しの成功をお祈りしております。」

バスタさんは再び馬車に戻るとサンサトローズへの帰路についた。

それとすれ違うように別の馬車がこちらへ向かって来る。

「第二陣ならびに第三便確認しました!」

「さぁ、これから忙しくなりますよ!」

まだ日は登ったばかりだ。

俺達の戦いはまだまだ終わらない!

とかなんとか、かっこいいこと言いながら受付が正しく機能することを確認できたので俺は別の場所に移動する。

次は南広場だ。

「兄ちゃんいよいよだな。」

「第二陣第三陣がもうすぐ到着します、誘導お任せしますね。」

「任せとけ。」

「お任せください!」

南広場は村の人に、堀の外側は冒険者に担当を分けている。

昨日の感じだと問題は起こりそうにないが、一応念には念を入れてだ。

誘導を村の人にやらせるのは、自分たちの村が好き勝手にされないという安心感を与える為。

自分達の空間に他人が入ってくるんだからそれぐらいの配慮は必要だろう。

そしてそのまま南広場を抜けて堀の南側、冒険者のキャンプ地とも呼べる滞在場所へと足を延ばす。

「はい、番号札7番ですね。女性のみの班ですから希望があれば離れた部分も選べますが・・・希望します?じゃあ右奥の天幕を使ってください。」

「助かります。」

堀を越える橋の先ではティナさんが冒険者を振り分けていた。

なるほど、これなら冒険者同士の諍いも少なくなるな。

さすがティナさんそこまでは思いつかなかった。

「ティナさん首尾はいかがですか?」

「今の所問題はありませんね。皆さんうちのギルドに所属していますから聞き分けが良く助かっています。」

「それはよかった。第二第三陣も来ましたので引き続き振り分け作業お願いします。」

「頑張ります。」

ティナさんの指示で他の冒険者がキビキビと動いている。

天幕の使用方法や食事の説明など説明しなくてはいけないことは盛りだくさんだ。

だが、この練度なら問題はないだろう。

さすが、というべきだろうな。

受付、振り分けの流れは問題なし。

後はその後どうするかだな・・・。

「シュウイチさんこんなところにいましたか。」

「エミリアどうかしましたか?」

「シルビア様が到着しました。」

「こんなに早く、助かりますね。」

「それと、もう一つ・・・。」

え、騎士団だけじゃないの?

「どうしました?」

「ププト様が来られているんですがいかがしましょう。」

「はい・・・?」

準備はうまくいったし出だしもスムーズにいった矢先、まさかの人物が・・・。

いったい何しに来たんでしょうか。

思わぬ人物の登場に頭を悩ませながら、俺は村長の家へと急いだ。

このタイミングでなんて人がくるんだ。

たかが一商店の催しに普通領主が来るか普通。

まったくあの人にも困ったものだ。

エミリアと共に南広場を突っ切って急ぎ村長の家に向かう。

呼吸を正してドアをノックした。

「イナバです、こちらにプロンプト様が来られているという事で参上しました。」

「どうぞお入り下さい。」

中からはいつもと変わらない村長の声が聞こえてくる。

「失礼します。」

中では丁度村長がププト様にお茶を出す所だった。

「これはイナバ殿ではないか、忙しいそうだが大丈夫か?」

「ププト様が来られていると聞き、慌てて参りました。」

「今日は公人ではなく私人として来た、別に挨拶など必要ないぞ。」

「そうは申されましても私人に騎士団が同行するでしょうか。」

「私は一般の便で構わないといったんだがな、イアンが頑として聞かんのだ。」

元々厳しい顔をしたあのイアンさんが更に困った顔をするのが目に浮かぶ。

あの人も中々苦労人のようだ。

「今日はどうしてこちらに?」

「うちの騎士団長と冒険者ギルドのギルド長がここに来ると聞いてな、詳しく聞くと随分と面白そうな事をするそうでは無いか。折角なので見せてもらいに来た。」

「ただの商人が企画する催しに領主様が来るなど聞いたことがありませんが・・・。」

「ただの商人が企画する催しに騎士団長やギルド長が借り出されるというのも聞いたことが無いぞ。」

確かにその通りだ。

普通はありえないか。

こりゃ一本取られた。

「楽しんでいただけるかは分かりませんが。」

「今日の私はただの私人だ、楽しむかどうかは私個人が決める。別に楽しませようとする必要などありはしない。」

「・・・わかりました。ですが、あまり派手な事はなさらないでください。」

「さすがイナバ、話しの分かる男だな。」

「ププト程では有りませんよ。」

あえて呼び捨てにすることで私人であるという口実を作る。

む、向こうがそう仕向けてきたんだから不敬じゃないからね。

「では私は現場に戻ります。」

「折角だ、私も村の中を見せてもらうとしよう。」

「それでしたら私も参りましょう。」

「宜しく頼む。」

私人が村長直々の案内なんて受けませんよね、なんて事を言えばどんな目にあうかわかったもんじゃない。

口は災いの元。

何も言わない方がいい事だってある。

家の前で二人と分かれ、エミリアと顔を見合わせた。

「まさかプロンプト様が来られるとは思いもしませんでした。」

「私も来られるとは思っていませんでしたのでびっくりしちゃいました。」

そりゃそうだろう。

俺だってびっくりだ。

「シルビアは今何処に?」

「今は入口で騎士団の皆さんに指示を出しておられるはずです。」

「挨拶だけしてきます、また誰か来たら教えてください。」

「わかりました。」

これ以上増えてもらうと困るんだけど、もしもということもある。

噂システムが機能しない事を祈るよ。

「シルビア!」

「シュウイチか、丁度今そっちに行こうと思っていたところだ。」

村の入口に向かうと騎士団員が整列していた。

全員の視線が俺に集まる。

やめて、そんな目で見ないで。

「朝から大変でしたね。」

「プロンプト様のことか?あれぐらい別にどうって事ではない、むしろ直々に護衛できるなど身に余る光栄だ。」

「そう言ってもらえて何よりですが、さすがに三日とも滞在するとか言ってないですよね。」

「あぁ、今日の夕刻には帰るそうだ。この前の一件もある、さすがに三日開ける事は無いだろう。」

それもそうだな。

先日の集団暴走スタンビートも陰日に起きたんだ。

今月も起こらないという保証はない。

「シルビアは当分こっちに?」

「陰日明けの聖日までは一緒に居られる。」

「それはよかった、久しぶりにゆっくり出来ますね。」

「そのためにもまずはこの三日間を頑張らなければな。」

「その通りです。」

よし、俄然やる気が沸いてきたぞ。

何としてでも成功させて家族みんなでゆっくりするんだ!

「諸君!先日の最大の功労者であるイナバシュウイチ殿から訓示がある、心して聞くように!」

「「「「ハッ!」」」」

って、何でそうなるの。

訓示なんてそんな有り難いこと言えるはず無いでしょうが。

いきなり騎士団長に戻るんだから勘弁してよ。

「えー、皆さん今日は警護の任を引き受けていただきありがとうございます。幸いこの近辺に魔物が出る事はありませんが、冒険者と村人との関係維持ならびに治安維持に皆さんのお力をお貸し下さい。三日間よろしくお願いします。」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

「では各自配置につき次第警戒を開始しろ。交代は各班に任せる、何かあれば随時報告するように。」

「堀の南側に駐屯用の場所を確保してあります、そちらをお使い下さい。」

「「「「ありがとうございます!」」」」

冒険者には申し訳ないが場所がそこしかない。

彼等も人間だ、食事もすれば睡眠もとる。

24時間警戒し続けるわけには行かないからね。

「じゃあシルビアまた後で。」

「開会式には顔を出すとしよう。」

「宜しくお願いします。」

そうこうしている間にも冒険者はどんどんとやってくる。

この調子なら予定通りには開始できそうだ。

太陽がぐんぐんと昇り、気温が上昇していく。

それと同じように俺の気持ちも高まっていく。

いよいよだ。

それから2刻程で全ての冒険者が到着した。

総勢150人。

それに村人と騎士団員も含めると200人ほどが集まっている。

広いとおもっていた村の広場もすし詰め状態だ。

この熱さだと熱中症で倒れる人も出てくるだろう。

校長先生の長話のようにするわけには行かないが、決める所はバシッと決めよう。

「シュウイチさん皆さん準備できました。」

「問題無さそうですね。」

「後はご主人様の準備だけです。」

「頑張ってくださいイナバ様。」

「後ろでしっかり見させてもらうぞ。」

四人のプレッシャーを背中に感じながら俺は広場に準備されたお立ち台の上に立つ。

昨日もここに登ったっけ。

全員の視線を一身に浴びながら俺は天を仰いだ。

さぁやるぞ。

「今日は暑い中我がシュリアン商店の催しにお集まり頂きありがとう御座います。この催しはまだ誰も経験した事の無い初めての試みです。ここに集まってくださった皆さんが持つ知恵と知識と度胸そして勇気を見せてください。全てを使ったその先にそれに見合うだけの栄誉を用意しています。」

全員を見渡すように、全員と目をあわすように、俺は冒険者に思いを伝える。

「この三日間は冒険者の冒険者による冒険者だけのお祭りです。思いっきり楽しんでいってください。」

そうだ。

これは試験でも、訓練でも、戦争でもない。

お祭りだ。

冒険者のお祭りなんだ。

もう一度全員を見渡す。

誰一人余所見をすることなく俺を見てくれている。

俺は全員の真っ直ぐな気持ちに全力でこたえよう。

「シュリアン商店主催、『ダンジョン障害物競走』ここに開催を宣言します!」

さぁお祭りの始まりだ。

本番当日。

俺達の長い三日間が今はじまった。
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