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第七章

備え過ぎたら憂いあり?

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一人で食べるご飯よりも二人で食べるご飯の方が美味しい。

二人で食べるご飯よりも三人で食べるご飯の方がもっと美味しい。

三人で食べるご飯よりも四人で食べるご飯の方がウルトラスーパーデラックス美味しい。

四人で食べる・・・以下略。

とりあえず人数が増えて食べるご飯は美味しいという事だ。

それが給料日の朝であればいつも以上に美味しく感じてしまう。

そう、今日は待ちに待った休息日。

一ヶ月分の頑張りを評価してもらえる日だ。

みんなでいつものように朝食を食べながら幸せをかみしめる。

あぁ、幸せだなぁ。

昨日までの忙しさが嘘のようだ。

「シュウイチさん嬉しそうですね。」

「今日は給料日ですからね、嬉しくもなります。」

「お休みはどうされますか?いつものようにサンサトローズに向かいます?」

「ここ最近の忙しさを考えると家にいたい気もしますが、せっかくの休みを寝て過ごすというのも勿体無い気がしまして。」

昔の俺ならひたすら寝ていただろう。

昼前に起き出して、買い置きしてあったインスタント食品で朝昼兼用の食事を済ませ、夕方までゲームもしくは寝るという感じだ。

外出はしない。

巣に篭るように一歩も出ない。

なぜなら外は危険がいっぱいだからだ。

家に居れば居留守も使えるし熱くも寒くも無い。

食料はあるしトイレもすぐそこだ。

出るメリットを感じなかった。

だがこの世界に来てその生活は一変した。

そもそも家に娯楽が無い。

規則正しい生活をしすぎて寝溜めすることができなくなった。

体を動かす癖も付いてきたので動かないというのも難しい。

食事は作らないとないし、そもそもインスタントなんて存在しない。

そして何より俺にはエミリア達が居る。

皆と居るのに一人でゴロゴロしているなどありえない。

「ご主人様、せっかく三日あるのですから初日はゆっくりされて残り二日を向こうで過ごしてはいかがですか?」

「それも一つですね。向こうでする事といったらシルビアと合流して日用品の買出しや食事を楽しむぐらいですし。でも、自由時間にしてたまの休みを満喫してもらいたいという気持ちもあるんです。ニケさんやユーリは商店にずっと居ますから息抜きも必要でしょう。」

「そんな私は別に大丈夫ですよ!それに奴隷の身分で自由行動なんて贅沢すぎます。」

「私はどちらでも構いません。」

この二人に聞いたのが間違いだったか。

「エミリアはどうですか?」

「シルビア様お一人にするのは寂しいですし、折角ですからみんな一緒に買い物や食事を楽しみたいです。」

確かにその通りだ。

シルビア様が寂しそうにしているのが目に浮かぶ。

悲しませるなんて旦那として許されることではない。

「そうですねシルビア様とはいつも一緒に居る事ができませんから今日行きましょう。こっちでゆっくりするのも向こうでゆっくりするのも変わりません。」

さすがに一週間も経ったら事後処理も片付いているだろう。

それに今日から休息日だ。

こんな日にも働くなんてブラック企業のやることだしね。

え、今まで働いていた?

それは言わないお約束です。

「では早速準備をしてきます。」

「私もすぐに!」

エミリアとニケさんがパタパタと二階へ駆け上がる。

「あれ、ユーリは行かなくて良いんですか?」

「私は特に持っていくものはありませんので。」

「でも着替えなどは・・・。」

「ちょうど買い換えようと思っておりましたので現地で調達いたします。」

賢いな!

そうすれば帰りの荷物が増える心配も無い。

ユーリ恐るべし。

「その手がありましたか。」

「ご主人様も準備されるのでしたら洗い物は私がしておきますよ?」

「私もその作戦で行こうと思います。それに今日は私の担当ですからユーリはゆっくりしてください。」

「では私はダンジョン整備をしておきます。」

メンテナンスに休息日は無い。

そういう意味では農家と同じだな。

ダンジョンは生き物ですといってもなまじ間違いでは無いか。

ダンジョンへと向かうユーリを見送り、食器を洗いながら今日の予定を考える。

村から出る定期便に乗れば向こうに着くのは昼過ぎぐらいになるだろう。

シルビアを迎えにいってその後どうするか。

日用品の買出しを先に済ませてもいいけど、昼食もとりたいしなぁ。

それに、せっかく行くんだから先日のお礼もしておきたい。

手紙でも良いけど結婚のお祝いということだし直接言うのが礼儀というものだろう。

そうなるとネムリの所や各種ギルドにも行く必要があるな。

でもまぁ今日じゃなくても良いか。

三日あるんだし明日でも明後日でも大丈夫だ。

休息日なんだしゆっくりしよう。

いつも何かしら予定を入れてしまうけど、今日は、今日こそはゆっくりしよう。

洗い物を終わらせ商店の戸締りを再確認する。

窓よし、扉よし、金庫よし。

閉店中の札を出して準備は完了。

ちなみにダンジョンは営業しているので好きに入ってもらってかまわない。

大怪我をおっても自己責任なので宜しくお願いします。

家にも居ないから助けも呼ばないよ!

裏口の鍵をしっかりと閉めて戻ると準備を済ませたエミリア達が家の戸締りをしてくれていた。

相変わらず大荷物だなぁ。

まぁ、女性は仕方ないか。

「商店のほうは問題ありませんでした。」

「ありがとう御座います、こちらも火の元戸締り大丈夫です。」

「イナバ様は準備しなくてよろしいのですか?」

「ちょうど買出しに行く予定だったので必要なものは現地で調達します。」

大きいカバンを持つ二人と違ってポケットに入るだけの荷物しかない。

一応ヒップバックのようなカバンは身に着けているが、中身は短剣とお金ぐらいのものだ。

「そんな手もあったんですね・・・。」

「女性は必要なものが多いですし仕方ないですよ。」

「でもシュウイチさんはその量しかありませんし、なんだか恥ずかしいです。」

毎度の事ながらエミリアのカバンは荷物でパンパンだ。

一体何が入っているのか見てみたい気もするが、見ちゃいけないようなものが入っていそうなので自重している。

ほら、下着とかさ・・・。

「お待たせしましたダンジョンのほうは問題ありません。」

「おかえりなさいユーリ。」

これで全員揃ったな。

そんじゃまぁ、村までのんびり行きますか。

「あれ、ユーリ様は荷物を持たなくてよろしいんですか?」

「私は現地で調達しますので。」

「それでも着替えなど必要ではありませんか?」

「それも特に。」

この世界の人はそんな頻繁に洗濯をしないので3日ぐらいは平気で同じ服を着ている。

今の人のように大量の衣服を所持しているわけではないので、三着ぐらいを着回しするか交代で洗濯して使っている感じだ。

良い言い方をすれば物を大切にする。

悪い言い方をすれば汚れに少々無頓着でもある。

さすがに肌着ぐらいは毎日替えるが、それ以外は多少汚れても問題ないわけだ。

よく考えればエミリアも二日ぐらいは同じ服を着ているような気もするし、そう考えると着替えは一着で十分ということになる。

そこから導かれる荷物の量を計算すると・・・。

「やっぱり私の荷物は多いんでしょうか。」

エミリアの荷物の量は非常に多いという結論になる。

「ちなみにリア奥様は一体何を入れておられるのですか?」

「えぇっと、貴重品と着替えが3日分と化粧品や日用品、それに常備薬・・・。」

まぁここまでは普通だ。

「それに道中の食料と野営用の道具なども一応入れています。」

「それっていりますか?」

「着替え多すぎですか?」

「いえ、着替えよりも食料と野営用の道具はさすがに持っていかなくても良いと思います。」

「もし事故とかあったらどうするんですか!」

「リア奥様、サンサトローズまでは歩いても夕刻までには到着するかと。」

その通り、仮に事故にあったとしてもサンサトローズまでは歩いていける。

それに村まで戻れば問題ない。

「道中お腹が空きますし。」

「向こうで食事を楽しまれるのではないのですか?」

自分で食事をといっていたんだから矛盾する持ち物ではある。

次々と論破されていくエミリア。

さぁ、次なる発言は!

「ニケさんもそれぐらいお持ちですよね?」

形勢不利を悟ったエミリアが味方を求めてニケさんのほうを振り向く。

「着替えは同じぐらいですが、さすがにそこまではもっていません。すみません・・・。」

「食料ぐらいは入れていませんか?」

「それも入れていません。」

「そんな・・・。」

残念ながら味方はいないようだ。

驚いた顔をしたと思ったら今度は悲しそうな顔をする。

コロコロと表情の変わるエミリアも可愛いなぁ。

「今回は道具一式を置いていく良い機会という事にしましょうか。」

「うぅ、わかりました。」

これで少し荷物軽くなればいいけど。

「そうだ、エミリアって一人娘ですか?」

「そうですがどうかされましたか?」

「ニケさんも一人娘でしたよね。」

「はい、私一人です。」

なるほど、長女は荷物が多くなる法則はこの世界でも共通っと。

「ありがとうございます。」

「それが何かと関係あるんですか?」

「ただ気になっただけです。」

「そうですか。」

それ以上特に追求はなかった。

ほんと、興味だけなんですすみません。

「そろそろ行かないと定期便に遅れてしまいますね。」

「すぐに荷物を出しちゃいます、先に玄関で待っていてください。」

「わかりました。」

エミリアがカバンを開けてガサゴソしはじめたのを確認して三人で家の外にでる。

荷物を出すだけだしそんなに時間はかからないだろう。

と、思っていたはずなんですが・・・。

「遅いですね。」

体感で3分ぐらい、ちょうどラーメンが出来上がるぐらいの時間待ってみてもエミリアが出てこない。

荷物を出すのにそんなに時間がかかるだろうか。

「私、様子を見てきます。」

心配したニケさんが様子を見に中へと戻る。

「そんなに荷物が多いんでしょうか。」

「リア奥様のことですから心配で色々な物を入れていたのかもしれません。」

「それはあるかもしれませんね。」

少し心配性な気もあるからその可能性は十分にあるだろう。

「お待たせしました!」

そんな事を話していると申し訳なさそうな顔でエミリアが飛び出してきた。

「少し早歩きをすれば大丈夫でしょう、荷物は片付きました?」

「できるだけ減らした、つもりです。」

「エミリア様頑張っておられましたよ!」

後ろからニケさんも出てくる。

そんなに頑張るような事かな、なんて思った時もありました。

閉まっていくドアから少しだけ見えた景色。

そこには、リビングテーブルにうずたかく積まれた荷物の山があった。

エミリアさん貴女のカバンは四次元につながってるんでしょうか。

どう考えてもそのカバンに入るような荷物じゃないんですけど・・・。

いや、何も言うまい。

これは見てはいけないものなんだ。

俺は何も見てない、見ていないぞ。

「ご主人様急がれた方がよろしいかと。」

「そ、そうですね行きましょう。」

ユーリに促され意識を強引にこちらへ戻す。

遅刻するわけにはいかないし急いだ方がいいだろう。

その後急いだ甲斐もあって出発しようとしていた定期便に何とか飛び乗る事が出来た。

いや、ホント飛び乗る感じだったんです。

出発しますという声が聞こえたのが村についてすぐ。

定期便が発着するのが東門。

俺達がついたのが西門。

村の反対側までそれはもうすごい勢いで走り抜けましたよ。

いや、マジで危なかった。

「おいおい駆け込み乗車は危ないぞ。」

飛び込んだ定期便で隣になった男に思わず注意されてしまった。

どうもすみませ・・・ん?

「あれ、ウェリスも一緒ですか。」

「騎士団に呼び出されてな。」

「なるほど、増員される労働者についてですね。」

おそらく今回の拡張工事にも労働奴隷の方々を利用するのだろう。

その顔合わせか何かに呼び出されたという感じかな。

「顔を見てやばそうなやつがいたら教えろだとさ。」

「そういえば昔は悪いことしていましたね。」

「昔はって言うけどな、まだ半年も経ってねぇんだぞ。」

「あれ、それしか経ってませんでした?」

俺がこの世界に来て半年経ってないんだから当然といえば当然か。

いろんな事が起き過ぎて、1年以上居る気がしてたよ。

「私がイナバ様に雇っていただいたのがこの種期ですから、まだ1ヶ月しか経っていません。」

「その間にいろんな事が起こりすぎなんです。」

「今日はセレン様もサンサトローズへ行かれるんですね。」

「ウェリスさんの監視という役割だそうですが、私なんかで良いんでしょうか。」

「ニッカさんが最適だと判断したのであれば良いと思います。それに、この男がセレンさんを置いて逃げるなんて事しませんよ。」

「おい、それはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味です。」

ウェリスにはセレンさんを護衛するように頼んでいる。

それは今回のような外出にも適用されるはずだ。

この男は口ではなんだかんだ言うけれど約束は守る男だ。

それにいくら鈍感だとしてもセレンさんの気持ちに気付かないなんて事は無いだろう。

好かれた女を置いて逃げるような男では無い事は間違いない。

「ったく、好き放題言いやがって。」

「サンサトローズでは荷物持ちにでも使ってください。」

「荷物をたくさん買うほどのお金なんて無いですから大丈夫ですよ、ウェリスさん。」

お金なんて無い・・・?

そうだ、思い出した!

「それはどうでしょうか。」

俺はカバンを開け空いていた革の小袋の中に何枚かの硬貨を入れ替えた。

そして不思議そうな顔をするセレンさんにこそっと手渡す。

同乗者が俺達だけだったら目の前で渡すんだが、さすがに他人の目がある中で渡すのは憚られる。

「これは?」

「今日は一月分の頑張りが評価される日ですよ。」

セレンさんが手渡された小袋を覗き込む。

その途端に目をまん丸にして固まってしまった。

「そういえば昨日渡し忘れていました。覚えててくださったんですね。」

「ちょうど同乗してくださって助かりました。」

「こ、こんなにいただくことなんて出来ません!」

硬直から復帰したセレンさんが小袋を俺に突き返す。

「これは正当な報酬ですからどうぞお納め下さい。」

「でもこんなにたくさん・・・。」

「セレンさんにはそれだけして頂いてますから良いんです。」

セレンさんに渡したのは銀貨が10枚。

給与が10万と考えれば少ないと考えるべきだろう。

いや、それは元の世界で考えた基準か。

俺は突き返された小袋をもう一度握らせ、セレンさんの顔を見つめる。

それを見て渋々ながらセレンさんが受け取ってくれた。

「・・・来期からもっと頑張らせていただきます!」

「どうぞこれからも宜しくお願いします。」

「おい、俺には無いのか?」

「セレンさんに美味しいご飯を作ってもらいながらまだ必要としますか。」

「いや、そうじゃなくてだな。」

セレンさんのご飯に勝るものなんて無いだろう。

この贅沢者め。

「ウェリスさん、欲しいものがあったらなんでも言ってくださいね!」

「荷物持ち頑張れよウェリス。」

「お前なぁ・・・。」

「とりあえず着替えと日用品でいいですか、そうだこの前言っていたお揃いのカップなんてどうでしょう。」

セレンさんは目を輝かせてウェリスに話しかけている。

もう周りが見えなくなってしまったようだ。

お揃いのカップか、いいなぁ。

「シュウイチさん私達も買いますか?」

「皆でお揃いの物が何か一つあってもいいですね。」

「ご主人様そこは奥様方とお揃いの物だと思いますよ?」

「それはそれとして、皆で同じものがあってもいいと思います。」

「リア様がそう仰るのであればご主人様に買っていただくとしましょう。」

え、何でそうなるの?

「シュウイチさん私は食器がいいと思います。」

「ご主人様私は宝飾品のようなものがよろしいかと思います。」

「でしたら香油なんてどうですか?珍しいものですが香りが一緒って素敵だと思うんです。」

どんどんと女性陣の目が元気になっていく。

あの、別にいいんですけど、出来れば高すぎないやつでお願いします。

なにぶん安月給なもので、どうもすみません。

サンサトローズへと向かう道中、女性四人の会話に華が咲く。

残された男二人は苦笑いをしながらそれを見つめるのだった。

旅は道連れ。

ウェリスには暇つぶしに付き合ってもらうとしよう。
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