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第七章

見えない敵と戦うには

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乗車拒否ならぬ販売拒否。

『お客様は神様です』なんて言葉はあるけれど、アレはそもそも誤用だし本来は消費者と販売者は対等であるはずだ。

店主が販売できないといえば、それは向こうの正当な権利なので受け入れざるを得ない。

ただ、それは真っ当な理由であればである。

それが無いのであれば、こちらには購入する正当な権利があるわけで。

はてさて今回はどうなる事やら。

ただただ謝り続ける女店主を前に呆然とする俺に気付いたのか、シルビア様が横にやって来た。

「どうかしたのか?」

「何か特別な事情があって私には商品を販売できないそうなんです。」

「なんだって!?」

「申し訳御座いません、いくらシルビア様の旦那様であってもお売りする事ができないんです。」

「事情を話してはもらえないのか?」

「それもどうかお許し下さい。」

横の定員さん共々深々と頭を下げ続ける女店主。

うーむ、よっぽどの事情があるのだろう。

「わかりました。」

「本当に申し訳ありません。」

「だがこのままでは必要な物を買い揃える事はできないぞ。」

「いいんですよ、よっぽどの事情があるのはお二人の表情を見てわかります。そしてそれがどうにもならないという事も。ですので私が引けばこの場は収まりますから。」

「シュウイチがそういうのであれば構わないが・・・。店主、もし犯罪に巻き込まれているのであれば口外せずに助ける事もできるのだぞ。」

「そういったことではないのですが・・・。」

「犯罪でないのならよい。ならばシュウイチに売れずとも私に売る事は可能だな?」

俺に売れないなら別の人が買えば問題ない。

販売できない対象が俺だけならばそれで済む話だ。

「その、シルビア様にも販売しないように言われているんです・・・。」

「なんだって!?」

本日二回目の『なんだって』いただきました、ありがとうございまーす。

じゃなくて、シルビアもダメなのか。

「では逆に誰に販売できないのでしょう。」

「イナバ様に近しい人とだけしか。本当に申し訳ありませんこれ以上はお話できないんです。もしこのことが知れたらこの店は潰れてしまいます・・・。」

「それだけ分かれば大丈夫です。シルビア一度みんなの所に戻りましょう。」

「一体何が起きているというんだ。」

「心当たりが無いわけではありません、それもふまえて一度騎士団の方で話をしましょう。」

「わかった。」

「すみませんお騒がせしました。」

店主に頭を下げて皆のところに戻る。

事情を説明すると何も言わずに商品を棚に戻し始めた。

無言のまま店を出てひとまず騎士団へと向かう。

後ろを振り返ると女店主が俺達が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。

うーむ、まさかこんな事態になるとは思わなかった。

顔が知れ渡っていなければ問題ないだろうが、いいのか悪いのかこの街で有名になりすぎてしまった。

シルビアもダメという事は恐らくエミリアも難しいだろう。

二人とも俺の奥さんという事も含めてこの町では有名だからね。

「ご主人様に販売できないとは、よほどの事情があると見えますね。」

「私もそれは思っています。恐らく何かしら命令若しくは指示をされて販売できないことになっている。本人がもし販売すれば何らかの罰則があると考えられます。」

「確かにあの店主はシュウイチが嫌で販売しないという感じではなかったな。」

「店が潰れてしまうほどの影響を受ける相手が後ろにいる、そう考えるべきでしょう。」

小売業はただ物を販売するだけに見えて、実は後ろで色々な人と繋がってる。

元の世界で言えば『メーカー』『卸し』『輸送』そして『顧客』。

このどれかがプレッシャーをかけていると考えるべきだ。

「ですが一体誰がそんな事を指示するのでしょう。シュウイチさんは確かに有名にはなりましたが商売の観点で見れば一人のお客様です。たった一人の為にそこまでする理由が分かりません。」

「私のほかにシルビアも断られましたから恐らくエミリアも同様の結果になるでしょう。あの店だけだったらいいですが、どうやらそうでは無いようです。」

騎士団へと向かう道すがら多くの人間が俺達のほうを見ている。

その大半は好意的な目を向けてくれているが、その中で不安そうな目を向ける人たちが居る。

その多くが販売業の皆さんだ。

もし来たらどうやって断ろう。

そんな苦悩が見て取れる。

「あまり歓迎されていない目を向けられていますね。」

「ユーリ、ニケさん。申し訳ありませんが少し離れて私達の後をついてきてください。出来れば騎士団に入るのも少し時間を空けてお願いします。」

「えっと、どうしてでしょうか。」

「それについてもあとで説明します。そうだ、白鷺亭で宿の手配もしてきてくれますか?」

「かしこまりました、ニケ様行きましょう。」

不思議そうな顔をしたニケさんを連れてユーリ達が俺達の後ろを離れる。

この街に着てから俺の左右をエミリアとシルビアが、その後ろにユーリとニケさんが続くように歩いていた。

俺の考えが正しいのであればあの二人は少しはなれて行動してもらう方が良さそうだ。

「せっかくの休息日なのに今回も厄介な事になりそうです。」

「仕方なかろう、何せシュウイチだからな。」

「そうですねシュウイチさんですから。」

俺だから休めないというのは勘弁願いたい。

たまにはゆっくりと休みを満喫したいんだけどなぁ。

騎士団に入るとすぐに当直の兵士が飛んでくる。

文字通り飛ぶように走ってきた。

そんなに急いでこなくてもいいのに。

「団長おかえりなさい!」

「今日はもう非番だ、そんなにかしこまらずとも良い。」

「イナバ様も御一緒ですから気を抜くことなど出来ません!」

「私は別にただの客人ですから気にしないで下さい。」

「イナバ様とお話できるだけでも光栄です。あ、あの握手してくださいますか?」

いや、握手て。

アイドルじゃないんだから。

カチコチの兵士に手を差し出すとすごい力で手を握られる。

痛い、マジで痛い、手が折れるから勘弁して。

「おい、シュウイチが声にならない悲鳴を上げているぞ?」

「す、すみません!緊張してしまいまして・・・。」

「私なんかの握手でいいんでしょうか。」

「イナバ様に握手してもらえるなんて、仲間に自慢できます!」

「すごい人気ですね、シュウイチさん。」

「良いのか悪いのか分かりません。」

俺なら美人に握手してもらう方が嬉しいけどなぁ。

男の握手って嬉しいか?

「従軍奴隷のウェリスが来ていたはずだが今何処に居る?」

「あの方でしたら奥の監視所で労働奴隷の確認をしています。」

「まだ作業中だったか。連れの女性はどうした。」

「その方でしたら先程食堂の方で見かけました。」

なぜに食堂?

「わかった。食堂に居るので彼が終わり次第そこに連れて来てくれ。」

「わかりました!」

理由は分からないがとりあえず食堂に行くとしよう。

セレンさんのことだから料理作ってるとか。

いや、さすがに休日まで料理する事はないか。

しかも全く知らない場所だし。

シルビア様に連れられて食堂へと向かう。

昼食後という事もあって閑散としているはず・・・じゃなかった。

「すみませんおかわり!」

「こっちも大盛りでお願いします!」

多くの兵士でごった返す食堂。

えっと、今日は休息日ですよね?

こんなに人が詰めているものなの?

「今日はすごい人だな。」

「普段は少ないんですか?」

「休息日は外食を許可しているから普段はこんなに居ないんだが。」

「シュウイチさん、あそこにいるのってセレンさんじゃありませんか?」

エミリアの指差す先を目で追いかける。

その先にいたのは何故か騎士団の食堂で鍋を振るうセレンさんだった。

作ってたよご飯。

でもなんで?

「シルビア様、もしかしてあそこで鍋を振るっておられるのはシルビア様のお知り合いの方でしたか?」

入口で立ち尽くしているとすぐ横の椅子に座っていた女性に声をかけられた。

エプロンをつけているし、服装から見るに食事を作る係のようだ。

「そうだが何があったのだ?」

「私が荷を運んでいる時に足を挫いてしまいまして、そこにあの方がやって来て助けてくださったんです。それどころか調理が間に合わないと知ると私の代わりに料理まで作ってくださって・・・。」

なるほど人助けでしたか。

「怪我は大丈夫か?」

「先程医務室で処置していただきましてだいぶ良くなりました。すみません、お知り合いの方とも知らず勝手なことを頼んでしまいまして。」

「なに、彼女が自分からやりだしたのであれば別に構いはせん。」

「おかげで当直の方々にも美味しいご飯を提供できます。」

「それはいいことだが、これでは当分手は空きそうにないな。」

まだ食べられていない兵士の姿も見える。

手が空くのはまだまだ先になりそうだ。

「ウェリスも時間かかりそうですしまた後で声をかけましょう。」

「そうだな。先程の件だがここでは無理そうだ、会議室で話をしよう。」

「それではお茶をお持ちします。」

「すまない。だが持ってこさせるのは暇なやつに任せるんだぞ、私の名前を出せば喜んで運んでくれるだろう。」

「わかりました。」

怪我人にお茶を運ばせるほど鬼畜ではない。

食堂を出て会議室に向かう途中にちょうどユーリ達と合流できた。

ナイスタイミング。

「白鷺亭は無事に部屋を確保できました。我々はいつもの場所、セレン様には別の部屋を御準備しております。」

「二人の分も予約してくれたんですね。」

「あの料理をセレン様に食べていただく為には手段は選びません。」

「ですがウェリス様と一緒の部屋で大丈夫でしょうか。」

「二人とも立派な大人ですから上手くやるでしょう。」

高校生とか大学生ならまだしもいい大人だ。

手を出すなりなんなり自己責任で好きにしてくれ。

「ちなみにご主人様の部屋のベッドは一番大きいものに変更済みだそうです。」

「それはまたどうも・・・。」

「防音魔法等も全て最上のものをかけてあるそうです、どうぞ私達の事は気にせずお楽しみ下さい。」

「いや、楽しむとかそういうのは。」

「ここまでお膳立てされてまだそんな事を言いますか。」

「私はともかく二人の気持ちがですね。」

俺は横を歩くシルビアとエミリアのほうを見る。

ごめん、聞いた俺が間違っていた。

「その辺りの話は先の件を終わらせてからにしようじゃないか、それにこういう場でする話でもない。」

「そ、その通りです。またの機会ということで。」

「シュウイチ待っているぞ。」

待っているって何を?

「わ、私も待ってます。」

エミリアまで顔を真っ赤にして俯くのやめてくれませんか。

「お情けはお二人が終わってからで構いませんので。」

「その通りです。私達は居ないものと思ってくださいね。」

ニコニコと笑うニケさんと表情を変えないユーリ。

ウチの女性人ってこんなにグイグイ来る人だったっけ。

いつからこうなった?

いったい何があった?

わからん。

わからんがとりあえず今はその話ではない。

もっと大切な話が待っているんだ。

あ、いやさっきのも十分大切なんですけど。

「ご主人様、挙動不審ですよ。」

「すみません。」

そんなに挙動不審だったか。

いい年した大人が何やっているんだか。

落ち着け俺。

会議室に案内され、適当な椅子に座って一息つく。

そういえばあの店で食事をしてから休みなしだった。

腹ごなしという割には良く動いたな。

「それで、さっきの件なんだが思い当たる節があるのか?」

休憩したい所だがルビア様は気になって仕方が無いようだ。

まぁ当日居なかったし仕方ないか。

「実は昨日商業ギルドの方と話し合いの機会を持ったのですが、相手が自分都合の話ばかりするのでお断りをして帰ってもらったんです。その相手というのがギルドでそこそこの地位を持つ相手のようでして、もしかしたら彼等が自分と関係のある各商店に対して何らかの圧力をかけたのではないかと思っているんです。」

「そんな事があったのか。」

「来期の催しに手を貸してやるから一枚噛ませろという強引なやり方でしてね、私の思うように出来なくなりそうだったので断ったんです。そうすると随分と激昂されまして、敵に回して覚悟しろのような感じで言われたんですよ。」

「敵に回したとして、こんなちっぽけな事しかしてこないようでは相手が知れるな。」

確かに俺を相手にするにしてはやることが小さい。

小さいが、これで終わるようにも思えない。

他にも色々とやりそうな感じだったしなぁ。

「商店連合を通じて探ってみましょうか?」

「お願いできますか?ですがエミリアも狙われている可能性がありますので名前を出さないほうが良いかもしれません。」

「わかりました知り合いにお願いして聞いてもらいます。」

そういうとエミリアは部屋の隅に向かい、壁に向かって何か話し出した。

恐らく念話か何かで誰かと話しているんだろう。

携帯電話は無いけれど元の世界でも同じ様な光景を見たことがある。

電話なのについつい頭を下げたりするんだよね。

「仮に圧力がかけられたとして、あのお店だけでしょうか。」

「恐らくは商業ギルドに関係するお店全てに同じ圧力がかけられていると思います。実際騎士団に向かう道すがらにも私を見て不安そうな顔をする人が居ましたから。」

「どういう圧力なのか詳しくは分かりませんが、先程のお店の方曰く『私に近しい人』を対象としたもののようです。」

「ご主人様と奥様方がその対象であるわけですか。なるほど、先程私達を遠ざけた理由が分かりました。」

それでわかるとは、さすがユーリです。

「申し訳ありませんどういうことでしょうか・・・。」

「ニケ様と私は『近しい人』という風にまだ思われて居ないようです。あのまま近くを歩いていたらそういう認識をもたれてしまい私達まで対象となってしまう。ですので、ご主人様はわざと距離を遠ざけて人目から外してくださったのです。」

「そういうことですか!」

御理解いただけたようで何よりです。

「幸い二人は自由に買い物が出来そうですので、申し訳ありませんが買い物などを二人にお願いする形になると思います。ついでに圧力について探ってもらえると助かります。」

「分かりました。後で必要な物を書いてくださればまとめて買ってまいります。」

「宜しくお願いします。」

「だがシュウイチ、このまま買い物が出来ないままというのは些か不便では無いか?」

シルビアの言うとおりだ。

今日明日なら別に構わないが、この先ずっととなるとそれはそれで面倒だ。

ずっと二人にお願いすることになるし、この先二人が対象にならない保証もない。

どこかで手を打つ必要はあるだろう。

「商業ギルドの手が入っていない店で買い物をするというのはどうでしょう。」

「この街であそこを介さずに商売をするのは中々に難しいだろう。」

「うーん、たしかにそうですね。」

「イナバ様、口の堅い商店の方に聞いてみるというのはどうでしょうか。」

「圧力の内容をですか?」

「そうです。もしおられたらですけど・・・。」

圧力がかかっても俺相手に商売をしてくれる人物。

もしくは話しをしてくれる人物か。

そんな都合のいい知り合いいたかなぁ。

言えば店を取り潰されるかもしれないと怯えるぐらいだ、よほどの圧力がかかっているにちがいない。

その圧力も気にしない人物。

いた。

一人だけいた。

「エミリアが終わったら行きたい場所があるんですが・・・。」

「私にも分かったぞ、彼の所だな。」

シルビア様にも分かったようだ。

「その通りです。彼なら正直に話してくれますし圧力に屈する事もないでしょう。」

「お待たせしました。」

どうやらエミリアのほうも終わったようだ。

「どうでしたか?」

「やはり商業ギルドから何か発信があったようですね。詳しく調べてもらっているので少し時間がかかります。」

「ではその間に用事を済ませてしまいましょう。」

「何か分かったんですか?」

「それを聞きに行こうと思うんです。」

「聞きにいく・・・?」

話の流れを聞いていなかったエミリアには何の事か分からないよな。

「圧力の内容が分かれば先手を打つ事ができるからな。」

「とりあえずそこに行けばいいんですね。」

よく分からないがとりあえず行く事で納得したようだ。

エミリアは本当に思考が柔軟だなぁ。

俺なんてカチカチすぎて融通利かないんだよな。

「では行くとするか。ここにいても状況は良くならんだろう。」

「私はニケ様と買い物を済ませて白鷺亭でお待ちしております。」

「お手数ですが宜しくお願いします。」

二人には申し訳ないが別行動だ。

必要なものをエミリアに書いてもらい二人に手渡す。

「これで足りると思います。残りは二人の好きなように使ってください。」

そう言ってユーリの手に銀貨を5枚ほど握らせた。

「随分と多いようですが。」

「少ないですがお小遣いのようなものです。せっかくの休息日ですから好きに使ってください。」

「そんな、奴隷の私には贅沢すぎます!」

「身分は奴隷でもニケさんはうちの大切な仲間です。本当はもっと持たせたいのですが、稼ぎが少なくてすみません。」

「ご主人様ありがたく頂戴いたします。」

「では行くとしますか。」

さぁ、どんな圧力がかけられているか聞かせてもらおう。

敵を知り己を知れば百戦危うからずってね。

次回 サラリーマンが・・・(以下略)『暴かれた真実』お楽しみに!

(タイトルは告知無く変更されることがあります御了承ください)
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