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第五章
冒険者ギルドの切れ者
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久しぶりのサンサトローズは相変わらずのすごい人だった。
皆活気にあふれ活き活きとした表情をしている。
そんな中死んだ魚のような目をしている男が一人。
そう、俺だ。
つい半刻前までは周りの人々のように活き活きとした目をしていたはずだが、策士エミリアの術中にはまり現在はこの後待ち受けるであろうイベントに精神を病んでいる状態だ。
ギルド長ならまだいいよ。
一度会ってるし。
でもさ、領主様ですよ。
偉い人ですよ。
いやまぁギルド長も十分偉いんですけど、あの性格だし。
ただの商人が領主様と謁見とか、何考えてるんですか。
でもいまさら嘆いたところで予定は変わらないし、ここは男らしく腹を括るしかないのか。
面倒な事になりませんように。
「見えてきましたあそこが冒険者ギルドです。」
街のほぼ中央、噴水から少し東通りにはいるとその建物はあった。
魔術師ギルドと違い、一見するとただの店のような佇まいだ。
イメージは西部劇に出てくる酒場のような感じかな。
入り口は開け放たれ冒険者と思われる物騒な装備を持った皆さんが出入りしている。
やはりここはファンタジー世界だ。
剣に槍に弓に杖に武器のオンパレード。
見た目もゴロツキから綺麗な魔術師まで多種多様な人が出入りしている。
ちなみに到着してすぐ騎士団詰所に顔を出したが、生憎シルビア様は所用で不在だった。
来た事だけ伝えておいたから問題ないだろう。
「では行きましょうか。」
「「「はい。」」」
そんなに声をそろえなくてもいいよ?
引率の先生じゃないんだからさ。
むしろ引率されてる身だから。
扉のようなものはなく開けっ放しの入り口から中へと入る。
中は商店連合と同じく天井のほうまで吹き抜けになっており開放感がある。
正面奥にカウンターがあり、壁には色々な掲示物。
右半分が飲食スペースで、左半分は作業スペースかな。
入り口から奥まで一本の道が出来ておりそれをしきりに左右で分かれている感じだな。
作業スペースでは武器の手入れをしている人や魔物の素材のような物を仕分けしている人も見える。
ここで解体はしてないとおもうけど、奥で買い取りでもしているのかな。
中に入ると一瞬全員の視線がこちらに向くが、その後何もなかったかのように戻った。
ごく数名エミリアとユーリを品定めするように見ている不貞の輩がいるが、ここは旦那の余裕でスルーする。
とりあえずカウンターに行けば分かるか。
そのまま真っ直ぐ奥まで進み、カウンターの奥にいた受付っぽい女性に声を掛ける。
「すみません、ギルドの責任者にお会いしたいんですが。」
「面会の許可は取られてますか?」
さすがに飛び込みで会ってくれるわけがないか。
魔術師ギルドのときはリュカさんがたまたま居たからすぐ面通しできたけど、普通は出来ないよな。
「すみません飛び込みなんです。」
「でしたらどのようなご用件でしょうか。」
「先日こちらで紹介された冒険者の方を保護いたしましたのでお連れした次第です。」
「保護・・・ですか。」
どこでの垂れ死んでいるかも分からない冒険者を保護して連れて来るなんて普通はありえないんだろうな。
「因みにその方は。」
「ナーフといいます、先日こちらでお借りした防具もお返しに参りました。」
「・・・ナーフさん!少々お待ちください!」
ナーフさんの名前を聞いた途端に受付嬢の表情が変わった。
驚いた顔をしたと思ったらすぐに踵を返し、カウンター裏のほうへ走り去ってしまう。
なんだなんだ、彼って意外に有名人なのか?
「最初にナーフさんの相手をされたのはあの女性でしたか?」
「いえ、もう少し背の低いホビルトの女性だったと思います。」
因みに先ほどの受付嬢はヒューリンだろう。
受付をするだけあって栗色の髪と大きな目が綺麗な女性だった。
「シュウイチさんはあんな女性が好みなんですか?」
その視線を鋭く察知したエミリアがおずおずと聞いてくる。
「私が好きなのは目の前にいるエルフィーの綺麗な女性ですよ。」
そう、エミリアです。
「御主人様、公共の場で仲良くするのは構いませんが周りの目もありますのでお控えください。」
怒られてしまった。
しばらくそこで待っていてもいっこうに中から受付嬢は戻ってこない。
なにかあったんだろうか。
「戻ってきませんね。」
「そうですね。」
カウンターを占拠するわけにも行かないので横にずれて壁にかかった掲示物を見ながら時間を潰す。
字は読めないが数字は読めるようになってきた。
魔物の絵の下に数字が書いてあるところから察すると手配書か何かだろうか。
魔物を倒すと幾らですって言うあれだな。
「これはなんていう魔物ですか?」
「ブラッディーウルフですね、グレーウルフのリーダーが稀にそう呼ばれます。人や他の魔物を集団で襲い、返り血で毛が赤くなるからそう呼ばれるそうです。この魔物はほかの地域で家畜や商人を襲っている指名手配中の魔物ですね、因みに金額は・・・。」
「えーっと銀貨で55枚ですか?」
「その通りです、大分読めるようになって来ましたねシュウイチさん。」
「数字だけですけどね。」
そろそろ文字の読み書きも覚えなければならないのだがここ最近忙しくてその時間も取れません。
まぁエミリアに頼りつつゆっくり覚えていこう。
「ですから、中級冒険者でも結構ですので救助に人を出したいといっているじゃありませんか!」
「くどいな。何度も言うようだが、たかが駆け出しの冒険者一人を救助するために他の冒険者を動かすなんて事はありえん。捜索願や懸賞金が出されているのであれば別だが、そもそも冒険者の生死は自己責任と昔から決まっていている。」
「それは冒険者の場合です。今回はギルドに登録もしていない駆け出し以前の一般人なんですよ!それを我がギルドの不始末で死なせるような事があれば誰が責任を取るっていうんですか!」
「そんなもの、ギルドに加盟したいと来た時点で立派な冒険者と同じではないか。ええぃ、そもそもこんなにややこしい話を作ったの誰なんだ!」
急に怒鳴り声を上げながら入ってきたのは巨漢の男と対照的に小柄な女性。
話から察するに誰かが遭難でもしたんだろうな。
しかもナーフさんのように駆け出しの冒険者がまた帰ってこなかったと。
意外にもこういうケースは多いんだろうか。
「受付嬢のカリーナさんです。調査前のダンジョンに無断で装備を貸し与えて送り出すなんていったい何を考えているんでしょうか。」
「まぁ、別に悪気があってやったことではないからなぁ。」
「そうやって甘やかしているから今回みたいな事が起こるんです!いい加減可愛さで贔屓するのは止めて頂けませんか。」
「別に私は可愛さで贔屓などしていないぞ。」
「そう思っているだけで他の部下たちから私のところにどれだけの苦情がきていると思っているのですか?」
こっちにもいるんだな、こういう上司。
自分のお気に入りだけ甘やかして他の部下には冷たかったり強く当たったりするようなうちのクソ上司みたいなやつ。
その下で中間管理職よろしく頑張って間を取り持ってい彼女に同情するよ。
頑張れ名も知らぬ女性よ。
クソ上司になんて負けないでくれ。
ひそかに応援しておこう。
「とりあえずこの問題はお前に一任する。ただし中級冒険者を動かすのは許さん、下級冒険者を格安の報酬で動かすのは許そう。」
「・・・わかりました。」
「私はこの後会合に行く、後は任せた。」
うわ、丸投げしやがった。
最低や。
上司はカウンターの上においてあった書類を持つと再び入ってきたドアから出て行ってしまった。
残された部下がその後ろを鬼の形相で見つめている。
爆発したいのに出来ないその心境、分かるなぁ。
誰に当たるわけにも行かず、自分の中で残り続ける怒りの炎。
だがそれを心にためすぎると心が病んでしまうわけで。
男が出て行った先を見つめていた彼女だが、
「何でもかんでも私に押し付けて自分はいい気に暇つぶし会合とか、三回死んで来い!」
そう言ってカウンターを思いっきり蹴り上げた。
盛大な音を立てて備え付けられていた椅子が吹き飛んでく。
大爆発ですな。
うむ、爆発したなら大丈夫か。
死んで来いが一回じゃなくて三回なのが恨みの深さを物語っている。
でも、それぐらいの方が精神を病まないからいいと思うよ。
室内にいた他の冒険者はまたかと言わんばかりの苦笑いでそれを見ているだけだ。
この光景が日常茶飯事だとしたら冒険者ギルドという組織にあまり良い印象は受けないなぁ。
「これが冒険者ギルドが癖のあるといっていた理由ですか。」
「ギルド長がずいぶんと適当な方で、なんでもかんでも彼女に押し付けてしまうんです。このギルドが回っているのも彼女のおかげなんですよ。」
「言い換えればその人以外の人では上手く回っていないわけですね。」
「冒険者ギルドは他の組織と違って元冒険者の方が役職につくことが多いので、どうしても事務関係の仕事が出来る人が限られてしまうみたいなんです。彼女は昔、傭兵団の補佐をしていたのでそれなりに仕事がこなせますが、彼女が来る前の冒険者ギルドとはもう仕事をしたくないですね・・・。」
よっぽど大変だったんだろう。
エミリアが遠い目をしている。
「あの方とはお知り合いなのですか?」
「冒険者ギルドとの打ち合わせで何度かお会いしたぐらいです。その時もギルド長の代理という事でお話させて頂きましたが、シュウイチさんのように頭のきれる話の良く分かる方でした。」
なるほど。
冒険者ギルドの頭脳というわけか。
そしてその頭脳を上手く使えない駄目上司と。
なんていうか才能の無駄遣いだよな。
「冒険者ギルドを辞めて他のお仕事をされても十分やっていけると思いますけど。」
「本人も転職を考えているそうですが、上がなかなか許してくれないそうで。」
「どの世界にも大変な人はいるんですね・・・。」
離職妨害とか立派な労基法違反なんですが、この世界に労働基準法は適用されないか。
「御主人様、早めに動きませんと後の予定が詰まっていますがどうされますか?」
そうだった。
彼女の不幸を哀れんでいる場合ではなかった。
こっちはこっちで思い出したくなかった案件も含めて予定がびっちり詰まっている。
話のわかる女性がいる事だし申し訳ないが、苦情を聞いてもらうとしようか。
「そうですね、話の分かる方のようですし申し訳ないですが彼女にお願いするとしましょう。」
蹴り上げた椅子をため息をつきつつ戻している彼女のところまで向かう。
「すみません、少しよろしいでしょうか。」
「用事は受付のほうにお願いします、私は今忙しいので。」
「先ほどお話を通させて頂いたところ、お待ちくださいと言われたまま戻ってこられませんものですから。」
「どいつもこいつも何やっているのよ!」
怒りのボルテージはまだ下がりきっていないようだ。
でも一般のお客さんの前でそういう態度はどうかと思うんだけどなぁ。
あ、お客じゃないか。
冒険者はギルドの構成員だし、役職が上になると必然的に部下みたいになる。
となるとこういう態度を取るのも仕方ないか。
仕方ないのか?
うむわからん。
「ちょっと人を呼んでくるからもう少しそこで待ってなさい。」
「わかりました。」
しかたない、もう少し待つか。
「冒険者にならなくて良かったかもしれません・・・。」
「こういう雰囲気はあまりお好きではないですか?」
「思ってみれば大きな魔物を退治したり素材を剥ぎ取ったりと苦手な事ばかりでして。」
そもそも冒険者に向いていないというわけか。
「それが分かっただけでも十分だと思います。」
人には得手不得手がある。
俺だってモン〇ンよろしく巨大魔獣と戦うとかごめん被りたい。
ファンタジーおなじみの剣と魔法の世界は見ているだけで十分だよ。
自分と回りの人間を守れるぐらいの強さがあればそれでいい。
と、中からドタバタと音を立てながら先ほどの女性が走って出てくる。
今度は何事ですか。
「ナーフさん、無事だったんですか!」
そう言って俺の手をつかんで上下に激しく降る。
違う、俺じゃない。
「いえ、私ではなくお隣がナーフさんです。」
「この際どっちでもいいわ、良かった本当に良かった。」
どっちでもいいんかい!
「お借りしておりました防具をお返しに参りました。申し訳ありません、こちらの鎧ですが随分と痛んでしまいまして。」
骸骨に袈裟懸けに切られた傷が生々しく残る防具をカウンターに乗せる。
「外套は使い物にならなくなってしまいましたので処分してしまいました。」
「そんなわざわざ防具まで返しに来ていただいて有難うございます。大きな怪我がなく本当に良かった。」
「それと、誠に申し訳ありませんが私には冒険者は向いていないみたいなので、今日は装備のお返しと一緒にお断りをさせていただきたくて来ました。」
「こちらこそ私共の不手際で危険な目にあわせてしまい本当に申し訳ありませんでした。通常であれば適性に合わせた育成や補助体制を準備しなければならないのに、それすらご提案する事ができませんでした。それも全て我が冒険者ギルドの責任です。」
やはり不手際だったか。
という事は最初に救助に行かなければならないと言っていたのはナーフさんみたいな人、ではなくナーフさんだったわけだな。
一応救助に行こうとしてくれたみたいだけど、それをあのギルド長は許さなかったと。
下級冒険者しか出さないって言ってたし、よっぽど経費をかけたくないタイプなんだろうか。
「私のほうこそ冒険者について詳しく聞いていればよかったのに、でもこうして戻ってこれましたので大丈夫です。あの、防具は弁償しなければならないでしょうか。」
「弁償なんてとんでもない!大丈夫ですよ。」
「よかった。手持ちがないので弁償しようにも時間をいただかないといけないと思いまして・・・。」
まぁ当然だ。
でもさっきのギルド長なら弁償しろとか言い出そうだ。
融通利きそうにないし。
「こんなに大きな傷まではいって、よく無事に戻ってこられましたね。」
「それに関してはこちらの方に命を助けて頂きました。」
そう言いながら横に立つ俺を紹介してくれる。
「貴方が!この度はこの方を助けて頂いて有難うございました。本当であれば何かお礼をしなければならないのですが・・・。」
「お礼は結構です。ただ、代わりといってはなんですがナーフさんに仕事を紹介していただけないでしょうか。」
「そんな事でよければ喜んでご紹介させていただきます。」
よし、これでナーフさんの次の職も安泰だな。
行き倒れの心配もないし、心置きなく次の用事に取り掛かれる。
と、言いたいところだが彼女には申し訳ないが第二のナーフさんを作り上げないためにもここでしっかりお互いの立場と今後のことについてしっかり話し合っておかなければならない。
彼女には申し訳ないがもう少しだけお付き合いいただこう。
「何から何まで有難うございます、イナバ様。」
「いえいえ、これから新しい人生が待っていますから頑張ってくださいね。」
「イナバ様・・・?」
「近くまでこられましたらまた我が商店にお立ち寄りください、セレンさんも喜ぶと思います。」
「はい、薬草をいっぱい集めて伺います!」
「我が商店・・・?」
ナーフさんとの感動の別れをしているつもりなんだが、先ほどから冒険者ギルドの彼女がおかしな反応をしている。
なんだろうか。
「あの、失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「申し遅れました、シュリアン商店で店主をしておりますイナバシュウイチと申します。こちらのギルドよりご紹介いただきましたダンジョンと商店の店主となりますどうぞお見知りおきを。」
「ナーフさんに紹介したあのダンジョンの!」
そんなに大声で驚かなくてもいいじゃないか。
でも相手が分かってくれたのなら好都合だ、さっさと俺の用件を伝えてしまおう。
「この度はご縁あってナーフさんをお助けする形となりましたが、今日こちらに参りましたのはダンジョンを紹介していただいたお礼と今後の再発防止に関してお願いに上がった次第です。少しお時間よろしいですか?」
最高の営業スマイルで用件を伝える。
途端に相手の表情が急に引き締まった顔になった。
仕事モードに切り替わったようだ。
「そういうことでしたらこちらへどうぞ。」
「失礼します。」
彼女の先導で冒険者ギルドの奥へと案内される。
見せてもらおうか、冒険者ギルド一の切れ者の実力とやらを!
連休初日の用事はまだまだ終わりそうにない。
皆活気にあふれ活き活きとした表情をしている。
そんな中死んだ魚のような目をしている男が一人。
そう、俺だ。
つい半刻前までは周りの人々のように活き活きとした目をしていたはずだが、策士エミリアの術中にはまり現在はこの後待ち受けるであろうイベントに精神を病んでいる状態だ。
ギルド長ならまだいいよ。
一度会ってるし。
でもさ、領主様ですよ。
偉い人ですよ。
いやまぁギルド長も十分偉いんですけど、あの性格だし。
ただの商人が領主様と謁見とか、何考えてるんですか。
でもいまさら嘆いたところで予定は変わらないし、ここは男らしく腹を括るしかないのか。
面倒な事になりませんように。
「見えてきましたあそこが冒険者ギルドです。」
街のほぼ中央、噴水から少し東通りにはいるとその建物はあった。
魔術師ギルドと違い、一見するとただの店のような佇まいだ。
イメージは西部劇に出てくる酒場のような感じかな。
入り口は開け放たれ冒険者と思われる物騒な装備を持った皆さんが出入りしている。
やはりここはファンタジー世界だ。
剣に槍に弓に杖に武器のオンパレード。
見た目もゴロツキから綺麗な魔術師まで多種多様な人が出入りしている。
ちなみに到着してすぐ騎士団詰所に顔を出したが、生憎シルビア様は所用で不在だった。
来た事だけ伝えておいたから問題ないだろう。
「では行きましょうか。」
「「「はい。」」」
そんなに声をそろえなくてもいいよ?
引率の先生じゃないんだからさ。
むしろ引率されてる身だから。
扉のようなものはなく開けっ放しの入り口から中へと入る。
中は商店連合と同じく天井のほうまで吹き抜けになっており開放感がある。
正面奥にカウンターがあり、壁には色々な掲示物。
右半分が飲食スペースで、左半分は作業スペースかな。
入り口から奥まで一本の道が出来ておりそれをしきりに左右で分かれている感じだな。
作業スペースでは武器の手入れをしている人や魔物の素材のような物を仕分けしている人も見える。
ここで解体はしてないとおもうけど、奥で買い取りでもしているのかな。
中に入ると一瞬全員の視線がこちらに向くが、その後何もなかったかのように戻った。
ごく数名エミリアとユーリを品定めするように見ている不貞の輩がいるが、ここは旦那の余裕でスルーする。
とりあえずカウンターに行けば分かるか。
そのまま真っ直ぐ奥まで進み、カウンターの奥にいた受付っぽい女性に声を掛ける。
「すみません、ギルドの責任者にお会いしたいんですが。」
「面会の許可は取られてますか?」
さすがに飛び込みで会ってくれるわけがないか。
魔術師ギルドのときはリュカさんがたまたま居たからすぐ面通しできたけど、普通は出来ないよな。
「すみません飛び込みなんです。」
「でしたらどのようなご用件でしょうか。」
「先日こちらで紹介された冒険者の方を保護いたしましたのでお連れした次第です。」
「保護・・・ですか。」
どこでの垂れ死んでいるかも分からない冒険者を保護して連れて来るなんて普通はありえないんだろうな。
「因みにその方は。」
「ナーフといいます、先日こちらでお借りした防具もお返しに参りました。」
「・・・ナーフさん!少々お待ちください!」
ナーフさんの名前を聞いた途端に受付嬢の表情が変わった。
驚いた顔をしたと思ったらすぐに踵を返し、カウンター裏のほうへ走り去ってしまう。
なんだなんだ、彼って意外に有名人なのか?
「最初にナーフさんの相手をされたのはあの女性でしたか?」
「いえ、もう少し背の低いホビルトの女性だったと思います。」
因みに先ほどの受付嬢はヒューリンだろう。
受付をするだけあって栗色の髪と大きな目が綺麗な女性だった。
「シュウイチさんはあんな女性が好みなんですか?」
その視線を鋭く察知したエミリアがおずおずと聞いてくる。
「私が好きなのは目の前にいるエルフィーの綺麗な女性ですよ。」
そう、エミリアです。
「御主人様、公共の場で仲良くするのは構いませんが周りの目もありますのでお控えください。」
怒られてしまった。
しばらくそこで待っていてもいっこうに中から受付嬢は戻ってこない。
なにかあったんだろうか。
「戻ってきませんね。」
「そうですね。」
カウンターを占拠するわけにも行かないので横にずれて壁にかかった掲示物を見ながら時間を潰す。
字は読めないが数字は読めるようになってきた。
魔物の絵の下に数字が書いてあるところから察すると手配書か何かだろうか。
魔物を倒すと幾らですって言うあれだな。
「これはなんていう魔物ですか?」
「ブラッディーウルフですね、グレーウルフのリーダーが稀にそう呼ばれます。人や他の魔物を集団で襲い、返り血で毛が赤くなるからそう呼ばれるそうです。この魔物はほかの地域で家畜や商人を襲っている指名手配中の魔物ですね、因みに金額は・・・。」
「えーっと銀貨で55枚ですか?」
「その通りです、大分読めるようになって来ましたねシュウイチさん。」
「数字だけですけどね。」
そろそろ文字の読み書きも覚えなければならないのだがここ最近忙しくてその時間も取れません。
まぁエミリアに頼りつつゆっくり覚えていこう。
「ですから、中級冒険者でも結構ですので救助に人を出したいといっているじゃありませんか!」
「くどいな。何度も言うようだが、たかが駆け出しの冒険者一人を救助するために他の冒険者を動かすなんて事はありえん。捜索願や懸賞金が出されているのであれば別だが、そもそも冒険者の生死は自己責任と昔から決まっていている。」
「それは冒険者の場合です。今回はギルドに登録もしていない駆け出し以前の一般人なんですよ!それを我がギルドの不始末で死なせるような事があれば誰が責任を取るっていうんですか!」
「そんなもの、ギルドに加盟したいと来た時点で立派な冒険者と同じではないか。ええぃ、そもそもこんなにややこしい話を作ったの誰なんだ!」
急に怒鳴り声を上げながら入ってきたのは巨漢の男と対照的に小柄な女性。
話から察するに誰かが遭難でもしたんだろうな。
しかもナーフさんのように駆け出しの冒険者がまた帰ってこなかったと。
意外にもこういうケースは多いんだろうか。
「受付嬢のカリーナさんです。調査前のダンジョンに無断で装備を貸し与えて送り出すなんていったい何を考えているんでしょうか。」
「まぁ、別に悪気があってやったことではないからなぁ。」
「そうやって甘やかしているから今回みたいな事が起こるんです!いい加減可愛さで贔屓するのは止めて頂けませんか。」
「別に私は可愛さで贔屓などしていないぞ。」
「そう思っているだけで他の部下たちから私のところにどれだけの苦情がきていると思っているのですか?」
こっちにもいるんだな、こういう上司。
自分のお気に入りだけ甘やかして他の部下には冷たかったり強く当たったりするようなうちのクソ上司みたいなやつ。
その下で中間管理職よろしく頑張って間を取り持ってい彼女に同情するよ。
頑張れ名も知らぬ女性よ。
クソ上司になんて負けないでくれ。
ひそかに応援しておこう。
「とりあえずこの問題はお前に一任する。ただし中級冒険者を動かすのは許さん、下級冒険者を格安の報酬で動かすのは許そう。」
「・・・わかりました。」
「私はこの後会合に行く、後は任せた。」
うわ、丸投げしやがった。
最低や。
上司はカウンターの上においてあった書類を持つと再び入ってきたドアから出て行ってしまった。
残された部下がその後ろを鬼の形相で見つめている。
爆発したいのに出来ないその心境、分かるなぁ。
誰に当たるわけにも行かず、自分の中で残り続ける怒りの炎。
だがそれを心にためすぎると心が病んでしまうわけで。
男が出て行った先を見つめていた彼女だが、
「何でもかんでも私に押し付けて自分はいい気に暇つぶし会合とか、三回死んで来い!」
そう言ってカウンターを思いっきり蹴り上げた。
盛大な音を立てて備え付けられていた椅子が吹き飛んでく。
大爆発ですな。
うむ、爆発したなら大丈夫か。
死んで来いが一回じゃなくて三回なのが恨みの深さを物語っている。
でも、それぐらいの方が精神を病まないからいいと思うよ。
室内にいた他の冒険者はまたかと言わんばかりの苦笑いでそれを見ているだけだ。
この光景が日常茶飯事だとしたら冒険者ギルドという組織にあまり良い印象は受けないなぁ。
「これが冒険者ギルドが癖のあるといっていた理由ですか。」
「ギルド長がずいぶんと適当な方で、なんでもかんでも彼女に押し付けてしまうんです。このギルドが回っているのも彼女のおかげなんですよ。」
「言い換えればその人以外の人では上手く回っていないわけですね。」
「冒険者ギルドは他の組織と違って元冒険者の方が役職につくことが多いので、どうしても事務関係の仕事が出来る人が限られてしまうみたいなんです。彼女は昔、傭兵団の補佐をしていたのでそれなりに仕事がこなせますが、彼女が来る前の冒険者ギルドとはもう仕事をしたくないですね・・・。」
よっぽど大変だったんだろう。
エミリアが遠い目をしている。
「あの方とはお知り合いなのですか?」
「冒険者ギルドとの打ち合わせで何度かお会いしたぐらいです。その時もギルド長の代理という事でお話させて頂きましたが、シュウイチさんのように頭のきれる話の良く分かる方でした。」
なるほど。
冒険者ギルドの頭脳というわけか。
そしてその頭脳を上手く使えない駄目上司と。
なんていうか才能の無駄遣いだよな。
「冒険者ギルドを辞めて他のお仕事をされても十分やっていけると思いますけど。」
「本人も転職を考えているそうですが、上がなかなか許してくれないそうで。」
「どの世界にも大変な人はいるんですね・・・。」
離職妨害とか立派な労基法違反なんですが、この世界に労働基準法は適用されないか。
「御主人様、早めに動きませんと後の予定が詰まっていますがどうされますか?」
そうだった。
彼女の不幸を哀れんでいる場合ではなかった。
こっちはこっちで思い出したくなかった案件も含めて予定がびっちり詰まっている。
話のわかる女性がいる事だし申し訳ないが、苦情を聞いてもらうとしようか。
「そうですね、話の分かる方のようですし申し訳ないですが彼女にお願いするとしましょう。」
蹴り上げた椅子をため息をつきつつ戻している彼女のところまで向かう。
「すみません、少しよろしいでしょうか。」
「用事は受付のほうにお願いします、私は今忙しいので。」
「先ほどお話を通させて頂いたところ、お待ちくださいと言われたまま戻ってこられませんものですから。」
「どいつもこいつも何やっているのよ!」
怒りのボルテージはまだ下がりきっていないようだ。
でも一般のお客さんの前でそういう態度はどうかと思うんだけどなぁ。
あ、お客じゃないか。
冒険者はギルドの構成員だし、役職が上になると必然的に部下みたいになる。
となるとこういう態度を取るのも仕方ないか。
仕方ないのか?
うむわからん。
「ちょっと人を呼んでくるからもう少しそこで待ってなさい。」
「わかりました。」
しかたない、もう少し待つか。
「冒険者にならなくて良かったかもしれません・・・。」
「こういう雰囲気はあまりお好きではないですか?」
「思ってみれば大きな魔物を退治したり素材を剥ぎ取ったりと苦手な事ばかりでして。」
そもそも冒険者に向いていないというわけか。
「それが分かっただけでも十分だと思います。」
人には得手不得手がある。
俺だってモン〇ンよろしく巨大魔獣と戦うとかごめん被りたい。
ファンタジーおなじみの剣と魔法の世界は見ているだけで十分だよ。
自分と回りの人間を守れるぐらいの強さがあればそれでいい。
と、中からドタバタと音を立てながら先ほどの女性が走って出てくる。
今度は何事ですか。
「ナーフさん、無事だったんですか!」
そう言って俺の手をつかんで上下に激しく降る。
違う、俺じゃない。
「いえ、私ではなくお隣がナーフさんです。」
「この際どっちでもいいわ、良かった本当に良かった。」
どっちでもいいんかい!
「お借りしておりました防具をお返しに参りました。申し訳ありません、こちらの鎧ですが随分と痛んでしまいまして。」
骸骨に袈裟懸けに切られた傷が生々しく残る防具をカウンターに乗せる。
「外套は使い物にならなくなってしまいましたので処分してしまいました。」
「そんなわざわざ防具まで返しに来ていただいて有難うございます。大きな怪我がなく本当に良かった。」
「それと、誠に申し訳ありませんが私には冒険者は向いていないみたいなので、今日は装備のお返しと一緒にお断りをさせていただきたくて来ました。」
「こちらこそ私共の不手際で危険な目にあわせてしまい本当に申し訳ありませんでした。通常であれば適性に合わせた育成や補助体制を準備しなければならないのに、それすらご提案する事ができませんでした。それも全て我が冒険者ギルドの責任です。」
やはり不手際だったか。
という事は最初に救助に行かなければならないと言っていたのはナーフさんみたいな人、ではなくナーフさんだったわけだな。
一応救助に行こうとしてくれたみたいだけど、それをあのギルド長は許さなかったと。
下級冒険者しか出さないって言ってたし、よっぽど経費をかけたくないタイプなんだろうか。
「私のほうこそ冒険者について詳しく聞いていればよかったのに、でもこうして戻ってこれましたので大丈夫です。あの、防具は弁償しなければならないでしょうか。」
「弁償なんてとんでもない!大丈夫ですよ。」
「よかった。手持ちがないので弁償しようにも時間をいただかないといけないと思いまして・・・。」
まぁ当然だ。
でもさっきのギルド長なら弁償しろとか言い出そうだ。
融通利きそうにないし。
「こんなに大きな傷まではいって、よく無事に戻ってこられましたね。」
「それに関してはこちらの方に命を助けて頂きました。」
そう言いながら横に立つ俺を紹介してくれる。
「貴方が!この度はこの方を助けて頂いて有難うございました。本当であれば何かお礼をしなければならないのですが・・・。」
「お礼は結構です。ただ、代わりといってはなんですがナーフさんに仕事を紹介していただけないでしょうか。」
「そんな事でよければ喜んでご紹介させていただきます。」
よし、これでナーフさんの次の職も安泰だな。
行き倒れの心配もないし、心置きなく次の用事に取り掛かれる。
と、言いたいところだが彼女には申し訳ないが第二のナーフさんを作り上げないためにもここでしっかりお互いの立場と今後のことについてしっかり話し合っておかなければならない。
彼女には申し訳ないがもう少しだけお付き合いいただこう。
「何から何まで有難うございます、イナバ様。」
「いえいえ、これから新しい人生が待っていますから頑張ってくださいね。」
「イナバ様・・・?」
「近くまでこられましたらまた我が商店にお立ち寄りください、セレンさんも喜ぶと思います。」
「はい、薬草をいっぱい集めて伺います!」
「我が商店・・・?」
ナーフさんとの感動の別れをしているつもりなんだが、先ほどから冒険者ギルドの彼女がおかしな反応をしている。
なんだろうか。
「あの、失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「申し遅れました、シュリアン商店で店主をしておりますイナバシュウイチと申します。こちらのギルドよりご紹介いただきましたダンジョンと商店の店主となりますどうぞお見知りおきを。」
「ナーフさんに紹介したあのダンジョンの!」
そんなに大声で驚かなくてもいいじゃないか。
でも相手が分かってくれたのなら好都合だ、さっさと俺の用件を伝えてしまおう。
「この度はご縁あってナーフさんをお助けする形となりましたが、今日こちらに参りましたのはダンジョンを紹介していただいたお礼と今後の再発防止に関してお願いに上がった次第です。少しお時間よろしいですか?」
最高の営業スマイルで用件を伝える。
途端に相手の表情が急に引き締まった顔になった。
仕事モードに切り替わったようだ。
「そういうことでしたらこちらへどうぞ。」
「失礼します。」
彼女の先導で冒険者ギルドの奥へと案内される。
見せてもらおうか、冒険者ギルド一の切れ者の実力とやらを!
連休初日の用事はまだまだ終わりそうにない。
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「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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