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第七・五章
ベストを尽くすには
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引き続き魔術師ギルドの中を移動して向かうは老齢の魔女が住まう塔。
こんな言い方をするとカッコイイが、中にいるのは一癖も二癖もある凄腕の魔女だ。
先ほどの博士を子ども扱いする齢何歳かもわからない魔術師ギルドのトップ。
何度かお会いしているが今だに底が見えない。
そんな人が不機嫌だと聞いたら行きたくなくなるのも当たり前じゃないかなぁ。
やれやれ気が重い。
景色のいい回廊を抜けて塔内部の螺旋階段を登っていく。
終点の少し手前、見えない壁の前でエミリアが立ち止まった。
おや、先客がいるのか。
「あら、エミリアじゃない。」
「リュカさん!」
いつもはギルドの受付で張っているのに今日はこっちなんだ。。
いや、この感じだと誰か来たときに対応するように言われているのかな?
「フェリス様に何かご用?」
「お祝いのお礼と精霊結晶の経過についてお伺いに来たんですけど・・・。」
「うーん、今は誰も入れないように言われているのよね。」
ですよねー。
そうじゃないとこの人がここにいるはず無い。
さてどうしたもんか。
「そうだ、リュカさんもお祝いありがとうございました。」
「えぇ、どうしてわかったの!?」
「私が前に欲しいって言っていた石鹸がギルドからの荷物に入っていましたから。」
「絶対ばれないと思ったのになぁ。」
「ふふふ、嬉しかったです。」
なんだかんだ言いながらもこの人はエミリアの事を大事に思ってくれている。
ありがたやありがたや。
「ですが入れないとなると困りましたね。」
「そうですね、元手がないことには取引するのは難しいと思います。」
「あら、この男はまた如何わしい事でもしようとしているの?」
なにその如何わしい事って。
別に今までもそんな事なんてしてないんですけど?
「実は馬を買おうと思っているのですが、その代金を先日お渡しした精霊結晶の代金から支払うつもりだったんです。」
「そういえばそんなものもあったわねぇ。貴女達が持ってきた後はギルドもすごい盛り上がったけど、博士が持って行ってからはみんな興味も薄れちゃってすっかり忘れちゃってたわ。」
「まぁ、半分はミド博士の為にお譲りしたようなものですから。」
「二精霊の融合結晶なんて非現実的な物をもってくるからよ。」
えぇ、持ってきたこと自体が怒られるって・・・。
なんだか悪いことをしたみたいだ。
「フェリス様の手が空かないという事は今はあきらめるしかなさそうですね、後でもう一度伺おうと思います。」
「いつ終わるかはわからないけど、もし終わったら事情だけは説明しておいてあげるわ。」
「よろしくお願いします。」
「別にアンタの為なんかじゃないだからね。」
なにこのツンデレワード。
まさかこの人まで俺に・・・!?
「行きましょうかシュウイチさん。」
え、スルーですか?
「ではまた。」
何事もなかったかのように階段を降り始めるエミリアを慌てて追いかける。
さて、さっそく予定が狂っちゃったぞ。
もう一度ここに来るとして一度白鷺亭に戻るべきだろうか。
それとも別の用事を済ませるべきだろうか。
ムムム。
「馬を見に行かれるのは夕方でしたよね。」
「夕方までに伺うという約束になっています。」
「まだお昼前ですからそれまでに予定を済ませてしまいませんか?」
「ユーリ達を待つ方がいいでしょうか。」
「どうでしょう、まだお昼前ですし二人も時間がかかると思います。」
無理強いはしないように言ってあるけど交渉事には時間がかかる。
そうだな、時間がないのにわざわざ待つ理由もないか。
「ではここを出て輸送ギルドに向かいます。バスタさんに事情を説明しつつ進捗状況を確認しておきましょう。」
「輸送ギルドですね、魔術師ギルドの近くです。」
さすがエミリア頼りになります。
「あーそうだ、エミリア!」
階段を全部降りた時だった、上からリュカさんの声が聞こえてくる。
「終わったら念話で知らせてあげるから戻ってこなくていいわよ!」
「ありがとうございます!」
なるほど、それなら無駄足を踏むこともないか。
念話マジ便利。
って、それを言うのも念話でよくない?
大事な来客中にうるさいとか怒られたりしないの?
「念話で伝えてくれたらいいのに、リュカさんらしいです。」
「念話は急に聞こえてくるんですか?」
「いきなり聞こえてくる訳じゃないんです。初めに頭の中に念話が来たよってお知らせが来て、それに意識を接続したら聞こえてくる感じです。」
電話のコールみたいなものか。
そうだよな、いきなり声が聞こえてきたらびっくりするよな。
食事中とかならまだいいけど、トイレの最中とかナニしてるときとか困るじゃない。
え、何してるときかって?
だからナニですよ。
「とりあえずこれで無駄足を踏むことはなくなりましたね。」
「そうですね、できれば早めに連絡がほしい所ですけど大事なお話のようですから難しいでしょう。」
「わざわざリュカさんが待機しているという事はよっぽどの相手なんでしょうね。」
「精霊士が待機しているほどの相手ですから、想像もつかないような人だと思います。」
いつも受付にいる暇そうなリュカさんだが、ああ見えて数少ない精霊士の一人だ。
精霊の力を借りることができる人は非常に限られており、その力の強大さから大事な役目を担う事が多い。
人は見かけによらないっていうのはあの人にも当てはまるんだな。
精霊と契約している人がそう呼ばれるなら俺も精霊士ってことになるそうだが、残念なことに魔力があまりにも少なくて呼ぶことはできないらしい。
世界で一人しかいない二精霊の祝福を持つはずなのに・・・。
異世界物のラノベならチートと呼ばれるような能力も、俺が持てば豚に真珠というわけだ。
どうもすみません。
「これまでの流れだと関わると大変な事になるのでさっさと退散しましょう。」
「それが良いと思います。」
役職の高い人と関わって、大変じゃなかったことなんてない。
人は学習するのだよ。
と、いうことで逃げだすように魔術師ギルドを後にして向かうは輸送ギルドだ。
エミリアの言う通り魔術素ギルドからはそんなに離れていなかった。
っていうか目と鼻の先?
歩く事1分ぐらいじゃないかなぁ。
ど派手な青い建物からすぐの所に、今度はどでかい車輪が屋根に張り付いている建物があった。
間違えようがない、輸送ギルドだ。
でも、これで『うちは車輪売ってる店ですよ』とかだったらどうしよう。
って、それはないか。
「ここが輸送ギルドです。」
「見た目にわかりやすいと言いますかなんといいますか。」
「人がたくさん来ますのでわかりやすい方が都合が良いんです。」
確かにこれだけ目立てば迷子になる人もいないだろう。
冒険者ギルドは目立たなかったけど出入りする人で丸わかりだったな。
そう考えると商業ギルドは建物は大きいけど人が出入りしていなかったからわかり辛い。
もしくは、あの一件の時は俺が向かったから人が少なく感じただけだったりして。
ほら、俺と商売すると大変な目に合うじゃない?
「では行きましょうか。」
大きな扉を力強く押すと思っていたよりも簡単に扉が開いた。
中は人でごった返している。
外は静かだったけど中はすごいな。
魔術師ギルドみたいに別の場所につながっているとか?
そう思って後ろを振り返ってみると普通に外が見える。
黒い壁を通ってないしあたりまえか。
「そこのお二人さんちょいとごめんよ!」
入り口で立ち止まっていると、大きな荷物を持った人がこちらに向かってきた。
慌てて横へ避けるとそのまま外へと出て行った。
忙しそうだなぁ。
「これはイナバ様!」
慌ただしいギルド内を見渡していると奥から見覚えのある人が走ってくる。
バスタさんだ。
ただ残念なことにバタバタと忙しく動き回る人たちに邪魔されてなかなかこちらへ来ることができない。
ホビルトはどうしても体が小さいので、子供が大人に揉まれて戸惑っているようだ。
やっとの事でたどり着いた時には息が上がっている。
「大丈夫ですか?」
「すみません、お恥ずかしい所をお見せしました。普段はこんなに忙しくないんですけど・・・。」
「聖日にこれだけの人が動くなんて、お祭りでもあるんですか?」
「何を仰っているんです、これ全てイナバ様の荷を運ぶ皆さんですよ?」
ちょっとまて、これ全部が今回の催しで到着する荷物なのか?
マジで?
ちょっと多すぎませんか?
「ですが輸送は明日からでは・・・。」
「商業ギルドに掛け合った所、荷を分散させてもらう事には了承いただけました。最初は渋っておられましたが、仰っておられたようにイナバ様のお名前を出すと非常に好意的に受けいれてくださいましたよ。一体何をなさったんですか?」
「別に何も、商業ギルドには少々貸しがあるんです。」
「あのギルドに貸しを作るとはさすがイナバ様ですね。」
そうか、輸送ギルドは商業ギルドに加盟しているわけでは無いから先日の騒動については知らないんだな。
「それで、荷を分散させたのとこの件についてはどういう関係があるんでしょう。」
「すみません話が反れました。了承をいただいたのですが、さすがに中型馬車二台分を全て動かすのは難しいようで一台が限界との事でした。ですので中型一台分の荷物を今日中に徒歩で運ぶ事にしたんです。帰りは本日納品に出ている荷馬車の後ろに乗って帰ってもらえば何とかなります。」
「確かにそのやり方であれば可能かと思いますが、徒歩で運ぶとなるとかなりの人件費がかかりませんか?」
荷馬車であれば一回で済む量も、人で運ぶとなるとかなりの人数が必要になる。
必要経費も馬1台分から人数分に増加することになる。
そしてなにより人件費は高い。
「確かに経費はかさみますが、元々依頼された仕事をこなせないのはギルドの失態です。イナバ様には馬の手配もしていただいているんですから、これぐらいするのは当然ですよ。」
「とはいえ大丈夫なんですか?結構な損失になると思いますが・・・。」
「その分別の所でイナバ様には稼がせていただいておりますので大丈夫です。ギルド長の了承も頂いておりますので御安心下さい。」
そこまで言うのであればありがたく受けるとしよう。
正直追加で払えといわれて払えるお金も無いわけで・・・。
非常に助かります。
助かりますが、更なるプレッシャーを掛けられたような気がする。
これで俺がやっぱり無理でしたと言うとヤバイ事になるな。
うぅ、胃がキリキリしてきた。
「村のほうには話は通しているんですか?」
「朝一の便で手紙で連絡を入れています。先ほど戻ってきた便に了承の返事がありましたので大丈夫でしょう。」
返事があるなら大丈夫だろう。
だが、少ない人手で大量の荷物を裁いてもらうことになる。
明日といわず早いうちに人手を送る必要はあるだろう。
それも含めて冒険者ギルドには話を通した方がいいな。
「わかりました引き続きお願いします。」
「こちらこそ、冒険者ギルドへの説明と馬の件宜しくお願いします。」
「善処します。」
この二つが失敗すれば計画は瓦解してしまう。
何としてでも成功させないといけないんだが・・・何とかなるのか?
「エミリアいきましょうか。」
「はい。」
バスタさんは最善を尽くしてくれた。
ならば俺もそれに応えるしかない。
「お気をつけて。」
バスタさんに見送られて輸送ギルドを後にする。
「こちらは上手く行ったようですね。」
「そのようです。ですがますます馬の手配に失敗できなくなりました。」
「残念ながらまだリュカさんから連絡はありません。」
「ついさっきですからまだまだ時間はかかるでしょう。昼過ぎ、いえ昼の中休みまでには連絡が欲しい所です。」
「どうしても難しい場合は商店連合の名前で購入する事もできますよ?」
うーん、確かにそれは可能だろう。
最悪メルクリア氏の名前を借りれば何とかなると思う。
何とかなると思うが、それに頼るのは違う。
これは俺の催しだ。
商店連合は許可だけを与えて手助けをしないという建前になっている。
それを違えるわけには行かない。
俺は俺の責任でこの催しを成功させなければならない。
まだ最善は尽くしていない。
Why don't you do your best?
とか言われてしまいそうだ。
何故ベストを尽くさないのか。
やるだけやってダメなら仕方ない。
「それは最終手段です。そうならない為に努力を尽くすしかありません。」
「そうですよね、失礼な事言いました。」
「エミリアは私の事を思ってくれただけですから、ありがとうございます。」
「お昼を過ぎましたらこちらから連絡を入れてみます。」
「宜しくお願いします。」
次は冒険者ギルドだ。
街中にリンドンという大きな鐘の音が響き渡る。
丁度お昼か。
本番まで後1日と半分。
さぁ、ベストを尽くしに行こうじゃないか。
こんな言い方をするとカッコイイが、中にいるのは一癖も二癖もある凄腕の魔女だ。
先ほどの博士を子ども扱いする齢何歳かもわからない魔術師ギルドのトップ。
何度かお会いしているが今だに底が見えない。
そんな人が不機嫌だと聞いたら行きたくなくなるのも当たり前じゃないかなぁ。
やれやれ気が重い。
景色のいい回廊を抜けて塔内部の螺旋階段を登っていく。
終点の少し手前、見えない壁の前でエミリアが立ち止まった。
おや、先客がいるのか。
「あら、エミリアじゃない。」
「リュカさん!」
いつもはギルドの受付で張っているのに今日はこっちなんだ。。
いや、この感じだと誰か来たときに対応するように言われているのかな?
「フェリス様に何かご用?」
「お祝いのお礼と精霊結晶の経過についてお伺いに来たんですけど・・・。」
「うーん、今は誰も入れないように言われているのよね。」
ですよねー。
そうじゃないとこの人がここにいるはず無い。
さてどうしたもんか。
「そうだ、リュカさんもお祝いありがとうございました。」
「えぇ、どうしてわかったの!?」
「私が前に欲しいって言っていた石鹸がギルドからの荷物に入っていましたから。」
「絶対ばれないと思ったのになぁ。」
「ふふふ、嬉しかったです。」
なんだかんだ言いながらもこの人はエミリアの事を大事に思ってくれている。
ありがたやありがたや。
「ですが入れないとなると困りましたね。」
「そうですね、元手がないことには取引するのは難しいと思います。」
「あら、この男はまた如何わしい事でもしようとしているの?」
なにその如何わしい事って。
別に今までもそんな事なんてしてないんですけど?
「実は馬を買おうと思っているのですが、その代金を先日お渡しした精霊結晶の代金から支払うつもりだったんです。」
「そういえばそんなものもあったわねぇ。貴女達が持ってきた後はギルドもすごい盛り上がったけど、博士が持って行ってからはみんな興味も薄れちゃってすっかり忘れちゃってたわ。」
「まぁ、半分はミド博士の為にお譲りしたようなものですから。」
「二精霊の融合結晶なんて非現実的な物をもってくるからよ。」
えぇ、持ってきたこと自体が怒られるって・・・。
なんだか悪いことをしたみたいだ。
「フェリス様の手が空かないという事は今はあきらめるしかなさそうですね、後でもう一度伺おうと思います。」
「いつ終わるかはわからないけど、もし終わったら事情だけは説明しておいてあげるわ。」
「よろしくお願いします。」
「別にアンタの為なんかじゃないだからね。」
なにこのツンデレワード。
まさかこの人まで俺に・・・!?
「行きましょうかシュウイチさん。」
え、スルーですか?
「ではまた。」
何事もなかったかのように階段を降り始めるエミリアを慌てて追いかける。
さて、さっそく予定が狂っちゃったぞ。
もう一度ここに来るとして一度白鷺亭に戻るべきだろうか。
それとも別の用事を済ませるべきだろうか。
ムムム。
「馬を見に行かれるのは夕方でしたよね。」
「夕方までに伺うという約束になっています。」
「まだお昼前ですからそれまでに予定を済ませてしまいませんか?」
「ユーリ達を待つ方がいいでしょうか。」
「どうでしょう、まだお昼前ですし二人も時間がかかると思います。」
無理強いはしないように言ってあるけど交渉事には時間がかかる。
そうだな、時間がないのにわざわざ待つ理由もないか。
「ではここを出て輸送ギルドに向かいます。バスタさんに事情を説明しつつ進捗状況を確認しておきましょう。」
「輸送ギルドですね、魔術師ギルドの近くです。」
さすがエミリア頼りになります。
「あーそうだ、エミリア!」
階段を全部降りた時だった、上からリュカさんの声が聞こえてくる。
「終わったら念話で知らせてあげるから戻ってこなくていいわよ!」
「ありがとうございます!」
なるほど、それなら無駄足を踏むこともないか。
念話マジ便利。
って、それを言うのも念話でよくない?
大事な来客中にうるさいとか怒られたりしないの?
「念話で伝えてくれたらいいのに、リュカさんらしいです。」
「念話は急に聞こえてくるんですか?」
「いきなり聞こえてくる訳じゃないんです。初めに頭の中に念話が来たよってお知らせが来て、それに意識を接続したら聞こえてくる感じです。」
電話のコールみたいなものか。
そうだよな、いきなり声が聞こえてきたらびっくりするよな。
食事中とかならまだいいけど、トイレの最中とかナニしてるときとか困るじゃない。
え、何してるときかって?
だからナニですよ。
「とりあえずこれで無駄足を踏むことはなくなりましたね。」
「そうですね、できれば早めに連絡がほしい所ですけど大事なお話のようですから難しいでしょう。」
「わざわざリュカさんが待機しているという事はよっぽどの相手なんでしょうね。」
「精霊士が待機しているほどの相手ですから、想像もつかないような人だと思います。」
いつも受付にいる暇そうなリュカさんだが、ああ見えて数少ない精霊士の一人だ。
精霊の力を借りることができる人は非常に限られており、その力の強大さから大事な役目を担う事が多い。
人は見かけによらないっていうのはあの人にも当てはまるんだな。
精霊と契約している人がそう呼ばれるなら俺も精霊士ってことになるそうだが、残念なことに魔力があまりにも少なくて呼ぶことはできないらしい。
世界で一人しかいない二精霊の祝福を持つはずなのに・・・。
異世界物のラノベならチートと呼ばれるような能力も、俺が持てば豚に真珠というわけだ。
どうもすみません。
「これまでの流れだと関わると大変な事になるのでさっさと退散しましょう。」
「それが良いと思います。」
役職の高い人と関わって、大変じゃなかったことなんてない。
人は学習するのだよ。
と、いうことで逃げだすように魔術師ギルドを後にして向かうは輸送ギルドだ。
エミリアの言う通り魔術素ギルドからはそんなに離れていなかった。
っていうか目と鼻の先?
歩く事1分ぐらいじゃないかなぁ。
ど派手な青い建物からすぐの所に、今度はどでかい車輪が屋根に張り付いている建物があった。
間違えようがない、輸送ギルドだ。
でも、これで『うちは車輪売ってる店ですよ』とかだったらどうしよう。
って、それはないか。
「ここが輸送ギルドです。」
「見た目にわかりやすいと言いますかなんといいますか。」
「人がたくさん来ますのでわかりやすい方が都合が良いんです。」
確かにこれだけ目立てば迷子になる人もいないだろう。
冒険者ギルドは目立たなかったけど出入りする人で丸わかりだったな。
そう考えると商業ギルドは建物は大きいけど人が出入りしていなかったからわかり辛い。
もしくは、あの一件の時は俺が向かったから人が少なく感じただけだったりして。
ほら、俺と商売すると大変な目に合うじゃない?
「では行きましょうか。」
大きな扉を力強く押すと思っていたよりも簡単に扉が開いた。
中は人でごった返している。
外は静かだったけど中はすごいな。
魔術師ギルドみたいに別の場所につながっているとか?
そう思って後ろを振り返ってみると普通に外が見える。
黒い壁を通ってないしあたりまえか。
「そこのお二人さんちょいとごめんよ!」
入り口で立ち止まっていると、大きな荷物を持った人がこちらに向かってきた。
慌てて横へ避けるとそのまま外へと出て行った。
忙しそうだなぁ。
「これはイナバ様!」
慌ただしいギルド内を見渡していると奥から見覚えのある人が走ってくる。
バスタさんだ。
ただ残念なことにバタバタと忙しく動き回る人たちに邪魔されてなかなかこちらへ来ることができない。
ホビルトはどうしても体が小さいので、子供が大人に揉まれて戸惑っているようだ。
やっとの事でたどり着いた時には息が上がっている。
「大丈夫ですか?」
「すみません、お恥ずかしい所をお見せしました。普段はこんなに忙しくないんですけど・・・。」
「聖日にこれだけの人が動くなんて、お祭りでもあるんですか?」
「何を仰っているんです、これ全てイナバ様の荷を運ぶ皆さんですよ?」
ちょっとまて、これ全部が今回の催しで到着する荷物なのか?
マジで?
ちょっと多すぎませんか?
「ですが輸送は明日からでは・・・。」
「商業ギルドに掛け合った所、荷を分散させてもらう事には了承いただけました。最初は渋っておられましたが、仰っておられたようにイナバ様のお名前を出すと非常に好意的に受けいれてくださいましたよ。一体何をなさったんですか?」
「別に何も、商業ギルドには少々貸しがあるんです。」
「あのギルドに貸しを作るとはさすがイナバ様ですね。」
そうか、輸送ギルドは商業ギルドに加盟しているわけでは無いから先日の騒動については知らないんだな。
「それで、荷を分散させたのとこの件についてはどういう関係があるんでしょう。」
「すみません話が反れました。了承をいただいたのですが、さすがに中型馬車二台分を全て動かすのは難しいようで一台が限界との事でした。ですので中型一台分の荷物を今日中に徒歩で運ぶ事にしたんです。帰りは本日納品に出ている荷馬車の後ろに乗って帰ってもらえば何とかなります。」
「確かにそのやり方であれば可能かと思いますが、徒歩で運ぶとなるとかなりの人件費がかかりませんか?」
荷馬車であれば一回で済む量も、人で運ぶとなるとかなりの人数が必要になる。
必要経費も馬1台分から人数分に増加することになる。
そしてなにより人件費は高い。
「確かに経費はかさみますが、元々依頼された仕事をこなせないのはギルドの失態です。イナバ様には馬の手配もしていただいているんですから、これぐらいするのは当然ですよ。」
「とはいえ大丈夫なんですか?結構な損失になると思いますが・・・。」
「その分別の所でイナバ様には稼がせていただいておりますので大丈夫です。ギルド長の了承も頂いておりますので御安心下さい。」
そこまで言うのであればありがたく受けるとしよう。
正直追加で払えといわれて払えるお金も無いわけで・・・。
非常に助かります。
助かりますが、更なるプレッシャーを掛けられたような気がする。
これで俺がやっぱり無理でしたと言うとヤバイ事になるな。
うぅ、胃がキリキリしてきた。
「村のほうには話は通しているんですか?」
「朝一の便で手紙で連絡を入れています。先ほど戻ってきた便に了承の返事がありましたので大丈夫でしょう。」
返事があるなら大丈夫だろう。
だが、少ない人手で大量の荷物を裁いてもらうことになる。
明日といわず早いうちに人手を送る必要はあるだろう。
それも含めて冒険者ギルドには話を通した方がいいな。
「わかりました引き続きお願いします。」
「こちらこそ、冒険者ギルドへの説明と馬の件宜しくお願いします。」
「善処します。」
この二つが失敗すれば計画は瓦解してしまう。
何としてでも成功させないといけないんだが・・・何とかなるのか?
「エミリアいきましょうか。」
「はい。」
バスタさんは最善を尽くしてくれた。
ならば俺もそれに応えるしかない。
「お気をつけて。」
バスタさんに見送られて輸送ギルドを後にする。
「こちらは上手く行ったようですね。」
「そのようです。ですがますます馬の手配に失敗できなくなりました。」
「残念ながらまだリュカさんから連絡はありません。」
「ついさっきですからまだまだ時間はかかるでしょう。昼過ぎ、いえ昼の中休みまでには連絡が欲しい所です。」
「どうしても難しい場合は商店連合の名前で購入する事もできますよ?」
うーん、確かにそれは可能だろう。
最悪メルクリア氏の名前を借りれば何とかなると思う。
何とかなると思うが、それに頼るのは違う。
これは俺の催しだ。
商店連合は許可だけを与えて手助けをしないという建前になっている。
それを違えるわけには行かない。
俺は俺の責任でこの催しを成功させなければならない。
まだ最善は尽くしていない。
Why don't you do your best?
とか言われてしまいそうだ。
何故ベストを尽くさないのか。
やるだけやってダメなら仕方ない。
「それは最終手段です。そうならない為に努力を尽くすしかありません。」
「そうですよね、失礼な事言いました。」
「エミリアは私の事を思ってくれただけですから、ありがとうございます。」
「お昼を過ぎましたらこちらから連絡を入れてみます。」
「宜しくお願いします。」
次は冒険者ギルドだ。
街中にリンドンという大きな鐘の音が響き渡る。
丁度お昼か。
本番まで後1日と半分。
さぁ、ベストを尽くしに行こうじゃないか。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
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