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第九章
欲しいものはなんですか?
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往来のど真ん中で話しをするわけにはいかないので路地に移動する。
宿に戻る所なので一緒に来るか聞いたが、バロン自身に時間がないようだ。
「それで、原因を解明できないという事でしたがそれはどういうことなのでしょうか。」
「言葉通りだね。地元に戻って色々調べてみたけれど集団暴走が何故起きるのか、どういう原理なのかを突き止めた人はいないんだ。とある魔族が国一つを使って実験した記録を読んでみたけれど、魔物を操っても攻撃しても本家ほどの現象は起こせなかったらしい。ところが、ある日突然何もないところから連鎖的に暴走が始まり、気付いた時には1万を超える魔物が国を飲み込んだとか。管理しつくされた状況でそれが起きたとなると君たちが言う神様とか何かが引き起こしている、若しくはこの世界の気象のように森羅万象の中に組み込まれている。そんな感じなのかもしれないね。」
ふむ。
つまりこの世界そのものの根幹システムに集団暴走が仕組まれている。
そういうことになるのだろうか。
人が増えすぎたり文明が栄えたりすると神様がそれを滅ぼす為に攻めてくる、なんて設定は良くあるんだけどそれに近いのかな?
「つまり天候を制御できないように集団暴走も制御できるような事象ではない。そういうことですね?」
「相変らずイナバ君は頭の回転が速くて助かるねぇ。」
「魔物の中に暴走の因子があって、それが何かの作用で動き出すとかそういうのは考えられませんか?」
「魔物全てにかい?」
「全ての魔物が等しく暴走するのであればそう考えるのが妥当だと思います。」
この前のは猪系の魔物だったけれど、ドラゴンもいたし単一の魔物だけというのも考えにくい。
発生した地域に因子を刺激する何かがあり、それが伝染するように魔物に波及していくとかどうだろうか。
知らんけど。
「じゃあ何故人間や魔族は暴走しないといえるのかな。」
「魔物は森羅万象の中に組み込まれていて、人間や魔族には組み込まれていないとか?」
「確かにそう考えるのが簡単だけど、それでは比較にならないなぁ。」
「それではこういうのはどうでしょう。魔物のように大人数が正気を失うわけでは無いので気付かないだけで、実は人間も魔族も暴走している。」
「でもそれじゃあ何時暴走したのか把握できないね。」
「今まで平和を謳歌していた国が急に崩壊したとか、魔族が人間を殺しだしたとか、領土を拡張しだしたとか、普通に考えたら起こる筈がないのに突然今までと違う事をしだしたのを暴走と考えればどうです?」
「ふむ、確かにそれは暴走といえるかもしれない。過去に不可解な動きをした例は確かにあるし、それが暴走のせいだと考えれば魔物や人間にも暴走は起きているという証明になる。」
なんだかバロンが真面目な顔をしてブツブツ言い出したぞ。
「シュウイチさん楽しそうですね。」
「ご主人様の話しについていける方はあまりおりませんから。」
「難しすぎてよく分かりませんが、悪い方でないのなら構わないと思います。」
「そうだな、魔族と聞いて一瞬身構えたが別にこの人が何か悪事を働いたわけではない。先入観は真実を曇らせてしまうとシュウイチに教えてもらったはずなのにな。」
皆さん好き勝手言ってますねぇ。
確かにこんなめんどくさいこと考えるの好きだけどさぁ・・・。
みんなには秘密にしてるけど、俺の両手に穴を開けたのは彼だよ?
それを知ってまだ悪い人じゃないと言えるのかな?
「ご主人様が悪い顔をしております。」
「またよからぬ事を考えているのだろう、疲れているせいだ許してやってくれ。」
「私達お邪魔じゃないでしょうか、お知り合いならゆっくりお話したほうが・・・。」
いや、俺も疲れているので帰らせてください。
お願いします。
「素晴らしい、素晴らしいよイナバ君!やはり君は私を満足させるのに足る人物のようだ!あぁ、君の知識の泉を覗く事ができたら私はどれだけ幸せな時間を過ごせるのだろう。無限に生きる事の苦痛も君の知識があれば有意義なものに変えられるというのに、残念だ本当に残念だ。」
バロンがすごいテンションで俺の顔を見る。
そのテンションはマジで怖い。
勘弁してください。
「何度も言いますが私の頭の中を覗く事は許しませんよ。」
「君が死ぬ時もかい?」
「私が死ぬ時?」
「あぁ、君が死ぬ時に知識を抜き取るぐらいなら構わないだろ?」
「いや、構わないだろといわれましても。」
それは考えた事なかったな。
確かに今はイヤだけど、死ぬ瞬間なら別に抜かれても構わないんじゃないか?
「それはシュウイチさんの頭を持って行くということですか?」
「人間の生首を集める趣味は無いよ。ただちょっと頭の中に入り込んで知識の泉から情報をいただくだけだ。」
「私は反対だ、シュウイチは最後の瞬間までシュウイチであるべきだと思う。」
「良くわかりませんが、私もイナバ様の身体を触られるのはイヤです。」
「では、死ぬ前にご主人様の記憶の複製を準備しておくというのはどうでしょう。」
「「「「複製?」」」」
はい、ユーリさんが不思議な事を言い出しましたよ。
全員の頭の上にクエスチョンマークが出ているのが見える。
もちろんバロンの上にもだ。
「私の記憶の中には大切な人の記憶が受け継がれています。その方法を応用すればご主人様の記憶を複製する事が出来ると思うのですが。」
「あぁ!あのオーブですね。」
「あの方に出来たのであればご主人様にも出来ると思います。」
「別にどんな方法でも構わないよ、君の知識が受け取れるのなら何も文句は無い。」
バロンもそれで良いようだ。
「良くわからないがシュウイチの身体が無事なら私はそれで構わない。」
「でも複製はずっと先にしてください、その複製してしまったらすぐ死んでしまう気がして・・・。」
エミリアが悲しそうな顔をする。
大丈夫、俺だってそんなにすぐ死ぬ気は無いよ。
「それでだ、もう一つ聞きたい事があるんだけど構わないかな?」
「どうしました?」
「随分と物騒な物を肩に刺しているようだけどそれはイナバ君の趣味なのかい?もちろんそうだというのなら止めはしないけど、その状態はあまり良いとは思えないねぇ。」
「分かるんですか?」
「君の肩に刺さっているのはかなり凶悪な負の魔力だ。そのまま放っておけば右腕だけでなく他の部分の機能も停止するよ。」
マジか。
右腕が動かないだけなら正直そのままでも良いかなって思っていたけど、他の部分まで動かなくなるのは困る。
「精霊様にも聞いてみましたが、触ることは出来ないそうです。」
「そうだろうね、それは彼女達と真逆の力で構成されている。それに触れれば身体が冒され魔力が反転してしまうだろう。そうなれば精霊として存在できずその土地を穢すだけの悪霊と成り果てる。」
「このまま放っておくとイナバ様の症状はもっと悪くなるんですか?」
「その通りだよ、今は右腕ですんでいるがそのまま範囲が広がればいずれ心臓を止めてしまう。そうなれば命は終わりだ。」
「そんな・・・!」
「どうにかならないのか?」
「どうにかしたいのですが精霊様に出来ないとなれば他に方法がありません。」
「折角事件が解決したのにシュウイチさんだけそのままだなんて・・・酷すぎます。」
無事に解決して万々歳とは残念ながら行かないようだ。
俺だけ貧乏くじを引いた感じになるが、それもまぁ仕方ない。
「私はシルビアの命を救えただけでも十分です。」
「だがシュウイチが死ねば私は一生悔やむだろう。ならば私もお前と一緒だ、シュウイチが何と言おうと私はそうするぞ。」
「イナバ様に救っていただいた命です、私の命を差し出せるのならばどうぞ持って行って下さい。」
シルビアとニケさんが物騒な事を言い出した。
このままではエミリアも物騒な事を言いかねない。
せっかく全部終わったのになんでこんなに悲しい顔をしなければならないのだろうか。
「まぁまぁ君達落ち着きたまえ。」
そんな俺達をバロンが落ち着くように諭す。
魔族に心配されるってなんだか不思議な感じだ。
「落ち着いていられるか!」
「別に方法がないわけじゃない、ようはその肩に刺さっているのを抜いてしまえば良いだけの話しだ。」
「ですがそれを出来る人がいないんです。」
「いない?そんな事は無いぞ、君の目の前にいるじゃないか。」
俺の目の前?
俺の前にいるのはエミリアとシルビア様とユーリとニケさんだけど・・・。
この中で魔術的な心得があるのはエミリアだけだ。
つまりエミリアならできる・・・?
「何故そこで君は他の場所を見るのかな。私がいるじゃないか。」
「バロンが?」
「集団暴走を解明できなかったお詫びも兼ねてそれを抜いてあげよう。それで、許してくれないか?」
「許すも何も出来るなら是非お願いします!」
まさかこんな所で救いの手が出るとは思わなかった。
貴方が神か!
違った、魔族か!
「それじゃあ決まりだ、ちょっとそこにしゃがんでくれるかい?」
バロンの指示に従って片膝をつくようにしてその場にしゃがむ。
「そうそう、少し痛いと思うけどあの痛みに耐えた君なら大丈夫だよね?」
「え?」
詳しく聞く前にバロンの手が俺の肩に伸びたかと思うと、全身を激痛が走り抜けた。
「イッタァァァ!!!」
突然の事に声を我慢する暇もなかった。
叫び声が細い路地に響き渡る。
だがそんな事もお構い無しに、バロンは俺の肩に刺さっている何かを引きずり出そうとしていた。
身体の中を良くわからない何かが這いずり回り抜けていく感覚。
ズルズルとかグイグイとかとにかく痛みと共に良くないと分かる何かが、俺の身体の奥から肩を通じて外に出て行くのを感じる。
俺はぐっと唇を噛み痛みにひたすら耐える。
シルビアとエミリアが俺の左肩を抑えて暴れないようにしてくれた。
肩から血が吹き出す。
服が血に染まるがそんな事今はどうでもいい。
時間で言えば一分もかかってないんだろうが、俺には永遠にも思える時間だった。
最後にズルっと大きな何かが抜ける。
その途端にピタリと痛みがなくなった。
「これで終わりだ。中々の大物だったようだね。」
バロンは取り出した何かを満足そうな顔で見つめていた。
そこに何があるのかわからないが、なんとなくよくないものだという事は分かる。
それをどうするのだろうか。
不思議に思っていた次の瞬間。
バロンはその何かを頭上高く持ち上げると、踊り食いをするかのように顔を上に向け一気に喉の奥に押し込んだ。
嘘だろ、喰ったのか!?
どう考えても体に悪い物だろ、それ。
お腹壊したりしないのか?
「イナバ君のだからかな中々の味だね。」
「え、本当に食べたんですか?」
「精霊には悪いものでも魔族にとっては好物だ。美味しかったよ。」
「美味しいものなんですね・・・。」
信じられない。
その辺に棄てるのかと思っていたのにまさか食べるなんて。
「さて、悪い物はこれでなくなったはずだ。腕を動かしてごらん。」
バロンに言われゆっくりと右腕に力をこめる。
さっきまでどれだけ力を入れても動かなかった右腕が、いとも容易く持ち上がった。
ゆっくりと頭の上まで持ち上げる。
次は肩を支点にしてぐるぐるとまわしてみる。
痛くない。
むしろなんだか軽くなったような気もする。
「調子は良いようだね、これで貸し借りなしだ。」
「本当に治ったんですか?」
「当たり前じゃないか、イナバ君の中にあった悪い物は全て外に出しておいたよ。しかし少々働きすぎじゃないのかい?随分と疲労も溜まっていたようだ。」
「あはは、最近色々ありまして。」
「人間はすぐ死ぬんだから無理しないように、特に記憶を複製する前にはね。」
「気をつけます。」
魔族に体の心配までされてしまった。
過労死する気は無いけれど、気をつけないといけないなぁ。
「さて、用事は済んだしそろそろ行くとしよう。」
「もう行くんですか?」
「君に素晴らしい宿題を貰ったからね、何か結果が出たら報告するよ。」
「のんびり待っています。」
「たかだか100年ぐらいだ。それぐらいなら待てるだろ?」
「いえ、死んでます。」
「たった100年も待てないなんて人間の短命も考え物だねぇ。」
100年後は確実に墓の中だ。
どうなっているかなんてわかったもんじゃない。
もう少し早く来るよと約束をして、バロンは人混みの中へと消えて行った。
「どうなる事かと思ったが、本当に動くようになったのか?」
「えぇ、この通りです。」
心配そうな顔をするみんなの前で俺は右腕を大きく回した。
ついさっきまで動かなかったのが嘘のようだ。
筋肉が衰えているかなとも思ったが、どうやらその心配はないらしい。
おかえり俺の右腕。
「魔族と聞いて驚いてしまいましたが良い人でしたね。」
「少し変わっていますけど。」
「変わっていたとしても御主人様の話について行けるだけで十分すごいと思われます。」
「シュウイチは難しい話が好きだからなぁ。」
別にそんな話ばかりしているわけじゃないんですよ?
誤解のないようにお願いします。
「でも、腕も治ってこれで本当に終わりですね」
「えぇ、みんなには心配かけましたが無事に解決です。」
「どうなる事かと思ったがこれで私も家に戻れる。」
「そう言えばそうでした。」
「おかえりなさいシア奥様。」
「みんな一緒に帰れますね、イナバ様。」
本当は秋の初めにはみんな一緒に暮らせるはずだったんだ。
それがこんなことがあって秋の半ばまでずれ込んでしまったけれど、俺にかせられた宿題を終えるまでにまだ半年以上ある。
みんなで頑張ればきっと大丈夫だ。
「さぁ、みんなで帰りましょうか。」
「「「「はい!」」」」
こうして俺の長い長い一日は幕を閉じるのだった。
明日からはきっと、いつもと変わらない穏やかな日々が待っているに違いない。
忙しいだろうけど充実した日々。
それをみんなと過ごせることに感謝しないといけないよな。
俺はエミリアとシルビアの手をぎゅっと握り、みんなと一緒に宿へと戻るのだった。
でだ。
これで終わるはずがないですよね?
しってた~。
翌朝いつもの部屋でみんなと遅めの朝食をとっていた時だった。
慌てた様子で支配人が部屋の中に飛び込んできた。
あの支配人がノックをしないなんて珍しいな。
「どうされました?」
「朝食中申し訳ございません、レティシャ王女がお越しになられました。」
「え?」
「今こちらに向かっております、どうか急ぎご準備ください。」
いや、お急ぎくださいって言われましても。
一応みんな着替えているし、会う分には問題ないと思うよ?
顔も洗ったし髭もばっちりだ。
一応王女様だし、粗相が無いようには身支度をする。
朝食をささっと済ませ、支配人が食器を綺麗に片づけると同時にノックの音が部屋に響いた。
ドアを開けると昨日よりラフな格好をしたレティシャ王女が立っている。
あれ?少年執事は一緒じゃないのか。
「いらっしゃいませ。」
「おはようございますイナバ様、朝早くから申し訳ありません。」
「とんでもありません、どうぞ中へ。」
王女様を入り口に立たせたままというのは世間体的にもよろしくない。
一先ずソファーまで案内した。
「今日はどうされたんですか?」
「改めまして御挨拶に参りました。この度は犯人を捕まえていただき、また私の命を助けていただき本当にありがとうございました。」
姿勢を正した王女が深々と頭を下げる。
いやいや、王女様がそんな簡単に下々に頭を下げちゃダメでしょ。
「私は当然の事をしただけですので、どうか頭を上げてください。御礼はたっぷりとしていただきましたから。」
「今日は御礼とは別にもう一つお願いがあって参りました。」
「お願いですか?」
今度はいったい何だろうか。
さすがに昨日の今日で脅迫状が来たとかそんなネタは流石にないだろう。
「お父様に解決したことを報告した所お礼を言いたいと申しておりまして、是非イナバ様に会っていただきたいのです。」
「お断りいたします。」
「シュウイチ!王女様の願いをそんな即答で・・・。」
「国王陛下にお会いできることは誠に光栄ですが、王都に行くとなると店を閉めなければなりません。ただでさえ店を閉めている時間が長いのに、これ以上閉めるとなると楽しみにしている冒険者の皆さんにも迷惑が掛かってしまいます。ご挨拶はまた時間のある時に改めてさせていただくという事でお許しいただけませんでしょうか。」
国王陛下に挨拶に行く!?
いや、もう勘弁してください。
せっかみんな揃ってゆっくりできると思ったのにこれ以上偉い人に会うと胃に穴が開いてしまう。
「お忙しい事はわかっております。ですがお父様がどうしてもと言っておりまして・・・。」
「申し訳ありません。」
「それは王都が遠いからですか?」
「それもあります。私のような商人が国王陛下に会えるなど身に余る光栄ではございますが、正直に言いまして色々あって疲れているというのが本音です。レティシャ王女とは何度かお話しさせていただきましたので多少心に余裕がありますが、国王陛下となるとどうお話ししていいのかわかりません。」
「そうですか・・・。」
「本当に申し訳ありません。」
今度は俺がレティシャ王女に向かって深々と頭を下げる。
せめて冬まで待ってほしい。
それぐらい時間を貰えれば少しは心に余裕ができるという物だろう。
「えっと、イナバ様には本当に申し訳ないのですが・・・。」
顔を上げるとレティシャ王女が困ったような申し訳ないような顔をしてモジモジしている。
なんだろう、トイレだろうか。
俺みたいな人間が近くにいるとトイレにも行きにくいだろうから、ここは気を聞かせて部屋を出たほうがいいのかもしれない。
「せっかくお越しいただきましたしハスラーさんにお茶を出してもらえるようお願いしてきます。」
気配りができる男。
それがイナバシュウイチだ。
俺は勢いよく立ち上がるとレティシャ王女の返事も聞かずに部屋の入口へと向かった。
「あ、お待ちください!そこには・・・!」
ドアの外に何があろうと俺は歩くのをやめない。
そんな気を使わなくても、なんて思っているのだろう。
大丈夫ですよ。
邪魔者はさっさと退散しますから。
とか思いながら俺はドアを開けた。
すると目の前にハスラーさんが立っている。
さすが忍者支配人、お茶の準備が早い!
とかおもったのだが支配人の手には何ももっていない。
それと見知らぬ人がハスラーさんの後ろに立っている。
新しい召使さんだろうか。
随分とガタイが良いなぁ。
まるでボディービルダーのようだ。
護衛か?
「ちょうどよかった、今ハスラーさんの所に行こうと思っていたところです。」
「イナバ様!」
「む、そなたがイナバシュウイチか。」
支配人がなんだか慌てているようだけどいったいどうしたんだろう。
いつもは冷静なのに珍しい。
っていうか、この人誰?
「初めましてイナバシュウイチです。そちらは・・・。」
「私か?私はレアードだ。」
「レアードさんですか。」
声もなかなかに渋い。
重みがありダンディーでかっこいい。
俺も将来こんな声の男になりたいなぁ。
「シュウイチ、レティシャ王女が呼んでいるぞ。」
「あ、すみません。支配人がちょうど来ていたので話していました。」
「そうだったのか、はやかった・・・。」
おれを呼びに来たシルビアが急に固まってしまった。
俺の方を見た後その奥にいるレアードさんの顔を見た瞬間にシルビアの目が大きく見開かれる。
そして、ものすごい勢いでその場に片膝をついた。
何事ですか!?
「お父様!」
「え、お父様?」
「シュウイチ、頭を下げろ!」
ものすごい力で引っ張られ無理やり座らされる。
その様子を見てレアードさんが満足そうに頷いた。
「今日はただの父親としてここに来た、頭を上げてくれないか。」
「しかし・・・。」
「かまわん。」
シルビアの声が震えている。
後ろからパタパタとレティシャ王女が走って来てレアードさんの横に並んだ。
最初はわからなかったが、いくら鈍い俺でもこの人が誰だかもうわかった。
シルビアが恐る恐る顔を上げる。
それと同じく俺も顔を上げた。
「イナバ様、改めてご紹介いたしますこちらはレアード、私の父でこの国の長を務めております。」
あ、うん。
そうでしょうね。
レティシャ王女のお父様って言えば必然的にそうなりますよね。
じゃなくて!
何でこんなところに国王陛下が来てるんだよ!
さっき俺が言ったこと聞いてなかった!?
これ以上偉い人に会ったら胃に穴が開くって、そう言ったよね!
え、口に出してない?
そんなの関係ねぇ!
「大変失礼をいたしました!国王陛下と走らずご無礼な態度を・・・どうかお許しください。」
「気にするなそなたは娘の命の恩人だ、むしろ私の方こそ急に押しかけて申し訳ないと思っている。どうか立ち上がってはくれないか?」
「しかし・・・。」
「先ほども言ったように今日はただの父親として来た、肩書は忘れてくれ。」
そこまで言われて畏まっていたら逆に不敬になってしまう。
俺は仕方なく立ち上がり、国王陛下とまっすぐに対峙した。
いや、もう勘弁して。
お家に帰りたい。
「レアードだ、この度は娘が大変世話になった。娘の命を助けてくれただけでなく王家を悩ませていた犯人まで捕まえたというではないか。どうしても直接礼を言いたくてな、無理を言ってここまで来させてもらった。君にはどれだけ礼を言っても言い足りないが直接言わせてくれ、ありがとう。」
「こ、光栄です。」
「お父様、イナバ様は自分の怪我を顧みず命を懸けて私をお守りくださいました。ここにおられます奥様方もそうです。王女という身分に関係なく私の為に尽してくださった、改めてお礼申し上げます。」
「そんな王女様まで光栄でございます。」
シルビアが恐縮しきって小さくなってしまった。
俺も小さくなりたいよ。
「本当であれば王宮にてしかるべき報酬を取らせるべきなのだが、今回の件はあまり公にできない事情がある。デアードの件は知っているな?」
「婚約の件は伺っております。」
「うむ。今回の件で延期していたが、憂いが無くなったのであれば正式に発表したいと思っている。だが、発表するにあたり我が国の貴族が王女の命を狙っていたなど国民に知れればそれはそれで大問題だ。それもあり今回の功績を表沙汰にすることができないのをどうか許してほしい。」
「もちろんです、どうかお気になさらないでください。」
「だが、素晴らしい働きをした者に何も与えないというのは国王としての威厳に関わる。そこでだ、今ここで何か希望があればそれを褒美として取らせようと思っているのだが、何か希望はあるか?」
ちょっとまって。
いきなり何か報酬が欲しいとか言われてもすぐに思い浮かばないんですけど・・・。
「お父様、いきなりそんなことを言ってはイナバ様が困ってしまうではありませんか。」
「しかしだ、大切な娘の命を救ってもらい何もしないというのは父親としても納得できん。」
「シュウイチ、国王陛下がこう仰ってくださっているんだ何かないのか?」
「そう言われても・・・。」
俺はパニックになりそうな頭を必死に回転させて最適な答えを探し続ける。
お金が欲しい・・・俗物すぎて却下。
領地が欲しい・・・管理できないし俺には商店があるので却下。
休みが欲しい・・・そもそも報酬と関係ないよね。
子供が欲しい・・・それはまぁおいおいってちがう!
いかん、何が何だかよくわからなくなってきた。
俺はただの商人で国王陛下に褒美をもらう事なんてありえないことなんだ。
今一番大切なのはエミリア達と、商店と、そして村の事。
それさえ出来れば他は何もいらないし・・・。
ん?
まてよ。
これっていけるのかな。
「恐れながらお願いしたいことでしたら一つございます。」
「願いでも構わんぞ、申してみよ。」
「それでは遠慮なく・・・。」
俺は咄嗟に思いついた願いを国王陛下に伝えた。
今の俺に、いや俺達に必要な物。
それがあればどれだけの人が喜ぶか。
俺の願いを聞いた時の国王陛下の顔が忘れられない。
呆れられたのかと思ったらどうやらそうではなかったようだ。
何をお願いしたかって?
とりあえずそれは、この状況を脱したら教えてあげる。
別に変なことなんかじゃないよ。
一言で言えばエミリア達がいうには俺らしい願いだってことかな。
宿に戻る所なので一緒に来るか聞いたが、バロン自身に時間がないようだ。
「それで、原因を解明できないという事でしたがそれはどういうことなのでしょうか。」
「言葉通りだね。地元に戻って色々調べてみたけれど集団暴走が何故起きるのか、どういう原理なのかを突き止めた人はいないんだ。とある魔族が国一つを使って実験した記録を読んでみたけれど、魔物を操っても攻撃しても本家ほどの現象は起こせなかったらしい。ところが、ある日突然何もないところから連鎖的に暴走が始まり、気付いた時には1万を超える魔物が国を飲み込んだとか。管理しつくされた状況でそれが起きたとなると君たちが言う神様とか何かが引き起こしている、若しくはこの世界の気象のように森羅万象の中に組み込まれている。そんな感じなのかもしれないね。」
ふむ。
つまりこの世界そのものの根幹システムに集団暴走が仕組まれている。
そういうことになるのだろうか。
人が増えすぎたり文明が栄えたりすると神様がそれを滅ぼす為に攻めてくる、なんて設定は良くあるんだけどそれに近いのかな?
「つまり天候を制御できないように集団暴走も制御できるような事象ではない。そういうことですね?」
「相変らずイナバ君は頭の回転が速くて助かるねぇ。」
「魔物の中に暴走の因子があって、それが何かの作用で動き出すとかそういうのは考えられませんか?」
「魔物全てにかい?」
「全ての魔物が等しく暴走するのであればそう考えるのが妥当だと思います。」
この前のは猪系の魔物だったけれど、ドラゴンもいたし単一の魔物だけというのも考えにくい。
発生した地域に因子を刺激する何かがあり、それが伝染するように魔物に波及していくとかどうだろうか。
知らんけど。
「じゃあ何故人間や魔族は暴走しないといえるのかな。」
「魔物は森羅万象の中に組み込まれていて、人間や魔族には組み込まれていないとか?」
「確かにそう考えるのが簡単だけど、それでは比較にならないなぁ。」
「それではこういうのはどうでしょう。魔物のように大人数が正気を失うわけでは無いので気付かないだけで、実は人間も魔族も暴走している。」
「でもそれじゃあ何時暴走したのか把握できないね。」
「今まで平和を謳歌していた国が急に崩壊したとか、魔族が人間を殺しだしたとか、領土を拡張しだしたとか、普通に考えたら起こる筈がないのに突然今までと違う事をしだしたのを暴走と考えればどうです?」
「ふむ、確かにそれは暴走といえるかもしれない。過去に不可解な動きをした例は確かにあるし、それが暴走のせいだと考えれば魔物や人間にも暴走は起きているという証明になる。」
なんだかバロンが真面目な顔をしてブツブツ言い出したぞ。
「シュウイチさん楽しそうですね。」
「ご主人様の話しについていける方はあまりおりませんから。」
「難しすぎてよく分かりませんが、悪い方でないのなら構わないと思います。」
「そうだな、魔族と聞いて一瞬身構えたが別にこの人が何か悪事を働いたわけではない。先入観は真実を曇らせてしまうとシュウイチに教えてもらったはずなのにな。」
皆さん好き勝手言ってますねぇ。
確かにこんなめんどくさいこと考えるの好きだけどさぁ・・・。
みんなには秘密にしてるけど、俺の両手に穴を開けたのは彼だよ?
それを知ってまだ悪い人じゃないと言えるのかな?
「ご主人様が悪い顔をしております。」
「またよからぬ事を考えているのだろう、疲れているせいだ許してやってくれ。」
「私達お邪魔じゃないでしょうか、お知り合いならゆっくりお話したほうが・・・。」
いや、俺も疲れているので帰らせてください。
お願いします。
「素晴らしい、素晴らしいよイナバ君!やはり君は私を満足させるのに足る人物のようだ!あぁ、君の知識の泉を覗く事ができたら私はどれだけ幸せな時間を過ごせるのだろう。無限に生きる事の苦痛も君の知識があれば有意義なものに変えられるというのに、残念だ本当に残念だ。」
バロンがすごいテンションで俺の顔を見る。
そのテンションはマジで怖い。
勘弁してください。
「何度も言いますが私の頭の中を覗く事は許しませんよ。」
「君が死ぬ時もかい?」
「私が死ぬ時?」
「あぁ、君が死ぬ時に知識を抜き取るぐらいなら構わないだろ?」
「いや、構わないだろといわれましても。」
それは考えた事なかったな。
確かに今はイヤだけど、死ぬ瞬間なら別に抜かれても構わないんじゃないか?
「それはシュウイチさんの頭を持って行くということですか?」
「人間の生首を集める趣味は無いよ。ただちょっと頭の中に入り込んで知識の泉から情報をいただくだけだ。」
「私は反対だ、シュウイチは最後の瞬間までシュウイチであるべきだと思う。」
「良くわかりませんが、私もイナバ様の身体を触られるのはイヤです。」
「では、死ぬ前にご主人様の記憶の複製を準備しておくというのはどうでしょう。」
「「「「複製?」」」」
はい、ユーリさんが不思議な事を言い出しましたよ。
全員の頭の上にクエスチョンマークが出ているのが見える。
もちろんバロンの上にもだ。
「私の記憶の中には大切な人の記憶が受け継がれています。その方法を応用すればご主人様の記憶を複製する事が出来ると思うのですが。」
「あぁ!あのオーブですね。」
「あの方に出来たのであればご主人様にも出来ると思います。」
「別にどんな方法でも構わないよ、君の知識が受け取れるのなら何も文句は無い。」
バロンもそれで良いようだ。
「良くわからないがシュウイチの身体が無事なら私はそれで構わない。」
「でも複製はずっと先にしてください、その複製してしまったらすぐ死んでしまう気がして・・・。」
エミリアが悲しそうな顔をする。
大丈夫、俺だってそんなにすぐ死ぬ気は無いよ。
「それでだ、もう一つ聞きたい事があるんだけど構わないかな?」
「どうしました?」
「随分と物騒な物を肩に刺しているようだけどそれはイナバ君の趣味なのかい?もちろんそうだというのなら止めはしないけど、その状態はあまり良いとは思えないねぇ。」
「分かるんですか?」
「君の肩に刺さっているのはかなり凶悪な負の魔力だ。そのまま放っておけば右腕だけでなく他の部分の機能も停止するよ。」
マジか。
右腕が動かないだけなら正直そのままでも良いかなって思っていたけど、他の部分まで動かなくなるのは困る。
「精霊様にも聞いてみましたが、触ることは出来ないそうです。」
「そうだろうね、それは彼女達と真逆の力で構成されている。それに触れれば身体が冒され魔力が反転してしまうだろう。そうなれば精霊として存在できずその土地を穢すだけの悪霊と成り果てる。」
「このまま放っておくとイナバ様の症状はもっと悪くなるんですか?」
「その通りだよ、今は右腕ですんでいるがそのまま範囲が広がればいずれ心臓を止めてしまう。そうなれば命は終わりだ。」
「そんな・・・!」
「どうにかならないのか?」
「どうにかしたいのですが精霊様に出来ないとなれば他に方法がありません。」
「折角事件が解決したのにシュウイチさんだけそのままだなんて・・・酷すぎます。」
無事に解決して万々歳とは残念ながら行かないようだ。
俺だけ貧乏くじを引いた感じになるが、それもまぁ仕方ない。
「私はシルビアの命を救えただけでも十分です。」
「だがシュウイチが死ねば私は一生悔やむだろう。ならば私もお前と一緒だ、シュウイチが何と言おうと私はそうするぞ。」
「イナバ様に救っていただいた命です、私の命を差し出せるのならばどうぞ持って行って下さい。」
シルビアとニケさんが物騒な事を言い出した。
このままではエミリアも物騒な事を言いかねない。
せっかく全部終わったのになんでこんなに悲しい顔をしなければならないのだろうか。
「まぁまぁ君達落ち着きたまえ。」
そんな俺達をバロンが落ち着くように諭す。
魔族に心配されるってなんだか不思議な感じだ。
「落ち着いていられるか!」
「別に方法がないわけじゃない、ようはその肩に刺さっているのを抜いてしまえば良いだけの話しだ。」
「ですがそれを出来る人がいないんです。」
「いない?そんな事は無いぞ、君の目の前にいるじゃないか。」
俺の目の前?
俺の前にいるのはエミリアとシルビア様とユーリとニケさんだけど・・・。
この中で魔術的な心得があるのはエミリアだけだ。
つまりエミリアならできる・・・?
「何故そこで君は他の場所を見るのかな。私がいるじゃないか。」
「バロンが?」
「集団暴走を解明できなかったお詫びも兼ねてそれを抜いてあげよう。それで、許してくれないか?」
「許すも何も出来るなら是非お願いします!」
まさかこんな所で救いの手が出るとは思わなかった。
貴方が神か!
違った、魔族か!
「それじゃあ決まりだ、ちょっとそこにしゃがんでくれるかい?」
バロンの指示に従って片膝をつくようにしてその場にしゃがむ。
「そうそう、少し痛いと思うけどあの痛みに耐えた君なら大丈夫だよね?」
「え?」
詳しく聞く前にバロンの手が俺の肩に伸びたかと思うと、全身を激痛が走り抜けた。
「イッタァァァ!!!」
突然の事に声を我慢する暇もなかった。
叫び声が細い路地に響き渡る。
だがそんな事もお構い無しに、バロンは俺の肩に刺さっている何かを引きずり出そうとしていた。
身体の中を良くわからない何かが這いずり回り抜けていく感覚。
ズルズルとかグイグイとかとにかく痛みと共に良くないと分かる何かが、俺の身体の奥から肩を通じて外に出て行くのを感じる。
俺はぐっと唇を噛み痛みにひたすら耐える。
シルビアとエミリアが俺の左肩を抑えて暴れないようにしてくれた。
肩から血が吹き出す。
服が血に染まるがそんな事今はどうでもいい。
時間で言えば一分もかかってないんだろうが、俺には永遠にも思える時間だった。
最後にズルっと大きな何かが抜ける。
その途端にピタリと痛みがなくなった。
「これで終わりだ。中々の大物だったようだね。」
バロンは取り出した何かを満足そうな顔で見つめていた。
そこに何があるのかわからないが、なんとなくよくないものだという事は分かる。
それをどうするのだろうか。
不思議に思っていた次の瞬間。
バロンはその何かを頭上高く持ち上げると、踊り食いをするかのように顔を上に向け一気に喉の奥に押し込んだ。
嘘だろ、喰ったのか!?
どう考えても体に悪い物だろ、それ。
お腹壊したりしないのか?
「イナバ君のだからかな中々の味だね。」
「え、本当に食べたんですか?」
「精霊には悪いものでも魔族にとっては好物だ。美味しかったよ。」
「美味しいものなんですね・・・。」
信じられない。
その辺に棄てるのかと思っていたのにまさか食べるなんて。
「さて、悪い物はこれでなくなったはずだ。腕を動かしてごらん。」
バロンに言われゆっくりと右腕に力をこめる。
さっきまでどれだけ力を入れても動かなかった右腕が、いとも容易く持ち上がった。
ゆっくりと頭の上まで持ち上げる。
次は肩を支点にしてぐるぐるとまわしてみる。
痛くない。
むしろなんだか軽くなったような気もする。
「調子は良いようだね、これで貸し借りなしだ。」
「本当に治ったんですか?」
「当たり前じゃないか、イナバ君の中にあった悪い物は全て外に出しておいたよ。しかし少々働きすぎじゃないのかい?随分と疲労も溜まっていたようだ。」
「あはは、最近色々ありまして。」
「人間はすぐ死ぬんだから無理しないように、特に記憶を複製する前にはね。」
「気をつけます。」
魔族に体の心配までされてしまった。
過労死する気は無いけれど、気をつけないといけないなぁ。
「さて、用事は済んだしそろそろ行くとしよう。」
「もう行くんですか?」
「君に素晴らしい宿題を貰ったからね、何か結果が出たら報告するよ。」
「のんびり待っています。」
「たかだか100年ぐらいだ。それぐらいなら待てるだろ?」
「いえ、死んでます。」
「たった100年も待てないなんて人間の短命も考え物だねぇ。」
100年後は確実に墓の中だ。
どうなっているかなんてわかったもんじゃない。
もう少し早く来るよと約束をして、バロンは人混みの中へと消えて行った。
「どうなる事かと思ったが、本当に動くようになったのか?」
「えぇ、この通りです。」
心配そうな顔をするみんなの前で俺は右腕を大きく回した。
ついさっきまで動かなかったのが嘘のようだ。
筋肉が衰えているかなとも思ったが、どうやらその心配はないらしい。
おかえり俺の右腕。
「魔族と聞いて驚いてしまいましたが良い人でしたね。」
「少し変わっていますけど。」
「変わっていたとしても御主人様の話について行けるだけで十分すごいと思われます。」
「シュウイチは難しい話が好きだからなぁ。」
別にそんな話ばかりしているわけじゃないんですよ?
誤解のないようにお願いします。
「でも、腕も治ってこれで本当に終わりですね」
「えぇ、みんなには心配かけましたが無事に解決です。」
「どうなる事かと思ったがこれで私も家に戻れる。」
「そう言えばそうでした。」
「おかえりなさいシア奥様。」
「みんな一緒に帰れますね、イナバ様。」
本当は秋の初めにはみんな一緒に暮らせるはずだったんだ。
それがこんなことがあって秋の半ばまでずれ込んでしまったけれど、俺にかせられた宿題を終えるまでにまだ半年以上ある。
みんなで頑張ればきっと大丈夫だ。
「さぁ、みんなで帰りましょうか。」
「「「「はい!」」」」
こうして俺の長い長い一日は幕を閉じるのだった。
明日からはきっと、いつもと変わらない穏やかな日々が待っているに違いない。
忙しいだろうけど充実した日々。
それをみんなと過ごせることに感謝しないといけないよな。
俺はエミリアとシルビアの手をぎゅっと握り、みんなと一緒に宿へと戻るのだった。
でだ。
これで終わるはずがないですよね?
しってた~。
翌朝いつもの部屋でみんなと遅めの朝食をとっていた時だった。
慌てた様子で支配人が部屋の中に飛び込んできた。
あの支配人がノックをしないなんて珍しいな。
「どうされました?」
「朝食中申し訳ございません、レティシャ王女がお越しになられました。」
「え?」
「今こちらに向かっております、どうか急ぎご準備ください。」
いや、お急ぎくださいって言われましても。
一応みんな着替えているし、会う分には問題ないと思うよ?
顔も洗ったし髭もばっちりだ。
一応王女様だし、粗相が無いようには身支度をする。
朝食をささっと済ませ、支配人が食器を綺麗に片づけると同時にノックの音が部屋に響いた。
ドアを開けると昨日よりラフな格好をしたレティシャ王女が立っている。
あれ?少年執事は一緒じゃないのか。
「いらっしゃいませ。」
「おはようございますイナバ様、朝早くから申し訳ありません。」
「とんでもありません、どうぞ中へ。」
王女様を入り口に立たせたままというのは世間体的にもよろしくない。
一先ずソファーまで案内した。
「今日はどうされたんですか?」
「改めまして御挨拶に参りました。この度は犯人を捕まえていただき、また私の命を助けていただき本当にありがとうございました。」
姿勢を正した王女が深々と頭を下げる。
いやいや、王女様がそんな簡単に下々に頭を下げちゃダメでしょ。
「私は当然の事をしただけですので、どうか頭を上げてください。御礼はたっぷりとしていただきましたから。」
「今日は御礼とは別にもう一つお願いがあって参りました。」
「お願いですか?」
今度はいったい何だろうか。
さすがに昨日の今日で脅迫状が来たとかそんなネタは流石にないだろう。
「お父様に解決したことを報告した所お礼を言いたいと申しておりまして、是非イナバ様に会っていただきたいのです。」
「お断りいたします。」
「シュウイチ!王女様の願いをそんな即答で・・・。」
「国王陛下にお会いできることは誠に光栄ですが、王都に行くとなると店を閉めなければなりません。ただでさえ店を閉めている時間が長いのに、これ以上閉めるとなると楽しみにしている冒険者の皆さんにも迷惑が掛かってしまいます。ご挨拶はまた時間のある時に改めてさせていただくという事でお許しいただけませんでしょうか。」
国王陛下に挨拶に行く!?
いや、もう勘弁してください。
せっかみんな揃ってゆっくりできると思ったのにこれ以上偉い人に会うと胃に穴が開いてしまう。
「お忙しい事はわかっております。ですがお父様がどうしてもと言っておりまして・・・。」
「申し訳ありません。」
「それは王都が遠いからですか?」
「それもあります。私のような商人が国王陛下に会えるなど身に余る光栄ではございますが、正直に言いまして色々あって疲れているというのが本音です。レティシャ王女とは何度かお話しさせていただきましたので多少心に余裕がありますが、国王陛下となるとどうお話ししていいのかわかりません。」
「そうですか・・・。」
「本当に申し訳ありません。」
今度は俺がレティシャ王女に向かって深々と頭を下げる。
せめて冬まで待ってほしい。
それぐらい時間を貰えれば少しは心に余裕ができるという物だろう。
「えっと、イナバ様には本当に申し訳ないのですが・・・。」
顔を上げるとレティシャ王女が困ったような申し訳ないような顔をしてモジモジしている。
なんだろう、トイレだろうか。
俺みたいな人間が近くにいるとトイレにも行きにくいだろうから、ここは気を聞かせて部屋を出たほうがいいのかもしれない。
「せっかくお越しいただきましたしハスラーさんにお茶を出してもらえるようお願いしてきます。」
気配りができる男。
それがイナバシュウイチだ。
俺は勢いよく立ち上がるとレティシャ王女の返事も聞かずに部屋の入口へと向かった。
「あ、お待ちください!そこには・・・!」
ドアの外に何があろうと俺は歩くのをやめない。
そんな気を使わなくても、なんて思っているのだろう。
大丈夫ですよ。
邪魔者はさっさと退散しますから。
とか思いながら俺はドアを開けた。
すると目の前にハスラーさんが立っている。
さすが忍者支配人、お茶の準備が早い!
とかおもったのだが支配人の手には何ももっていない。
それと見知らぬ人がハスラーさんの後ろに立っている。
新しい召使さんだろうか。
随分とガタイが良いなぁ。
まるでボディービルダーのようだ。
護衛か?
「ちょうどよかった、今ハスラーさんの所に行こうと思っていたところです。」
「イナバ様!」
「む、そなたがイナバシュウイチか。」
支配人がなんだか慌てているようだけどいったいどうしたんだろう。
いつもは冷静なのに珍しい。
っていうか、この人誰?
「初めましてイナバシュウイチです。そちらは・・・。」
「私か?私はレアードだ。」
「レアードさんですか。」
声もなかなかに渋い。
重みがありダンディーでかっこいい。
俺も将来こんな声の男になりたいなぁ。
「シュウイチ、レティシャ王女が呼んでいるぞ。」
「あ、すみません。支配人がちょうど来ていたので話していました。」
「そうだったのか、はやかった・・・。」
おれを呼びに来たシルビアが急に固まってしまった。
俺の方を見た後その奥にいるレアードさんの顔を見た瞬間にシルビアの目が大きく見開かれる。
そして、ものすごい勢いでその場に片膝をついた。
何事ですか!?
「お父様!」
「え、お父様?」
「シュウイチ、頭を下げろ!」
ものすごい力で引っ張られ無理やり座らされる。
その様子を見てレアードさんが満足そうに頷いた。
「今日はただの父親としてここに来た、頭を上げてくれないか。」
「しかし・・・。」
「かまわん。」
シルビアの声が震えている。
後ろからパタパタとレティシャ王女が走って来てレアードさんの横に並んだ。
最初はわからなかったが、いくら鈍い俺でもこの人が誰だかもうわかった。
シルビアが恐る恐る顔を上げる。
それと同じく俺も顔を上げた。
「イナバ様、改めてご紹介いたしますこちらはレアード、私の父でこの国の長を務めております。」
あ、うん。
そうでしょうね。
レティシャ王女のお父様って言えば必然的にそうなりますよね。
じゃなくて!
何でこんなところに国王陛下が来てるんだよ!
さっき俺が言ったこと聞いてなかった!?
これ以上偉い人に会ったら胃に穴が開くって、そう言ったよね!
え、口に出してない?
そんなの関係ねぇ!
「大変失礼をいたしました!国王陛下と走らずご無礼な態度を・・・どうかお許しください。」
「気にするなそなたは娘の命の恩人だ、むしろ私の方こそ急に押しかけて申し訳ないと思っている。どうか立ち上がってはくれないか?」
「しかし・・・。」
「先ほども言ったように今日はただの父親として来た、肩書は忘れてくれ。」
そこまで言われて畏まっていたら逆に不敬になってしまう。
俺は仕方なく立ち上がり、国王陛下とまっすぐに対峙した。
いや、もう勘弁して。
お家に帰りたい。
「レアードだ、この度は娘が大変世話になった。娘の命を助けてくれただけでなく王家を悩ませていた犯人まで捕まえたというではないか。どうしても直接礼を言いたくてな、無理を言ってここまで来させてもらった。君にはどれだけ礼を言っても言い足りないが直接言わせてくれ、ありがとう。」
「こ、光栄です。」
「お父様、イナバ様は自分の怪我を顧みず命を懸けて私をお守りくださいました。ここにおられます奥様方もそうです。王女という身分に関係なく私の為に尽してくださった、改めてお礼申し上げます。」
「そんな王女様まで光栄でございます。」
シルビアが恐縮しきって小さくなってしまった。
俺も小さくなりたいよ。
「本当であれば王宮にてしかるべき報酬を取らせるべきなのだが、今回の件はあまり公にできない事情がある。デアードの件は知っているな?」
「婚約の件は伺っております。」
「うむ。今回の件で延期していたが、憂いが無くなったのであれば正式に発表したいと思っている。だが、発表するにあたり我が国の貴族が王女の命を狙っていたなど国民に知れればそれはそれで大問題だ。それもあり今回の功績を表沙汰にすることができないのをどうか許してほしい。」
「もちろんです、どうかお気になさらないでください。」
「だが、素晴らしい働きをした者に何も与えないというのは国王としての威厳に関わる。そこでだ、今ここで何か希望があればそれを褒美として取らせようと思っているのだが、何か希望はあるか?」
ちょっとまって。
いきなり何か報酬が欲しいとか言われてもすぐに思い浮かばないんですけど・・・。
「お父様、いきなりそんなことを言ってはイナバ様が困ってしまうではありませんか。」
「しかしだ、大切な娘の命を救ってもらい何もしないというのは父親としても納得できん。」
「シュウイチ、国王陛下がこう仰ってくださっているんだ何かないのか?」
「そう言われても・・・。」
俺はパニックになりそうな頭を必死に回転させて最適な答えを探し続ける。
お金が欲しい・・・俗物すぎて却下。
領地が欲しい・・・管理できないし俺には商店があるので却下。
休みが欲しい・・・そもそも報酬と関係ないよね。
子供が欲しい・・・それはまぁおいおいってちがう!
いかん、何が何だかよくわからなくなってきた。
俺はただの商人で国王陛下に褒美をもらう事なんてありえないことなんだ。
今一番大切なのはエミリア達と、商店と、そして村の事。
それさえ出来れば他は何もいらないし・・・。
ん?
まてよ。
これっていけるのかな。
「恐れながらお願いしたいことでしたら一つございます。」
「願いでも構わんぞ、申してみよ。」
「それでは遠慮なく・・・。」
俺は咄嗟に思いついた願いを国王陛下に伝えた。
今の俺に、いや俺達に必要な物。
それがあればどれだけの人が喜ぶか。
俺の願いを聞いた時の国王陛下の顔が忘れられない。
呆れられたのかと思ったらどうやらそうではなかったようだ。
何をお願いしたかって?
とりあえずそれは、この状況を脱したら教えてあげる。
別に変なことなんかじゃないよ。
一言で言えばエミリア達がいうには俺らしい願いだってことかな。
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