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第五章
鬼の居ぬ間に
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通された先は10人ぐらいが入れそうな比較的広い部屋だった。
中央に大きな机が置かれ、人数分の椅子が置かれている。
おそらく会議室か何かだろう。
ホワイトボードのようなものはもちろん無い。
この大きな机の上に資料を広げるんだろうな。
そう考えるとホワイトボードって実はとてもすごい物だったんじゃないだろうか。
なんせ、書いた側から消せる。
どこにでも設置可能。
視認性抜群。
プロジェクターは無理でもホワイトボード的な何かはこの世界で作れたりしないかな。
俗に言う文化チートというやつか。
残念ながら工作力0の人間なので自前で発明するのは不可能だ。
今度貼り付けるタイプのボードでも頑張って作ってみようかな。
ほら、コルクボードみたいな奴。
あれも便利だよね。
っと、話を戻そう。
ユーリたちは部屋の外で待つように言ったのだが、特に問題ないそうなのでそのまま中に通された。
俺達はともかくナーフさんは入る必要なかったんじゃないだろうか。
まぁ、ある意味関係者見たいなものだし先方が何も言わないならいいか。
「どうぞそちらの椅子をお使いください。」
「有難うございます。」
勧められた椅子に俺とエミリアが座るも、ユーリとナーフさんが座らない。
「私は後ろにいるだけですので問題ありません。」
「私もこのままで大丈夫ですので。」
まぁ無理に座れというわけではないし本人が大丈夫ならいいか。
「遅れながら自己紹介させていただきます、冒険者ギルドのギルド長補佐をしておりますティナと申します。この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。」
そう言ってティナさんは深々と頭を下げる。
ショートカットというのだろうか。
それともボブカット?
耳にかかるぐらいの短いラベンダーのような深い紫の髪が顔を隠してしまう。
エミリアよりもちょっと背が低いぐらいか。
ヒューリンのようにも見えたが耳から察するにエルフィーだろう。
この人の責任ではないのにこういう場では頭を下げないといけない。
中間管理職って本当に大変だよね。
「今回は苦情を言いにきたわけではありませんのでどうぞ面を上げてください。先ほどもお話しましたように今回こちらにお邪魔いたしましたのは我がダンジョンを冒険者ギルドに紹介していただきました件に対するお礼と、今後のお互いの関係についてしっかり話し合うべきだと思いまして参上した次第です。」
「先ほどの件についてはお怒りではないという事でしょうか。」
顔を上げながら不思議そうな顔をするティナさん。
最初はクレームを入れに来たけどどうやら最初に思っていたのと事情が違うみたいだしね。
「冒険者の性質上人の生き死にというのは致し方ない部分があると私も思っております。ですので『普通』の冒険者がダンジョンに入ってくる事に関しては我々は拒みませんしむしろ歓迎いたします。それに今回の件に関してはそちらの些細な間違いが複数重なった結果起きてしまった不慮の事故だと思っておりますので、以後気をつけていただけるのであれば私としましては今回の件はなかった事にするつもりです。」
「確かに、今回の件は当ギルド内で複数の間違いが起こったことによる偶発的なものです。しかしそれによって後ろにおられますナーフさんの命を脅かす結果となってしまいました。それに関してもなかった事にするという事でしょうか。」
「起きてしまった事をなかった事にはできませんが、怪我はしたものの命を失う事はなかった。ナーフさん自身も今回の件で冒険者がどういうものか身をもって理解したようですし、ナーフさんがそちらを責めないのであれば私がとやかく言うつもりはありません。」
「私は別に冒険者ギルドの方々を責めるつもりはありません。むしろ職まで紹介していただけるという事で頭が上がらないくらいです。」
ナーフさんは今回の件でギルドを責めていない。
むしろいいきっかけになったと思ってくれている。
それなのにも拘わらず当事者ではない俺がギルドを責めるというのは些か筋違いという物だ。
「ナーフ様に関しては此方が責任を持って適切な職をご紹介させていただきます。」
「その件については全てお任せいたします、良い職を探してあげてください。」
「宜しくお願いします。」
先ほどは口約束みたいな物だったし、これで念書でも書いてもらえば問題ないだろう。
ではこっちの話に入ろうか。
「今回の件をふまえまして、当シュリアン商店としては次の二つをお願いしたくこちらに参りました。一つ目はこれからも当ダンジョンを多数の冒険者様に継続的にご紹介いただきたいという事。二つ目はご紹介して頂くにあたり、しっかりとした補助をお願いしたいという事です。」
冒険者ギルドに紹介してくれと正式に依頼した事はなかったが、これを機にうちのダンジョンを積極的に紹介してもらおうという事だ。
どこで情報を仕入れたのか知らないが、うちのダンジョンが低階層で初心者向けという情報がここにはある。
しかしその情報は不確定であり、非常に曖昧だ。
商人にも言えることだが、冒険者にとっても『情報』というのは非常に重要である。
魔物がどういう行動を取り、どのぐらい危険で、どうすれば倒せるのか。
それを知らずに戦うのはバカのすることだ。
ダンジョンにも同じ事が言える。
そのダンジョンにはどのような魔物がいて、どのような罠があって、どのように攻略していくべきか。
それを知らずに突っ込むのはナーフさんのように命を失う危険がある。
冒険者は体が資本だ。
出来るだけ危険を避け、万全の状態で冒険をしなければならない。
それに必要なのが『情報』というわけだな。
正しい情報を冒険者ギルドに提供し、正しい冒険者を紹介してもらう。
そうする事でお互いにリスクを減らしつつ良好な関係を気づく事ができるだろう。
普通は、うちを紹介してください!
という感じでダンジョン側が下手にでる必要があるのだが、今回はナーフさんの件もあり少々強気に交渉しても問題がない。
そういう意味でもナーフさんの一件はこちらとして非常にありがたい出来事だったとも言える。
ナーフさんの不幸に乗っかるのは些か申し訳ないが、冒険者ギルドとは一度話をしないといけないと思っていたし、今回は非常にいいタイミングで起きた事件だといえるだろう。
「こちらとしましても駆け出しの冒険者が修練を積むのに適したダンジョンというのはなかなかありませんので、ご紹介させていただけるのであれば非常に助かります。ですが、補助というのはどういうことでしょうか。」
「ナーフさんのように冒険の基礎もわからない方々は、一見すれば簡単そうな事でも失敗する危険が非常に高いと思います。冒険者の失敗は命の喪失に繋がります。冒険者ギルドにはそうならないようにしっかりと手を差しのべていただきたいのです。ダンジョンを紹介するに当たり最低限の知識や覚悟を新人に教育して頂きたいのです。」
「なるほど。最低限の知識を持った冒険者であれば歓迎するというわけですね。」
「今回ナーフさんを救出できたのは全くの偶然ですし、今後も救助できるとは限りません。今回は『一般人』がダンジョンに紛れ込んできたという解釈の元救助させて頂きました。その点冒険者であればそれなりの覚悟と責任を持ってダンジョンに挑んでおられますので、我々もそういうものだという考えでいられますから。」
一般人と冒険者は違う。
ダンジョンにはそれなりの覚悟を持った人間が入るべきなのだ。
ダンジョン商店の性質上、全ての冒険者を救助するわけには行かない。
俺が助けるのは冒険者ではない人間が入ってきたときのみだ。
おれ自身もそう割り切らなければならない。
なので、冒険者ギルドにはナーフさんのような人間が入ってこないようしっかりと教育をお願いしたい。
それが二つ目の本質だ。
どうやらティナさんにもそれは伝わったようだな。
「我がダンジョンはまだまだ低階層の実入りの少ないダンジョンです。駆け出しから卒業された冒険者の皆さんには物足りないとは思いますが、実績の少ない駆け出しの冒険者の皆さんには十分でしょう。下積みをしっかりすれば冒険者としての寿命は延び、冒険者が増えれば冒険者ギルドも潤う。我々はそのお手伝いが出来ればと思っているんです。」
「ダンジョン商店の方とは思えない発言ですね。」
「全ての商店が同じわけではありません。それぞれの店主がそれぞれの思惑でダンジョンを作り上げています。いずれ、共に育った冒険者が他の地で成長するように我がダンジョンも大きく発展するでしょう。私は冒険者を搾取するダンジョンではなく、共に成長するダンジョンでありたいと思っています。それは冒険者にとってもギルドにとっても喜ばしい事ではないでしょうか。」
「・・・話だけ聞けば非常にありがたい事です。しかし貴方の本音はいったいどこにあるのでしょうか。」
本音ねぇ。
そんなの一つしかないじゃないか。
「冒険者が来れば我が商店は儲かる、それだけですよ。」
冒険者が来れば絶対に商店で何か買い物をする。
もしくは宿を利用するか食事を取る。
さらに、途中に通過する村にお金を落とす可能性だってある。
人が動くという事は同時にお金が動くという事だ。
何の観光資産も特産品もない村と、領地の一番はしにある我が商店に人を呼ぶにはダンジョンしかない。
そのダンジョンを最大限利用し、人を呼び、お金を呼び込む。
ついでにダンジョンに人が来ればそれだけ早くダンジョンが成長できるというわけだ。
「貪欲な商人らしい考え方、というわけですか。」
「その通りです。それに、お金もかけずにそちらが商店とダンジョンを宣伝してくれるわけですから、これほどありがたい話は他にあると思いますか?」
「普通ならそれで信じたかもしれませんが、相手があのイナバシュウイチさんとなるとどうでしょうね。」
「世間で噂されているほど私はすごい人間ではないんですけど。」
「すごい人はみなそう言うんです。」
本当にすごくはないんだけどなぁ。
ただの他力本願100%男ですよ。
「そういう事にしておきましょう。」
「ありがとうございます。そうだ、ご紹介して頂くに当たってこちらとしては全面的に調査に協力させていただく用意がありますので、いつでもお越しください。」
「ご自身のダンジョンを丸裸にしてもいいんですか?」
「ダンジョンは日々成長していますので調査時の情報が全て正しくない事はそちらもご承知の事かと思います。ただダンジョンがどういうものか知らずに来るよりも、それなりに準備してからのほうが生還率は上がると思いませんか?」
「情報を流す事で冒険者を生還させ、何度も足を運ばせたいという事ですか。」
おぉ、そこまで分かるのか。
さすが冒険者ギルド一の切れ者といわれるだけあるな、話が早くて助かる。
「その通り、うちとしては何度も来ていただける方がありがたいですからね。それと、冒険者ギルドで紹介を受けたと分かる物をご提示いただければ宿代や販売の割引などの優遇も考えています。」
「そこまで冒険者を抱え込んでいったい何がしたいんです?」
「先ほども言いましたようにお金儲けですよ。それに、駆け出しの冒険者は優しくするようにと昔の人に教わりましてね。」
「貴方が何を考えているかはわかりませんが、まぁいいでしょう。冒険者ギルドは駆け出しの冒険者をシュリアン商店のダンジョンに優先的に紹介するようにお約束させて頂きます。もちろん、今回の件も踏まえてしっかりと教育して覚悟を持った『冒険者』を送り出す事をお約束します。」
「ギルド長の許可がなくても大丈夫ですか?」
いくらギルド長の補佐といえども、こんな大切な事を勝手に決めて大丈夫だろうか。
あとでやっぱり無理でしたは止めて頂きたいんだが。
「後は任せたと言いましたから。」
そう言ってティナさんがにやりと笑う。
なるほど、ギルド長への仕返しというわけか。
鬼の居ぬ間にってやつだな。
「それを聞いて安心しました。」
同じくにやりと笑う。
これで冒険者ギルドとの良好な関係も無事築く事ができたな。
「それではすぐに契約書を準備させましょう。商人は契約書が全て、そうでしたね。」
「仰る通りです。」
「私に任されている内に、してほしい事あります?」
いや別にこれといってないんだけど。
ティナさん的にはギルド長にめんどくさいことを押し付けてやろうと思っているんだろうな。
「でしたら売買証明書を一部いただけますでしょうか。」
「あら、貴女は。」
「スマート商店連合のエミリアです、その節はお世話になりました。」
「確かメルクリア様の所にいた・・・。そう、貴女が補佐にいるのなら安心してもよさそうね。」
なにその歴戦の勇士同士の友情みたいな関係。
二人にいったい何かあったのか教えてプリーズ!
「売買契約書でしたらすぐに準備できますけど、貴女方でしたら別に許可などなくても問題ないのでは?」
「使うのはナーフさんなんです。彼には薬草を卸して頂く約束をしているのですが、冒険者を辞めるとなるとどうしても別の資格が必要になるものですから。」
「なるほど、あれは冒険者を辞めても回収しないただの紙切れですから一枚ぐらい問題ないでしょう。」
つまりは冒険者を辞めた人間もその証明書を使っているというわけだな
悪用されないんだろうか。
「有難うございます。」
「ご紹介する仕事もそういう仕事がご希望ですか?」
「出来ればで大丈夫です、なんでもします!」
「ではここで少しお待ちください。」
そう言ってティナさんは立ち上がり部屋を出て行った。
やれやれ、これで一つ仕事が片付いた。
「こんなに簡単に冒険者ギルドとの紹介関係を結べるなんて思ってもいませんでした。」
「私もこんなに早く話を締結できると思っていませんでした。これもナーフさんのお陰ですね。」
「そんな、私は何もしていませんよ?」
「ナーフさんの一件があったからこそ冒険者ギルドは私達のような新参者のダンジョン商店の話を聞いてくれたんです。普通は門前払いだったでしょう。」
「この前の件で少しでもお役に立てたなら嬉しいです。」
少しどころかとても役に立っている。
やはりNEWナーフはすごいようだ。
「・・・私のときは半年はかかったのに。」
「ティナさんとお仕事をされたときですか?」
「そうです。ギルド長が自分の利益ばかり追い求めるせいでぜんぜん話がまとまらなくて大変だったんです。」
「今回はギルド長が居なかったからこそ、ですね。」
どこの世界にも居るんだよな。
口だけ出して話をややこしくするバカ上司。
口を開くたびに面倒ごとが起きて、いないときのほうがすんなり打ち合わせが進んだりする。
今回も横にギルド長が居たら駄目だったに違いない。
「御主人様次はいかがされますか?」
「次は武器屋によって催しに使う件の進捗状況を確認します。その後宿を取ってから魔術師ギルドに行きましょうか。」
「途中で昼食を取る事をお勧めします。」
「そうでした、後でおいしいご飯を食べましょう。」
魔術師ギルドに行けば後は大戦がまっている。
腹が減っては戦は出来ないからね。
「お待たせしました、此方が売買証明書になります。契約書のほうは明日の昼までに仕上げておきますのでお手数ですがまたお立ち寄りください。」
さすがにすぐに契約書は出来ないか。
「わかりました、後はお願いします。」
「私はここで仕事を紹介してもらいます。何かなら何までお世話になりました、ありがとうございました。」
「ナーフさんもお元気で。」
ナーフさんが出した手を硬く握り返す。
ここから先は彼の人生だ。
彼の人生に今度こそ幸多からん事を。
そして、俺のこの先に面倒なき事を・・・。
中央に大きな机が置かれ、人数分の椅子が置かれている。
おそらく会議室か何かだろう。
ホワイトボードのようなものはもちろん無い。
この大きな机の上に資料を広げるんだろうな。
そう考えるとホワイトボードって実はとてもすごい物だったんじゃないだろうか。
なんせ、書いた側から消せる。
どこにでも設置可能。
視認性抜群。
プロジェクターは無理でもホワイトボード的な何かはこの世界で作れたりしないかな。
俗に言う文化チートというやつか。
残念ながら工作力0の人間なので自前で発明するのは不可能だ。
今度貼り付けるタイプのボードでも頑張って作ってみようかな。
ほら、コルクボードみたいな奴。
あれも便利だよね。
っと、話を戻そう。
ユーリたちは部屋の外で待つように言ったのだが、特に問題ないそうなのでそのまま中に通された。
俺達はともかくナーフさんは入る必要なかったんじゃないだろうか。
まぁ、ある意味関係者見たいなものだし先方が何も言わないならいいか。
「どうぞそちらの椅子をお使いください。」
「有難うございます。」
勧められた椅子に俺とエミリアが座るも、ユーリとナーフさんが座らない。
「私は後ろにいるだけですので問題ありません。」
「私もこのままで大丈夫ですので。」
まぁ無理に座れというわけではないし本人が大丈夫ならいいか。
「遅れながら自己紹介させていただきます、冒険者ギルドのギルド長補佐をしておりますティナと申します。この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。」
そう言ってティナさんは深々と頭を下げる。
ショートカットというのだろうか。
それともボブカット?
耳にかかるぐらいの短いラベンダーのような深い紫の髪が顔を隠してしまう。
エミリアよりもちょっと背が低いぐらいか。
ヒューリンのようにも見えたが耳から察するにエルフィーだろう。
この人の責任ではないのにこういう場では頭を下げないといけない。
中間管理職って本当に大変だよね。
「今回は苦情を言いにきたわけではありませんのでどうぞ面を上げてください。先ほどもお話しましたように今回こちらにお邪魔いたしましたのは我がダンジョンを冒険者ギルドに紹介していただきました件に対するお礼と、今後のお互いの関係についてしっかり話し合うべきだと思いまして参上した次第です。」
「先ほどの件についてはお怒りではないという事でしょうか。」
顔を上げながら不思議そうな顔をするティナさん。
最初はクレームを入れに来たけどどうやら最初に思っていたのと事情が違うみたいだしね。
「冒険者の性質上人の生き死にというのは致し方ない部分があると私も思っております。ですので『普通』の冒険者がダンジョンに入ってくる事に関しては我々は拒みませんしむしろ歓迎いたします。それに今回の件に関してはそちらの些細な間違いが複数重なった結果起きてしまった不慮の事故だと思っておりますので、以後気をつけていただけるのであれば私としましては今回の件はなかった事にするつもりです。」
「確かに、今回の件は当ギルド内で複数の間違いが起こったことによる偶発的なものです。しかしそれによって後ろにおられますナーフさんの命を脅かす結果となってしまいました。それに関してもなかった事にするという事でしょうか。」
「起きてしまった事をなかった事にはできませんが、怪我はしたものの命を失う事はなかった。ナーフさん自身も今回の件で冒険者がどういうものか身をもって理解したようですし、ナーフさんがそちらを責めないのであれば私がとやかく言うつもりはありません。」
「私は別に冒険者ギルドの方々を責めるつもりはありません。むしろ職まで紹介していただけるという事で頭が上がらないくらいです。」
ナーフさんは今回の件でギルドを責めていない。
むしろいいきっかけになったと思ってくれている。
それなのにも拘わらず当事者ではない俺がギルドを責めるというのは些か筋違いという物だ。
「ナーフ様に関しては此方が責任を持って適切な職をご紹介させていただきます。」
「その件については全てお任せいたします、良い職を探してあげてください。」
「宜しくお願いします。」
先ほどは口約束みたいな物だったし、これで念書でも書いてもらえば問題ないだろう。
ではこっちの話に入ろうか。
「今回の件をふまえまして、当シュリアン商店としては次の二つをお願いしたくこちらに参りました。一つ目はこれからも当ダンジョンを多数の冒険者様に継続的にご紹介いただきたいという事。二つ目はご紹介して頂くにあたり、しっかりとした補助をお願いしたいという事です。」
冒険者ギルドに紹介してくれと正式に依頼した事はなかったが、これを機にうちのダンジョンを積極的に紹介してもらおうという事だ。
どこで情報を仕入れたのか知らないが、うちのダンジョンが低階層で初心者向けという情報がここにはある。
しかしその情報は不確定であり、非常に曖昧だ。
商人にも言えることだが、冒険者にとっても『情報』というのは非常に重要である。
魔物がどういう行動を取り、どのぐらい危険で、どうすれば倒せるのか。
それを知らずに戦うのはバカのすることだ。
ダンジョンにも同じ事が言える。
そのダンジョンにはどのような魔物がいて、どのような罠があって、どのように攻略していくべきか。
それを知らずに突っ込むのはナーフさんのように命を失う危険がある。
冒険者は体が資本だ。
出来るだけ危険を避け、万全の状態で冒険をしなければならない。
それに必要なのが『情報』というわけだな。
正しい情報を冒険者ギルドに提供し、正しい冒険者を紹介してもらう。
そうする事でお互いにリスクを減らしつつ良好な関係を気づく事ができるだろう。
普通は、うちを紹介してください!
という感じでダンジョン側が下手にでる必要があるのだが、今回はナーフさんの件もあり少々強気に交渉しても問題がない。
そういう意味でもナーフさんの一件はこちらとして非常にありがたい出来事だったとも言える。
ナーフさんの不幸に乗っかるのは些か申し訳ないが、冒険者ギルドとは一度話をしないといけないと思っていたし、今回は非常にいいタイミングで起きた事件だといえるだろう。
「こちらとしましても駆け出しの冒険者が修練を積むのに適したダンジョンというのはなかなかありませんので、ご紹介させていただけるのであれば非常に助かります。ですが、補助というのはどういうことでしょうか。」
「ナーフさんのように冒険の基礎もわからない方々は、一見すれば簡単そうな事でも失敗する危険が非常に高いと思います。冒険者の失敗は命の喪失に繋がります。冒険者ギルドにはそうならないようにしっかりと手を差しのべていただきたいのです。ダンジョンを紹介するに当たり最低限の知識や覚悟を新人に教育して頂きたいのです。」
「なるほど。最低限の知識を持った冒険者であれば歓迎するというわけですね。」
「今回ナーフさんを救出できたのは全くの偶然ですし、今後も救助できるとは限りません。今回は『一般人』がダンジョンに紛れ込んできたという解釈の元救助させて頂きました。その点冒険者であればそれなりの覚悟と責任を持ってダンジョンに挑んでおられますので、我々もそういうものだという考えでいられますから。」
一般人と冒険者は違う。
ダンジョンにはそれなりの覚悟を持った人間が入るべきなのだ。
ダンジョン商店の性質上、全ての冒険者を救助するわけには行かない。
俺が助けるのは冒険者ではない人間が入ってきたときのみだ。
おれ自身もそう割り切らなければならない。
なので、冒険者ギルドにはナーフさんのような人間が入ってこないようしっかりと教育をお願いしたい。
それが二つ目の本質だ。
どうやらティナさんにもそれは伝わったようだな。
「我がダンジョンはまだまだ低階層の実入りの少ないダンジョンです。駆け出しから卒業された冒険者の皆さんには物足りないとは思いますが、実績の少ない駆け出しの冒険者の皆さんには十分でしょう。下積みをしっかりすれば冒険者としての寿命は延び、冒険者が増えれば冒険者ギルドも潤う。我々はそのお手伝いが出来ればと思っているんです。」
「ダンジョン商店の方とは思えない発言ですね。」
「全ての商店が同じわけではありません。それぞれの店主がそれぞれの思惑でダンジョンを作り上げています。いずれ、共に育った冒険者が他の地で成長するように我がダンジョンも大きく発展するでしょう。私は冒険者を搾取するダンジョンではなく、共に成長するダンジョンでありたいと思っています。それは冒険者にとってもギルドにとっても喜ばしい事ではないでしょうか。」
「・・・話だけ聞けば非常にありがたい事です。しかし貴方の本音はいったいどこにあるのでしょうか。」
本音ねぇ。
そんなの一つしかないじゃないか。
「冒険者が来れば我が商店は儲かる、それだけですよ。」
冒険者が来れば絶対に商店で何か買い物をする。
もしくは宿を利用するか食事を取る。
さらに、途中に通過する村にお金を落とす可能性だってある。
人が動くという事は同時にお金が動くという事だ。
何の観光資産も特産品もない村と、領地の一番はしにある我が商店に人を呼ぶにはダンジョンしかない。
そのダンジョンを最大限利用し、人を呼び、お金を呼び込む。
ついでにダンジョンに人が来ればそれだけ早くダンジョンが成長できるというわけだ。
「貪欲な商人らしい考え方、というわけですか。」
「その通りです。それに、お金もかけずにそちらが商店とダンジョンを宣伝してくれるわけですから、これほどありがたい話は他にあると思いますか?」
「普通ならそれで信じたかもしれませんが、相手があのイナバシュウイチさんとなるとどうでしょうね。」
「世間で噂されているほど私はすごい人間ではないんですけど。」
「すごい人はみなそう言うんです。」
本当にすごくはないんだけどなぁ。
ただの他力本願100%男ですよ。
「そういう事にしておきましょう。」
「ありがとうございます。そうだ、ご紹介して頂くに当たってこちらとしては全面的に調査に協力させていただく用意がありますので、いつでもお越しください。」
「ご自身のダンジョンを丸裸にしてもいいんですか?」
「ダンジョンは日々成長していますので調査時の情報が全て正しくない事はそちらもご承知の事かと思います。ただダンジョンがどういうものか知らずに来るよりも、それなりに準備してからのほうが生還率は上がると思いませんか?」
「情報を流す事で冒険者を生還させ、何度も足を運ばせたいという事ですか。」
おぉ、そこまで分かるのか。
さすが冒険者ギルド一の切れ者といわれるだけあるな、話が早くて助かる。
「その通り、うちとしては何度も来ていただける方がありがたいですからね。それと、冒険者ギルドで紹介を受けたと分かる物をご提示いただければ宿代や販売の割引などの優遇も考えています。」
「そこまで冒険者を抱え込んでいったい何がしたいんです?」
「先ほども言いましたようにお金儲けですよ。それに、駆け出しの冒険者は優しくするようにと昔の人に教わりましてね。」
「貴方が何を考えているかはわかりませんが、まぁいいでしょう。冒険者ギルドは駆け出しの冒険者をシュリアン商店のダンジョンに優先的に紹介するようにお約束させて頂きます。もちろん、今回の件も踏まえてしっかりと教育して覚悟を持った『冒険者』を送り出す事をお約束します。」
「ギルド長の許可がなくても大丈夫ですか?」
いくらギルド長の補佐といえども、こんな大切な事を勝手に決めて大丈夫だろうか。
あとでやっぱり無理でしたは止めて頂きたいんだが。
「後は任せたと言いましたから。」
そう言ってティナさんがにやりと笑う。
なるほど、ギルド長への仕返しというわけか。
鬼の居ぬ間にってやつだな。
「それを聞いて安心しました。」
同じくにやりと笑う。
これで冒険者ギルドとの良好な関係も無事築く事ができたな。
「それではすぐに契約書を準備させましょう。商人は契約書が全て、そうでしたね。」
「仰る通りです。」
「私に任されている内に、してほしい事あります?」
いや別にこれといってないんだけど。
ティナさん的にはギルド長にめんどくさいことを押し付けてやろうと思っているんだろうな。
「でしたら売買証明書を一部いただけますでしょうか。」
「あら、貴女は。」
「スマート商店連合のエミリアです、その節はお世話になりました。」
「確かメルクリア様の所にいた・・・。そう、貴女が補佐にいるのなら安心してもよさそうね。」
なにその歴戦の勇士同士の友情みたいな関係。
二人にいったい何かあったのか教えてプリーズ!
「売買契約書でしたらすぐに準備できますけど、貴女方でしたら別に許可などなくても問題ないのでは?」
「使うのはナーフさんなんです。彼には薬草を卸して頂く約束をしているのですが、冒険者を辞めるとなるとどうしても別の資格が必要になるものですから。」
「なるほど、あれは冒険者を辞めても回収しないただの紙切れですから一枚ぐらい問題ないでしょう。」
つまりは冒険者を辞めた人間もその証明書を使っているというわけだな
悪用されないんだろうか。
「有難うございます。」
「ご紹介する仕事もそういう仕事がご希望ですか?」
「出来ればで大丈夫です、なんでもします!」
「ではここで少しお待ちください。」
そう言ってティナさんは立ち上がり部屋を出て行った。
やれやれ、これで一つ仕事が片付いた。
「こんなに簡単に冒険者ギルドとの紹介関係を結べるなんて思ってもいませんでした。」
「私もこんなに早く話を締結できると思っていませんでした。これもナーフさんのお陰ですね。」
「そんな、私は何もしていませんよ?」
「ナーフさんの一件があったからこそ冒険者ギルドは私達のような新参者のダンジョン商店の話を聞いてくれたんです。普通は門前払いだったでしょう。」
「この前の件で少しでもお役に立てたなら嬉しいです。」
少しどころかとても役に立っている。
やはりNEWナーフはすごいようだ。
「・・・私のときは半年はかかったのに。」
「ティナさんとお仕事をされたときですか?」
「そうです。ギルド長が自分の利益ばかり追い求めるせいでぜんぜん話がまとまらなくて大変だったんです。」
「今回はギルド長が居なかったからこそ、ですね。」
どこの世界にも居るんだよな。
口だけ出して話をややこしくするバカ上司。
口を開くたびに面倒ごとが起きて、いないときのほうがすんなり打ち合わせが進んだりする。
今回も横にギルド長が居たら駄目だったに違いない。
「御主人様次はいかがされますか?」
「次は武器屋によって催しに使う件の進捗状況を確認します。その後宿を取ってから魔術師ギルドに行きましょうか。」
「途中で昼食を取る事をお勧めします。」
「そうでした、後でおいしいご飯を食べましょう。」
魔術師ギルドに行けば後は大戦がまっている。
腹が減っては戦は出来ないからね。
「お待たせしました、此方が売買証明書になります。契約書のほうは明日の昼までに仕上げておきますのでお手数ですがまたお立ち寄りください。」
さすがにすぐに契約書は出来ないか。
「わかりました、後はお願いします。」
「私はここで仕事を紹介してもらいます。何かなら何までお世話になりました、ありがとうございました。」
「ナーフさんもお元気で。」
ナーフさんが出した手を硬く握り返す。
ここから先は彼の人生だ。
彼の人生に今度こそ幸多からん事を。
そして、俺のこの先に面倒なき事を・・・。
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大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
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