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第七章

隠密作戦開始

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やることが決まったら行動は早いほうがいい。

なんせ残された時間はあと1日しかない。

いつもそうだけど何かしようと思った時には時間が無いんだよな。

もう少し余裕を持って行動したい所なんですが、そううまく行かないものでして。

とりあえず出来る事をしっかりとやるだけだ。

もちろん他力本願が基本ですけどね!

「・・・と、いうことで各自よろしくお願いします。日暮れ頃に一度集合したいところではありますが何処にしましょうか。」

「騎士団に集まるのがいいだろうが、そうなるとトリシャ殿の移動が難しい。」

「やはりここに戻ってくるのが一番かと思います。」

やっぱりそうですよねー。

「では戻ってくる時は念のため回りを警戒してお願いします。」

「なんだかワクワクしますね。」

「ワクワクですか?」

「今までずっと猫目館にいたので、こうやって皆で何かをするってことが無かったものですから。」

「面が割れていないニケさんとユーリには特に頑張ってもらわなければなりません、ですが無茶だけはしないでください。」

「それはご主人様にも言えるのでは無いでしょうか。」

「そうですね、シュウイチさんはいつも無茶をしますから。」

な、なんのことだかわからないなぁ。

「出来るだけ善処します。」

「騎士団長として言うが出来るだけ犯罪行為は慎んでくれ、身内を裁くのはさすがに堪える。」

「もちろんです。」

犯罪行為、ダメ絶対。

あれ、不法占拠しているこの時点で犯してない?

ばれなきゃ何とかなる理論でok?

「では宜しくお願いします。」

「「「「はい。」」」」

裏口から外に出てそれぞれが目的の為に散っていく。

あれだなスパイ映画とかでよくあるよな、こんなシーン。

バックミュージックはミッション・イン・○ッシブルでよろしくどうぞ。

「私はここにいたらいいの?」

全員を見送るとふと後ろからトリシャさんに話しかけられた。

「もし誰か侵入して来た場合は全力で逃げてください。騎士団に逃げ込めば奴等も手を出せないでしょう。」

「わかった。」

「これがうまく行けばきっと自由になれます、それまで信じて待っていてください。」

「うん、ここまでしてくれたのは貴方達だけだから。だから、待ってる。」

「では。」

トリシャさんが捕まると今回の計画は全て無かった事になってしまう。

半年以上この街で逃げ回れたんだ、あと1日頑張ってもらうとしよう。

とりあえず俺はコッペンの所に行くか。

体調は万全ではないが倒れるほどじゃない。

それにやることが決まっている以上倒れているわけにも行かない。

俺の推理が正しければトリシャさんを探しているのもあの兄妹のはずだ。

どういう方法かはわからないが、ジルダさんという元主人から彼女の所有権をもらった。

大半は売りに出されたが彼女だけは逃げ出した。

恐らくその一連の流れの中で彼女の涙の理由が起きてしまったのだろう。

どんな理由があっても彼女を苦しめたことは許されるものではない。

心の奥にトラウマとして残るぐらいの行為だ。

よほどの事をしたんだろう。

まぁ全ては元主人の情報と商業ギルドでの対応について話を聞いてからだ。

裏通りを進んで受付の豆屋を探す。

裏通りから探すのは初めてだけど、方角的には・・・。

「なんだ、こんな所で会うなんて珍しいな。」

突然後ろから声をかけられ慌てて振り返る。

そこには不思議そうな顔をしたコッペンと見知らぬ美女。

真っ昼間からいい御身分だな。

「丁度貴方の所に行こうといていたところなんですよ。」

「そいつは好都合だ。俺もお前を探してた所だ。」

「それはどうも。それで、私を探していた事と横におられる美人な方とは何か関係が?」

「残念だがお前には関係ない。美人を四人も連れているんだからもう十分だろ。」

いや、紹介してくれといっているんじゃないんですけど・・・。

まぁいいか。

「いくつか聞きたい事があるんですが、ここでは話しにくい内容でして。」

「俺の店と言いたい所だが、生憎今日は休業だ。別の場所でも構わないか?」

「秘密が保持されるなら何処でもかまいません。」

「付いて来な。」

コッペンと美人の後ろを付いていく。

裏路地をあっちへ曲がりこっちへ曲がり。

まるでわざと遠回りをするように見知らぬ道を歩かされる。

こちとら病み上がりでしんどいんですけど、わざとでしょうか。

わざとなんですね。

よし、ならば戦闘だ。

とか何とか悪態をつきながらも何とか目的の場所らしき建物に到着した。

また前回みたいに廃屋に偽装した場所かと思ったけど、今日はまともな店なんだな。

っていうか、まともな店だったら俺は入れないんじゃないでしょうか。

「この店は商業ギルドに加盟してない珍しい店だから安心していいぞ。」

あ、そうでしたか。

でも何処かで見たことあるんだよな、この店。

というかこの匂い。

「邪魔するぞ。」

「イラッシャイマセ、御予約のコッペン様ですねお待ちしておりました。」

あら、予約?

もしかして俺ってお邪魔虫だったりしませんでしょうか。

もしそうなら後でもいいんですけど。

「追加でもう一人なんだが構わないだろ?」

「お一人ぐらいでしたら何とか、あれ貴方は昨日の・・・。」

思い出した!

ここ、昨日食べたハンバーグの店だ!

「昨日はお世話になりました。」

「何だ知っているのか。」

「昨日も御来店いただきました。今日の夕刻にも御予約を頂いておりますが、そちらはどうされますか?」

「もちろんお邪魔させていただきます、それとこちらも追加でもう一人大丈夫ですか?」

「でしたら貸切とさせて頂いたほうがいいですね、、大丈夫ですよ。」

そういえばここの予約もしてたんだよな。

すっかり忘れてた。

危ない危ない。

「昨日だけじゃなくこの後も利用するとかよっぽど気に入ったんだな。」

「妻達が偉く気に入りましてね、まさかこの店とは思いませんでした。」

「こっちも妻が気に入っていてな、紹介しよう妻のイザベラだ。」

「はじめまして、いつも主人がお世話になっております。」

え、ちょっとって。

奥さんいたの?

冗談とかドッキリとかじゃなくてマジで?

「こちらこそいつも世話になっています。まさかこんなに綺麗な奥さんがいるとは聞いていませんでした。」

「まぁお上手ですね。」

「いえ、本当に。お邪魔でしたら私は後でかまいませんが・・・。」

「この後のほうが都合が悪い。それに聞かれて困る話じゃないんだろ?」

「身内の方でしたら構いません。」

むしろここでダメですなんて言える空気ではない。

時間もないしさっさと本題に入るとしよう。

「イナバ様は食事はどうされますか?」

「私は後でいただきますので飲み物だけで結構です。」

「かしこまりました。」

「なんだ食わないのか。」

「せっかくですから後でいただきます。」

「若いのに小食なやつだ。」

どうもすみませんね。

食べるなら皆で食べたいだけだよ!

「二人のお邪魔にならない為にも手早くお話させていただきます。どうかお許し下さい。」

「私の事は気にせずどうぞお仕事のお話をなさってください」

何この出来た奥さん。

コッペンには勿体無くない?

もっといい旦那見つけられそうなもんだけど・・・。

こういう人ほど危ない男が好きだったりするんだよな。

「それで、お前が聞きに来たのは商業ギルドの件だろ?」

「それもありますがもう一つ、ジルダという商人についての情報を買いたいんです。」

「ジルダ?あぁ、この冬に死んだ商人か。死人の情報を買いたいなんて随分と酔狂なヤツだな。」

「今回は特に裏の顔について知りたいんです、例えば奴隷の売買について・・・とか。」

奴隷という単語を聞いた瞬間にコッペンの表情が固まった。

先ほどまでの少しふざけた空気が一気に引き締まる。

こりゃ当りを引いたか?

「あいつは貿易商人だったが奴隷商人じゃない、何かの間違いじゃないか?」

「天涯孤独で死後の財産は債権回収の為に回収されたものもあるとか。その中に彼の所持していた奴隷が含まれていたと思うんですがそれについては何か知りませんか?」

「確かにヤツの所有奴隷は死後債権者に譲渡された。だがそれは正式な手続きだし特に怪しいところは無いと俺が保証しよう。」

「その中に白狐人がいたはずですが・・・。」

「いや、いないな。」

「おかしいですね、彼の所有履歴には確かに白狐人の名前があった。にもかかわらず正式な譲渡の中には含まれていない。これはどういうことでしょうか。」

所有履歴に関しては俺のでたらめだ。

ニケさんを買受した時にそういう単語を耳にしたことがあるので使ってみたのだが、どうやら間違いでは無いらしい。

その証拠にコッペンが恐ろしい目で俺を見てくる。

ほらほら奥さんの前ですよ、笑って笑って。

「お前何処まで知っている。」

「さぁ、何処まででしょうか。」

「それ次第では俺はお前の敵になる可能性だってあるぞ。」

「それは困りましたね。ですがそれで引き下がれない事情が私にもあるんです。」

ここまで来たら知っている体でいくしかない。

コッペンを敵に回すのは得策ではないが、俺には俺のやり方がある。

こいつが情報を漏らすか、俺の嘘がばれるか。

我慢比べだな。

「白狐人については俺とジルダそれとマッカの三人しか知らないはずだ。お前何処でそれを知った。」

「さる筋の方からとだけ言いましょうか。」

「くそ、漏らすとしたらあの馬鹿女ぐらいだ。あいつ俺の事をけなしておきながら自分で漏らしているじゃねぇか。」

「人付き合いは考えるべきだと思いますよ。」

「今回の件だって如何して俺があいつ等の尻拭いをしなきゃならねぇんだ。」

「それに関しては関係者ではありますが同情します。」

コッペンとしては商業ギルドと俺との中間の立場で仕事がしたいはずだ。

そうすればどちらからも仕事を得ることが出来る。

だから、俺が何とかしに行くという言い方を昨日したんだろう。

だが、コッペンはマッカと怪しい取引をした形跡があった。

それがバレたという事は、中立の立場では無く幾分かギルドよりの可能性が出てきたわけだ。

もっとも、漏らしたのは自分の失言なんだが・・・。

それに気付かないほどに内心慌てているのだろう。

トリシャさんをめぐるその不透明なやり取り。

一体何が行なわれたんだろうか。

「ともかくこの取引に関して俺は間に入っただけで、どんなやり取りだったかはしらねぇよ。」

「そうですかわかりました。」

「・・・随分と簡単に引き下がるんだな。」

「別にこの件で貴方を糾弾するつもりはありません。私が知りたかったのはジルダさんと誰がやり取りをしていたかだけです。幸い貴方が口を滑らせてくれたおかげで聞き出す手間が省けましたが・・・。」

「お前、カマをかけたのか!」

カマをかけたとは人聞きの悪い。

話術といって欲しいね。

「私と貴方どちらが先に折れるのか長期戦を覚悟していましたが、なるほどそういうことですか。」

「この俺がお前みたいな若造にしてやられるとは、俺も歳を取ったもんだ。」

「貴方が慌てるぐらいですからよほどの取引だったんでしょうね。」

「さっきも言ったように俺は間を取り持っただけであいつ等がどんな取引をしたかまでは知らないからな。」

「そこに関しては信じることにしましょう。それとは別に、ジルダ氏が借金に苦しんでいたとかそういうことは知りませんか?」

全面的に信じることはできない。

だがここでこちらが強硬な手段をとれば二度とコッペンは心を開いてくれないだろう。

何事にも飴と鞭が必要だ。

俺が信じることで話が上手く進むのであれば今はそれで構わない。

ばつが悪いのであれば別のところで補充してくれれば十分だ。

「確かに晩年は資金繰りに苦しんでいたな。」

「何故そんな借金を?」

「自分の商隊が運悪く魔物の集団に襲われて壊滅してからケチが付き始めたんだ。私財を売っても金が足らなくて結局商隊は解散、手元に残ったのは莫大な借金というわけだ。」

「では多方面に借金があったんでしょうね。」

「商売仲間だけでなくギルドからも金を借りていたな。」

つまりはマッカからも金を借りていた可能性がある。

だがそれに関してはコッペンをつついても出てきそうにはないな。

一応聞くだけ聞くか。

「ちなみにマッカさんにもお金を?」

「あれだけ色んな人間から借りていたんだ可能性はあるな。だがいくら借りていたかは知らん。」

「それだけで十分です。」

「それと、商業ギルドが強硬な手段に出たのはお前をこの街から追い出すためだ。悪い事はいわん今日中にでも街を出るんだな。そうすれば来期にはほとぼりも冷めてるだろうよ。」

確かに街を出れば話は早い。

だがそれでは何の解決にもなっていない。

そしてなによりトリシャさんがまた一人になってしまうじゃないか。

それだけはダメだ。

「御忠告感謝します。ですが目的を達するまでは帰るつもりはありません。」

「そうか、ならあの兄妹にだけは気をつけろ。やつら金にはがめついし何をしでかすかわかったもんじゃないからな。」

「何をしでかすかわからないのはもう十分経験しています。」

「ははは、違いない。」

笑い事じゃないっての。

「奥様大切な時間をお邪魔しました。」

「いえ、何のお構いも出来ずにすみません。」

ワザワザ立ち上がり頭を下げる。

こらコッペン、こういうところ見習うんだよ!

「では失礼します。」

これ以上コッペンから情報を聞きだす事は出来ないだろう。

だが、話の取っ掛かりは出来た。

あとはエミリア達が仕入れてきた情報を整理して状況証拠を積み重ねていくだけだ。

録音機器も監視カメラも無い世界だ、物証なんて便利な物は期待できない。

外堀をひたすら埋め尽くすしかないな。

俺は席を立ち二人に背を向ける。

「イザベラ、奴隷の引渡しについての書類が猫目館にあるってお前言っていたな。」

その時、突然俺に聞こえるようにコッペンが奥さんと話しだした。

「はい、具体的な譲渡先や税金に関しての資料も残っております。」

「そうか、なら事前譲渡の書類もそこにあるな?」

「もちろん御座います。」

「調べたいものがあるから食事のあと寄るとしよう。」

これはワザとか。

二人の会話のように見せかけてワザと俺に情報を流しているのか。

このやり方ならコッペンが俺に情報を流したことにはならない。

奥さんとの私的な会話を俺が偶然聞いただけだ。

咄嗟の会話に反応できる奥さんって・・・。

実はああ見えてコッペンよりも凄腕の情報屋だったりするのかもしれない。

「ではまた後で家族と食べに来ますね。」

「もうお帰りになられるのですか?またの御来店をお待ちしております。」

聞こえなかったフリをしてとりあえず店をでる。

せっかく情報を流してくれたんだ、有効に利用しない手は無いな。

陽はまだ高い。

今からなら猫目館に寄っても夕食の時間には間に合いそうだ。

商業ギルドに加入しているとはいえ、あそこには前回の貸しがある。

黙ってもらえば問題ないだろう。

俺は気合を入れなおすと再び裏路地を歩き出した。
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