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第四章
それは極めて幸運な朝
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その日は支配人に伝言を頼み翌朝を待つことにした。
そして次の日の朝。
「シュウイチさんおはようございます。」
エミリアの声が部屋の外から聞こえてくる。
昨日はいろいろと話し込んだから疲れて寝てしまったんだっけ。
しまった、体だけでも拭いておけばよかった。
とりあえずベットから出て準備をしないと。
ベットの隅に寝ていたようなので伸びをしながら中央に移動する。
広いはずのベットなのに寝返りを打つ前に何かにぶつかってしまった。
なんだ?
起き上がりベットの中央を見る。
そこには別の部屋で寝ていたはずのニケさんがスヤスヤと寝息を立てていた。
ちょ、何がどうなってるの。
何でニケさんがここで寝てるんでしょうか。
しかも、なんで下着姿なんでしょうか。
レース細工があしらわれた白の何とも言えない際どい下着姿だ。
「シュウイチさん入りますよ?」
まずい、この状況で部屋に入ってこられると間違いなく血を見る。
夜叉エミリアが再誕してしまう。
まずい。
それは非常にまずい。
それだけは何としても阻止しなければならない。
「起きてますので大丈夫ですよ、着替えてからすぐ行きます。」
「わかりました。ニケさんの姿が見えないのですがご存じありませんか?」
ここに居ますなんて言えるわけがない。
何もやましいことはしてない。
してないと思うんだが、確証がない。
下着は履いてる。
そういう行為の跡もない。
つまりはしていない。
うん、大丈夫。
「今起きたばかりですので、すみません。支配人に朝食の準備をお願いしてきてもらえませんか?」
「わかりました、すぐ行ってきますね。」
とりあえずは何とかなった。
なんとかなったがあの格好のままだと誤解されかねない。
とりあえず部屋を出るのが先決か。
下着姿が見れて大興奮なんて言っている年ではない。
それよりも命の危険の方が心配だ。
布団をかけなおし急いで部屋を出る。
メインルームではユーリが外を見て寛いでいた。
「おはようユーリ良く休めましたか?」
「おはようございます御主人様。このような高いところから下を見るというのは非常に面白いものですね。」
ユーリは下を歩く人を見ているようだ。
確かに小さく見える人々は面白い動きをしている。
「シルビア様はまだお休みですか?」
「申し訳ありません、外を見ておりましたので存じ上げません。」
ということはシルビア様もまだお休み中か。
しかし朝からこんなことになるなんて、これは今日一日を暗示しているんだろうか。
とりあえず顔を洗ってすっきりさせよう。
大きくため息をはきながら洗面所のドアを開けた。
「おや、シュウイチは今起きたのか。すまんが少し待ってもらえると助かる。」
そこには真っ赤な下着だけを身に着けたシルビア様がさも当たり前のように立っていた。
「すみませんでした!」
どこのラブコメ主人公だ。
赤〇先生おなじみの手法じゃないか。
シルビア様はどうやら赤色がお好みのようだ。
引き締まった体のラインに深紅の下着が良く似合う。
って何を思い出してる。
今日はそういう日なのか?
ラッキースケベ全開で一日が過ぎ去るのか。
確かに全裸よりも下着姿の方がどちらかと言えば好きだが・・・って何を考えているんだ俺は。
落ち着け。
深呼吸だ。
・・・・・・よし。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさいエミリア。お手数をおかけしました。」
「シュウイチさんおはようございます。すぐに持ってきてくださるそうですよ。」
ニコッと微笑むエミリアの笑顔がまぶしい。
こんな可愛い奥さんが持てて俺は幸せだなぁ。
「エミリア、戻っていたか。」
そんな幸せいっぱいの空間に突如として乱入してくる深紅の下着、もといシルビア様。
「シルビア様そんな恰好ではシュウイチさんが・・・!」
慌ててシルビア様を洗面所へ押し込むエミリア。
「下着ぐらい何ともないであろう、先ほど見られたばかりだしな。」
「ちょ、シルビア!」
「・・・今なんて仰いました?」
空気が一気に冷たくなる。
「先程シュウイチが間違って入って来て見られただけだが。」
「事故です。故意ではありません、あれは事故です。」
「わざとではないんですね?」
目が怖いよエミリア。
「シルビアがそこにいるなんて知らなかったわけで・・・。」
「確かにシュウイチさんは起きたばかりでしたが、気を付けてくださいシルビア様。結婚しているとはいえやはり慎みというかなんというか。」
「自分の旦那様だ、別にみられて恥ずかしいものではなかろう。」
「旦那様でも恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
エミリアの怒りももっともだが、あれは事故だ。
若干エミリアの怒りのボルテージも下がってきたしこれでなんとかな・・・。
「おはよう、ございます~。」
このタイミングで出て来るんですかニケさん。
貴女さっきまであんなに熟睡していたじゃないですか私の部屋で。
「・・・シュウイチさんそこに座ってください。」
「誤解だエミリア話せばわかる。」
「なぜシュウイチさんの部屋からあんな格好のニケさんが出て来るのかじっくりお聞かせいただけますでしょうか。」
夜叉が出た。
恐ろしい夜叉が再誕された。
その後、ニケさんが寝ぼけてベットの中に入ってきたという事実を納得してもらうまで非常に恐ろしい時間を過ごすのであった。
途中支配人が部屋に朝食を持ってくるも、エミリアの様子に驚くこともなく淡々と朝食を準備して去って行ったのだった。
流石忍者、何事にも動じないな。
「えー、では誤解も無事とけたようですので朝食をいただきたいと思います。」
「「「いただきます。」」」
冷めた香茶はタイミングを見計らっていたかのように入ってきた支配人が淹れ直してくれた。
あぁ、心安らぐこの香り。
生きててよかった。
「あれもこれもとご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。」
昨日同様膝に頭がつくのではというぐらいまで頭を下げるニケさん。
「もう怒っていませんので大丈夫ですよ、悪いのは全てシュウイチさんですから。」
「え、なんで!」
「そうだな。間違って入ってきた時に起きなかったシュウイチがすべて悪い。」
「それは寝ていたからで起きていればおそらくは」
「御主人様は女性に優しいですから追い出すことはしないと思います。」
「いや、そこは追い出すところでしょう。」
「下着姿まで見られてもうどうすればいいのか・・・。」
貴女昨日私にすべて見られてるじゃないですか。
今更下着姿でそんなふうに言われても。
エミリアも怒った顔しない!
「この件につきましてはこれでおしまいとします、以上終了!」
強制的に会話を切ると4人から笑みがこぼれた。
なんでこう朝から大変な目にあわせばならんのだ。
「イナバ様、迎えの馬車が後半刻程で着くそうですので食事を終えられましたらご準備ください。」
「ありがとうございます、遅くならないように向かいますので。」
「それでは私は下で準備をしてまいります。」
そうかゆっくりしている時間はなさそうだな。
支配人が音もなく部屋の外へと出ていくのを見送り、サンドイッチを頬張る。
今日の朝食も大変美味しゅうございます。
「作戦は昨日話した通りで良いのか?」
「そうですね、最初にユーリとエミリア次がシルビア様でニケさん俺の順番で乗り込みます。あくまでシルビア様の従者と私とエミリアという構図が一番かと。」
「従者と言いましても何をすればいいんでしょうか。」
「シルビア様の後に続いて荷物を持って入ればそれらしく見えると思いますよ。」
お付の者というわけだしそれぐらいでいいだろう。
「シルビア様の家に着きましたら、ニケさんを中の人にお任せして私たちは魔術師ギルドへ向かうんですね?」
「商人ギルドは休息日は閉まっているそうですから、魔術師ギルドしか無理そうですね。」
できれば商店連合にも連絡をつけたいところだがこっちも休息日はお休みだ。
休日出勤なんてしたら就業規則違反になるしね。
「魔術師ギルドへの連絡が済みましたら中を観光してもよろしいのでしょうか。」
「時間がありましたらそうさせてもらいましょう。」
とりあえずは魔術師ギルドについてからだ。
「相変わらずシュウイチといると休息日が休息日にならないな。」
「本当ですね、前は盗賊団のほうで大忙しでしたから。」
「私だって休めるのであれば休みたいんですよ?」
俺のせいのようで人聞きが悪い。
休めるならいつまでも休んでいたいものだ。
「御主人様は働くのがお好きなのだとばかり思っていましたが。」
「嫌いではないですが、たまには何も考えずにゆっくりしたいものです。夏になりますし水辺近くの木陰でゆっくりとした時間を過ごしたいですねぇ。」
水着美女がいれば最高だ。
しかし、この世界に水着はあるのだろうか。
「そのためにはやらないといけないことが山積みですからね。」
はい、がんばります。
「お話だけ聞いているとイナバ様はとてもすごい人なのだと思っていましたが、本当はこんなに身近な方だったんですね。」
「ただの雇われ店主ですから、偉くもすごくもないんですけどね。」
「ただの店主が盗賊団を討伐したりするだろうか。」
「それは騎士団の皆さんが頑張ったからであって私が何かしたわけではありませんよ。」
他力本願100%男イナバシュウイチでございます。
「そうやってシュウイチさんは自分の頑張りをごまかしてしまうんですから。」
「そこがご主人様のいいところなのだと思います。」
もう好きに言ってください。
楽しい食事の時間も過ぎ、次の準備に取り掛かる。
「お待ちしておりましたイナバ様、馬車の準備もできております。」
「ありがとうございました。また夜には戻ってくる予定ですので、もう一泊よろしくお願いします。」
「お待ちしております。」
入り口の前に馬車が止まっている。
本当に馬車で行くんだな。
よくある光景なのか馬車を見ても周りの人は何とも思わず通り過ぎていく。
とりあえずパッと見ではおかしい人物はいないようだ。
順番に馬車へと乗り込み扉を閉める。
「出してくれ。」
シルビア様が声をかけると馬車はゆっくりと動き出した。
「何と言いますか、結構揺れますね。」
「シュウイチは馬車の経験がないのか。」
「ネムリの荷馬車には乗りましたがこういう馬車は初めてです。想像ではもっと揺れないと思っていたのですが。」
「揺れない乗り物があるなら私も一度は乗ってみたいものだな。」
サスペンションなんてついているわけないもんな。
この時代の乗り物は乗り心地よりも移動速度を重視しているんだろう。
あくまでも移動手段だ。
贅沢を言ってはいけないな。
馬車はサンサトローズ北側の住居エリアを抜けていく。
この辺りは貴族の住居が多いようでコッペンに連れて行ってもらったスラムのようなエリアとは雰囲気 様子がだいぶ違う。
どの世界でも貧富の差は埋められないんだろうな。
これも資本主義の宿命という奴だろう。
「そろそろだ。」
馬車に揺られること数刻、ゆっくりと速度が落ち一軒の館の前で停車する。
「ここですか?」
「そうだ。先に中の者を呼んで来てもらえるだろうか。」
「わかりました。」
従者ですからそれぐらいは喜んで。
馬車を下りて館の門をたたく。
「シルビア様が参りました、どなたかいらっしゃいますでしょうか。」
ドアノッカーを叩くと中から一人のメイドさんが顔を出す。
この世界でも家付き従者はメイド服なのか。
すばらしい。
「お話は伺っております、どうぞ中へお入りください。」
「では呼んでまいります。」
呼びに行こうかと振り向くともう降りてきていた。
ちょっと早いよ。
見た感じ周りに誰もいないし大丈夫だとは思うけどさぁ。
「長居する方が人目につくからな。」
確かにそうなんですけどね。
シルビア様の後に続いて館の中に入ってく。
THE洋館って感じだな。
扉を入れば大きな玄関フロアに上り階段。
壁にはシルビア様の肖像画が飾られている。
部屋だっていったいいくつあるんだろうか。
「うちは貴族ではないのだが、来客者の為にこのような作りにしてある。気楽にしてくれ。」
「さすが騎士団長と領主補佐官の家という感じですね。」
「見かけだけで中はそうでもないぞ、使っている部屋もそれほど多くない。」
当直があったりするそうだし寝に帰るだけの家という感じなんだろう。
「紹介しよう、この家の全てを任せているマヒロだ。」
「初めましてこの家の管理を任されておりますマヒロと申します。旦那様含めまして皆さまどうぞおくつろぎください。」
メイド服の裾を広げ優雅に挨拶をするマヒロさん。
似た名前のアンドロイドを知っているんだが気のせいだろう。
「それではマヒロ、ニケ殿の事をお願い出来るだろうか。」
「畏まりました。言いつけの通り侵入者は全力で排除いたします。」
全力で排除ってものすごい物騒なこと言ってますけど、このメイドさん。
「ニケ殿の素性を探る輩が来た場合には早急に騎士団まで報告してくれ、頼んだぞ。」
「縛り上げて全て吐かせてからご報告させていただきます。」
「シルビアちょっと物騒なこと言っているようですが大丈夫でしょうか。」
あまりにも不安になり恐る恐る聞いてみる。
「マヒロは元々わが騎士団で頭角を現していた兵士だったのだが、魔物との戦闘で負傷して以来うちの警備兼世話役で働いてもらっている。彼女は強いぞ、カムリですら一太刀浴びせるのがやっとだ。」
「あの男の剣など欠伸をしていても避けれます。」
カムリのあの素早い剣裁きを欠伸をして避けれるとか、少々規格外ではないでしょうか。
何でメイドなんてやってるんだ。
「大変優秀(主に武芸について)なんですね。」
「おほめにあずかり光栄です。少々剣が得意なだけでございます。」
いやだからメイドさんは掃除とか家事が得意なのが普通なわけで。
いやまてよ、メイドさんだから家事が得意じゃなければいけないのか?
剣が得意でもいいんじゃないだろうか。
ってそれはどこのメイド隊ですか。
「お一人でこの家を管理されているんですか?」
「私の他にあと三名でこの家を管理しております。他の者は現在哨戒(見回り)と整備(掃除)と補給(買い物)に従事しております。」
他の三名もそういう人ですかそうですか。
ニケさんここは街で一番安全なのかもしれないよ。
「ではニケさん不自由をおかけしますが、ここでしばらくの間身を隠しておいてください。」
「何から何まですみません、よろしくお願いいたします。」
「必要なモノがございましたら私まで何なりとご相談くださいニケ様。」
「様だなんてそんな、ただのニケで大丈夫です。」
昨日まで様付けで呼ばれることなんてなかったもんね。
「シルビア様のお客人を呼び捨てにするなど万死に値します。」
どこの武士ですか貴女は。
シルビア様もそうだけどなんでこんなに口調が固いんだろうか。
騎士団に入るとみんなそうなるの?
「では行くとしようか。」
「それではお願いいたします。」
「全てお任せくださいませ、ご武運を。」
いや戦いにはいきませんので。
お話だけです。
たぶん。
これでニケさんの件はひとまずオッケーだな。
それじゃま次は魔術師ギルドへの報告だ。
正直ここが一番大変な気がする。
事が事だし、簡単に報告だけじゃ終わらないんだろうなぁ。
リュカさんにまた襲われたりするんだろうか。
勘弁してもらいたい。
「このまま馬車で向かってかまわないだろか。」
「せっかく手配してくださいましたので使わせていただきましょう。」
「すぐそこなのに何か贅沢ですね。」
「馬車というものは非常に興味深い乗り物です、是非もう一度体験させてください。」
はい、満場一致で決まりです。
それでは二日連続の魔術師ギルドへいくとしますか。
そして次の日の朝。
「シュウイチさんおはようございます。」
エミリアの声が部屋の外から聞こえてくる。
昨日はいろいろと話し込んだから疲れて寝てしまったんだっけ。
しまった、体だけでも拭いておけばよかった。
とりあえずベットから出て準備をしないと。
ベットの隅に寝ていたようなので伸びをしながら中央に移動する。
広いはずのベットなのに寝返りを打つ前に何かにぶつかってしまった。
なんだ?
起き上がりベットの中央を見る。
そこには別の部屋で寝ていたはずのニケさんがスヤスヤと寝息を立てていた。
ちょ、何がどうなってるの。
何でニケさんがここで寝てるんでしょうか。
しかも、なんで下着姿なんでしょうか。
レース細工があしらわれた白の何とも言えない際どい下着姿だ。
「シュウイチさん入りますよ?」
まずい、この状況で部屋に入ってこられると間違いなく血を見る。
夜叉エミリアが再誕してしまう。
まずい。
それは非常にまずい。
それだけは何としても阻止しなければならない。
「起きてますので大丈夫ですよ、着替えてからすぐ行きます。」
「わかりました。ニケさんの姿が見えないのですがご存じありませんか?」
ここに居ますなんて言えるわけがない。
何もやましいことはしてない。
してないと思うんだが、確証がない。
下着は履いてる。
そういう行為の跡もない。
つまりはしていない。
うん、大丈夫。
「今起きたばかりですので、すみません。支配人に朝食の準備をお願いしてきてもらえませんか?」
「わかりました、すぐ行ってきますね。」
とりあえずは何とかなった。
なんとかなったがあの格好のままだと誤解されかねない。
とりあえず部屋を出るのが先決か。
下着姿が見れて大興奮なんて言っている年ではない。
それよりも命の危険の方が心配だ。
布団をかけなおし急いで部屋を出る。
メインルームではユーリが外を見て寛いでいた。
「おはようユーリ良く休めましたか?」
「おはようございます御主人様。このような高いところから下を見るというのは非常に面白いものですね。」
ユーリは下を歩く人を見ているようだ。
確かに小さく見える人々は面白い動きをしている。
「シルビア様はまだお休みですか?」
「申し訳ありません、外を見ておりましたので存じ上げません。」
ということはシルビア様もまだお休み中か。
しかし朝からこんなことになるなんて、これは今日一日を暗示しているんだろうか。
とりあえず顔を洗ってすっきりさせよう。
大きくため息をはきながら洗面所のドアを開けた。
「おや、シュウイチは今起きたのか。すまんが少し待ってもらえると助かる。」
そこには真っ赤な下着だけを身に着けたシルビア様がさも当たり前のように立っていた。
「すみませんでした!」
どこのラブコメ主人公だ。
赤〇先生おなじみの手法じゃないか。
シルビア様はどうやら赤色がお好みのようだ。
引き締まった体のラインに深紅の下着が良く似合う。
って何を思い出してる。
今日はそういう日なのか?
ラッキースケベ全開で一日が過ぎ去るのか。
確かに全裸よりも下着姿の方がどちらかと言えば好きだが・・・って何を考えているんだ俺は。
落ち着け。
深呼吸だ。
・・・・・・よし。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさいエミリア。お手数をおかけしました。」
「シュウイチさんおはようございます。すぐに持ってきてくださるそうですよ。」
ニコッと微笑むエミリアの笑顔がまぶしい。
こんな可愛い奥さんが持てて俺は幸せだなぁ。
「エミリア、戻っていたか。」
そんな幸せいっぱいの空間に突如として乱入してくる深紅の下着、もといシルビア様。
「シルビア様そんな恰好ではシュウイチさんが・・・!」
慌ててシルビア様を洗面所へ押し込むエミリア。
「下着ぐらい何ともないであろう、先ほど見られたばかりだしな。」
「ちょ、シルビア!」
「・・・今なんて仰いました?」
空気が一気に冷たくなる。
「先程シュウイチが間違って入って来て見られただけだが。」
「事故です。故意ではありません、あれは事故です。」
「わざとではないんですね?」
目が怖いよエミリア。
「シルビアがそこにいるなんて知らなかったわけで・・・。」
「確かにシュウイチさんは起きたばかりでしたが、気を付けてくださいシルビア様。結婚しているとはいえやはり慎みというかなんというか。」
「自分の旦那様だ、別にみられて恥ずかしいものではなかろう。」
「旦那様でも恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
エミリアの怒りももっともだが、あれは事故だ。
若干エミリアの怒りのボルテージも下がってきたしこれでなんとかな・・・。
「おはよう、ございます~。」
このタイミングで出て来るんですかニケさん。
貴女さっきまであんなに熟睡していたじゃないですか私の部屋で。
「・・・シュウイチさんそこに座ってください。」
「誤解だエミリア話せばわかる。」
「なぜシュウイチさんの部屋からあんな格好のニケさんが出て来るのかじっくりお聞かせいただけますでしょうか。」
夜叉が出た。
恐ろしい夜叉が再誕された。
その後、ニケさんが寝ぼけてベットの中に入ってきたという事実を納得してもらうまで非常に恐ろしい時間を過ごすのであった。
途中支配人が部屋に朝食を持ってくるも、エミリアの様子に驚くこともなく淡々と朝食を準備して去って行ったのだった。
流石忍者、何事にも動じないな。
「えー、では誤解も無事とけたようですので朝食をいただきたいと思います。」
「「「いただきます。」」」
冷めた香茶はタイミングを見計らっていたかのように入ってきた支配人が淹れ直してくれた。
あぁ、心安らぐこの香り。
生きててよかった。
「あれもこれもとご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。」
昨日同様膝に頭がつくのではというぐらいまで頭を下げるニケさん。
「もう怒っていませんので大丈夫ですよ、悪いのは全てシュウイチさんですから。」
「え、なんで!」
「そうだな。間違って入ってきた時に起きなかったシュウイチがすべて悪い。」
「それは寝ていたからで起きていればおそらくは」
「御主人様は女性に優しいですから追い出すことはしないと思います。」
「いや、そこは追い出すところでしょう。」
「下着姿まで見られてもうどうすればいいのか・・・。」
貴女昨日私にすべて見られてるじゃないですか。
今更下着姿でそんなふうに言われても。
エミリアも怒った顔しない!
「この件につきましてはこれでおしまいとします、以上終了!」
強制的に会話を切ると4人から笑みがこぼれた。
なんでこう朝から大変な目にあわせばならんのだ。
「イナバ様、迎えの馬車が後半刻程で着くそうですので食事を終えられましたらご準備ください。」
「ありがとうございます、遅くならないように向かいますので。」
「それでは私は下で準備をしてまいります。」
そうかゆっくりしている時間はなさそうだな。
支配人が音もなく部屋の外へと出ていくのを見送り、サンドイッチを頬張る。
今日の朝食も大変美味しゅうございます。
「作戦は昨日話した通りで良いのか?」
「そうですね、最初にユーリとエミリア次がシルビア様でニケさん俺の順番で乗り込みます。あくまでシルビア様の従者と私とエミリアという構図が一番かと。」
「従者と言いましても何をすればいいんでしょうか。」
「シルビア様の後に続いて荷物を持って入ればそれらしく見えると思いますよ。」
お付の者というわけだしそれぐらいでいいだろう。
「シルビア様の家に着きましたら、ニケさんを中の人にお任せして私たちは魔術師ギルドへ向かうんですね?」
「商人ギルドは休息日は閉まっているそうですから、魔術師ギルドしか無理そうですね。」
できれば商店連合にも連絡をつけたいところだがこっちも休息日はお休みだ。
休日出勤なんてしたら就業規則違反になるしね。
「魔術師ギルドへの連絡が済みましたら中を観光してもよろしいのでしょうか。」
「時間がありましたらそうさせてもらいましょう。」
とりあえずは魔術師ギルドについてからだ。
「相変わらずシュウイチといると休息日が休息日にならないな。」
「本当ですね、前は盗賊団のほうで大忙しでしたから。」
「私だって休めるのであれば休みたいんですよ?」
俺のせいのようで人聞きが悪い。
休めるならいつまでも休んでいたいものだ。
「御主人様は働くのがお好きなのだとばかり思っていましたが。」
「嫌いではないですが、たまには何も考えずにゆっくりしたいものです。夏になりますし水辺近くの木陰でゆっくりとした時間を過ごしたいですねぇ。」
水着美女がいれば最高だ。
しかし、この世界に水着はあるのだろうか。
「そのためにはやらないといけないことが山積みですからね。」
はい、がんばります。
「お話だけ聞いているとイナバ様はとてもすごい人なのだと思っていましたが、本当はこんなに身近な方だったんですね。」
「ただの雇われ店主ですから、偉くもすごくもないんですけどね。」
「ただの店主が盗賊団を討伐したりするだろうか。」
「それは騎士団の皆さんが頑張ったからであって私が何かしたわけではありませんよ。」
他力本願100%男イナバシュウイチでございます。
「そうやってシュウイチさんは自分の頑張りをごまかしてしまうんですから。」
「そこがご主人様のいいところなのだと思います。」
もう好きに言ってください。
楽しい食事の時間も過ぎ、次の準備に取り掛かる。
「お待ちしておりましたイナバ様、馬車の準備もできております。」
「ありがとうございました。また夜には戻ってくる予定ですので、もう一泊よろしくお願いします。」
「お待ちしております。」
入り口の前に馬車が止まっている。
本当に馬車で行くんだな。
よくある光景なのか馬車を見ても周りの人は何とも思わず通り過ぎていく。
とりあえずパッと見ではおかしい人物はいないようだ。
順番に馬車へと乗り込み扉を閉める。
「出してくれ。」
シルビア様が声をかけると馬車はゆっくりと動き出した。
「何と言いますか、結構揺れますね。」
「シュウイチは馬車の経験がないのか。」
「ネムリの荷馬車には乗りましたがこういう馬車は初めてです。想像ではもっと揺れないと思っていたのですが。」
「揺れない乗り物があるなら私も一度は乗ってみたいものだな。」
サスペンションなんてついているわけないもんな。
この時代の乗り物は乗り心地よりも移動速度を重視しているんだろう。
あくまでも移動手段だ。
贅沢を言ってはいけないな。
馬車はサンサトローズ北側の住居エリアを抜けていく。
この辺りは貴族の住居が多いようでコッペンに連れて行ってもらったスラムのようなエリアとは雰囲気 様子がだいぶ違う。
どの世界でも貧富の差は埋められないんだろうな。
これも資本主義の宿命という奴だろう。
「そろそろだ。」
馬車に揺られること数刻、ゆっくりと速度が落ち一軒の館の前で停車する。
「ここですか?」
「そうだ。先に中の者を呼んで来てもらえるだろうか。」
「わかりました。」
従者ですからそれぐらいは喜んで。
馬車を下りて館の門をたたく。
「シルビア様が参りました、どなたかいらっしゃいますでしょうか。」
ドアノッカーを叩くと中から一人のメイドさんが顔を出す。
この世界でも家付き従者はメイド服なのか。
すばらしい。
「お話は伺っております、どうぞ中へお入りください。」
「では呼んでまいります。」
呼びに行こうかと振り向くともう降りてきていた。
ちょっと早いよ。
見た感じ周りに誰もいないし大丈夫だとは思うけどさぁ。
「長居する方が人目につくからな。」
確かにそうなんですけどね。
シルビア様の後に続いて館の中に入ってく。
THE洋館って感じだな。
扉を入れば大きな玄関フロアに上り階段。
壁にはシルビア様の肖像画が飾られている。
部屋だっていったいいくつあるんだろうか。
「うちは貴族ではないのだが、来客者の為にこのような作りにしてある。気楽にしてくれ。」
「さすが騎士団長と領主補佐官の家という感じですね。」
「見かけだけで中はそうでもないぞ、使っている部屋もそれほど多くない。」
当直があったりするそうだし寝に帰るだけの家という感じなんだろう。
「紹介しよう、この家の全てを任せているマヒロだ。」
「初めましてこの家の管理を任されておりますマヒロと申します。旦那様含めまして皆さまどうぞおくつろぎください。」
メイド服の裾を広げ優雅に挨拶をするマヒロさん。
似た名前のアンドロイドを知っているんだが気のせいだろう。
「それではマヒロ、ニケ殿の事をお願い出来るだろうか。」
「畏まりました。言いつけの通り侵入者は全力で排除いたします。」
全力で排除ってものすごい物騒なこと言ってますけど、このメイドさん。
「ニケ殿の素性を探る輩が来た場合には早急に騎士団まで報告してくれ、頼んだぞ。」
「縛り上げて全て吐かせてからご報告させていただきます。」
「シルビアちょっと物騒なこと言っているようですが大丈夫でしょうか。」
あまりにも不安になり恐る恐る聞いてみる。
「マヒロは元々わが騎士団で頭角を現していた兵士だったのだが、魔物との戦闘で負傷して以来うちの警備兼世話役で働いてもらっている。彼女は強いぞ、カムリですら一太刀浴びせるのがやっとだ。」
「あの男の剣など欠伸をしていても避けれます。」
カムリのあの素早い剣裁きを欠伸をして避けれるとか、少々規格外ではないでしょうか。
何でメイドなんてやってるんだ。
「大変優秀(主に武芸について)なんですね。」
「おほめにあずかり光栄です。少々剣が得意なだけでございます。」
いやだからメイドさんは掃除とか家事が得意なのが普通なわけで。
いやまてよ、メイドさんだから家事が得意じゃなければいけないのか?
剣が得意でもいいんじゃないだろうか。
ってそれはどこのメイド隊ですか。
「お一人でこの家を管理されているんですか?」
「私の他にあと三名でこの家を管理しております。他の者は現在哨戒(見回り)と整備(掃除)と補給(買い物)に従事しております。」
他の三名もそういう人ですかそうですか。
ニケさんここは街で一番安全なのかもしれないよ。
「ではニケさん不自由をおかけしますが、ここでしばらくの間身を隠しておいてください。」
「何から何まですみません、よろしくお願いいたします。」
「必要なモノがございましたら私まで何なりとご相談くださいニケ様。」
「様だなんてそんな、ただのニケで大丈夫です。」
昨日まで様付けで呼ばれることなんてなかったもんね。
「シルビア様のお客人を呼び捨てにするなど万死に値します。」
どこの武士ですか貴女は。
シルビア様もそうだけどなんでこんなに口調が固いんだろうか。
騎士団に入るとみんなそうなるの?
「では行くとしようか。」
「それではお願いいたします。」
「全てお任せくださいませ、ご武運を。」
いや戦いにはいきませんので。
お話だけです。
たぶん。
これでニケさんの件はひとまずオッケーだな。
それじゃま次は魔術師ギルドへの報告だ。
正直ここが一番大変な気がする。
事が事だし、簡単に報告だけじゃ終わらないんだろうなぁ。
リュカさんにまた襲われたりするんだろうか。
勘弁してもらいたい。
「このまま馬車で向かってかまわないだろか。」
「せっかく手配してくださいましたので使わせていただきましょう。」
「すぐそこなのに何か贅沢ですね。」
「馬車というものは非常に興味深い乗り物です、是非もう一度体験させてください。」
はい、満場一致で決まりです。
それでは二日連続の魔術師ギルドへいくとしますか。
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その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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