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第八章
野生?の〇〇が飛び出してきた!
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親方、森から女の子が!
とかなんとか言いたくなる気持ちをぐっとこらえ、短剣を構えたまま状況を伺う。
目の前には見た目こそ鶏だが腕力が自慢の魔物が一匹。
その後ろから亜人の女の子が飛び出てきた。
しかも息も絶え絶えの状態で。
この魔物から逃げてきたのか?
いや、待ってくださいというんだからそういう感じでも無さそうだ。
俺が魔物に襲い掛かろうとするのを止めた?
うーん、わからん。
「シュウイチ大丈夫か?」
「とりあえずは。」
「魔物じゃないのか?」
「この子は魔物じゃありません!」
「だ、そうです。」
牽制の為に構えていた短剣を戻し、女の子の様子を伺う。
魔物は襲ってくるそぶりも無く、すぐ横の草を食べ始めた。
緊張感ないなぁ。
「事情を聞いても大丈夫ですか?」
「この子は私が世話をしてて、目を話したすきに逃げちゃったんです。決して人を襲ったりしない良い子だからどうか許してください。この子に何かあったらご主人様に何を言われるか・・・。」
「まだ何もされていませんので大丈夫ですよ。世話をしていると言っていましたね、詳しく聞かせてもらえますか?」
「食べたりしません?」
「魔物であれば考えますが、他人の物を捕ったりしませんよ。」
「よかった~。」
ホッと胸をなでおろす仕草を見せる女の子。
え、なんで女の子だってわかるのかって?
エミリアにも負けずとも劣らないものが胸元にありましてですね。
自己主張が半端ないんです。
「私はサンサトローズ騎士団長シルビアだ。魔物ではないという事だが元は魔物だ、事情を説明してもらおうか。」
「騎士団長様!ルインは何も悪い事してないです、ご主人様のパンをこっそり食べたりなんてしてません!食べてませんから連れて行かないで下さい!」
食べたんだ。
ご主人様というぐらいだからこの子は奴隷なんだろう。
その証拠に足には奴隷の証であるリングがついている。
「そんな事で捕まえたりはしない、安心しろ。」
「よかった~。」
本日二度目の安堵。
そしてその度に巨大なものがプルプルとゆれている。
アカン。
あれはアカン。
時期的に薄着なのも相成って教育上よろしくない。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
と、横から遅れてきたエミリアが不思議そうな顔で俺を覗き込んでいた。
よかった、ばれたわけじゃなかった。
大きさではエミリアのほうが上ですから。
決して浮気な気持ちで見ているわけじゃありませんから!
「それで、こいつは魔物なのか魔物じゃないのか?」
「この子はご主人が飼っている鶏で、一番卵が大きい優秀な子です!」
「つまりはどこかで飼育しているのか。」
「ダンジョン内でも飼育していますから他所で飼育していても不思議はありませんね。」
「元々は野生の魔物ですけど、卵から育てると襲い掛かったりしないんですよ。」
なるほどね。
産まれた時から飼育していれば魔物として育たないのか。
熊も人の手で育てられた子は襲わないっていうしな。
まぁ、ついつい加減がわからず怪我をさせたりはするらしいけど。
飼育下でも元は野生動物。
その辺りに気をつければ魔物も問題ないということか。
そうだよな、カーラザンギアーゲみたいに販売しているんだから定期的に供給できる環境がないとおかしいよな。
今日は冒険者からの仕入れがありませんでしたから販売できませんじゃ商売上がったりだ。
そう考えると飼育されていると考えるのが普通か。
「そなた名はなんと言う。」
「ルインです!」
「主人はどこにいる?」
「ご主人様は村に・・・そうだ早く村に戻らないとまた怒られちゃう!」
「村というのはミジャーノ村のことか?」
「そうです。」
おぉ、まさかの第一村人発見。
いや、第一村人遭遇というべきか。
「では村には私達と行けばいい、道案内をかって出てくれたといえば主人に言い訳も立つだろう。」
「いいの!?」
「事情も知らず襲い掛かった侘びだ。」
襲い掛かられた本人はというと先ほどから周囲の草を美味しそうに食べている。
あ、今度は虫を見つけたようだ。
食欲旺盛だなぁ。
「と、言う事だが構わないか?」
「それがいいと思います。」
「さすが騎士団長名裁きといったところだな。」
「シルビア様はお優しい方ですから。」
「ありがとうございます!」
突然現れたルインと名乗る亜人の女の子。
折角なので皆で昼食を取り半刻もしないうちに村へと再出発した。
彼女曰く村はもうすぐそこらしい。
「はふぅ、美味しかった・・・。」
「満足してもらえて何よりです。」
「あんな美味しいご飯生まれて初めてで。」
幸せそうな顔で鶏の頭を撫でている。
確かにあの魚は美味しかった。
まるで動物の肉を食べているような肉肉しさ。
でも魚を食べる時のホロホロとした食感なので頭がパニックを起こしそうだった。
魚なのか肉なのか、どっちなんだい!
っていう感じだ。
「普段あまり食べさせてもらえないのか?」
「ルインは何時も失敗ばかりするからお仕置きに御飯を少なくされます。」
「奴隷の虐待は法律違反だ、今度はどう裁く?」
「食事が少ない事だけで虐待とは判断できん、まずは状況を確認してからだな。」
「ご主人様は虐待なんてしてません!ルインが失敗するから仕方なく怒っているだけです。ちゃんと後で御飯だって食べさせてもらえます!」
世間の目があるからだろうか。
まぁ、その辺は行けばわかるか。
「痩せているわけでも不潔にされているわけでもありませんから大丈夫では無いでしょうか。」
「エミリアの言うとおりだな。虐待の酷い奴隷は目も当てられないことが多い。」
「ちゃんと二日に一回は水浴びしてます。そうじゃないとすぐ匂いがついちゃうから。」
「他にも何か飼育しているんですか?」
「牛と羊が居ます。」
ふむ。
牧草を食べるんなら羊も居ておかしくない。
元の世界の知識で問題は無さそうだな。
「あと、村長様のところにはボアがいます。」
「「「「ボア!?」」」」
え、猪ですよね。
集団暴走で大変な目に合ったあの猪ですよね?
あいつ飼うの?
っていうか大丈夫なの?
これも一から育てたら大丈夫って奴?
「立派なんですよ。」
「それは食べるのか?」
「もちろんです!祭りの時なんかに皆で食べるんですよ。その日だけはルインもお腹いっぱい食べられます。」
「確かにボアの肉は旨いが、まさか飼育しているなんて聞いたことがないぞ。」
「私としては先日偉い目にあっただけに何とも言えん。だが・・・」
確かにシルビア様にとっては命をかけた戦いをした相手だ。
3000ものボアが谷を襲う光景は早々忘れられるものではない。
「だが?」
「確かにいい匂いはしたな。」
「あ、やっぱりいい匂いしました?」
「あぁ。命のやり取りをしているというのにイヤでも腹は空いてくる。そこであの匂いをかがされると緊張感が緩むと団員も嘆いていたぞ。」
「谷を丸ごと焼いたんでしたよね?」
「あぁ、シュウイチの発案でな。」
谷を埋め尽くす勢いで襲い掛かる数多のボアを谷に封じ込め、上から大量の油を流し込んで焼き殺す。
我ながら恐ろしい作戦を考え付いたものだ。
「ハッハッハ、話には聞いていたが緊張感もあったもんじゃないな!」
「私が言うのもなんだがあれは何ともいえない気持ちになった。」
「申し訳ありません。」
「だがおかげで多くの騎士団員が救われた、シュウイチには感謝しかない。」
「そう言っていただけると安心します。」
「ルインには良くわかりませんが、皆さんすごいんですね!」
「すごいのは私ではなくシュウイチだ。」
ほらまたそんな事言う。
いたいけな女の子がそれを信じて目を輝かせているじゃないですか。
「そんなことありません、私なんてただの商人ですよ。」
「ただの商人が領主様直々に視察を命じられるのか?」
「それを言われると・・・。」
俺はただの商人でいたいんだけどなぁ。
村の話しをいくつか聞いているうちに、馬車は目的のミジャーノ村へと到着した。
アルプス的な少女が出てくるような感じではないが、家々の間隔は広く各家庭に牛舎のような建物がくっついている。
風通しは良く牛糞の匂いが酷い感じもない。
中央の広場を囲うように各家々が向かい合っていた。
想像ではだだっ広い牧草地に家が建っているイメージだったけど、それじゃ非効率だよな。
必然的にこうなるわけか。
無秩序に作るよりもこうやったほうが見た目に綺麗だし何かと都合がいいんだろう。
村の入口に馬車を止めると広場の方から二人の男性が歩いてきた。
結構な年配の方と中年。
ニッカさんとドリスみたいだな。
あ、ニッカさんはここまで老けていないか。
「遠い所をよくおいでくださいました。」
「はじめまして、イナバシュウイチと申します。今日は勉強させていただきたくお邪魔致しました。」
「お話はプロンプト様よりお伺いしております。私は長をしておりますメザンと申します、横におりますのが今日のお世話を賜りますゴーダです。」
「イナバ様の名声はこの村にも届いております。次は酪農を始められるとか・・・。」
「まだまだ勉強不足でしてそこまでは。」
「そうでしたか。何かわからないことが御座いましたら遠慮なくお尋ね下さい。」
「ありがとうございます。」
今の所排他的という感じではなさそうだな。
技術では無いとは言え、自分達が築き上げてきたやり方をタダで教えろといわれているんだ。
いい顔をしない人も居るだろう。
いくら領主様の命令でも人の心の中までは変わらないからね。
「私はイアンだ。メザン殿、プロンプト様よりの書状を預かっているんだが構わないか?」
「もちろんですどうぞ我が家へ。」
どうやらイアンは内密な話があるらしい。
まぁ勉強させてもらうのは俺達だけで十分だし別行動でも問題ないだろう。
「ではイナバと皆さんは私と一緒に・・・。」
ゴーダさんの視線が俺を通り越し後ろにいる三人に向けられた。
エミリアとシルビア様ときて最後の1人を見た瞬間、目が飛び出るんじゃないか、ってほどに目が開かれた。
「ルイン!お前なんでこんな所に!逃がした鶏を探しに言ったんじゃないのか!?」
あ、ご主人様でしたか。
「す、すみませんご主人様・・・。」
「主人怒らないでやって欲しい。彼女は道に迷った我々をここまで案内してくれたのだ。」
「ここに来るまでの間に色々とタメになるお話を聞かせていただきました。」
「ルインさんありがとうございました。」
何かを言わせる前にそういう風に話しを持っていく。
お礼を言われている状況で本人をしかる事はできないだろう。
「紹介が遅れました、二人は私の妻でエミリアとシルビアです。」
「宜しくお願いします。」
「サンサトローズで騎士団長をしているシルビアだ。」
「騎士団長様・・・。」
「もっとも、秋には籍を離れるのでその呼び名も今だけだがな。」
さりげなく自分の身分を伝え奴隷に不利益な事をしないように牽制するシルビア様。
さすがです。
「うちの奴隷が何か粗相などしませんでしたでしょうか。」
「粗相なんてとんでもない、いい勉強をさせていただきました。」
「ルインこっちに来なさい。」
「は、はい!」
多少怯えながら主人の所にもどるもどうやらお咎めは無さそうだ。
「そいつを小屋に戻して掃除を続けなさい。」
「わかりました!」
ルインさんはペコリと頭を下げると鶏を抱いたまま村の奥へと走っていってしまった。
とりあえずこれで一段落っと。
それじゃあ色々勉強させてもらいましょうかね。
「この村では何を飼育されているでしょうか。」
「主に牛を飼育しております。」
「先ほどの鶏は?」
「鶏は各家庭で個別に飼育しております。食肉用に飼育しているわけではありませんので村の特産というワケではありませんね。」
「卵から飼育すれば人を襲わないとか。」
「そうなんです。飼育しているのはメスばかりですが、増やす時には別にオスを入れて有精卵を作ります。孵化するときに人の手で世話をすれば顔を覚えて襲わなくなるんです。」
刷り込みという奴だな。
なるほど、魔物でも鳥である事に変わりは無いということか。
「牛はどうやって飼育されているんですか?」
「この村の自慢は何と言ってもこの広大な草原です。通常牛舎で飼育する牛もここでは自由に動き回っています。そのほうが良い乳を出すんです。」
「この土地ならではということですね。」
「昔は鬱蒼とした森でしたが、先祖が少しずつ切り開き今のようになりました。今でも少しずつ切り開いて広げています。」
ほぉ、はじめから広い土地があったわけじゃないのか。
という事はあの森も少しずつ広げればいずれは・・・。
「ここまで広げるのは大変な苦労があっただろう。」
「そうですね、ここに先祖が住んで150年。やっとここまで来た感じでしょうか。」
前言撤回。
150年後は死んでいます。
という事で、牧草地を作る作戦は断念っと。
「牛乳は主に加工品に?」
「夏と冬で種類を変えながら加工しています。冬は雪に蔽われますので貴重な収入源ですね。」
「この村はそれだけで税を払えるんですね。」
「他にも木材を出荷したりしていますがおまけみたいなものです。」
と、いうことは乳製品はそれなりの高値で売れるということだろう。
もっとも、そこまで持っていくのには非常に時間はかかるだろうけど。
「牛舎で飼育するとしたらどのぐらいの規模が理想ですか?」
「規模にもよりますが、ある程度の収入を見込まれるのでしたら10頭は必要でしょう。病気になる牛も居ますし、5年もすれば衰えて乳の量も減っていきます。種付けがうまく行けば数を増やしつつ乳の量も維持できるはずです。」
「5年ですか・・・。」
「あくまでも乳を出す限界がです。労働用にすればもう少し働けるのではないでしょうか。」
なるほどなぁ。
「ここでは肉の価値があるうちに市へ出してしまいます。」
「痩せては高く売れないからな。」
「私達が食べている肉はこうやって回っているんですね。」
その通り。
魔物の肉であれば冒険者から集める事も出来るが、それ以外は酪農家の皆さんの手にかかっている。
食べる為に育てる。
生き物を食べるというのは非常に大変なことなんだ。
「牛舎も御覧になりますか?」
「是非お願いします。」
「ユーリのために鶏の飼育についても見せてもらってはどうだ?」
「それもいいですね。」
「あまり大きいものではありませんが、よろしければどうぞ。」
「ありがとうございます。」
酪農に関しては全くの素人だ。
見るだけではわからない部分はあるが、聞ける所は聞いて今後の参考にさせてもらおう。
今回は知識を増やす為の視察なんだし、あの人の名前を最大限使わせてもらって普段は聞けない話を聞かせてもらおうかな。
と、先を行くゴーダさんの背中を見ながら悪い事を考えるのだった。
とかなんとか言いたくなる気持ちをぐっとこらえ、短剣を構えたまま状況を伺う。
目の前には見た目こそ鶏だが腕力が自慢の魔物が一匹。
その後ろから亜人の女の子が飛び出てきた。
しかも息も絶え絶えの状態で。
この魔物から逃げてきたのか?
いや、待ってくださいというんだからそういう感じでも無さそうだ。
俺が魔物に襲い掛かろうとするのを止めた?
うーん、わからん。
「シュウイチ大丈夫か?」
「とりあえずは。」
「魔物じゃないのか?」
「この子は魔物じゃありません!」
「だ、そうです。」
牽制の為に構えていた短剣を戻し、女の子の様子を伺う。
魔物は襲ってくるそぶりも無く、すぐ横の草を食べ始めた。
緊張感ないなぁ。
「事情を聞いても大丈夫ですか?」
「この子は私が世話をしてて、目を話したすきに逃げちゃったんです。決して人を襲ったりしない良い子だからどうか許してください。この子に何かあったらご主人様に何を言われるか・・・。」
「まだ何もされていませんので大丈夫ですよ。世話をしていると言っていましたね、詳しく聞かせてもらえますか?」
「食べたりしません?」
「魔物であれば考えますが、他人の物を捕ったりしませんよ。」
「よかった~。」
ホッと胸をなでおろす仕草を見せる女の子。
え、なんで女の子だってわかるのかって?
エミリアにも負けずとも劣らないものが胸元にありましてですね。
自己主張が半端ないんです。
「私はサンサトローズ騎士団長シルビアだ。魔物ではないという事だが元は魔物だ、事情を説明してもらおうか。」
「騎士団長様!ルインは何も悪い事してないです、ご主人様のパンをこっそり食べたりなんてしてません!食べてませんから連れて行かないで下さい!」
食べたんだ。
ご主人様というぐらいだからこの子は奴隷なんだろう。
その証拠に足には奴隷の証であるリングがついている。
「そんな事で捕まえたりはしない、安心しろ。」
「よかった~。」
本日二度目の安堵。
そしてその度に巨大なものがプルプルとゆれている。
アカン。
あれはアカン。
時期的に薄着なのも相成って教育上よろしくない。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
と、横から遅れてきたエミリアが不思議そうな顔で俺を覗き込んでいた。
よかった、ばれたわけじゃなかった。
大きさではエミリアのほうが上ですから。
決して浮気な気持ちで見ているわけじゃありませんから!
「それで、こいつは魔物なのか魔物じゃないのか?」
「この子はご主人が飼っている鶏で、一番卵が大きい優秀な子です!」
「つまりはどこかで飼育しているのか。」
「ダンジョン内でも飼育していますから他所で飼育していても不思議はありませんね。」
「元々は野生の魔物ですけど、卵から育てると襲い掛かったりしないんですよ。」
なるほどね。
産まれた時から飼育していれば魔物として育たないのか。
熊も人の手で育てられた子は襲わないっていうしな。
まぁ、ついつい加減がわからず怪我をさせたりはするらしいけど。
飼育下でも元は野生動物。
その辺りに気をつければ魔物も問題ないということか。
そうだよな、カーラザンギアーゲみたいに販売しているんだから定期的に供給できる環境がないとおかしいよな。
今日は冒険者からの仕入れがありませんでしたから販売できませんじゃ商売上がったりだ。
そう考えると飼育されていると考えるのが普通か。
「そなた名はなんと言う。」
「ルインです!」
「主人はどこにいる?」
「ご主人様は村に・・・そうだ早く村に戻らないとまた怒られちゃう!」
「村というのはミジャーノ村のことか?」
「そうです。」
おぉ、まさかの第一村人発見。
いや、第一村人遭遇というべきか。
「では村には私達と行けばいい、道案内をかって出てくれたといえば主人に言い訳も立つだろう。」
「いいの!?」
「事情も知らず襲い掛かった侘びだ。」
襲い掛かられた本人はというと先ほどから周囲の草を美味しそうに食べている。
あ、今度は虫を見つけたようだ。
食欲旺盛だなぁ。
「と、言う事だが構わないか?」
「それがいいと思います。」
「さすが騎士団長名裁きといったところだな。」
「シルビア様はお優しい方ですから。」
「ありがとうございます!」
突然現れたルインと名乗る亜人の女の子。
折角なので皆で昼食を取り半刻もしないうちに村へと再出発した。
彼女曰く村はもうすぐそこらしい。
「はふぅ、美味しかった・・・。」
「満足してもらえて何よりです。」
「あんな美味しいご飯生まれて初めてで。」
幸せそうな顔で鶏の頭を撫でている。
確かにあの魚は美味しかった。
まるで動物の肉を食べているような肉肉しさ。
でも魚を食べる時のホロホロとした食感なので頭がパニックを起こしそうだった。
魚なのか肉なのか、どっちなんだい!
っていう感じだ。
「普段あまり食べさせてもらえないのか?」
「ルインは何時も失敗ばかりするからお仕置きに御飯を少なくされます。」
「奴隷の虐待は法律違反だ、今度はどう裁く?」
「食事が少ない事だけで虐待とは判断できん、まずは状況を確認してからだな。」
「ご主人様は虐待なんてしてません!ルインが失敗するから仕方なく怒っているだけです。ちゃんと後で御飯だって食べさせてもらえます!」
世間の目があるからだろうか。
まぁ、その辺は行けばわかるか。
「痩せているわけでも不潔にされているわけでもありませんから大丈夫では無いでしょうか。」
「エミリアの言うとおりだな。虐待の酷い奴隷は目も当てられないことが多い。」
「ちゃんと二日に一回は水浴びしてます。そうじゃないとすぐ匂いがついちゃうから。」
「他にも何か飼育しているんですか?」
「牛と羊が居ます。」
ふむ。
牧草を食べるんなら羊も居ておかしくない。
元の世界の知識で問題は無さそうだな。
「あと、村長様のところにはボアがいます。」
「「「「ボア!?」」」」
え、猪ですよね。
集団暴走で大変な目に合ったあの猪ですよね?
あいつ飼うの?
っていうか大丈夫なの?
これも一から育てたら大丈夫って奴?
「立派なんですよ。」
「それは食べるのか?」
「もちろんです!祭りの時なんかに皆で食べるんですよ。その日だけはルインもお腹いっぱい食べられます。」
「確かにボアの肉は旨いが、まさか飼育しているなんて聞いたことがないぞ。」
「私としては先日偉い目にあっただけに何とも言えん。だが・・・」
確かにシルビア様にとっては命をかけた戦いをした相手だ。
3000ものボアが谷を襲う光景は早々忘れられるものではない。
「だが?」
「確かにいい匂いはしたな。」
「あ、やっぱりいい匂いしました?」
「あぁ。命のやり取りをしているというのにイヤでも腹は空いてくる。そこであの匂いをかがされると緊張感が緩むと団員も嘆いていたぞ。」
「谷を丸ごと焼いたんでしたよね?」
「あぁ、シュウイチの発案でな。」
谷を埋め尽くす勢いで襲い掛かる数多のボアを谷に封じ込め、上から大量の油を流し込んで焼き殺す。
我ながら恐ろしい作戦を考え付いたものだ。
「ハッハッハ、話には聞いていたが緊張感もあったもんじゃないな!」
「私が言うのもなんだがあれは何ともいえない気持ちになった。」
「申し訳ありません。」
「だがおかげで多くの騎士団員が救われた、シュウイチには感謝しかない。」
「そう言っていただけると安心します。」
「ルインには良くわかりませんが、皆さんすごいんですね!」
「すごいのは私ではなくシュウイチだ。」
ほらまたそんな事言う。
いたいけな女の子がそれを信じて目を輝かせているじゃないですか。
「そんなことありません、私なんてただの商人ですよ。」
「ただの商人が領主様直々に視察を命じられるのか?」
「それを言われると・・・。」
俺はただの商人でいたいんだけどなぁ。
村の話しをいくつか聞いているうちに、馬車は目的のミジャーノ村へと到着した。
アルプス的な少女が出てくるような感じではないが、家々の間隔は広く各家庭に牛舎のような建物がくっついている。
風通しは良く牛糞の匂いが酷い感じもない。
中央の広場を囲うように各家々が向かい合っていた。
想像ではだだっ広い牧草地に家が建っているイメージだったけど、それじゃ非効率だよな。
必然的にこうなるわけか。
無秩序に作るよりもこうやったほうが見た目に綺麗だし何かと都合がいいんだろう。
村の入口に馬車を止めると広場の方から二人の男性が歩いてきた。
結構な年配の方と中年。
ニッカさんとドリスみたいだな。
あ、ニッカさんはここまで老けていないか。
「遠い所をよくおいでくださいました。」
「はじめまして、イナバシュウイチと申します。今日は勉強させていただきたくお邪魔致しました。」
「お話はプロンプト様よりお伺いしております。私は長をしておりますメザンと申します、横におりますのが今日のお世話を賜りますゴーダです。」
「イナバ様の名声はこの村にも届いております。次は酪農を始められるとか・・・。」
「まだまだ勉強不足でしてそこまでは。」
「そうでしたか。何かわからないことが御座いましたら遠慮なくお尋ね下さい。」
「ありがとうございます。」
今の所排他的という感じではなさそうだな。
技術では無いとは言え、自分達が築き上げてきたやり方をタダで教えろといわれているんだ。
いい顔をしない人も居るだろう。
いくら領主様の命令でも人の心の中までは変わらないからね。
「私はイアンだ。メザン殿、プロンプト様よりの書状を預かっているんだが構わないか?」
「もちろんですどうぞ我が家へ。」
どうやらイアンは内密な話があるらしい。
まぁ勉強させてもらうのは俺達だけで十分だし別行動でも問題ないだろう。
「ではイナバと皆さんは私と一緒に・・・。」
ゴーダさんの視線が俺を通り越し後ろにいる三人に向けられた。
エミリアとシルビア様ときて最後の1人を見た瞬間、目が飛び出るんじゃないか、ってほどに目が開かれた。
「ルイン!お前なんでこんな所に!逃がした鶏を探しに言ったんじゃないのか!?」
あ、ご主人様でしたか。
「す、すみませんご主人様・・・。」
「主人怒らないでやって欲しい。彼女は道に迷った我々をここまで案内してくれたのだ。」
「ここに来るまでの間に色々とタメになるお話を聞かせていただきました。」
「ルインさんありがとうございました。」
何かを言わせる前にそういう風に話しを持っていく。
お礼を言われている状況で本人をしかる事はできないだろう。
「紹介が遅れました、二人は私の妻でエミリアとシルビアです。」
「宜しくお願いします。」
「サンサトローズで騎士団長をしているシルビアだ。」
「騎士団長様・・・。」
「もっとも、秋には籍を離れるのでその呼び名も今だけだがな。」
さりげなく自分の身分を伝え奴隷に不利益な事をしないように牽制するシルビア様。
さすがです。
「うちの奴隷が何か粗相などしませんでしたでしょうか。」
「粗相なんてとんでもない、いい勉強をさせていただきました。」
「ルインこっちに来なさい。」
「は、はい!」
多少怯えながら主人の所にもどるもどうやらお咎めは無さそうだ。
「そいつを小屋に戻して掃除を続けなさい。」
「わかりました!」
ルインさんはペコリと頭を下げると鶏を抱いたまま村の奥へと走っていってしまった。
とりあえずこれで一段落っと。
それじゃあ色々勉強させてもらいましょうかね。
「この村では何を飼育されているでしょうか。」
「主に牛を飼育しております。」
「先ほどの鶏は?」
「鶏は各家庭で個別に飼育しております。食肉用に飼育しているわけではありませんので村の特産というワケではありませんね。」
「卵から飼育すれば人を襲わないとか。」
「そうなんです。飼育しているのはメスばかりですが、増やす時には別にオスを入れて有精卵を作ります。孵化するときに人の手で世話をすれば顔を覚えて襲わなくなるんです。」
刷り込みという奴だな。
なるほど、魔物でも鳥である事に変わりは無いということか。
「牛はどうやって飼育されているんですか?」
「この村の自慢は何と言ってもこの広大な草原です。通常牛舎で飼育する牛もここでは自由に動き回っています。そのほうが良い乳を出すんです。」
「この土地ならではということですね。」
「昔は鬱蒼とした森でしたが、先祖が少しずつ切り開き今のようになりました。今でも少しずつ切り開いて広げています。」
ほぉ、はじめから広い土地があったわけじゃないのか。
という事はあの森も少しずつ広げればいずれは・・・。
「ここまで広げるのは大変な苦労があっただろう。」
「そうですね、ここに先祖が住んで150年。やっとここまで来た感じでしょうか。」
前言撤回。
150年後は死んでいます。
という事で、牧草地を作る作戦は断念っと。
「牛乳は主に加工品に?」
「夏と冬で種類を変えながら加工しています。冬は雪に蔽われますので貴重な収入源ですね。」
「この村はそれだけで税を払えるんですね。」
「他にも木材を出荷したりしていますがおまけみたいなものです。」
と、いうことは乳製品はそれなりの高値で売れるということだろう。
もっとも、そこまで持っていくのには非常に時間はかかるだろうけど。
「牛舎で飼育するとしたらどのぐらいの規模が理想ですか?」
「規模にもよりますが、ある程度の収入を見込まれるのでしたら10頭は必要でしょう。病気になる牛も居ますし、5年もすれば衰えて乳の量も減っていきます。種付けがうまく行けば数を増やしつつ乳の量も維持できるはずです。」
「5年ですか・・・。」
「あくまでも乳を出す限界がです。労働用にすればもう少し働けるのではないでしょうか。」
なるほどなぁ。
「ここでは肉の価値があるうちに市へ出してしまいます。」
「痩せては高く売れないからな。」
「私達が食べている肉はこうやって回っているんですね。」
その通り。
魔物の肉であれば冒険者から集める事も出来るが、それ以外は酪農家の皆さんの手にかかっている。
食べる為に育てる。
生き物を食べるというのは非常に大変なことなんだ。
「牛舎も御覧になりますか?」
「是非お願いします。」
「ユーリのために鶏の飼育についても見せてもらってはどうだ?」
「それもいいですね。」
「あまり大きいものではありませんが、よろしければどうぞ。」
「ありがとうございます。」
酪農に関しては全くの素人だ。
見るだけではわからない部分はあるが、聞ける所は聞いて今後の参考にさせてもらおう。
今回は知識を増やす為の視察なんだし、あの人の名前を最大限使わせてもらって普段は聞けない話を聞かせてもらおうかな。
と、先を行くゴーダさんの背中を見ながら悪い事を考えるのだった。
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