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第六章
誰が為に命を賭けるか
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翌朝目を開けるとそこは天蓋つきのベッドの上でした。
ラブホか?
いや違った、ププト様の館か。
誰に起こされるわけでもなく自分で起床したときは体が軽い。
そののまま上半身を起こし大きく伸びをする。
さて、やってきました陰日初日。
予定では今日中にダンジョンの入り口が判明、突入計画の立案という流れになる予定だ。
後は丸投げした南方の件がどこまで進んでいるかだけどこれに関してはシルビア様に任せるほうがいいだろう。
モア君の話だと小規模ながら年間1~2回は発生しているそうだし、そのあたりの経験や知識も向こうのほうが上だ。
俺が口を出すような物ではないだろう。
助言を求められて俺に出せる物があれば惜しみなく出す予定ではある。
なんせ自分の奥さんが戦場に出るんだ、生きて帰って欲しいに決まっている。
負担を減らせるというのなら喜んで知恵を搾り出すという物だ。
「さてっと、今日の朝食は何かな?」
身の回りを整えて出かける準備はこれにて終了。
人間の三大欲求のうち睡眠欲が満たされたとなれば次は食欲を満たす番だ。
え、性欲?
最近ご無沙汰でしてねぇ。
それにこの年になると昔ほどがつがつしないでも生きていけるらしい。
その分睡眠と食に関する欲が増えているので人間その辺でバランスを取っているのだろう。
朝食会場は不明だが部屋にいたって始まらない。
それ、出かけるとしますか。
「おはようございますイナバ様!」
ドアを開けた瞬間に目の前で待機していたと思われるモア君に挨拶をされてしまった。
それも大声で。
耳キーンってなったんですけど?
それに家の中なのでもう少し静かにしような、な?
「おはようございます、早いですね。」
「お待たせするといけないと思い急ぎ馳せ参じました!」
馳せ参上ってカッコいいな。
江戸か?
「其方の状況はどうですか?」
「まだそれほど多くの情報は集まっていないそうです。昨日出した斥候が今日の昼には情報を持ち帰ると思いますのでそれからではないでしょうか。」
「その頃にはこちらも何か分かっているでしょうから昼までは待機ですね。」
「それと、分団長より伝言を賜っています!」
伝言?
あぁ、手紙だと俺が読めないから伝言にしてくれたのか。
助かります。
「聞かせてください。」
「くれぐれも危険な事はしないように、あと時間があれば顔を出してくれだそうです!」
よかった、愛の囁きとかじゃなくて。
「それだけですか?」
「愛しているそうです。」
前言撤回、手紙読めるように努力します。
何が悲しくて若い兵士に愛を囁いて貰わなければならないのか。
出来れば美人な兵士にですね。
オホン。
「では早いうちに顔を出す事にしましょう、伝言有難うございました。」
「プロンプト様より起床後食堂まで顔を出すようにとも言われておりますが・・・。」
「其方のほうが先でしたね、すぐに行きましょう。」
シルビア様の伝言も大事だがまずはそっちから報告するべきじゃないのかなぁ。
まぁ素直なのが彼のいい所なんだろうけど。
食堂にはププト様を含め関係者ほぼ全員の姿も有った。
俺が最後ですかそうですか。
「イナバ殿良く休めたようだな。」
「遅れまして申し訳ございません。」
「事前に連絡していなかったのだ、気にする事はない。昨夜あれだけ食べればよく眠れたことだろう。」
「おかげさまでよく休ませて頂きました。」
根に持ってる。
絶対根に持ってる。
だって目が笑ってない。
そんな事言われましても食べ物に罪はないわけでして、一応私お客人という事でして。
「では食事の途中だが各自報告を頼む。」
あの、私まだ食事来ていないんですけど?
まさか仕返しですか!?
とか思っていたらちゃんと召使の方が持ってきてくれた。
疑ってすみません。
「ご報告いたします、コボレートの集団暴走は昨夜のうちに迅速に処理されております。初心者冒険者に大きな被害はなし、近隣の村々にも被害は出ておりません。ギルド長補佐より報奨金のお礼が届いております。」
「ダンジョンのほうはどうだ。」
「ダンジョン発見の報は今だ届いておりません、しかしながら早朝より探索は再開されておりますので昼ごろには何かしらの連絡が来るものと思われます。状況が確認出来次第内部の探索へと切り替える予定です。」
「ダンジョン内では探索の他に失踪者の捜索も同時にあたるように指示を出せ、必要であれば現場付近に救護班を手配しても構わん。」
「それでは教会より手配させて頂きます。」
もともと失踪者の捜索がメインであってダンジョンの攻略はおまけみたいな物だもんな。
だが出口に救護班がいるのであれば探索するほうとしてもありがたいだろう。
何かあれば外に出さえすれば命が助かる可能性があるわけだし。
うちのダンジョンみたいに手ぬるい事もなさそうだしね。
自分で言うなって?
だってほら、まだ階層が浅くてですね。
もうすぐ10階層ぐらいにはなるんですよ?
本当だよ?
「続きまして報告いたします。南方の集団暴走は今だ詳細が判明しておりません。今日の昼には斥候第一斑より何らかの報が来るかと思いますので判明次第ご報告いたします。」
「近隣の村々への伝達状況はどうだ?」
「今回の影響範囲内の村々へは伝達が終了しております。ですが住民達は村を出る事を拒み、思うようにサンサトローズ内への撤退は進んでおりません。」
「何故だ!」
「この地域では近年暴走事件が起きた事例は無く、今回も影響がないという楽観視が広がっているからだと推測されます。それにこの時期は農繁期であり、今手を抜くと秋の収穫に大きく影響しますのでその影響もあるかと思われます。」
無念そうな顔をして騎士団員が席に着く。
農民からすればもっともな考えなのだろう。
今手を加えれば加えるだけ秋の実りが豊かになり、それが直接生活の豊かさにも繋がる。
言い換えれば収穫が経れば減るだけ生活が苦しくなるのだ。
当然といえば当然だな。
来るかも分からない魔物に怯えるぐらいなら、眼の前の収穫を大切にしたい。
そう思うのが普通だろう。
まるで昔あった津波の話のようだ。
何時来るかも分からない津波に怯えるぐらいならば今の生活を豊にしたい。
そう考えて昔の人が残した警鐘は次第に小さくなり、いざ事が起きたときには昔の記憶は忘れ去られていた。
結果として被害は甚大な物となってしまった。
もちろん豊かになるのが悪いわけではない。
だが、尊い犠牲の上に得た知識は無駄にしてはいけないという事だ。
この地域でも昔は集団暴走の影響を受けているはずだ。
その危機感が長い年月によって薄らいでしまっているからだろう。
「畑などまた耕せばいいだけであろうに。」
いやまぁ確かにそうなんだけどね。
でもさ、そうじゃないんだよ。
「お言葉ですがププト様それは違います。農民にとって畑は命そのものです。自分が人生をかけて開拓してきた地を放棄するぐらいであれば死んだほうがましと思う人が出て当然かと思います。なぜならば今手をかけている畑が今後の税や蓄えになるからです。」
「それは分かっている、だが生きていればまた耕せるではないか。」
「仮に今畑を放棄したとして今年の税はどうします?次の春を越えるまでの蓄えはどうすればいいでしょうか。彼らはそれを心配しているのだと思います。」
命さえあれば来年頑張れる。
だが、来年を迎えられる保証が無い現状でその決断を迫るというのは非常に難しいという物だ。
「つまりは税を免除せよと?」
「被害が出るのであれば免除を、被害がないとしても減免を申し出れば少しは動きがあるのではないかと。」
「うーむ、そこまでせねば動かんというのか。」
「ププト様、あくまでも選択肢の一つとして候補に入れておき決断は詳細が決まってからでもよろしいのではないでしょうか。詳細が分かれば被害の出る村も絞れましょう、それからでも遅くは無いと思います。」
「イナバ殿言うとおりだな。情報が分かり次第すぐにこちらにも報告せよ。」
「畏まりました!」
まずは何をするにしても情報が足りないという事だな。
「なんにせよ昼までは動きようが無いわけか、早くからきてもらったのにすまんな。」
「何を仰います、一番最初に待機しておられたのはプロンプトさまではありませんか!」
「そうでございます!一番最初に足を運ばねばなりませんでしたのに、誰よりも先にこの場所で迎えて頂きさすがとしかいえません!」
ん?一番にここで待っていた?
俺を除いた全ての人間がププト様の行動の速さを賞賛している中、俺だけが懐疑的な目を向けてしまう。
だって、ねぇ。
前科があるし。
そんな時ププト様と目が合ったのだが、何も知りませんというような感じだった。
後でテナンさんに聞いてやろう。
「では皆はゆっくり食事を取ってから戻ってくれ。」
「「はい!」」
やれやれこれでゆっくり食事が出来るな。
腹が減っては戦が出来ぬっていうし、今のうちにたくさん食べておかないと。
「イナバ殿少しいいか?」
えー、何でしょうか。
今からしっかりご飯食べたいんですけど、なんていえるわけが無い。
「どうされましたか?」
「ダンジョン発見後のことなのだがな。」
「部隊の編成などはギルドのほうに任せようと思っていますが・・・。」
「それなんだが、現場での指揮をギルドではなくそなたに任せようと思うのだが。」
「はぁ!?」
っと、思わず変な声でちゃったよ。
そうじゃない。
今なんていった?
「すみません、仰っておられる意味が良く分からないのですが。」
「未開のダンジョンはベテラン冒険者でも探索に時間がかかってしまう過酷な場所だ。だが、状況が状況だけに探索に時間をかけている暇が無い。そこでだ、冒険者には魔物の排除を最優先に行わせダンジョン内部の探索ならびにそこにいると思われる冒険者の捜索をお前に任せるといっているのだ。数多のダンジョンを攻略してきた実力の持ち主であれば経験に基づいた効率的な探索が出来るというものだろ?」
いやいやいや。
何で俺が現場に?
ただの商人ですよ?
「申し訳ありませんが私のような素人が現場に出てしまうと冒険者の皆さんの足手まといにしかならないと思いますが。」
「魔物の駆除は先に突入させる冒険者にやらせれば問題ない。お前にはあくまでも探索と救助の指揮を任せるだけだ、最前線に出て戦えといっているわけではない。それに、何かあったとしても後ろに控える護衛が問題なく守り抜いてくれるさ。」
「お任せ下さい、何があってもイナバ様を守り抜いて見せます!」
いや、守り抜いて見せますといわれてもですね。
過去におたくの騎士団長様が護衛についていながらはぐれた経験の持ち主でして。
その前例を知っているからこそ何があってもという言葉を信じることが出来ない。
見知らぬダンジョンに取り残されたら間違いなく死んでしまうだろう。
首をとられる前に魔物に食い殺されるとか勘弁して欲しい。
「ダンジョンの探索といわれましてもこの世界のダンジョンは初めてのことになりますし、どうしていけばいいか掴めていない所でありまして。」
「やり方はお前に一任する、好きなように冒険者を動かすがよい。代わりに私は南方の件を命をかけてやり遂げると誓おう。」
「南方をですか。」
「お前に言われてどうするべきか悩んでいた事に決心がついた。私は領民を守りたい。もちろん冒険者も領民の一部ではあるが最優先で守らねばならないのは領土を耕し豊かにしている農民に他ならないのだ。私は命を賭けて彼らを守る、お前は全力で冒険者を助けてやってくれ。」
全力で助けてやってくれといわれましてもですね。
冒険者探索チームの最高責任者をただの商人に任せたりします?
それで冒険者が納得しますか?
大丈夫?
「イナバ様であればどんな冒険者もいう事を聞きますよ。」
「どうしてですか?」
「だってイナバ様はダンジョン商店の主人であり、僅か1日で堅牢な砦を陥落させた英雄ですよ!騎士団のみならずサンサトローズの冒険者で知らない者など居ません!」
いや、だからみんな俺を何だと思っているんでしょうか。
ただの商人ですよ?
ダンジョン商店の主人が何で信じる理由になるのかわからないよ。
え、ダンジョンを運営しているからダンジョンの事は何でも知ってるって?
自分のダンジョンならな!
攻略サイト無しに未踏派のダンジョンしかも事前情報無しの攻略ってドンだけ難易度高いんですか。
いくら先頭に立たないからっていくらなんでも無理でしょ。
「前線には私も出向こう、分団長の事は心配するなお前の代わりに何がなんでも守ってみせる。」
「・・・お任せします。」
俺が前線に出る事はありえない。
ププト様が行く以上こっちを誰かがやらなければならない。
それが俺というわけか。
なんていうか相変わらず責任重大な事ばかりやらされるなぁ。
俺はただのアドバイザーのはずだったんだけど。
どうしてこうなった?
「ではこちらの件頼んだぞ。」
そう言うとププト様は騎士団関係者のほうへ歩いていってしまった。
残されたのは俺とモア君の二人。
「頑張りましょうね、イナバ様!」
今は君の無邪気な目が辛いよ。
陰日初日まさかの命令で幕を開けるのだった。
ラブホか?
いや違った、ププト様の館か。
誰に起こされるわけでもなく自分で起床したときは体が軽い。
そののまま上半身を起こし大きく伸びをする。
さて、やってきました陰日初日。
予定では今日中にダンジョンの入り口が判明、突入計画の立案という流れになる予定だ。
後は丸投げした南方の件がどこまで進んでいるかだけどこれに関してはシルビア様に任せるほうがいいだろう。
モア君の話だと小規模ながら年間1~2回は発生しているそうだし、そのあたりの経験や知識も向こうのほうが上だ。
俺が口を出すような物ではないだろう。
助言を求められて俺に出せる物があれば惜しみなく出す予定ではある。
なんせ自分の奥さんが戦場に出るんだ、生きて帰って欲しいに決まっている。
負担を減らせるというのなら喜んで知恵を搾り出すという物だ。
「さてっと、今日の朝食は何かな?」
身の回りを整えて出かける準備はこれにて終了。
人間の三大欲求のうち睡眠欲が満たされたとなれば次は食欲を満たす番だ。
え、性欲?
最近ご無沙汰でしてねぇ。
それにこの年になると昔ほどがつがつしないでも生きていけるらしい。
その分睡眠と食に関する欲が増えているので人間その辺でバランスを取っているのだろう。
朝食会場は不明だが部屋にいたって始まらない。
それ、出かけるとしますか。
「おはようございますイナバ様!」
ドアを開けた瞬間に目の前で待機していたと思われるモア君に挨拶をされてしまった。
それも大声で。
耳キーンってなったんですけど?
それに家の中なのでもう少し静かにしような、な?
「おはようございます、早いですね。」
「お待たせするといけないと思い急ぎ馳せ参じました!」
馳せ参上ってカッコいいな。
江戸か?
「其方の状況はどうですか?」
「まだそれほど多くの情報は集まっていないそうです。昨日出した斥候が今日の昼には情報を持ち帰ると思いますのでそれからではないでしょうか。」
「その頃にはこちらも何か分かっているでしょうから昼までは待機ですね。」
「それと、分団長より伝言を賜っています!」
伝言?
あぁ、手紙だと俺が読めないから伝言にしてくれたのか。
助かります。
「聞かせてください。」
「くれぐれも危険な事はしないように、あと時間があれば顔を出してくれだそうです!」
よかった、愛の囁きとかじゃなくて。
「それだけですか?」
「愛しているそうです。」
前言撤回、手紙読めるように努力します。
何が悲しくて若い兵士に愛を囁いて貰わなければならないのか。
出来れば美人な兵士にですね。
オホン。
「では早いうちに顔を出す事にしましょう、伝言有難うございました。」
「プロンプト様より起床後食堂まで顔を出すようにとも言われておりますが・・・。」
「其方のほうが先でしたね、すぐに行きましょう。」
シルビア様の伝言も大事だがまずはそっちから報告するべきじゃないのかなぁ。
まぁ素直なのが彼のいい所なんだろうけど。
食堂にはププト様を含め関係者ほぼ全員の姿も有った。
俺が最後ですかそうですか。
「イナバ殿良く休めたようだな。」
「遅れまして申し訳ございません。」
「事前に連絡していなかったのだ、気にする事はない。昨夜あれだけ食べればよく眠れたことだろう。」
「おかげさまでよく休ませて頂きました。」
根に持ってる。
絶対根に持ってる。
だって目が笑ってない。
そんな事言われましても食べ物に罪はないわけでして、一応私お客人という事でして。
「では食事の途中だが各自報告を頼む。」
あの、私まだ食事来ていないんですけど?
まさか仕返しですか!?
とか思っていたらちゃんと召使の方が持ってきてくれた。
疑ってすみません。
「ご報告いたします、コボレートの集団暴走は昨夜のうちに迅速に処理されております。初心者冒険者に大きな被害はなし、近隣の村々にも被害は出ておりません。ギルド長補佐より報奨金のお礼が届いております。」
「ダンジョンのほうはどうだ。」
「ダンジョン発見の報は今だ届いておりません、しかしながら早朝より探索は再開されておりますので昼ごろには何かしらの連絡が来るものと思われます。状況が確認出来次第内部の探索へと切り替える予定です。」
「ダンジョン内では探索の他に失踪者の捜索も同時にあたるように指示を出せ、必要であれば現場付近に救護班を手配しても構わん。」
「それでは教会より手配させて頂きます。」
もともと失踪者の捜索がメインであってダンジョンの攻略はおまけみたいな物だもんな。
だが出口に救護班がいるのであれば探索するほうとしてもありがたいだろう。
何かあれば外に出さえすれば命が助かる可能性があるわけだし。
うちのダンジョンみたいに手ぬるい事もなさそうだしね。
自分で言うなって?
だってほら、まだ階層が浅くてですね。
もうすぐ10階層ぐらいにはなるんですよ?
本当だよ?
「続きまして報告いたします。南方の集団暴走は今だ詳細が判明しておりません。今日の昼には斥候第一斑より何らかの報が来るかと思いますので判明次第ご報告いたします。」
「近隣の村々への伝達状況はどうだ?」
「今回の影響範囲内の村々へは伝達が終了しております。ですが住民達は村を出る事を拒み、思うようにサンサトローズ内への撤退は進んでおりません。」
「何故だ!」
「この地域では近年暴走事件が起きた事例は無く、今回も影響がないという楽観視が広がっているからだと推測されます。それにこの時期は農繁期であり、今手を抜くと秋の収穫に大きく影響しますのでその影響もあるかと思われます。」
無念そうな顔をして騎士団員が席に着く。
農民からすればもっともな考えなのだろう。
今手を加えれば加えるだけ秋の実りが豊かになり、それが直接生活の豊かさにも繋がる。
言い換えれば収穫が経れば減るだけ生活が苦しくなるのだ。
当然といえば当然だな。
来るかも分からない魔物に怯えるぐらいなら、眼の前の収穫を大切にしたい。
そう思うのが普通だろう。
まるで昔あった津波の話のようだ。
何時来るかも分からない津波に怯えるぐらいならば今の生活を豊にしたい。
そう考えて昔の人が残した警鐘は次第に小さくなり、いざ事が起きたときには昔の記憶は忘れ去られていた。
結果として被害は甚大な物となってしまった。
もちろん豊かになるのが悪いわけではない。
だが、尊い犠牲の上に得た知識は無駄にしてはいけないという事だ。
この地域でも昔は集団暴走の影響を受けているはずだ。
その危機感が長い年月によって薄らいでしまっているからだろう。
「畑などまた耕せばいいだけであろうに。」
いやまぁ確かにそうなんだけどね。
でもさ、そうじゃないんだよ。
「お言葉ですがププト様それは違います。農民にとって畑は命そのものです。自分が人生をかけて開拓してきた地を放棄するぐらいであれば死んだほうがましと思う人が出て当然かと思います。なぜならば今手をかけている畑が今後の税や蓄えになるからです。」
「それは分かっている、だが生きていればまた耕せるではないか。」
「仮に今畑を放棄したとして今年の税はどうします?次の春を越えるまでの蓄えはどうすればいいでしょうか。彼らはそれを心配しているのだと思います。」
命さえあれば来年頑張れる。
だが、来年を迎えられる保証が無い現状でその決断を迫るというのは非常に難しいという物だ。
「つまりは税を免除せよと?」
「被害が出るのであれば免除を、被害がないとしても減免を申し出れば少しは動きがあるのではないかと。」
「うーむ、そこまでせねば動かんというのか。」
「ププト様、あくまでも選択肢の一つとして候補に入れておき決断は詳細が決まってからでもよろしいのではないでしょうか。詳細が分かれば被害の出る村も絞れましょう、それからでも遅くは無いと思います。」
「イナバ殿言うとおりだな。情報が分かり次第すぐにこちらにも報告せよ。」
「畏まりました!」
まずは何をするにしても情報が足りないという事だな。
「なんにせよ昼までは動きようが無いわけか、早くからきてもらったのにすまんな。」
「何を仰います、一番最初に待機しておられたのはプロンプトさまではありませんか!」
「そうでございます!一番最初に足を運ばねばなりませんでしたのに、誰よりも先にこの場所で迎えて頂きさすがとしかいえません!」
ん?一番にここで待っていた?
俺を除いた全ての人間がププト様の行動の速さを賞賛している中、俺だけが懐疑的な目を向けてしまう。
だって、ねぇ。
前科があるし。
そんな時ププト様と目が合ったのだが、何も知りませんというような感じだった。
後でテナンさんに聞いてやろう。
「では皆はゆっくり食事を取ってから戻ってくれ。」
「「はい!」」
やれやれこれでゆっくり食事が出来るな。
腹が減っては戦が出来ぬっていうし、今のうちにたくさん食べておかないと。
「イナバ殿少しいいか?」
えー、何でしょうか。
今からしっかりご飯食べたいんですけど、なんていえるわけが無い。
「どうされましたか?」
「ダンジョン発見後のことなのだがな。」
「部隊の編成などはギルドのほうに任せようと思っていますが・・・。」
「それなんだが、現場での指揮をギルドではなくそなたに任せようと思うのだが。」
「はぁ!?」
っと、思わず変な声でちゃったよ。
そうじゃない。
今なんていった?
「すみません、仰っておられる意味が良く分からないのですが。」
「未開のダンジョンはベテラン冒険者でも探索に時間がかかってしまう過酷な場所だ。だが、状況が状況だけに探索に時間をかけている暇が無い。そこでだ、冒険者には魔物の排除を最優先に行わせダンジョン内部の探索ならびにそこにいると思われる冒険者の捜索をお前に任せるといっているのだ。数多のダンジョンを攻略してきた実力の持ち主であれば経験に基づいた効率的な探索が出来るというものだろ?」
いやいやいや。
何で俺が現場に?
ただの商人ですよ?
「申し訳ありませんが私のような素人が現場に出てしまうと冒険者の皆さんの足手まといにしかならないと思いますが。」
「魔物の駆除は先に突入させる冒険者にやらせれば問題ない。お前にはあくまでも探索と救助の指揮を任せるだけだ、最前線に出て戦えといっているわけではない。それに、何かあったとしても後ろに控える護衛が問題なく守り抜いてくれるさ。」
「お任せ下さい、何があってもイナバ様を守り抜いて見せます!」
いや、守り抜いて見せますといわれてもですね。
過去におたくの騎士団長様が護衛についていながらはぐれた経験の持ち主でして。
その前例を知っているからこそ何があってもという言葉を信じることが出来ない。
見知らぬダンジョンに取り残されたら間違いなく死んでしまうだろう。
首をとられる前に魔物に食い殺されるとか勘弁して欲しい。
「ダンジョンの探索といわれましてもこの世界のダンジョンは初めてのことになりますし、どうしていけばいいか掴めていない所でありまして。」
「やり方はお前に一任する、好きなように冒険者を動かすがよい。代わりに私は南方の件を命をかけてやり遂げると誓おう。」
「南方をですか。」
「お前に言われてどうするべきか悩んでいた事に決心がついた。私は領民を守りたい。もちろん冒険者も領民の一部ではあるが最優先で守らねばならないのは領土を耕し豊かにしている農民に他ならないのだ。私は命を賭けて彼らを守る、お前は全力で冒険者を助けてやってくれ。」
全力で助けてやってくれといわれましてもですね。
冒険者探索チームの最高責任者をただの商人に任せたりします?
それで冒険者が納得しますか?
大丈夫?
「イナバ様であればどんな冒険者もいう事を聞きますよ。」
「どうしてですか?」
「だってイナバ様はダンジョン商店の主人であり、僅か1日で堅牢な砦を陥落させた英雄ですよ!騎士団のみならずサンサトローズの冒険者で知らない者など居ません!」
いや、だからみんな俺を何だと思っているんでしょうか。
ただの商人ですよ?
ダンジョン商店の主人が何で信じる理由になるのかわからないよ。
え、ダンジョンを運営しているからダンジョンの事は何でも知ってるって?
自分のダンジョンならな!
攻略サイト無しに未踏派のダンジョンしかも事前情報無しの攻略ってドンだけ難易度高いんですか。
いくら先頭に立たないからっていくらなんでも無理でしょ。
「前線には私も出向こう、分団長の事は心配するなお前の代わりに何がなんでも守ってみせる。」
「・・・お任せします。」
俺が前線に出る事はありえない。
ププト様が行く以上こっちを誰かがやらなければならない。
それが俺というわけか。
なんていうか相変わらず責任重大な事ばかりやらされるなぁ。
俺はただのアドバイザーのはずだったんだけど。
どうしてこうなった?
「ではこちらの件頼んだぞ。」
そう言うとププト様は騎士団関係者のほうへ歩いていってしまった。
残されたのは俺とモア君の二人。
「頑張りましょうね、イナバ様!」
今は君の無邪気な目が辛いよ。
陰日初日まさかの命令で幕を開けるのだった。
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未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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