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第九章
どんな村に住みたいですか?
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閉店前の店内で頭を抱える四人。
そう言えばあの人がここに来たのもこんな時間だったっけ。
閉店作業をしていてふと入り口を見たらそこにもうストリさんがいた。
俺を頼ってわざわざここまでやって来た。
でもさ、あの日は定期便が出る日じゃない。
にもかかわらずあの人はここまでやって来た。
どうやって?
いや、歩いてしかないよね。
歩いてこれない距離じゃないし、魔物が出ないわけじゃないけどエンカウントする可能性は非常に低い。
見た目はあれだけど年齢以上に元気だ。
何処からともなく物を出す実力者でもある。
背中にチャックがある系の人物と考えてもおかしくはない。
もしくはあの見た目は作り出した物で、実際はものすごく若いとか。
でもそれをする意味はあるのか?
俺に王女救出を依頼する理由がわからない。
俺しかできない、あの人はそう言い続けた。
でも、なんで俺にしかできないのか。
それは一度も言ったことないよな。
「うーん、考えれば考える程訳が分かりません。」
「そもそもストリ様はブレイズ家の執事ではないのでしょうか。」
「それに関しても今は何とも言えません。ただ言える事は全てを信じることはできなくなったという事です。」
「私たちに話したことは嘘だったんでしょうか。」
「ニケさんの言うように絶対に嘘とは言えませんが、絶対に信じられるものでもなくなってしまいました。矛盾はありませんでしたし信じるに足る情報だと確信していました。ですがその確信がどこから来たのか、今となっては思い出すことができません。」
まるで何かに化かされたようだ。
狐につままれたようだ。
なんて言う言葉がしっくりくるかもしれない。
「調べてみる必要がありますね。」
「そうですね、もし嘘なのであればその理由も突き止めなければいけません。」
「御主人様、他の皆さんにお知らせしますか?」
「いえ、それはしません。」
「どうしてですか?」
「もし知らせてそれがストリさんに漏れれば話がややこしくなります。敵を欺くにはまず味方から、この件も最初の作戦同様に他に漏らすことはできません。」
「なるほど、イナバ様の作戦そのものも欺くわけですね。」
「シルビアやティナさんに嘘をつくのは申し訳ないですが、こうしなければならない理由があったとわかれば許してくれるでしょう。」
人の口に戸は立てられぬ。
隠し事は絶対にどこからか漏れてしまう。
だからこそ漏れる可能性のある場所は減らす方がいい。
幸いここは舞台となるサンサトローズから一番離れている。
冒険者は来るが騎士団員が来ることはまずない。
接点は少ないのが一番だ。
「これからは最初の作戦を進行しつつストリさんの裏を探す必要があります。実はフェリス様にはストリさんが怪しい事は伝えてあるんですよね。」
「「「えぇ!」」」
「作戦会議をした日を覚えていますか?あの日の休憩時間にそっと伝えておいたんです、ストリさんを調べてくれませんかって。」
「疑わしいとわかっていながら作戦を決めたんですか?」
「言ったように敵を欺くためには味方も欺かねばなりません。あの時はあくまでも可能性の一つとしてストリさんを疑っていたのですが、ここにきてそれが正しかったと思えてきました。あの時感じた視線は間違いじゃなかった。」
「視線?」
「えぇ、どこか冷めた目で私達を見つめる目。まるで必死に作戦を考えている私達をあざ笑うかのような感じでした。」
あれだけみんなが盛り上がっていたのに、ストリさんの目が一瞬だけ醒めたのを俺は見逃さなかった。
この人には何かある。
あるけれど、それが何かというところまで考える時間はなかった。
でも今日改めて思い返すとやっぱり怪しい。
怪しすぎるというのは時として怪しくないように見えてしまうのかもしれない。
「では、フェリス様は独自に調べてくださっているんですね。」
「そのはずです。あの方の人脈を使えば秘密裏に私達が見つけられない『何か』を見つけてくれるでしょう。」
「それを待つしかないわけですか。」
「ニケさんやユーリには引き続き冒険者からの情報収集をお願いします。エミリアにはフェリス様と連絡を取りあってもらいストリさんの調査をお願いします。ブレイズ家のレティシャさんが何者なのか、ストリさんの狙いは何なのか。当初の作戦と並行しながらこれを探る必要がありますが、幸い私達がすることはあまりありませんでしたから何とかなるでしょう。」
「御主人様はどうされるんですか?」
「私は当初の作戦を練り上げます。ストリさんが何者であれ実行犯とは別に犯人がいるというのは間違いないと思っています。作戦が漏れているのであればそれを上回る作戦を考えればいいだけの話です。」
敵が裏をかいてくるのなら、敵の裏の裏をかけばいい。
そういうのはこれまで何度も経験してきた。
もちろんゲームの世界でね。
FPSは得意じゃないけれどF〇14でフロント〇インは何度も経験してきた。
敵の裏をかく快感。
あれは癖になるね。
もちろんそれだけじゃないけれど、ゲームで培ってきたこの考察力は決して無駄にならないはずだ。
え、それを仕事で使って来たらよかったじゃないかって?
取引先を欺いてどうしますか。
そういうのはゲームだけで十分です。
「イナバ様はいつもこんな風に難しいことを考えておられるんですね。」
「いつもじゃないですよ?今日の朝ご飯は何かなとかお腹空いたなとかお昼ご飯は何かなとか考えています。」
「ふふふ、ご飯ばっかりですね。」
「あ、そう言えばそうですね。」
別にそれだけじゃないですよ?
男ですから口に出せないあんなことやそんなことも妄想しております、ムフフ。
妄想せずにさっさと手を出せばいいと思たユーリさん、黙ってなさい。
「むぅ、ご主人様に先を越されました。」
「いつまでもやられてばかりだと思わないことです。」
「つまりイナバ様も男という事ですね。」
「な、どうしてばれたんですか!」
「イナバ様はすぐ顔に出てしまいますから。」
な、なんだってー!
それじゃあ今まで人には見せられないような顔を外でもしていたというのか。
「そ、そんなに顔に出ます?」
「はい、結構出ておられます。」
「ご存じなかったのですか?」
「シュウイチさんの百面相も好きですよ。」
さらっと告白するのはやめていただけませんかねエミリアさん。
これからは心の声だけじゃなく表情にも注意しなければならないのか。
ポーカーフェイスとか苦手なんだよな。
困ったなぁ。
「御主人様が困っておられるようですのでこの辺で終わりにして食事にしましょう。」
「今日の夕食当番は誰でしたっけ。」
「あ、私です!」
「ニケ様お手伝い致します。」
「助かります。」
「ほら、シュウイチさん行きましょう。」
エミリアに手を引かれ商店の裏口へと向かう。
うーむ、どうしたものか。
何とかしなければと思えば思うほど変顔をしている自分に気付く。
もうストリさんの正体とかどうでもよくない?
と、夕食を食べながら思うのだった。
とは言ったものの、ストリさんの件も重要である。
でも、情報が集まるまでは何も出来ないわけで。
そんな時は自分の仕事をするだけだ。
翌朝。
開店の第一波を無事にやり過ごした後エミリア達に店を任せて村へと向かった。
今日は今後の予定である移住計画の打ち合わせの日だ。
「移住に関してですが収穫も終わりましたし具体的な話しを詰めていこうと思うんです。」
「そうですな、春の作付けには間に合わせたい所ですしそろそろ詰めておくべきでしょう。」
「具体的には何人募集するんだ?人が増えるのは構わねぇが急に増えれば他のやつらがいい顔しねぇぞ。」
「もちろん一気に増やすつもりはありません。段階的に募集して最終的に20人は増やしたい所です。」
来年の夏までの目標が、金貨20枚の利益とダンジョン15階層そして村人55人以上の達成だ。
元々は誘致だったが元現在の村をそこまで大きくすることで商店連合に了承してもらっている。
元の住人とセレンさんの所にいるシャルちゃんとティオ君を入れて現在34人。
やっぱり20人は増やさないとダメか。
「20人か、冬の大工事を考えると早めに半分は集めたい所だ。」
「ということはあと二ヶ月で10人の募集ですね。」
「問題は住居ですな、ドリスどうなっている?」
「広場の南側に作っている共同住居が出来れば問題ねぇ。収穫も終わったしな、このまま行けば花期には出来上がるだろうよ。」
「宿はどうですか?」
「あっちはまだ計画段階だ。測量の結果の通りお前ん所に近い西側を宿にするとして、それだけじゃちと寂しいな。雑貨屋か食い物屋があれば繁盛するんだが・・・。」
ふむ、商店に飲食店か。
確かにあると村にお金が落ちるし便利だろう。
だがその辺はお金がからんでくるしなぁ、商店は特にうちと被るから嫌がるところも多いだろう。
うちはあくまでも冒険者相手だが、ここだとその両方を相手にしないといけないわけだし。
「それに関してはしっかりと話し合う必要がありますね。ひとまずは宿の建築を最優先にして時間の余裕を見て考えましょう。」
「どんな奴が来るかもしっかりと見極めねぇとな。ろくでもない奴なら村からたたき出してやる。」
「そこはオッサンとウェリスに任せます。」
「住居の問題がないのであれば早いうちに告知を出しても良さそうですな。予定は10人、募集が多い場合は面接ということでよろしいですかな?」
「多すぎる場合はどうします?」
「こんな村にそこまでこねぇよ。」
「ドリス、折角イナバ様が頑張ってくださっているのだ、そんな言い方するでない。」
つまりは俺が頑張っていなかったら来ないのは仕方ないと言う事か。
ニッカさんも中々言うなぁ。
「あくまで仮定の話です。20人以上来た場合は事情や状況を勘案しつつふるいにかけるしかないですね。」
「できるなら若くて健康な奴がいいな、これからの奴は結構重労働だ。」
「裏方の仕事が多いと女達から不満も出ている、そっちを解消できる人材も選ばねば。」
「そのあたりは皆さんにお任せします。この村に相応しい方を迎えてあげてください。」
「イナバ様に要望は無いのですかな?」
「そうですね、村の男性達に良い未来が来るような人がいいですね。外からも大事ですが、やはり中から大きくなるのが一番です。」
入植者ばかりが増えるといずれ古参の住人との不和が起きてしまう。
一番は村の中で住人が増えることだ。
幸いウェリスも含め村の女性陣と恋仲になった者も多い。
来年ぐらいには子供が増えてもおかしくないだろう。
そうなって困るのは村の男達だ。
彼らの未来についても考えていかないとな。
「確かにそうですな。」
「街に行って変なの見つけてくるよりかよっぽどましか。」
「冒険者の中には戦いに疲れて身を固めたいと思う人もいるでしょうし、そういった人を受け入れる方法もあります。」
「それは良いな、何時までも騎士団に任せっぱなしってのは良くねぇ。」
「その点冒険者であればそれなりに実力もあり、イナバ様のお膝元で悪さをすることは無いでしょう。なるほどさすがですな。」
いや、そこまで考えていなかったんですけど・・・。
でもまぁそういう風になってくれるのが一番だ。
膝に矢を受けてしまってな。
なんてのは危険の多い冒険者にはよくある話だろう。
もっとも、本当に魔物にやられたのか別の矢を受けたのかはわからないけれど。
案外そっちの募集の方が多かったりして。
その辺もまぁ募集をかければわかるだろう。
「募集締め切りは何時にしましょうか、早いほうがいいのであれば陰日までを期限にしてしまう手もありますが・・・。」
「それはどこまで人が集まるかじゃないのか?」
「あまり早すぎて人が集まらないのも勿体無いですな。」
「では様子を見てと言う事にしましょうか。」
「そもそも何処に募集を出すんだ?」
「サンサトローズで掲示していただく予定です。」
「まぁ地元がいいだろうな。」
たった20人に国中から募集をかけるわけにも行かない。
もっと何百人何千人なら国中でも有りかもしれないがこの人数じゃなぁ。
「ではイアンに連絡して掲示してもらいます、聖日ごとに募集状況を連絡してもらうようにしますのでそれを見て御判断下さい。」
「かしこまりました、イナバ様にはお手数おかけします。」
「そうだ、ニッカさんにお聞きしたい事があるんですけど。」
「どうされました?」
「レティシャ第三王女って御存知ですか?」
ニッカさんなら長年この国に住んでいるし、なにか知っているかもしれない。
息子さんはププト様の部下だしもしかしたら・・・。
「現国王の三女様ですね、お会いした事はありませんがお話程度でしたら存じております。」
「第三王女だって?おれは知らねぇなぁ。」
「どんな方か御存知です?」
「幼少の頃は動物を好むお優しい方だったと記憶しております、一度だけ領内の会合の際に拝見いたしましたが可愛いお方でした。まぁ、うちのシルビアの方が芯がしっかりしておりましたな。」
ここでさりげなく親バカしてくるあたりさすがニッカさんだ。
昔のシルビア様、写真があれば見たかったなぁ。
「大きくなられてからは御存じないんですね。」
「最近病を患われたとは聞いておりますが、それ以外は何とも。」
「ではブレイズ家については御存知ですか?」
「ブレイズ家、現王妃殿下の御実家でしたな。そういえば人を募集していると聞いた事があります。」
「人、ですか?」
「ネムリ殿から聞いただけですが、なんでも若い男手を探しているとか。」
若い男手ねぇ。
冒険者の噂話と合致するな。
「どうかされたのですか?」
「いえ、冒険者から噂話を聞いたのでニッカさんなら御存知かなと思っただけです。」
「村から人を出そうにも昨年は村に余力がなかったものですから詳しく聞かなかったのです。」
「あれからもう1年か、今年は忙しいが充実した冬を迎えられそうだな。」
「忙しくなりますが宜しくお願いします。」
「じゃあ告知の件頼んだぜ。」
「また連絡します。」
これでこっちも経過待ちか。
すぐに結果が出ないって言うのはもどかしいが、まぁ仕方ないよな。
俺は二人に挨拶をするとドアを開けて外に出た。
その途端、ドンっと何かにぶつかってしまう。
「す、すみません!」
「あれ、シャルちゃんどうしました?」
「イナバ様ちょうど良かった!実はお願いがあって、今大丈夫ですか?」
外に出て0秒で少女にお願いをされる。
前の世界でもそんな人生が良かったなぁ。
って良くある転生でこっちの世界に来たんじゃないんだから前世もクソもないか。
なんだか申し訳なさそうな顔でこちらを見るシャルちゃんに年甲斐もなくドキドキする32歳であった。
そう言えばあの人がここに来たのもこんな時間だったっけ。
閉店作業をしていてふと入り口を見たらそこにもうストリさんがいた。
俺を頼ってわざわざここまでやって来た。
でもさ、あの日は定期便が出る日じゃない。
にもかかわらずあの人はここまでやって来た。
どうやって?
いや、歩いてしかないよね。
歩いてこれない距離じゃないし、魔物が出ないわけじゃないけどエンカウントする可能性は非常に低い。
見た目はあれだけど年齢以上に元気だ。
何処からともなく物を出す実力者でもある。
背中にチャックがある系の人物と考えてもおかしくはない。
もしくはあの見た目は作り出した物で、実際はものすごく若いとか。
でもそれをする意味はあるのか?
俺に王女救出を依頼する理由がわからない。
俺しかできない、あの人はそう言い続けた。
でも、なんで俺にしかできないのか。
それは一度も言ったことないよな。
「うーん、考えれば考える程訳が分かりません。」
「そもそもストリ様はブレイズ家の執事ではないのでしょうか。」
「それに関しても今は何とも言えません。ただ言える事は全てを信じることはできなくなったという事です。」
「私たちに話したことは嘘だったんでしょうか。」
「ニケさんの言うように絶対に嘘とは言えませんが、絶対に信じられるものでもなくなってしまいました。矛盾はありませんでしたし信じるに足る情報だと確信していました。ですがその確信がどこから来たのか、今となっては思い出すことができません。」
まるで何かに化かされたようだ。
狐につままれたようだ。
なんて言う言葉がしっくりくるかもしれない。
「調べてみる必要がありますね。」
「そうですね、もし嘘なのであればその理由も突き止めなければいけません。」
「御主人様、他の皆さんにお知らせしますか?」
「いえ、それはしません。」
「どうしてですか?」
「もし知らせてそれがストリさんに漏れれば話がややこしくなります。敵を欺くにはまず味方から、この件も最初の作戦同様に他に漏らすことはできません。」
「なるほど、イナバ様の作戦そのものも欺くわけですね。」
「シルビアやティナさんに嘘をつくのは申し訳ないですが、こうしなければならない理由があったとわかれば許してくれるでしょう。」
人の口に戸は立てられぬ。
隠し事は絶対にどこからか漏れてしまう。
だからこそ漏れる可能性のある場所は減らす方がいい。
幸いここは舞台となるサンサトローズから一番離れている。
冒険者は来るが騎士団員が来ることはまずない。
接点は少ないのが一番だ。
「これからは最初の作戦を進行しつつストリさんの裏を探す必要があります。実はフェリス様にはストリさんが怪しい事は伝えてあるんですよね。」
「「「えぇ!」」」
「作戦会議をした日を覚えていますか?あの日の休憩時間にそっと伝えておいたんです、ストリさんを調べてくれませんかって。」
「疑わしいとわかっていながら作戦を決めたんですか?」
「言ったように敵を欺くためには味方も欺かねばなりません。あの時はあくまでも可能性の一つとしてストリさんを疑っていたのですが、ここにきてそれが正しかったと思えてきました。あの時感じた視線は間違いじゃなかった。」
「視線?」
「えぇ、どこか冷めた目で私達を見つめる目。まるで必死に作戦を考えている私達をあざ笑うかのような感じでした。」
あれだけみんなが盛り上がっていたのに、ストリさんの目が一瞬だけ醒めたのを俺は見逃さなかった。
この人には何かある。
あるけれど、それが何かというところまで考える時間はなかった。
でも今日改めて思い返すとやっぱり怪しい。
怪しすぎるというのは時として怪しくないように見えてしまうのかもしれない。
「では、フェリス様は独自に調べてくださっているんですね。」
「そのはずです。あの方の人脈を使えば秘密裏に私達が見つけられない『何か』を見つけてくれるでしょう。」
「それを待つしかないわけですか。」
「ニケさんやユーリには引き続き冒険者からの情報収集をお願いします。エミリアにはフェリス様と連絡を取りあってもらいストリさんの調査をお願いします。ブレイズ家のレティシャさんが何者なのか、ストリさんの狙いは何なのか。当初の作戦と並行しながらこれを探る必要がありますが、幸い私達がすることはあまりありませんでしたから何とかなるでしょう。」
「御主人様はどうされるんですか?」
「私は当初の作戦を練り上げます。ストリさんが何者であれ実行犯とは別に犯人がいるというのは間違いないと思っています。作戦が漏れているのであればそれを上回る作戦を考えればいいだけの話です。」
敵が裏をかいてくるのなら、敵の裏の裏をかけばいい。
そういうのはこれまで何度も経験してきた。
もちろんゲームの世界でね。
FPSは得意じゃないけれどF〇14でフロント〇インは何度も経験してきた。
敵の裏をかく快感。
あれは癖になるね。
もちろんそれだけじゃないけれど、ゲームで培ってきたこの考察力は決して無駄にならないはずだ。
え、それを仕事で使って来たらよかったじゃないかって?
取引先を欺いてどうしますか。
そういうのはゲームだけで十分です。
「イナバ様はいつもこんな風に難しいことを考えておられるんですね。」
「いつもじゃないですよ?今日の朝ご飯は何かなとかお腹空いたなとかお昼ご飯は何かなとか考えています。」
「ふふふ、ご飯ばっかりですね。」
「あ、そう言えばそうですね。」
別にそれだけじゃないですよ?
男ですから口に出せないあんなことやそんなことも妄想しております、ムフフ。
妄想せずにさっさと手を出せばいいと思たユーリさん、黙ってなさい。
「むぅ、ご主人様に先を越されました。」
「いつまでもやられてばかりだと思わないことです。」
「つまりイナバ様も男という事ですね。」
「な、どうしてばれたんですか!」
「イナバ様はすぐ顔に出てしまいますから。」
な、なんだってー!
それじゃあ今まで人には見せられないような顔を外でもしていたというのか。
「そ、そんなに顔に出ます?」
「はい、結構出ておられます。」
「ご存じなかったのですか?」
「シュウイチさんの百面相も好きですよ。」
さらっと告白するのはやめていただけませんかねエミリアさん。
これからは心の声だけじゃなく表情にも注意しなければならないのか。
ポーカーフェイスとか苦手なんだよな。
困ったなぁ。
「御主人様が困っておられるようですのでこの辺で終わりにして食事にしましょう。」
「今日の夕食当番は誰でしたっけ。」
「あ、私です!」
「ニケ様お手伝い致します。」
「助かります。」
「ほら、シュウイチさん行きましょう。」
エミリアに手を引かれ商店の裏口へと向かう。
うーむ、どうしたものか。
何とかしなければと思えば思うほど変顔をしている自分に気付く。
もうストリさんの正体とかどうでもよくない?
と、夕食を食べながら思うのだった。
とは言ったものの、ストリさんの件も重要である。
でも、情報が集まるまでは何も出来ないわけで。
そんな時は自分の仕事をするだけだ。
翌朝。
開店の第一波を無事にやり過ごした後エミリア達に店を任せて村へと向かった。
今日は今後の予定である移住計画の打ち合わせの日だ。
「移住に関してですが収穫も終わりましたし具体的な話しを詰めていこうと思うんです。」
「そうですな、春の作付けには間に合わせたい所ですしそろそろ詰めておくべきでしょう。」
「具体的には何人募集するんだ?人が増えるのは構わねぇが急に増えれば他のやつらがいい顔しねぇぞ。」
「もちろん一気に増やすつもりはありません。段階的に募集して最終的に20人は増やしたい所です。」
来年の夏までの目標が、金貨20枚の利益とダンジョン15階層そして村人55人以上の達成だ。
元々は誘致だったが元現在の村をそこまで大きくすることで商店連合に了承してもらっている。
元の住人とセレンさんの所にいるシャルちゃんとティオ君を入れて現在34人。
やっぱり20人は増やさないとダメか。
「20人か、冬の大工事を考えると早めに半分は集めたい所だ。」
「ということはあと二ヶ月で10人の募集ですね。」
「問題は住居ですな、ドリスどうなっている?」
「広場の南側に作っている共同住居が出来れば問題ねぇ。収穫も終わったしな、このまま行けば花期には出来上がるだろうよ。」
「宿はどうですか?」
「あっちはまだ計画段階だ。測量の結果の通りお前ん所に近い西側を宿にするとして、それだけじゃちと寂しいな。雑貨屋か食い物屋があれば繁盛するんだが・・・。」
ふむ、商店に飲食店か。
確かにあると村にお金が落ちるし便利だろう。
だがその辺はお金がからんでくるしなぁ、商店は特にうちと被るから嫌がるところも多いだろう。
うちはあくまでも冒険者相手だが、ここだとその両方を相手にしないといけないわけだし。
「それに関してはしっかりと話し合う必要がありますね。ひとまずは宿の建築を最優先にして時間の余裕を見て考えましょう。」
「どんな奴が来るかもしっかりと見極めねぇとな。ろくでもない奴なら村からたたき出してやる。」
「そこはオッサンとウェリスに任せます。」
「住居の問題がないのであれば早いうちに告知を出しても良さそうですな。予定は10人、募集が多い場合は面接ということでよろしいですかな?」
「多すぎる場合はどうします?」
「こんな村にそこまでこねぇよ。」
「ドリス、折角イナバ様が頑張ってくださっているのだ、そんな言い方するでない。」
つまりは俺が頑張っていなかったら来ないのは仕方ないと言う事か。
ニッカさんも中々言うなぁ。
「あくまで仮定の話です。20人以上来た場合は事情や状況を勘案しつつふるいにかけるしかないですね。」
「できるなら若くて健康な奴がいいな、これからの奴は結構重労働だ。」
「裏方の仕事が多いと女達から不満も出ている、そっちを解消できる人材も選ばねば。」
「そのあたりは皆さんにお任せします。この村に相応しい方を迎えてあげてください。」
「イナバ様に要望は無いのですかな?」
「そうですね、村の男性達に良い未来が来るような人がいいですね。外からも大事ですが、やはり中から大きくなるのが一番です。」
入植者ばかりが増えるといずれ古参の住人との不和が起きてしまう。
一番は村の中で住人が増えることだ。
幸いウェリスも含め村の女性陣と恋仲になった者も多い。
来年ぐらいには子供が増えてもおかしくないだろう。
そうなって困るのは村の男達だ。
彼らの未来についても考えていかないとな。
「確かにそうですな。」
「街に行って変なの見つけてくるよりかよっぽどましか。」
「冒険者の中には戦いに疲れて身を固めたいと思う人もいるでしょうし、そういった人を受け入れる方法もあります。」
「それは良いな、何時までも騎士団に任せっぱなしってのは良くねぇ。」
「その点冒険者であればそれなりに実力もあり、イナバ様のお膝元で悪さをすることは無いでしょう。なるほどさすがですな。」
いや、そこまで考えていなかったんですけど・・・。
でもまぁそういう風になってくれるのが一番だ。
膝に矢を受けてしまってな。
なんてのは危険の多い冒険者にはよくある話だろう。
もっとも、本当に魔物にやられたのか別の矢を受けたのかはわからないけれど。
案外そっちの募集の方が多かったりして。
その辺もまぁ募集をかければわかるだろう。
「募集締め切りは何時にしましょうか、早いほうがいいのであれば陰日までを期限にしてしまう手もありますが・・・。」
「それはどこまで人が集まるかじゃないのか?」
「あまり早すぎて人が集まらないのも勿体無いですな。」
「では様子を見てと言う事にしましょうか。」
「そもそも何処に募集を出すんだ?」
「サンサトローズで掲示していただく予定です。」
「まぁ地元がいいだろうな。」
たった20人に国中から募集をかけるわけにも行かない。
もっと何百人何千人なら国中でも有りかもしれないがこの人数じゃなぁ。
「ではイアンに連絡して掲示してもらいます、聖日ごとに募集状況を連絡してもらうようにしますのでそれを見て御判断下さい。」
「かしこまりました、イナバ様にはお手数おかけします。」
「そうだ、ニッカさんにお聞きしたい事があるんですけど。」
「どうされました?」
「レティシャ第三王女って御存知ですか?」
ニッカさんなら長年この国に住んでいるし、なにか知っているかもしれない。
息子さんはププト様の部下だしもしかしたら・・・。
「現国王の三女様ですね、お会いした事はありませんがお話程度でしたら存じております。」
「第三王女だって?おれは知らねぇなぁ。」
「どんな方か御存知です?」
「幼少の頃は動物を好むお優しい方だったと記憶しております、一度だけ領内の会合の際に拝見いたしましたが可愛いお方でした。まぁ、うちのシルビアの方が芯がしっかりしておりましたな。」
ここでさりげなく親バカしてくるあたりさすがニッカさんだ。
昔のシルビア様、写真があれば見たかったなぁ。
「大きくなられてからは御存じないんですね。」
「最近病を患われたとは聞いておりますが、それ以外は何とも。」
「ではブレイズ家については御存知ですか?」
「ブレイズ家、現王妃殿下の御実家でしたな。そういえば人を募集していると聞いた事があります。」
「人、ですか?」
「ネムリ殿から聞いただけですが、なんでも若い男手を探しているとか。」
若い男手ねぇ。
冒険者の噂話と合致するな。
「どうかされたのですか?」
「いえ、冒険者から噂話を聞いたのでニッカさんなら御存知かなと思っただけです。」
「村から人を出そうにも昨年は村に余力がなかったものですから詳しく聞かなかったのです。」
「あれからもう1年か、今年は忙しいが充実した冬を迎えられそうだな。」
「忙しくなりますが宜しくお願いします。」
「じゃあ告知の件頼んだぜ。」
「また連絡します。」
これでこっちも経過待ちか。
すぐに結果が出ないって言うのはもどかしいが、まぁ仕方ないよな。
俺は二人に挨拶をするとドアを開けて外に出た。
その途端、ドンっと何かにぶつかってしまう。
「す、すみません!」
「あれ、シャルちゃんどうしました?」
「イナバ様ちょうど良かった!実はお願いがあって、今大丈夫ですか?」
外に出て0秒で少女にお願いをされる。
前の世界でもそんな人生が良かったなぁ。
って良くある転生でこっちの世界に来たんじゃないんだから前世もクソもないか。
なんだか申し訳なさそうな顔でこちらを見るシャルちゃんに年甲斐もなくドキドキする32歳であった。
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