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第九章

少女が欲しいと願う物

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村唯一のポーション職人シャルちゃんに呼ばれて向かったのは、セレンさんの家ではなく何故か開発の進む広場南側だった。

何でこんな所に?

「すみません忙しいのに。」

「ちょうど用事が終わった所ですので大丈夫ですよ。」

「よかった。」

「ポーションの納品ですか?ちょうど在庫がなくなってきたのであれば助かりますが・・・。」

「それなら昨日ナーフさんが来られて薬草を置いていってくださったのでいくつか出来てます。」

ナーフさんナイスタイミング!

NEWナーフになってから順調快調絶好調だな。

商店連合から仕入れると割高だから、シャルちゃんの納品が間に合うと非常に助かる。

うちは仕入れが安いし、シャルちゃんはお金を稼げるしで両者win-winの関係だ。

「って、そうじゃなくて!」

「え、じゃあ魔力ポーションのほうでしたか?」

「そっちでもなくて、すみませんお仕事の話じゃないんです。」

おや、仕事の話じゃなかったのか。

それは申し訳ない事をした。

早とちりはいかんな。

「すみません勘違いしました、それでどうしたんですか?」

「えっと、その・・・。」

急にもじもじしだすシャルちゃん。

なんだろう、トイレにでも行きたいんだろうか。

自慢のウサ耳がシュンと下を向いている。

でもここで発言を誤ると当分口聞いてもらえ無さそうだしなぁ。

難しいお年頃でございます。

ここは様子を見ておこう。

「ゆっくりでいいですよ。」

「あ、あの!お家って幾らから買えますか!?」

「え、家ですか?」

「はい!」

シャル、家を買う。

って家!?

「買えないことは無いと思いますが、今は入植者用の家を建築していますから販売用というのは先になるかもしれませんよ?」

「そうですか・・・。」

答えを聞いて再び耳と共にシュンと項垂れてしまった。

うーむ、言い方を誤っただろうか。

でも家なぁ。

何か理由がありそうだ。

「急にどうしたんですか?私でよければ相談に乗りますが。」

「でも御迷惑じゃ。」

「ここまで聞いて何もしない方が心配です。勝手ながら保護者としてしっかり聞かせていただきます。」

「イナバ様・・・ありがとうございます!」

この村の大人全員が保護者みたいなもんだけど、一応ね。

「それで、何か嫌な事でもあったんですか?ウェリスに何かされたとか。」

「そんなことないです!セレンさんもウェリスさんも本当のお父さんやお母さんみたいに優しいですし、ティオもすごく懐いています。」

「それはよかった。」

「でも、その、仲が良すぎて逆に申し訳なくて・・・。」

「申し訳ない?」

「本当は二人っきりで過ごしたほうがいいのに、私達が邪魔しちゃって・・・。」

はは~ん、なるほどなるほど。

つまりラブラブなウェリスとセレンさんの邪魔をしたくないと言う事だな。

なんだよ、口では俺はすぐいなくなるからとか言っておきながらやることやってるじゃねぇか。

今度詳しく聞きだしてやろう。

「つまり二人の為に家を出たいんですね。」

「それもですし、調合の時って結構臭いがすごいんです。あ、作る時は全然なんですけど薬草とか毒消しとかを磨り潰したりしてるとどうしても。セレンさんお料理好きなのに臭いのせいでこの前失敗しちゃったんです。」

「セレンさんも失敗ぐらいしますよ。」

「でもでも今までは失敗したことなかったのに、急にお料理の味が変わっちゃったりとか。絶対私の調合のせいなんです、だから!」

「だから家を出たいんですね。」

「はい・・・。」

なるほどなぁ。

自分のせいでセレンさんの調子が悪くなってしまったと思っているわけか。

本人に行っても『そんな事ないよ』とか言われちゃうんだろうなぁ。

それで気に病んでしまったのか。

なんて健気なんだ。

おじちゃん感動しちゃってちょっと涙が・・・。

「すぐに、とは言えないけれど何とか出来ないか考えてみます。ちょうど宿の横に出す店の話しをしていた所ですし・・・そうだ!シャルちゃん自分のお店持ってみませんか?」

「私がですか!?」

「えぇ、家で調合するのも店で調合するのも同じ事ですよね。店舗兼住居なら家を持ちつつポーションを販売することも出来ます。今は私のお店に卸して頂いていますが、ゆくゆくは自分で冒険者相手に販売したほうが利益も出ますし、今後税金をどう納めるのかって話しも出てくるでしょうから、今のうちに別にお金を稼ぐ方法を考えてもいいと思うんです。」

商店にポーションをおろしてもらっているのは自立を促す為だ。

いずれは独り立ちしてティオ君を養っていかなければならない。

酷な話しだが何時までも俺や村におんぶに抱っこというワケにも行かないからね。

今後は村の稼ぎ頭として頑張ってもらわないといけないし。

うん、我ながらナイスアイデア。

「でもでも私なんかに出来るんでしょうか。」

「村が定期便の終点で冒険者がダンジョンに行くには西門を通らねばなりません。そこに商店よりも安くポーションを買える店があるとなれば間違いなく冒険者は買っていくでしょう。別にポーションに拘る必要はありません、他に販売できるものがあれば自由に販売してもらって結構です。」

「でもそれじゃあイナバ様のお仕事の敵になるんじゃ。」

「そのほうが商売というのは上手く行くものなんですよ。」

独占販売というのは非常にうまみがある。

そこでしか買えない、だからそこで買う。

これでは『仕方なく』という言葉が隠れていても気付く事ができない。

でも比較するお店があれば客は求める店で買うことが出来るようになる。

これは全体的に見て顧客満足度が上がったと言えるだろう。

遠くて安い店と、近くて高い店。

もちろん安い店で買いたいというのが当たり前だが、わざわざ二件はしごする位なら高いけど近い店でまとめて買ったほうがいいと思う人がいてもおかしくない。

俺達はそれを狙った販促を展開すればいいだけだ。

「私なんかにできるかな。」

「お店ができるにしろまだまだ時間があります、それまで考えてみてください。それまでは申し訳ありませんが今まで通りでお願いします。」

「大丈夫です、聞いてもらってちょっとスッキリしました。」

「それならよかった。今度サンサトローズに行ったら何かお土産買ってきますね。」

「はい!」

うん、いい返事だ。

宿や商店ができるまでまだまだ時間がかかる。

それまでは今まで通り頑張ってもらうしかないだろう。

どうしてもというのであれば作業用に小さな小屋でも作ってもらえばいい。

それぐらいならそんなに時間かかることはないだろう。

シャルちゃんと別れて商店に戻る。

時間的に昼の中休み頃か。

随分と陽が傾くのが早くなったなぁ。

この感じじゃ冬になったらこの時間に陽が木々の向こうに沈んでしまうだろう。

そうなると一気に暗くなる。

よっぽど田舎に行かないと街灯が無い道なんてなかった。

この世界じゃランタンか松明が無いと一歩先も見えなくなってしまう。

まるで今の俺達のようだ。

関わっている話が大きすぎて先が見えない。

いったいどうなるのか。

それもまぁ、次の聖日まではお預けか。

「なるようになるさ。」

俺の小さな呟きは秋の風に吹かれて森の奥へと飛ばされてった。


「と、いう事で入植者募集の告知を出すことになりました。」

「なんだかんだで後半年ですからちょうど良い頃合いかと思います。」

「村に人が増えるってなんだかうれしいですね。」

「最初は冬の工事と春の作付を見越した入植になると思いますが、軌道に乗れば少しずつ人を増やしていく予定です。」

「にぎやかになりますね。」

夕食後、食事担当の淹れてくれた香茶を飲みながらミーティングをするのがうちの日課だ。

今日何があったのか、どんな話を聞いたのか。

冒険者の小さな噂話が重要な場合だってある。

それをみんなで共有すれば自分だけでは思い浮かばなかった妙案が浮かぶことだってある。

小さな店だからこそこの時間が重要なんだ。

「それとシャルちゃんから相談を受けたんです、セレンさんの所から独立したいそうです。」

「シャルちゃんがですか?」

「えぇ、二人が良い雰囲気なので邪魔をしたくないとの事ですが製薬の時に出る臭いでセレンさんが困っていると言っていました。最近よく料理で失敗するとか。」

「あ、それは私も思いました。今日のお昼ご飯ちょっとしょっぱかったですよね。」

「私の勘違いだと思っておりましたがニケ様もそう思われましたか。」

おや、そうだったのか。

今日は村に行ってたから食べれなかったんだよね。

「エミリアはどう思いました?」

「私もちょっとしょっぱいかなとは思いましたけど、美味しかったですよ?再開してからずっと忙しかったですしお疲れなのかもしれませんね。」

「注文を間違えてしまう事もありましたし、リア奥様の言うようにお疲れなのかもしれません。」

「明日から少し様子を見ましょう、しんどそうでしたら休んでもらってその間はユーリに厨房をお任せします。注文は私が聞いて回りますので。」

「セレン様に鍛えられた腕がなります。」

鍛えられたのか?

まぁユーリにとってセレンさんは師匠みたいなものだからなぁ。

師匠の代役を頼まれて燃えないはずもないか。

「シャルちゃんの言う臭いではないとなると心配ですね。」

「急に『家はいくらで買えますか!』って聞かれてどうしようかと思いましたよ。」

「それはびっくりしますね。」

「宿の横に商店があると便利だねという話も出ていまして、そこにお店を出してみませんかと話をしています。いずれは独立しなければなりませんしいい機会だと思うんです。」

「それは良いお話だと思います。私も家が健在であればシャルちゃんぐらいの時に一軒店を任せるという話を貰いましたし、あそこなら村の人も冒険者も来ますからお客さんに困ることはないですね。」

シャルちゃんぐらいで店を一件任せるって、ニケさんのご両親もなかなかやるな。

その頃は失敗しても問題ないぐらいの売り上げがあったんだろう。

世の中どうなるかわからないなぁ。

「ではポーションの納品はおしまいですね。」

「余力があるのであれば引き続き納品してもらうつもりですが、忙しくなるのであれば見送るしかないでしょう。うちとしては良い取引先ですが村にお金を落とすためにも致し方ありません。」

「これからは商売敵になるわけですね。」

「敵まではいきませんが良い刺激にはなると思います。うかうかしていると売り上げを抜かれてしまうかもしれませんよ。」

「その心配には及びません。リア奥様にニケ様がいれば商店は安泰です。」

「つまり私は必要ないという事ですか?」

「御主人様は別にしなければならないことが多すぎて戦力に数えることはできません。欲を言えばもう一人一緒に働ける仲間が増えると良いのですが。」

「やっぱりそう思いますか。」

人手不足だと感じていたのは俺だけじゃないんだな。

二人とは言わない、せめてあと一人いれば店や宿が忙しくなっても余裕をもって回せるんだがな。

「シルビア様が戻られても商店ではなく村の方に行かれると思いますので、やはりあと一人いれば嬉しいです。」

「とはいっても誰でもいいというわけじゃないんですよね。」

「そうですね、ニケさんの様に計算ができて道具についても良く分かっている人が嬉しいです。もちろん全く知らなくても少しずつ覚えてもらえればいいんですけど、できれば即戦力が嬉しいですね。」

どの社会も即戦力を求めるのか。

どこからかヘッドハンティングしなきゃいけないかなぁ。

計算ができて冒険者の道具にも精通している。

出来れば素材についてもわかっているとうれしいよな。

となると、元冒険者とか元商売人とかになるんだけど・・・。

そんな都合のいい人いるだろうか。

うーむ。

「ひとまずこの話は今回の件が無事に終わってからですね。あれが片付かないことには次に進める気がしません。」

「今日もいくつか噂話を聞けましたが、噂を聞けば聞くほどレティシャ様がどんな人なのかわからなくなります。」

「今日はどんな話でしたか?」

「魔物になって夜な夜な街を徘徊して、若い男の精を集めて回っているとかでした。」

「うーん、そこまで行くと出鱈目のように感じますね。脚色されすぎて原形を留めていない感じです。」

「ですが、どれにも共通するの内容があるんです。」

うん、なんとなく予想はついている。

「どの話にも『若い男性』が出て来るんですね。」

「そうなんです!」

「ニッカさんの所でも似たような話を聞きました、昨年ブレイズ家が若い男手を募集していたとか。余力が無く村からは誰も行かなかったそうですが、離れた村にまでそんな話が来るなんてよっぽどですね。」

「ではこの噂は1年以上前から続いているという事ですか?」

「1年前の話が今になって噂として流れてきただけかもしれません。シルビア様暗殺未遂として世間に周知されていた時には全く聞かなかったのにレティシャ様暗殺未遂と情報が流れたとたんにこの状況です。いくら噂好きの冒険者としても些か噂が過激になりすぎですね。」

「ではこの噂は意図的に誇張されていると?」

「あくまでも可能性の話ですが、ゼロではないと思います。」

でもそうする理由がわからないんだよな。

暗殺未遂の報を流出させて三日。

犯人を慌てさせる為に流したはずなのに気づけばレティシャ様を悪く言う為に利用されているような感じだ。

仮にストリさんが怪しいとしても、わざわざ世間の目を悪くする理由がわからない。

悪人に仕立て上げて被害者という認識を変えさせたいのだろうか。

でも変えた所で何の得があるというんだ?

それで王女の地位を奪えるとも思えないし・・・。

うーん、何が何やらさっぱりわからないや。

「まぁ今は情報を集めるしかすることはありません。フェリス様から何か情報が来るまで今まで通りでよろしくお願いします。」

「「「はい。」」」

現状維持はもどかしいが致し方ない。

派手な仕事が偉いわけではない。

何事も地道にコツコツと。

小さな仕事を積み上げてこそ大きな仕事へとつながるというものだ。

頑張ろう。

とか言っていたはずなのに・・・。

「シュウイチさん、フェリス様から連絡が来ました!」

翌朝エミリアが部屋に飛び込んできた所から、話は大きく動き出すのだった。
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