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第七・五章
お祭り騒ぎの本番前日
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まだ外が暗い早朝にもそもそとベッドから這い出る。
眠い。
眠いがこれ以上寝るとまずい。
今から準備しないと村に到着する第一便に間に合わない。
大きく体を伸ばして体中に酸素を取り込む。
よし、体は起きた。
三人を起こさないようにゆっくりと扉を開けて下に降りる。
この時間ならまだユーリも起きていないはずだ。
この前のように不意打ちを食らう事は無いだろう。
その証拠に一階は静寂に包まれている。
ユーリが出て行った形跡も無い。
別にやましい事をするわけじゃないけれど、早朝に物音で起こされるのは嬉しくないだろう。
相変らず聖日は休日ではなかった。
俺はいいけれど他の三人にはいつも迷惑を掛けているし、朝ぐらいゆっくりしてもらわないと。
裏口から井戸へ向かい、井戸水を静かに汲み上げる。
キンキンに冷えた水が顔にかかると意識がはっきりとしてきた。
今日は今までで一番忙しくなる。
だけど、今日を乗り越えれば明日はいよいよ本番だ。
ここで頑張らないでいつ頑張るんだ。
今でしょ!
え、古い?
あの先生もなんだかんだで息が長いし、いいじゃないですか。
「はぁ、眠い・・・。」
目が覚めたとはいえまだ外は真っ暗だ。
暗闇に目がなれているから何とか見えているが、このまま村へ向かうのはさすがに怖いな。
商店でランタンを借りていこう。
大きく深呼吸をして新鮮な空気を肺に取り込む。
よし、行きますか。
裏口から台所に戻り簡単に朝食を済ます。
お腹は満たされたし体も十分ほぐれた。
エミリア達には村に行く事は伝えてあるから何かあったら連絡があるだろう。
「シュウイチさんもうでられるんですか?」
ドアに手を伸ばしたその時、後ろからエミリアの声が聞こえた。
振り返ると寝巻き姿のエミリアが台所の入口に立っている。
寝巻き姿もまた可愛いですなぁ。
「すみません起こしてしまいましたか。」
「もしかしてと思って降りてきただけなので大丈夫です。」
「お店の方はお任せします、何かあったら村にいますから。」
「わかりました。」
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい、『くれぐれも』気をつけてくださいね。」
こうやってエミリアに見送られるのは何度目だろう。
いつも危険な目に合うから『くれぐれも』の部分がどんどん強調されていく。
でも、今回は遠くに行くわけでも危ない事をしに行くわけじゃないから大丈夫。
それに本番はエミリアもシルビア様も皆が一緒だし。
可愛く手を振るエミリアに見送られて、商店に向かう。
倉庫からランタンを取り出し、火をつける。
オレンジ色の光を見るだけでホッとするなぁ。
火の元確認よし。
それじゃ今度こそ行きますか。
真っ暗な道をランタンの明かりを頼りに進んでいく。
知っている道で一本道だから特にこれといって不安は無いが、全く知らない土地でランタンの明かりだけで歩くのってかなり危険だよな。
魔物も出るし、夜盗だっているだろう。
こんな暗闇でランタンなんてつければ、何処にいるかなんて向こうにバレバレだし襲ってくださいと言っているようなものだ。
そもそも冒険者はこんな時間に行動したりしないだろう。
体が資本の冒険者にとってデメリットが多すぎる。
こんな時間に行動するのは闇討ちとか暗殺とか襲撃とかするような人ぐらいだ。
そういった人たちには縁がないはずなので、その心配も無いだろう。
たぶん。
『ガサガサ』
そう思っていた矢先、前方左側から不自然な音が聞こえてきた。
その場に立ち止まりランタンを前に突き出して様子を窺う。
奥から何かが出てくる。
魔物か?
それとも夜盗か?
もしや俺に恨みのある人間が暗殺者でも雇って一人になった俺を殺しに来たとか?
身に覚えがありすぎる。
恨みを買わないように大人しく過ごしているつもりだけど、残念ながら敵対する人もいる。
つい最近も二人ほど社会的に抹殺してしまった記憶がある。
だってさ、仕方ないじゃないか。
一方は人助けの為だし、もう一方は俺の保身の為なんだから。
こんな時に限って誰もいないんだよな。
ランタンを掲げつつ、腰にぶら下げてある短剣に手を伸ばす。
魔物なら何とかなる。
だけど人の場合は逃げるしかないだろう。
ここからなら村へ向かうよりも商店に戻った方が早い。
ガサガサという音がどんどん大きくなる。
奥から手前に何かが出てくる感じだ。
そしてついに手前の藪が音と共に震えだした。
来る。
最悪の状況を考えて短剣を抜き、ガサガサと震える藪に神経を集中させた。
「ご主人様もう出発されたのですか?」
「ユーリ!?」
野生のユーリが飛び出した。
違う、ポケモンじゃない。
野生で生息していたらむしろ困る。
「どうかされましたか?」
「まさかこんな時間にこんな所で会うとは思って居なかったので・・・。」
「明日が本番ですから念入りにダンジョンを整備しておりました。その後森の巡回と罠の確認を行っていた所に明かりが見えましたので、参上した次第です。」
「巡回までしてくれていたんですね。」
「罠を張るだけでは獲物はかかりません。森の状況をしっかりと把握して適切な所に罠を仕掛ける事で初めて獲物を仕留めることが出来ます。」
えっと、ユーリはダンジョン妖精だったよね?
発言がまるで罠師やマタギのようなんだけど気のせいかな。
「余り危険な事はしないでくださいね。」
「もちろんです。本業を疎かにする事は一切ありません。」
職人か!
まぁ、手を抜くような子じゃないし大丈夫だろう。
「そういえば今日はユーリが朝食当番でしたね。」
「そうでした!ありがとうございますご主人様。」
「ユーリの朝食を食べれないのは残念ですが、後はお願いします。」
「行ってらっしゃいませ。」
藪から出てきたユーリを捕獲せずに村への道を急ぐ。
さすがにニケさんが出てくる事は無いだろう。
むしろ出てきたら何しているんだって話だ。
村まで半刻程、ランタンの明かりを頼りに俺は道を急いだ。
そして外がうっすらと明るくなる頃、見慣れた村の門が見えてくる。
この辺もだいぶ変わったな。
始めてこの村に来た頃、門の辺りはまだ木々に囲まれていた。
しかし今は門から50mぐらいの場所まで森がなくなっている。
いずれ門の場所をずらす必要があるかもしれない。
それか、中世の街のように堀の内と外で役割を変えるという手もある。
内側は住宅、外側は産業みたいに。
まぁ、村の規模からしてそこまで急激に大きくなることは無いだろう。
最優先は住民の増加を促す為に住居を増やす事だ。
産業はおいおい考えていけばいい。
それに住民が増えれば畑も増やさなければならない。
北部を今まで以上に開墾して冬には水路を引くんだ。
それが完成すれば来年の収穫は今の二倍、いや三倍はいくだろう。
もっとも、俺が来年それを見れるかは明日にかかっているわけだけど・・・。
「誰だ!」
門をくぐろうとした時、村の中から男性の声で威圧されてしまった。
この声はドリスのオッサンかな?
「朝早くに失礼します、シュリアン商店のイナバです。」
「なんだ兄ちゃんか。」
「どうしたんですかこんなに朝早く。」
「第一便が来る前に周辺を点検しておこうとおもってな。」
「なるほど、念には念をという奴ですね。」
「冒険者を信じていないわけじゃないが、これだけの人間が来るとなると不安に思っている奴がいるのも事実だ。そいつ等が安心できるようにするのも俺の役目だからな。」
この人は本当に村と村の人を大切にしている。
それでいて村の人以外を差別したり毛嫌いするわけでもない。
先入観で決めずに物事の良し悪しをちゃんと見極めている。
不謹慎だが村長亡き後、この村を背負うのは間違いなくこの人だろう。
「では私もお付き合いします。」
「っていうかお前は何でいるんだ?」
「今回の件は私が発端ですからね、最初から最後まで見守るのが私の役目です。」
「お前もめんどくさい性格しているな。」
「オッサンに言われたくありません。」
「違いない。」
夜の明けきらぬ早朝にオッサンが二人顔を合わせて笑い合う。
絵面的にはよろしくないが、お互いに信頼しているからこそこういったことも言い合えるわけだ。
打ち合わせをしつつ南の広場を見回っているときだった。
「なんだ、珍しい奴が珍しい時間に集まっているな。」
「おいおい、お前までどうしたんだよ。」
「突貫工事だったからな、問題ないか確認するのが現場責任者の仕事だ。」
「この人もめんどくさい性格のようです。」
「そうらしい。」
ここでまさかの三人目のオッサンが登場。
突貫工事で冒険者達の寝泊りする場所を開発してくれた労働奴隷の皆さん。
そしてその親玉がこの男、ウェリスだ。
「会って早々言うじゃねぇか、喧嘩なら喜んで買うぞ。」
「これから忙しくなるって言うのにそんな事してられるか。」
「うるせぇ、喧嘩売ってきたのはお前らだろうが。」
「まぁまぁ、他の皆さんが起きてしまいますのでお静かに。」
「なに部外者みたいな事言ってやがる。」
「そうだ、元はといえばお前が原因じゃねぇか。」
「だからこうして見回りに来たわけですよ。」
二人して睨まないでくれるかなぁ。
一応この面子では最年少なんだから、優しくしてくれないと。
「こんな早朝にわざわざご苦労なこった。」
「ウェリスもご苦労様です。」
「おい、俺には何も無いのかよ。」
「ドリスは何もして無いだろ?おまえこそこんな早朝に何してんだよ、夜這いか?」
「それは俺の台詞だ。さっさとセレンさんを夜這いに行けよ、いい加減まどろっこしいんだよ。」
「それは私も同感です。」
この二人は早くくっついてくれた方が周りも何かとやりやすいんです。
「奴隷が夜這いなんかしたら速攻牢屋行きになるだろうが。」
「それは相手が訴えた時の話しだろ?お前が夜這いに行ってもあの人は何も言わねぇよ。」
「セレンさんならむしろ喜んで迎え入れそうです。」
「ともかく、俺にその気はねぇ!」
「まてよ、もしかしてもう手を出した後か?」
「なるほどだからそもそも夜這いする必要なんか無い、オッサン鋭いな。」
おっと、口調が変わってしまった。
この二人と話しているとついつい地が出てしまうな。
別に猫かぶっているわけじゃないけれど、男同士というのもあってこの二人には地を出しやすい。
「・・・お前等ちょっと表へ出ろ。」
「もう表ですよ。」
「っていうか表に出て何するつもりだよ。」
「お前等の顔が変わるまでぶちのめすだけだよ!」
ウェリスが拳を振り上げて追いかけてくる。
ドリスのオッサンと俺はそれを笑いながら逃げ回った。
結局予定していた見回りは出来ず、定期便が来る頃には息の上がったオッサンが三人出来上がっただけだった。
いい年して何してるんだか。
でもまぁ、たまにはこんなのもいいよね。
本番前に緊張しすぎるぐらいならこうやって息抜きしている方がいい。
さぁ、定期便は来た。
仕事を始めようか。
「イナバ様、食料品を積んだ便が到着しました!」
「生鮮食品は魔石冷蔵庫のある左の倉庫へ、それ以外は右の倉庫にお願いします。」
「イナバ様、天幕を積んだ便はどういたしましょうか。」
「入り口・・・いえ、入り口から少し離れた場所に積みあげておいてください後で冒険者が取りに来ます。」
「イナバ様、出店予定の方がこられていますが・・・。」
「南広場横の調理場付近に誘導してください。後で挨拶に伺うと伝えることも忘れずに!」
忙しい。
それはわかる。
予想の範囲内だ。
だがこれはちょっとおかしくないか?
村の東側、サンサトローズと村を結ぶ街道には目を疑うような光景が広がっていた。
馬車が渋滞している。
現代ならよくある光景だ。
高速道路が渋滞する。
事故で渋滞する。
渋滞とはモノの流れが滞ることを言う。
モノは時に車であり人であり物でもある。
だがこれは大量消費大量輸送が普通であった元の世界の話だ。
ここは異世界。
高速道路もなければ事故が起きたわけでもない。
にもかかわらず渋滞が起きるのは何故だ?
理由は簡単だ。
荷物の量が多すぎる。
それだけじゃない。
その荷物全てが俺の指示を待っている。
これが一番の原因だ。
荷物を置いて帰るだけなら別に渋滞は起きない。
集積場をつくってそこに積み上げればいいだけだからだ。
だが今回はそういうわけにいかない。
何故なら催しの完成図が俺の頭の中にしかないからだ。
これは盲点だった。
もし、もっと時間があればウェリスやオッサン、エミリアやティナさんなど主要な面々に完成図を理解してもらう事も出来ただろう。
だがその時間はなかった。
それだけじゃなく、仮にできたとしても他の業務に忙殺されて手助けできないからだ。
この渋滞の原因は俺だ。
だから俺は最速でこれを捌いて行かなければならない。
「イナバ様冒険者が到着いたしました。」
「待ってました!」
よし、これで荷捌きの人出が増えたぞ。
問題は司令塔が俺しかいないことだがそこは気合と根性で何とか・・・。
「イナバ様冒険者30人お手伝いに参りました。」
あれ、この声は・・・。
「ティナさんどうしてここに!」
「本当は明日来る予定だったんですけど、人手がいるかと思ってきちゃいました。」
「来ちゃいましたはありがたいんですが、ギルドは大丈夫なんですか?」
「そのためにグランを鍛えていますから、陰日はギルドも暇ですし大丈夫です。」
このタイミングで司令塔が増えるのは非常に助かる。
助かるけど、本当に大丈夫なのかなぁ。
はるか遠くからグランさんの悲しい叫び声が聞こえた気がしたけど、空耳だろう。
「では冒険者の皆さんには入り口横に積み上げられた天幕の設置、ならびに荷物の運搬をお願いします。これからどんどん荷は増えますからね、迅速丁寧にお任せします。」
「「「「はい!」」」」
「ではティナさんお言葉に甘えて後はお願いします。」
「南広場にいますので何かありましたら遠慮なく指示してください。」
「ありがとうございます。」
冒険者の一団がティナさんの指揮の元一つの集団として機能し始める。
冒険者は基本単独行動だ。
それが意思をもって集団行動できるのもそれを指揮する司令官が優秀だからだろう。
俺も見習わないとな。
「あ、そうだイナバ様。」
「どうしました?」
「追加で手伝いに手を上げた冒険者がおりましたので私の方で許可を出しましたがよろしかったでしょうか。」
「それはありがたいですが、まさか徒歩で?」
「荷馬車がありませんでしたので徒歩で来られるそうです。どうしても、という事でしたので後で挨拶に来ると思います。」
「わかりました。」
多少増えるぐらいならどうってことない。
人手が増えるのはむしろ大歓迎だ。
「イナバ様次の馬車が待っておりますが・・・。」
「すぐに行きます!」
とりあえず仕事をこなそう。
「次、お願いします。」
「はい、うちはネムリ商店から協賛品のお届けです。」
「目録はありますか?」
「ここに。」
差し出されたのは一枚の紙。
うむ、読めん!
「すみません読み上げてもらえますか?」
「えっと、読めないんです・・・。」
荷馬車の若者が申し訳なさそうな顔をした。
そうだよな、全員が読めるわけないよな。
だがこのままってわけにもいかない。
ネムリからのものであれば魔装具とかも入っているはずだ。
高価なものだけに適当にするわけにもいかないし・・・。
荷馬車の若者と目を合わせ困っていたところ、横から伸びた手がさっと目録を取り上げた。
「中身は魔装具と日用品、あ、化粧品なんてものもありますよ。」
「ニケさん!」
横から目録をさっと取り上げ読み上げてくれたのは店にいるはずのニケさんだった。
「どうしてここに?」
「エミリア様がお手伝いをするようにって送り出してくださったんです。無茶をしているだろうからって。」
確かに無茶をしそうになっていましたけど。
「店は大丈夫なんですか?」
「今日はお客さんも少ないですから大丈夫だと思います。それで、この荷物はどうしますか?」
「えっと、魔装具は村長様の家にそれ以外は倉庫へお願いします。」
「魔装具は赤の箱、それ以外は青い箱ですから間違えないでくださいね。」
「はい!」
デレッとしていた若者がニケさんの声で我に返る。
わかるよ、美人だもんな。
でも俺の大切な仲間だから手を出すなよ。
若者は荷馬車を停車場へ動かし、どこからかやってきた冒険者が次々荷を運び出していく。
「次呼びますね。」
「お願いします。」
その後も次々と荷馬車がやってくる。
だが、ニケさんが補佐してくれるだけで効率がぐんと上がり見る見るうちに渋滞は解消されつつあった。
だが、馬車は尽きることがない。
日は高く上りもうすぐ昼の鐘が鳴るころだ。
これ、終わるのかなぁ。
「次、コペン商店より酒類と食料品、それと番号札?」
「あぁ、コッペンからの荷物ですね。」
「番号札なんてどうするんですか?」
「本番でちょっと使う予定がありまして・・・。」
「わかりましたお酒と生鮮食品は左の倉庫それ以外は右の倉庫へお願いします。」
「番号札は南広場のティナギルド長のところへ持って行ってください。」
「はい!」
指示を受けた冒険者が荷馬車へ群がり次々と荷を運び出していく。
人海戦術半端ないな。
ちなみに今荷を下ろしてくれているのはというと・・・。
「司令官、次はどうすればいい?」
「司令官はやめてくださいよ、今はただの商人ですって。」
「俺達からしたら司令官はいつまでも司令官ですよ。」
「困ったなぁ・・・。」
そう、先日の集団失踪時に救出したあの冒険者達だ。
わざわざ徒歩でここまで来てくれるなんて何てお礼を言えば良いのやら。
「今日はこの前の恩返しに来たんだ、なんでも言ってくれ!」
何でもって言われても、今は荷運びしか・・・。
「イナバ様、ウェリス様が来られましたがどうしますか?」
「ウェリスが?」
向こうで作業をしているはずなんだけど問題発生か?
「おい、そろそろ昼だが食事用の机はどうするんだ?手伝いに来てもらってるのに地面に食い物置くのはまずいだろ。」
「あー、そこまで考えてませんでした・・・。えっと、急ごしらえで何か作れます?」
「何か作れますってお前、人出も材料も足りねぇよ。」
「ですよねぇ・・・。」
うーん何かいい案ないかなぁ。
「司令官、簡単な机でいいのか?」
「えぇ、一斉に食べる必要はないので交代で食べれるだけの机があればいいんですけど。」
冒険者集団リーダーが声をかけてくれた。
名前は確かクロアさんだっけ。
「そうだな、森を開拓してるなら掘り起こした切り株があるよな。」
「あぁ、裏に積み上げてあるぞ。」
「そいつの根を切って高さを揃えて板を渡せば簡単な机になる。建築用の材木はあるか?できれば幅の広い奴がいいんだが。」
「あぁ、壁用のいい材木があるぞ。」
「ついでに簡単な椅子もお願いできますか?」
「椅子なら丸太を輪切りにしたやつで良いだろ?終わったら薪にでもすれば良いさ。」
「それで十分です、お願いします。」
「よし半分は俺に、残りはこの場で司令官の指揮をあおげ、行くぞ!」
クロアさんが冒険者を連れてウェリスと共に行ってしまった。
あの様子だとなんとかしてくれるだろう。
いやー、今回も相変わらず他力本願ですなぁ・・・。
テーブルとか何にも考えてなかったよ。
相変わらず計画がザルですわ。
本当にすみません。
「みなさんイナバ様が助けたんですよね。」
「えぇ、成り行き上そうなります。」
「こうやって恩返しに来てくれるってうれしいですね。」
「本当にありがたいことです。」
みんな文句ひとつ言わず仕事を手伝ってくれる。
人が人を呼び、大きな力になる。
本番まであと半日。
この勢いで準備を完了させてしまおう。
「次、お願いします。」
まだまだ荷馬車はやってくる。
俺は俺の仕事をするだけだ。
眠い。
眠いがこれ以上寝るとまずい。
今から準備しないと村に到着する第一便に間に合わない。
大きく体を伸ばして体中に酸素を取り込む。
よし、体は起きた。
三人を起こさないようにゆっくりと扉を開けて下に降りる。
この時間ならまだユーリも起きていないはずだ。
この前のように不意打ちを食らう事は無いだろう。
その証拠に一階は静寂に包まれている。
ユーリが出て行った形跡も無い。
別にやましい事をするわけじゃないけれど、早朝に物音で起こされるのは嬉しくないだろう。
相変らず聖日は休日ではなかった。
俺はいいけれど他の三人にはいつも迷惑を掛けているし、朝ぐらいゆっくりしてもらわないと。
裏口から井戸へ向かい、井戸水を静かに汲み上げる。
キンキンに冷えた水が顔にかかると意識がはっきりとしてきた。
今日は今までで一番忙しくなる。
だけど、今日を乗り越えれば明日はいよいよ本番だ。
ここで頑張らないでいつ頑張るんだ。
今でしょ!
え、古い?
あの先生もなんだかんだで息が長いし、いいじゃないですか。
「はぁ、眠い・・・。」
目が覚めたとはいえまだ外は真っ暗だ。
暗闇に目がなれているから何とか見えているが、このまま村へ向かうのはさすがに怖いな。
商店でランタンを借りていこう。
大きく深呼吸をして新鮮な空気を肺に取り込む。
よし、行きますか。
裏口から台所に戻り簡単に朝食を済ます。
お腹は満たされたし体も十分ほぐれた。
エミリア達には村に行く事は伝えてあるから何かあったら連絡があるだろう。
「シュウイチさんもうでられるんですか?」
ドアに手を伸ばしたその時、後ろからエミリアの声が聞こえた。
振り返ると寝巻き姿のエミリアが台所の入口に立っている。
寝巻き姿もまた可愛いですなぁ。
「すみません起こしてしまいましたか。」
「もしかしてと思って降りてきただけなので大丈夫です。」
「お店の方はお任せします、何かあったら村にいますから。」
「わかりました。」
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい、『くれぐれも』気をつけてくださいね。」
こうやってエミリアに見送られるのは何度目だろう。
いつも危険な目に合うから『くれぐれも』の部分がどんどん強調されていく。
でも、今回は遠くに行くわけでも危ない事をしに行くわけじゃないから大丈夫。
それに本番はエミリアもシルビア様も皆が一緒だし。
可愛く手を振るエミリアに見送られて、商店に向かう。
倉庫からランタンを取り出し、火をつける。
オレンジ色の光を見るだけでホッとするなぁ。
火の元確認よし。
それじゃ今度こそ行きますか。
真っ暗な道をランタンの明かりを頼りに進んでいく。
知っている道で一本道だから特にこれといって不安は無いが、全く知らない土地でランタンの明かりだけで歩くのってかなり危険だよな。
魔物も出るし、夜盗だっているだろう。
こんな暗闇でランタンなんてつければ、何処にいるかなんて向こうにバレバレだし襲ってくださいと言っているようなものだ。
そもそも冒険者はこんな時間に行動したりしないだろう。
体が資本の冒険者にとってデメリットが多すぎる。
こんな時間に行動するのは闇討ちとか暗殺とか襲撃とかするような人ぐらいだ。
そういった人たちには縁がないはずなので、その心配も無いだろう。
たぶん。
『ガサガサ』
そう思っていた矢先、前方左側から不自然な音が聞こえてきた。
その場に立ち止まりランタンを前に突き出して様子を窺う。
奥から何かが出てくる。
魔物か?
それとも夜盗か?
もしや俺に恨みのある人間が暗殺者でも雇って一人になった俺を殺しに来たとか?
身に覚えがありすぎる。
恨みを買わないように大人しく過ごしているつもりだけど、残念ながら敵対する人もいる。
つい最近も二人ほど社会的に抹殺してしまった記憶がある。
だってさ、仕方ないじゃないか。
一方は人助けの為だし、もう一方は俺の保身の為なんだから。
こんな時に限って誰もいないんだよな。
ランタンを掲げつつ、腰にぶら下げてある短剣に手を伸ばす。
魔物なら何とかなる。
だけど人の場合は逃げるしかないだろう。
ここからなら村へ向かうよりも商店に戻った方が早い。
ガサガサという音がどんどん大きくなる。
奥から手前に何かが出てくる感じだ。
そしてついに手前の藪が音と共に震えだした。
来る。
最悪の状況を考えて短剣を抜き、ガサガサと震える藪に神経を集中させた。
「ご主人様もう出発されたのですか?」
「ユーリ!?」
野生のユーリが飛び出した。
違う、ポケモンじゃない。
野生で生息していたらむしろ困る。
「どうかされましたか?」
「まさかこんな時間にこんな所で会うとは思って居なかったので・・・。」
「明日が本番ですから念入りにダンジョンを整備しておりました。その後森の巡回と罠の確認を行っていた所に明かりが見えましたので、参上した次第です。」
「巡回までしてくれていたんですね。」
「罠を張るだけでは獲物はかかりません。森の状況をしっかりと把握して適切な所に罠を仕掛ける事で初めて獲物を仕留めることが出来ます。」
えっと、ユーリはダンジョン妖精だったよね?
発言がまるで罠師やマタギのようなんだけど気のせいかな。
「余り危険な事はしないでくださいね。」
「もちろんです。本業を疎かにする事は一切ありません。」
職人か!
まぁ、手を抜くような子じゃないし大丈夫だろう。
「そういえば今日はユーリが朝食当番でしたね。」
「そうでした!ありがとうございますご主人様。」
「ユーリの朝食を食べれないのは残念ですが、後はお願いします。」
「行ってらっしゃいませ。」
藪から出てきたユーリを捕獲せずに村への道を急ぐ。
さすがにニケさんが出てくる事は無いだろう。
むしろ出てきたら何しているんだって話だ。
村まで半刻程、ランタンの明かりを頼りに俺は道を急いだ。
そして外がうっすらと明るくなる頃、見慣れた村の門が見えてくる。
この辺もだいぶ変わったな。
始めてこの村に来た頃、門の辺りはまだ木々に囲まれていた。
しかし今は門から50mぐらいの場所まで森がなくなっている。
いずれ門の場所をずらす必要があるかもしれない。
それか、中世の街のように堀の内と外で役割を変えるという手もある。
内側は住宅、外側は産業みたいに。
まぁ、村の規模からしてそこまで急激に大きくなることは無いだろう。
最優先は住民の増加を促す為に住居を増やす事だ。
産業はおいおい考えていけばいい。
それに住民が増えれば畑も増やさなければならない。
北部を今まで以上に開墾して冬には水路を引くんだ。
それが完成すれば来年の収穫は今の二倍、いや三倍はいくだろう。
もっとも、俺が来年それを見れるかは明日にかかっているわけだけど・・・。
「誰だ!」
門をくぐろうとした時、村の中から男性の声で威圧されてしまった。
この声はドリスのオッサンかな?
「朝早くに失礼します、シュリアン商店のイナバです。」
「なんだ兄ちゃんか。」
「どうしたんですかこんなに朝早く。」
「第一便が来る前に周辺を点検しておこうとおもってな。」
「なるほど、念には念をという奴ですね。」
「冒険者を信じていないわけじゃないが、これだけの人間が来るとなると不安に思っている奴がいるのも事実だ。そいつ等が安心できるようにするのも俺の役目だからな。」
この人は本当に村と村の人を大切にしている。
それでいて村の人以外を差別したり毛嫌いするわけでもない。
先入観で決めずに物事の良し悪しをちゃんと見極めている。
不謹慎だが村長亡き後、この村を背負うのは間違いなくこの人だろう。
「では私もお付き合いします。」
「っていうかお前は何でいるんだ?」
「今回の件は私が発端ですからね、最初から最後まで見守るのが私の役目です。」
「お前もめんどくさい性格しているな。」
「オッサンに言われたくありません。」
「違いない。」
夜の明けきらぬ早朝にオッサンが二人顔を合わせて笑い合う。
絵面的にはよろしくないが、お互いに信頼しているからこそこういったことも言い合えるわけだ。
打ち合わせをしつつ南の広場を見回っているときだった。
「なんだ、珍しい奴が珍しい時間に集まっているな。」
「おいおい、お前までどうしたんだよ。」
「突貫工事だったからな、問題ないか確認するのが現場責任者の仕事だ。」
「この人もめんどくさい性格のようです。」
「そうらしい。」
ここでまさかの三人目のオッサンが登場。
突貫工事で冒険者達の寝泊りする場所を開発してくれた労働奴隷の皆さん。
そしてその親玉がこの男、ウェリスだ。
「会って早々言うじゃねぇか、喧嘩なら喜んで買うぞ。」
「これから忙しくなるって言うのにそんな事してられるか。」
「うるせぇ、喧嘩売ってきたのはお前らだろうが。」
「まぁまぁ、他の皆さんが起きてしまいますのでお静かに。」
「なに部外者みたいな事言ってやがる。」
「そうだ、元はといえばお前が原因じゃねぇか。」
「だからこうして見回りに来たわけですよ。」
二人して睨まないでくれるかなぁ。
一応この面子では最年少なんだから、優しくしてくれないと。
「こんな早朝にわざわざご苦労なこった。」
「ウェリスもご苦労様です。」
「おい、俺には何も無いのかよ。」
「ドリスは何もして無いだろ?おまえこそこんな早朝に何してんだよ、夜這いか?」
「それは俺の台詞だ。さっさとセレンさんを夜這いに行けよ、いい加減まどろっこしいんだよ。」
「それは私も同感です。」
この二人は早くくっついてくれた方が周りも何かとやりやすいんです。
「奴隷が夜這いなんかしたら速攻牢屋行きになるだろうが。」
「それは相手が訴えた時の話しだろ?お前が夜這いに行ってもあの人は何も言わねぇよ。」
「セレンさんならむしろ喜んで迎え入れそうです。」
「ともかく、俺にその気はねぇ!」
「まてよ、もしかしてもう手を出した後か?」
「なるほどだからそもそも夜這いする必要なんか無い、オッサン鋭いな。」
おっと、口調が変わってしまった。
この二人と話しているとついつい地が出てしまうな。
別に猫かぶっているわけじゃないけれど、男同士というのもあってこの二人には地を出しやすい。
「・・・お前等ちょっと表へ出ろ。」
「もう表ですよ。」
「っていうか表に出て何するつもりだよ。」
「お前等の顔が変わるまでぶちのめすだけだよ!」
ウェリスが拳を振り上げて追いかけてくる。
ドリスのオッサンと俺はそれを笑いながら逃げ回った。
結局予定していた見回りは出来ず、定期便が来る頃には息の上がったオッサンが三人出来上がっただけだった。
いい年して何してるんだか。
でもまぁ、たまにはこんなのもいいよね。
本番前に緊張しすぎるぐらいならこうやって息抜きしている方がいい。
さぁ、定期便は来た。
仕事を始めようか。
「イナバ様、食料品を積んだ便が到着しました!」
「生鮮食品は魔石冷蔵庫のある左の倉庫へ、それ以外は右の倉庫にお願いします。」
「イナバ様、天幕を積んだ便はどういたしましょうか。」
「入り口・・・いえ、入り口から少し離れた場所に積みあげておいてください後で冒険者が取りに来ます。」
「イナバ様、出店予定の方がこられていますが・・・。」
「南広場横の調理場付近に誘導してください。後で挨拶に伺うと伝えることも忘れずに!」
忙しい。
それはわかる。
予想の範囲内だ。
だがこれはちょっとおかしくないか?
村の東側、サンサトローズと村を結ぶ街道には目を疑うような光景が広がっていた。
馬車が渋滞している。
現代ならよくある光景だ。
高速道路が渋滞する。
事故で渋滞する。
渋滞とはモノの流れが滞ることを言う。
モノは時に車であり人であり物でもある。
だがこれは大量消費大量輸送が普通であった元の世界の話だ。
ここは異世界。
高速道路もなければ事故が起きたわけでもない。
にもかかわらず渋滞が起きるのは何故だ?
理由は簡単だ。
荷物の量が多すぎる。
それだけじゃない。
その荷物全てが俺の指示を待っている。
これが一番の原因だ。
荷物を置いて帰るだけなら別に渋滞は起きない。
集積場をつくってそこに積み上げればいいだけだからだ。
だが今回はそういうわけにいかない。
何故なら催しの完成図が俺の頭の中にしかないからだ。
これは盲点だった。
もし、もっと時間があればウェリスやオッサン、エミリアやティナさんなど主要な面々に完成図を理解してもらう事も出来ただろう。
だがその時間はなかった。
それだけじゃなく、仮にできたとしても他の業務に忙殺されて手助けできないからだ。
この渋滞の原因は俺だ。
だから俺は最速でこれを捌いて行かなければならない。
「イナバ様冒険者が到着いたしました。」
「待ってました!」
よし、これで荷捌きの人出が増えたぞ。
問題は司令塔が俺しかいないことだがそこは気合と根性で何とか・・・。
「イナバ様冒険者30人お手伝いに参りました。」
あれ、この声は・・・。
「ティナさんどうしてここに!」
「本当は明日来る予定だったんですけど、人手がいるかと思ってきちゃいました。」
「来ちゃいましたはありがたいんですが、ギルドは大丈夫なんですか?」
「そのためにグランを鍛えていますから、陰日はギルドも暇ですし大丈夫です。」
このタイミングで司令塔が増えるのは非常に助かる。
助かるけど、本当に大丈夫なのかなぁ。
はるか遠くからグランさんの悲しい叫び声が聞こえた気がしたけど、空耳だろう。
「では冒険者の皆さんには入り口横に積み上げられた天幕の設置、ならびに荷物の運搬をお願いします。これからどんどん荷は増えますからね、迅速丁寧にお任せします。」
「「「「はい!」」」」
「ではティナさんお言葉に甘えて後はお願いします。」
「南広場にいますので何かありましたら遠慮なく指示してください。」
「ありがとうございます。」
冒険者の一団がティナさんの指揮の元一つの集団として機能し始める。
冒険者は基本単独行動だ。
それが意思をもって集団行動できるのもそれを指揮する司令官が優秀だからだろう。
俺も見習わないとな。
「あ、そうだイナバ様。」
「どうしました?」
「追加で手伝いに手を上げた冒険者がおりましたので私の方で許可を出しましたがよろしかったでしょうか。」
「それはありがたいですが、まさか徒歩で?」
「荷馬車がありませんでしたので徒歩で来られるそうです。どうしても、という事でしたので後で挨拶に来ると思います。」
「わかりました。」
多少増えるぐらいならどうってことない。
人手が増えるのはむしろ大歓迎だ。
「イナバ様次の馬車が待っておりますが・・・。」
「すぐに行きます!」
とりあえず仕事をこなそう。
「次、お願いします。」
「はい、うちはネムリ商店から協賛品のお届けです。」
「目録はありますか?」
「ここに。」
差し出されたのは一枚の紙。
うむ、読めん!
「すみません読み上げてもらえますか?」
「えっと、読めないんです・・・。」
荷馬車の若者が申し訳なさそうな顔をした。
そうだよな、全員が読めるわけないよな。
だがこのままってわけにもいかない。
ネムリからのものであれば魔装具とかも入っているはずだ。
高価なものだけに適当にするわけにもいかないし・・・。
荷馬車の若者と目を合わせ困っていたところ、横から伸びた手がさっと目録を取り上げた。
「中身は魔装具と日用品、あ、化粧品なんてものもありますよ。」
「ニケさん!」
横から目録をさっと取り上げ読み上げてくれたのは店にいるはずのニケさんだった。
「どうしてここに?」
「エミリア様がお手伝いをするようにって送り出してくださったんです。無茶をしているだろうからって。」
確かに無茶をしそうになっていましたけど。
「店は大丈夫なんですか?」
「今日はお客さんも少ないですから大丈夫だと思います。それで、この荷物はどうしますか?」
「えっと、魔装具は村長様の家にそれ以外は倉庫へお願いします。」
「魔装具は赤の箱、それ以外は青い箱ですから間違えないでくださいね。」
「はい!」
デレッとしていた若者がニケさんの声で我に返る。
わかるよ、美人だもんな。
でも俺の大切な仲間だから手を出すなよ。
若者は荷馬車を停車場へ動かし、どこからかやってきた冒険者が次々荷を運び出していく。
「次呼びますね。」
「お願いします。」
その後も次々と荷馬車がやってくる。
だが、ニケさんが補佐してくれるだけで効率がぐんと上がり見る見るうちに渋滞は解消されつつあった。
だが、馬車は尽きることがない。
日は高く上りもうすぐ昼の鐘が鳴るころだ。
これ、終わるのかなぁ。
「次、コペン商店より酒類と食料品、それと番号札?」
「あぁ、コッペンからの荷物ですね。」
「番号札なんてどうするんですか?」
「本番でちょっと使う予定がありまして・・・。」
「わかりましたお酒と生鮮食品は左の倉庫それ以外は右の倉庫へお願いします。」
「番号札は南広場のティナギルド長のところへ持って行ってください。」
「はい!」
指示を受けた冒険者が荷馬車へ群がり次々と荷を運び出していく。
人海戦術半端ないな。
ちなみに今荷を下ろしてくれているのはというと・・・。
「司令官、次はどうすればいい?」
「司令官はやめてくださいよ、今はただの商人ですって。」
「俺達からしたら司令官はいつまでも司令官ですよ。」
「困ったなぁ・・・。」
そう、先日の集団失踪時に救出したあの冒険者達だ。
わざわざ徒歩でここまで来てくれるなんて何てお礼を言えば良いのやら。
「今日はこの前の恩返しに来たんだ、なんでも言ってくれ!」
何でもって言われても、今は荷運びしか・・・。
「イナバ様、ウェリス様が来られましたがどうしますか?」
「ウェリスが?」
向こうで作業をしているはずなんだけど問題発生か?
「おい、そろそろ昼だが食事用の机はどうするんだ?手伝いに来てもらってるのに地面に食い物置くのはまずいだろ。」
「あー、そこまで考えてませんでした・・・。えっと、急ごしらえで何か作れます?」
「何か作れますってお前、人出も材料も足りねぇよ。」
「ですよねぇ・・・。」
うーん何かいい案ないかなぁ。
「司令官、簡単な机でいいのか?」
「えぇ、一斉に食べる必要はないので交代で食べれるだけの机があればいいんですけど。」
冒険者集団リーダーが声をかけてくれた。
名前は確かクロアさんだっけ。
「そうだな、森を開拓してるなら掘り起こした切り株があるよな。」
「あぁ、裏に積み上げてあるぞ。」
「そいつの根を切って高さを揃えて板を渡せば簡単な机になる。建築用の材木はあるか?できれば幅の広い奴がいいんだが。」
「あぁ、壁用のいい材木があるぞ。」
「ついでに簡単な椅子もお願いできますか?」
「椅子なら丸太を輪切りにしたやつで良いだろ?終わったら薪にでもすれば良いさ。」
「それで十分です、お願いします。」
「よし半分は俺に、残りはこの場で司令官の指揮をあおげ、行くぞ!」
クロアさんが冒険者を連れてウェリスと共に行ってしまった。
あの様子だとなんとかしてくれるだろう。
いやー、今回も相変わらず他力本願ですなぁ・・・。
テーブルとか何にも考えてなかったよ。
相変わらず計画がザルですわ。
本当にすみません。
「みなさんイナバ様が助けたんですよね。」
「えぇ、成り行き上そうなります。」
「こうやって恩返しに来てくれるってうれしいですね。」
「本当にありがたいことです。」
みんな文句ひとつ言わず仕事を手伝ってくれる。
人が人を呼び、大きな力になる。
本番まであと半日。
この勢いで準備を完了させてしまおう。
「次、お願いします。」
まだまだ荷馬車はやってくる。
俺は俺の仕事をするだけだ。
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