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第九章

呼び出された本当の目的は

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ププト様の館の前に馬車が停車すると騎士団員が先に降りて危険が無いか確認する。

俺が狙われているわけでは無いんだから大丈夫だとは思うんだが、そこは譲れないらしい。

まぁいいんだけどね。

「ようこそおいでくださいましたイナバ様。」

安全確認が終わり外に下りるとキッチリ90度にお辞儀をしたテナンさんが迎えてくれた。

「お久しぶりです。」

「御無事で何よりでございました。どうぞ中へ、プロンプト様とガスターシャ様がお待ちでございます。」

「私達はこちらでお待ちしております。お戻りになられましたら宿までお送りいたしますので御安心下さい。」

「そこまでしていただかなくても・・・。」

「いえ、最後まで護衛させてください。あの日の光景は騎士団全員の心に深く刻まれています。この街でもう二度とあのような事は起こさせない為にも最後までお送りしたいのです。」

そこまで言われて断る理由は何処にもない。

お願いしよう。

「少し時間はかかると思いますのでどうぞゆっくりしてください。」

「お気遣いありがとうございます!」

騎士団員がザっと姿勢を正し敬礼をする。

「では参りましょう。」

振り返りはしないが、恐らく館の中に入るまでずっと見送ってくれているんだろうなぁ。

ありがたい話しだ。

そこまでしなくてもという気持ちもあるが、人の善意を無碍にする理由は無い。

彼らは彼らの仕事を全うしたいだけなのだ。

「イナバ様は本当に沢山の方々に愛されておられますな。」

「そのようです。」

「あのプロンプト様がここまで入れ込まれるのは本当に珍しい事です。領主としてだけでなくどうか友人としても末永くお付き合いくださいませ。」

「私のようなものが友人だなんて光栄なことです。」

「身分にとらわれずハッキリとご自身の意見を仰るのはイナバ様ぐらいのものです。貴方様とお話されている時はそれはもう楽しそうにされておりますよ。」

楽しそうねぇ。

次はどうやって無理言ってやろうかとか思ってるんじゃないの?

なんていうと失礼か。

なんだかんだ言いながらも俺は俺であの人と話すの嫌いじゃないもんな。

「そうだ、テナンさんにお伺いしたい事があるんです。」

「私にでございますか?」

「ストリという方を御存知ですか?執事をされているんですが、テナンさんの事を知っているそうなんですが・・・。」

「はて、一度でもあった方のお名前は忘れないつもりではありますが存じ上げませんな。」

「そうですか・・・。」

と言う事はテナンさんの事を他所で聞いたか、若しくはストリという名前が偽名という可能性が出てきた。

「一度お会いしておればお顔を拝見できれば分かると思いますが、お力になれず申し訳ありません。」

「とんでもない!こちらこそ突然すみません。っと、そうだもう一ついいですか?」

「もちろんです。」

「ブレイズ家の執事をされている方の事は御存知でしょうか。」

ストリさんでは無い事は分かっている。

ならば本物の執事のことなら知っているだろう。

「ブレイズ家、王妃殿下の御実家でございますな。先代の執事は存じておりましたが昨年お辞めになりまして、今は若い執事が遣えていると聞いております。」

「かなりお若い?」

「まだまだ未熟者ですが、主様たっての希望で代替わりをしたと記憶しております。」

「大変参考になりました、ありがとうございます。」

「私などがお力になれたのなら光栄です。さぁ、どうぞ中へ。」

会話が終わったのがちょうど玄関の前だった。

大きな扉に関わらず何の音も無くスムーズに扉が開く。

某556のCMで使えそうなスムーズさだ。

エントランスは相変らず広く、調度品は全て綺麗に磨かれている。

さすがとしか言い様がない。

そしてその広いエントランスのど真ん中で待ち構えている人物が二人。

「良く来たな、待ちくたびれたぞ。」

「お久しぶり・・・って言うにはそんなに日は経っていないわね。」

質実剛健を地で行くププト様と、容姿端麗を粧で行くガスターシャ氏。

並ぶだけでは領主と美人妻って感じだが、ププト様は奥さんを亡くしているしガスターシャ氏は男だ。

ほんと人は見た目じゃないよな。

「お待たせして申し訳ありません、少し会議が長引いたものですから。」

「冗談に決まっているだろう、遠い所良く来てくれた。それと、よく生きていてくれた。」

「御心配をお掛けしました。」

「全くだ、死ぬなよと確かに言ったが目の前で死にそうになれとは言っておらんぞ。」

「私も好き好んで死にかけたわけではありません。」

「そしてその原因に王家が関わっていると言うではないか。相変らずやる事が派手だな。」

「それに関しても私から好き好んで関わっているわけではありませんので誤解しないでいただきたですね。」

誰が好んで王家のゴタゴタに首をつっこむんだよ。

今回は完全に被害者です。

「まぁまぁ無事だったのだから良かったじゃないですか。でもイナバ様、先日うちのタクスにあれだけの事を言っておきながら今度は王家だなんて、ちょっと生き急ぎすぎではありません?」

「あれはどのような方か知らなかったからで、御本人様には御理解いただいたと思いますが?」

「あれから大変だったのよ?貴方の案を国王陛下に御説明しなきゃいけなかったし、その次は議会への根回し、それから関係各所に問題点を洗い出しさせて・・・、まぁ実現させるにはもう少し時間がかかりそうね。」

「別に来年までにというわけではありません、どうぞしっかりと話し合って良い物に仕上げてください。」

「私も聞かせてもらったぞ、相変らず誰も考えないような事を思いつく男だなお前は。だがあの案は良い、農民の事だけではなく国の未来をも見据えている。仮に領地を絞って実験するのであれば喜んで手を上げさせてもらおう。」

あ、やっぱりププト様の耳にも入っていましたか。

ですよねー。

これから一番お世話になる相手だし、その人に認めていただけるというのは非常にありがたいことだ。

「言いましたね?実験台になっていただきますから覚悟してください。」

「こいつの案で失敗した事は無い、何の問題もないだろう。」

「いや、私だって失敗する事はありますよ?」

「失敗したからといって被害を受けるのは私だけだ、農民が潤うのであれば喜んでその苦を味わおう。」

「さすがプロンプト様、惚れますわ。」

「いくらガスターシャ殿でも私の目は亡き妻しか見えておらん、すまんな。」

相変らず言う事がかっこいいなぁこの人は。

奥さんに操を立てているんじゃなくて、それ以上に惚れる女はいないと来たか。

同じ男として惚れてまうやろー!

「皆様立ち話もなんですからどうぞ食堂へ、イナバ様は昼食を取られておられないそうですから軽い物を御準備させていただきます。」

「すみません助かります。」

「最近仕入れたチーズがあっただろう、あれも出してやれ。」

「そう言えばそのチーズもイナバ様が手を差し伸べられたとか、大変美味しいとプロンプト様も気に入られておりますよ。」

「なんだあれもお前が絡んでいるのか。まったく、どれだけ手広いのだお前は。」

「酪農の勉強をしに行った際にお願いされただけですよ。」

「そのお願いも叶えてしまったのでしょう?私も何かお願いしようかしら。」

顎に手を当てて何かを考え始めるガスターシャ氏。

貴方のお願いはププト様以上にシャレにならなさそうなので勘弁していただきたい。

その後場所を食堂に移し、軽食をつまみながら今の状況を説明する。

当初の作戦は教えるが、騙し返す方は極秘だ。

あくまでも敵を誘い出す作戦のみを二人に説明する。

「なるほど、それで敵を追い込むのか。」

「今のところこれが最初で最後の機会だと思っています。二度失敗すればレティシャ様が表に出てくることは当分ないでしょう。それがわかっているからこそ向こうは手を出さずるを得ないのです。」

「でもそれって本当に大丈夫なの?」

「正直わかりません、相手が何者かわからない以上それ以上の手が出せないのです。」

「それでだ、頼んでいた件はどうなっている?」

ププト様がガスターシャ氏に何かを訪ねる。

はて、何の話だろう。

「申し訳ありません、残念なことにまだ発見できておりません。」

「何か探しておられたんですか?」

「今回の被害者でもあるレティシャ王女の所在を探しているのだが見つける事が出来んのだ。そこで、彼に頼んだのだがダメだったようだな。」

「ブレイズ家にいるのではないのですか?」

「そのはずなんだが王都にある本家にはいなかったそうだ。この街にいるという話だけは聞くが、分家や別荘があるという話はここまで来ていない。さっきの話ではブレイズ家の執事が知っているようだが、教える気はなさそうだな。」

「その執事に関してもわからないことが多いのよね。今どこにいて何をしているのかすら不明、本当にブレイズ家の執事なのかしら。」

おっと、別ルートからもストリさんへの疑惑が出始めたな。

元老院副参謀、ガスターシャ氏の力をもってしても発見できないっていうのはすごいんじゃないだろうか。

「そうでないとしたら何者なのだ。今回の暗殺未遂を暴露しレティシャ王女を極秘にかくまえる人物など想像できんぞ。」

「所在をばらすと危険だからというのはわかるんですが、我々にも教えられないというのが困るんですよね。できるなら本人と話をしたいと思うんですが、なかなか難しそうです。」

「作戦決行日までまだ余裕はあるし、もう少し粘ってみるつもりよ。」

「すまないがよろしく頼む。」

「頑張ってください。」

「もぅ、他人事なんだから。」

プリプリ起こる姿も可愛らしいガスターシャ氏。

だが忘れる事なかれ、彼は男だ。

しかもこの国で一番強い男だ。

元老院副参謀の他にどれだけの肩書を隠し持っているんだろうか。

うーむ、わからん。

「話は変わりますが、今日は別の件でもお願いがあってきたんです。」

「今回の件とは別にか?」

「村の入植計画について何ですが、イアンさんはいらっしゃいますか?」

「あいつは今休暇中だ、次の休息日までは帰って来んぞ。」

「そうでしたか、困ったな。」

無事休暇をとることはできたようだな。

だがそうなると相談する相手がいなくなってしまう。

イアン以外にここで知っている人いないんだよなぁ。

「私ではまずいのか?」

「そんなことはありませんがよろしいのですか?」

「我が領内の話であれば私が効かなくてどうする。それで、どうすればいいのだ?」

「ここに入植希望者の詳細を記載してあります、街の目立つ所に陰日明けまで掲示していただきたいのです。」

「ふむ、見せてもらおうか。」

村に寄った時にタイミングよく村長から託されたものだ。

それをププト様に手渡し読み終えるのを待つ。

「確か灌漑工事をするんでしたわね。」

「えぇ、冬の間に終わらせれば来年の作付を今年以上に増やすことができます。」

「まだまだ大きくなるとは聞いていたけど、やることが大胆ねぇ。」

「たまたまいろんなことがうまくかみ合っただけですよ。」

「本当かしら。」

別に俺が根回ししたわけじゃない、偶然がたくさん重なって出来るようになっただけだ。

「読ませてもらったが、本当に10人しか募集しないのか?」

「と、いいますと?」

「正直に言うがこの計画にはかなりの人間が募集するぞ。それだけの夢がここには書かれている。」

「本当ですか?」

「私が嘘を言ってどうする。応募が多い場合はどうするつもりだ?」

「一応面接するつもりですが・・・、その感じですとそれも難しそうですね。」

「面接だけで冬を越す可能性もある、もう少し条件をきつくするか抽選にしてその中から面接にするべきだろうな。」

「・・・わかりましたそれで進めてください。」

領主様直々に計画を確認してそう判断するのだから俺が口を出す部分はない。

まぁ何とかなるだろう。

「わかった、明日の朝一番で人通りの多い場所に掲示しよう。経過はニッカに知らせるから彼から詳しく聞いてくれ。」

「わかりました。」

これで別件も終了だ。

スムーズに終われてよかった。

「あら、イナバ様落とし物よ。」

その時だった、ガスターシャ氏が床に落ちていた布をひょいっと拾い上げる。

一瞬胸元に目が行くが、当たり前だがそこに谷間はなかった。

谷間があればそこに目が行ってしまうのは男の悲しい性という物だろう。

例え相手が男だとしても、見た目が女性で谷間が見える服を着ていたとしたらそこに目が行ってしまう。

悔しいけどこれが現実なのよね。

「すみません、書類と一緒に出てしまったようです。」

「可愛らしい布ね、奥様から?」

そう言えばこの布は誰のだろう。

エミリアのでもないしニケさんでもユーリでもない。

もちろんシルビアから預かったわけでもないが・・・。

俺は記憶を巻き戻しどこから来たのかを思い出す。

これは確か・・・。

「そうだ、この前サンサトローズを離れる時に少年から頂いたものです。」

「子供にも好かれているのか、私など怖がられてばかりだというのに。」

「違いますよ、先日市場で荷物を取られた少年を助けましてそのお礼にロロップと一緒にもらったんです。」

「そういえば騎士団が盗人を放り投げた主を探していたな、これもまたお前か。」

「盗人を放り投げた?」

「あぁ、放り投げたはいいがすぐにその場から逃げ去ったらしい。」

「別に逃げたのではなくてその後に用事が詰まってまして・・・。」

「それを逃げたといわずしてなんというのだ。」

やばい。

ここにきて事情聴取をバックレたツケが回ってきた。

なんでププト様が市場の小さな窃盗事件を把握してるんだよ。

何者だよこの人。

「争い事には縁遠い方と思っていましたが意外と武闘派だったんですね。」

「そういう事はもっぱらシルビアの管轄ですよ、たまたまですって。」

「それで少年からロロップを?あらこの紋章は・・・。」

拾った布を見てガスターシャ氏が何かに気づいた。

「どれ私にも見せてみろ。・・・これはデアード家の紋章だな。」

「デアード家?」

「この街で古くから続く貴族だ。普段は王都にいてこっちには戻っていておらんはずだが、もしかすると誰かが来ているのかもしれんな。」

「デアード家といえば王都でも指折りの名家ですわね。最近は家族が宝石関係の店を出して流行っているとか。」

「お嬢様がどうのと言っていましたからおそらくその家の使用人の子だったのでしょう。」

「あそこは息子ばかりだと思っていたが、私の記憶違いかもしれんな。」

思わぬところで持ち主が判明してしまった。

デーアド家ねぇ。

「それよりだ、今日はまだ時間があるのだろう?今度南方の視察に行くのだがこの前の集団暴走スタンビートで民たちが怯えていてな、ぜひお前の知恵を借りたいのだ。」

「あ、ずるい!私も今度貴族院に提出する議題について意見をもらおうとしたのに!」

「ふははは早い者勝ちよ、それでだ率直な意見を聞きたいのだがどう思う?」

「いやどう思うといきなり言われましても、今日は先の件を話し合うために呼ばれたのでは?」

「もう話し合ったではないか。作戦は決行され現在準備段階であり、作戦が進行するまでいくばくかの時間がある。その間お前にできることは何もないのであろう?ならばそ空いた時間を有効に使うべきではないか?」

「その通りです、ぜひイナバ様の知恵をお貸しください。」

いや、まったく意味が分からないよ!

確かに報告はしたしいくつか意見はもらったけど・・・。

「まさか今日呼ばれたのはこれが目的ですか?」

「何を人聞きの悪い。空き時間ができたから有効に時間を使っているだけだ。なぁアーシャ殿。」

「もちろんですわ、私もププト様も先ほどの話を聞くために来たんですもの。」

嘘つけ!

急にフレンドリーに話し始めやがって。

どう考えてもこっちが目的じゃないか。

「そもそもそのような重要な話に私の意見を取り入れるというのはいかがなものでしょうか。」

「何を言う、今や元老院の長もが認める知識人だぞ。その人間の知恵を借りて何が悪い。」

開き直った!

「その通りですわ、まだ日は高いですしたっぷりお相手してくださいませ。」

「宿は決まっているのだろう?ちゃんと送り届けてやるから安心して知恵を貸せ、な?」

「最初はププト様にお譲り致しますわ。ですが次は私の番ですからね。」

「わかっておる。でだ、南方は魔物の種類が多い割には村々の防衛が希薄でな騎士団で巡回をしているものの追いついていないのが現状だ。冒険者をうまく利用できればいいのだがお前はどう思う?」

だめだ、どう考えても帰らせるつもりがない。

早く終わったらゆっくりしようとか思っていたけどそんな暇すら与えてくれないようだ。

結局どっぷり日が沈むまでつき合わされ、疲労困憊で宿へと戻るのだった。

遅くまで外で待たせた騎士団員達にも同情される始末。

ほんと勘弁してほしいよ。
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