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第五章
正しい華との接し方
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壁の華になっていた三人の所には領主様に言われていたにもかかわらず多くの男性が張り付いていた。
まぁ三人とも綺麗だから仕方ないけど、勝ち目のない戦いだという事がわからないのだろうか。
もしくはあんな小さな商人じゃなくて貴族の俺と結婚しない?
とか何とか言って言い寄っているのかもしれない。
うるさい余計なお世話だ。
誰が小さな商人だ。
そこそこ身長もあるし、でかい所はでかいんだぞ!
どことは言わないけど。
態度?
最近はそこも大きくなっております。
どうもすみません。
とりあえず困った顔をしている三人を助けるのが先決か。
それじゃあまずはめんどくさそうな男に絡まれているシルビア様からだ。
壁際でもひときわ目立つ赤いドレスのシルビア様。
真っ赤なバラのようだ。
「シルビアお待たせしました。」
「シュウイチ、なかなか良かったぞ。」
ギルド長に話しかけられていたシルビア様が俺に気付き歩み寄ってきた。
まったく、このクソ上司ときたら誰の胸元をガン見してるんだよ。
俺のだぞ。
「領主様相手に失礼な事を言ってしまいましたが大丈夫だったでしょうか。」
「なに、あのお方はそんな事で怒る方ではないよ。」
「そうならいいのですが。」
シルビア様がそういうのであればそうなのだろう。
実際怒っている感じじゃなかったしね。
「シルビア殿、こちらの方は?」
「あぁ、私の夫イナバシュウイチだ。」
「はじめまして、シュリアン商店のイナバシュウイチと申します。冒険者ギルドのギルド長とお見受けいたしますが、いつも妻がお世話になっております。」
夫と妻、ここを強調して先制攻撃しておく。
相手がその気ならまずは先制パンチだ。
っていうか領主様直々に紹介してくれたのに聞いてないとはどういうことだ?
どうせエミリア達に見とれてたんだろうけど、俺のだぞ。
「貴方があのイナバ様でしたか、噂はかねがね。」
「シュウイチ、こちらサンサトローズ冒険者ギルドの長をされているポントツ殿だ。」
え、ポンコツ?
トンコツじゃなくて?
「シルビア様には普段からお世話になってばかりで恐縮です。急に結婚されると聞いたときは大変驚きましたが・・・。」
「別に急ぎではないのだが、対外的に示しておかねばならぬ事情があったのだ。それで、先ほどの冒険者の騎士団への推薦の件だが。」
「あぁ、そうでしたな。」
そうでしたなって、自分から話をふっていったんじゃないんかーい!
どうせ胸元目当てに適当な話をしに来ただけだろ?
今すぐにでも胸元にケープか何かをかけてあげたいところだが、残念ながらそんな素晴らしい物は持ち合わせていない。
しばらくは不本意ながらさらしておくしかないだろう。
そういえばお目付け役の彼女が見当たらないが、また別件で走り回っているんだろうか。
そして上司は夕食会で色目を使ってると。
3回じゃ足らん、5回死ね!
「我が冒険者の中から実力のある者を是非騎士団で雇っていただき、お互いの関係強化と組織の底上げをしていかねばならないと思っているのです。」
「その件に関しては部下の方にお伝えしたとおり、我々の基準を満たしていない状況だ。もっと有能なものをよこして貰わねば話にならんな。」
「ですが、それでは推薦できる冒険者も限られてしまいます。基準をどうにか出来ませんでしょうか。」
「基準を緩和すれば兵の質が落ちる。防衛の為にもそこは譲れん所だ。」
どうやら本当に難しい話をしているようだ。
これに関しては俺が口を出す部分じゃないし、手を出さなければ今は目をつぶってやろう。
それじゃあお次はユーリだな。
ユーリの濃い紫のドレスは紫陽花のようだ。
シルビア様同様に一人の男性に張り付かれているユーリ。
顔はそこそこ、身長もそこそこ、ここに来ているぐらいだから身分もそこそこってところだろうか?
「ですからお断りさせていただきますと何度も申し上げております。」
「どうしてだい?あんな辺境にある小さな商店で働くよりも、うちのように王都に店を構える店で働く方が未来があると思わないかい?君なら店に出なくても家で好きなようにして僕の帰りを待ってくれればいい。」
なるほど、そこそこ大きな商店のお坊ちゃんってところか。
なまじお金があるから、そこを攻めて行けば落とせると思っているんだろうな。
町娘ならそんな良縁すぐに飛びつくんだろうけど、相手はあのユーリですよ。
そう簡単に食いつくはずが無い。
「貴方の家に行って私は何をすればいいのでしょうか。」
「何もしなくていいよ、家の事は他の者達がやってくれるし美味しい食事もある。ただ僕のそばで笑っていてくれればいいのさ。」
「ただ笑っているだけの生活に魅力はありません。他を当たってください。」
「君も中々頑固だね、じゃあ逆にどうすれば僕の所に来てくれるんだい?ほしい物があったら言ってみてよ。」
押してだめなら引いてみろか。
多少は頭を使えるみたいだけど、そんなやり方で攻略できるようなキャラじゃないぞユーリは。
「そうですね、毎日料理をして仕事をして狩りに出てダンジョンのメンテナンスが出来る場所なら考えなくもありません。」
ユーリ、それは我が家です。
「狩り?君は狩りをするのかい?」
「もちろんです。日々罠を仕掛けて成果を確認するのが私の楽しみですから。」
「そ、それはずいぶんと野蛮な事をするんだね。」
「野蛮?貴方が先ほど食べていた食事はどうやって作られているかご存じないのですか?食材はどこから来てどのように処理されているのか、それさえ知らない人の所で一体何を学べというのでしょうか。」
これはあれか?
魚は切り身で泳いでいるっていう小学生と同じ発想か?
今自分が食べている食べ物がどこから来ているのかすら知らないような奴が、この世界にもいるというのだろうか。
さすがにないとは思うんだけど。
「女性が何かを学ぶだなんて、君は一体何を言っているんだい?」
やれやれ、やっぱりこういう感じの男か。
女性に学問なんていらないとか言うよく分からない理論。
女性こそ知識を持つべきだと思うんだけどな、こういう奴に引っかからない為にも。
「ではシュリアンという言葉を貴方はご存知ですか?」
「それはさっき君が言っていた狩りの話かい?」
「人の話も聞かないような男に興味はありません、さっさと去りなさい!」
さっきの俺の話を聞いていたら気付いたはずだ。
しかしこの男は話も聞かずユーリのほうばかり気にしていたのだろう。
領主様の言葉も聴いていたのであればユーリを口説きにくるはずなどないのだから。
語気を強めたユーリに一喝されると、男は怯えたような顔をしてその場を立ち去った。
ゴールデンボールの小さい野郎だ。
「ユーリお待たせしました。」
「お帰りなさいませご主人様、なかなか良い演説だったと思います。」
「そう言ってもらえると安心しますね。そういえば先ほど誰かと話をしていたようですが・・・。」
「さぁ、そんな人いましたでしょうか。」
まさかの存在すら否定される哀れな男。
所詮お前はその程度だという事だよ。
お前なんぞにうちのユーリはふさわしくない。
世の中を経験してから出直してくるんだな。
さて、残るはエミリアだけど・・・。
振り返るとそこには複数人に囲まれているエミリアの姿。
領主様の助言も聞かずに群がっている哀れな男たちの集団だ。
なんだろう、カツアゲされているようにも見える。
いや、怯えた女性を囲んでいる最低な奴らだ。
ここはシルビア様以上に夫としての態度を鮮明にしていくべきだな。
人の嫁さんに手を出そうなんざ100年早い。
「エミリアお待たせしました。」
「シュウイチさん!」
複数人の男性に囲まれてしどろもどろになっていたエミリアだが、俺の顔を見るなりパッと表情が明るくなった。
男たちの後ろからエミリアの側に近づいていく・・・。
つもりだったのだが、なぜか邪魔をする男たち。
あの邪魔なんですけど。
「どいていただけますか?妻が待っていますので。」
「貴様の様な小汚い商人に彼女のような美人は相応しくない。領主様に持ち上げられたからといっていい気になっているんじゃないぞ小者が。」
「「「そうだそうだ!」」」
ふむ、偉そうに発言する男とそれに同調する男たち。
邪魔をしてくるのは同調してくる若い男達、そしてそれに加わらずエミリアの横で口説こうとしているもう一人。
察するにこいつがガキ大将で他が取り巻きという感じか。
「相応しいか相応しくないかは貴方が決めるものではありません。もう一度言います、どいていただけますか?」
「そんなにどいて欲しければ実力でどけてみろよ。まぁ、その貧相な体じゃ出来るはずもないけどな。」
「「「そうだそうだ!!」」」
貧相とは失礼な。
ちゃんと大きくなるところは大きく(以下略)
ガキ大将のほうは偉そうに言うぐらいだからそこそこの武芸は出来るのだろう。
ここで挑発に乗ればおそらくは返り討ちだ。
いくら最近鍛えているとはいえ所詮オタクの中年サラリーマンと、今が旬のジャリボーイとでは実力差がありすぎる。
ではどうすればいいのか。
答えは簡単だ。
正面から戦わなければいい。
「先ほども言いましたが出来ないと決めるのは貴方ではなく私です。数で群れて脅かせば引き下がると思っているようでは所詮中身が知れますね。」
「な、言わせておけば調子に乗りやがって!」
ほーら、こんな簡単な挑発に乗ってくるなんてどれだけお子様なんだ。
大人ならもっと綺麗にスルーする術を覚えるべきだね。
「それともあれでしょうか、そんな貧相な体では自分一人でどうにも出来ないのかもしれませんね。」
「いい度胸だ、身の程を思い知らせてやる!」
怒りに我を忘れた蟲の如く血走った目をしたガキ大将が俺めがけて突っ込んでくる。
俺を邪魔していた男達がサッと道を開け、俺までの距離は後5mもない。
このまま甘んじてタックルを迎え入れても構わないのだが、このような晴れやかな場で醜態を晒すのは些かかっこ悪すぎる。
こいつらもさっき紹介した俺をこの場で殴り倒せば自分がどういう風な扱いを受けるのか、考えもしないのだろうか。
それとも自分の身分が高いから大丈夫とか何とか思っているのかもしれないな。
拳を振り上げて突っ込んでくるガキ大将。
その拳が振り下ろされる前に、俺はその場にしゃがみこんだ。
振り下ろされるはずだった場所に俺はなく、男の拳が宙を切る。
と、同時にしゃがみこんだ俺は俺の上にかぶさってくる男の体を、立ち上がる要領で持ち上げた。
すると、殴りかかる勢いのまま男が跳ね上がり吹っ飛んで行く。
派手な音を立ててガキ大将はテーブルをなぎ倒していった。
相手の勢いを受け止めるのではなく、それを利用して相手を制圧する。
これも何かの漫画で読んだ対処法だ。
特に力も何も要らない。
必要なのは、すんでの所まで拳を待つ度胸それだけだ。
後は下にしゃがんで立ち上がるだけだからね。
この世界に来てからというもの数度の修羅場を潜りぬけたお陰で度胸だけはついてきた。
基礎体力は絶賛増強中です。
自分達のリーダーが吹き飛んでいくのを見て目を丸くする取り巻き達。
そのうちの一人と目があった瞬間、取り巻きはリーダーのところへ駆け寄っていった。
やれやれ、やっとエミリアのところに行ける。
濃紺のドレスにかかる金髪は夜空の星のようだ。
うむ、我ながら詩人だな。
「大丈夫ですかエミリア。」
「大丈夫です、シュウイチさんこそ怪我はありませんか?」
「私は別に、なにもしてませんから怪我なんてないですよ。」
特に怪我をする要素はないので問題ない。
吹き飛んでいったやつの事はしらんけどな。
急に人が吹き飛んでいったものだからひっくりかえったテーブル周辺は大騒ぎになっている。
騒ぎを聞き付けてシルビア達も駆け寄ってきた。
「いったい何事だ!」
シルビア様の前なのもあり、急に場の仲裁を始めるトンコツもといポントツ氏。
いなかったら絶対傍観してるだけだろう。
吹き飛んでいったガキ大将も取り巻きに引っ張り起こされてこちらを睨み付けている。
おー、こわいこわい。
「お騒がせして申し訳ありません、私がしゃがみこんだところ彼が私に気付かず走って来たものですから弾みで転けてしまわれたようです。」
「誰かと思えばイナバ様ではないですか。」
「お相手様は怪我をされていませんか?」
あくまでも偶発的に起きた事故ということにしておく。
向こうもこれだけの視線を集めている中、喧嘩を吹っ掛けてくるわけにはいかないだろう。
ここで事を荒立てないのがスマートな大人って奴ですよ。
「相手は、なんだマナビス殿の所のご子息ではないか。彼ならば問題あるまい。」
どちら様でしょうか。
問題ないで片付けられちゃうってどうなの?
「大方子供らで悪ふざけでもしておったのだろう、いつもの場ならまだしも今日はプロンプト様のお席なのだから程ほどにするようにな。皆様お騒がせしました、問題ありませんのでどうぞごゆっくりお楽しみください。」
こういうときに場を収集できるずる賢さもあるから、こういう手前は扱いにくい。
ただのポンコツではないみたいだ。
「マナビスといえば中央貴族議員の一人ね、そして貴方が先ほど投げ飛ばしたのがその一人息子ってワケ。」
貴族議員の一人息子とか最低じゃないですか、やだー。
めんどくさい事になるかもしれないなぁ。
いくら売られた喧嘩だとはいえ、ちょっと相手が悪かったかもしれない。
でもまぁ、起きてしまったものは今更かえようがないし。
なるようになるさ。
きっと。
それよりもまさかこの人が見ているとは思っていなかったんですけど、一体どこから出てきたんでしょうか。
「見られていましたか。」
「もちろんバッチリ見てたわよ、自分の奥様を助ける為に颯爽と現われて、場を荒らさない為に事故に見せかけるだなんてやっぱり貴方ただの商人じゃないんでしょ。」
「いえいえ、ただのしがない商人ですよ。たまたま上手くいっただけです。」
横からひょこっと出てきたのはオネェことガスターシャ氏。
どこからどう見ても女性にしか見えないのが恐ろしい。
素性を知らない人の何人がこの見た目にだまされているんだろうか。
「マナビス議員自体は悪い人じゃないんだけど、溺愛しすぎたあの一人息子のヤンチャが最近ちょっとすぎるのよね。今回の件もあるしそろそろお灸を据えておかないといけないかしら。」
「そういうことでしたら後は宜しくお願いします。」
「あんなかっこいい所見せられたんじゃ頑張らないわけには行かないものね。」
オネェだが中身は中央府元老院副参謀。
頼りになります。
ガキ大将のほうは怒りを発散する場所がなくてまだ俺をにらみつけている。
だが一応父の顔もあるのかそれ以上は突っかかってこない。
そんな彼の所にオネェがゆっくりと歩み寄っていく。
怒りの目が彼を見たとたんに変わった。
なんていうか非常にデレデレしている。
うむ、すんなり騙されているな。
ガスターシャ、恐ろしい子!
そしてそのままにこやかに話しかけ、取り巻き集団と一緒に人気のないほうへと消えていくのだった。
オネェにどんなお仕置きをされるのか想像するだけでも恐ろしい。
考えないようにしよう。
合掌。
「大丈夫でしょうか。」
「見た目はあのような方ですが肩書きはありますし、お任せして大丈夫ではないでしょうか。」
「私の為にご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした。」
「何を言うんですか、大切な奥さんを守るのは夫として当然の努めですよ。」
うちの嫁に手を出すやつに容赦する必要はない。
それが例え領主様であってもだ。
「領主様に呼ばれていますのでシルビア達と合流して向かおうと思っているのですが、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。」
「私も問題ありません。」
うぉぁ、ユーリ何時の間に来たの。
「ご主人様があの方を投げ飛ばす前からずっとお側におりましたが?」
ユーリの所に行ってからエミリアのところに来たんだから当然か。
でも全然気配を感じなかった。
最近忍者支配人と同じようなふんいきがでてきたのは気のせいだろうか。
それとも狩りをするようになると気配を消せるようにでもなるのだろうか。
わからん。
「ではお待たせするわけにも行きませんので行きましょうか。」
シルビア様と合流してテナンさんに声をかければ今日の予定はこれにて終了だ。
さっさと終わらせて帰るとしよう。
と思っていたとき、入り口が開き誰かが走ってくる。
「ギルド長、ここにいましたか!」
「何だ騒々しい、ここをどこだと思っているんだ。」
シルビア様とまだ話し込んでいたポンコツ、おっと、トンコツ、違ったポントツの所に見覚えのある女性が走って来た。
あれは冒険者ギルドの苦労人ティナさんじゃないか?
皆がドレスなどに正装している中彼女だけが昼間の仕事着のままだ。
でもスーツだと思えば別におかしくないよね。
だってあれも正装だし。
「至急お耳に入れたい内容がありまして。」
「今は取り込んでいる、後にしろ。」
「そんな悠長な事を言っている場合ではありません!また3人失踪しました。」
「な・・・、今度は誰だ。」
「捜索を依頼していた中級冒険者です。」
「まさか、中級冒険者までもが。」
なんだなんだ、何事だ?
ティナさんの話を聞いた途端にデレデレとしていた顔が一気に真顔に戻る。
よっぽどな内容なのだろう。
「私は構わん、先にそちらの用事を済ませるのがよいだろう。私も迎えが来たようだからな。」
「しかし、こちらの案件も。」
「時間を窮す問題なのだろう?優先順位はわきまえているつもりだ。」
「申し訳ありませんシルビア様。」
深々と頭を下げるティナさん。
トラブルが起きたときに一番大変なのって中間管理職なんだよね。
下のスタッフに指示を出しつつ随時状況を上長に報告。
さらに、スタッフで手におえない場合は自分にお鉢が回ってくる。
何か良くわからないがご苦労様です。
「もし騎士団の手が必要なのであれば遠慮なく声をかけてくれ。」
「その際はよろしくお・・・。」
「いえ、こちらで処理いたしますのでご心配には及びません。」
「ですが中級冒険者もとなれば!」
「お前は黙っていろ、状況を確認しに行くギルドに戻るぞ。」
「・・・かしこまりました。」
「お騒がせして申し訳ありません、急用が出来ましたので失礼致します。」
ティナさんの返事を上からかぶせ、難しい表情で去っていく。
ふむ、またよからぬことがおきたのではないだろうか。
でもまぁ、俺には関係ないし。
「何かあったんですか?」
「よくは分からんが何かあったらしい。」
「騎士団の手は必要ないような感じでしたが。」
「ギルド長の立場上あまり安易に借りを作るわけにはいかんのだろうな。」
失踪とか聞こえたが、人の命が懸かっているかもしれない場合に面子を気にしている場合なのだろうか。
いや、面子だけで話をややこしくする人間を過去に何人も見てきた。
十分ありえるだろう
「そうだ、領主様に呼ばれているのですがご一緒しますか?」
「そうだな騎士団に要請がない以上我々が首を突っ込む事もあるまい。」
「ではテナンさんを探して向かいましょう。」
さて、あの人は一体どこにいるのかな。
「お呼びでしょうかイナバ様。」
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!
と言わんばかりにテナンさんが音もなく現われた。
支配人といい執事長といい、ステルス機能優秀すぎるでしょ。
「領主様に呼ばれているのですが。」
「お話は聞いております、皆さんおそろいのようですのでどうぞこちらにお越し下さい。」
テナンさんは人数を確認するとそのままエントランスの奥へと進みだした。
向かう先は恐らく領主様の部屋だとおもう。
思うんだけど、何で横にあった階段を上らないんだろう。
普通そういう部屋って上部にあるもんだとおもうんだけど?
「プロンプト様はイナバ様との食事を希望されております。先ほどはほとんど食べておられませんでしたのでちょうどよろしいかと。」
あ、ばれてましたか。
食べる時間なんてどこにもありませんでした。
でもサシで食事はもっと勘弁して欲しいんだけどな。
「食堂はもうすぐでございます、皆さんご期待くださいませ。」
「どんな料理なんでしょうね。」
「ミド博士のお話ではとても美味しいとの事でしたが。」
「それはとても楽しみだ。」
俺と違い三人は楽しみなようです。
テナンさんに連れられて向かうは本当の夕食会。
さて、何が起きるのやら。
まぁ三人とも綺麗だから仕方ないけど、勝ち目のない戦いだという事がわからないのだろうか。
もしくはあんな小さな商人じゃなくて貴族の俺と結婚しない?
とか何とか言って言い寄っているのかもしれない。
うるさい余計なお世話だ。
誰が小さな商人だ。
そこそこ身長もあるし、でかい所はでかいんだぞ!
どことは言わないけど。
態度?
最近はそこも大きくなっております。
どうもすみません。
とりあえず困った顔をしている三人を助けるのが先決か。
それじゃあまずはめんどくさそうな男に絡まれているシルビア様からだ。
壁際でもひときわ目立つ赤いドレスのシルビア様。
真っ赤なバラのようだ。
「シルビアお待たせしました。」
「シュウイチ、なかなか良かったぞ。」
ギルド長に話しかけられていたシルビア様が俺に気付き歩み寄ってきた。
まったく、このクソ上司ときたら誰の胸元をガン見してるんだよ。
俺のだぞ。
「領主様相手に失礼な事を言ってしまいましたが大丈夫だったでしょうか。」
「なに、あのお方はそんな事で怒る方ではないよ。」
「そうならいいのですが。」
シルビア様がそういうのであればそうなのだろう。
実際怒っている感じじゃなかったしね。
「シルビア殿、こちらの方は?」
「あぁ、私の夫イナバシュウイチだ。」
「はじめまして、シュリアン商店のイナバシュウイチと申します。冒険者ギルドのギルド長とお見受けいたしますが、いつも妻がお世話になっております。」
夫と妻、ここを強調して先制攻撃しておく。
相手がその気ならまずは先制パンチだ。
っていうか領主様直々に紹介してくれたのに聞いてないとはどういうことだ?
どうせエミリア達に見とれてたんだろうけど、俺のだぞ。
「貴方があのイナバ様でしたか、噂はかねがね。」
「シュウイチ、こちらサンサトローズ冒険者ギルドの長をされているポントツ殿だ。」
え、ポンコツ?
トンコツじゃなくて?
「シルビア様には普段からお世話になってばかりで恐縮です。急に結婚されると聞いたときは大変驚きましたが・・・。」
「別に急ぎではないのだが、対外的に示しておかねばならぬ事情があったのだ。それで、先ほどの冒険者の騎士団への推薦の件だが。」
「あぁ、そうでしたな。」
そうでしたなって、自分から話をふっていったんじゃないんかーい!
どうせ胸元目当てに適当な話をしに来ただけだろ?
今すぐにでも胸元にケープか何かをかけてあげたいところだが、残念ながらそんな素晴らしい物は持ち合わせていない。
しばらくは不本意ながらさらしておくしかないだろう。
そういえばお目付け役の彼女が見当たらないが、また別件で走り回っているんだろうか。
そして上司は夕食会で色目を使ってると。
3回じゃ足らん、5回死ね!
「我が冒険者の中から実力のある者を是非騎士団で雇っていただき、お互いの関係強化と組織の底上げをしていかねばならないと思っているのです。」
「その件に関しては部下の方にお伝えしたとおり、我々の基準を満たしていない状況だ。もっと有能なものをよこして貰わねば話にならんな。」
「ですが、それでは推薦できる冒険者も限られてしまいます。基準をどうにか出来ませんでしょうか。」
「基準を緩和すれば兵の質が落ちる。防衛の為にもそこは譲れん所だ。」
どうやら本当に難しい話をしているようだ。
これに関しては俺が口を出す部分じゃないし、手を出さなければ今は目をつぶってやろう。
それじゃあお次はユーリだな。
ユーリの濃い紫のドレスは紫陽花のようだ。
シルビア様同様に一人の男性に張り付かれているユーリ。
顔はそこそこ、身長もそこそこ、ここに来ているぐらいだから身分もそこそこってところだろうか?
「ですからお断りさせていただきますと何度も申し上げております。」
「どうしてだい?あんな辺境にある小さな商店で働くよりも、うちのように王都に店を構える店で働く方が未来があると思わないかい?君なら店に出なくても家で好きなようにして僕の帰りを待ってくれればいい。」
なるほど、そこそこ大きな商店のお坊ちゃんってところか。
なまじお金があるから、そこを攻めて行けば落とせると思っているんだろうな。
町娘ならそんな良縁すぐに飛びつくんだろうけど、相手はあのユーリですよ。
そう簡単に食いつくはずが無い。
「貴方の家に行って私は何をすればいいのでしょうか。」
「何もしなくていいよ、家の事は他の者達がやってくれるし美味しい食事もある。ただ僕のそばで笑っていてくれればいいのさ。」
「ただ笑っているだけの生活に魅力はありません。他を当たってください。」
「君も中々頑固だね、じゃあ逆にどうすれば僕の所に来てくれるんだい?ほしい物があったら言ってみてよ。」
押してだめなら引いてみろか。
多少は頭を使えるみたいだけど、そんなやり方で攻略できるようなキャラじゃないぞユーリは。
「そうですね、毎日料理をして仕事をして狩りに出てダンジョンのメンテナンスが出来る場所なら考えなくもありません。」
ユーリ、それは我が家です。
「狩り?君は狩りをするのかい?」
「もちろんです。日々罠を仕掛けて成果を確認するのが私の楽しみですから。」
「そ、それはずいぶんと野蛮な事をするんだね。」
「野蛮?貴方が先ほど食べていた食事はどうやって作られているかご存じないのですか?食材はどこから来てどのように処理されているのか、それさえ知らない人の所で一体何を学べというのでしょうか。」
これはあれか?
魚は切り身で泳いでいるっていう小学生と同じ発想か?
今自分が食べている食べ物がどこから来ているのかすら知らないような奴が、この世界にもいるというのだろうか。
さすがにないとは思うんだけど。
「女性が何かを学ぶだなんて、君は一体何を言っているんだい?」
やれやれ、やっぱりこういう感じの男か。
女性に学問なんていらないとか言うよく分からない理論。
女性こそ知識を持つべきだと思うんだけどな、こういう奴に引っかからない為にも。
「ではシュリアンという言葉を貴方はご存知ですか?」
「それはさっき君が言っていた狩りの話かい?」
「人の話も聞かないような男に興味はありません、さっさと去りなさい!」
さっきの俺の話を聞いていたら気付いたはずだ。
しかしこの男は話も聞かずユーリのほうばかり気にしていたのだろう。
領主様の言葉も聴いていたのであればユーリを口説きにくるはずなどないのだから。
語気を強めたユーリに一喝されると、男は怯えたような顔をしてその場を立ち去った。
ゴールデンボールの小さい野郎だ。
「ユーリお待たせしました。」
「お帰りなさいませご主人様、なかなか良い演説だったと思います。」
「そう言ってもらえると安心しますね。そういえば先ほど誰かと話をしていたようですが・・・。」
「さぁ、そんな人いましたでしょうか。」
まさかの存在すら否定される哀れな男。
所詮お前はその程度だという事だよ。
お前なんぞにうちのユーリはふさわしくない。
世の中を経験してから出直してくるんだな。
さて、残るはエミリアだけど・・・。
振り返るとそこには複数人に囲まれているエミリアの姿。
領主様の助言も聞かずに群がっている哀れな男たちの集団だ。
なんだろう、カツアゲされているようにも見える。
いや、怯えた女性を囲んでいる最低な奴らだ。
ここはシルビア様以上に夫としての態度を鮮明にしていくべきだな。
人の嫁さんに手を出そうなんざ100年早い。
「エミリアお待たせしました。」
「シュウイチさん!」
複数人の男性に囲まれてしどろもどろになっていたエミリアだが、俺の顔を見るなりパッと表情が明るくなった。
男たちの後ろからエミリアの側に近づいていく・・・。
つもりだったのだが、なぜか邪魔をする男たち。
あの邪魔なんですけど。
「どいていただけますか?妻が待っていますので。」
「貴様の様な小汚い商人に彼女のような美人は相応しくない。領主様に持ち上げられたからといっていい気になっているんじゃないぞ小者が。」
「「「そうだそうだ!」」」
ふむ、偉そうに発言する男とそれに同調する男たち。
邪魔をしてくるのは同調してくる若い男達、そしてそれに加わらずエミリアの横で口説こうとしているもう一人。
察するにこいつがガキ大将で他が取り巻きという感じか。
「相応しいか相応しくないかは貴方が決めるものではありません。もう一度言います、どいていただけますか?」
「そんなにどいて欲しければ実力でどけてみろよ。まぁ、その貧相な体じゃ出来るはずもないけどな。」
「「「そうだそうだ!!」」」
貧相とは失礼な。
ちゃんと大きくなるところは大きく(以下略)
ガキ大将のほうは偉そうに言うぐらいだからそこそこの武芸は出来るのだろう。
ここで挑発に乗ればおそらくは返り討ちだ。
いくら最近鍛えているとはいえ所詮オタクの中年サラリーマンと、今が旬のジャリボーイとでは実力差がありすぎる。
ではどうすればいいのか。
答えは簡単だ。
正面から戦わなければいい。
「先ほども言いましたが出来ないと決めるのは貴方ではなく私です。数で群れて脅かせば引き下がると思っているようでは所詮中身が知れますね。」
「な、言わせておけば調子に乗りやがって!」
ほーら、こんな簡単な挑発に乗ってくるなんてどれだけお子様なんだ。
大人ならもっと綺麗にスルーする術を覚えるべきだね。
「それともあれでしょうか、そんな貧相な体では自分一人でどうにも出来ないのかもしれませんね。」
「いい度胸だ、身の程を思い知らせてやる!」
怒りに我を忘れた蟲の如く血走った目をしたガキ大将が俺めがけて突っ込んでくる。
俺を邪魔していた男達がサッと道を開け、俺までの距離は後5mもない。
このまま甘んじてタックルを迎え入れても構わないのだが、このような晴れやかな場で醜態を晒すのは些かかっこ悪すぎる。
こいつらもさっき紹介した俺をこの場で殴り倒せば自分がどういう風な扱いを受けるのか、考えもしないのだろうか。
それとも自分の身分が高いから大丈夫とか何とか思っているのかもしれないな。
拳を振り上げて突っ込んでくるガキ大将。
その拳が振り下ろされる前に、俺はその場にしゃがみこんだ。
振り下ろされるはずだった場所に俺はなく、男の拳が宙を切る。
と、同時にしゃがみこんだ俺は俺の上にかぶさってくる男の体を、立ち上がる要領で持ち上げた。
すると、殴りかかる勢いのまま男が跳ね上がり吹っ飛んで行く。
派手な音を立ててガキ大将はテーブルをなぎ倒していった。
相手の勢いを受け止めるのではなく、それを利用して相手を制圧する。
これも何かの漫画で読んだ対処法だ。
特に力も何も要らない。
必要なのは、すんでの所まで拳を待つ度胸それだけだ。
後は下にしゃがんで立ち上がるだけだからね。
この世界に来てからというもの数度の修羅場を潜りぬけたお陰で度胸だけはついてきた。
基礎体力は絶賛増強中です。
自分達のリーダーが吹き飛んでいくのを見て目を丸くする取り巻き達。
そのうちの一人と目があった瞬間、取り巻きはリーダーのところへ駆け寄っていった。
やれやれ、やっとエミリアのところに行ける。
濃紺のドレスにかかる金髪は夜空の星のようだ。
うむ、我ながら詩人だな。
「大丈夫ですかエミリア。」
「大丈夫です、シュウイチさんこそ怪我はありませんか?」
「私は別に、なにもしてませんから怪我なんてないですよ。」
特に怪我をする要素はないので問題ない。
吹き飛んでいったやつの事はしらんけどな。
急に人が吹き飛んでいったものだからひっくりかえったテーブル周辺は大騒ぎになっている。
騒ぎを聞き付けてシルビア達も駆け寄ってきた。
「いったい何事だ!」
シルビア様の前なのもあり、急に場の仲裁を始めるトンコツもといポントツ氏。
いなかったら絶対傍観してるだけだろう。
吹き飛んでいったガキ大将も取り巻きに引っ張り起こされてこちらを睨み付けている。
おー、こわいこわい。
「お騒がせして申し訳ありません、私がしゃがみこんだところ彼が私に気付かず走って来たものですから弾みで転けてしまわれたようです。」
「誰かと思えばイナバ様ではないですか。」
「お相手様は怪我をされていませんか?」
あくまでも偶発的に起きた事故ということにしておく。
向こうもこれだけの視線を集めている中、喧嘩を吹っ掛けてくるわけにはいかないだろう。
ここで事を荒立てないのがスマートな大人って奴ですよ。
「相手は、なんだマナビス殿の所のご子息ではないか。彼ならば問題あるまい。」
どちら様でしょうか。
問題ないで片付けられちゃうってどうなの?
「大方子供らで悪ふざけでもしておったのだろう、いつもの場ならまだしも今日はプロンプト様のお席なのだから程ほどにするようにな。皆様お騒がせしました、問題ありませんのでどうぞごゆっくりお楽しみください。」
こういうときに場を収集できるずる賢さもあるから、こういう手前は扱いにくい。
ただのポンコツではないみたいだ。
「マナビスといえば中央貴族議員の一人ね、そして貴方が先ほど投げ飛ばしたのがその一人息子ってワケ。」
貴族議員の一人息子とか最低じゃないですか、やだー。
めんどくさい事になるかもしれないなぁ。
いくら売られた喧嘩だとはいえ、ちょっと相手が悪かったかもしれない。
でもまぁ、起きてしまったものは今更かえようがないし。
なるようになるさ。
きっと。
それよりもまさかこの人が見ているとは思っていなかったんですけど、一体どこから出てきたんでしょうか。
「見られていましたか。」
「もちろんバッチリ見てたわよ、自分の奥様を助ける為に颯爽と現われて、場を荒らさない為に事故に見せかけるだなんてやっぱり貴方ただの商人じゃないんでしょ。」
「いえいえ、ただのしがない商人ですよ。たまたま上手くいっただけです。」
横からひょこっと出てきたのはオネェことガスターシャ氏。
どこからどう見ても女性にしか見えないのが恐ろしい。
素性を知らない人の何人がこの見た目にだまされているんだろうか。
「マナビス議員自体は悪い人じゃないんだけど、溺愛しすぎたあの一人息子のヤンチャが最近ちょっとすぎるのよね。今回の件もあるしそろそろお灸を据えておかないといけないかしら。」
「そういうことでしたら後は宜しくお願いします。」
「あんなかっこいい所見せられたんじゃ頑張らないわけには行かないものね。」
オネェだが中身は中央府元老院副参謀。
頼りになります。
ガキ大将のほうは怒りを発散する場所がなくてまだ俺をにらみつけている。
だが一応父の顔もあるのかそれ以上は突っかかってこない。
そんな彼の所にオネェがゆっくりと歩み寄っていく。
怒りの目が彼を見たとたんに変わった。
なんていうか非常にデレデレしている。
うむ、すんなり騙されているな。
ガスターシャ、恐ろしい子!
そしてそのままにこやかに話しかけ、取り巻き集団と一緒に人気のないほうへと消えていくのだった。
オネェにどんなお仕置きをされるのか想像するだけでも恐ろしい。
考えないようにしよう。
合掌。
「大丈夫でしょうか。」
「見た目はあのような方ですが肩書きはありますし、お任せして大丈夫ではないでしょうか。」
「私の為にご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした。」
「何を言うんですか、大切な奥さんを守るのは夫として当然の努めですよ。」
うちの嫁に手を出すやつに容赦する必要はない。
それが例え領主様であってもだ。
「領主様に呼ばれていますのでシルビア達と合流して向かおうと思っているのですが、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。」
「私も問題ありません。」
うぉぁ、ユーリ何時の間に来たの。
「ご主人様があの方を投げ飛ばす前からずっとお側におりましたが?」
ユーリの所に行ってからエミリアのところに来たんだから当然か。
でも全然気配を感じなかった。
最近忍者支配人と同じようなふんいきがでてきたのは気のせいだろうか。
それとも狩りをするようになると気配を消せるようにでもなるのだろうか。
わからん。
「ではお待たせするわけにも行きませんので行きましょうか。」
シルビア様と合流してテナンさんに声をかければ今日の予定はこれにて終了だ。
さっさと終わらせて帰るとしよう。
と思っていたとき、入り口が開き誰かが走ってくる。
「ギルド長、ここにいましたか!」
「何だ騒々しい、ここをどこだと思っているんだ。」
シルビア様とまだ話し込んでいたポンコツ、おっと、トンコツ、違ったポントツの所に見覚えのある女性が走って来た。
あれは冒険者ギルドの苦労人ティナさんじゃないか?
皆がドレスなどに正装している中彼女だけが昼間の仕事着のままだ。
でもスーツだと思えば別におかしくないよね。
だってあれも正装だし。
「至急お耳に入れたい内容がありまして。」
「今は取り込んでいる、後にしろ。」
「そんな悠長な事を言っている場合ではありません!また3人失踪しました。」
「な・・・、今度は誰だ。」
「捜索を依頼していた中級冒険者です。」
「まさか、中級冒険者までもが。」
なんだなんだ、何事だ?
ティナさんの話を聞いた途端にデレデレとしていた顔が一気に真顔に戻る。
よっぽどな内容なのだろう。
「私は構わん、先にそちらの用事を済ませるのがよいだろう。私も迎えが来たようだからな。」
「しかし、こちらの案件も。」
「時間を窮す問題なのだろう?優先順位はわきまえているつもりだ。」
「申し訳ありませんシルビア様。」
深々と頭を下げるティナさん。
トラブルが起きたときに一番大変なのって中間管理職なんだよね。
下のスタッフに指示を出しつつ随時状況を上長に報告。
さらに、スタッフで手におえない場合は自分にお鉢が回ってくる。
何か良くわからないがご苦労様です。
「もし騎士団の手が必要なのであれば遠慮なく声をかけてくれ。」
「その際はよろしくお・・・。」
「いえ、こちらで処理いたしますのでご心配には及びません。」
「ですが中級冒険者もとなれば!」
「お前は黙っていろ、状況を確認しに行くギルドに戻るぞ。」
「・・・かしこまりました。」
「お騒がせして申し訳ありません、急用が出来ましたので失礼致します。」
ティナさんの返事を上からかぶせ、難しい表情で去っていく。
ふむ、またよからぬことがおきたのではないだろうか。
でもまぁ、俺には関係ないし。
「何かあったんですか?」
「よくは分からんが何かあったらしい。」
「騎士団の手は必要ないような感じでしたが。」
「ギルド長の立場上あまり安易に借りを作るわけにはいかんのだろうな。」
失踪とか聞こえたが、人の命が懸かっているかもしれない場合に面子を気にしている場合なのだろうか。
いや、面子だけで話をややこしくする人間を過去に何人も見てきた。
十分ありえるだろう
「そうだ、領主様に呼ばれているのですがご一緒しますか?」
「そうだな騎士団に要請がない以上我々が首を突っ込む事もあるまい。」
「ではテナンさんを探して向かいましょう。」
さて、あの人は一体どこにいるのかな。
「お呼びでしょうかイナバ様。」
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!
と言わんばかりにテナンさんが音もなく現われた。
支配人といい執事長といい、ステルス機能優秀すぎるでしょ。
「領主様に呼ばれているのですが。」
「お話は聞いております、皆さんおそろいのようですのでどうぞこちらにお越し下さい。」
テナンさんは人数を確認するとそのままエントランスの奥へと進みだした。
向かう先は恐らく領主様の部屋だとおもう。
思うんだけど、何で横にあった階段を上らないんだろう。
普通そういう部屋って上部にあるもんだとおもうんだけど?
「プロンプト様はイナバ様との食事を希望されております。先ほどはほとんど食べておられませんでしたのでちょうどよろしいかと。」
あ、ばれてましたか。
食べる時間なんてどこにもありませんでした。
でもサシで食事はもっと勘弁して欲しいんだけどな。
「食堂はもうすぐでございます、皆さんご期待くださいませ。」
「どんな料理なんでしょうね。」
「ミド博士のお話ではとても美味しいとの事でしたが。」
「それはとても楽しみだ。」
俺と違い三人は楽しみなようです。
テナンさんに連れられて向かうは本当の夕食会。
さて、何が起きるのやら。
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