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第七章

思わぬ来客

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白鷺亭はいつもと変わらず俺達を迎え入れてくれた。

ここは商業ギルドに加入していないんだろうか。

商売をする人は皆加入していると思っていたけど違うのかな?

「本日も御利用ありがとうございますイナバ様。」

「今回もお世話になります。」

「いつものお部屋とお連れ様のお部屋をご準備しております。お連れ様はご一緒ではなさそうですね。」

「騎士団で用事を済ませているんですが・・・。」

あれ、二人に白鷺亭に来いって伝えた?

ユーリと合流してそのまま出てこなかったか?

「シュウイチさんもしかして・・・。」

「私も同じ事を思いました。」

「では使いを出してこちらに来るようにお伝えしておきましょう。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「セレンとウェリスの二人です。」

「すぐに手配いたします。どうぞ皆様は先にお部屋へとお進みください。」

何であの流れから伝えていないことが分かったんだろう。

やはりこれも忍者支配人の実力なのだろうか。

さも当たり前のように階段を進みいつもの部屋へと向かう。

白鷺亭最上階特別室。

もはや俺専用と言ってもおかしくない頻度で使っている気がする。

しかも費用は騎士団持ちだ。

いやー、どうもすみませんねぇ。

部屋の鍵は開いており、買い物に行っていたユーリ達が戻ってきていた。

「お帰りなさいませご主人様。」

「二人とも買い物ありがとう御座いました。」

「お願いされた物は全て購入してあります。購入した物と皆さんの私物はお部屋に運んでありますので御確認下さい。」

「私物まで運んでくれたのか、すまなかった。」

騎士団に寄った時、家から持ってきた私物を置かせてもらった。

俺はともかくエミリアとニケさんの荷物を持ち歩くには少々邪魔だ。

どうせまたここに戻ってくるしなんて思っていたけど、ユーリが持って来てくれなかったらまた取りに行く羽目になる所だった。

いやまてよ、そうしたら呼びにいけた?

まぁ、終わりよければ全てよしという事で。

とりあえず買ってきた物を整理する為に部屋へと向かう。

部屋の隅にエミリアの荷物、ベッドの上には三人分の荷物が置かれていた。

さてどれが俺のでしょうか。

「ご主人様の荷物は真ん中に、左がリア奥様右がシア奥様の分です。」

真ん中が俺ね。

ちなみに俺が頼んだのは肌着が2セットと寝巻きになりそうなシャツっぽい服を1枚。それと日用品だ。

他人に下着を選んでもらうなんて何年ぶりだろう。

でもまぁ恥ずかしがるような年でもないか。

この世界の肌着はあまり種類が無い。

つまりは皆同じ物を身に着けているといっても良いだろう。

ちなみに貴族はこの前見たようなすごい下着を身に着けているらしいので例外である。

(庶民は)皆同じ物をつけているというべきだな。

くるまれた荷物を広げると頼んでいた品物とは別のものが入っている事に気付いた。

何だろう。

聞けば分かるか。

それを持って一度リビングまで戻る。

すると支配人がお茶を入れに来た所だった。

相変わらず仕事が速いな。

「ユーリ、荷物の中に頼んでいないものが入っていたのですが・・・。」

「それは私とニケ様からです。」

「ほんの気持ち程度ですので良かったら貰ってください。」

はて、なんじゃろな。

「では失礼して。」

包みを開けると出てきたのはペンとインクだった。

万年筆のようにインクをつけて書いていくタイプで、この世界ではごくありふれたものだ。

そうだよな、ボールペンなんて無いよな。

俺が持っていたやつは初めてスライムを突き刺した後使い物にならなくなってしまった。

家で勉強用に使っているのは商店連合の備品を使わせてもらっている。

「ご主人様の勉強用にとおもいましてニケ様が選んでくださいました。」

「練習用の紙は別に家に送ってくださるそうです。」

二人は自分が貰った小遣いで俺へのプレゼントを買ってくれたのか。

「ありがとうございます、大切に使わせてもらいます。」

「気に入っていただけて何よりです。」

「読み書きでしたら私もお手伝いしますので遠慮なく仰ってくださいね!」

「よかったなシュウイチ。」

「これでいっぱい勉強できますねシュウイチさん。」

「ですが自分の物を買っても良かったんですよ?」

「私達の物は別に購入させていただきました。」

「奴隷の身でありながら買い物まで出来るなんて夢のようです。」

まぁ普通は奴隷に小遣いなんてあげないんだろうけど、ニケさんは一時的だしなぁ。

自分のものも買ったのならまぁいいか。

「イナバ様は本当に皆様に好かれていらっしゃいますね。」

「ありがたいことです。まぁ、誰にでも好かれているわけでは無いですけど・・・。」

「むしろご主人様があのような人間に好かれるなんてこちらからお断りです。」

「それはこの手紙の相手でしょうか・・・?」

そういって支配人が胸元から取り出したのは1枚の手紙。

ネムリの所で見たやつと同じだ。

「ここにも届いていましたか。」

「一応商業ギルドの一員として商売させていただいておりますので。」

「私を泊めたと知れれば何をされるか分かったものではありませんが、大丈夫ですか?」

商業ギルドに所属しているのであれば罰則として取引停止という項目があったはずだ。

飲食やサービスも含まれるはずだからここも例外ではない。

「御予約を賜りましたのはユーリ様からですから。」

「まぁ、確かにそうですが。」

「それにこのような卑怯なやり方は大嫌いでして・・・。」

そう言いながら支配人が手に持った紙を真ん中から破り始めた。

そして、上から下に真っ直ぐに裂かれた紙が床に捨てられたかと思うとニコニコとした表情のままそれを踏みつける。

怖いよ!

やることがえげつないよ!

「ですのでイナバ様は何も心配せずに御宿泊下さい。何か御座いましたら私が責任を持って処理いたしますので。」

「わ、分かりました。」

「おっと、床にゴミを落としてしまいました。とんだ御無礼を。」

踏みつけた紙をササっと拾い上げ、何事も無かったようにポケットにしまう。

この人は絶対に敵に回しちゃいけないやつだ。

この場に居た全員がそう思ったに違いない。

「今日の夕食はいかが致しますか?外でというのは残念ながら難しそうですのでよろしければ私どもで御準備させていただきますが。」

「おそらく他の店に行っても同じような対応をされるだろう。ここはお言葉に甘えるべきではないか?」

「私は賛成です。一度ここの食事をしっかりと味わってみたいと思っておりました。」

「私のような者が一緒でもよろしければお願いします。」

三人は賛成か。

「エミリアはどうですか?」

返事の無いエミリアのほうを見る。

なにかボーっとしてこちらに意識が向いていないようだ。

あれ、エミリアがこんな風になるなんて珍しいな。

「エミリア?」

「あ、すみません聞いていませんでした。」

「どうかしましたか?」

「いえ、誰かに見られているような気がしたんですが気のせいだったようです。」

やめて!

そういうの苦手なんだ。

ほら、夜にトイレ行けなくなるヤツ。

「ここは領主様の館ぐらいからしか見えることがありませんので恐らく大丈夫だと思いますが、念の為に警戒しておきます。」

「そんな、私の気のせいかもしれません。」

「何かを感じるという事は何か原因が無ければありえません。エミリア様のように魔力を感じられる方であれば尚の事でしょう。」

「窓を施錠し罠でも仕掛けておくか?」

「外から来る事は無いかと思いますが、夜は私が警戒しておきますのでご主人様は御安心下さい。」

そういえばユーリは月光からでも魔力を吸収できるサテライトシステムを搭載していたな。

厳密に言えば寝る必要は無いそうだけど、寝たほうが魔力消費を抑えられるので普段は同じように睡眠をとっている。

寝なくていいというのはこんな時便利だなぁ。

「面倒な事になってしまいすみません、せっかくの休息日なのに。」

「いつもの事ですから。」

「リア奥様の言うとおりです。」

「シュウイチは大船に乗ったつもりで安心しておけ。」

「お客様の安全は私の命を掛けてお守りしますのでどうぞ御安心を。」

「いざとなったら私を盾にして下さってかまいません!」

相変らず他力本願100%でございます。

皆ありがとう。

頼りにしてます!


支配人の淹れてくれたお茶を飲みながら談笑する事一刻程、騎士団に行っていたセレンさんとウェリスが白鷺亭へと戻ってきた。

「失礼します、お連れ様が参りました。」

「どうぞ。」

振り返ると恥ずかしそうな顔をしたセレンさんと相変らずぶっきらぼうな顔したウェリスが立っている。

えっと、何で顔が赤いんでしょうか。

そこん所詳しくお願いします。

「おかえりなさい、二人ともお疲れ様でした。」

「俺は疲れたって程じゃねぇがこっちは随分と大活躍だったらしいぞ。」

「そんな大活躍だなんて。ちょっとお手伝いしただけです。」

「そのちょっとが騎士団員ほぼ全員を満たすことなのだとしたら恐れ入るね。」

「まさか当直の騎士団員全員分を作ったのか?」

「皆さん美味しい美味しいとおっしゃっていただくのでついつい張り切ってしまいました。」

何人いるかは存じ上げませんが、かなりの人数のお腹と心を満たしたことになる。

セレンさん流石です。

「折角の休息日ですから今日はゆっくりしてください。別の部屋を準備していますのでそちらで休んでいただいて大丈夫です。もちろんお代は結構ですよ。」

「その事なんだがどうして俺とこの人が一緒の部屋なんだ?」

「いけませんでしたか?」

「いけませんでしたかじゃねぇだろうが。俺はともかく相手がこの調子なんだ、代わってやるとか何とかできねぇのか?」

セレンさんが真っ赤な顔でうつむいている。

「ウェリス一人でも構いませんが、うちは奥さんと一緒ですしユーリとニケさんは別室を利用しています。セレンさんに来て頂くのは構いませんが、うちも久々の全員集合なものでして・・・。」

あえて言葉を濁してその先をわざと連想させる。

もちろん今のところそんなことする予定はないのだが、それで引き下がってくれれば御の字だ。

いや、したくないわけじゃないんですよ?

むしろ待ってますと言われたら据え膳食わねば何とやらですし。

でも、二人同時になんてそんな・・・。

「シュウイチ心の声が駄々漏れだ。」

「御主人様私達は構いませんがセレン様とリア奥様が今にも顔から火を吹き出しそうになっています。」

おっと、今日も心の声がだだ漏れだったか。

失敬失敬。

ハッハッハ。

ってエミリアさん?

横を見るとセレンさんと同じく顔を真っ赤にして俯くエミリアがいた。

えっと、そんな露骨に恥ずかしがられると俺も恥ずかしくなってきちゃうんですけど。

「しゅ、シュウイチさんが良いのなら私は・・・。」

「あーもうわかったわかった!おたくら夫婦の邪魔はしねぇよ!」

ウェリスが呆れた顔で顔を左右に振る。

「という事だ、すまんが俺と同室で勘弁してくれ。俺は適当な場所で寝るから部屋は好きに使ってくれて構わねぇよ。」

横にいるセレンさんの顔を見ながらウェリスがぶっきらぼうに言うと、セレンさんの顔がパッと明るくなり、そしてまた真っ赤になる。

あーもう、早くくっついちまえよこの二人!

むしろウェリスが食えよ!

「それはご主人様も同じ事ですよ?」

「何のことでしょうかユーリさん。」

「いえ、何でもありません。」

今回の声はユーリにしか聞こえていなかったようだ。

まったく、俺を何だと思っているんだろうか。

「そうだ、セレン様にもお土産があるんです!」

急にニケさんが立ち上がると自分のカバンをガサゴソと漁り始める。

そして小さな白い袋を取り出すとセレンさんに耳打ちしながらそっと手に握らせた。

「そ、そんな事・・・!」

「セレン様確かにお渡しいたしましたのでどうぞご活用ください。」

そしてユーリがそう言い切るとセレンさんの頭から白い湯気が上がるのが見えた。

あれは幻覚なんかじゃない、間違いなく見えた。

いったい何を渡したのかは聞かない方がよさそうだな。

「食事は皆さんのお部屋にお持ちいたしますのでどうぞこのままお待ちください。」

「じゃあ俺達も一度部屋に戻る。、何かあったら声をかけてくれ。」

「わかりました。」

「そうだイナバ様、忘れておりました。」

ウェリス達と部屋を出ようとしていた支配人が急に立ち止まり俺の方を振り返る。

「どうしました?」

「コッペンより時間が出来たら一度話がしたいと伝言を頼まれております。時間を指定していただければこちらに出向くとのことでしたが何時がよろしいでしょうか。」

「コッペンがですか?」

あいつが店から出て自分から会いに来るなんて珍しいな。

いったい何の話だろうか。

まぁいい、先日の件についても問い詰めたいことがあったしちょうどいい機会だ。

「では今日の夕食後にお願いできますでしょうか。」

「わかりました。」

いつものようにきれいなお辞儀をして支配人が部屋を後にする。

部屋の指定がなかったという事はこの部屋で話をするという事だろう。

エミリア達に聞かれて不味い話ではないという事か。

まぁ、やましいことをしているわけではないし構わないだろう。

「コッペンさんというのはたしかこの町の裏の顔役でしたね。」

「その通りだ。騎士団も目をつけているが表だって悪いことをしてるわけでもないし、むしろ裏世界とこちらとの中継をしているような感じでな、都合がいいので奴のすることは黙認することにしている。もちろん悪事の場合は例えコッペンであろうと捕縛するがな。」

「必要悪という奴ですねシア奥様。」

「そうだな、そう考えてもらって構わない。」

「ですがその方のおかげで私はイナバ様とお会いできましたので是非ご挨拶をしたいです。」

そういえばそんなこともありましたね。

あー、エミリアさんそんな顔で俺を見ないでください。

「もう黙っていきませんと約束しましたよ?」

「わかっているんです。それに、そのおかげでニケさんをとお会い出来たというのもわかっています。」

「わかってはいるがなかなか許せるものではない。察してやれ。」

「大丈夫ですよエミリア様。私は決してイナバ様を取ったりしません。」

「その通りです。私達はお二人の幸せを願っております。もちろん、お情けをいただけるようであれば喜んで頂戴いたしますが・・・。」

最近のユーリの肉食っぷりは半端ないな。

何時か俺食われるんじゃないか?

「とりあえず食事の後お手数ですがもうひと仕事ありそうですのでみんなお付き合いください。」

「「「「はい。」」」」

太陽はもうすぐ地平線の奥に沈むだろう。

だが、俺の休息日はまだまだ終わりそうにない。

はてさてどんなことになるのやら。

「大丈夫ですよシュウイチさん。」

小さなため息を聞かれたのかエミリアがそっと右手を握ってくれた。

「私達が一緒だからな。」

そしてシルビア様も左手をそっと握ってくれる。

俺にはこの二人がいるもんな。

「私達もおりますよ。」

ユーリもニケさんもいる。

なんだったらウェリス達もいるけど、今日はそっとしておくとしよう。

「ありがとうございます。」

俺は一人ではない。

何が起きても大丈夫だ。

「そういえば、セレンさんには何をお渡ししたんですか?」

そうだ、これが聞きたかったんだ。

「素敵な下着を探してまいりました。私達の分はございますがセレン様にも必要かと思いまして。」

「きっと気に入ってくださると思います。」

うん。

余計なお世話かもしれないけどきっと役に立つよ。

明日ウェリスにあったら言ってやろう。

『昨夜はお楽しみでしたねって』
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