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第四章

新しい朝がやってくる

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 その後自らが仕掛けた罠から引っ張り出してもらい、痛む体を何とか動かして博士を迎えにいく。

 シルビア様には休むように言われたが博士を不安にさせたままにはしておけない。

 最下層に向かうと博士が俺の顔を見るなりへたり込んでしまった。

 お互い戦ったわけでもないのにボロボロなのがおかしくてその場で声を出して笑ってしまう。

 とりあえず無事だ。

 怪我はしているが大事ではない。

 今回も無事に生き残ることが出来た。

 もう十分です。

 これからは平穏無事に生きていきたい。

 真っ当な商売だけしようと誓うのだった。

 けどこれって前にも誓った気がするんだよね。

 ちなみにガルスを含めチンピラ9人は騎士団に全員捕縛され、サンサトローズへ連行されることになった。

 罪状は俺と博士に対する脅迫。

 だが秘密裏に魔石横流しの件についても追及されるだろう。

 この件については表沙汰にはできないが、こいつらを発端として全容解明に少しでも近づく事を期待している。

 後は騎士団と魔術師ギルドに任せよう。

 俺はここでお役ごめんだ。

 シルビア、ミド博士と共に地上へ戻ると不安そうな顔で待っていたエミリアの顔がパッと明るくなった。

 が、傷だらけの体を見て直ぐに怒ったような顔をする。

「ただいま戻りました。」

「もう、また危ないことをしたんですね。」

「少し無茶をしただけですよ。」

「少しなものか。後少し遅かったら今頃首と胴が離れ離れになるところだったんだぞ!」

「ですがシルビアはちゃんと来てくれたじゃありませんか。」

「確かに間に合いはしたが、今後は一人で危ないことをするのは禁止させて貰うからな。」

 それは困るなぁ。

 エミリアとシルビアを危険な目に合わせることになるわけだし。

 でもそういう危険な事しなければいいのか。

 当分大人しくしておこう。

「御主人様ご無事で何よりです。」

「ユーリも連絡有難う。罠もちゃんと作動しましたし、これも全てダンジョンをしっかり管理してくれたユーリのお陰です。」

「何を仰いますか、罠を考えたのは御主人様です。まさか自分の罠を利用されるとは思いもしませんでした。」

「あれはとっさのことでしたから。でもまぁ何とかなってよかった。」

 罠が発動しなければ今頃この場所には立っていられない。

 もしあの罠が少しでも浅かったら。

 もしあのタイミングで足元に罠がなかったら。

 悪いほうにどんどん考えることは出来るけど、結果としてはこうやって生きているわけだからまぁいいか。

 奴らは捕縛できたし、博士は無事だし、それでいいじゃないか。

「エミリア、ギルド長には先に捕縛成功の旨を伝えておいてください。騎士団が連行した後どういう風に取調べを行うかはそちらにお任せしますと。」

「分かりました。」

「シルビアは奴等をサンサトローズまでお願いします。」

「責任を持って連行しよう。」

「横流し組織がなにか手を出してくる可能性もゼロではありません、くれぐれも気をつけてください。」

 組織からしたらこいつらは爪の先のゴミみたいなものだ。

 切り捨ててしまえば自分たちには何の被害も無い。

 ただ、そいつらが持っている情報は別だ。

 奴らが情報を漏らすことによって組織の機密が流出する。

 そうなるとこれまで隠し通してきた組織の全容が世間に明るみになってしまう。

 それだけはなんとしてでも阻止しに来るだろう。

 ではどうするのか。

 簡単なのはこいつらを全員殺してしまうことだ。

 死人に口なし。

 殺してしまえば情報は闇の中に葬られ、組織は再び地下へと潜っていくだろう。

 横流しが行われていた事実だけは公表されるが、それを誰がどうやって行っていたかはわからないままとなる。

 そうさせないためにも、彼らには生きて情報を吐き出して貰わなければならない。

 特に、ガルスには。

「なんだ相変わらずボロボロだな。」

「おかげさまで、貴方の時に命を賭ける様な事はしないと誓ったはずなんですがどうしてこうなるんでしょうね。」

 エミリア達と一緒にウェリスまで出迎えてくれるとは思っていなかった。

 いやまてよ、ただセレンさんと話をしていただけかもしれない。

 俺が大変な目にあっているのに乳繰り合っているとはいい度胸だ。

 いいだろう、表に出ろ!

 ってもう表です、はいすみません。

「そういう星の下に生まれているんじゃないのか?」

「それは勘弁願いたいものです。」

 それかウェリスが関わると命がいくつあっても足りないとか。

 なんてことはないか。

「捕縛が完了したという事は俺達はもうお役ごめんだな。」

「部下の皆さんにもお手数をおかけしましたとお伝えください。」

「まだ陽も高いし村長に報告したらもう一働きしてくるさ。」

 まだ働くのか。

 俺はもうゆっくり休みたいよ。

「でしたら先ほど作ったパイがありますので皆さんで食べてください。」

「それはありがたい。昼飯も食べずに巡回していたから奴らも喜びますよ。」

 なんだよもう、早く付き合えよお二人さん。

「まぁ今日はしっかり休めよ。」

「そうさせて貰いますよ。」

「では私も戻るとしよう、シュウイチが言うように何が起こるかわからんからな。」

「またサンサトローズにいくときは一度騎士団にたちよりますね、それまでニケさんを宜しくお願いします。」

 そう、奴等を騎士団に差し出して終わりではない。

 今回の戦いはニケさんを救い出すための戦いでもあるのだ。

 店のほうがあるからすぐに行くわけにはいかないけれど、奴らからせしめたお金もあるし資金が準備出来次第彼女を買受にいかなければならない。

 あとは残された魔石をどうするかだけど。

 どうしたもんかな。

「博士はどうしますか、シルビアと一緒に戻りますか?」

「今日はもう疲れたから戻るのは明日にするよ。フェリス様に迎えをよこすように伝えて貰えるかい?」

「先ほどの件と一緒にお伝えしておきますね。」

「では今日はうちの宿をお使いください。セレンさんが腕によりをかけて美味しい料理を作ってくださいますから。」

「こんな素敵な女性に食事を作ってもらえるなんて光栄だな。」

 おいおい、そんな事言っていいのか?

 イラーナ助手に言いつけちゃうぞ。

「ではシュウイチ今日はご苦労だった。」

「シルビアも遠いところから有難うございました。くれぐれも気をつけて。」

 ウェリスとシルビア様を見送りこれにてほんじつの業務は終了だ。

 っと言いたいところだけどまだ商店は開いているし、罠の回収もしなければならない。

 いつ初めての冒険者が来るか分からないが、万全の状態で準備をしなければダンジョン商店の名が恥じるという物だ。

「さて、エミリアが報告をしてくれている間にダンジョンの後片付けをしてしまいますか。ユーリ、もう少しだけお付き合いください。」

「お任せください、御主人様はゆっくり座って指示を出してくだされば大丈夫です。」

「是非そうさせて貰うよ。」

「では私はミド博士をお部屋までご案内しますね。」

「なんでしたら部屋の中まででも構いませんよ。」

 なにナンパしてるんだよ。

 セレンさんが苦笑いしてるじゃないか。

 彼女には心に決めた人が居るし、貴方にもイラーナ助手が居るでしょうが。

 まったく油断も隙もありゃしない。

 でもこうやってふざけたことが出来るのも無事に戻ってこれたからなんだよな。

 よかった。

 こうやってみんなの顔を見ることが出来て。

 本当に良かった。

「さぁさっさと終わらせて今日はゆっくりと休みましょうか。」

 今日は聖日だ。

 早めに店を閉めても怒られることはないだろう。

 今日ぐらいは許されていいはずだ。

 客が来るかどうかはわからないなんてことは言わない約束だよ。


 そして陽は木々の向こう側へと沈み辺りは闇に覆われ始めた。

 黄昏時。

 誰れそ彼時という読みから来たという説もある。

 薄暗くなり今まで見えたものが見えなくなる不思議な時間。

 目の中の昼と夜の細胞が入れ替わる瞬間。

 その瞬間には普段見えない物が見えるらしい。

 それは幽霊であったり精霊であったりはたまた妖怪であったりとバリエーションは豊富だ。

 ちなみに俺の前にいるのはというと、精霊の方だった。

「シュウちゃんだいぶ痛そうな怪我してるけど治してあげようか?」

「私、治せるよ?」

「そんなに大きな怪我でもないし二人の手を煩わせるほどじゃないよ。でも心配してくれてありがとう。」

 なぜ精霊の2人がいるのかって?

 それはこの二人に聞いてくれ。

 日が暮れて店じまいをしようと思って外に出たら二人がひょっこりやってきたのだ。

 呼んだ覚えもないし、特に迷惑かけるようなことはしてないと思うんだけど。

 はて、なんだろう。

「今日は二人そろってどうしたの?」

「今日はね、シュウちゃんにお願いがあってきたんだ。」

「お願い、あるの。聞いてくれる?」

 精霊のお願い再びですか・・・。

 今度はいったいどんなことをお願いされるのやら。

 今日は大変な一日だったから平穏無事に終わりたいんだけどなーなんて。

「私にできる事であれば遠慮なくどうぞ。」

「やったぁ!さすがシュウちゃんだね!」

「シュウちゃん優しいから大好き、結婚する?」

 どこでそんな言葉覚えて来るの!

 しませんよ。

 結婚しませんよ。

「それで、どうすればいいのかな?」

 結婚に関してはあえてスルーだ。

 触れてはいけない。

「うんとね、シュウちゃんの所に魔力の詰まった石がいっぱいあると思うんだけどそれを分けてほしいんだ。」

「私達ね、その石がほしいの。」

「魔力の詰まった石・・・あぁ魔石ですね。」

 奴らが持ってきたあの大量の魔石の事を言っているんだろう。

 でも魔力の結晶を作り出せる精霊様がなんでわざわざ魔石なんか欲するんだろう。

「それそれ!さすがシュウちゃん相思相愛だね!」

「ドリちゃん、それを言うなら以心伝心だよ。」

 なんで四文字熟語なんて知ってるのかなぁ、お兄さんわかんないや。

「どのぐらい必要なのかな?」

「えっとね、全部!」

 全部!?

 そりゃまた大量だな。

 出来ればこれは換金してニケさんを買い受ける資金にするつもりだったんだけど、何か特別な事情があるのかな。

 相手が精霊様だけに無碍にはできないし。

「魔石を譲るのは構わないけど、理由を聞いてもいい?」

「シュウちゃんにだけ、特別だよ?」

「うんとね、森の奥の聖域にケガをした子がいるんだけどその子を助けるためにどうしても大量の魔力が必要なんだ。ディーちゃんの備蓄していた魔力の結晶じゃ足りないし、この森にはあまり魔力溜まりがないからどうしようかと思ってたんだけど、今日シュウちゃんの所にいっぱい魔力の詰まった石が来たからもらえないかなーって思ってきたんだ。」

 ふむ。

 誰がケガをしたかはあえて聞かない方がいいのかもしれない。

 この二人がここに来ること自体が珍しいことだし、よほど緊急の用件なのだろう。

 絶対に譲れないわけじゃないし今のままじゃどうせ換金する手段もない。

 ここは渡すべきだろうな。

「あ、もちろん御礼はするよ!」

「シュウちゃんが何に喜ぶかわからないけど、譲ってくれる?」

「二人が来るってことはよっぽど大変な状況なんだろうね、いいよすぐ持ってくるね。」

「ほんとに!?」

「シュウちゃん、本当にありがとう。」

 とりあえずエミリア達に事情を説明して持ってくるとしよう。

 あーでもあの木箱を二人で運べるのかな。

 まぁ何とかなるだろう。

「ちょっとまっててね。」

 一度商店に戻りエミリアを探す。

 えーっと、いたいた。

「エミリアちょっといいですか?」

「どうしましたシュウイチさん。何か話声が聞こえていきましたけど。」

「外にドリアルドとウンディーヌが来ているんですが、なんでも今日奴らが持ってきた魔石がどうしても欲しいんだそうです。」

「精霊様がですか?」

「うん。とても大事なことに使うみたいなので譲ろうと思うのですが良いでしょうか。」

「精霊様のお願いでしたら断る理由はないと思います。シュウイチさんにお願いするという事はよほど大変な事なのでしょう。」

 エミリアならそう言ってくれると思っていた。

 ありがとう。

「じゃあちょっと取ってくるね。」

「ですがあの量を運ぶのは大変だと思うのですが。」

「それでしたらこの子をお使いください。」

 どこから来たのユーリ。

 っていうかどこから聞いてたの。

「私はずっとリア奥様のそばにおりましたが、お気づきになりませんでしたか?」

「ごめん、気づかなかった。」

「もうユーリがかわいそうじゃないですか。」

 なんで怒られているんだろう。

 って今はそこじゃなくてですね。

 この子と言われてユーリが連れてきたのはこの前の黒いスライムだった。

 そうか、こいつならどんなに重いモノでも運べるな。

 でもウンディーヌは怖がらないだろうか。

「確かにこの子ならうってつけですね。」

「家の倉庫に運ぶつもりでしたのでこの子の中に魔石が入っています。前回の魔石はまだ家にありますが取ってきましょうか?」

「とりあえずこれだけ持って行って、足りないようでしたらもう一度取りに来ます。」

 わからなければ聞いてみたらいい。

 黒いスライムを連れて外で待っている二人の所へ向かう。

「おかえりシュウちゃん。」

「お待たせしました。取り敢えずこれだけあるけど足りるかな?」

 スライムにお願いして格納してあった木箱二つ分の魔石を取り出す。

 それを見た二人の顔が一気に輝いた。

「これだけあれば十分だよ!」

「これで、あの子も助かるね、ディーちゃん。」

「うん!」

 とりあえず足りるようだ。

 家のある魔石は横流しの証拠品として置いておきたかったので、足りないと言われずホッとした。

「では運搬にはこの子を使ってね。」

「よろしくね、黒ちゃん。」

「おねがいします。」

 黒ちゃんか。

 まぁ見た目真っ黒だし。

 それに、ウンディーヌはもう怖くないようだな。

 心なしかスライムもうれしそうだ。

 見た目全く変わらないけど。

「御礼はどうしよう。」

「別にかまわないよ、何に使うか決めていなかったから。」

「それはダメ、ちゃんと御礼はするの。」

「そうだよ。お願いを叶えてくれたんだからそれなりの見返りがないとだめなんだよ。」

 等価交換の法則でもあるのだろうか。

 この前のお願いでは精霊の祝福という御礼をいただいたわけだが、今回はどうしよう。

「でも急に言われてもすぐに出てこないよ。」

「じゃあ、これをあげる!」

 そう言ってドリアルドが差し出したのは、先日二人からもらったお守り、のちょっといびつな奴だった。

「これはこの前のお守りかな?」

「お守りにするつもりだったけど失敗しちゃったやつ。でもディーちゃんと頑張って作った魔力の結晶なんだよ。」

「これは失敗作だから、シュウちゃんの好きにしていいよ。」

「それではこれを御礼としてもらいますね。」

 失敗作とはいえ、れっきとした精霊の結晶だ。

 何かに使える日が来るだろう。

「それじゃあシュウちゃん、また今度ね!」

「また御礼しに来るね。」

「二人ともお気をつけて。」

 スライムを連れて二人は森の奥へと進み、あっという間にいなくなってしまった。

「シュウイチさん、お二人とも行ってしまわれましたか?」

「えぇ、お礼としてこんなものを置いて行かれました。」

「これは、この前のお守り・・・にしては少しいびつですね。」

「失敗作だそうですがこれも精霊の結晶です。何かに使えるかもしれません。」

 精霊が作ったとうだけでもご利益がありそうだし大事にとっておくとしよう。

「失敗作と言いますがものすごい魔力を感じます。」

「精霊様の魔力が込められていますから、先ほど渡した魔石よりもはるかに価値があるかもしれませんね。」

「それは間違いないと思います。」

 魔石よりも価値のある物に変わったわけか。

 まるでわらしべ長者みたいだな。

 次はこれが何に変わるのか、楽しみだ。

「さぁ今日は店じまいです。ゆっくり休むとしましょう。」

「今日は一日お疲れ様でした。」

 大変な一日だった。

 でも無事に1日を終えることができた。

 疲れた。

 今日はゆっくりとお風呂に入って早めに寝るとしよう。

 これからの事は明日また考えればいい。

 契約金は手元にあるし、後はどうにかしてお金を作ってニケさんを買い受けるだけだ。

 この結晶が金貨になったら話が早いんだけどな。

「なんだ、誰か来ていたのかい?」

 表の鍵を閉めて中に戻ると、部屋から出てきた博士が夕食を食べに降りてきたところだった。

「精霊様が奴らの持ってきた魔石をとりにきてたんですよ。」

「なんだって!精霊が来てたって!?」

「えぇ、もう帰られてしまいましたが。」

「死ぬまでに一度は精霊に会いたいと思っていたけど、絶好の機会を逃してしまうなんて何たることだ。」

 そんなにへこまなくてもいいと思うんだけどなぁ。

 会おうと思えばすぐ会えるし。

「シュウイチさん、普通は精霊様に会う事なんてありえないんですよ。ましてや精霊様がお願いに来るなんて・・・。」

「そういうものなんですね。」

 今週二回目の遭遇だしあんまりありがたみがないというかなんというか。

 一応偽の契約書とはいえ魔石研究所に納品されるはずの魔石だったため博士にも事情を説明しておく。

「それで、精霊様はあの魔石を持って行ってしまったのか。」

「代わりにこの結晶を置いて行かれました。良かったらご覧になりますか?」

 魔石研究の第一人者とはいえ精霊の結晶を見る機会はあまりないだろう。

 せっかくもらったんだし、見てもらえばいい。

「こ、これは!」

 結晶を見たとたんに博士の目の色が変わり、俺の手首をつかんだまま結晶を凝視している。

 そして言葉を発することなく固まってしまった。

「エミリア、博士が固まってしまいました。」

「どうしたんでしょう・・・。」

「き、君!この結晶をぜひ私に譲ってくれないか!」

 掌を凝視していたと思ったら今度は顔を近づけて来る。

 いったいなんなんだこの人は。

「譲ってくださいと言われましても、精霊様から頂いたものですし。」

「金貨5枚、いや10枚出そう。それだけじゃない、今後ここに卸す魔装具は全て私が手作りした最高級品を提供しようじゃないか!どうだまだ足りないか?そうだな、その他はだな・・・。」

「落ち着いてください博士。」

「落ち着いてなんていられるか!君はこの結晶の価値を何にもわかっていない。この結晶は世界に二つとない二精霊の融合結晶なのだぞ!精霊結晶だけでも珍しいのに二つの異なる精霊が一つの結晶を作り上げるなんてこんなもの私も初めてだ。この結晶は魔術師ギルド、いや国の重要遺物として保管するべきとてつもない価値を秘めた結晶なんだ!」

 そんな貴重な品を金貨10枚で買い取ろうとしたのかこの人は。

 でもそんな貴重なものだとは思いもしなかった。

 ここで店のお守りにしている完成品を見せたらどうなるんだろうか。

 死ぬんじゃないかな、この人。

「エミリア、お守りの件は黙っていた方がいいかな。」

「その方がいいと思います、とりあえず今は。」

 その後、国全体を揺るがすことになる魔石横流し事件。

 その大事件の解決の糸口となった今回の一件は世に知らされることはなかった。

 だがごく少数の関係者は知っていた。

 事件がどのように解決に向かう事が出来たのか。

 そして、誰がそれを成功させたのかを。

 事件解決の立役者である本人はというと・・・。

「そもそも精霊結晶というのはだな・・・!」

 疲れを癒すこともできず、興奮した魔石研究者の講義を一晩中聞かされることになったそうだ。

 その日宿の明かりが消えたのは夜も更けた時間だったそうな。

 そんな大変だった一日も日が暮れればまた新しい朝を迎える事となる。

 いつもと変わらない、新しい朝を。
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