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第四章

二日酔いにはご用心

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 目を覚ますとそこはいつものメインルームのソファーの上でした。

 どうもおはようございますイナバシュウイチです。

 今日は白鷺亭最上階より朝のレポートをお伝えします。

 えー、本日も晴天なり。

 朝日が眩しくて目を開けられません。

 直射日光が目を狙ってきます。

 危険です。

 窓のカーテンは閉めて寝ましょう。

 以上、寝起きレポートイナバシュウイチでした。

「あ、おはようございますシュウイチさん。」

「おはようエミリア。」

 俺が起きた事に気付いたエミリアが笑顔で挨拶をしてくれた。

 あれだけ呑んで二日酔いなしとかさすがですエミリアさん。

 そういえばエミリアは部屋に戻ってねたんだろうか。

 それとも俺のようにここで寝てしまっていたんだろうか。

 エミリアにかけたはずのブランケットが俺にかかっているということは、部屋に戻ったと考えていいのだろうか。

 わからん。

「起こそうと思ったんですけど、気持ちよく寝ておられたのでそのままにしてしまいました。ベットで寝たかったですよね。」

「どこでも寝れるので大丈夫ですよ。エミリアはちゃんと部屋に戻りましたか?」

「メルクリア様が心配だったので起きて戻りました。心配してくださりありがとうございます。」

「シルビアとメルクリアさんはまだ寝ているのかな?」

 メインルームには俺とエミリアの姿しかない。

 ユーリは大丈夫そうだったけどあの二人はなぁ。

 二日酔いでグロッキー間違いなしのコースだったけど。

「シルビア様は洗面所で顔を洗っておられます。その、昨日同様の格好ですのでしばらくお待ちください。」

 今日も素敵に下着姿のみでの洗顔タイムですか。

 良いんですよ。

 見せてもらえるならむしろウェルカムというか、むしろ見たいというか。

 でもそういうとエミリアが非常に怒るのでそんなこと言えるはずもなく。

「では自室で着替えてきますね。」

 ラッキースケベには遭遇したいが今日はおとなしくしておこう。

 いい加減お風呂に入りたいなぁ・・・。

 身体拭くだけじゃどうも綺麗になった気がしないんだよな。

 とりあえず身体を拭いて肌着だけでも替えておくか。

「あ、シュウイチサン今お部屋には!」

 エミリアが止めようとするが時すでに遅く、何も考えずに自室に使っている部屋のドアを開ける。

「あ、おはようございます御主人様。」

 そこには上半身に何も身に着けていないユーリが身体を拭いている最中だった。

 重力に負けずにつんと上を向いたお乳が非常によろしい。

 うん。

 お乳は偉大なり。

 ってちがう。

「すみません!」

 とりあえず慌ててドアを閉める。

 そもそも何で俺の部屋でユーリが身体を拭いているんだ?

 シルビア様と同じ部屋ですればいいじゃないか。

「・・・見ました?」

「見てません。けして上半身裸だったなんて知りません。」

「シュウイチさんは悪くありませんが、せめてノックだけはしたほうがいいと思います。」

「すみませんでした。」

 何で自室に入るのにノックが必要なのか。

 確かに今回のように誰かが中にいるかもしれないけど、でもそれはイレギュラーであって。

 ムムム。

 納得しにくいが納得しなければなるまい。

 大人の対応だ。

「言いそびれた私も悪いんですけど・・・皆さんばかりずるいです。」

「え、何か言った?」

「何でもありません!」

 急に怒り出してしまうエミリア。

 エッチなのはいけないと思います!という感じだろうか。

 エッチなのはいけなくありませんよ、ありのままでいいんです。

 ありの~ままの~。

 オホン。

「エミリア待たせたな次に使ってくれ。」

「シルビア様シュウイチさんが!」

 同じ轍は二度踏まんぞ。

 さっと逆方向を向き、間一髪でシルビア様が出てくるのを回避する。

 セーフ。

 みたかったけどセーフ。

「シュウイチ起きていたのか。」

「おはようございますシルビア、後ろ向きですみません。」

「私は別に構わんのだが・・・わかったわかったそんな怖い顔で睨むなエミリア。」

 どうやらエミリアに怒られているらしい。

 なるほど、エミリアは順番待ちしていたのか。

 どうりで変な場所に立っていたわけだな。

「ユーリはまだシュウイチの部屋なのか?」

「まだ使っておられます。」

「私がベットを占拠してしまったばっかりにユーリには不便をかけたな。」

 そういうことか。

 寝る場所が無くて仕方なくユーリは俺のベットを使ったわけだな。

 それでついでに身体も拭いていたと。

 なるほどなるほど。

 いいもの見せていただきました!

「お待たせいたしました御主人様。」

「おはようユーリ。」

 振り返るとまだシルビア様がいそうなので念のため後ろを振り返らずに返事をする。

「どうして後ろを向いておられるのですか?」

「緊急回避ですので気にしないでください。」

「よくわかりませんがどうぞお部屋をご使用ください。」

「ありがとうございます。」

 ゆっくりと後ろ向きに歩みを進め自分の部屋に逃げ込む。

 これでもう大丈夫だ。

 ホッと息をついて備え付けの椅子に座る。

 とりあえず着替えてメルクリアを起こすことにしよう。

 いい加減起きて貰わないと今日は三日連続の魔術師ギルドにいかなければならないんだから。

 今日は商店に戻らないといけないし、あまり時間が無い。

 明日はいよいよ開店日だ。

 ドキドキするというよりも今起きてることをとりあえず終わらせているのに必死だ。

 明日以降もきっとそうなんだろうな。

 ということで、まずは今出来ることをしよう。

 着ている物を脱いで肌着を変えて、あとは・・・。

 服を脱ぎタオルを探しているとふと気付いた。

 なんだこれ。

 いつもタオル類が入っている棚に見知らぬ布が置いてある。

 上半身裸のままおもむろに布を手に取った。

 タオルにしては薄いし、かといって下着のようにも見えないし。

 はて、今までこんな物はなかったが。

「御主人様失礼いたします。」

 突然ユーリがドアを開けて部屋の中に入ってきた。

 ここで叫ぶのはお約束としてあるんだが、残念ながらそんなことで驚くような人間ではない。

「どうかしましたか?」

「胸当てを忘れてしまいまして・・・御主人様が見つけてくださったんですね。」

 はて、胸当て。

 弓道のときにつける防具にそんなのがあったと思うけど。

 ユーリが俺のところまでやってきて手に持っていた布を取る。

「これがないとリア奥様に怒られてしまいますので。」

 そう言ってぺこりと頭を下げたそのとき、服の隙間から見えてはならぬ谷間が見えてしまった。

 そうか!ブラか!

 胸当てって言うから何かと思ったが確かに胸当てだわ。

 という事はユーリの下着を手に持っていたわけで・・・。

 ユーリはブラを受け取ると何を思ったのかその場で着ている服を脱ごうとし始めた。

「ユーリお願いですから部屋の外でお願いします。」

「ですが、これをつけなければリア奥様が。」

「ここで着替えられると私が怒られてしまいます!」

 昨日のような恐怖は二度とごめんだ。

 不思議そうな顔をするユーリの背中を押しながら部屋の外に押し出す。

「ユーリ、まさか御主人様の部屋で着替えようとしましたか?」

「しようとしましたが御主人様に拒否されてしまいました。」

「男性の前でみだりに着替えてはいけません。」

 エミリア母さん、ユーリの躾けお願いいたします。

 まったく、いったい彼は何を教えていたんだろうか。

 魂のどこかにいるかもしれないユリウストに悪態をつく。

 自分しかいなくてそういう目で見ていないなら別に気にならなかったのかもしれないけどさぁ。

 ラッキースケベはたまにだからいいんです。

 そんなこんなで着替えなどを済ませてメインルームに戻ると、綺麗に身支度を整えた三人が支配人の持ってきた朝食を前に待っているところだった。

「先に食べていても大丈夫ですよ。」

「せっかくですから一緒に食べようと思いまして。」

「メルクリアさんはまだダメそうですか。」

「先程部屋を覗きましたが、その、ダメみたいです。」

 つまりは起床しているものの動けないという感じだろう。

 今日1日ダメかもしれないなぁ。

「とりあえず先にいただいてしまいましょうか。」

「「「いただきます。」」」

 昨日リクエストした通りに温かいスープが用意してある。

 野菜のうまみが広がる優しい味がする。

 塩気もちょうどいいしこれも支配人が作ってたりは・・・さすがにしないよな。

「美味しいスープですね。」

「ただ野菜を煮込んでいるはずなのにどうしてこれほどまでの味が出るのでしょうか。」

「塩気がちょうど良い。昨日のお酒で疲れた胃によく効く様だ。」

 シルビア様も少し二日酔い気味のようだ。

 そうだよな、結構呑んでたしこれが普通だよな。

 エミリアが普通にしているのがおかしいんだよな。

 よかった。

「今日の予定はどうされますか?明日の開店を考えると昼の鐘を過ぎることにはこの街を出ないといけないと思うのですが。」

「そうだな、私も一度家に戻りニケ殿に状況を説明してこようと思う。必要な物があるかもしれないから皆が帰り次第家に戻るとしよう。」

「荷物は早めにまとめておいてください。メルクリアさんの状態次第ですが昨夜少し進展がありましたので状況を説明しに魔術師ギルドへ行こうと思っています。」

「昨夜の件ですね。」

「それは知らなかった、私が寝ているときに何かあったのか。」

「特に危ないことはありませんでしたから大丈夫ですよ。」

 非合法の賭場に行ったとはさすがに言えない。

 だって仮にも騎士団分団長様ですから。

 こういう必要悪も取り締まるのが仕事です。

「昨夜はすぐに戻られましたので特に問題なかったと思っています。」

「残るはメルクリア殿か・・・。」

 全員でメルクリアの寝ている部屋を振り返る。

 今だ開かれぬドアの奥ではどれほど壮絶な戦いが行われているのだろうか。

 火の精霊使いメルクリアvs大量飲酒後の二日酔い

 世紀の一戦は今だ状況もつかめぬまま進行している。

 はたして勝つのはどちらか。

 俺の予想は二日酔いに負けるというところなんだけど。

 プライドの高いメルクリアがそれを許すかどうかだな。

 休息日だしたまにはいいと思うんだけど。

「食事の後にもう一度様子を見ておきますね。」

「お願いします。」

 気心の知れたエミリアであればその様子を確認することも出来るだろう。

 後は任せた。

 食後の香茶を支配人が準備しに来てくれた時だった、閉ざされていたエミリアたちの部屋のドアがゆっくりと開き、真っ青を通り越して真っ白な顔をしたメルクリアが部屋から出てくる。

 もともと白いけどまさに顔面蒼白という奴だな。

「大丈夫ですかフィフティーヌ様!」

 駆け寄りながらおもわずいつもの呼び方に戻るエミリア。

「・・・これぐらい、なんともありませんわ。」

 なんともないって、どう考えても無理そうな顔してるけど。

「メルクリア殿今日は無理をせず休まれてはどうだろうか。」

「心身に重大な疲労を確認できます、今すぐに休息すべきです。」

 エミリアに支えられながらフラフラとソファーまでやってくるメルクリア。

 たまたま空いていた俺の横に腰掛けさせると深いため息を吐く。

「お水を一杯いただけるかしら。」

「わかりました。」

 水差しからコップに水を移しメルクリアに差し出す。

 震える両手で受け取るとあろうことか一気にのどへ流し込んだ。

 あかん。

 それ一番あかんやつや。

 とたんに目を見開きグラスを机の上に叩きつけるように置くと両手で口を押さえるメルクリア。

 俺はとっさに立ち上がるとメルクリアの両脇の下に手を差し入れ、子供を持ち上げるようにそのままトイレへと駆け込んだ。

 その後はお察しください。

 こんな時に俺が出来ることはただひたすら無になってメルクリアの背中をさすることしかない。

 なんていうかこれ以上は無理といわんばかりに盛大にリバースしたメルクリアと共にトイレを出る頃には真っ白だった顔色はさらに血の気を失い消えそうなぐらいだった。

 いや消えないけどさ。

「このまま寝かせてきますね。」

「お願いします。」

 不安そうな顔で見送るエミリア。

 大丈夫心臓動いているから。

「・・・貴方に、こんな姿を晒す事になるなんて・・・。」

「誰しも一度は経験のあることですから今は何も言わずに休んでください。」

 新人の頃に盛大に飲まされてトイレでリバースし、その後の二次会のカラオケにも死んだまま連行されるという苦行を味わった身だ。

 この苦しみは二度と忘れることはできないだろう。

 肩を支えながらベットまで連れて行き、布団をかけてやる。

 浅い呼吸で襲い来る吐き気と戦っているようだな。

 枕元に水差し置いといてやるか。

「支配人には伝えておきますので今日はここで休んでいってください。私たちは昼過ぎにここを発ちますが、その前に一度よりますね。」

 返事は無いが少しだけうなずいたのでそれでいいだろう。

 部屋を出るとエミリアが駆け寄ってきた。

「いかがでした?」

「出す物を出して大分すっきりしたと思いますよ。ただまだ吐き気はあるようですから今日1日ここで休むように言ってあります。昼前にもう一度様子を見に来ましょう。」

「そうですね、それがいいと思います。」

「二日酔いはなかなかに辛いものだからな。」

「二日酔いというものになったことが無いのでわからないのですが、大分と辛いもののようですね。」

 辛いってもんじゃないんだよ。

 ユーリはどうやら魔力で分解しちゃうみたいだから、御縁はないと思うな羨ましいことに。

「では私たちは私たちのことをしてしまいましょうか。」

「そうだな。」

「では魔術師ギルドに向かいましょう。」

 もう一度メルクリアの様子を確認しておく。

 寝付いたみたいだな。

 音をたてないように水差しとコップを置いておく。

 これでよしっと。

 後は支配人に丸投げしてしまうとしよう。

 本日も全力他力本願である。

 昨日の筋肉痛は多少あるが苦になる程ではない。

 健康って素晴らしいなぁ。

「おはようございます皆様。」

「おはようございます。今日のスープも大変美味しかったです。」

「そう言っていただけて何よりです。作った甲斐がありました。」

「先程のスープは支配人殿が作られたのか。」

 それは俺もビックリだ。

 まさかとは思ったがそのまさかだったなんて。

「今度是非作り方をご教授いただけないでしょうか。」

 さっそくユーリがリサーチに入る。

 料理となると目の色変わるんだよね、最近。

「これは私の家の秘伝のスープですのでお教えできません、お許しください。」

 忍びの里に伝わるなにかでしょうか。

「残念です。」

「実はもう一人泊まっていたのですが体調がすぐれずまだ寝ています。申し訳ありませんが、昼過ぎに様子を見に来ますのでそれまで寝かせてあげてくれませんか?」

「そのような事情でしたら構いませんよ、私も様子を見ておきます。」

「よろしくおねがいします。」

 さすが支配人話がわかる。

 もちろんその分のお金は払いますけどね。

「それでは行ってきます。」

「いってらっしゃいませ。」

 それじゃあ、結局三日連続になった魔術師ギルドにいくとしますか。
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