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第九章

事実は小説よりも奇なり

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フェリス様に睨まれストリさんは固まってしまった。

まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

まぁ仕方ないよな。

俺だってこの人に睨まれたらこうなる。

ここは逆らわないのが一番だと俺は思うけど。

「・・・全部話せばあいつの罪は重たくなるのか?」

「そうさね、今は依頼したってだけだが内容次第じゃ十分可能性はあるね。」

「どうせ死ぬんだ、折角なら道連れにしたほうがいいだろ。」

「さぁ、それはアンタ次第だよ。」

死ならば諸共という言葉がある。

元々はその貴族がストリさんに依頼したんだし、自分だけ罪が軽いというのはおかしな話しだ。

「ホント馬鹿らしい話しだよ、シュリムさんとこの娘がそこにいる王女の旦那に一目惚れしたんだ。最初は脅迫状を送って身を引くように促したらしいがそれでも駄目なもんだから俺に話が来た。相手が王族だけに一応俺も過激な事は避けてたんだが、シュリムさんからの要求はドンドン強くなる一方で、それで最後は殺せってなったのさ。」

「作り話として聞いても随分と馬鹿らしい話だね。」

「俺も最初に聞いた時はそう思ったよ。何処の世界に娘の為に王族を殺せって親がいるんだってね。まぁ、実際いるんだからこうなったんだけどな。」

「確かに最初は脅迫状が送られてきました。ではそれも貴方が?」

レティシャ王女が初めて口を開く。

真っ直ぐな目でストリさんのほうを見つめている。

その視線に耐えれなくなったのかストリさんが視線をそらした。

「脅迫状はシュリムさんだがその後は俺だ。毒を盛って婚約が延期になったから終わりと思いきや、王女のままなら結婚できないから次は王女を辞めさせろと来たもんだ。結局王女を辞めても男がなびかないから最後は殺せだとよ。」

「そう・・・その方はデアードに恋をしたんですね。」

「どういう経緯かは知らないが一目惚れらしい。それで恋敵を殺せってのは随分と親バカだと俺は思うがね。」

「だがあんたはその仕事を請けた。」

「これも仕事だからな、金になるなら何でもやるさ。」

「しかしだ、それで私ごと殺すという選択肢を取ったのは随分とばかげたことだと思わなかったのか?」

確かにその通りだ。

王女を殺せというのなら別にシルビア様を狙う必要はなかったはずだ。

もちろん射線上にいたのなら仕方がないが、それでも横にずらすとか出来ると思うんだけど。

「その作戦を考えたのは今捕まっているあいつ等だよ。俺は金で奴等を雇っただけだ。」

「なんだって?」

「王女を直接狙うよりも無関係な事件に巻き込まれたことにすれば足がつかないとか思ったんだろうよ。ちなみに奴等がアンタを狙ったのは昔こっ酷くやられたからその腹いせだってさ。」

「確かに私を恨んでる人間は多いとは思うがまさかそんな事に使われるとは。これからはもっと気をつけなければ・・・。」

魔物以外も相手にしてきたシルビア様だけに致し方ない。

家に戻ってきてからも狙われる可能性はあるわけだから、今後はその辺もしっかり考えないといけないな。

「それでも結果として私を殺す為に無関係なイナバ様が傷ついてしまった。それについては何とも思わないんですか?」

「別に、誰かを殺すのに犠牲はつき物だ。だがこいつはどうだ?誰にも防げないはずの魔法を防いだどころか標的を二人とも救っちまった。お前さえいなければ今頃他所の国で悠々自適に暮らせたはずなんだがなぁ。」

「私はただシルビアを助けたかっただけです。」

「けっ、それが良い迷惑だったって言ってるんだよ。」

そう言うながら俺をジロリと睨むストリさん。

この人からしたら本当に俺はイレギュラーな存在だったんだろう。

俺さえいなければ暗殺は成功していた。

それだけじゃない、俺がいなければこうやって真相を暴かれる事だってなかったはずだ。

でもさ、そもそも俺が王女暗殺について知ったのはストリさんが情報を持ってきたからなんだけど。

何故俺の所にきて情報を置いていったんだ?

どう考えても自分の首を絞めているようにしか思えないんだが。

あれだろうか、追い込まれないと楽しくないとかそんな理由なんだろうか。

「それで全部かい?」

「あぁ、俺が雇われた理由はそれで全部だ。どうだ、おもしろくないだろ?」

「作り話として聞いても最低だね、よくまぁこんな事が出来たもんだと尊敬するよ。」

「尊敬された所で失敗してたら世話ねぇよ。まったく、どうしてこんな事になっちまったんだろうな。」

「それは自分の胸に聞きな。」

貴族の手先として使われ最後はごみの様に捨てられる。

何処で道を間違ったのか、それは誰にもわからない。

あの日依頼を受けていなければなんてタラレバは巻き戻しのない世界では無意味だ。

「私からも質問したいのですが、暗殺に失敗した後どうして私達に近づいたんですか?王女暗殺未遂の情報を流した理由が分からないです。」

「たいした理由じゃねぇよ、実行犯が見つかればそこから辿られて俺が関わっている事がばれちまう。だが、王女暗殺未遂なんて大事ぶち込んだらお前らは実行犯よりも大元の犯人を捜したくなるだろ?俺は絶対にばれない自信があった、だからお前らの目を欺く為に暗殺をばらしたのさ。」

「でもどうしてシュウイチさんだったんですか?」

「エミリアの言うとおりです、別に私ではなく騎士団や冒険者ギルドに情報を流しても同じ結果になったのではないですか?」

エミリアも同じ事を思っていたようだ。

やっぱりそう思うよね?

よかった俺だけじゃなくて。

「別に何処に出しても逃げ続ける自信はあった、騎士団と冒険者には金を掴ませて捜査状況を把握していたからな。そいつらに裏切られそうになった所で殺してしまえば良いだけの話だ。」

そこまではわかる。

実際捜査情報だけでなく作戦も駄々漏れだったわけだし。

「だが、俺の耳によくない噂が入ってきた。『騎士団長の旦那がサンサトローズ中の事件を解決して回っている』ってな。」

「それがどう先程の話しにつながるんです?」

「せっかく上手く情報を操っていたのにそれをかき回す奴が出てきたらお前はどう思う?早めに接触してお前の動きも管理したかったのさ。」

なるほどなぁ。

確かにその気持ちは俺にもわかる。

イレギュラーは出来るだけなくしておきたい。

その考えから俺に接触したのか。

確かに俺がストリさんの立場なら、同じ事をしたかもしれない。

「一つだけ忠告しといてやるよ。お前が思っている以上にお前は裏の世界で有名人だ、せいぜい背中には気をつけるこったな。」

「イナバ様のやる事は少々派手ですからね、表でも裏でも有名なのは把握しています。そうだからと言って手を出させるほど私達は甘くありませんわ。」

「その通りだ。私も含め多くの人間がシュウイチの命を守る事だろう、だから何も心配する事はないぞ。」

「皆さんありがとうございます。」

「話はそれで仕舞かい?」

「あぁ、俺が話すことは何もねぇ。」

「さっきの話だけじゃちょいと足らないが、あとは私が何とかするよ。」

何とか出来ちゃうのがそもそもおかしいと思うんですが・・・。

まぁあとは偉い人たちに任せればいいか。

貴族がどうのとかただの商人には関係ない話だ。

騎士団員に連行されていくストリさんを見送り俺は大きく息を吐く。

長かった。

本当に長かった。

秋の節が始まって気づけばもう半分が終わってしまった。

「やっと終わったな。」

「えぇ、やっと終わりました。」

「無事に解決して本当に良かったです。」

エミリアとシルビアが肩に手を置き祝福してくれる。

あの日、シルビアの退団式から今回の件は始まった。

いや、俺達が知らないだけでその前から話は進んでいたわけだけど。

何はともあれ王女様暗殺未遂事件は犯人の逮捕、依頼主である貴族は後に処罰という感じで幕を閉じるのだろう。

「皆様本当にありがとうございました。」

「先ほども言いましたように私はシルビアを助けようとしただけですから、レティシャ王女が気にすることではありません。」

「後は私達に任せてイナバ様はゆっくりしてね。」

「ゆっくりしたいのは山々ですが、陰日が開ければいつも通りお店を開けます。それに、入植計画の件も結果が出る頃ですから。」

「本当にイナバ様はお忙しいのですね。」

「倒れるまで働きゃいいんだ、一度痛い目にあれば嫌でも自分の限界がわかるだろうよ。」

相変らずフェリス様は手厳しい。

できるのなら倒れずに行きたいものだ。

「ですが全て終わったとはいえイナバ様の腕が戻ったわけではありません。何と詫びをすればいいのか、今の私には答えが見つからないんです。」

確かに大団円というわけにはいかなかった。

俺の腕は動かないままだし、デアード様のお屋敷は壊れたままだ。

後者はまあ、レティシャ王女が何とかしてくれるだろう。

犯人が捕まったという事は再び王家に戻ることができるという事だ。

そうすればデアード様は正式に王家の仲間入りをすることができる。

つまり、俺のおかげで王家に入れるようになったのだから家の件は不問にしてもいいということだよね?

そうに違いない。

「幸い動かなくて困る仕事ではありませんし、私には皆さんがいます。いつもと変わらず皆さんに助けてもらいながらやっていきますよ。」

「私にできることがありましたら何なりと申し付けてください。お父様にもお会いしていただきたいですし・・・。」

お父様?

王女のお父様ってことはつまり、王様?

え、なんで俺が王様に会うの?

「確かに今回の功績を考えれば国王陛下への謁見が認められてもおかしくありませんわね。」

「なんせ第三王女の暗殺を身を挺して守り、見事犯人を捕まえて見せたんだ。内容だけで言えば爵位だってあり得る話だよ。」

「爵位だなんてそんな。」

「シュウイチはこれまでそれに値する働きをして来た、そろそろ評価されるべきだと私は思うがな。」

「シルビアまで。」

俺はただ平穏無事に過ごしたいだけなんだけどなぁ。

「何はともあれ今日はご苦労だったね、宿に戻ってゆっくりしな。」

「そうさせてもらいます。」

今日は疲れた。

ユーリとニケさんも向こうで頑張ってくれているだろうし、迎えに行ってから宿に戻ろう。

明日から陰日だし、お店は休みだけど久々の休日をのんびり過ごしてもいい。

ここ最近忙しすぎたんだ。

たまには休暇も必要だよね。

「では行きましょうか。」

「レティシャ王女、どうかお気をつけて。」

「フェリス様も無理なさらないでくださいね。」

「あら?私には何もないの?」

一人だけ挨拶してもらえなくてガスターシャ氏が拗ねている。

「アーシャさん、後はお任せします。」

「まかせなさい。」

まったく、手がかかるというかなんというか。

俺達は三人に別れを告げ冒険者ギルドにユーリ達を迎えに行く。

向こうは向こうで色々と大変だったようだが、全部終わったことを知らせると嬉しそうに笑ってくれた。

久々に家族全員揃ったな。

今回の件を話しながらみんなで仲良くサンサトローズの大通りを白鷺亭へ歩いていた時だった。

一人の男が音もなく俺達の前に現れた。

白い肌に真っ黒い服。

シルクハットのような帽子をかぶっており表情はうかがえない。

まるで陰日の神様が俺達の前に現れたような感じだ。

一度神様に出会っているし、この人が神様だと言われても驚かないぞ。

「こんばんはイナバ君、久々だね。」

その男は俺を知っているようだ。

いやまて、俺も知っている。

忘れられるはずがない。

だってこの人は・・・。

「こんばんは、まさかこんなところでお会いできるとは思っていませんでしたよ。お元気でしたか?」

「そうだねぇ、元気と言えば元気かな。」

「今日はどうしてここに?」

「君に頼まれていた件について分かったことがあってね、知らせに来たんだ。」

「と、いう事は何かわかったんですね。」

彼にはある事を頼んでいた。

ここに居るという事はそれについて何かわかったことがあったのだろう。

「シュウイチさんこの方は?」

突然現れた男と親しそうに話す俺にエミリア達が取り残されてしまったようだ。

そう言えばみんなには紹介していなかったっけ。

「あぁ、エミリア達は初めてですね。彼は・・・。」

「私はバロン、君達が噂に聞いていたイナバ君の奥様達だね。人間の体でこれだけの人数を相手にするのは大変じゃないか?」

「いや、まだそこまでは。」

「なに!これだけの美人に囲まれていながら手を出していないなんて!もしかしてイナバ君は不能だったりするのかな?」

「違いますよ!」

失礼な、ちゃんと機能してますよ!

ちょっと使うタイミングが無いだけです。

「ならば何故だ?人間という生き物は常に発情し次の代に子孫を残そうとするものではなかったのかい?」

「いや、別に年がら年中発情しているわけじゃ。」

「それはおかしい。私の研究では人間は異性を見たとたんに発情していた、つまり君も彼女達もそのはずだ。もしそうでないのなら是非君を研究させてほしいのだが・・・やはり頭の中を見るのはダメかい?」

「ダメです。」

「うぅむ、残念だ。」

本当に残念そうな顔をするバロン。

彼が何と言おうと俺は彼に頭の中を見せるわけにはいかない。

見せたが最後、どうなるのか俺には想像がつかない。

「随分と親しいんだな。いったい何をしている人なんだ?」

「えぇっと、彼はですね・・・。」

どういう風に説明するべきだろうか。

さすがに俺の両手に穴を開けましたとは口が裂けても言えないし・・・。

「私は魔族でね、君達人間の研究を主にしているのだよ。」

「「「「魔族!?」」」」

「いかにも。おや、なんでそんな顔をするのかな?別に君達を襲うつもりはないよ、私はただ彼に頼まれていたことを伝えに来ただけなのだから。」

「魔族がシュウイチさんに?」

「人を攫い人を食らう魔族が何故?」

「人を食らう?冗談じゃない、君達を食べたところで私の腹が痛むだけだよ。」

あ、お腹痛くなるんだ。

「魔族だなんて絵本の中にだけいるものだと思っていました。」

「君達人間とはあまり接しない様に決められているからね。僕はそんな事気にしないからこうやって人前にも出て来るけど、一応内緒にしてくれると助かるかな。」

「シュウイチに害を与えに来たわけではないのだな?」

「もちろんだ、そんなことをしようものなら彼女達に何をされるかわかったものじゃないからね。」

「魔族と知り合いがいるなんて、さすが御主人様です。」

あ、ユーリさんそこでそう来ますか。

別にさすがでも何でもないんだけど、っていうか君の存在の方が十分珍しいと思うよ。

「おや、貴方は人間ではないようですね。ですが確かに魂が存在する。うぅむ、興味深い。ちょっと体の中を見せてもらうことはできないかね?」

「御主人様に無断でそのような事をさせるわけにはまいりません、他を当たってください。」

「うぅむ、相変らずイナバ君の周りには私でも知りえないような物ばかりが存在するようだ。惜しい、本当に惜しい。」

「それはともかく、お願いしてあった事について教えていただけますか?」

「あぁ、そうだったそうだった。すっかり忘れていたよ。」

いやいや、そのために貴方はここに来たんじゃないんでしょうか。

相変らずマイペースな人だ。

「君に頼まれていた集団暴走スタンビートの件だがね、残念ながら原因を解明することはできそうにない。」

集団暴走スタンビート

突如起こる魔物の大暴走。

魔族である彼ならもしかしたら何か知っているんじゃないか。

そんな淡い期待を描いていたのだが、どうやらそう甘くはなさそうだ。
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