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第九章
久々の夫婦水入らずですってよ。
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一番の懸案事項は無事に片付いた。
もちろん他にも気になる所や不安な所はあるけれど、そこに関してはまぁ何とかなるような気がする。
今までも何とかなってきたんだし、これからも大丈夫だ。
だけどそう思っているのはどうやら俺だけのようで、思わぬ人物から商店再開を反対されてしまった。
「商店再開は時期尚早だ、情けない話しだがまだ犯人の手がかりすら掴んでいない。その状況で一番の被害者をサンサトローズから出すなど到底許す事はできない話だ。」
と、おかんむりなのはサンサトローズ領主ププト様だ。
騎士団にてシルビアと話し合った後、次に向かったのが領主様の館。
一応世話になったし、一言ぐらい挨拶しておこうと思ったのがまずかった。
俺だけが謁見を許され、お礼を言った途端にこの調子だ。
まさかこんな事になるなんてなぁ・・・。
「先程も申しましたように狙われたのはシルビア様であって私ではありません。これまで何度も再襲撃の機会はあったのにもかかわらず私が狙われなかったのがその証拠ではありませんか?」
「それは厳重な警戒に恐れをなして近づかなかっただけの話しだ。」
「では何時まで私はここに留まればいいのでしょう。」
「それはもちろん犯人が捕まるまでだな。」
だからそれはいつだよ!
と、キレたくなる気持ちをぐっとこらえる。
何せ相手は領主様だ。
一介の領民が領主様に歯向かうなど言語道断。
普通なら反論しただけで処罰されそうなものだが、まぁそこは友人だから許すということなのだろう。
「それでは何時戻れるか分からないではありませんか。」
「騎士団長暗殺など前代未聞の事件だ。それが未遂に終わったとはいえ、それだけ大それた事をしでかす組織がこのまま引き下がるとは到底思えん。失敗を恨みお前を狙う事だって十分にありえる。」
「私を狙った所でシルビアは死にませんよ?」
「それでもお前が邪魔をしたという事実は変わらん。それにお前はシルビア殿の旦那でもある、エサとしては十分すぎるぐらいだ。」
「つまりは私を誘拐してシルビアを誘き出す可能性があると?」
「絶対ではないが可能性は高いだろう。」
うぅむ。
このままではどう考えても俺が不利だ。
どうにかして許可を出してもらわねば。
「ではこういうのはどうでしょう、騎士団に護衛を出していただいて警護していただくというのは。」
「護衛を出すのは構わん、今も同じようなものだからな。だが、護衛を休ませる場所はあるのか?物資はどうする。緊急時の増援はどう手配するつもりだ?」
「休息場所は確保できます、物資は店の物を使えば問題ないでしょう。増援に関してはこことの距離がありますので早馬を使い、緊急時はダンジョンに逃げ込んで時間を稼ぎます。」
「資金はどうするつもりだ?」
「それぐらいの蓄えはありますよ。もし足りなくても稼げば問題ありません。」
稼ぐ為に商店を再開するんだ。
客のめぼしも付いている。
利益が減るのは苦しいが、今欲しいのは魔力だ。
お金は外部でも稼げるが、魔力だけはダンジョンを利用しなければ増えないからね。
「つまりは自分を囮にするということだな。」
「私の方に来るのであれば、シルビアの負担が減りますから。」
「うぅむ、そこまでして再開したいのか。」
「春までにやらなければならない事が山ほどあります。それだけではありません、商店の再開はこの土地の為でもあります。彼らの成長がこの国の利益につながる、それを御理解いただいているからこそ、これまで援助してくださったのですよね?」
「だが、ここを離れれば命の保証は無いぞ。」
「命の保証なんて今までもありませんでしたよ。この世界に来て半年、これまで何度命を失いかけた事か。これまでも、そしてこれからもそれは変わりません。」
「個人的にも大切な友人を失う気は無い。」
「私だって死にたくて行くわけではありません。ですが再開を待ってくださっている冒険者がいる、それだけで私には十分な理由になるんです。」
命は惜しい。
だが、それ以上に俺は商売がしたい。
昨日見た冒険者のあの嬉しそうな表情。
それを間近で感じる仕事がしたいんだ。
仕事がしたいなんて昔の俺じゃ考えられないよな。
でもそう思うあたり根っからの社畜なんだろう。
それに、今は雇われではなくて雇う方なので気分は全然違う。
ププト様のような気難しいクライアントがいるのは元の世界と何も変わらないけどね。
「・・・根っからの商人なのだなお前は。」
「そうですね、改めて自分がそうなのだと気付かされました。」
「あまり仕事しすぎると早死にするぞ。」
「それはププト様もではありませんか。」
「私はいいのだ、領民の為に生き領民の為に死ぬ。」
「私も同じです、冒険者の為に生き冒険者の為に死にます。あ、でも死ぬのは当分先の予定ですので。」
口ではこんな事を言っているがお互いの目は真剣だ。
しばらく無言の時間が過ぎていく。
お互い言いたい事は言い合った、後は何処で折り合いをつけるかだが・・・。
「今回は私の負けだ、商店再開を許可しよう。ただし騎士団から数名の護衛をつけるのと同時に冒険者にも依頼を出す。」
「冒険者もですか。」
「店の周りにはそれほど強い魔物は出なかったな。」
「はい、今の所は初心者でも問題ない程度の魔物しか出ておりません。」
ボア種が出たのは黙っておいた方が良さそうだ。
あれはハグレだったし生息していたとはいえないだろう。
「ならば周辺の探索という名目で依頼を出す。彼らに金を落とせばお前の所で買い物ぐらいするだろう。」
「ありがとうございます。」
「いつ出るつもりだ?」
「明日の定期便で戻るつもりです。」
「それに間に合うよう騎士団には連絡しておく。屋根つきとまでは言わないが、せめて雨風がしのげる場所を提供してやれ。」
「かしこまりました。」
なるほどな。
護衛のお金は出せないが、冒険者にお金を渡すのでそれを護衛の費用に当てろと言っているのか。
大方冒険者には俺の店で買い物するようにとか何とか言うんだろう。
「相変らずやることが大胆だな、お前は。」
「ププト様ほどではありませんよ。」
「私の何処が大胆なのだ?」
「知り合って間もない人間に一時的にとはいえ領地を任せることがです。」
「そういえばそんな事もあったな。それで、何かするつもりだったのか?」
「むしろあの短時間で何かするほうが無理ですよ。」
「そうであろう、だから任せたのだ。」
してやったりという顔でニヤリと笑う。
まったく、この人にも困ったものだ。
「では、準備がありますのでこれで失礼します。」
「あまり大きな事はするなよ。」
「この調子ですので当分は大人しくしておきます。」
「お前はやることがいちいち大きいからな、それぐらいでちょうどいいんだ。」
そんな大きい事したかなぁと思い、自分が今までしてきた事を思い出す。
うん、十分おかしいな。
ププト様に頭を下げ、回れ右をして謁見の間から出ようとした時だった。
「死ぬなよ。」
背中越しに聞こえた声にあえて返事をせず、俺は扉に手をかけた。
言われるまでも無い。
こんな所で死んでたまるか。
扉の外では不安そうな顔をしたエミリア達が今か今かと俺の帰りを待っていた。
「遅くなりました。」
「お帰りなさいシュウイチさん。」
「ご主人様首尾はいかがでしたか?」
「渋々だけど許可はもらえたよ。条件として騎士団から護衛を連れて行くこと、その費用は私達で支払う事になっています。」
「それでは商店を再開しても利益がなくなってしまいませんか?」
さすがニケさん、すぐにそこに気付いたか。
「それに関しては冒険者に近辺の警戒を依頼するので彼らから徴収するように、だそうです。」
「なるほど、間接的に回収するんですね。」
「冒険者にはお金が、私達には売上が、騎士団には護衛料が入る。良く出来た作戦だよ。」
「さすがプロンプト様です。」
でましたユーリの伝家の宝刀。
久々に聞いたなぁ。
「護衛の件も私が囮になる事を見越しての条件みたいだし、本当にすごいよあの人は。」
「囮、ですか?」
あれ、エミリア達はそこに気付いていなかったのか。
もしかして分かっていないから商店再開に賛同したとか言わないよね。
「ご主人様、言わなければ分からない事が沢山あると申したはずですが。」
「それに関しては謝ります。」
「あの、どういうことですか?」
エミリアが少し怒ったように顔を近づけてくる。
「と、とりあえずここじゃ何だから落ち着けるところに行こう。」
時間はもうお昼過ぎ、色々ありすぎておなかがペコペコだ。
「もぅ、ちゃんと説明してもらいますからね!」
プリプリと怒るエミリアから逃げるように領主の館を出て大通りまで抜ける。
一応狙われている身なので警戒しながらだが、心配事が減ったので気分は晴れやかだ。
さぁ、久々に外食を!と思ったりもしたのだが、残念ながらそこは許可してくれなかった。
結局適当なお店で食材を買い込んで騎士団に戻るのだった。
シルビアも誘って遅めの昼食を取っているとそこには何故かカムリの姿が。
いや、別にいいんですよ?
騎士団長様のお部屋をお借りしてるわけだし。
「それでシュウイチさん、囮ってどういうことですか?」
「囮?物騒な話しだな。」
「イナバ様が囮になる事をプロンプト様が見越していたって言うんです。」
「シュウイチどういうことだ?」
「まぁまぁみんな落ち着いて、ゆっくり食べてからにしませんか?」
せっかくシルビアも混じって久々の御飯だというのに。
まぁ怒った顔も可愛いんですけど、そんな事言おうものならもっと怒りそうなのでそこは自重しておく。
「教えてくれたら食べさせてあげます。」
エミリアが次に食べようとしていたカーラザンギアーゲの入った袋をヒョイッと遠ざけてしまった。
むぅ、久々の揚げ物だったのに。
仕方ないなぁ。
「言葉通りですよ、私が囮になって敵を呼び出すんです。」
「なっ、そんなこと断じて許さんぞ!」
バンッと机を叩いて立ち上がるシルビア。
あーもぅ、折角の香茶がこぼれちゃうじゃないか。
「まぁまぁ最後まで聞いて下さい。今の所、相手の標的はシルビアのようですからあくまでも仮定の話です。もし仮に私に標的が変わった場合相手はどう動くと思いますか?」
「そんな事は簡単だ、警備の薄いシュウイチを狙って追いかけるだろう。」
「では相手が移動したかはどう判断しますか?」
「うーむ、今の所判別するのは難しいな。」
「それはどうしてですか?」
「冒険者が多く流入した事によって、怪しい人物の判別が出来んのだ。追いかけていったとして、誰がどう移動したのか逐一確認する事はできん。」
そりゃそうだ。
出国手続きをするんじゃないんだから、誰が何処に行くかなんていちいち管理してられない。
これまでであれば、ある程度サンサトローズにいる冒険者の名前や数などを把握できていたが、懸賞金目当てに冒険者が流入したせいで誰もが怪しくなってしまっている。
「それは人が多いから、ですか?」
「その通りだ。」
「ではその人数を大幅に減らしてみましょう、30人程度であればどうでしょうか。」
「それぐらいなら一人一人尋問できるだろう。」
「サンサトローズにいれば人数が多すぎて対処できなくても私が村に戻れば話が変わります。定期便で移動する人数はたかが知れていますから、その人たちを検問か何かで確認すればその中に怪しい人物が居た場合対処し易いのではないでしょうか。」
「確かに怪しい人物がまぎれていれば事前に察知できる。逆にいなければ私がまだ狙われていると判断できるわけか。」
「ですが定期便以外の方法で移動していた場合はどうするんですか?」
その通り、定期便以外だとその方法は取れない。
だが、それも対処済みだ。
「エミリアは村の人の顔を覚えていますよね?」
「はい、皆さん覚えています。」
「その中に見たことも無い他人が居た場合どうしますか?」
「気になってしまうと思います。」
「その通り、それはエミリアだけじゃなくて村の人全員に言えます。もし犯人が村の人にまぎれようとしてもすぐにばれてしまうでしょう。」
村が小さいから出来る作戦だ。
これから大きくなったら話は別だが、今は十分に対応できる。
「では労働者や冒険者にまぎれていた場合どうなさるおつもりですか?」
「出稼ぎの方も含めて労働者は全て身分を確認しています。それだけではなく、労働場所も限られていますので黙って抜けるようなことがあればすぐ分かります。問題は冒険者なんですが・・・。」
「それも何とかなるのだろう?」
いやまぁ何とかするんですけど・・・。
「一応は考えています。冒険者にまぎれている事を考えて、ダンジョンを利用する人達に向けに許可証を見せてもらおうと思っています。許可証の発行は冒険者ギルドを通さねばならず、さらに身分を証明する物が必要になります。それを商店で回収してから入ってもらうんです。」
「森にまぎれた場合はどうされるんですか?」
「周辺は冒険者が警戒していますので不審な人物はすぐに分かるでしょう。狙撃をするにも森の中ですから場所も限られます。家に侵入されないように対策を考える必要はありますがそこは騎士団の方にお願いするしかないですね。」
「ダンジョンを利用する人は事前に許可証を所持しているので、定期便での判別の基準になるわけか。」
「そもそも私を襲うだけならダンジョンに入る必要はありません。それに、商店に来る冒険者は皆ダンジョンを利用しますからね、許可証を持っていない冒険者の方が不自然というワケです。」
冒険者にまぎれるにせよ村人にまぎれるにせよ、かなりの確立で発見できるだろう。
森を抜けるのにも時間はかかるだろうし、何より目立つ。
「ダンジョンに限らず森の不審者に関しては私が責任を持って巡回に当りますのでどうぞ御安心を。」
「頼りにしています。」
「私も、冒険者の顔を覚えるのは得意ですので!」
「ニケさんもよろしくお願いいたします。」
「わ、私はシュウイチさんから離れません。絶対に離れませんから。」
「エミリアに守ってくださいというのはこれで何度目になるんでしょうか。今回も宜しくお願いします。」
「はい!」
頼りない旦那でどうもすみません。
でも、俺が無理するよりもみんなに手伝ってもらうほうが俺らしいよな。
「あの日、シュウイチを守ると約束したにもかかわらず何も出来ない私を許して欲しい。」
「その代わりシルビアにはこちらをお願いします。決して無理せず、犯人を見つけ出してください。まぁ、私が囮にと言いながらも犯人がシルビアを狙い続ければやる意味は無いんですけどね。」
「それでも何か基準が出来るのはありがたいことだ。できるなら私を狙い続けて欲しいものだな。」
「シルビア様の警護はこちらに任せてくれ。あの日のような失態は二度しないとこの剣に誓おう。」
「妻をよろしく頼みます、カムリ騎士団長。」
左手を差し出すと今度は間違えることなく握り返してきた。
まぁカムリだけじゃなく、騎士団員全員がシルビア様を守ってくれる。
何も心配する事は無い。
「さて、納得してもらえたようでしたらそのカーラザンギアーゲをいただきたいんですが・・・。」
「まだダメです。」
「なんで!?」
え、約束が違いませんか!?
「自分を勝手に囮にしたこと許したわけじゃありませんから。」
「そうしないと営業再開させてもらえなかったんですよ?」
「それでもダメです。ユーリ、食べちゃってください。」
「よろしいのですか?」
「構いません。それとこれを機にシュウイチさんには色々と改めてもらいたい所があるのでそこをしっかり話し合いましょう。」
「そうだな、その腕では今までのようには行かないだろう。無理をしないように釘をささねばなるまい。」
「シルビア!?」
「明日まではまだまだ時間がある、これからについて色々と話し合おうじゃないか。」
エミリアとシルビアがドンドンと迫ってくる。
「ニケ様、皆さん忙しそうですので外で甘い物でもいかがでしょうか。」
「いいですね、美味しいお店を見つけたのでそこに行きましょう。」
「ちょっと二人とも!」
「では私は部下への引継ぎがありますので。あ、どうぞこのまま部屋はご使用下さい。」
「カムリまで!」
味方に悉く裏切られ、前門のエミリア後門のシルビア状態だ。
「時間はゆっくりあります、しっかり話し合いましょうね。」
「二週間ぶりの夫婦の時間だ楽しもうじゃないか。」
夫婦の時間って聞こえはいいけどどう考えても違うよね!
「いや、はやく冒険者ギルドに行って許可証の説明を・・・。」
「だめです。」「だめだ。」
その後、俺の抵抗もむなしく日が暮れても解放される事は無かった。
もちろん他にも気になる所や不安な所はあるけれど、そこに関してはまぁ何とかなるような気がする。
今までも何とかなってきたんだし、これからも大丈夫だ。
だけどそう思っているのはどうやら俺だけのようで、思わぬ人物から商店再開を反対されてしまった。
「商店再開は時期尚早だ、情けない話しだがまだ犯人の手がかりすら掴んでいない。その状況で一番の被害者をサンサトローズから出すなど到底許す事はできない話だ。」
と、おかんむりなのはサンサトローズ領主ププト様だ。
騎士団にてシルビアと話し合った後、次に向かったのが領主様の館。
一応世話になったし、一言ぐらい挨拶しておこうと思ったのがまずかった。
俺だけが謁見を許され、お礼を言った途端にこの調子だ。
まさかこんな事になるなんてなぁ・・・。
「先程も申しましたように狙われたのはシルビア様であって私ではありません。これまで何度も再襲撃の機会はあったのにもかかわらず私が狙われなかったのがその証拠ではありませんか?」
「それは厳重な警戒に恐れをなして近づかなかっただけの話しだ。」
「では何時まで私はここに留まればいいのでしょう。」
「それはもちろん犯人が捕まるまでだな。」
だからそれはいつだよ!
と、キレたくなる気持ちをぐっとこらえる。
何せ相手は領主様だ。
一介の領民が領主様に歯向かうなど言語道断。
普通なら反論しただけで処罰されそうなものだが、まぁそこは友人だから許すということなのだろう。
「それでは何時戻れるか分からないではありませんか。」
「騎士団長暗殺など前代未聞の事件だ。それが未遂に終わったとはいえ、それだけ大それた事をしでかす組織がこのまま引き下がるとは到底思えん。失敗を恨みお前を狙う事だって十分にありえる。」
「私を狙った所でシルビアは死にませんよ?」
「それでもお前が邪魔をしたという事実は変わらん。それにお前はシルビア殿の旦那でもある、エサとしては十分すぎるぐらいだ。」
「つまりは私を誘拐してシルビアを誘き出す可能性があると?」
「絶対ではないが可能性は高いだろう。」
うぅむ。
このままではどう考えても俺が不利だ。
どうにかして許可を出してもらわねば。
「ではこういうのはどうでしょう、騎士団に護衛を出していただいて警護していただくというのは。」
「護衛を出すのは構わん、今も同じようなものだからな。だが、護衛を休ませる場所はあるのか?物資はどうする。緊急時の増援はどう手配するつもりだ?」
「休息場所は確保できます、物資は店の物を使えば問題ないでしょう。増援に関してはこことの距離がありますので早馬を使い、緊急時はダンジョンに逃げ込んで時間を稼ぎます。」
「資金はどうするつもりだ?」
「それぐらいの蓄えはありますよ。もし足りなくても稼げば問題ありません。」
稼ぐ為に商店を再開するんだ。
客のめぼしも付いている。
利益が減るのは苦しいが、今欲しいのは魔力だ。
お金は外部でも稼げるが、魔力だけはダンジョンを利用しなければ増えないからね。
「つまりは自分を囮にするということだな。」
「私の方に来るのであれば、シルビアの負担が減りますから。」
「うぅむ、そこまでして再開したいのか。」
「春までにやらなければならない事が山ほどあります。それだけではありません、商店の再開はこの土地の為でもあります。彼らの成長がこの国の利益につながる、それを御理解いただいているからこそ、これまで援助してくださったのですよね?」
「だが、ここを離れれば命の保証は無いぞ。」
「命の保証なんて今までもありませんでしたよ。この世界に来て半年、これまで何度命を失いかけた事か。これまでも、そしてこれからもそれは変わりません。」
「個人的にも大切な友人を失う気は無い。」
「私だって死にたくて行くわけではありません。ですが再開を待ってくださっている冒険者がいる、それだけで私には十分な理由になるんです。」
命は惜しい。
だが、それ以上に俺は商売がしたい。
昨日見た冒険者のあの嬉しそうな表情。
それを間近で感じる仕事がしたいんだ。
仕事がしたいなんて昔の俺じゃ考えられないよな。
でもそう思うあたり根っからの社畜なんだろう。
それに、今は雇われではなくて雇う方なので気分は全然違う。
ププト様のような気難しいクライアントがいるのは元の世界と何も変わらないけどね。
「・・・根っからの商人なのだなお前は。」
「そうですね、改めて自分がそうなのだと気付かされました。」
「あまり仕事しすぎると早死にするぞ。」
「それはププト様もではありませんか。」
「私はいいのだ、領民の為に生き領民の為に死ぬ。」
「私も同じです、冒険者の為に生き冒険者の為に死にます。あ、でも死ぬのは当分先の予定ですので。」
口ではこんな事を言っているがお互いの目は真剣だ。
しばらく無言の時間が過ぎていく。
お互い言いたい事は言い合った、後は何処で折り合いをつけるかだが・・・。
「今回は私の負けだ、商店再開を許可しよう。ただし騎士団から数名の護衛をつけるのと同時に冒険者にも依頼を出す。」
「冒険者もですか。」
「店の周りにはそれほど強い魔物は出なかったな。」
「はい、今の所は初心者でも問題ない程度の魔物しか出ておりません。」
ボア種が出たのは黙っておいた方が良さそうだ。
あれはハグレだったし生息していたとはいえないだろう。
「ならば周辺の探索という名目で依頼を出す。彼らに金を落とせばお前の所で買い物ぐらいするだろう。」
「ありがとうございます。」
「いつ出るつもりだ?」
「明日の定期便で戻るつもりです。」
「それに間に合うよう騎士団には連絡しておく。屋根つきとまでは言わないが、せめて雨風がしのげる場所を提供してやれ。」
「かしこまりました。」
なるほどな。
護衛のお金は出せないが、冒険者にお金を渡すのでそれを護衛の費用に当てろと言っているのか。
大方冒険者には俺の店で買い物するようにとか何とか言うんだろう。
「相変らずやることが大胆だな、お前は。」
「ププト様ほどではありませんよ。」
「私の何処が大胆なのだ?」
「知り合って間もない人間に一時的にとはいえ領地を任せることがです。」
「そういえばそんな事もあったな。それで、何かするつもりだったのか?」
「むしろあの短時間で何かするほうが無理ですよ。」
「そうであろう、だから任せたのだ。」
してやったりという顔でニヤリと笑う。
まったく、この人にも困ったものだ。
「では、準備がありますのでこれで失礼します。」
「あまり大きな事はするなよ。」
「この調子ですので当分は大人しくしておきます。」
「お前はやることがいちいち大きいからな、それぐらいでちょうどいいんだ。」
そんな大きい事したかなぁと思い、自分が今までしてきた事を思い出す。
うん、十分おかしいな。
ププト様に頭を下げ、回れ右をして謁見の間から出ようとした時だった。
「死ぬなよ。」
背中越しに聞こえた声にあえて返事をせず、俺は扉に手をかけた。
言われるまでも無い。
こんな所で死んでたまるか。
扉の外では不安そうな顔をしたエミリア達が今か今かと俺の帰りを待っていた。
「遅くなりました。」
「お帰りなさいシュウイチさん。」
「ご主人様首尾はいかがでしたか?」
「渋々だけど許可はもらえたよ。条件として騎士団から護衛を連れて行くこと、その費用は私達で支払う事になっています。」
「それでは商店を再開しても利益がなくなってしまいませんか?」
さすがニケさん、すぐにそこに気付いたか。
「それに関しては冒険者に近辺の警戒を依頼するので彼らから徴収するように、だそうです。」
「なるほど、間接的に回収するんですね。」
「冒険者にはお金が、私達には売上が、騎士団には護衛料が入る。良く出来た作戦だよ。」
「さすがプロンプト様です。」
でましたユーリの伝家の宝刀。
久々に聞いたなぁ。
「護衛の件も私が囮になる事を見越しての条件みたいだし、本当にすごいよあの人は。」
「囮、ですか?」
あれ、エミリア達はそこに気付いていなかったのか。
もしかして分かっていないから商店再開に賛同したとか言わないよね。
「ご主人様、言わなければ分からない事が沢山あると申したはずですが。」
「それに関しては謝ります。」
「あの、どういうことですか?」
エミリアが少し怒ったように顔を近づけてくる。
「と、とりあえずここじゃ何だから落ち着けるところに行こう。」
時間はもうお昼過ぎ、色々ありすぎておなかがペコペコだ。
「もぅ、ちゃんと説明してもらいますからね!」
プリプリと怒るエミリアから逃げるように領主の館を出て大通りまで抜ける。
一応狙われている身なので警戒しながらだが、心配事が減ったので気分は晴れやかだ。
さぁ、久々に外食を!と思ったりもしたのだが、残念ながらそこは許可してくれなかった。
結局適当なお店で食材を買い込んで騎士団に戻るのだった。
シルビアも誘って遅めの昼食を取っているとそこには何故かカムリの姿が。
いや、別にいいんですよ?
騎士団長様のお部屋をお借りしてるわけだし。
「それでシュウイチさん、囮ってどういうことですか?」
「囮?物騒な話しだな。」
「イナバ様が囮になる事をプロンプト様が見越していたって言うんです。」
「シュウイチどういうことだ?」
「まぁまぁみんな落ち着いて、ゆっくり食べてからにしませんか?」
せっかくシルビアも混じって久々の御飯だというのに。
まぁ怒った顔も可愛いんですけど、そんな事言おうものならもっと怒りそうなのでそこは自重しておく。
「教えてくれたら食べさせてあげます。」
エミリアが次に食べようとしていたカーラザンギアーゲの入った袋をヒョイッと遠ざけてしまった。
むぅ、久々の揚げ物だったのに。
仕方ないなぁ。
「言葉通りですよ、私が囮になって敵を呼び出すんです。」
「なっ、そんなこと断じて許さんぞ!」
バンッと机を叩いて立ち上がるシルビア。
あーもぅ、折角の香茶がこぼれちゃうじゃないか。
「まぁまぁ最後まで聞いて下さい。今の所、相手の標的はシルビアのようですからあくまでも仮定の話です。もし仮に私に標的が変わった場合相手はどう動くと思いますか?」
「そんな事は簡単だ、警備の薄いシュウイチを狙って追いかけるだろう。」
「では相手が移動したかはどう判断しますか?」
「うーむ、今の所判別するのは難しいな。」
「それはどうしてですか?」
「冒険者が多く流入した事によって、怪しい人物の判別が出来んのだ。追いかけていったとして、誰がどう移動したのか逐一確認する事はできん。」
そりゃそうだ。
出国手続きをするんじゃないんだから、誰が何処に行くかなんていちいち管理してられない。
これまでであれば、ある程度サンサトローズにいる冒険者の名前や数などを把握できていたが、懸賞金目当てに冒険者が流入したせいで誰もが怪しくなってしまっている。
「それは人が多いから、ですか?」
「その通りだ。」
「ではその人数を大幅に減らしてみましょう、30人程度であればどうでしょうか。」
「それぐらいなら一人一人尋問できるだろう。」
「サンサトローズにいれば人数が多すぎて対処できなくても私が村に戻れば話が変わります。定期便で移動する人数はたかが知れていますから、その人たちを検問か何かで確認すればその中に怪しい人物が居た場合対処し易いのではないでしょうか。」
「確かに怪しい人物がまぎれていれば事前に察知できる。逆にいなければ私がまだ狙われていると判断できるわけか。」
「ですが定期便以外の方法で移動していた場合はどうするんですか?」
その通り、定期便以外だとその方法は取れない。
だが、それも対処済みだ。
「エミリアは村の人の顔を覚えていますよね?」
「はい、皆さん覚えています。」
「その中に見たことも無い他人が居た場合どうしますか?」
「気になってしまうと思います。」
「その通り、それはエミリアだけじゃなくて村の人全員に言えます。もし犯人が村の人にまぎれようとしてもすぐにばれてしまうでしょう。」
村が小さいから出来る作戦だ。
これから大きくなったら話は別だが、今は十分に対応できる。
「では労働者や冒険者にまぎれていた場合どうなさるおつもりですか?」
「出稼ぎの方も含めて労働者は全て身分を確認しています。それだけではなく、労働場所も限られていますので黙って抜けるようなことがあればすぐ分かります。問題は冒険者なんですが・・・。」
「それも何とかなるのだろう?」
いやまぁ何とかするんですけど・・・。
「一応は考えています。冒険者にまぎれている事を考えて、ダンジョンを利用する人達に向けに許可証を見せてもらおうと思っています。許可証の発行は冒険者ギルドを通さねばならず、さらに身分を証明する物が必要になります。それを商店で回収してから入ってもらうんです。」
「森にまぎれた場合はどうされるんですか?」
「周辺は冒険者が警戒していますので不審な人物はすぐに分かるでしょう。狙撃をするにも森の中ですから場所も限られます。家に侵入されないように対策を考える必要はありますがそこは騎士団の方にお願いするしかないですね。」
「ダンジョンを利用する人は事前に許可証を所持しているので、定期便での判別の基準になるわけか。」
「そもそも私を襲うだけならダンジョンに入る必要はありません。それに、商店に来る冒険者は皆ダンジョンを利用しますからね、許可証を持っていない冒険者の方が不自然というワケです。」
冒険者にまぎれるにせよ村人にまぎれるにせよ、かなりの確立で発見できるだろう。
森を抜けるのにも時間はかかるだろうし、何より目立つ。
「ダンジョンに限らず森の不審者に関しては私が責任を持って巡回に当りますのでどうぞ御安心を。」
「頼りにしています。」
「私も、冒険者の顔を覚えるのは得意ですので!」
「ニケさんもよろしくお願いいたします。」
「わ、私はシュウイチさんから離れません。絶対に離れませんから。」
「エミリアに守ってくださいというのはこれで何度目になるんでしょうか。今回も宜しくお願いします。」
「はい!」
頼りない旦那でどうもすみません。
でも、俺が無理するよりもみんなに手伝ってもらうほうが俺らしいよな。
「あの日、シュウイチを守ると約束したにもかかわらず何も出来ない私を許して欲しい。」
「その代わりシルビアにはこちらをお願いします。決して無理せず、犯人を見つけ出してください。まぁ、私が囮にと言いながらも犯人がシルビアを狙い続ければやる意味は無いんですけどね。」
「それでも何か基準が出来るのはありがたいことだ。できるなら私を狙い続けて欲しいものだな。」
「シルビア様の警護はこちらに任せてくれ。あの日のような失態は二度しないとこの剣に誓おう。」
「妻をよろしく頼みます、カムリ騎士団長。」
左手を差し出すと今度は間違えることなく握り返してきた。
まぁカムリだけじゃなく、騎士団員全員がシルビア様を守ってくれる。
何も心配する事は無い。
「さて、納得してもらえたようでしたらそのカーラザンギアーゲをいただきたいんですが・・・。」
「まだダメです。」
「なんで!?」
え、約束が違いませんか!?
「自分を勝手に囮にしたこと許したわけじゃありませんから。」
「そうしないと営業再開させてもらえなかったんですよ?」
「それでもダメです。ユーリ、食べちゃってください。」
「よろしいのですか?」
「構いません。それとこれを機にシュウイチさんには色々と改めてもらいたい所があるのでそこをしっかり話し合いましょう。」
「そうだな、その腕では今までのようには行かないだろう。無理をしないように釘をささねばなるまい。」
「シルビア!?」
「明日まではまだまだ時間がある、これからについて色々と話し合おうじゃないか。」
エミリアとシルビアがドンドンと迫ってくる。
「ニケ様、皆さん忙しそうですので外で甘い物でもいかがでしょうか。」
「いいですね、美味しいお店を見つけたのでそこに行きましょう。」
「ちょっと二人とも!」
「では私は部下への引継ぎがありますので。あ、どうぞこのまま部屋はご使用下さい。」
「カムリまで!」
味方に悉く裏切られ、前門のエミリア後門のシルビア状態だ。
「時間はゆっくりあります、しっかり話し合いましょうね。」
「二週間ぶりの夫婦の時間だ楽しもうじゃないか。」
夫婦の時間って聞こえはいいけどどう考えても違うよね!
「いや、はやく冒険者ギルドに行って許可証の説明を・・・。」
「だめです。」「だめだ。」
その後、俺の抵抗もむなしく日が暮れても解放される事は無かった。
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
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幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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