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第七章

思わぬ反撃

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何とも言えない顔で話を始めるマッカ氏。

これから語られるのはあの日に何があったのか。

今や彼女しか知ることのない、秘密の扉が今開かれる。

「借金の請求?それは当初貸し出していた金額分という事でよろしいですか?」

「あの爺さんは急に借金を返済し始めた。出遅れれば返ってくるもんも返って来んからな、無くなる前に請求したんや。」

いくらかについてはあえて答えないつもりか。

まぁ、いいだろうまずは全容解明だ。

「だが返してもらえてなかった。」

「返済どころかあの爺もっと金を貸してくれって言うてきたんやで。」

「商隊の為に?」

「ちゃう、別のやつに返す金が足りんからそれを貸してほしいんやて。うちの分はそれを含めて別の物で返す言う話になったんや。」

「それが奴隷ですか・・・。」

「いや、あの爺さん最後まであの狐っ子は手放さんかった。他の奴隷を手放したんはしってたからな、残ったんを担保によこせ言うても聞かんかった。」

トリシャさんは最後まで手放さなかった。

これは猫目館で仕入れた情報とも合致する。

でもなんでさらなる借金が必要だったんだ?

資産は十分にあるはずなのにそれを手放せば十分足りたはずだ。

「あの日は揉めに揉めた。金貨20枚も借金しておきながら追加で20枚も要求してくるて普通考えるか?それで担保は出さん、狐っ子は渡さんの一辺倒や。結局自分が死んだら住んでる家を売れば金が50枚になるからそれを持っていけ言う話になったんや。」

「なるほど、金貨50枚のからくりなんですね。」

「別に不正に水増ししたんやない、向こうが自分が死んだら金貨50枚払う言うたんやで。」

「それに関して証明する書類はありませんか?」

「口約束やったからな、そんなん残してへん。まさかあんな急に死ぬとは思ってへんかったからな、今思えば念書の一枚でも書いてもらえばよかった思うてるわ。まぁ、結果としてうちは金貨50枚分の借金を返済してもろうたわけやけど。」

「なぜさっきはあんな嘘を?」

「あの爺さんも借金返しながら借金こさえるわけにはいかんからな、そう言う言い訳にして口裏を合わせたんや。」

話の筋は通っている。

通っているがこれを本当に信じていいんだろうか。

あの日の事を知っているのはこの人だけだ。

いくらでっち上げても突っ込まれることはない。

だから今は半分信じて半分疑っていく。

「話は分かりました。ですが腑に落ちない点があります。」

「私は正直に言うたで。」

「書面に残らない借金が金貨30枚。正式な書類に記されたのは金貨20枚。役所は追加で金貨30枚も請求して何も言ってこなかったんですか?」

「そ、それは・・・。」

「正直に言ったのではないんですか?」

「くっ・・追加で貸した30枚を死後債権回収した他の3人と合わせて4人で貸したという事にしたんや・・・。そうすれば書類がなくても認められるしな。」

それって十分な不正行為じゃないんでしょうか。

追加で金貨30枚も要求して、書類はありませんって普通は認められないでしょ。

裏で金を渡しているに決まっているじゃないか。

証拠がないからこれに関してはこれ以上追及できない。

っていうか、そこまでくると俺の手に負える話じゃない。

役人が金を貰って不正を認めちゃってるわけだし。

死後『私も金貸してました、書類はありません!』が通っちゃダメでしょ。

怖いわー。

本当に世の中金で何とかなっちゃうんだな。

「確かに死後債権回収した人数は4人。マッカ様はそのうちの二人に奴隷を譲渡し、残り1名は辞退されている。結果としてマッカ様は白狐人の奴隷を手にされたわけですね。」

「その通りや。」

「残りの三人には協力料という名目で金品と奴隷を渡し、形式上話がまとまったという形にした。そこまでしてその奴隷がほしかったんですか?」

「白狐人は裏市場にも出回らん貴重な奴隷や。今手に入れな次いつ手に入るかわかったもんやないからな。」

「ですが死後譲渡された奴隷は行方不明。」

「ホンマに惜しい事したわ。冗談で死んでるんちゃうかなんて言うたけど、もしそうなってたら大損ってもんやないんやで。」

「いつ頃行方不明に?」

「爺さんが死んで翌日には引き取った。それから二日後やな、部下が目を離したすきに開いてた窓から行方をくらませたんや。」

行方をくらませた。

あえて逃げたとは言わないのは、やましいことをしていたからだろう。

トリシャさんのあの怯え方。

あれはジルダ氏がトリシャさんに行ったものでは絶対にない。

最後まで手放さずにおいておくほど大切にしていた奴隷を、精神的に痛めつけるようには思えないからだ。

それに、他の奴隷の目がある場所でそんなことしようものなら絶対に噂が広まるはずだ。

白狐人は虐待されていたと。

ジルダ氏じゃないとすれば次の主人はただ一人、この女だけだ。

「な、なんや怖い顔して。」

「いえなんでもありません。」

何をしたのか、思い出しただけで怒りがこみあげて来る。

俺は彼女を苦しめた人間を許すことはできない。

心の奥にあれほどまでの恐怖を埋め込んだんだ。

許していいはずがない。

だが、今はダメだ。

まだ追い詰め切れていない。

追い詰めて追い詰めて逃げ道を無くしてからじゃないと。

今はまだ早すぎる。

「・・・それともう一つ。」

「まだあるんかいな!」

「この話には腑に落ちないところが多すぎるんですよ。」

「これ以上私に何をさせたいねん、罪の告白か?懺悔か?別に私があの爺さんを殺したんやないんやで!?」

この女がジルダ氏を暗殺する?

それは考えもつかなかった。

もしそれが可能なのであれば追加で借金をした後すぐに亡くなったという話にも合点がいく。

だが、そこまでするか?

人の命を奪ってまで得る金にしては少なくないか?

でも、金は人を変えるからなぁ。

これに関しては不確定すぎる。

別の所から行こう。

「もしそうならマッカ様を騎士団に差し出せば済む話ですが私にはそうは思えません。」

「じゃあアンタは何がしたいねん。」

「言ったじゃないですか、真実を知りたいんです。」

俺が真実を知りたいんだ。

それだけじゃない、俺の後ろにいる彼女にも知ってほしい。

だから俺は口撃を緩めたりはしない。

「借金の件はわかりました。ですが、お手元の書類にもある様に資産が残っている状態で債権回収順位最下位の奴隷に手を出すのは違法行為です。さっきの話にもありましたように金貨50枚の価値があるはずの自宅も差し押さえられていない。いったいどうやったんです?」

債権回収には決まりがある。

債務者の死後、債権者は回収順位に応じて資産を回収し、支払いに充てる。

現物資産、次に不動産、手形、権利書、最後に奴隷。

手形や権利書は事前譲渡の際などに支払いとして当てられているために残ったのは現物資産と不動産そして奴隷だ。

現金が仮になかったとしたら、不動産で支払われる手はずになっている。

金貨50枚の価値がある家なのであれば、それで無理やり仕組まれた借金の分賄えるのではないのか。

そうすればトリシャさんが売られることはなかったはずだ。

これにも絶対に何かある。

「あんなボロい家に金貨50枚もの価値があるわけないやろ。」

「ですがお渡しした書類には確かに不動産資産金貨50枚とありますが?」

「その試算を出したんはいつになってる?」

知らん。

っていうと大変なのでその辺もリサーチ済みだ。

「3年ほど前ですね。」

「確かに3年前ならそのぐらいの価値はあったやろけど、今の価値では金貨10枚もあらしません。せやから支払い不足で順位最下位の奴隷をもろうたんや。違法行為でも何でもないわ。」

「質問ですが、不動産の資産価値という者はそんなに急に下がるものなのですか?」

「いい質問やな、普通不動産の価値言うのはそんな急に下がったりしやしません。けどな、持ち主がそこで死んだ家に誰が住みたい思います?それとは別に最近のあの地域は治安も悪いし好んで住みたい思う人もあらしませんわ、だから価値が下がったんです。」

つまり事故物件になったから価値が下がった。

それだけじゃない、地価が下がったので相対的に資産価値も下がっていったと言いたいわけか。

「・・・ちなみに治安が悪くなったのはいつごろでしょう。」

「さぁ、あの爺さんが死んだ前後ぐらい違うかなぁ。」

先ほどまで劣勢だったマッカ氏がニヤリと笑った。

こいつだ。

証拠がないから何も言えないけど、間違いなくこいつが指示して無理やり地価を下げたんだ。

結果として価値は激減し、支払い不足になった。

まてよ、他にも不動産があったよな。

「他の不動産はどうされたんですか?」

「他の街に作ってある元商隊の基地の話か?あんなもん権利書がないのにどうやって貰いますんや。この街なら権利書なしでも管理してるからわかりますけど、他の街なんて調べるだけ金の無駄ですわ。」

試算表にのっている不動産物件。

それだけで金貨50枚を超える資産があるようになっている。

だが、その全てが試算表通りに支払いに使われることはなかった。

「権利書がないなんて珍しいですね。」

「なんでも死んですぐ物取りが入ったらしいわ。人が死んですぐの家に入り込むとか信じられへんね。」

あー、うん。

ダウト。

これもダウト。

証拠がないけど間違いなくこいつが犯人第二弾です。

暗殺してないって言ったけど、した可能性が無茶苦茶高くなってきた。

だがそれを証明する手段がない。

流れ者とか奴隷を使って殺させたとして、この女までたどり着くことはできないだろう。

死ぬ現場を見た人間がいればまだしも、そう言う事もなさそうだし・・・。

俺が思っている以上にこの女、強大な力を持っている。

それが商業ギルド第3位に君臨する理由なんだろう。

金と権力と裏社会。

マフィアかよ。

俺みたいなただの商人が戦っていい相手じゃない気がしてきたんだけど。

消されたりしない?

いきなり黒づくめの人達が入って来て、気づいた時には高層ビルの上にかけられた橋の上を歩かされたりしない?

って、あれは借金か。

折角俺のペースで話を進めていたのに、今ここでアドバンテージを失ったら本当に消されてしまうかもしれない。

畳みかけなければ。

主導権を常に握り続けないと危ない。

命の危険がないなんて言ってたけど、十分あり得るじゃないですか。

毎度毎度勘弁してください。

順位のからくりも借金のからくりもつきとめた。

つきとめたが、証拠がない。

順位の不正は不動産の件を証明しなければ法律違反にはならない。

借金の増額に関しては口裏を合わせた他の三人や、許可した役人を突き止めなければならない。

それにはとてつもない時間がかかるだろう。

っていうか、調べている最中に闇に葬られる可能性だってある。

俺以外にも当事者が。

となれば、どうすればいい。

ここにきて俺の切ったカードが全て無効化されてしまった。

仮に見逃さずに逮捕しても、借金の増額という不正だけでは追い詰めるには弱すぎる。

再起不能にしなければならないんだ。

それぐらいの痛手を与える何かが足りない。

どうする。

どうすればいい。

考えろ、考えろ俺!

「なんやかっこいいこと言っときながら所詮この程度ですか。」

そんな俺を見透かしたようにマッカ氏がため息をついた。

「何の話ですか?」

「書類を出された時はウチも年貢の納め時かとおもいましたけど、不動産の件といい随分と詰めが甘いみたいやね。なんや、すごい頭の切れる男やて聞いていたけどとんだ拍子抜けやわ。」

「別にすごいわけでも頭が切れるわけでもないんですけど。」

「多少頭の回転は速いようやけど、場数が足りなさすぎます。」

「まだまだ若輩者ですので、マッカ様程の場数は踏んでおりませんよ。」

こちとらまっとうな商人なもんでね。

悪事の場数なんてこなしてきてないんですよ。

「それで、ウチをどうするつもりです?不正な借金の増額で役人に突き出しますか?まぁそれぐらいやったら二日もしたら出て来れそうやけどなぁ。」

「先ほども言いましたように私はマッカ様を罰したくて来ているのではありません。あの日何があったのか、その真実を知りに来たんです。」

「真実を知っておたくはどうするつもりですのん。」

「別に何も。」

「何も?そんな言葉信じられますかいな、どうせこの件でウチをゆすって小金をせびり続けようとか狡い事考えてるのと違います?」

なるほど、その手もあったか。

だが俺は犯罪を犯してまで金を稼ぎたいわけではない。

この戦いの目的は二つ。

トリシャさんの解放と俺のメンツの為の戦いだ。

馬鹿にされたままで引き下がれるわけがない。

面子の占める割合が25%しかなくても、俺には十分に戦う理由になる。

トリシャさんには悪いけど、俺は俺の戦いをさせてもらおう。

「なるほど、そんなやり方もあったわけですね。ですがそんな小銭でこんなところまで来たりしませんよ。」

「なんやまだやる気かいな。」

「もちろんです、私がここに来た理由は先ほどお話ししましたよね。」

「あの狐っ子を譲ってくれ言う話やろ?」

「それもありますが、私は儲け話をしに来たんですよ。」

やられたらやりかえす10倍返しだ。

なんてひと昔前に流行った気がする。

ここで引き下がるわけにはいかないんだよ。

さぁ第二ラウンドを始めようか。
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