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第四章
戦わない戦い方
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作戦の第一関門は突破した。
次はダンジョンの中におびき寄せてからの第二関門だ。
このまま普通に取引するだけで奴らが帰るとは思えない。
予想とは違いあまり金銭的余裕の無い連中のようだから、間違いなく契約金を奪い返しに来る。
もしかしたら博士を人質にでもして魔術師ギルドをゆすろうとするかもしれない。
というかそうするだろうと考えている。
変な考え方だが、奴らがそういう強硬手段に打って出てくれれば第二関門突破というわけだ。
そしてそれを合図に博士と俺はダンジョンの奥へと逃走する。
追いかけてきたが最後、奴らはお縄に就くというわけだな。
だがそのまま帰ったらどうする?
金は手に入るが奴らを捕縛できず偽の契約書とはいえ魔石取引を完了させたことにはならないか?
いまさらながらそういった不安が頭をよぎる。
騎士団が向かってくるはずだからそのまま捕縛すればどうだ?
それは可能だろうが罪状はどうする。
森に散り散りになった場合は?
最悪の事態を想定しなければならないのに、いまさらこんな事に気付くなんて。
自分が完璧だと思っていたのがバカみたいだ。
だがどうする。
今から変更なんて出来ないぞ。
準備も時間も何もかもが足りない。
どうする。
どうすればいい。
考えろ。
「シュウイチさんどうかされましたか?」
思いつめた顔で商店の中に入ったものだからエミリアが心配そうに声を掛けてくれた。
「大丈夫です、作戦通り行きますよ。」
「わかりました。」
「博士を呼んできますので後はお任せします。」
「おまかせください。」
俺を信じて待っていてくれる人が居る。
俺の作戦を信じて付き合ってくれているみんなが居る。
そうだ。
いまさら迷ってどうする。
自分の考えた作戦なら、作戦通りやればいいじゃないか。
イレギュラーなんて起きて当たり前だ。
それをどうにかして初めて作戦成功なんじゃないか。
どうせいつも出たとこ勝負なんだ。
やってやるさ。
そのまま客室へ向かい博士の居る部屋をノックする。
「博士お待たせしました、出番です。」
「ちょうど退屈していたところだ、すぐ行こう。」
退屈か。
ここにも俺を信じて危険に飛び込んでくれる人が居る。
そうだよ。
俺がやらないでどうするんだ。
ドアが開き、中からいつもの博士が顔を出す。
臆することの無い、いつもの博士だ。
なんだびびってるのは俺だけじゃないか。
しっかりしろよ、俺。
「では後は手筈通りに、行きましょうか博士。」
「うむ。」
外からは何か荷物を降ろす音がきこえる。
魔石を降ろしている音だろう。
「先日と違い少々人数が多いようですが問題ありません。作戦通り逃げ切るだけです。」
「人数など別に問題ではないだろう、我々は自分の仕事をするまでだ。」
その通り、人数など別に構いやしない。
俺の仕事は奴らとの交渉を進めて無事に博士を逃がすことだ。
それだけじゃないか。
そう考えると別に難しいこと何もないよな。
ちょっと気が楽になった。
博士と共に宿の部分を通過する。
セレンさんが、ユーリが、そしてエミリアがこちらに視線を向ける。
皆俺を信じてくれている。
「シュウイチさん、お気をつけて。」
「いってきます。」
みんなに見送られて外に出る。
外では荷を降ろし終えたガルスとその他大勢が待ち構えていた。
いやそんな一斉にこっち見なくてもいいんじゃないかなぁ。
強面の人に見つめられたらチキンハートが縮こまってしまうじゃないか。
「お待たせしました詳しい話は向こうでしましょうか。」
動揺してはいけない。
この前も、そして今回も、ずっと俺のターンだ!
てな感じで行かなければならない。
主導権は常に俺が握っておかなければ。
俺のすぐ後ろを博士がついてくる。
振り返りはしないが大勢の足音が後ろから追って来る。
よしよし、ついてきてるな。
有無を言わせずに動いたのが良かったようだ。
さていよいよだぞ。
ダンジョンの黒い壁を抜けて中へと進む。
外のように明るくはないがヒカリゴケのおかげでカンテラは必要ないぐらいに明るい。
商談するのには問題ない明るさだろう。
さて、目印はっと。
あったあった。
入り口の広場を進み、奥に向かう通路の手前にうっすらと丸い印が書かれている。
俺には隠匿魔法は効かないから落とし罠が丸見えだけど、博士には見えないはずだ。
「正面にある丸い印わかりますか?」
「あぁ、うっすらと見えるあれがそうか。」
「手前もしくはその奥に立ってください、いざというときはそれを踏めば脱出できます。」
「わかった。」
これでよし。
博士と話をしていると後ろから奴らが入ってきた。
重そうな木箱が二つ。
二人ずつでもって残りは5人。
ガルスを中心に扇のように広がっている。
まるで出入り口をふさいでいるみたいだな。
「随分と明るいんだな。」
「ヒカリゴケが多く自生していますので明かりは不要ですよ。」
俺も入った時は同じような事を言ったっけ。
ダンジョンはもう少し暗いのが普通みたいだな、やっぱり。
「それでこっちは要求されていたものを持ってきたわけだが、そっちはどうなんだ?」
「せっかちな人ですね、挨拶もしないだなんて。」
「そっちと違ってこちらにも都合があるんでね。さっきも言ったようにこいつらは気が短いんだ。」
後ろに控えていた男たちがニヤニヤと笑う。
やはりただ契約して終わりって感じではなさそうだな。
まぁそれが狙いだからいいんだけど。
「そういうことでしたらさっさと終わらせるとしましょうか。博士、こちらが今回の商談相手で名はガルスと言います。」
「魔石研究所のミドだこの度は魔石提供に感謝する。」
ガルスと博士のちょうど中間に立ち、ガルスを紹介する。
その時、後ろに控えていた男がガルスに何か耳打ちをする。
あいつは確かこの前部屋に入ってきたやつだな。
「その男、本当に魔石研究所の博士なのか?」
「そうです。前回魔石鑑定にご一緒していただきましたから、そこにいる男が覚えているのが何よりの証拠でしょう。」
「では前回博士自身が来ていたというのか。」
「魔石を正確に鑑定できるのは博士と、その助手の方だけですからね。」
「なぜ前回紹介しなかった。」
なぜって、紹介したらお前達が何するかわからないだろ?
「紹介する必要がなかったからです。あの時点ではまだ契約すると決まったわけではありませんでしたし、紹介したところで貴方の答えが変わるとも思えなかった。結果として貴方は契約に同意し、今この場にいるわけですからこうやって紹介しているんです。」
「だますつもりはなかったと?」
「だます?御冗談を。信頼が基本のこの商売でなぜ儲ける前の相手をだます必要があるんですか。だますのなら全てが終わって受け取るものを受け取ってからというのが普通でしょう。」
「・・・相変らず口の達者な男だな。」
「この前も言いましたようにこれだけが取り柄ですから。後ろに控えておられる皆さんとは違いましてね。」
お前たちバカとは違うんだよ。
なんて言ってしまったら血祭りにあげられるんだろうけど、どうやらそういう意味合いで言ったことにすら気づいていないようだ。
つまりは学がなく、暴力でしか生きてこなかったという証拠だな。
「まぁいいだろう。こちらは約束の通り初回納入分の魔石500個、それと契約金を持参している。」
「有難うございます。こちらはこの契約書を、それと今後の口利きのために博士にご同行いただいている次第です。念のために魔石を確認してもよろしいですか?」
「俺たちが契約を違えると思っているのか?」
「万が一にもありえないでしょう。ですがこれも決まりでしてね、現物の確認後サインをするように先方から言われているんですよ。」
大事な取引の初回で誤魔化すことはないだろう。
だが無いとも言い切れない。
すんなり話を終わらせても構わないのだが、こっちの目的は俺たちを追ってくるように仕向けることだ。
それに騎士団が到着する時間も稼がなければならない。
そういう理由で奴らには付き合ってもらわなければならないのだ。
「好きにしろ。」
「有難うございます。」
後ろに控えていた男達が木箱を二つ持ってきた。
二箱に分けたという事は250ずつというわけだか、100個でもそこそこの重さだったのにその2.5倍ってどんな感じなんだろう。
というか、この頑丈に封をされた箱を俺に開けろって言うのか?
さすがに無理だろ。
「申し訳ありませんが、開けて頂けますか?」
「なんだこんな物も開けられないのか。」
「すみませんね力仕事はからっきしでして。」
筋トレの趣味も無いのでただのひ弱なオッサンだ。
「おい、開けてやれ。」
男達が苦笑いを浮かべながら木箱の蓋に手をかけ、バキバキと乾いた音を立てながら蓋を開けていく。
そんなに釘を打ち付けてたらどう考えても開けれないだろ。
どんな無茶振りだよ。
木箱の中には前回同様に大小様々な魔石が敷き詰められていた。
相変わらず綺麗な石だ。
子供の頃に川で拾ったガラスのかけらみたいだな。
川の流れで角が取れて、綺麗な半透明をしていたっけ。
あれとそっくりだ。
「ではそちらで一つ、私が一つ、両方の箱から二つずつ確認させて頂きます。」
「お前が二つとも選べば問題ないだろう。」
「いいんですか?」
「しつこいな、俺たちは最高の品を持ってきているんだ純度不足などありえん。」
そんなことで怒らなくてもさぁ、短気は損気だよ。
「では失礼しますね。」
これはあくまでもパフォーマンスなので箱の中に適当に手を突っ込み左右二つずつ取り出す。
それを持って後ろに控えている博士の元へと近づいていった。
「では博士お願いします。」
「この個数ならすぐに終わるだろう、そのまま持っていてくれ。」
そういえば鑑定しているところを見たことが無かったな。
どれどれどんな風に鑑定しているんだ?
まずは右手の魔石に手をかざし、集中するように目を瞑る。
しばらくすると博士が目を開けた。
「純度は問題ない、産出先も前回と同じ感じだ。」
「では次はこちらを。」
次に左手の魔石を同様に鑑定する。
集中して魔石から出る魔力の波長か何かを感じ取っているんだろう。
アニメでよくあるように手をかざしたところが光るとか、魔石が光るとか、そういう感じは一切無い。
ただ手をかざして目を瞑っているだけだ。
思っていたよりも地味だなぁ。
でもまぁいちいち光ってたら目がやられて大変か。
「大きいほうは少々少なめだが規格内に収まっているだろう、もう一つの小さいほうの方が純度は高いようだな。」
「では問題ありませんね。」
「結構だ、これだけの品なら十分魔装具作成に耐えられるだろう。」
「ありがとうございました。」
後ろを振り返り木箱の元へ戻る。
「問題ないだろう?」
「右の二つは問題ありません。ですが左の大きいほうは形の割に純度が低めのようです。もう一つの小さいほうが純度は高いようですね。」
「つまりは不適合といいたいわけか?」
「問題なしとのお墨付きです、安心してください。ですが、この大きいほうの魔石はどこで手に入れたものか分かりますか?」
純度不足という事はこの鉱山の品はあまりよくない、もしくは粗悪品を混ぜている可能性もある。
今後のためにもそのあたりの情報は仕入れておきたいのだが、こいつらがそれを知っているかどうかだ。
まぁ知らんだろうな。
「印をつけているわけじゃないからどこから出た物かはわからんな、おいお前等知っているか?」
ガルスが後ろの取り巻きに聞くも全員が揃って首を横に振った。
ですよねー。
「と、いうわけだ。それを知ってどうするつもりなんだ?」
「私もこれを機に魔石取引に加わろうと思いましてね、純度の低い鉱山の情報などは早めに仕入れておきたいんですよ。」
「随分と仕事熱心じゃないか。」
「情報は銀よりも重しですからね。私のような小さな商人はこうやって利益を積み上げていくしかないんですよ。」
まぁ知らないものは仕方ない。
純度も問題なし、時間も少しは稼いでいる。
これぐらいにしておかないと契約する前に暴れだすかもしれないし、そろそろ潮時かもしれないな。
「では確認も取れましたので契約に入りましょうか。」
「いいだろう、まずはそっちからだ。」
そういう約束でしたもんね。
「それではこの前お見せしたこの書類に改めて目を通して頂き、問題なければサインをいただけますか?」
「書き換えなど行っていないのだろう?」
「それはもちろん。というよりもこの契約書は上から書き換えられないように魔法をかけてありますからそもそも出来ないようにしてあるんですけど、念のためですよ。」
懐から偽の契約書を取り出しガルスに手渡す。
えらいえらい、なんだかんだ言ってちゃんと上から読んでるじゃないか。
俺は一切読めないけど。
「前回と変わりは無い様だな。」
「ではご確認いただいたところで下の空欄に署名をお願いします。」
腰にぶら下げていた筆箱からペンを取り出して手渡す。
綺麗かどうかは分かららないし、本当に書いているかも確認しようは無いがとりあえず何か書いているな。
まぁ偽の契約書だし偽名でも嘘でも関係ないんだけど。
っと、書き終わったか。
「それではこの契約書を元に今後魔石取引を行っていきます。まずは一期分の魔石と契約金である金貨7.5枚を納めていただきましょうか。」
「まずはその書類が先だ。俺の手にわたらない以上契約金を渡すわけにはいかない。」
ほら来ましたよ。
「それはおかしな話ですね、契約を履行するためには契約金が必要です。その契約金を払わずに契約書をよこせとは都合が良すぎませんか?」
「どうせ物のやり取りだ、どちらが先でも構いやしないだろう。」
「それは違いますよ。取引は信用が第一、その根底が崩れればどれだけ利のある話でもお受けすることは出来ません。特に今回は魔石研究所という大きな取引相手が相手ですから、仲介に立っている私としてもその信用を落とすことは出来ないんですよ。」
あくまでもこの取引はこいつらと魔石研究所との契約という話になっている。
俺はその仲介をしているわけだから無関係といえば無関係だ。
だが仲介者としての責任というものもあるので、それを盾に今回は抵抗を試みるとしよう。
「別にお前が居なくてもこの書類に署名した以上、契約は成立だ。俺たちは別にお前の死体からその契約書を奪い取ってもいいんだぞ?」
「それで脅しているつもりですか?今すぐ私がこの書類を破り捨てれば魔法の効力でここに書かれている内容は全て消滅します。くっつけても意味はありませんし、私を殺すことで貴方達への魔石研究所の信頼はがた落ちだ。4期終了後二度と取引をすることは無いでしょう。」
「それなら博士をこちら側に付ければいいだけの話だ。博士には申し訳ないが少々痛い目にあってもらうことになるがな。」
「魔石研究所で決定権を持っているのはあくまでも魔術師ギルドのギルド長です。今回の魔石売買は別ですが普段の買い付けはすべて上を通さなければ承認されません。今回のこの契約を維持しなければ今後一切の取引はできないと思うべきでしょうね。そういうわけで博士を囲い込もうとしても無駄ですよ。」
あくまでも魔石研究所は魔術師ギルドの一部署だ。
どれだけミド博士が偉大でも、博士を坊や扱いできる人物が上にいる以上博士を引き込んだところで無駄に終わるだろう。
「仲間にならずとも都合の良いように動く駒であれば十分だ。」
「それも難しいでしょう。こういう言い方をすると博士には申し訳ありませんが、博士は魔石以外の事には一切興味がありません。研究の邪魔になるようなことをわざわざするとは思えませんね。」
「俺達に痛い目にあわされてもなお脅しには屈しないと?」
「脅しぐらいで研究を棒にするような人じゃないですよ、彼は。」
「ぺらぺらと良く回る口だ。まずはお前から息の根を止めてやる、それを見てもまだ博士が屈しないのであれば殺すまでだ。」
「ちなみに私に何かあれば直ぐにコッペンに情報がいき、コッペンから魔術師ギルドに話がいくようになっています。今回の取引内容や取引相手全てが魔術師ギルドに筒抜けになります。そうなれば博士も含めて魔術師ギルドは全力で貴方達を探すことでしょう。この国の魔術師ギルドならびに騎士団を敵に回してもいいと思うならどうぞ私を殺してください。」
1対9なら間違いなく俺の負けだ。
だがそれは普通にやりあった場合の話である。
俺達には作戦があるし、その為に準備をしてきた。
ここで一歩も引き下がるわけにはいかないんだよ。
「くそ、何もかもお見通しというわけか。癪に障る野郎だ!」
「こういう商売は何が起こるか分かりませんからね、常に最悪を考えておくのが基本ですよ。」
「よくしゃべる犬はいずれ頭を潰されるって聞くぜ、せいぜい気をつけるんだな。」
負け犬ほど良く吠える。
それはきっとこいつのことを言うんだろう。
「私は別にお金さえ払って頂けるのであれば今のやり取りを気にすることはありません。次回以降は博士と貴方達とのやり取りだけですから。時間が無いのでしょう?さっさと契約を完了させましょうか。」
「・・・ほらよ、約束の金だ!」
投げやりにガルスが袋を投げつけてくる。
床に落ちたそれからはチャリンと硬貨のぶつかる音がした。
お金を投げるとか罰当たりな奴だ。
袋を拾い上げて中身を確認する。
袋から掌に滑り出てきたのは金色に輝く硬貨が数枚と銀色の硬貨がたくさん。
「枚数は間違いないんでしょうね。」
「そいつはどうだろうな、俺達を信じるんならあってるんじゃないか?」
今から眼の前で数えるというのも面倒な話だ。
数えている最中に襲われないとも限らない。
仕方ないが信じるしかないだろう。
「まぁいいでしょう。では、これが契約書ですどうぞお受け取りください。」
投げ返しても良かったがそこは紳士に直接手渡しするほうがいいだろう。
こいつと同じになる必要なんて無い。
俺はこいつらのように何もかも見下すようなくだらない奴らと一緒にはなりたくない。
ガルスの前まで行き直接奴の手に渡す。
さっきのやり取りを聞いていた男達の視線が体中に刺さるのを感じる。
殺してやりたい。
そう思っているに違いない。
視線から逃げるようにもといた位置に戻り、もう一度やつらと向かい合う。
ガルスを含め今にも獲物に飛びかかろうとする獣のようだ。
「これで契約は完了です。その魔石を置いてさっさと帰ったらどうですか?」
「ここまでコケにされて、ただで帰れると思うなよ。」
「コケにされたのは貴方であって私ではありません。どいていただけないのであれば、そこを通るだけです。」
と言っても俺はここから動くつもりはないけどね。
「だがどうする、出口は一つしかもお前たちの反対側だ。俺達の横をすり抜けて外に出るつもりなのか?それは笑える冗談だ。」
「そうですね、外に出るのであればそこを通らなければならないと思います。」
「俺たちが通すはずがないだろうが!」
「ここは私のダンジョンであって貴方の場所ではない。初めから貴方に決定権など存在してませんよ。」
「さっきからいちいちうるさい野郎だ!博士の身柄もその金も、そしてお前の命も全部俺が握っているんだよ!」
「それはどうでしょうね。」
「お前ら博士の身柄を拘束しろ。こいつは死ななければ何をしてもかまわねぇ、俺達を怒らせた報いを受けて貰おうじゃねぇか!」
ガルスの号令で男達が一斉にこちらに向かって走ってくる。
さぁ作戦開始だ。
俺達を怒らせた報いを受けて貰おうじゃないか!
「博士今です!」
「わかった!」
男たちがこちらに襲い掛かってくる寸前に、俺と博士の体は落とし罠へと吸い込まれていった。
落ちながら上からは男達の怒号が聞こえるも滑り落ちる音にかき消され何を言っているのかは分からない。
だが突然居なくなった二人に驚き、そして怒りに震えていることだろう。
馬鹿にされるだけ馬鹿にされ、魔石はあるものの契約金は持ち逃げされたわけだからね。
何が何でも取り返そうと追ってくるに違いない。
だがそれが奴らの破滅への始まりになるのだ。
ワナワナ脱出大作戦第一段階成功也!
次はダンジョンの中におびき寄せてからの第二関門だ。
このまま普通に取引するだけで奴らが帰るとは思えない。
予想とは違いあまり金銭的余裕の無い連中のようだから、間違いなく契約金を奪い返しに来る。
もしかしたら博士を人質にでもして魔術師ギルドをゆすろうとするかもしれない。
というかそうするだろうと考えている。
変な考え方だが、奴らがそういう強硬手段に打って出てくれれば第二関門突破というわけだ。
そしてそれを合図に博士と俺はダンジョンの奥へと逃走する。
追いかけてきたが最後、奴らはお縄に就くというわけだな。
だがそのまま帰ったらどうする?
金は手に入るが奴らを捕縛できず偽の契約書とはいえ魔石取引を完了させたことにはならないか?
いまさらながらそういった不安が頭をよぎる。
騎士団が向かってくるはずだからそのまま捕縛すればどうだ?
それは可能だろうが罪状はどうする。
森に散り散りになった場合は?
最悪の事態を想定しなければならないのに、いまさらこんな事に気付くなんて。
自分が完璧だと思っていたのがバカみたいだ。
だがどうする。
今から変更なんて出来ないぞ。
準備も時間も何もかもが足りない。
どうする。
どうすればいい。
考えろ。
「シュウイチさんどうかされましたか?」
思いつめた顔で商店の中に入ったものだからエミリアが心配そうに声を掛けてくれた。
「大丈夫です、作戦通り行きますよ。」
「わかりました。」
「博士を呼んできますので後はお任せします。」
「おまかせください。」
俺を信じて待っていてくれる人が居る。
俺の作戦を信じて付き合ってくれているみんなが居る。
そうだ。
いまさら迷ってどうする。
自分の考えた作戦なら、作戦通りやればいいじゃないか。
イレギュラーなんて起きて当たり前だ。
それをどうにかして初めて作戦成功なんじゃないか。
どうせいつも出たとこ勝負なんだ。
やってやるさ。
そのまま客室へ向かい博士の居る部屋をノックする。
「博士お待たせしました、出番です。」
「ちょうど退屈していたところだ、すぐ行こう。」
退屈か。
ここにも俺を信じて危険に飛び込んでくれる人が居る。
そうだよ。
俺がやらないでどうするんだ。
ドアが開き、中からいつもの博士が顔を出す。
臆することの無い、いつもの博士だ。
なんだびびってるのは俺だけじゃないか。
しっかりしろよ、俺。
「では後は手筈通りに、行きましょうか博士。」
「うむ。」
外からは何か荷物を降ろす音がきこえる。
魔石を降ろしている音だろう。
「先日と違い少々人数が多いようですが問題ありません。作戦通り逃げ切るだけです。」
「人数など別に問題ではないだろう、我々は自分の仕事をするまでだ。」
その通り、人数など別に構いやしない。
俺の仕事は奴らとの交渉を進めて無事に博士を逃がすことだ。
それだけじゃないか。
そう考えると別に難しいこと何もないよな。
ちょっと気が楽になった。
博士と共に宿の部分を通過する。
セレンさんが、ユーリが、そしてエミリアがこちらに視線を向ける。
皆俺を信じてくれている。
「シュウイチさん、お気をつけて。」
「いってきます。」
みんなに見送られて外に出る。
外では荷を降ろし終えたガルスとその他大勢が待ち構えていた。
いやそんな一斉にこっち見なくてもいいんじゃないかなぁ。
強面の人に見つめられたらチキンハートが縮こまってしまうじゃないか。
「お待たせしました詳しい話は向こうでしましょうか。」
動揺してはいけない。
この前も、そして今回も、ずっと俺のターンだ!
てな感じで行かなければならない。
主導権は常に俺が握っておかなければ。
俺のすぐ後ろを博士がついてくる。
振り返りはしないが大勢の足音が後ろから追って来る。
よしよし、ついてきてるな。
有無を言わせずに動いたのが良かったようだ。
さていよいよだぞ。
ダンジョンの黒い壁を抜けて中へと進む。
外のように明るくはないがヒカリゴケのおかげでカンテラは必要ないぐらいに明るい。
商談するのには問題ない明るさだろう。
さて、目印はっと。
あったあった。
入り口の広場を進み、奥に向かう通路の手前にうっすらと丸い印が書かれている。
俺には隠匿魔法は効かないから落とし罠が丸見えだけど、博士には見えないはずだ。
「正面にある丸い印わかりますか?」
「あぁ、うっすらと見えるあれがそうか。」
「手前もしくはその奥に立ってください、いざというときはそれを踏めば脱出できます。」
「わかった。」
これでよし。
博士と話をしていると後ろから奴らが入ってきた。
重そうな木箱が二つ。
二人ずつでもって残りは5人。
ガルスを中心に扇のように広がっている。
まるで出入り口をふさいでいるみたいだな。
「随分と明るいんだな。」
「ヒカリゴケが多く自生していますので明かりは不要ですよ。」
俺も入った時は同じような事を言ったっけ。
ダンジョンはもう少し暗いのが普通みたいだな、やっぱり。
「それでこっちは要求されていたものを持ってきたわけだが、そっちはどうなんだ?」
「せっかちな人ですね、挨拶もしないだなんて。」
「そっちと違ってこちらにも都合があるんでね。さっきも言ったようにこいつらは気が短いんだ。」
後ろに控えていた男たちがニヤニヤと笑う。
やはりただ契約して終わりって感じではなさそうだな。
まぁそれが狙いだからいいんだけど。
「そういうことでしたらさっさと終わらせるとしましょうか。博士、こちらが今回の商談相手で名はガルスと言います。」
「魔石研究所のミドだこの度は魔石提供に感謝する。」
ガルスと博士のちょうど中間に立ち、ガルスを紹介する。
その時、後ろに控えていた男がガルスに何か耳打ちをする。
あいつは確かこの前部屋に入ってきたやつだな。
「その男、本当に魔石研究所の博士なのか?」
「そうです。前回魔石鑑定にご一緒していただきましたから、そこにいる男が覚えているのが何よりの証拠でしょう。」
「では前回博士自身が来ていたというのか。」
「魔石を正確に鑑定できるのは博士と、その助手の方だけですからね。」
「なぜ前回紹介しなかった。」
なぜって、紹介したらお前達が何するかわからないだろ?
「紹介する必要がなかったからです。あの時点ではまだ契約すると決まったわけではありませんでしたし、紹介したところで貴方の答えが変わるとも思えなかった。結果として貴方は契約に同意し、今この場にいるわけですからこうやって紹介しているんです。」
「だますつもりはなかったと?」
「だます?御冗談を。信頼が基本のこの商売でなぜ儲ける前の相手をだます必要があるんですか。だますのなら全てが終わって受け取るものを受け取ってからというのが普通でしょう。」
「・・・相変らず口の達者な男だな。」
「この前も言いましたようにこれだけが取り柄ですから。後ろに控えておられる皆さんとは違いましてね。」
お前たちバカとは違うんだよ。
なんて言ってしまったら血祭りにあげられるんだろうけど、どうやらそういう意味合いで言ったことにすら気づいていないようだ。
つまりは学がなく、暴力でしか生きてこなかったという証拠だな。
「まぁいいだろう。こちらは約束の通り初回納入分の魔石500個、それと契約金を持参している。」
「有難うございます。こちらはこの契約書を、それと今後の口利きのために博士にご同行いただいている次第です。念のために魔石を確認してもよろしいですか?」
「俺たちが契約を違えると思っているのか?」
「万が一にもありえないでしょう。ですがこれも決まりでしてね、現物の確認後サインをするように先方から言われているんですよ。」
大事な取引の初回で誤魔化すことはないだろう。
だが無いとも言い切れない。
すんなり話を終わらせても構わないのだが、こっちの目的は俺たちを追ってくるように仕向けることだ。
それに騎士団が到着する時間も稼がなければならない。
そういう理由で奴らには付き合ってもらわなければならないのだ。
「好きにしろ。」
「有難うございます。」
後ろに控えていた男達が木箱を二つ持ってきた。
二箱に分けたという事は250ずつというわけだか、100個でもそこそこの重さだったのにその2.5倍ってどんな感じなんだろう。
というか、この頑丈に封をされた箱を俺に開けろって言うのか?
さすがに無理だろ。
「申し訳ありませんが、開けて頂けますか?」
「なんだこんな物も開けられないのか。」
「すみませんね力仕事はからっきしでして。」
筋トレの趣味も無いのでただのひ弱なオッサンだ。
「おい、開けてやれ。」
男達が苦笑いを浮かべながら木箱の蓋に手をかけ、バキバキと乾いた音を立てながら蓋を開けていく。
そんなに釘を打ち付けてたらどう考えても開けれないだろ。
どんな無茶振りだよ。
木箱の中には前回同様に大小様々な魔石が敷き詰められていた。
相変わらず綺麗な石だ。
子供の頃に川で拾ったガラスのかけらみたいだな。
川の流れで角が取れて、綺麗な半透明をしていたっけ。
あれとそっくりだ。
「ではそちらで一つ、私が一つ、両方の箱から二つずつ確認させて頂きます。」
「お前が二つとも選べば問題ないだろう。」
「いいんですか?」
「しつこいな、俺たちは最高の品を持ってきているんだ純度不足などありえん。」
そんなことで怒らなくてもさぁ、短気は損気だよ。
「では失礼しますね。」
これはあくまでもパフォーマンスなので箱の中に適当に手を突っ込み左右二つずつ取り出す。
それを持って後ろに控えている博士の元へと近づいていった。
「では博士お願いします。」
「この個数ならすぐに終わるだろう、そのまま持っていてくれ。」
そういえば鑑定しているところを見たことが無かったな。
どれどれどんな風に鑑定しているんだ?
まずは右手の魔石に手をかざし、集中するように目を瞑る。
しばらくすると博士が目を開けた。
「純度は問題ない、産出先も前回と同じ感じだ。」
「では次はこちらを。」
次に左手の魔石を同様に鑑定する。
集中して魔石から出る魔力の波長か何かを感じ取っているんだろう。
アニメでよくあるように手をかざしたところが光るとか、魔石が光るとか、そういう感じは一切無い。
ただ手をかざして目を瞑っているだけだ。
思っていたよりも地味だなぁ。
でもまぁいちいち光ってたら目がやられて大変か。
「大きいほうは少々少なめだが規格内に収まっているだろう、もう一つの小さいほうの方が純度は高いようだな。」
「では問題ありませんね。」
「結構だ、これだけの品なら十分魔装具作成に耐えられるだろう。」
「ありがとうございました。」
後ろを振り返り木箱の元へ戻る。
「問題ないだろう?」
「右の二つは問題ありません。ですが左の大きいほうは形の割に純度が低めのようです。もう一つの小さいほうが純度は高いようですね。」
「つまりは不適合といいたいわけか?」
「問題なしとのお墨付きです、安心してください。ですが、この大きいほうの魔石はどこで手に入れたものか分かりますか?」
純度不足という事はこの鉱山の品はあまりよくない、もしくは粗悪品を混ぜている可能性もある。
今後のためにもそのあたりの情報は仕入れておきたいのだが、こいつらがそれを知っているかどうかだ。
まぁ知らんだろうな。
「印をつけているわけじゃないからどこから出た物かはわからんな、おいお前等知っているか?」
ガルスが後ろの取り巻きに聞くも全員が揃って首を横に振った。
ですよねー。
「と、いうわけだ。それを知ってどうするつもりなんだ?」
「私もこれを機に魔石取引に加わろうと思いましてね、純度の低い鉱山の情報などは早めに仕入れておきたいんですよ。」
「随分と仕事熱心じゃないか。」
「情報は銀よりも重しですからね。私のような小さな商人はこうやって利益を積み上げていくしかないんですよ。」
まぁ知らないものは仕方ない。
純度も問題なし、時間も少しは稼いでいる。
これぐらいにしておかないと契約する前に暴れだすかもしれないし、そろそろ潮時かもしれないな。
「では確認も取れましたので契約に入りましょうか。」
「いいだろう、まずはそっちからだ。」
そういう約束でしたもんね。
「それではこの前お見せしたこの書類に改めて目を通して頂き、問題なければサインをいただけますか?」
「書き換えなど行っていないのだろう?」
「それはもちろん。というよりもこの契約書は上から書き換えられないように魔法をかけてありますからそもそも出来ないようにしてあるんですけど、念のためですよ。」
懐から偽の契約書を取り出しガルスに手渡す。
えらいえらい、なんだかんだ言ってちゃんと上から読んでるじゃないか。
俺は一切読めないけど。
「前回と変わりは無い様だな。」
「ではご確認いただいたところで下の空欄に署名をお願いします。」
腰にぶら下げていた筆箱からペンを取り出して手渡す。
綺麗かどうかは分かららないし、本当に書いているかも確認しようは無いがとりあえず何か書いているな。
まぁ偽の契約書だし偽名でも嘘でも関係ないんだけど。
っと、書き終わったか。
「それではこの契約書を元に今後魔石取引を行っていきます。まずは一期分の魔石と契約金である金貨7.5枚を納めていただきましょうか。」
「まずはその書類が先だ。俺の手にわたらない以上契約金を渡すわけにはいかない。」
ほら来ましたよ。
「それはおかしな話ですね、契約を履行するためには契約金が必要です。その契約金を払わずに契約書をよこせとは都合が良すぎませんか?」
「どうせ物のやり取りだ、どちらが先でも構いやしないだろう。」
「それは違いますよ。取引は信用が第一、その根底が崩れればどれだけ利のある話でもお受けすることは出来ません。特に今回は魔石研究所という大きな取引相手が相手ですから、仲介に立っている私としてもその信用を落とすことは出来ないんですよ。」
あくまでもこの取引はこいつらと魔石研究所との契約という話になっている。
俺はその仲介をしているわけだから無関係といえば無関係だ。
だが仲介者としての責任というものもあるので、それを盾に今回は抵抗を試みるとしよう。
「別にお前が居なくてもこの書類に署名した以上、契約は成立だ。俺たちは別にお前の死体からその契約書を奪い取ってもいいんだぞ?」
「それで脅しているつもりですか?今すぐ私がこの書類を破り捨てれば魔法の効力でここに書かれている内容は全て消滅します。くっつけても意味はありませんし、私を殺すことで貴方達への魔石研究所の信頼はがた落ちだ。4期終了後二度と取引をすることは無いでしょう。」
「それなら博士をこちら側に付ければいいだけの話だ。博士には申し訳ないが少々痛い目にあってもらうことになるがな。」
「魔石研究所で決定権を持っているのはあくまでも魔術師ギルドのギルド長です。今回の魔石売買は別ですが普段の買い付けはすべて上を通さなければ承認されません。今回のこの契約を維持しなければ今後一切の取引はできないと思うべきでしょうね。そういうわけで博士を囲い込もうとしても無駄ですよ。」
あくまでも魔石研究所は魔術師ギルドの一部署だ。
どれだけミド博士が偉大でも、博士を坊や扱いできる人物が上にいる以上博士を引き込んだところで無駄に終わるだろう。
「仲間にならずとも都合の良いように動く駒であれば十分だ。」
「それも難しいでしょう。こういう言い方をすると博士には申し訳ありませんが、博士は魔石以外の事には一切興味がありません。研究の邪魔になるようなことをわざわざするとは思えませんね。」
「俺達に痛い目にあわされてもなお脅しには屈しないと?」
「脅しぐらいで研究を棒にするような人じゃないですよ、彼は。」
「ぺらぺらと良く回る口だ。まずはお前から息の根を止めてやる、それを見てもまだ博士が屈しないのであれば殺すまでだ。」
「ちなみに私に何かあれば直ぐにコッペンに情報がいき、コッペンから魔術師ギルドに話がいくようになっています。今回の取引内容や取引相手全てが魔術師ギルドに筒抜けになります。そうなれば博士も含めて魔術師ギルドは全力で貴方達を探すことでしょう。この国の魔術師ギルドならびに騎士団を敵に回してもいいと思うならどうぞ私を殺してください。」
1対9なら間違いなく俺の負けだ。
だがそれは普通にやりあった場合の話である。
俺達には作戦があるし、その為に準備をしてきた。
ここで一歩も引き下がるわけにはいかないんだよ。
「くそ、何もかもお見通しというわけか。癪に障る野郎だ!」
「こういう商売は何が起こるか分かりませんからね、常に最悪を考えておくのが基本ですよ。」
「よくしゃべる犬はいずれ頭を潰されるって聞くぜ、せいぜい気をつけるんだな。」
負け犬ほど良く吠える。
それはきっとこいつのことを言うんだろう。
「私は別にお金さえ払って頂けるのであれば今のやり取りを気にすることはありません。次回以降は博士と貴方達とのやり取りだけですから。時間が無いのでしょう?さっさと契約を完了させましょうか。」
「・・・ほらよ、約束の金だ!」
投げやりにガルスが袋を投げつけてくる。
床に落ちたそれからはチャリンと硬貨のぶつかる音がした。
お金を投げるとか罰当たりな奴だ。
袋を拾い上げて中身を確認する。
袋から掌に滑り出てきたのは金色に輝く硬貨が数枚と銀色の硬貨がたくさん。
「枚数は間違いないんでしょうね。」
「そいつはどうだろうな、俺達を信じるんならあってるんじゃないか?」
今から眼の前で数えるというのも面倒な話だ。
数えている最中に襲われないとも限らない。
仕方ないが信じるしかないだろう。
「まぁいいでしょう。では、これが契約書ですどうぞお受け取りください。」
投げ返しても良かったがそこは紳士に直接手渡しするほうがいいだろう。
こいつと同じになる必要なんて無い。
俺はこいつらのように何もかも見下すようなくだらない奴らと一緒にはなりたくない。
ガルスの前まで行き直接奴の手に渡す。
さっきのやり取りを聞いていた男達の視線が体中に刺さるのを感じる。
殺してやりたい。
そう思っているに違いない。
視線から逃げるようにもといた位置に戻り、もう一度やつらと向かい合う。
ガルスを含め今にも獲物に飛びかかろうとする獣のようだ。
「これで契約は完了です。その魔石を置いてさっさと帰ったらどうですか?」
「ここまでコケにされて、ただで帰れると思うなよ。」
「コケにされたのは貴方であって私ではありません。どいていただけないのであれば、そこを通るだけです。」
と言っても俺はここから動くつもりはないけどね。
「だがどうする、出口は一つしかもお前たちの反対側だ。俺達の横をすり抜けて外に出るつもりなのか?それは笑える冗談だ。」
「そうですね、外に出るのであればそこを通らなければならないと思います。」
「俺たちが通すはずがないだろうが!」
「ここは私のダンジョンであって貴方の場所ではない。初めから貴方に決定権など存在してませんよ。」
「さっきからいちいちうるさい野郎だ!博士の身柄もその金も、そしてお前の命も全部俺が握っているんだよ!」
「それはどうでしょうね。」
「お前ら博士の身柄を拘束しろ。こいつは死ななければ何をしてもかまわねぇ、俺達を怒らせた報いを受けて貰おうじゃねぇか!」
ガルスの号令で男達が一斉にこちらに向かって走ってくる。
さぁ作戦開始だ。
俺達を怒らせた報いを受けて貰おうじゃないか!
「博士今です!」
「わかった!」
男たちがこちらに襲い掛かってくる寸前に、俺と博士の体は落とし罠へと吸い込まれていった。
落ちながら上からは男達の怒号が聞こえるも滑り落ちる音にかき消され何を言っているのかは分からない。
だが突然居なくなった二人に驚き、そして怒りに震えていることだろう。
馬鹿にされるだけ馬鹿にされ、魔石はあるものの契約金は持ち逃げされたわけだからね。
何が何でも取り返そうと追ってくるに違いない。
だがそれが奴らの破滅への始まりになるのだ。
ワナワナ脱出大作戦第一段階成功也!
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