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第七章

感謝の表し方

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結局荷物の仕分けが終わったのは陽が高く上ろうかという時間だった。

ププト様・各種ギルド・騎士団と聞いていたのだが、個人からのお祝いもちらほらあった。

ネムリはわかる。

だが、何故支配人の名前があるのだろうか。

それに猫目館からもあった。

これは新しい支配人からだそうだが侘びか何かなのかもしれない。

まぁ、物に罪は無いのでありがたく頂戴することにした。

「しかしすごい量ですね。」

「これだけあると壮観ですね。」

机の上だけに載り切らず床も使って荷物を広げられるだけ広げてみた。

ププト様からは高価な食器セット。

冒険者ギルドからは酒と食品の詰め合わせ。

魔術師ギルドからは各種常備薬とギルド長から禍々しい魔力を感じる薬。

ネムリからは生活用品など。

支配人からは茶葉の詰め合わせ。

猫目館からはお酒と・・・。

「これは下着ですね。」

ニケさんが手に取ったのは鮮やかな色の薄い布だった。

この世界で普及している下着ではなく、元の世界でもあるようなレースなどがあしらわれたやつだ。

「猫目館らしいというかなんというか・・・。」

「ニケ様、これは普通に着用すればよろしいのですか?」

「胸当てとあわせて着用すると良く似合いますよ。」

こらユーリ、広げるんじゃありません!

「こんな綺麗な物見たことありません・・・。」

「エミリア様が知らないのも当然です、王宮御用達のお店のものですから中々お目にかかれないと思います。」

「高そうですね。」

「おそらく上下で銀貨5枚はするかと。」

5万!

た、高くないですか?

ただの布ですよ?

「これがエミリア様、これがユーリ様、これがシルビア様、私のもありますね。」

「大きさは大丈夫でしょうか。」

「猫目館ですから抜かりないと思います。」

えっと、それってスリーサイズが流出しているって事じゃ・・・。

「こんな素敵なもの中々着けられないです。」

「何を仰います、大切なときだけでなく普段からでも良いんですよ。いつ、お誘いがあるかわからないじゃないですか。」

「確かにそうなんですが・・・。」

エミリアさんそんなにチラチラ見ないで下さい。

ヘタレですみません。

申し訳御座いません。

許してください。

「ご主人様はどれがお好みですか?」

「わ、私ですか?」

「ご主人様以外に見せる相手がおりません。」

確かにそうなんだけどさ。

そうじゃなくて俺に見せる前提ってどうよ。

「どれも素敵だと思います。」

「本当ですか?」

「もちろんです。」

「そこはリア奥様とシア奥様のが良いと言う所ですよ、ご主人様。」

まさかのダメだしをされてしまった。

確かに嫁以外のを褒めるのはまずいよな。

反省。

「ふふふ、そういう所がシュウイチさんらしいです。」

「どうもすみません。」

「その、また見てくださいね。」

「え、あ、はい。是非・・・。」

「イナバ様私達はいつでも構いませんのでどうぞ奥様方から先にお願いします。」

なんだろう、ニケさんが来てからうちの女性陣が大胆になっているような気がするんですけど気のせいでしょうか。

俺の居ない間に一体何があったのか、恐ろしくて聞きたくても聞けない。

「そ、そうだ思いのほかお酒が多いようですね。」

とりあえず会話の内容を変えてしまおう。

それがいい。

そうじゃないと俺の心の平穏が保てない。

「冒険者ギルドと猫目館から多く頂いております。我々だけでは消費できませんので宿のほうで御提供されるのがよろしいかと。」

「ユーリの言うとおりですね、振る舞い酒として提供していいと思います。」

「いくつか村に持って行くのはどうでしょうか。村長様には食料を提供していただいたお礼をしておく方がいいと思います。」

そうだった、この前蓄えが少なくて貰いにいったんだった。

ちょうど良いお返しになるな。

「では自宅と村長に上等なものをいくつか置いておいて、後は宿と村の人たちに飲んでもらう事にしましょう。」

「ニケさんはお酒に詳しいですか?」

「ある程度のものはわかります。」

「頂き物の中に食料品も多くありましたのでそちらも合わせてお願いします。」

「わかりました。」

先日の失踪事件の時に手配した食料が余ったようでその中から良いものを見繕ってくれたようだ。

そっち関係はニケさんにお任せして、よし次だ。

「常備薬は倉庫に入れておきましょう。問題はフェリス様から頂いたこの禍々しい薬の処遇です。」

俺は怪しげな色をした瓶をそっと持ち上げる。

紫色の液体で満たされており、瓶には複雑な文様が刻まれている。

一滴で絶命できそうな見た目だなぁ。

「私もさすがにわかりかねます。」

「エミリアでもわかりませんか。」

「すごい魔力があるのはわかりますが、それだけでは判別できません。」

「他に何か入ってませんでしたか?」

「特になにも。」

貰った中でこれが一番困る奴だ。

毒か薬かもわからない。

毒ってことは無いと思うが、薬も用法用量を誤れば毒になるって言うし本人に聞くしかないだろう。

「他の薬と同様に倉庫で保管しますが、誤用しないように別の箱に入れて厳重に保管するというのはどうでしょう。」

「それが無難だと思います。」

「せめてメモの1つでも入れてくれたらよかったんですけど、困ったものです。」

あの人は一体何を考えているんだろうか。

全くわからない。

わからないが、ニヤニヤしながら提供した事だけはわかる。

面白いことになれば良い、そんな感じだ。

「ご主人様食器はどうされますか?」

「どう見ても高価なものですから来客用にするべきでしょう。」

「来客用にも勿体無いぐらいの品ですよ、これも。」

「やっぱり高価なものですか。」

「このお皿一枚で銀貨10枚と交換できます。」

エミリアが積み上げられたお皿をゆっくりと持ち上げる。

はぁ?

やっぱりバカだあの領主。

こんな高価なものを他の荷と一緒にするなよ。

割れたらどうするつもりなんだ。

「えっと、つまりはここにある食器一式でとんでもない価値がある?」

「一揃えですから金貨5枚はくだらないかと。」

「商店の倉庫に厳重に保管しておきますか?」

「落ちて割れない場所であればもうどこでもいいです。」

「ではダンジョン管理用の地下室で保管しておきます。」

結婚祝いで500万とかもう意味がわからないよ。

正確にはこれまでの褒美という意味もあるみたいだけどそのレベルを超えているんじゃないだろうか。

金銭感覚おかしいんじゃないの?

食器はユーリに任せておけばいいだろう。

あそこなら物も少ないし場所はまだ開いている。

入る人間が少ないという事は事故が少ないという事だ。

それに盗まれる心配も無いしね。

「今日は片付けて1日終わりそうです・・・。」

てきぱきと片づけをはじめるユーリとニケさんを見ながら俺は大きくため息をついた。

「お疲れの所申し訳ありませんが、シュウイチさんはこっちの片付けもありますからがんばりましょうね。」

「あぁ、そんなものもありましたね。」

机の上に積み上げられた書類の束。

もう読んだ事にしていいんじゃないの?

「シュウイチさんが向こうで何をされていたのか教えて貰いながら一緒に片付けちゃいましょう。両手の怪我については特に詳しくお聞かせ下さい。」

「え、どうして怪我の事を・・・。」

「ドリアルド様よりお伺いしました。なんでも両手に穴が開いたとか、無茶はしないって約束しましたよね?」

「む、無茶はしていません。ちょっと話の流れでそうなっただけで・・・。」

「是非、その話の流れをお聞かせ下さい。」

エミリアの目が笑っていない。

言ったら絶対怒られるからばれないようにしていたのに、あのバカ精霊!

今度あったら説教してやる。

「・・・片付けを手伝ってからでもいいかな?」

「ダメです。」

「ほら、食器高価だし。」

「ユーリが責任を持って片付けてくれます。」

「ほら、お酒って重いし。」

「ニケさんがちゃんと仕分けしてくれます。」

「ほら、エミリアも書類読むの大変だし・・・。」

「私が読まないで誰がこれを読むんですか?」

ダメだ、逃げられない。

笑顔で俺を追い詰めるエミリア。

俺にはもう逃げ道は残されていないようだ。

「どうもすみませんでした・・・。」

「命があったから良かったものを、私達がどれだけ心配したと思っているんですか。もう二度と一人でなんて行かせませんからね。」

「一応護衛もいたんですよ?」

「護衛が居たのに怪我をしたなんて、その護衛に問題があったんじゃないんですか?」

やばい墓穴を掘った。

モア君が、モア君がエミリアに抹殺されてしまう!

「生きて帰る為には如何しても必要な手段だったわけで。」

「生きるか死ぬかの場所に如何して行っちゃうんですか。」

「話の流れといいますか何と言いますか・・・。」

「一人にしないで下さい。」

「え?」

「私をおいて行かないで下さい。もう、あんな寂しい思いはしたくありません。」

エミリアの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

そうだよな、心配しないわけが無いよな。

いきなり離れ離れになって寂しくないはずが無いよな。

俺が寂しかったんだから、エミリアがもっと寂しいはずだよな。

「ごめんね、エミリア。」

「帰ってきてくれたならそれでいいです。」

「うん、ただいま。」

「お帰りなさいシュウイチさん。やっと、お帰りなさいって言えました。」

「昨日は帰って来たらすぐ寝ちゃったから。」

「よっぽどお疲れだったんですね。」

「そりゃぁもう、大変なんてものじゃなかったよ。」

もう二度とあんなしんどい思いはごめんだ。

睡眠が大切だってことは今回の件で身をもって理解した。

これからは夜更かしせずに寝ます。

絶対に寝ます。

「そのお話もいっぱい聞かせてください、私が知らないシュウイチさんを教えてください。」

「わかった。エミリア達の話も聞かせてくれるかな、俺がいない間何をしていたのか。」

「女の子の秘密が知りたいんですか?」

「ちょっとまって、そんな話をしていたの?」

「それはもう、女性だけですから普段いえないようなこともお話してますよ。」

「それは聞きたくないなぁ・・・。」

悪戯っぽくエミリアが笑う。

なんだもう可愛いなぁ。

このまま抱きしめたくなるじゃないか。

他の目があるからしないけど。

「私達は構いませんよ?」

「ユーリ!?」

「どうぞ私達は居ないものとしてお考え下さい。」

「ニケさん!?」

「私は二人が居ても別に大丈夫です・・・。」

「エミリア!?」

だからこの三人に一体何があったの?

教えてエロい人ー!

じゃなかった、

教えて秘密の人ー!

「ふふふ、冗談ですよ。」

「ご主人様はあれですね、ヘタレというやつですね。」

ちょっとユーリなんでそんな言葉知っているの?

確かにそうだけどさ、否定はしないけどさ。

「ユーリ様、何ですかそれは。」

「この前来た村の方がお話していました。なんでも、王都の方で流行している言葉だとか。」

おい、どこぞの異世界人かしらんが面倒な言葉を広めるでない。

「こっちはいいから二人は作業に戻ってください!エミリアも書類片付けちゃいますよ!」

「ヘタレ、今度詳しく聞いておきましょう。」

「面白そうなので今度私にも教えてください、ユーリ様。」

仲いいなそこの二人!

「私はどんなシュウイチさんでも好きですよ。」

「ありがとうございます。」

「私もご主人様が好きですよ?」

「わ、私も好きになっても大丈夫でしょうか・・・。」

「大丈夫ですよニケ様。」

なんなんだよこの二人!


その後茶化されながらもエミリアと共に書類の整理を続ける。

失踪事件に関しては詳細な部分まで全部伝えてた。

隠し事をしたくなかったというのも有るけれど、怪我の事を話すためには話さざるをえなかったというのもある。

特に怒る事も無く、俺の手をさすりながら無事でよかったとだけ言ってくれた。

俺も戻ってこれてよかった。

書類整理は順調に進み、残す所後僅かだ。

書類のほとんどは失踪事件の事後処理に関する内容だった。

怪我人の処遇、ギルドとしての事件についての扱いについて、初心者冒険者への教育についてというものもあった。

うちのダンジョンを初心者冒険者の練習場所として推薦するという内容だ。

ここで芽が出ないようであれば冒険者を無理に薦めない。

ナーフさんの一件をふまえてのことだろう。

うちとしては断る理由はないし、むしろ冒険者が来て知名度が上がるのであれば万々歳だ。

その他、騎士団より集団暴走に関する報告書。

作戦成功にあたり、作戦草案への感謝状。

シルビア様より早く帰りたいというボヤキの手紙も混ざっていた。

「想像以上に大変な事件だったんですね。」

「大変すぎて目が回りそうでした。まぁその半分以上がププト様のせいですけど。」

「それだけプロンプト様に期待されているという事ですよ。」

「それはわかっているんですが、私はただの商人でいたいだけなんですけどねぇ。」

「シュウイチさんはただの商人で終わってしまうのは勿体無いと思います。」

「そうですか?」

「そうですよ。こんなにすごい人が商店の店主で終わるなんて勿体無い話です。」

そうかなぁ。

俺はただ、エミリアとシルビア様、それにみんなと一緒に居られたらそれで幸せなんだけどなぁ。

「ですが商店を頑張らなければ来年には私の命がありませんから。」

「そこはフィフティーヌ様に頑張ってもらうしかありません。」

「いやいやまずは自分達で頑張らないと。」

商店を軌道に乗せ売上をしっかりと残す。

ダンジョンを成長させより上を目指す。

村を大きくして冒険者と村の共生をはかる。

やらなければいけないことがいっぱいだ。

「一人で頑張りすぎないでくださいね、私達がいますから。」

「頼りにしています。」

他力本願100%だから頼らないとやっていけない。

お世話になります。

「はい、この書類に名前を頂いて終わりです。」

「これでよしっと、やっと終わりました。」

「エミリアもご苦労様でした。」

「シュウイチさんもお疲れ様です。」

大きく伸びをして体のコリをほぐしていく。

これで心置きなく休めるな。

「この書類は誰か取りに来るのかな?」

「書類はギルドにまとめて送るように書いてありましたので準備をしておきます。」

「今日はもう終わりにして明日以降にのんびりとやりましょう。」

べつにすぐ取りに来る事もないだろう。

今日はもうおしまいだ。

「明日からまたお店が始まりますね。」

「エミリア達にまかせっきりでしたので今週からまた頑張ります。」

「たくさんお客さんが来るといいですね。」

「陰日開けですし、ギルドから紹介された冒険者も来てくれるでしょう。」

ダンジョンに来たのはナーフさんだけだ。

だが明日からは冒険者が来てくれる。

そう、信じている。

「きっと、来てくれます。」

「来てくれるかなぁ・・・。」

来てくれますと言いながらも不安は残る。

なんせサンサトローズから離れた場所にある初級ダンジョンだ。

わざわざ足を伸ばさなくても他にもダンジョンはある。

今までそこに行っていたんだからワザワザここに来る必要はないかもしれない。

そう考えると不安が大きくなってきた。

本当にやっていけるんだろうか。

「大丈夫ですよ、だってこんなに大勢の冒険者がシュウイチさんのことを認めてくださっているんですから。」

そう言いながらエミリアが取り出したのは、カバンに入れていた硬貨の入った袋だった。

エミリアの手には中に入っていた紙が握られている。

「それにはなんて書いてあったんですか?」

「『助けてくれてありがとう、これは私達の気持ちです。』だそうです。」

袋に入れられた硬貨。

それは俺が助けた冒険者、その一人一人が入れたお礼だった。

初級冒険者が銅貨、ベテランと中級冒険者が銀貨、そしてギルドが金貨を入れたとメモには書かれていた。

この一枚一枚が俺の助けた命と同じなのだ。

お礼を受け取らない俺への彼らなりの感謝の示し方がこの硬貨だった。

これだけ多くの冒険者が俺のことを認めてくれている。

感謝してくれている。

それが目に見えてわかった。

「お礼なんて別に良かったのに。」

「みなさん何かしらの形で感謝の気持ちを表したかったんですよ。メモによると発案者はガンドという冒険者さんだそうです。」

「あの人ですか。」

冒険者らしい感謝の表し方。

ギルドで一人一人から硬貨を受け取るガンドさんが目に浮かぶようだ。

「素敵なことをする方ですね。」

「見た目はそんな事しそうに無いんですけどね。」

「人は見かけによらないんですよ。」

全くその通りだ。

だが、この感謝の形を見て俺の不安はどこかへ行ってしまった。

大丈夫。

俺はやっていける。

これだけの冒険者が俺の味方なんだから。

彼らがきっと、たくさんの冒険者に俺と商店とダンジョンのことを広めてくれる。

だから大丈夫だ。

「宜しくお願いします、エミリア。」

「お任せくださいシュウイチさん。」

エミリアが俺の手を優しく包み込んでくれる。

さぁ、明日からまた頑張るぞ。

熱い気持ちを胸に俺はまた新しい一日を迎える。
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