193 / 520
第七・五章
揉むのか揉まないのかそこが問題だ
しおりを挟む
頭が痛い。
吐き気がする。
全身が重い。
熱は・・・無さそうだ。
えっと、今は何時だ?
重たい瞼を何とかこじ開けると凶悪なほどの陽の光が目に飛び込んできた。
目が~目が~。
この角度で俺の目を焼いてくると言う事は日の出すぐだろう。
という事はもう少し寝れる。
いや、これ以上寝るのはムリだ。
吐き気がヤバイ。
ヤバイが喉が渇いて仕方が無い。
うーむ、どうするべきか。
とりあえず体を起こさなければ話にならないな。
なけなしの気合で上半身を起こし、大きくため息をつく。
あぁ、これで体力ゲージはエンプティーだ。
もう一歩も動けません。
そもそもなんでこんなにしんどいんだっけ。
ボーっとする頭で昨日の記憶を呼び起こす。
確か昨日は会議の後ウェリス達に付き合って、メルクリア様が差し入れに持ってきたお酒を皆で飲んだんだよな。
村長の家でドンちゃん騒ぎして、ウェリスがセレンさん迎えに行くとか言うからドリスさんの家で飲みなおして、そして・・・。
そしてどうしたんだ?
改めて周りを確認してみる。
自分の部屋で間違いない。
と、言う事はドリスさんの家からここに帰ってきたわけだ。
でもどうやって?
思い出せない。
というか、思い出したくても頭が痛くてそれ所じゃない。
まずはこの吐き気と頭痛を何とかしなければ。
確か戸棚に吐き気止めの薬があったはずだからそれを使わせてもらう。
ふらつく足で何とか立ち上がり、静かにドアを開ける。
廊下に人影なし、左右のドアが開く感じも無い。
まだ寝てるよな。
足音を立てないようにゆっくりと廊下を抜け、階段を下りていく。
抜き足差し足忍び足。
えっと、戸棚の何処だったかな。
まるで盗人のように音を立てないように戸棚を漁る。
一番上、なーし。
真ん中、なーし。
一番下、あった!
吐き気止めの丸薬、名前は書いてないけどこれで間違いない。
さすがに毒になる物をこんな所に置く事は無いだろう。
いくら二日酔いが酷いからってこれを見間違える事は無い。
大丈夫だ。
たぶん。
大きさはチョコボールぐらい。
これを水無しで飲むのはさすがにムリだ。
顔洗うついでに井戸で飲むか。
そろりそろりと勝手口を出て井戸へ向かう。
早朝なのもあって風はまだ冷たい。
空は抜けるように青い。
今日も良い天気だなぁ。
太陽が目にしみるぜ。
これからどんどん暑くなるんだろうな。
そして忙しい1日が始まるんだ。
「おはようございますご主人様。」
「あぁ、おはようユーリ。」
ユーリは相変らず早起きだなぁ。
そんなことよりはやく薬を飲まないと。
「薬ですか?昨夜は随分と飲んでおられましたね。」
ん、まてよ?
ユーリ?
「ず、随分と早起きですね。」
「最近は冒険者の方がたくさんこられていますのでメンテナンスに手を抜けません。早急に階層を増やさなければ魔物枯れの可能性も出てきます。」
「それに関しては催し終了後早急に行う予定です。当日の会場設営は何とかなりそうですか?」
「配置図は出来上がっておりますので一晩あれば問題なく完了できるでしょう。」
「前日夜は手伝えないかもしれません、その場合はお願いします。」
「こちらに関してはお任せ下さい。それより、薬を飲まなくて大丈夫ですか?」
おっとそうだった。
薬を口に含んでから井戸水を流し込む。
よく冷えた水は喉を通るのが良くわかるなぁ。
水と共に薬が胃に落ちた途端に吐き気が引いていくのがわかった。
即効性ありすぎだろ。
キャベ○ンもびっくりの効き目だ。
「はぁ、スッキリしました。」
「泥酔されたご主人様を見るのは初めてでした。」
「正直ここに帰ってきた記憶が無いんですけど、どうやって帰ってきたんですか?」
「昨夜はウェリス様に引きずられるような形で家に戻ってこられました。」
なるほど、引きずってね。
連れてきてもらっただけでもありがたいし、後でお礼を言っておこう。
「その後は?」
「玄関先で預かりニケ様とリア奥様と共に三人でお部屋に運ばせていただきました。酔っていて覚えておられないかとは思いますが、順番に胸を揉んでいくのはどうかと思います。」
「どういうことですか!」
何それ、っていうかなんて事してくれてんの自分!
そして何でそれを覚えてないの!
俺が、三人の胸を順に揉む?
そんなうらやまけしからん事を覚えていないなんて、イナバシュウイチ一生の不覚!
「お部屋にお連れした際、私達を順番に抱きしめられた後胸を揉んでおられました。その後は満足したようにお眠りになられましたよ。」
「そんなことしたんですか・・・。」
「リア奥様は奥様ですし、私やニケ様は気にしませんので大丈夫ですが、外で飲まれるときは注意されるのがよろしいかと思います。」
「くれぐれも気をつけます。」
「それで、誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
そんなの覚えていないよ!
っていうか覚えていてもいえないんですけど!
「申し訳ありませんがまったく覚えておりません。」
「そうですか、それは残念です。なんでしたらもう一度お揉みになりますか?」
じゃあお願いします。
なんていえるわけ無いだろう。
もし言おうものなら間違いなく悪い事が起きる。
賭けても良い。
揉んだ瞬間にエミリアが出てくるとか絶対おきる。
だから俺は揉まない。
揉まないからな!
「丁重に辞退させていただきます。」
「もし揉みたくなった場合は遠慮なく仰ってくださいね。」
いや、揉まないから。
例え揉みたくなっても揉まないから。
そんな葛藤をしていた時だった。
「声が聞こえたと思ったらシュウイチさんとユーリだったんですね。」
勝手口が開きエミリアが出てくる。
ほら、やっぱり出てきた!
危なかった。
もしあそこで誘惑に負けていたら今この場所に立っていることは無かっただろう。
セーフ。
俺の第六感GJ!
「おはようございますリア奥様。」
「お、おはようエミリア。」
覚えていないのだが、なんとなく恥ずかしくてどもってしまった。
俺は悪くねぇ。
悪くねぇからな!
「おはようございますシュウイチさん、お体は大丈夫ですか?」
「先ほど吐き気止めを飲みましたので大丈夫です。頭が痛いのは自業自得ですから。」
「頭痛薬お持ちしましょうか?」
「開店まで残るようでしたらお願いします。」
あえて昨日何があったか言わないでくれるのがエミリアらしい。
ほら、この前揉んだし、初めてじゃないし、酔ってたし、ノーカンということでここはひとつお願いします裁判長。
「わかりましたご飯は食べられそうですか?」
「軽いものなら大丈夫かと。」
「ではあっさりとしたスープにしますね。」
「お手伝いいたしますリア奥様。」
「じゃあユーリは主食をお願いします。」
今日の朝食当番はエミリアだったのか。
ご飯は任せて、今のうちに顔洗ってスッキリしよう。
「そうだ、シュウイチさん。」
勝手口から台所に戻ろうとしていたエミリアがこちらを振り返った。
「どうかしましたか?」
「誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
ここで聞いてきますか、しかも直球ストレートで!
エミリアらしいとか思ったのは俺の勘違いだったということか・・・。
「酔って覚えていないとはいえ昨夜は大変失礼な事をしてしまいました、すみません!」
「シュウイチさんになら構いません、そうですか覚えてないんですね・・・。」
「以後十分に気をつけます。」
「もう外で飲みすぎちゃだめですよ。」
「そうします。」
「えっと、その、もう一度揉みます?」
はい?
今なんていいました?
もう一度揉みます?
あ、聞こえてるわ。
じゃなくて、エミリアがそんなストレートに聞いてくるなんて、一体何事?
これ後でドッキリでした!
とかの流れじゃないよね。
「・・きょ、今日は辞めておきます。」
「そうですか。」
何でそんな残念そうな顔するんだよ!
まずいでしょ、まだ太陽登ったばかりだよ?
いくらなんでも早すぎでしょ。
「奥様でもダメでしたか。」
「もう、ユーリったらへんな事を言わせるんですから。」
「私が無理でも奥様ならと思いましたが、やはりお酒の力が無ければ難しいようです。」
「そこまでして私に何をさせたいんですか?」
「昨夜はお酒の力を借りておられましたが、素面の場合何処まですればよいのかと疑問に思いまして。」
「それでさっきのような事をしたわけですね。」
「その通りです。」
自分の好奇心を満たす為に俺を使うとは良い度胸だ。
「なんでしたらお仕置きと称してお揉みいただいても構わないんですが。」
「しませんよ!」
ユーリってこんなキャラだっけ?
最近どんどんお色気路線に入っている気がするんですが大丈夫でしょうか。
終いに俺襲われたりしない?
大丈夫?
「ユーリもシュウイチさんを困らせないであげてください。昨日も日ごろの疲れが出て泥酔してしまっただけなんですから。」
「確かにお疲れでしたから仕方ないのかもしれません。ご主人様朝から失礼致しました。」
「いえ、納得していただけたなら大丈夫です。」
何がどう大丈夫かはわからないが、これ以上話を引きずるのはまずい。
この辺で終わらせておこう。
そうしよう。
「おはようございます、イナバ様、エミリア様、ユーリ様。」
「あ、おはようございますニケさん。」
「ニケ様おはようございます。」
最後の住人ニケさんの登場だ。
うーむ、この胸を俺が揉んだのか。
全く覚えてない。
残念だ。
「おはようございますニケさん。」
「イナバ様お加減いかがですか?」
「おかげ様で薬も飲んで落ち着きました。」
「それは良かったです。」
さすがニケさん、昨日の件を華麗にスルーしてくれるようだ。
「ニケさんお手すきになられたら食器の準備をしてもらっていいですか?」
「わかりました、すぐにお手伝いします。」
パタパタと小走りで井戸へと向かうニケさん。
そうだよな、顔洗ってスッキリしないと1日始まらないよな。
「そうだ、イナバ様。」
「どうしました?」
井戸に向かっていたニケさんがクルリと反転しこちらを向く。
「昨夜は誰が一番気持ちよかったですか?」
前言撤回、この人絶対ワザと言ってる。
「申し訳ありません、全く覚えていないんです。」
「そうでしたか。では、もう一度確かめられます?」
「確かめません。」
二度ある事は三度ある。
ならば三度目の正直で揉んじゃえばいいじゃないとか思ったりしてないからな!
三度目も華麗にスルーしてみせる。
ニケさんのお誘いを笑顔でお断りして家に戻ると、それを見ていた二人がこちらを見てニヤっと笑った。
「と、言う事ですのでこれ以降この話題はおしまいという事でお願いします。」
「ふふふ、わかりました。」
「かしこまりましたご主人様。」
何か言いたそうな二人に先手を打ちいつもの席にドカッと座る。
まったく、三人とも朝から飛ばしすぎだよ。
夜ならほら、言い訳も聞くけどさぁ。
「ならば夜にお誘いすればよろしいですか?」
「ユーリ!」
駄々漏れしている心の声にいち早く反応するのはやめていただきたい。
ってかこれって漏れてるの?
俺の心の声に反応するのってユーリばっかりじゃない?
もしかして彼が俺の魂と同調したから、その魂と同化したユーリにも心の声が伝わっちゃうとか?
まさかそんなこと無いよね。
「さぁ、それはどうでしょう。」
「今白状すれば先ほどの件は忘れましょう。さぁ、真実を話してもらいましょうか。」
「私には何のことかわかりません、あらぬ疑いをかけるのはお辞めいただけませんか?」
確証は無い。
確証は無いが、そうでなければ説明できない部分が多すぎる。
だけどユーリはそれを明かすことは無いだろう。
「わからないというのであればそういうことにしておきましょう。」
わからないのであれば先延ばしにするしかない。
これからは気をつけないといけないなぁ。
「エミリア様お待たせしました。」
「急がせてすみません、こっちはもうすぐ終わりますので。」
「ではお茶も入れておきますね。」
顔を洗ってきたニケさんが合流しいつもの朝の時間が始まる。
なんだか朝から大変だったけど、それ以上に今日も大変なんだろうなぁ。
でも残り時間は今日と明日の聖日、そして聖日明けの明後日だけ。
この三日で全てを終わらせないといけないんだからゆっくりしている時間なんて無い。
さぁ、今日も1日頑張りましょうかね!
本番まで後三日。
忙しい一日の始まりだ。
吐き気がする。
全身が重い。
熱は・・・無さそうだ。
えっと、今は何時だ?
重たい瞼を何とかこじ開けると凶悪なほどの陽の光が目に飛び込んできた。
目が~目が~。
この角度で俺の目を焼いてくると言う事は日の出すぐだろう。
という事はもう少し寝れる。
いや、これ以上寝るのはムリだ。
吐き気がヤバイ。
ヤバイが喉が渇いて仕方が無い。
うーむ、どうするべきか。
とりあえず体を起こさなければ話にならないな。
なけなしの気合で上半身を起こし、大きくため息をつく。
あぁ、これで体力ゲージはエンプティーだ。
もう一歩も動けません。
そもそもなんでこんなにしんどいんだっけ。
ボーっとする頭で昨日の記憶を呼び起こす。
確か昨日は会議の後ウェリス達に付き合って、メルクリア様が差し入れに持ってきたお酒を皆で飲んだんだよな。
村長の家でドンちゃん騒ぎして、ウェリスがセレンさん迎えに行くとか言うからドリスさんの家で飲みなおして、そして・・・。
そしてどうしたんだ?
改めて周りを確認してみる。
自分の部屋で間違いない。
と、言う事はドリスさんの家からここに帰ってきたわけだ。
でもどうやって?
思い出せない。
というか、思い出したくても頭が痛くてそれ所じゃない。
まずはこの吐き気と頭痛を何とかしなければ。
確か戸棚に吐き気止めの薬があったはずだからそれを使わせてもらう。
ふらつく足で何とか立ち上がり、静かにドアを開ける。
廊下に人影なし、左右のドアが開く感じも無い。
まだ寝てるよな。
足音を立てないようにゆっくりと廊下を抜け、階段を下りていく。
抜き足差し足忍び足。
えっと、戸棚の何処だったかな。
まるで盗人のように音を立てないように戸棚を漁る。
一番上、なーし。
真ん中、なーし。
一番下、あった!
吐き気止めの丸薬、名前は書いてないけどこれで間違いない。
さすがに毒になる物をこんな所に置く事は無いだろう。
いくら二日酔いが酷いからってこれを見間違える事は無い。
大丈夫だ。
たぶん。
大きさはチョコボールぐらい。
これを水無しで飲むのはさすがにムリだ。
顔洗うついでに井戸で飲むか。
そろりそろりと勝手口を出て井戸へ向かう。
早朝なのもあって風はまだ冷たい。
空は抜けるように青い。
今日も良い天気だなぁ。
太陽が目にしみるぜ。
これからどんどん暑くなるんだろうな。
そして忙しい1日が始まるんだ。
「おはようございますご主人様。」
「あぁ、おはようユーリ。」
ユーリは相変らず早起きだなぁ。
そんなことよりはやく薬を飲まないと。
「薬ですか?昨夜は随分と飲んでおられましたね。」
ん、まてよ?
ユーリ?
「ず、随分と早起きですね。」
「最近は冒険者の方がたくさんこられていますのでメンテナンスに手を抜けません。早急に階層を増やさなければ魔物枯れの可能性も出てきます。」
「それに関しては催し終了後早急に行う予定です。当日の会場設営は何とかなりそうですか?」
「配置図は出来上がっておりますので一晩あれば問題なく完了できるでしょう。」
「前日夜は手伝えないかもしれません、その場合はお願いします。」
「こちらに関してはお任せ下さい。それより、薬を飲まなくて大丈夫ですか?」
おっとそうだった。
薬を口に含んでから井戸水を流し込む。
よく冷えた水は喉を通るのが良くわかるなぁ。
水と共に薬が胃に落ちた途端に吐き気が引いていくのがわかった。
即効性ありすぎだろ。
キャベ○ンもびっくりの効き目だ。
「はぁ、スッキリしました。」
「泥酔されたご主人様を見るのは初めてでした。」
「正直ここに帰ってきた記憶が無いんですけど、どうやって帰ってきたんですか?」
「昨夜はウェリス様に引きずられるような形で家に戻ってこられました。」
なるほど、引きずってね。
連れてきてもらっただけでもありがたいし、後でお礼を言っておこう。
「その後は?」
「玄関先で預かりニケ様とリア奥様と共に三人でお部屋に運ばせていただきました。酔っていて覚えておられないかとは思いますが、順番に胸を揉んでいくのはどうかと思います。」
「どういうことですか!」
何それ、っていうかなんて事してくれてんの自分!
そして何でそれを覚えてないの!
俺が、三人の胸を順に揉む?
そんなうらやまけしからん事を覚えていないなんて、イナバシュウイチ一生の不覚!
「お部屋にお連れした際、私達を順番に抱きしめられた後胸を揉んでおられました。その後は満足したようにお眠りになられましたよ。」
「そんなことしたんですか・・・。」
「リア奥様は奥様ですし、私やニケ様は気にしませんので大丈夫ですが、外で飲まれるときは注意されるのがよろしいかと思います。」
「くれぐれも気をつけます。」
「それで、誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
そんなの覚えていないよ!
っていうか覚えていてもいえないんですけど!
「申し訳ありませんがまったく覚えておりません。」
「そうですか、それは残念です。なんでしたらもう一度お揉みになりますか?」
じゃあお願いします。
なんていえるわけ無いだろう。
もし言おうものなら間違いなく悪い事が起きる。
賭けても良い。
揉んだ瞬間にエミリアが出てくるとか絶対おきる。
だから俺は揉まない。
揉まないからな!
「丁重に辞退させていただきます。」
「もし揉みたくなった場合は遠慮なく仰ってくださいね。」
いや、揉まないから。
例え揉みたくなっても揉まないから。
そんな葛藤をしていた時だった。
「声が聞こえたと思ったらシュウイチさんとユーリだったんですね。」
勝手口が開きエミリアが出てくる。
ほら、やっぱり出てきた!
危なかった。
もしあそこで誘惑に負けていたら今この場所に立っていることは無かっただろう。
セーフ。
俺の第六感GJ!
「おはようございますリア奥様。」
「お、おはようエミリア。」
覚えていないのだが、なんとなく恥ずかしくてどもってしまった。
俺は悪くねぇ。
悪くねぇからな!
「おはようございますシュウイチさん、お体は大丈夫ですか?」
「先ほど吐き気止めを飲みましたので大丈夫です。頭が痛いのは自業自得ですから。」
「頭痛薬お持ちしましょうか?」
「開店まで残るようでしたらお願いします。」
あえて昨日何があったか言わないでくれるのがエミリアらしい。
ほら、この前揉んだし、初めてじゃないし、酔ってたし、ノーカンということでここはひとつお願いします裁判長。
「わかりましたご飯は食べられそうですか?」
「軽いものなら大丈夫かと。」
「ではあっさりとしたスープにしますね。」
「お手伝いいたしますリア奥様。」
「じゃあユーリは主食をお願いします。」
今日の朝食当番はエミリアだったのか。
ご飯は任せて、今のうちに顔洗ってスッキリしよう。
「そうだ、シュウイチさん。」
勝手口から台所に戻ろうとしていたエミリアがこちらを振り返った。
「どうかしましたか?」
「誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
ここで聞いてきますか、しかも直球ストレートで!
エミリアらしいとか思ったのは俺の勘違いだったということか・・・。
「酔って覚えていないとはいえ昨夜は大変失礼な事をしてしまいました、すみません!」
「シュウイチさんになら構いません、そうですか覚えてないんですね・・・。」
「以後十分に気をつけます。」
「もう外で飲みすぎちゃだめですよ。」
「そうします。」
「えっと、その、もう一度揉みます?」
はい?
今なんていいました?
もう一度揉みます?
あ、聞こえてるわ。
じゃなくて、エミリアがそんなストレートに聞いてくるなんて、一体何事?
これ後でドッキリでした!
とかの流れじゃないよね。
「・・きょ、今日は辞めておきます。」
「そうですか。」
何でそんな残念そうな顔するんだよ!
まずいでしょ、まだ太陽登ったばかりだよ?
いくらなんでも早すぎでしょ。
「奥様でもダメでしたか。」
「もう、ユーリったらへんな事を言わせるんですから。」
「私が無理でも奥様ならと思いましたが、やはりお酒の力が無ければ難しいようです。」
「そこまでして私に何をさせたいんですか?」
「昨夜はお酒の力を借りておられましたが、素面の場合何処まですればよいのかと疑問に思いまして。」
「それでさっきのような事をしたわけですね。」
「その通りです。」
自分の好奇心を満たす為に俺を使うとは良い度胸だ。
「なんでしたらお仕置きと称してお揉みいただいても構わないんですが。」
「しませんよ!」
ユーリってこんなキャラだっけ?
最近どんどんお色気路線に入っている気がするんですが大丈夫でしょうか。
終いに俺襲われたりしない?
大丈夫?
「ユーリもシュウイチさんを困らせないであげてください。昨日も日ごろの疲れが出て泥酔してしまっただけなんですから。」
「確かにお疲れでしたから仕方ないのかもしれません。ご主人様朝から失礼致しました。」
「いえ、納得していただけたなら大丈夫です。」
何がどう大丈夫かはわからないが、これ以上話を引きずるのはまずい。
この辺で終わらせておこう。
そうしよう。
「おはようございます、イナバ様、エミリア様、ユーリ様。」
「あ、おはようございますニケさん。」
「ニケ様おはようございます。」
最後の住人ニケさんの登場だ。
うーむ、この胸を俺が揉んだのか。
全く覚えてない。
残念だ。
「おはようございますニケさん。」
「イナバ様お加減いかがですか?」
「おかげ様で薬も飲んで落ち着きました。」
「それは良かったです。」
さすがニケさん、昨日の件を華麗にスルーしてくれるようだ。
「ニケさんお手すきになられたら食器の準備をしてもらっていいですか?」
「わかりました、すぐにお手伝いします。」
パタパタと小走りで井戸へと向かうニケさん。
そうだよな、顔洗ってスッキリしないと1日始まらないよな。
「そうだ、イナバ様。」
「どうしました?」
井戸に向かっていたニケさんがクルリと反転しこちらを向く。
「昨夜は誰が一番気持ちよかったですか?」
前言撤回、この人絶対ワザと言ってる。
「申し訳ありません、全く覚えていないんです。」
「そうでしたか。では、もう一度確かめられます?」
「確かめません。」
二度ある事は三度ある。
ならば三度目の正直で揉んじゃえばいいじゃないとか思ったりしてないからな!
三度目も華麗にスルーしてみせる。
ニケさんのお誘いを笑顔でお断りして家に戻ると、それを見ていた二人がこちらを見てニヤっと笑った。
「と、言う事ですのでこれ以降この話題はおしまいという事でお願いします。」
「ふふふ、わかりました。」
「かしこまりましたご主人様。」
何か言いたそうな二人に先手を打ちいつもの席にドカッと座る。
まったく、三人とも朝から飛ばしすぎだよ。
夜ならほら、言い訳も聞くけどさぁ。
「ならば夜にお誘いすればよろしいですか?」
「ユーリ!」
駄々漏れしている心の声にいち早く反応するのはやめていただきたい。
ってかこれって漏れてるの?
俺の心の声に反応するのってユーリばっかりじゃない?
もしかして彼が俺の魂と同調したから、その魂と同化したユーリにも心の声が伝わっちゃうとか?
まさかそんなこと無いよね。
「さぁ、それはどうでしょう。」
「今白状すれば先ほどの件は忘れましょう。さぁ、真実を話してもらいましょうか。」
「私には何のことかわかりません、あらぬ疑いをかけるのはお辞めいただけませんか?」
確証は無い。
確証は無いが、そうでなければ説明できない部分が多すぎる。
だけどユーリはそれを明かすことは無いだろう。
「わからないというのであればそういうことにしておきましょう。」
わからないのであれば先延ばしにするしかない。
これからは気をつけないといけないなぁ。
「エミリア様お待たせしました。」
「急がせてすみません、こっちはもうすぐ終わりますので。」
「ではお茶も入れておきますね。」
顔を洗ってきたニケさんが合流しいつもの朝の時間が始まる。
なんだか朝から大変だったけど、それ以上に今日も大変なんだろうなぁ。
でも残り時間は今日と明日の聖日、そして聖日明けの明後日だけ。
この三日で全てを終わらせないといけないんだからゆっくりしている時間なんて無い。
さぁ、今日も1日頑張りましょうかね!
本番まで後三日。
忙しい一日の始まりだ。
11
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる