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第七章

確信へ近づく為に

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必要な情報は仕入れることはできた。

少々強引な方法ではあったがシルビア様が言うように犯罪は犯していない。

決して脅迫とかじゃないので安心してほしい。

ちょっと調べたいことがあるので人を貸してほしいとお願いしただけだ。

本当は書類だけ見せてもらえれば十分なのだが、生憎俺には文字が読めない。

と、いうことで関係者の方にお願いして読んでいただくというスタイルを取ってみた。

これなら体裁は猫目館の関係者が書類を読んでいる所にたまたま俺が出くわしたようにできる。

いやぁ世の中何とかなるものだ。

HAHAHAHA。

少々現支配人の顔が引きつっていたように見えるが気のせいだろう。

後はエミリア達と合流してしまえば問題なしっと。

おや、向こうから何か声が聞こえるぞ。

猫目館を出て裏路地を進み、集合場所であるジルダ氏の自宅へと向かっていた時だった。

どこかで聞いたことのある声だ。

はて、なんだろう。

「ちょっと、まだ見つからへんの?」

「申し訳ありません、人員を割いてはおりますが有力な情報は上がっておりません。」

「こないちっぽけな街で娘っ子一人見つけられないなんて、おたくらちょっと府抜けてるんとちゃいます?」

「そ、そんなことはございません!」

「ウチは別にかまへんねんで?ど~しても書類室で書類破棄の仕事をしたいっていうんやったら休息日が明けたらそこに移ってもらっても。」

「あそこだけは勘弁してください!」

「ホンならさっさと探してウチの前にあの狐連れて来んかい!」

「し、失礼します!」

このしゃべり方。

間違いない、あの兄妹だ。

声の感じからすると妹の方だな。

えっと、マッカの方?

ジルダ氏と怪しいやり取りをしていた張本人がこんなところにいるなんて。

しかもご丁寧にトリシャさんを探している現場を目撃できるとは、これはついてるな。

マッカはトリシャさんを探している。

そしてそれを部下に指示して探させている。

トリシャさんを探している人間は、トリシャさんに俺を尾行させた人間と繋がっている。

つまり俺を尾行させた人間は商業ギルドの人間という方程式も成り立つ。

だが、最初の人間と最後の人間がつながっているのならばどうして最初にトリシャさんに依頼した時点で捕まえなかったのか。

もしかしてトリシャさんに依頼した人間は商業ギルドの人間ではあるがマッカの配下ではないとか。

となると、俺を締め出そうとしているのはマッカではない?

となれば兄のデンの方なんだけど・・・。

あの二人が別行動をしているという事にもなるわけで。

うーん、わからん。

もし兄妹が別行動でお互いにやっていることを共有していないのであれば、俺の集めた情報はマッカに使えてもエミリア達にお願いしている情報は使えないことになる。

その逆もしかりだ。

兄妹同時に潰しにかかるのは無理か。

何だかややこしいなぁ。

とりあえず戻ってみんなに相談できれば・・・。

「おい、お前何してる!」

ヤバッ。

考え事をし過ぎたせいで後ろから来ていた人間の気配に気づかなかった。

くそ、どうすればいい。

「すみません少し迷子になってしまって。」

「怪しい奴だちょっとこい!」

来いって言われてもどこに行くっていうんだよ。

「何や騒がしいなぁ!」

ってこのタイミングでお前までくるのかよ。

つまりは俺を後ろから捕まえようとしている奴は商業ギルドの関係者ってことになるじゃないか。

万事休すか?

ついさっきコッペンに何をするかわからないぞって言われたところなのに。

このまま拉致でもされたら抵抗できないぞ。

せめて誰か一緒だったら・・・。

下手に逃げれば怪しまれるしこのまま捕まってもまずい。

どうする。

どうすればいい。

「おたくさん、誰かと思ったらクソ商店の店主ですやん。」

「マッカ様お知り合いですか?」

「私を敵に回した馬鹿な店主がいったいこんなところで何をしてはりますのん。」

何をしているのって、お前を探ってたなんて言えるわけもなし。

かといってやり返そうとしているとも言えないして。

どうしよう。

「これは商業ギルドのマッカ様、妻たちを探していましたら道に迷ってしまいまして丁度いいところでお会いできました。」

「道に迷う?あぁ、あんな辺鄙な所で仕事をしとったら田舎もんにはこの街は広すぎますわなぁ。」

「お恥ずかしいながらその通り、物珍しさに歩いておりましたらこの通りです。」

「残念ながらアンタを連れていくほど良い関係ちゃうからね、せいぜい迷子になっとき。」

おや?

もしかして俺を追い出そうとしていることを知らない?

でもトリシャさんを探している人間は俺を追い出そうとしてたっていうし・・・。

もしかして商業ギルド関係者の中でリレーションが取れてないとか?

やってることは商業ギルドをとおしてやってるけど、仲間が何をしているかまでは知らない。

もしくは、上司であるこの兄妹に逐一情報を流していない。

だからこの妹は俺を探しているという事を知らないでいる。

ってこと?

それってあまりにもご都合過ぎない?

や、今はその方がありがたい。

ご都合主義最高!

「幸い城壁は見えますのでそちらを目指して通りへ出ようと思います。お恥ずかしい所をお見せしました。」

「田舎もんはさっさと家に帰って奥さんの乳でも吸わせてもらいはったらどうですか?アッハッハ。」

むしろ吸わせてもらえるなら大歓迎なんですが・・・。

「それでは失礼します。」

とりあえず今はこの場から離れるほうが最優先だ。

下手に刺激する必要はない。

攻撃手段がそろってからボコボコにしてやればいい。

敵前逃亡最高です。

ペコペコと頭を下げながら包囲を抜け、できるだけ遠くへ行こう。

このままトリシャさん達の待つところへ戻るわけにはいかない。

遠回りをしてそれこそ尾行されていないことを確認しながら・・・。

「ちょっと待ち。」

お願いだから早く解放して!

笑顔を絶やさぬようにゆっくりとマッカの方を振り返る。

鋭い目つきで俺の方を睨んでいた。

「いかがされましたか?」

「あんた・・・。」

あんた・・・逃げれるとおもったら大間違いやで、とか?

あんた・・・土下座してこの前の件謝らんかい!とか?

あんた・・・五体満足でいられると思うなよ!とか?

全部勘弁してください。

「あんた・・・白狐人ってしらん?」

「白狐人ですか・・・。」

ここでまさかのトリシャさん探してるパターンですか。

いくら俺が狙われている身とはいえ彼女を犠牲にして逃げるわけにはいかないし。

でもこのまま捕まれば開放することもできないわけで。

どうする~アイ〇ル~

「いや、ええわ。異世界から来たばっかりのアンタが知ってるわけないわな。」

「申し訳ありませんお力になれなくて。」

「はじめから頼りになんてしとらんし、さっさとどっか行き。」

「失礼します。」

敵前逃亡再び!

興味が失せたようにため息をつくマッカを背にしてできるだけ急いでその場を離れる。

後ろから部下へのきつい罵倒が聞こえるが、今は同情している暇もない。

とりあえず急いで逃げなければ・・・。

シナリオ途中で強制ラスボス登場イベントってよくあるけど、実際に経験すると勘弁してほしいってなるな。

大抵負けイベントだしさ。

やっぱりボスとやりあうなら装備マシマシで俺TUEE!が一番だよね。

あ、もちろん縛りプレイも好きですよ?

SM的な奴じゃなくてね。

マッカから逃げるようにその場を離れ、後ろを確認しながら路地裏をジグザグに進む。

わざと止まってみたり、隠れてみたりするも後ろから誰かが来る気配はない。

そのまま一度大通りへ出て、再び裏通りへと入り同じような方法を使いながらみんなの待つ家へ向かう。

到着したのは太陽が城壁の向こうに沈んでしまう頃だった。

家からは薄明かりが見える。

えっと、それバレない?

「ただいま戻りました。」

最後にもう一度周囲を確認して建物の中に入る。

手探りで裏口から進むと中央の部屋にみんな集まっていた。

「シュウイチさん!」

「シュウイチ無事だったか心配したぞ。」

「すみません情報収集に手間取りました、それと厄介な人間に見つかってしまって。」

「厄介な人間ですか?」

「えぇ、今回の騒動の当事者と思われる兄妹の妹の方と遭遇しました。」

「大丈夫だったんですか?」

「とりあえずは無事に戻ってこれました、尾行はなさそうですのでご心配なく。」

全員が俺の顔を見るなりホッとしたような顔をする。

「あまりにも御主人様の帰りが遅いので探しに行こうかと思っておりました。」

「本当は早く帰るつもりだったんですけどね、遠回りしないと帰れない状況だったモノですから。」

「尾行を巻くためか?」

「トリシャさんを探しているのはやはり彼女で間違いないようです。理由に関してもコッペンより情報を仕入れてきました。」

「商業ギルドがいったい何のために彼女を・・・。」

「恐らくはトリシャさんの件については彼女個人の問題のようです。その証拠にギルド関係者がトリシャさんと接触していましたがそちらはトリシャさんについて何も反応していませんでしたし。」

「確かにその通りです。ギルド全体で探しているのであればあの場で拘束されているはずです。」

仮にさらわれたとしてもウェリス達だけではどうすることもできなかっただろう。

あの時はトリシャさんが捜索されていると思っていなかった。

思っていなかったとはいえ、敵に差し出すような格好になったのは事実だ。

それを考えると非常に怖いことをしてしまった。

終わり良ければ全てよしというけれど、リスクが大きすぎる。

「トリシャさん、失礼ながら貴女の事について調べさせていただきました。ジルダさんとの関係や、追われていることについても大方予想がついています。しかしこれはあくまでも予想です、確信を得る為に質問させてもらいたいのですがいいですか?」

「それを聞いて貴方はどうするの?他の人みたいに私を売り払うつもりなんでしょ?」

「仮にこれを知ったところで私には貴女を売ることはできません。何故なら、ジルダさんが死去したとしても所有者は変わらないからです。」

「どうして!?ご主人様が死んだら奴隷は解放されるんでしょ!?」

「所有した状態で死去したのであればそうなります。ですが、ジルダ氏は生前かなりの借金を背負っており、その借金を返済する為に多くの債権者と生前契約を交わしていました。自分の死後所有する奴隷を譲渡するというものです。」

借金の肩代わりに奴隷を手放す。

トリシャさんが話していた他にいた奴隷というのはこうやって売られていったのだ。

「他の奴隷の方々の譲渡先に関しても調べはついています。転売された形跡はなく今の所譲渡先で暮らしている事だけはわかりました。この国では奴隷への虐待は禁止されておりますのでおそらくは無事でいると思われます。」

「無事でいたって結局は奴隷のままで自由でも何でもない・・・。」

「その通りです。解放されるかどうかは所有者の自由ですが債権の代わりとして譲渡されたのであれば難しいでしょう。」

「それで、私は誰に譲渡されたの?そいつが死ねば私は自由になれるんでしょ?」

確かに主人が死ねば奴隷は自由になる。

だが普通は死ぬ前に今回の様に譲渡先が決まってしまったり、家族に相続されてしまうので自由になれる可能性など皆無だ。

よほど急な死去かつ相続人がいない場合でないと解放されることはない。

ジルダ氏はまさにこの条件に合致しているのだが、残念なことに生前に譲渡先が決まっているパターンだった。

では、トリシャさんはどうなるのか。

「それがトリシャさんを追っている商業ギルドのマッカさんなんですね。」

「そう考えるのが筋だろうな、そうでなければ血眼になって探す理由がわからん。」

「そのマッカという奴が死ねば私は自由になれるの?」

「病死などでない限り奴隷による主人の殺害はいかなる理由でも死罪だ。自由になることはない。」

「じゃあ一生逃げ回って見せる、私はもう誰の物にもならないんだから!」

トリシャさんの悲痛な叫びが部屋中に響き渡った

俺達は自由だ。

当たり前の自由を謳歌している。

だが、トリシャさんやニケさんの様にその当たり前の自由を謳歌ができない人もいる。

ウェリスに関しては自己責任だが、二人には何の責任もない。

にもかかわらず奴隷という身分に落ちてしまった。

その悲痛な叫びは持っている者にきつく突き刺さってくる。

どうにかしたい。

どうにかしたいが、そのためにはあまりにもハードルが多い。

誰かの物を正当な理由なく奪う事が出来ないのはどの世界でも同じなのだ。

そう、正当な理由がなければ。

「トリシャさんの所有者ですが、確かに現在は商業ギルドのマッカ氏となっています。しかしながらトリシャさんの譲渡に関しては他の方と大きな違いがありました。」

「大きな違い、ですか?」

「ニケさん、奴隷の譲渡には所有者の許可が必要なんですよね。」

「はい。所有者が承諾しない限りは他人が勝手に奴隷を移動できないようになっています。これは移動先で奴隷が不利益を得ないよう所有者が移譲先を厳選する義務を負っているからです。」

奴隷を虐待してはならない。

この法は奴隷本人を守るためのものである。

もし移譲先の環境が劣悪であれば、奴隷の虐待されるリスクは高くなってしまう。

なのでそのような環境で奴隷を生活させないために所有者には相手を厳選する義務が生じるのだ。

もちろんそれを破れば罰則がある。

奴隷を売買するにはいくつものハードルを越えなければならないようになっている。

それができない相手はそもそも所有してはならない。

もちろん、売られた方が待遇が良くなるのであれば構わないわけだが。

「トリシャさんの元所有者であるジルダさんは、何故かトリシャさんだけは生前譲渡を行っておりませんでした。現在マッカ氏に所有権が移っているのは債権回収の為となっております。」

「それは妙な話だな。他に債権者はいなかったのか?」

「それに関しても調べを行いました。他に三人の債権者がいたようですが辞退もしくはマッカ氏より別の奴隷を譲渡されております。」

「他の三人に辞退させ、自分だけが回収できるよう仕向けたように聞こえますが。」

「ユーリの言う通りだとおもいます。ですが、それに関しては調べる時間がありませんでした。」

もし仮にユーリの言う通りであれば、トリシャさんの所有権の移動はかなりグレーな感じがしてくる。

「ひとつ質問なんだが、債権回収というのはどのように行われるのだ?」

「まず最初に現物資産が差し押さえられます。そして次に不動産、手形、権利書、最後に奴隷となっていますね。」

さすがエミリア頼りになります。

「つまり借金がなければ即解放、借金があったとしても今の順番で清算できれば所有者が死亡した場合解放されるわけですね。」

なるほど合理的だ。

「ならばマッカ殿を含めた4人の債権者もその順番で債権分の資産が振り分けられるわけだな。」

「そうなりますね。」

「御主人様、奴隷が最後なのは何故でしょう?」

「奴隷は所有者の死後解放される権利を持っていますので、順番が最後なんです。」

「ならばトリシャ殿の所有者が移譲したのは別の資産では賄えなかったという事か?」

そう、そこなんですよ。

今ここに居るこの家も古いが立派な資産だ。

それも含めて吐き出すだけ吐き出して足りなかったから奴隷を手放すことになった。

なら、もし仮に資産はあるのに奴隷を譲渡したとなったら。

おかしいよねぇ。

「ジルダ氏の負債総額についてはまだ調べがついていません。正確に言えば調べようがなかったという感じです。」

「確かに亡くなった方の負債は清算されていますので調べ直すのは難しいと思います。」

「なによりジルダ氏が他の奴隷は生前譲渡しておきながらトリシャさんだけしなかった理由がわかりません。絶対に何か理由があったはずなんです。それについてはトリシャさんが一番ご存知かとおもうのですが・・・。」

「私何も知らないよ。」

聞きたくても答えてくれないこの感じ。

うーん。

謎ばっかり増えて答えが見えない。

長いトンネルを明かりもなしに歩いている感じだ。

さてどうするべきか。

「あの、とりあえずご飯を食べに行きませんか?時間的にそろそろウェリスさんたちを迎えに行かなければ間に合わないと思います。」

話が煮詰まった瞬間にナイスタイミングなニケさんの提案。

「そう言えばそうだったな。」

「私としたことがすっかり忘れておりました!急ぎセレン様をお迎えに行ってまいります。」

何はともあれ腹が減っては戦はできぬってね。

「ではユーリとニケさんでウェリス達を呼んできてください。私達はトリシャさんと一緒に先に現地へ向かっておきます。」

「私もどこかへ行くの?」

キョトンとした顔で俺を見つめるトリシャさん。

「美味しいものはお好きですか?」

「うん!」

「難しい話ばかりもなんですからまずはお腹いっぱいになりましょう。話はそれからでも大丈夫です。」

「でも私お金なんてないよ。」

「そこはシュウイチに任せればいい。」

「そうです、誘ったのはシュウイチさんですから。」

そこはもうお任せください。

給料日明けで懐は潤ってますよ!

「じゃあ、行きます。」

「お任せください。」

「しかし現地まではどうする、トリシャ殿を探している連中がいるはずだが。」

「それに関してはご心配なく。猫目館で衣装をお借りしておりますので。」

「わ、私はもうあんな服着ませんよ!?」

「エミリアはこのままで大丈夫です。もちろん、着てもらえるのならうれしいですが。」

「シュウイチさんが着て欲しいというのなら・・・。」

マジですか。

着て欲しいって言ったらあんな服やそんな服まで着てくれるの?

もっと借りてくればよかった!

「シュウイチ話がずれているぞ。」

「すみません。」

「それにだ、シュウイチが着て欲しいというのならば私が着るのも吝かではない。」

おっと、まさかのシルビア様も参戦ですか?

美人奥様二人のコスプレ合戦だなんて、ご飯何杯でもお代わりできますよ!

「と、とりあえずその件は保留ということで。」

俺は猫目館で預かった衣装をトリシャさんに手渡す。

「こんな綺麗な服着たこと無い・・・。」

「これは考えたな。」

「確かにこれだと逆にわかりませんね。」

奥様二人の反応も中々よろしいようで。

え、どんな衣装かって?

一つ言えるのは、女性は化けれるということ。

綺麗は作れるんです。

女性って怖い・・・。

「では着替えが終わり次第行きましょうか。」

腹が減っては何とやら。

考えないといけない事はたくさんあるけれど、これからの時間だけはせめて現実を忘れて楽しんでくれますように。
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